【スプリング・フェスティバル】
◇ミッションコード
7404NO003
◇ミッション目的
作戦エリア内のアラガミの掃討、および桜田チハルの保護。
◇ミッション概要
現在KIA扱いとなっている桜田チハルのオラクル反応が確認された。彼女のオラクル反応は未知のアラガミのオラクル反応と共にこのアナグラに向かっているが、その進行ルート上にて複数の大型アラガミの反応が確認されている。迂回ルートも無く衝突は必至であるため、先んじて現地のアラガミを掃討することで彼女との合流および保護を確実なものとせよ。
複数種類のアラガミとの戦闘が想定されているため、携行品および神機の整備状態に注意すること。また、本ミッションは三部隊合同ミッションとなる。
◇ミッション参加者
・雨宮1番隊
雨宮リンドウ(少尉/クレイドル)
ソーマ・シックザール(少尉/クレイドル)
藤木コウタ(少尉/クレイドルおよび第一部隊/第一部隊隊長)
・片桐2番隊
片桐キョウヤ(上等兵)
エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ(新兵/第一部隊)
エミール・フォン・シュトラスブルク(新兵/第一部隊)
・真壁3番隊
真壁ハルオミ(少尉/第四部隊/第四部隊隊長)
台場カノン(上等兵/第四部隊)
榎本ケイイチ(新兵)
松宮レイナ(新兵)
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アナグラから北北西におよそ50kmの地点。あるいは、サテライト拠点から北北西に30kmの地点。それでも通じないなら……嘆きの平原と黎明の亡都とを結ぶ直線の真ん中あたり。そここそが今回のミッション──【スプリング・フェスティバル】における作戦エリアであり、そして今現在、キョウヤたちがトレーラーで向かっている場所でもある。
「ふー……」
あと数時間。あと数時間でチハルと会えると思うと、キョウヤの体に言葉にできない緊張感のようなものが満ちていく。嬉しい気持ちがあるのはもちろん、実は何かの間違いではないのかという不安も拭いきれない。もどかしくて早く答えを知りたいと思いつつも、答えを知るのが酷く怖いという……今まで想像すらしたことのないその気持ちに、キョウヤの頭は逆に冷静になりつつあった。
「落ち着いているな、キョウヤ」
「そう言うお前こそ、いつもみたいに暑苦しくないな?」
「むっ……いや、正直に言うと少しばかり混乱しているというか、緊張しているのだよ。……だがもちろん、期待通りの活躍をすることだけは約束して見せよう」
いつもなら鬱陶しいくらいに暑苦しいあのエミールが、静かに呼吸を整えている。今日は朝から衝撃的なことが多すぎて、頭の方が追い付いていないのだろう。キョウヤだって普段通りではないのだから、それはある意味では自然なことのようにも思えた。
「……エリナ、お前は?」
「……緊張してるけど、大丈夫」
エミールの隣で、エリナもまた胸に手を当てて小さく息を整えている。口を開けばぎゃあぎゃあとエミールに噛みつくエリナだが、さすがに今はそんな気分じゃないらしい。普段からこれくらい素直で大人しければコウタさんの苦労も少ないだろうにな──と、キョウヤはぼんやりとそう思った。
「ねえ、キョウヤさん」
「なんだ?」
「チハルさんが生きてるって……信じて、いいんだよね?」
「……当然だろ。あの榊博士が言ってるんだ。あの人が生きてるって言ってるんだから間違いない。俺たちはそれを信じて、言われた通りアラガミをぶっ殺してりゃいいんだよ」
「そっか……そうだよ、ね」
ふう、と大きく深呼吸。
ぱしん、と何かが平手で打たれた音。
「……よし! 今は難しいこと考えない! チハルさんに会うことだけを考える!」
キョウヤ、エミール、エリナ。それが今回の部隊のメンバーだ。言わずもがな、臨時で組んだ即席の部隊であり、その上この三人での仕事というのは初めてだったりする。
もっと言えば──臨時とはいえ、キョウヤは部隊の隊長になったことは一度も無い。正真正銘、今回が初めてだった。
「ね、キョウヤさん……ううん、今は隊長って呼んだほうが良いのかな」
「あん?」
「正直私……さっき榊博士が言ってたこと、全然よくわからなかったんだけど」
「ああ……ぶっちゃけると、すっげー賢いアラガミがチハルをこっちまで連れてきてくれるから、合流ポイントにいる邪魔なアラガミをぶっ殺しておけってだけだ」
「特殊な偏食場パルスがどうだとか、腕輪の反応とか推測される行動エリアがどうだったとか……なんか、大事なこともっとたくさん言ってたじゃん……」
「良いんだよ、神機使いはアラガミをぶっ殺すのが仕事なんだから。そう言う難しいことは偉い人たちが考えりゃいいんだ。……マジな話すると、全部理解できてたのはコウタさんたちくらいだろ?」
「ウチの隊長がわかるわけないじゃん。アレ、わかってるふりしてそれっぽく頷いていただけだよ」
「嘘だろ……」
