「うっわ……すごい速さ……!」
「マジでお前の言うこと聞くんだな……」
「そうでしょそうでしょ! この子はすごいんだから!」
さて。
さてさて。
さてさてさて。
ようやっと、本当にようやっとウチの娘と神機使いの合流が叶ったわけですけれども。ウチの娘のとびっきりの笑顔を見られた上に、まさかの原作ネームドキャラ……エリナちゃんに会えたばかりか、そのエリナちゃんをこうして背中に乗せさせていただくという栄誉を賜っているわけですけれども。
「それよりキョウヤくん……その、バンダナって……」
「あー……いろいろあって、ゲン担ぎというか。『チハルちゃんを迎えに行くなら絶対着けてけ』ってヒバリさんとリッカさんがうるさかったってだけだ」
「……ほんとーかなぁ?」
「……なんだよ?」
「……んーん、なんでもない。……持ってきてくれて、ありがとね!」
「……おう」
ああああああん、もう! これ! この感じ! 他人様の背中でなに人の娘とイチャついてんだよこの男はァ!!
さっきだって! さっきだって! 人がせっかく身を挺してカリギュラの攻撃から庇ってやったのに! なんか人の後ろで感動の再会をずっと楽しんじゃってたし! 戦闘中だってのになんかもう若干のロマンスの空気も流れてたし! アレ絶対カリギュラも困ってたってマジで!
いやもうマジで……あの時の二人、私がブチギレ雷を落とさなければいつまでも……いいや、それこそちゅーの一つでもしてたんじゃあるまいな? さすがにそれはまだ早いというか、ママは許しませんぞっていう。
……いやもう、思った以上に心にクるわコレ。なんかもう、ママやめてパパかいっそ子供を見守る長老ポジションにでも鞍替えしようかな……。
ウチの娘のお名前が判明したのはすごく嬉しいのに、私といた時には見せていなかった声色ってだけでもうなんか泣きそうなんだけど。ママがこんなにも辛いだなんて、知らなかったよ……。
というか、それ以前にさあ……。
男を乗せるの、めっっっちゃ気分が下がるんだよ……。何が悲しくてむさ苦しい男なんて乗せなきゃいけないんだよ……。やらなきゃいけないのはわかってるんだけど、単純にやりたくねえんだよ……。
ほら、アレだよ。電車で知らないおっさんが肩にもたれかかってくるのを三倍イヤにしたような気分なんだよ。我慢できないことはないんだけど、単純にすっげー嫌な気分になるんだよ。
「うっわ……普通に走っているだけで、小型が蹴散らされてく……ちょっと遠かろうと、雷で打ち抜いてる……」
「移動するだけでアラガミを倒せるってのか……。ヒバリさんたちが誤認したのも、この殲滅力ならわかる気がするぜ……」
まぁいい。とにもかくにもこのエリアにいるアラガミを殲滅するのが先決だ。この娘──チハルちゃんが無事にアナグラに帰れるのにってのもそうだけど、今ここに居る神機使いが全員無事に戻れなくっちゃあ意味がない。あとついでに、全力で媚びを売っておかないと私が討伐対象にされかねないし。
「ね、ね。アナグラに行く前にこの辺りのアラガミを全部倒してほしいんだけど……わかる?」
そりゃもう。あっちのほうですわよ……この感じ、何体かまだ残ってんな。
「……よし! じゃああっちの方、よろしくね!」
「……ハルさんがいる辺りと大体あってるな。というか、本当にこっちの言葉が分かってるみたいにお前の言うこと聞くんだな」
わかってるみたい、じゃなくてわかってるんだもん。まぁ、意志の疎通ができる善良アラガミだって推測はできてたみたいだけど、さすがにそんなところまでわかるわけないか。
「なぁ、お前……」
やだ。ちょっと話したくない。私と話したいならせめて【鬼神竜帝】でパーフェクト獲れるようになってから出直して来い。
「……なんか、無視されてる気がするんだが」
