GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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26 嵐の前の

 

 

 

『──祭りはまだまだこれからだッ!! 邪魔なモン全部蹴散らして、こっちから春を迎えに行くぞッ!!!』

 

 

 

「……極東の春祭りは、随分と過激なんだな」

 

「あ、あはは……」

 

 インカム越しに聞こえてきたその音声。つい数時間前まで死人のような顔色であった男が発したとは思えないその言葉に、ソーマはほんの小さな笑みを浮かべた。

 

 作戦開始から早数十分。今の所通信状態は良好で、どの部隊も順調に物事を進められている。毎回のようにイレギュラーが発生するこの極東においては、これはかなり良い傾向といってよかった。

 

「すげーなぁ……うっすらとだが、ここまで銃撃音が聞こえるような……気のせいか?」

 

「いいや、俺にも聞こえる」

 

 薄く遠く伸びていくような、特徴的な反響音。微かなものとはいえ、断続的に響くそれをソーマの耳は確かに捉えている。

 

 ソーマの記憶が正しければ、同じ作戦エリアとはいえキョウヤたちがいる所とはそれなりの距離があったはずなわけで、ここまで銃撃音が聞こえると言うことは……よほど盛大に銃をぶっ放しているということに他ならなかった。

 

「かつて、日本人は春祭り……【お花見】とやらで普段とは想像できないくらいに大騒ぎをしていたと、何かの文献で読んだことがあるが」

 

「らしいなあ。すっげー小さい頃、民営でやってたテレビジョン放送でそんなのを見た記憶があるが……しかしそれにしたって、あいつのあの変わりようは一体何なんだ?」

 

 リンドウもソーマも、アナグラに戻ってきたのは随分と久しぶりだ。そして部隊や階級が違うこともあって、キョウヤのことはほとんど知らない。

 

「あいつは……キョウヤは」

 

「ふむ」

 

 唯一その答えを知っている人間──コウタは、少々引き攣った顔でその疑問に答えた。

 

「ベクトルの違うカノンなんだよね……」

 

「「……」」

 

 台場カノン。今回のミッションにも参加している彼女は、神機──銃を持つと少々性格が変わる。極東の神機使いたちの間では常識であり、そして彼女と一緒に戦って物理的に酷い目に合う(・・・・・・・・・・)人間が多いことも、リンドウたちは良く知っていた。

 

「本人曰く、銃を持つとテンションが上る……って話なんだけど。でも、カノンと違って誤射率は低いし命中率もすごくいいんだ。ただひたすら、外聞がよくないだけで」

 

「そういやあ、我が姉上もすげえ唸り声上げながら銃ぶっ放していたな……気合入れて叫ぶってのが誤射率を減らす秘訣なのかね? 今度俺もやってみるかなあ」

 

「お前の場合、単純に気づかいが足りないだけだ。もっとサクヤを見習えよ」

 

「こいつぁ手厳しいや」

 

 ふう、とリンドウは大袈裟に肩をすくめて見せる。

 

 その足元には──すでに事切れた、クアドリガが横たわっている。ソーマの周囲にも、コウタの周囲にも、それぞれ別のアラガミの死体が山のように積みあがっていた。

 

「──あっちは陽動として十分な動きを果たしていると思う。通信を聞く限り、結構な量を引き付けているのは間違いない」

 

 休憩の時間は終わったということなのだろう。いきなり話を切り替えたリンドウからは、先ほどまでの緩い雰囲気は一切感じられない。当然、話を聞いている側であるソーマやコウタのほうも、はっきりと表情が切り替わっていた。

 

「だが……妙にこっちに残っている数が多い。ついでにオラクル反応の大きさの割に、妙に手ごわい感じがしたんだが……お前ら、どう感じた?」

 

 キョウヤたちはあくまで陽動部隊だ。リンドウたち主力部隊の力を温存させるために、有象無象を引き付ける役割を持っている。言いかえれば、キョウヤたちが引き受けるのはあくまで「そこそこ」レベルのアラガミたちであって、それなりに強いアラガミに関してはリンドウたちが引き受けることになっている。

 

 が、リンドウ個人の体感として……そういう事情を鑑みても、なんだか妙にアラガミが手ごわい気がしたのだ。

 

「んー……確かにちょっと、タフだった気がするかも。でも、程度問題でそこまで気にするようなものじゃない……ような?」

 

