『こちら、作戦本部のヒバリです。……聞こえますか、キョウヤさん?』
「ええ、問題ないっす。いつもよりきれいに聞こえるくらいですよ」
『よかったです……事前のブリーフィングの通り、例のアラガミが接近した場合、通信障害が発生する可能性が高いです。こちらでのナビゲーションが出来なくなる可能性もあるので』
「今のうちに叩き込める情報は叩き込んでおく……と」
インカムから聞こえてきた音声。ノイズの一つも無くはっきり聞こえるのは、果たしていいことなのか悪いことなのか。
件のアラガミは、自身を中心としたジャミング領域を構築する能力があるらしいと推察されている。どういうわけか今朝になってその能力を解除したからこそ、チハルの生存を知ることができたわけだが……今この瞬間においては、逆にしっかりジャミングしてくれている方がその接近を確信出来るのではとキョウヤは頭の片隅で考えた。
『もうそろそろ、最初のアラガミが視認できる頃合いのはずですが……いかがですか?』
「コンゴウが二体に小型が数体……予定通りっすね」
はるか前方。事前にレーダーで感知していた通り、そこにはコンゴウが二体と何体かの小型アラガミがたむろしている。目視では確認できないものの、そう遠くない所にも似たようにアラガミが群れているのだろう。
ここら一帯にそう言った感じでアラガミがいるのはわかっている。きっと一度戦闘を開始すれば、それを聞きつけて一斉に群がってくるのだろう。しかしながら、とてもそうとは信じられないほど辺りは妙に静まり返っていた。
『いいですか、キョウヤさん。キョウヤさんたちの役目は少しでもアラガミたちを疲弊させて後続のリンドウさんたちの負担を減らすことですが……だからといって、突っ込みすぎないようにしてくださいね』
「……わかってますって」
『……エリナさんもエミールさんも、前に出過ぎたり撤退の判断が甘かったりで少々の課題を抱えています。あの二人を止められるのは、今はキョウヤさんだけですので』
「だからその分、俺が冷静にならなきゃいけないってことですよね。……大丈夫、わかってます」
『……差し出がましい真似をしてしまい申し訳ありません。ですが、本当に気を付けてくださいね。……現在の地点からひたすら北北西に進んでください。無理そうなところで撤退。基本的にはそれだけなので……ご武運を』
やっぱり、どう考えても釘を刺されている。さすがにそれに気付けないほどキョウヤはバカじゃない。
新人の命を預からせることで、キョウヤが無理な行動をしないための枷としているのだろう。そうでなければいくら戦い方が似ているとはいえ、隊長経験のないキョウヤに通常のチームをバラしてまで新人二人を任せる理由がない。
「……信用無いんだね、キョウヤさん」
「普段チハルがあることないことぺちゃくちゃ喋りまくるからな……」
がちゃ、とキョウヤは神機を構え直す。隣にいる二人もキョウヤの行動を見て覚悟が決まったのか、それぞれ無言で神機を構え直した。
コンゴウは非常に耳の良いアラガミだ。こちらが戦闘態勢に入ればすぐにでも知覚してくることだろう。おしゃべりができるのもここまでで──そして、キョウヤはこれ以上無駄に時間を過ごすつもりは一切ない。
「帰ったら……今度こそ、みんなでお茶会するからな」
決意。それだけ話せば、もう心残すことは何もない。
あとはただ、目の前のアラガミをひたすらぶちのめしていくだけである。
「行くぜ」
静かに呟かれたその言葉。
それが、始まりの合図だった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
──行くぜ。
その言葉と共に、エリナは走り出した。
愛用の神機であるオスカー。今の所極東ではエリナ以外に使い手のいないこの神機は、チャージスピアと呼ばれるものである。
「神機……展開っ!」
神経接続された腕輪からの指令に従い、エリナの神機の穂先が変形して二つに分かれ、禍々しいともとれる凶悪な刃が姿を覗かせる。神機変形に伴い活性化したオラクルがどくん、どくんと腕輪を通して脈動し、エリナに奇妙な高揚感をもたらした。
(まずはこれを、しっかり叩き込む!)
