GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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23 榊の推測

 

「──良い報せと悪い報せがある」

 

 身嗜みの一つも整えないまま、息を切らして執務室に駆け込んだキョウヤにかけられたのは……そんな、どこかで聞いたような言葉であった。

 

「んなことどうでもいい! それより、さっきの放送は──!」

 

 つい、ほんの数分前。眠るに眠れず夢か現かもわからないどこかを彷徨っていたキョウヤの意識を覚醒させたのは、「チハルが生きていた」というあまりにも衝撃的な内容の全体放送。最初は幻聴か何かかと思っていたキョウヤでも、何度も何度も繰り返し……その上、個別に名指しでの放送まで入れられ、自室の扉を激しく何度も叩かれもすれば、それが現実だと認めざるを得ない。

 

「チハルが、チハルが生きてるって本当なんだよな……!?」

 

 それこそ胸倉をつかむような勢いで、キョウヤは声の主──すなわち、この執務室の主であるペイラー・榊に詰め寄る。というか今この瞬間においては、キョウヤは自身の立場も目の前にいるこの人間がアナグラで一番偉い人であることもすっかり忘れ去っていた。

 

「正確には、生きている可能性が高いと表現するべきだろうね……気持ちはわかるが、まずは落ち着きなさい」

 

「これが落ち着いてなんていられるか! いいから早く──!」

 

「落ち着けって言ってるでしょ、このバカ!」

 

「がっ!?」

 

 スパン、と容赦なくキョウヤの頭を叩いたのは、キョウヤと同じくらいに息を切らしたエリナだった。

 

「ほんっとにもう! 先輩たちの前で恥ずかしい真似しないでくださいよ! ……というか、わざわざ教えてあげた私に何か言うことはないんですか!? しかもせっかく教えたのに、一人で勝手に走り出しちゃうし!」

 

「あ、ああ……その、すまん」

 

 ほんの少しだけ冷静になったキョウヤが、改めてこの執務室を見渡してみれば。

 

 ──コウタ、エミール、ハルオミ、カノン。今にも泣きだしそうなケイイチとレイナに、どういうわけかリンドウやソーマも揃っている。もっと言えば、神機使いではないヒバリや少し寝癖が残っているリッカも落ち着かない様子でソファに座っていた。

 

「──聞いているよ、キミがチハルくんと懇意にしていたということは。だからこそ……キミが来るまで、話を止めていたんだ」

 

 まだ比較的早い時間。そんな時間に、これだけの人数がこの執務室に集まっている。それにどれほど重大な意味があるのかが分からない人間は、ここにはいない。

 

 そのうえで……ペイラー・榊という人間は。ただの一介の神機使いでしかないキョウヤの到着を待っていてくれたのだ。

 

「さて。それじゃあ結論から話させてもらおうか」

 

 ディスプレイに映された、チハルの現在地を示すアイコン。そこにはいつも通り、バイタル状態と偏食因子の投与リミットが表示されている。

 

「つい先ほど、消失していたチハルくんのオラクル反応が確認された。腕輪の状態を鑑みるに……生存している可能性が非常に高い」

 

「……っ!!」

 

 とん、とキョウヤは膝から崩れ落ちる。その言葉があまりにも衝撃的すぎて、もはや自分がどんな格好をしているのかも、どんな表情をしているのかもわからない。

 

 唯一何となくわかったのは……誰かが、自分の肩を叩いてくれたというその事実だけだ。

 

「詳細は省くが、レーダーやシステムの故障の可能性というのは非常に低いだろう。そのうえで、厄介というか……相談すべきことがある」

 

 とんとん、と榊はチハルのアイコンのすぐ隣にある……赤く大きな反応を指で示した。

 

「彼女の腕輪の反応とほぼ重なるように、非常に大きなアラガミ反応がある。加えて、今までの波形パターンのどれにも合致しない反応、即ち未知のアラガミである可能性が高い。さらには」

 

 キョウヤに口を挟む暇を与えないまま、榊は言い切った。

 

「このアラガミの反応とチハルくんの反応は、どういうわけか連れ立って真っすぐこのアナグラを目指して移動している。このペースなら……おそらくだが、今日の1400にはここに到着することだろう」

 

 十四時。いまからおよそ六時間後。あれだけ会いたいと願っていた人に、何もせずとも六時間待つだけで会うことができる。それがキョウヤにもたらした衝撃がどれほどのものであったのか、おそらく正確に表現できる人間はここにはいない。