「難しい作戦の時はいつも、ヒバリさんに要約してもらってるし」
「……」
キョウヤからみて、コウタという神機使いは一つの目標ですらあった。まだたった三年……自分より一年しかキャリアは違わないのに既に階級は少尉で、そしてこの世界で一番アラガミが暴れまわっている極東で精鋭の戦闘部隊である第一部隊の隊長を務めている。しかも、使っているのは旧式である第一世代の神機だ。
「……よし、一応もう一度確認しておくぞ」
なんだか少し不安になったので、キョウヤは改めて今回の作戦を振り返ることにした。
「目的は大きく二つ。チハルの保護と、合流地点に群がっているアラガミの排除だ」
ここまでは問題ない。エリナもエミールも、静かに頷いている。
「んで……部隊は全部で三つに分けられている。露払いとして最初に突っ込み、ある程度連中の勢いを削るのが俺達片桐2番隊。その後、別ルートから最奥まで食い破って実際にチハルたちを保護する雨宮1番隊。俺たちが広げた穴をさらに広げ、退路を確保しつつ取りこぼしを確実に始末するのが真壁3番隊だ」
一部隊……すなわち、四人でどうにかするのは明らかに無理があるほど、そのアラガミ反応は多かった。正確な数は数えられていないが、中型以上のアラガミだけでも三十は下らないだろうという結構な大群である。もちろん、それらすべてと同時に戦うわけではないとはいえ、何の作戦も立てずに挑むのはあまりに無謀が過ぎるというものである。
そこで考案されたのが、部隊を三つに分けたうえでの殲滅作戦だ。最初に活路を切り開く陽動部隊、実際にチハルたちを保護する主力部隊、そしてその二部隊を陰ながら支援する後援部隊。少々変則的ではあるが、少ない時間で考案された作戦のうち、最も理に適っていたのがこれだったのである。
今回の部隊のメンバーも、その目的と本人たちの適正に合わせてアサインされたものだ。
「つまり、一番最初にアラガミに正義の鉄槌を下せるポジションということだな」
「ま、そういうことだ。とにかくひたすら目立って、少しでも奴らを消耗させるのが俺たちの役割だ。俺たちの頑張り次第でリンドウさんたちがどれだけ力を温存できるかが決まるわけだから、重要度はめちゃくちゃ高い。アラガミの数は三十は下らないって話だから、十体くらいを目標にしておきたいところだが……最悪、討伐そのものにこだわる必要はない」
「……でも、キョウヤさん」
「……なんだよ?」
「もし、出来るのであれば──もっともっとたくさん倒して。そのまま私たちがチハルさんを保護しに行ってもいいんだよね?」
「──そのつもりだよ、俺は」
最初、キョウヤはこの作戦に反対した。いや、作戦そのものは別にどうでもよかったのだが、自分がチハルの保護に行けないことに不満を持った。だから、雨宮1番隊にしてくれと今までろくに下げたことのない頭を全力で下げたりもした。
が、ペイラー・榊はいつも通りの笑顔でそれを却下した。件の新種のアラガミが危険な存在である可能性が捨てきれないから、それは精鋭であるリンドウたちに任せてほしいと有無を言わせぬ雰囲気で言い切ったのだ。
さっきと言ってることが違うじゃねえか……とキョウヤが口にするよりも前に、コウタが凄く凄く申し訳なさそうな表情で「お願い」してきたから、本当にしょうがなくキョウヤは引き下がり、コウタの代わりにエリナたちを率いることを引き受けたのだ。
もちろん、黙って引き下がるつもりは毛頭ないわけだが。
「榊博士も言ってただろ? 保護対象を抱えたままだと、掃討に参加するにせよ撤退するにせよだいぶ負担はデカいって。それなら……役目をきっちり果たしたうえで、向こうと合流できるのが理想だよな?」
「うむ! 誰かを助けることこそ騎士道なのだから、キミのその考えは実に素晴らしいものだと思う!」
アラガミを殲滅する。チハルを保護する。究極的にはこれを達成できれば何でもいいのだ。役割を果たしたうえで想定以上に活躍してしまう分には、咎められる謂れは全くない。むしろ、褒めてもらえることだとキョウヤは思っている。
「今のうちに言っておこう。俺の戦い方はコウタさんと同じような感じだとイメージしてもらっていい。第二世代だが正直剣はほとんど使わん」
「であれば、アラガミの前には僕が立とう。キョウヤは安心して銃撃に専念したまえよ」
「おう。……ただし、俺はチハルと違ってサポートなんてしないからな。元より今回はお前らのための訓練なんかじゃないんだ。俺の指示には全面的に従うように」
「えー……そりゃ、従いますけど。なんかその言い方、ムカつくなぁ……」
「うっせ。俺がリーダーだってのを忘れんなよ? ……安心しろ、俺だって本気だ。単純に……それが一番上手くいくってだけの話だ」
「……ふぅん?」
「とりあえず、真っ先に俺を
トレーラーが止まる。目的地──正確には、トレーラーで近づける限界の場所まで到着したのだろう。ここからは徒歩で進んで、実際の作戦エリアへ侵入することになる。
「……」
「あ、それ……」