「ん……もしかして、知らない人だから緊張しているのかも。何かあったの?」
「お前が知ってるかどうかわかんねえんだけどさ。なんかこいつ、周囲にジャミング領域を展開しているんだよ。そのせいで全然通信が繋がらねえんだ……止められないか?」
「えっ」
えっ。
「そうなの!? ……あーっ、だから腕輪を付けてるのに全然助けが来なかったのか!」
「ああ。反応が完全にロストしてたし、壊れた神機も見つかったから……だから俺たちはお前がKIAになったと判断したんだ。で、なぜか今朝になってジャミングが解けて腕輪の反応が復活したから、こうやって迎えに来れたんだよ」
何それ怖い。私、知らない間に周囲にジャミング領域を展開していたらしい。そんな能力があるなんて初耳だし、そもそも特別なことなんてしてないんだけど。
「ぬ……? 今朝になってジャミングが解けた? 今もまだ、ジャミングは続いてる?」
「あ、ああ……。榊博士たちは、このアラガミの警戒態勢じゃないかって話していたが……お前なら、止められないか?」
止めるも何も、私はそんなことなんてしてないっていう。やってもいないものを止めるとかこれいかに。
「ん……おっけー、聞いてみる」
えっ。
「ねえ……この、ぶわーってなるやつ……止めてくれないかな?」
アッ。
今朝方解除されていた、今までずっと展開されていたジャミング領域って……ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)じゃねえか!
『……い! おい! 聞こえるかキョウヤ! 何でもいいから返事しろ!』
「……リンドウさん! 聞こえます、キョウヤです!」
ユーバーセンス(仮)を解いた瞬間に通信繋がっちゃうしさあ……しかも相手、リンドウさんじゃねえかよ……!
『生きてるな!? こっちはエミールと合流した! カリギュラはどうなってる!?』
「あー、その……なんというか」
言えるわけないよな。なんかすっげー賢い超絶イケメンアラガミに助けられて、そのままそのたくましい背中に乗って移動している……だなんて。アラガミがヒトを助けるだなんて実に信じがたい話だし、私だったら同じ報告を受けても絶対に信じない。例のヤバいアラガミ信仰のカルト集団だったのかって縁を切るレベル。
「カリギュラは倒せました。チハルとも合流しています。そして……例の、未知のアラガミとも接触したんですが」
『……マジか!? 今、どこにいる!?』
「そのアラガミの背中に乗って、俺、チハル、エリナの三人でハルさんの所の応援に行くところです。……もう、ジャミングも解いてもらいました。本部との通信も繋がるはずですし、ハルさんのところで合流しましょう。たぶん、説明するよりも見たほうが早いです」
『背中に乗って……おいおい、そっちのパターンかよ……!』
『……まぁ、無事なら何よりだ』
『俺達もすぐ行くからな! ……あ、出来ればチハルの声を聞かせてくれよ! ヒバリさんたちもきっと、聞きたがっているだろうから!』
何やらワイワイと背中で通信が入り乱れている。上手い具合に報告・連絡ができた──つまりは、チハルちゃんの生存がアナグラにも正確に伝わったのだろう。ひとまずこれで一安心で……そして、私の身の振り方もそろそろ本格的に考える必要がある。
榊博士は人型アラガミでないのに高度な知能を有する私を……どう扱うのやら。実験動物コースは御免だけれども、それなりの親密度は稼いでおきたいところ。色々諸々、この辺りの情勢も把握しておきたいところだ。
何よりも。
──これ、私のせいで通信が出来なくて、そのせいで発見とか遅れたってオチだよね? なんか二次被害がいろいろ有りそうで怖いんだけど、許してくれる……よね?