今のエリナが出せる最高火力──チャージグライド。溜めに溜めたエネルギーを一気に開放し、衝撃波を伴う高速の突進突きを食らわせる必殺技。実はまだ実戦で自在に繰り出せるほどの技術は身についていないが、無防備な所に叩き込む最初の一撃であれば、問題なく行える──否、やってみせるという気概をエリナは持っている。
「ぬぅんッ!」
隣から聞こえてきた、暑苦しい声。
エミールがその神機──ブーストハンマーのブースト機構を起動させたのだろう。少々悔しいが、その威力には目を見張るものがあると言うことをエリナは良く知っている。ポール型神機として何度も一緒に訓練していたのもそうだし、聞かずともこのいけ好かない男は自分から語ってくるのだから。
ただ、それがちょっと問題だった。
──アアアアアッ!!
ブースターの音に気付いたのだろう。コンゴウが二体とも雄叫びを上げながらこちらを向き、そして近くにいたオウガテイルもこちらを向いて大きく口を開いている。
(……もうっ!)
気づかれるのは想定内だ。ただ、思っていたよりもずいぶんと早い。
エリナの中では、少なくともあともうちょっと……知覚範囲の限界ギリギリまでは近づける想定でいた。そこからであれば、チャージグライドによって確実に大きな一撃を与えられるはずだった。
それができなかったのは、つまり。
(エミールのやつ……タイミング間違えてる!)
エミールのブースト着火が思っていたよりずっと早かった。エリナの足についていこうと焦ったのか、それとも単純に緊張で間違えたのか。いずれにせよ、十分に近づく前に……アラガミにとって十分に余裕がある段階で気づかれてしまったのは確かだ。
──シュゥゥ……!
「っ!」
前方。大きく威嚇していたはずのコンゴウの体が大きく膨らむ……否、その背中にあるパイプ状の器官が空気をため込んで膨らんでいる。特徴的な吸気音からしてもまず間違いないだろう。おそらくあと数秒の内には圧縮された空気が爆弾のように弾けて、指向性を持った真空波が撃ち出されることになるはずだ。
(どうする……!?)
普通に走っても間に合わない。
チャージグライドを今発動したら届くかもしれない……が、渾身の一撃とはならない。
足を止めるのは愚の骨頂。無駄に敵に時間を与えるだけ。
避けるか。あるいは、狙いを変えるか。
一瞬のうちにいろんな考えが頭を巡り、そしてエリナの行動は──
「いいやッ! そのまま突っ込めッ!!」
「!?」
すぐ後ろ。思っていた以上に近くから聞こえてきた声。
──ギャアアアア!?
今まさに真空波を撃ちだそうとしていたコンゴウの体が、文字通り弾けた。
「いィィィィ……!」
すぐ後ろ。あまり聞き覚えの無い奇妙な音。
──一般市民の前で彼の銃撃戦闘は極力見せないように同行者は注意すること。
NORNのデータベースに記載されている、
「ィやッはァァァァッッ!!」
「ひゃあっ!?」
怒涛のように叩き込まれる銃撃。なんだかいろいろ心配になってくる軽快な叫びと共に、雨霰のようにオラクル弾が発射され、一瞬の静寂も許さないとばかりに銃声が戦場に響き渡っていく。
何がヤバいって、まるで頭が狂れたかのような乱射であるはずなのに、そのどれもがピンポイントでアラガミの体を……否、弱点を捉えている所だろう。無茶苦茶に撃っているようにしか見えないのに、そのすべてが気味が悪い程に弱点に集中しているのだ。
「はっはァ! どうしたどうした、ブチ上げてくぞオラァァァ!」
「ひ、ひい……!?」
弾丸をめちゃくちゃに顔面に叩き込まれたコンゴウが、どう、と地面に倒れ伏す。この時になってようやく、エリナは……コンゴウの背中のパイプ状の器官、その発射口の所に異常なほど銃撃の痕が集中していることに気付いた。
「ビビってんじゃねえぞ二人ともォ! 俺が全部撃っちまってもいいのかァ!?」
──狙ってた相手、あんたに取られたんですけど!