 

「……一応、聞いておきたいんだが」

 

「なんだね?」

 

 誰もが息を呑む中で、口を開いたのはソーマだった。

 

「レーダーを見る限り、その未知のアラガミの反応とチハルの反応はほぼ重なっているんだろう? それはつまり……」

 

「腕輪がアラガミの腹の中にあるんじゃないかと……そう言いたいのだね?」

 

 当然の帰結。行方不明になった神機使いの腕輪が見つかるのだとしたら、大体アラガミの腹の中だ。神機使いとアラガミが仲良くお散歩するだなんてことがあり得ない以上、ソーマの指摘は至極真っ当だと言える。

 

 しかし、榊はそれを笑って否定した。

 

「オラクル反応としてはもちろん、腕輪の反応として……チハルくんのバイタルが確認されている。かつてリンドウくんがMIAになった時、腕輪がアラガミの腹の中から見つかったわけだが、あの時は腕輪の反応はあってもバイタルは確認できていなかった。オラクル反応はあっても、腕輪のシステムとしては死んでいた。ところが今回は、ばっちり生きている」

 

「な、なあ……どういうことだ? 榊博士、俺にもわかるように言ってくれないか……?」

 

「単純に腕輪をつけていないだけなのか、それとも腕輪が壊れているのか。あるいは着用者が死んでいるのか……そのあたりは全部わかる仕組みになっている。そのうえで、今回についてはチハルくんが生きていると判断できるということだよ」

 

「おお……!」

 

「──それでも、腑に落ちないんだよなあ」

 

 次に声を上げたのは、リンドウだった。

 

「なんで今になって、腕輪の反応が出てきたんだ? 今まで確認していなかったわけじゃないだろ? だいたい、俺達が救出に行った時も……反応は完全に消失していたはずだぜ?」

 

 神機使いの所在の把握というのは非常に大事だ。故に、神機使いであるというだけでその行動はほぼ筒抜けになっているといっていい。ミッションで出撃中であるときはもちろん、休暇中であっても腕輪を通してその位置情報は常にフェンリルに把握されている。

 

 そんな中で……おまけに、救援対象の人物の腕輪の反応を見落とすなんてことはまずありえない。それがなかったとしても、今まで消えていたはずの反応がいきなり復活するというのはおかしな話である。

 

「これもまた、リンドウくんの時のケースじゃないが……より強いオラクル反応が近くにあると、それに腕輪の反応がかき消されてしまうことがある」

 

「俺の時は腕輪がアラガミの腹ン中にあったせいでレーダーで捉えづらかったんだろ? でも、今回はそうじゃないって話なわけだ」

 

 レーダーの挙動を見る限り、腕輪はアラガミの腹の中にある可能性が高い。

 しかし腕輪から送られてくる情報を見れば、チハルが生きているのはほぼ間違いない。

 

「あれから五日も経っている。この反応もチハルがロストした地点からずいぶん離れているじゃないか。普通に考えれば、アラガミに食われた腕輪の反応の可能性の方が高いと思うんだが」

 

 リンドウは、腕を組みながらその疑問を叩きつけた。

 

「榊博士。あんた──いったい何を、掴んでいる?」

 

 例えば、人を生きたまま捕まえて愛玩するアラガミだとか。例えば、生きた人に寄生するアラガミだとか。そんなアラガミがいたとすれば、この腕輪の反応も納得できる。このアナグラに向かっているのも、一体目(・・・)に飽きて二体目が欲しくなったからとでも考えれば、辻褄だけはあう。

 

 けれど──榊はそんな悪趣味なことを告げるような人間ではないと、リンドウは知っている。知っているからこそ、意味が分からない。

 

「──緘口令を敷かせてほしいのだけれどもね」

 

 榊は、ゆったりと笑って言った。

 

 

 

「おそらくこのアラガミは──非常に知能の高い、人間と共存し得るアラガミだよ」

 

 

 

 目を見開くソーマ。あんぐりと口を開けるリンドウ。コウタやヒバリ、リッカもそう言った感じの反応で、何も知らない(・・・・・・)エミールやエリナは、コウタたちがどうしてこんなにも大袈裟過ぎる反応をしているのかをみて訝しそうに首をかしげている。

 

「……おい、おっさん」

 