▲▽▲▽▲▽▲▽
「──ケイイチ! レイナ! ……あとカノンも! もう無理して前に出る必要はないぞ! 応援が来てくれることになった!」
いきなり復活した通信。怒涛のように押し寄せてくる信じがたい情報。もはや何が何だかまるで理解できなかったが、ハルオミは一番大事なことだけを部隊のメンバーに告げた。
「ハルさん! それって……!」
「ああ……だが、なかなか信じがたいことになってるみたいだ。……おっと、とりあえず」
保護対象と無事に合流できた。しかも件のアラガミとキョウヤたちが行動を共にしていて、ジャミングの解除もしてくれた。しかもあろうことか、この作戦エリアにあの接触禁忌種のカリギュラが侵入していて──もう、倒されてしまったと言うではないか。
ハルオミが知っている中で、カリギュラというのは最も手ごわいアラガミだ。そんなカリギュラをまるで片手間のように片付けることができるアラガミだなんて、いったいどんなアラガミだと言うのか。
全く未知のアラガミであることは間違いないだろう。単純な強さだけで言えば、確実に接触禁忌種に指定されるはずだ。今のこの極東に所属している神機使いで、そのアラガミに対抗できるのが果たして何人いることか。
いずれにせよ──そんなアラガミが味方というのであれば。これほど心強いことはない。
「──雷に気を付けろ、だとさ」
まるで見計らったかのように。
その戦場に……雷鳴がとどろいた。
──ルゥゥゥッッ!!
閃光のように飛び込んできた、白い影。雄叫びと共に落とされた何十発もの雷。オウガテイルが黒焦げになり、ザイゴートが破裂して。かと思えば次の瞬間には、コンゴウが文字通り叩き潰されて、ガントレットの下でピクピクと痙攣している。
──ルァァァァッ!!
グボロ・グボロの砲塔が食い千切られている。シユウの翼が食い千切られている。ボルグ・カムランの胴体が大きく凹み、全ての足が丁寧に切り取られている。
ズタズタに切り裂かれ、雷で黒焦げにされ、そして無残に喰い荒らされるアラガミの死体の山。
「は、はは……冗談みたいな光景だな……」
もし、その背中に──見覚えのある神機使いたちが乗っていなければ。ハルオミはきっと、自分の命と引き換えにしてもこのアラガミに攻撃をしていたかもしれない。
「──ハルさん!」
「……コウタか」
遠くから……驚いた顔をして走って来る雨宮1番隊の面々。無線で連絡があった通り、そこには少々ボロボロになったエミールもいる。エミールを除けば全員ほどんど傷らしい傷も無い……それどころか、衣服ですら汚れていないのが、なんとも頼もしいところであった。
「な……なんだよ、あのアラガミ……!?」
「俺もさっき見たところなんだが……さすがの第一部隊でも、あんなの見るのは初めてかい?」
「う、うん。ちょっとイメージと違ったというか……さすがにアレを見るのは初めてかな……?」
おや、とハルオミは心の中だけで首をひねる。別段なにもおかしいはずはないのに、コウタのそのものの言い方になんだか引っかかるところがある気がしたのだ。
「……白い大型アラガミ、か」
「背中に乗せて移動してる……っていうから大体の想像はできたが。……しかし、どーすっかなこいつは……」
ソーマもリンドウも、驚いてはいる。驚いてはいるのだが……なんだかちょっと、想像と違う。人の言うことを聞く前代未聞のアラガミを目にしているはずなのに、なぜだか……そう、まるでもっと別の物を想像していたかのような、そんな驚き方だ。
「一応確認だが、そっちのエリアの殲滅は終わったんだよな?」
「おう。あとはこの辺しか残ってないってレーダーでも確認は取れている。どのみち
「あと数分の内には殲滅も終わる……それどころか、俺達が助けに入るまでも無く自力で戻ってこれたんだろうな」
もうすでに、カノンもケイイチもレイナも戦闘からは離脱してハルオミの方にまで引いてきている。自分たちが一緒になってアラガミと戦うよりも、あの白いアラガミが存分に暴れられるようにした方がいいと考えたのだろう。あるいは単純に、あんな地獄のような雷の嵐に巻き込まれたくないと思ったのかもしれない。
「……普通に元気そうにしてるな、チハルのやつ」
「元気そうというか……すっげー楽しそうにアラガミに指示送ってるね」