「こんなもんだろ。ただ、例のアラガミと俺達神機使いに狩られずにここまで逃げ込めるだけの実力を持ったアラガミとも言える。俺たちにとっては問題なくとも、他の連中にとっては」

 

「ふむふむ、なるほどね……」

 

 頼れる二人の仲間の意見を聞いて。ちょっぴりだけ思案したリンドウは、これからの方針について語りだした。

 

「思っていたよりも数が多いし、相手も強い。例のアラガミがこの作戦エリアに入れば通信障害も起きるだろうから、ここは万が一に備えて突破よりも殲滅を優先しようと思うが……どうだ?」

 

「異議なし! これだけドンパチやってれば、迎えに行かずとも向こうも気づくだろうし!」

 

「それが命令なら従うまでだ……が、妙に慎重だな?」

 

 今の所大きな問題は起きていない。キョウヤたちは想定より多くのアラガミを倒しているし、こちらで受け持つアラガミが多少手ごわいとはいえ、作戦変更を余儀なくされるほどでもない。この程度であれば極東なら日常茶飯事であるわけで、作戦全体としては実に順調に進んでいるといっていい。

 

「いやあ、考えすぎだとは思うんだが」

 

 ──それ故に。だからこそ、リンドウの心の中に一抹の不安があった。

 

「上手くいきすぎていて、逆に怖いんだよ」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

『大…の……ガミ……れま……!』

 

「む……!」

 

 それ(・・)に一番最初に気付いたのは、エミールだった。

 

 さっきまでは明瞭に聞こえていたはずの本部との通信音声にいきなりノイズがはしり……そして、次の瞬間には何も聞こえなくなってしまう。念のためこちらから通信を試みるも砂嵐の音がするばかりで、通信が繋がっている感じはまるでない。

 

 しかしそれでいて、すぐ近くにいるキョウヤやエリナたちとの通信は繋がる。つまり、通信機器そのものが壊れているわけじゃない。

 

 この特徴的な通信障害。それが意味することは、つまり。

 

「キョウヤ! エリナ! 通信障害が始まった──例のアラガミがすぐ近くに来ているようだぞ!」

 

「マジか!」

 

 チハルを連れたアラガミが、この作戦エリアに侵入した。通信が途絶える直前に少しだけ聞こえた音声の内容からも、ほぼ間違いないだろう。

 

「あのアラガミが警戒態勢に入るとジャミングの可能性が強くなる……って榊博士は言ってたけど! ほとんど予想通りの時間じゃん!」

 

「いいねェ! 予定通り進めてるって証拠じゃねェか!」

 

 わらわらと群がってくる小型アラガミを、キョウヤが銃撃し、エリナが薙ぎ払っている。あまりにもたくましすぎる仲間たちの雄姿に、エミールは一つの決断をした。

 

「騎士道ォォォォァァァ──ッ!!」

 

 ブースト着火──からの、インパクト。渾身の力で振るった正義の鉄槌は、悲鳴すら上げさせないままヴァジュラテイルの体の半分をぺちゃんこにする。

 

「キョウヤ! エリナ! ──いけ! 僕に構わず!」

 

「はァ!?」

 

 突然の叫び。二人が驚いた顔をするのも無理はなかった。

 

「何言ってるのさエミールっ!? 順調に進んでいるのに、分かれる理由なんて──!」

 

「大いにあるのだ!」

 

 ブースト着火──高速移動からの強打。大ぶりな重い一撃とは本来相容れないはずの高速戦闘。瞬間的な素早い動きで敵の懐に潜り込み、強烈な打撃を叩きこむというこの神機のコンセプトを、奇しくもエミールはこの乱戦で理解しつつある。

 

 だからこそ、今の現状がわかってしまったのだ。

 

「我がポラーシュターンの動きは! 瞬間的な加速で敵を翻弄し、絶大なる一撃を叩きこむというスタイルは実に騎士らしく素晴らしくあるのだが!」

 

 騎士なら普通剣か槍でしょ──というツッコミを、エリナはかろうじて抑え込んだ。

 

「速過ぎる故に、キョウヤとの連携には向いていない! 繊細なるステップで華麗に舞い、的確に弱点を突くキミの動きとも噛み合っていない! 少なくとも今この瞬間においては──単純に邪魔になってしまっているッ!」

 

 ブーストハンマーの最大の特徴。圧倒的な加速と破壊力。しかしなまじ加速がある分、誤射を恐れてキョウヤの援護射撃が控えめになってしまっているし、大ぶりなその一撃のせいで、エリナの動きも制限されている。