「ここ最近、討伐対象のアラガミが既に討伐されているという案件が多発していた。エリナくんたち一部の神機使いには話していたし、うっすら察している者もいたが……レーダーに映らない強大なアラガミの存在が、少し前から示唆されていたのだよ」

 

「……」

 

「この前の救出任務……ひいては、例の新人指導実地訓練は。そのアラガミの出現予測ポイントと被っていた」

 

「……えっ?」

 

「レーダーに映らないアラガミ。いきなり復活したチハルくんの反応。そしてそもそもとして……キミたちは、どうしてあの時通信障害が起きたと思う? いいや、あの通信障害そのものが何だかいつもと様子が違うというか、妙だと感じなかったかね?」

 

「ま、さか……」

 

「──気づいたようだね、ヒバリくん」

 

 榊博士に促されて。この中で唯一オペレーターとしての経験があるヒバリが、信じられないとばかりにその推測を口にした。

 

「そのアラガミは、レーダーに映らないんじゃなくて……いいえ、レーダーに映らないのはそうなんですけど、アラガミ自身がステルス状態にあるわけじゃなくて」

 

 ──いきなり発生した不可解な通信障害。

 ──レーダーに映らないアラガミ。

 ──そのアラガミはアラガミを喰い漁りながら移動しているように見える(・・・・・・)。なぜなら、そいつの周囲だけぽっかりと他のアラガミのオラクル反応が消えているから。

 

「強力な……いいえ、特殊な偏食場パルスを常に展開して、自身の周囲にジャミング領域を構築している……?」

 

 アラガミを喰い漁っているのは間違いないのだろう。しかし、普通に考えればあんなにも綺麗にアラガミを捕喰して移動することなんてできるわけがない。ある程度の喰い残し(・・・・)は少なからず生じるはずだし、他のエリアから移動してきたアラガミだっているはずである。

 

 つまり、オラクル反応が確認できなかったのはアラガミがいなかったからではない。そのアラガミも含めて、その周囲そのものがジャミングにより検知できなかったというだけだ。

 

「今までの通信障害もレーダーが壊れていたんじゃなくて……! 特殊なジャミングを受けていただけだったってことですか……!?」

 

「その可能性が非常に高いと私は思っている。その観点から記録を洗い出せば──」

 

「ほぼ、間違いないと思います……! ジャミング領域を展開したアラガミが移動した形跡として見たほうが、アラガミを喰い漁って移動していると見るよりもしっくりきます……!」

 

「どんなに調べても通信機器にもレーダーにも異常が無かったのも、これなら納得できるよ……」

 

 ヒバリとリッカがほうとため息をつく。その様子をいつも通りの細い目で見ていた榊は、畳みかけるようにして言葉を紡ぐ。

 

「おそらくこのアラガミは例の七体に襲われていたチハルくんを偶然助け、そして行動を共にすることになったのだろう。人を襲ったことはないアラガミであるし、非常に珍しいケースとはいえあり得ない話ではない(・・・・・・・・・・)

 

「……」

 

「ここで、ジャミング領域を展開するというその性質のせいでチハルくんの反応がロストしたように見えたわけだが……今朝になってそれが解除された。そのおかげで、チハルくんの生存が確認できた」

 

 誰かがごくりと、息を呑む。

 

「どうして解除したのかはわからない。チハルくんを今まで連れ出していた理由もわからない。しかし、ジャミングを解除したうえでアナグラに向かってきている……これに、非常に大きな意味がある」

 

「……面倒くせえ、結論だけ言ってくれ」

 

 部屋の中にいる大半の人間が、ソーマの言葉に心の中で同意した。

 

「つまりだね……このアラガミは、我々にその存在をアピールしているのだよ。レーダーで捉えられているということを自覚しているんだ。そして……おそらくだが、ある程度のところまでしか近づかないつもりなのだろう」

 

「……なぜだ? どうしてそんなことが言える?」

 

「このアラガミの機動力(あし)だったらね、ここまで真っすぐ三時間もかけずに来ることができるはずなんだ。なのに、すごくゆっくり……まるで、我々が対応する時間を与えるかのようなスピードで向かってきている」

 

「……」

 

「もし、これほどまでに強大なアラガミ反応が凄まじいスピードでここに向かってきているのだとしたら、今頃アナグラ全体が大騒ぎさ。けれど、そうはなっていない、このアラガミは、自分がどんな扱いを受け得るだろうことを既に理解している節がある。そうでなければわざわざこんな行動を取ったりはしないだろう?」