「エリナのやつは顔が青い……おいまさかあいつ、吐きそうになってないか?」
「なってるね……」
背中に乗っている三人。先頭に座るチハルは楽しそうにそのアラガミの背中を叩き、真ん中に座るキョウヤは一番後ろに座るエリナの顔色を見て、非常に緊迫した表情となってしまっている。あのエリナがぎゅっとキョウヤの背中を必死に掴んでいるところに、どれだけ彼女の限界が差し迫っているのかが見て取れた。
「まぁともかく、これで無事にミッションは達成だ。あの様子ならチハルも問題なさそうだし、ひとまずは一安心って所だろうが……」
これからのことをハルオミは考える。
「なあ、雨宮1番隊の隊長さんよ」
「なんだよ、その全力で責任を擦り付けようとする言い方は……」
全くもってその通りなので、ハルオミはリンドウの言葉を笑って無視した。
「どうすんだ、この後?」
「それなんだよなあ……」
人と意志の疎通ができるアラガミ。それも、こうも友好的なアラガミを放っておいていいわけがない。現に目の前で人間を背中に乗せてアラガミを蹂躙しているわけだし、それがなくとも──あの接触禁忌種であるカリギュラを簡単に倒すような相手だ。監視も付けずに野放しにするわけには絶対に行かない。
しかしながら……そのまま連れ帰ってしまっていいものなのか。
「こっそり連れ帰るにも、あんだけデカいとな……絶対人の目についちまう」
「仮にこっそり入れたとしても、あんなにデカいのを匿える場所は無いですもんね……」
「……連れ帰るってのは確定事項なんだな?」
「あん? まあ、そりゃあ……もしここで討伐しろだなんて言われたら、あの嬢ちゃんがめっちゃ泣きそうだし。こっちの被害もデカくなりそうだ」
──倒せない、とは言わないんだな。
さらっと言われたその言葉。冗談でも何でもないその言葉に、ハルオミは末恐ろしいものを感じずにはいられなかった。
「……榊のおっさんなら、討伐しろなんて絶対に言わない。他の連中がうるさく言ってきたとしても、俺達で黙らせればいいさ」
「……ま、そういうことならあのアラガミの処遇はそっちで考えてくれよ。正直もう、何も考えたくない気分だ」
どこか懐かしそうにも見える表情でその白いアラガミを見つめるソーマを見て。ハルオミは、考えることを放棄した。
「あー……とりあえず、博士に報告だ。難しいことは全部あの人に任せよう。これからの指示は全部あの人に仰げばいい。詳細な報告書は……うん、コウタに書いてもらえばいいか」
「えっ!? 酷くないっすかリンドウさん!?」
「現第一部隊の隊長だろう? 隊長なんて役職はそんなもんだ。これも練習だ、諦めろ」
「えええ……雨宮1番隊の隊長はリンドウさんじゃないっすか……。報告書書かないなら、リンドウさんは何するんですか……」
「何って、そりゃあ……」
死亡していると思われていた神機使いは生きていて、無事に合流を果たせたのだ。全員無事に、アナグラに帰ることができるのだ。であれば、考えなきゃいけないことはたくさんあるけれども……今はただ、その事実を、全員で喜ぶべきなのだ。
──ルゥゥゥ──ッッ!!
アラガミの躯の山の上で、誇らしそうに雄たけびを上げる白いアラガミ。そしてその背中に乗っている神機使いたちを見て、リンドウは穏やかに笑った。
「──帰ったらお茶会するんだろ? 今度は迎える側として……精いっぱいの準備をしなくちゃな」
▲▽▲▽▲▽▲▽
2074年、四月。新人指導実地訓練での死亡事故をきっかけに始まった一連の騒動は、死亡扱いとなっていた神機使いの奇跡の生還と、その神機使いを助け保護していた白きアラガミの発見という形で幕を閉じる。
前代未聞のその白きアラガミが、この極東にどんな影響をもたらすのか。
それは──神のみぞ、知ることである。
第一部、完結。
【おしらせ】
ストックが尽きました。そしてお盆休みも終わりました。このメッセージが皆さんの目に触れているころには、わたしは既にしゃちくに戻っていることでしょう。
とりあえずの一区切りがついたので、毎日更新は一旦ストップします。続きが溜まり次第適当なタイミングでぼちぼち投稿は再開しようと思いますが、第二部の開始までしばらくおまちください……。