 

 最初の内はほとんど問題になっていなかった。しかし、エミールがブーストハンマーの扱いに慣れれば慣れるほど──その動きのキレが良くなれば良くなるほど、その問題は際立っていく。

 

 実際、最初の頃に比べると進行スペースは明らかに遅くなっている。本来は鈍重で、瞬間的な加速に秀でているが持久力に欠けるエミールだからこそ──自分が普通に二人の動きについていけてしまっているというその事実に気づいてしまったのだ。

 

「しかぁし! 一対多数の乱戦であれば──我がポラーシュターンがこれほど輝ける場所はないッ!!」

 

 思う存分動き回っても問題ない。だって周りには敵しかいないから。

 思う存分振り回しても良い。だって周りには敵しかいないから。

 

 そう──ブーストハンマーは味方と連携するよりもむしろ、一対多数の乱戦でこそ真価を発揮する武器だと、エミールは理解したのだ。

 

「キミたちの力は、こんなところで徒に消費されるべきではない! そして僕は、ここで残って戦ってこそより輝ける! ならば──迷う必要がどこにある!?」

 

「──わかった! ここは任せるぞ、エミール!」

 

「キョウヤさん!?」

 

「この付近にゃ小型しかいねェ! 今のエミールなら一人で何とか出来る……一人の方が戦いやすい!」

 

 加えて、もう一つ。

 

 通信障害が始まったからこそ生じた、部隊を分けるメリット。

 

「本部とも、リンドウさんやハルさんとも通信は繋がらない……が、俺達の間でなら通信は繋がる。つまり、比較的距離が近ければジャミングの影響はあまり受けない」

 

「あ──!」

 

「エミールがここに残れば、あいつを中継役としてリンドウさんたちとの通信ができる」

 

 キョウヤとリンドウたちの目的地は一緒である。そして、ハルオミたちは少し遅れてキョウヤたちの後を追っている。

 

 つまり……そう遠くないうちに、三つの部隊の距離は近づいていく。間に中継役をかませれば、このジャミング領域内でも擬似的な通信が可能となるのだ。

 

「俺達のペースは上がる。エミールも全力を発揮できる。でもって部隊間での通信もできるようになる……こいつが一番デカい」

 

「た、確かに……」

 

「だから──行くぞ。なぁに、ヤバくなったら引き返せばいい。それはそれで情報になるんだから……どう転んでも、悪いようにはならないさ」

 

 ちら、とキレた動きでハンマーを振るうエミールを一瞥してから。

 

 キョウヤとエリナは──再び前へと走り出した。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「あ……! なんかこの辺、ちょっと見覚えある……!」

 

 出発してから、早数時間。だいぶゆっくりめに移動しているとはいえ、いよいよもって本格的にアナグラに近づいてきているらしい。私の背中にいるあの娘が嬉しそうに声を上げている……のはいいんだけど、ママってばちょっと寂しくて泣いちゃいそう。なんかお盆最終日に帰ってきた娘を見送る気分……いいや、娘をお嫁に出す気分というか。

 

「なんかいろいろ難しいこと考えちゃったけど、今日はすっごい順調な道程だったよね……! このままトラブルなくアナグラまで着けちゃうかな……!」

 

 ほんとそれな。いつもはもうちょっとアラガミとかいるもんだけど。ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)を使っていないとはいえ、それにしたって妙に静まり返っているといえなくもない。おやつも食べられなくってママってばちょっと不満っていう。

 

 ……冗談はともかくとして。体感的には、日本地図で言う所の神奈川県内には入っているはずだろう。単純な移動時間で考えてもそうだし、ウチの娘も見覚えがあると言っている以上、この推測はほぼ間違っていないはず。

 

 となると、そろそろフェンリルとの接触があっても良い頃合いかしらん? たしか蒼氷の峡谷とアナグラの間にはサテライト拠点もあったはずだし、私の機動力を考えればあまりに近づけすぎるのもフェンリルとしては避けたいところだろう。もうお昼は過ぎている頃合いだし、急ごしらえであっても部隊を編成・派遣する時間は十分にあったはず。

 

 地味に気になるとすれば……これだけわざとらしくゆっくり移動している割に、ヘリの一つも飛んでいるところを見ないことだろうか。強大なアラガミ反応の近くまで飛ばしたくないと言われればそれまでだけど、今までの実績から鑑みて、それくらいは信じてくれてもいいんじゃないかと思わないことも無い。

 

「……ぬ?」

 

 おん?