 

「……」

 

「すごく、すごく賢いと思わないかい?」

 

「アラガミが理解しているわけじゃない……ってツッコミ待ちか?」

 

 ソーマの言葉に、榊はにこりと笑った。

 

「その通り。知能が高いアラガミだったとして、そこまでこちらの内部事情を考慮できるはずがない。であれば、こうした行動は……同行しているチハルくんが指示して行わせているものと考えるべきだ。それ即ち、人間に対し友好的で、何らかの形である程度の意思疎通ができることを示している」

 

 これまでの状況証拠を全て合わせると、そういう結論に至る。この考えであれば、全ての話の説明がつく。アラガミがヒトを助けるだなんて荒唐無稽でとても信じられない話ではあるが、状況がその事実を突き付けてくる。

 

 随分と長くなったが、榊が言いたいのはそういうことであった。

 

「な、なあ榊博士……正直俺はもう、いっぱいいっぱいだ。そのアラガミの行動が何だとか、よくわかんねえんだけどよ……」

 

「うん?」

 

「チハルが生きてるのは……間違いないんだよな? 俺はこれから、何をすればいいんだ?」

 

 チハルが生きているのはほぼ確定。そしてそんなチハルは、未知のアラガミと共にこのアナグラへと向かってきている。

 

 そう──現状の把握はひとまず完了したが、その後のことが語られていない。もっと言えば、わざわざこの人数をこの執務室に集めた意味もまだわかっていない。

 

 キョウヤたちに残されている時間はあまり多くない。もし本当にそのアラガミがあと六時間程度でこちらに来るのだとしたら、今すぐにでも方針を決めて動き出す必要がある。

 

「それなんだけどね……非常に困ったことになっているんだ」

 

「困ったこと?」

 

「最初に言っただろう? 良い報せと悪い報せがあるって」

 

 ちら、と榊はヒバリへと目配せをした。

 

「ここ数日、例の事件の影響を考慮して一般神機使いの出撃はかなり制限されていた。遠出なんてもってのほか、異常がない事が確認されるまで基本的には近場のアラガミ討伐しか行っていなかった」

 

 それがこの辺り……と、ディスプレイに表示されたマップに色が付けられる。

 

「そして、例のアラガミの動向だが……理由は不明ながら、彼あるいは彼女はアナグラに近づかずここ数日間を過ごしていた。今までの行動傾向と実際のレーダーの観測記録から推察される行動エリアは……」

 

 だいたいこの辺り……と、ディスプレイには別の色で色が付けられる。

 

「……今まで、非表示にしていたんだがね」

 

「……げっ!?」

 

 神機使いの活動エリアと、そのアラガミの活動エリアに挟まれた空白のエリア。奇しくも、【防壁に近すぎず、かといって遠すぎもしない】……つまりは、チハルとの合流ポイントと成り得るだろうそのエリア一帯に。

 

「あ、アラガミのオラクル反応……!? それも、こんなにたくさん……!?」

 

「良くも悪くもお互いの活動範囲が偏った結果……出来てしまった安全地帯(・・・・)にアラガミが集まってしまった。実に自然なことではあるが、そこは奇しくも合流予定地点でもある」

 

 キョウヤたちからチハルたちの元へ向かうにしても。

 チハルたちがキョウヤたちの所へ来るにしても。

 

 どういう経路になるにしても──その膨大過ぎるアラガミの反応は、決して無視できない。

 

「チハルくんたちと合流するためには──どうにかして、このアラガミの群れを殲滅しなくちゃいけないんだ」




 榊博士って最初絶対こいつ裏切る奴か真の黒幕じゃんって思ってた。

 それはそれとして、GEにおいての「感応波」、「特殊な偏食場パルス」、「オラクル細胞」ってマジで何なんでしょうね……? 困ったときは大体この三つの単語を絡めれば何でも説明できちゃう気がします。

 よく考えてみたら第二世代神機使いで感応現象が起きる理由がよくわからんのですよね。投与されている偏食因子は第一世代と同じP53のはずですし、神機使いとしては使う神機が違うだけのはず……。その新型神機も銃と剣が両立しているだけなんだから、究極的にはメカ的要素が追加されている(神機を二個持ちしている)だけなのでは……? そもそも主人公とアリサ以外で感応現象やってる第二世代神機使いっていたっけ……?
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