トレーラーから降りる前に。キョウヤは懐から……かつてチハルに押し付けられた青いバンダナと、そしてあの日コウタから渡されたボロボロの赤いバンダナを取り出した。
「エリナ、ちょっとこいつを……そうだな、腕の所に結んでくれないか?」
「キョウヤさん……」
「別に、深い意味はないさ。それにこんなのダサくて俺には似合わない。だけど……あいつはバンダナが無いとギャーギャーうるさいからな。大事なものなら落とすんじゃねえぞって突き返してやらないといけねえんだ」
「……だったら、青いバンダナは必要なくないですか?」
「そっちはその……リッカさんとヒバリさんが、着けていけってうるさかっただけだ。それにケイイチとレイナのやつもバンダナ着けてたし」
「そういうことに、しておきますね。……ふふっ、私もバンダナ着けてくればよかったかも」
左腕に結ばれた赤いバンダナ。
額にぎゅっと結ばれた青いバンダナ。
確かに感じるその感触をもう一度確かめてから、キョウヤは神機を取ってトレーラーから降りた。
「行くぞ──チハルを迎えに」
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──ほぼ同時刻。キョウヤたちとは数km離れた地点の上空にて。
「ふーむ……知能が高い、人と意志疎通ができるアラガミねえ……」
「それも、しばらく前からアラガミだけを積極的に狩っていて、人との接触を避けていた様子もあった……か」
「しかも今回……わざわざ俺をエリナたちとの部隊から外して、リンドウさんの部隊に入れたってことは……」
ヘリコプターの中。白金の上着を羽織った三人の男たち──リンドウ、ソーマ、コウタが考えていることは全く同じものであった。
「……
「状況だけ見れば、あいつの時とそっくりだな」
「やー、俺も最初はそう思ったんだけどさ……でも、神機で付けたような傷は見つかってないんだよ」
特異点。人型アラガミ。彼ら三人の頭に浮かぶのは、無邪気で純粋な笑みを浮かべる真っ白な少女の顔。
プロペラの音がかなり大きいとはいえ、コックピットにはヘリの操縦士がいる。だから、彼らはあえてぼかした表現を用いて話していた。
「榊博士は暗に実力不足だから無理だって言ってたけど……実力だけなら、キョウヤがここに居ても問題ないと俺は思ってる。部隊運用を考えたら、むしろそっちの方が絶対に良い。なのに、あえてこのメンバーが主力部隊として保護に向かうのは」
「もし
「……実際、どうなんですかリンドウさん」
「俺に聞くなよ……と、言いたいが。少なくとも俺の時とは違うと思うぜ。俺の時は
わざとらしく持ち上げられた、金のガントレットが付いた右腕。その中身を知っている数少ない人間であるコウタは、小さくため息をついた。
「やっぱそうですよね……戦いの痕跡も、大型アラガミみたいなものだったし」
逆にもし、本当に特異点の人型アラガミだったとしたらそれはそれで大変なことになってしまう。今も月が緑である以上、新たな特異点の出現は絶対にありえない……あり得てほしくないというのもコウタたちの本音ではあった。
「ま、なるようにしかならないさ。連れが何であろうと、俺達はあのお嬢ちゃんを助け出すだけ。やることは変わらねえよ」
ミッション開始予定時刻まで、あと数分。
いったいどんな存在と相見えることになるのか──今のコウタたちには、知る由もない。
・あのオシャレなミッション名って誰が考えているんだろうね?
・カノンちゃんの階級、調べても分かりませんでした。キャリア(4年)とNORNでの記述から、ここでは(限りなく曹長に近い)上等兵としています。
【蛇足】
◇ミッションコードの取番について
「日常的な通常業務レベルのミッションまで毎回オシャレな名前なんて考えられないだろう」……ということで独自解釈で導入しているミッションコードですが、以下の法則で取番されています。
YY/MM/参加資格/ミッション種別/通し番号
【参加資格】
N:Nomination。特定の神機使いを対象に発行された指名制のミッション。
C:Conditions。何らかの参加条件があるミッション。
F:Free。階級さえ満たしていれば誰でも自由に参加できるフリーのミッション。
【ミッション種別】
S:Subdue。討伐ミッション。
E:Education。教育ミッション。
R:Rescue。救出ミッション。
G:Guard。護衛ミッション。
D:Defense。防衛ミッション。
P:Point or Patrol。偵察または巡回ミッション。
O:Other。その他のミッション。
☆例☆
7404NS085⇒2074年4月に発行された85番目の指名制討伐ミッション。
7404FE043⇒2074年4月に発行された43番目のフリーの教育ミッション。
7404NR001⇒2074年4月に発行された1番目の指名制救出ミッション。
7404NO003⇒2074年4月に発行された3番目の指名制その他のミッション。