そう言いたくなるのをぐっとこらえ、大人なエリナは狙いを変更する。この銃撃ですっかり委縮している小型よりも、仲間をやられて気が立っているもう一体のコンゴウを狙うほうが効率的だろう。
というか、こうして考えている今この瞬間にも、貧弱な小型は一体、また一体とハチの巣にされている。
「そぅら走れ走れッ! 後ろは気にすんなッ!」
援護射撃。おそらくそれは、そう呼ばれるものなのだろう。事実として、エリナやエミールに近づこうとしたアラガミには情け容赦なく銃弾がブチ込まれているし、その隙をついて神機を振るうだけなのだから、前に出ているエリナたちとしては実にやりやすいのは間違いない。
もはや援護の領域を超えている節もあるが、行動自体は何の問題も無い。あらかじめ決めていた通り、エリナたちが前に出てキョウヤが撃つという……全くもってその通りに事が進んでいる。
進んでは、いるのだが。
──ギャアアアア!?
「ふゥゥッ!!」
──オオオオッ!?
「へェェェェいッ!」
──ゴァァァ!?
「ひゃっはァァァッ!!」
なんだこれは。
自分は一体、何を見せつけられているのか。
文字通り、狂喜乱舞しながら銃をぶっ放すこの男。これが本当に、今朝方まで死んだ顔をして部屋に引きこもっていた男なのか。というか何で、後ろから銃撃するとか言ってたくせに自分たちとほぼ変わらないくらい前に出てきているのか。
エリナの頭は、混乱の極地に至ろうとしていた。
──オオオオッ!!
──シャアアアア!
「おッ!? 喜べお前らァ! 向こうの方からお代わりを持ってきてくれたぞッ!!」
シユウとグボロ・グボロ、そしてヴァジュラテイル。特別感知能力が高いアラガミというわけではないはずだが、戦闘の気配を嗅ぎつけたのだろう。そりゃこんだけ騒げば当然だろうなと、エリナは心の中だけでため息をついた。
「いいねェ、いいねェ! ちゃんと役目を果たせている証拠だ! ……どうした、突っ込めッ! 好きなだけぶっ放して好きなだけ暴れてこいッ!!」
「や、そのつもりではあるのだが……!」
珍しく。
本当に珍しく、エミールが口ごもった。
「い、行って良いのか……!? その、この弾幕でどうやって突っ込めばいいのだ……!?」
珍しく。
本当に珍しく、エリナはエミールのその言葉に心から同意した。
「はっはァ! 心配すんな、当てやしねェよ!」
事実として、一発たりとも誤射していない。一発たりとも狙いを外していないし、順調にアラガミを駆逐して前に進んでいる。まだそこまで敵の勢いも増えていないとはいえ、今のところは何の問題も起きていない。
──アアアア!?
──ガアァァァ!?
周りをうろちょろしていたザイゴートが弾けて地面に落ちた。
狙いをつけていたはずのコンゴウは、神機を叩き込める距離まで接近した段階で既に顔面がボコボコになっていた。
そして今なおこの瞬間も、ちょっと信じられないくらいのオラクル弾が発射され続けている。
「こ、これは……!」
「す、すっごい弾幕……! 当たんない、とは言ってくれてるけど……!」
──めっちゃ怖い!
大丈夫。大丈夫だとは信じているが、それはそれとしてめっちゃ怖い。それがエリナの、嘘偽りのない本音であった。
「ち、チハルさん……こんなのと普段組んでるの……!?」
「どういうことなのだ……!? この前一緒にミッションを受けた時は、彼は騎士道精神あふれる振る舞いだったはずだぞ……!?」
思わず漏れ出た、二人のその言葉。
「ああん!? ンなの当たり前だろ!? あの時はお前たちの訓練だったんだから! それに──」
「それに?」
「──今日はこれでも普段の七割って所だ」
「「えっ」」
「そりゃそうだろ。チハルと違ってお前らの動きなんて読めないし、お前ら二人ともチハルよりデカいし。いつもより抑えておかないと誤射しまくるのは必然だ。……それより、リンクバーストはまだか?」
「「……」」
リンクバーストして、本当に大丈夫なのか。エリナの頭にもエミールの頭にも同じ考えがよぎった。
──ギャアアアア!?
──イイイイイ!?