 

「なんか……微妙に銃声が聞こえたような……? キョウヤくんの笑い声が聞こえたような……」

 

 うっそマジで? 全然そんなの聞こえなかったけど。

 

 ……マジでキョウヤって誰だ? ママ、ちょっとそこだけは真剣に聞いておきたいんだけど。

 

 口ぶりからして、幼馴染とか恋人とかの不思議絆パワーで危機を感じ取っちゃった疑惑がプンプンとするのだけれども。私の耳で捉えられてない音を人間が捉えられるわけないはずなのに。

 

 ろくでなしにウチの娘は任せられない。せめて私に一泡吹かせられる程度の実力は持っていてもらわないと困る。たとえ私に敵わなくとも、それくらいの気概は見せてもらわないと認めることはできない。

 

「ね、ね。ちょっとあっちの高台に寄ってみてくれない?」

 

 はいはい、わかりましたよう。ちょーっと待っててちょうだいね。

 

「ぬ……?」

 

 おん……?

 

「なにあれ……煙?」

 

 なんかこう、狼煙みたいに立ち上がっている煙。それも色がこう……なんていうか、黒っぽいような。明らかに燃やしちゃいけないヤバいものを燃やしているかのような色合いで、そんなのがぽつぽつと何か所かある。

 

 こいつぁ、もしかしてもしかすると。

 

 私たちを迎えに来た神機使いが、アラガミに絡まれている……って感じじゃない? いくらなんでも、この終末ディストピアでサバイバルキャンプを楽しんでるってわけじゃあないよね?

 

 ここはひとつ、ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)の出番と行きましょうか。嗅覚を使えないことも無いだろうけど、あんな体に悪そうな煙を嗅ぐのなんかヤだし。

 

 ──ルゥゥ。

 

「わ」

 

 ごめんね。あなたの髪がぶわってなっちゃうけれど……ママ、あなたの友達が傷つくのも困っちゃうのよ。大丈夫、あなたは髪がぼさぼさでもすっごく可愛いママの自慢の娘だ、から──

 

 えっ。

 

 ……マジ?

 

「どしたの? このぶわーってやつ……何、やってるの?」

 

 アラガミの反応がめっちゃいっぱい。ここらのアラガミが全部集まってんじゃねーかってくらいにいっぱい。中型以上っぽいものだけでも三十個以上はあるし、ウチの娘とよく似た大きさの反応……つまりは、神機使いと思しき反応もいくつかある。そこそこの規模の掃討作戦が展開されているのであろうことは間違いない。

 

 ただ、それ以上にヤバそうな……初めて感じるこの気配。大きさ的には人間っぽいのに、感触が人間っぽくないのが二つもある。どっちかっていうとアラガミ寄りに思えるんだけど、これってまさか。

 

 いいや、そいつはいいんだ。それは別にまあ、悪い事じゃない。

 

 

 

 だけど──私以上の速さで急接近しているこの気配は何だ?

 

 

 

 何でこいつは、まともな車道なんてないのにこの速度で真っすぐ動けるんだ?

 

 おまけに今まで感じたことが無いくらい強いオラクルの気配──ああ、そうか。

 

 ──ルゥゥ……ッ!

 

「きゃ」

 

 神機使いがドンパチやってれば、アラガミだって寄って来る。あるいはもしかすると、この付近にいるアラガミは、あいつから逃れて集まったのかもしれない。

 

 いずれにせよ。

 

「わぁっ!?」

 

 ──ルゥゥ!!

 

 この時期の極東のメンツじゃ、ちと厳しい相手だ。

 

「ど、どうしたの!? 何でいきなり……きゃぷ」

 

 ごめんねえ。舌を噛むといけないから……って、もう噛んでいるけれども。ともかくママは、急いであなたのお友達の所に行かないといけないの。

 

 あなたの友達なんだもの、もはやそれってウチの子同然ってことだし。なによりも……。

 

 こいつをどうにかすれば、正真正銘実績アピールになる。嫁入り娘に持たせる最後の手土産を、作らせてもらおうか。




 エミールのフェンリル入隊、2072年となっているものと2073年となっているものがありますが、エリナちゃんよりかは早くに入隊していたのは間違いないです。極東への転属が2074年であり、ブーストハンマーを使い始めたのも同じ時期、かつNORNなどでの説明からここではその階級を新兵としています。
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