「ほら、早く。そろそろオラクルの残量キレそうなんだよ」
──オラクル切れるとテンション下がるんだ。というかこの人、このテンションでも銃撃するんだ。
陽動という意味ではこれ以上に無いくらいに成功している。キョウヤという神機使いの実力が確かであることも理解した。
そして──あのチハルがこの男のことをトリガーハッピーと評していた本当の意味も、エリナは理解してしまった。
故に、不安でしかなかった。
「なんかドン引きした顔してるけどな、俺なんかまだまだ甘い方だぞ」
「えっ」
「お前の所の隊長は……コウタさんはもっとすごい。俺のこの戦い方はコウタさんに少しでも近づこうとしてできたものなんだぜ?」
「うそでしょ」
「嘘なもんか。第一部隊ってだけで既に化け物ぞろいなんだぜ──と」
「「!?」」
──ギャアアア!?
特徴的な神機の変形音が複数回聞こえたと思ったら。なぜだか近くにいたはずのキョウヤが姿を消して──そして、少し離れたところでシユウの肩に乗っている。
「な、なに……!? 何が起きたの……!?」
「これくらいなら、第一部隊は平然とやってのけるぞ」
滑空して突撃してきたシユウを、神機形態変更動作を利用した斬撃──俗に言う切り上げ変形で迎撃し、そのままその背中に飛び乗った。キョウヤがやってみせたのはそれだけのことだが、他の武器種に明るくない二人には、何が起きたのかすら理解できていない。
「すげえよなあ……コウタさんの火力は。同じアサルトなのに、俺のとは比べ物にならない」
──ガアアアア!?
「だから俺は、その火力を補うために……アラガミの弱点に、出来るだけタマをぶち込めるように努力してきた。まぁ、趣味と実益を兼ねていたわけだが、ついついテンションが上がるほど楽しいんだこれが」
「……」
「で、たまにはこういう銃撃もやるわけだ」
──ア。
がちゃ、とその銃口が向けられたほぼその直後。
断末魔を上げさせる間もなく……ゼロ距離で発射されたその弾丸が、シユウの頭を綺麗に弾き飛ばした。
「こんな工夫をしなきゃ俺はアラガミを倒せないが……第一部隊の人たちなら、この程度は一瞬で片づけられる。それだけの修羅場をくぐってきた猛者たちだよ。普段はお前らに合わせているだけだ」
「……」
「そんなドン引きした顔しないでやってくれよ。あの人たち、マジですごい人たちなんだから」
そうじゃない。そっちじゃなくて、キョウヤ本人にドン引きしている。
口からこぼれそうになった言葉を、エリナはかろうじて飲み込んだ。色々諸々言いたいことはたくさんあるのだが、今は作戦行動中なのだから。
「さ……いつまでもシケた面してないで、神機を構えろ。まだまだ全然暴れ足りないし」
「まだ、暴れ足りないの……? というか、もっと暴れるつもりなの……?」
「そりゃあ、そうだろ」
慣れた手つきでバレットを切り替えたキョウヤは、見ていて薄気味悪い程の純粋な笑みを浮かべた。
「【スプリング・フェスティバル】……誰が考えたか知らんが、ずいぶんシャレた名前じゃないか。春を迎える祭りなんだから……もっともっと盛り上がって、これからやってくる春に対しての喜びと感謝を示すべき……違うか?」
「そ、そういうもんなの……?」
「ああ。でもって、招かれざる客は排除すべきで、俺達の役目は陽動と可能な限りの駆逐。つまりは──」
Oアンプルを合計三本。ろくに手元も見ないで片手でそれを使って見せたキョウヤは、大きく大きく息を吸い込んだ。
「──祭りはまだまだこれからだッ!! 邪魔なモン全部蹴散らして、こっちから春を迎えに行くぞッ!!!」
GE2で走りながらアサルトを撃てるようになって、連射弾導入により文字通り銃だけで戦えるようになって、本当にマジで嬉しかったです。
ないぞうはかいだん も のうてんちょくげきだん も大好きですが、それよりもひたすら弾を連射して撃つのが大好きでした。GEBではラピッド縛りでいろんなアラガミを倒したっけ……。