【急雷】 突然鳴り出したかみなり。
【神名】 神の名。じんみょう。
「よ、よし……ほら、来いよ」
「だいじょーぶ、怖くないから……」
さて。
さてさて。
さてさてさて。
私の目の前で、若干震えながら腕を開いている二人の神機使い。なんともまぁパッとしない雰囲気というか、支給された制服をそのまま着ているという神機使いにしては妙に地味で特徴のない出で立ち──あえて語るまでも無く、ネームドキャラじゃないモブの神機使いだろう。
ついでに言うとバリバリの新人だ。雰囲気が初々しくて若々しいってのはもちろん、なんというかこう……特有のあどけなさがあるし。こういっちゃなんけど、頼りになるって感じは全然しない。
──ルゥゥ。
「……うぉ」
「きゃ……」
何が言いたいかって、つまり。
「わ、分かってはいても結構怖いよな……」
「う、うん……甘えん坊なのは間違いないんだけど」
──この子たちも守るべきウチの子供であり、つまりは私がママである。
▲▽▲▽▲▽▲▽
チハルちゃんをこのアナグラへ届けてから早二週間。私はこの、エイジス島をねぐらとして生活を続けている。
あの戦場にてまさかのリンドウさんらと合流できた後……流れるようにこのエイジスに連れてこられて、そしてチハルちゃんに『ここが新しいお家だからねっ!』って言われちゃったんだよね。
いやはや、びっくりしたよね。実験室送りか、あるいは華麗にハンティングされちゃうかもってヒヤヒヤしていたのに、まさかエイジス島をそのままプレゼントしてくれるとは。今まで無職のホームレス(?)だったのに、一夜にして一国一城の主になっちゃったよ。
まぁマジな話、曲がりなりにも私を収容できる場所がここしかなかったってのが大きいのだろう。エイジス島ならアナグラからの直通通路もあるし、おそらくは建設時に使ったのであろう資材搬入用(?)の大きな地下通路もある。
フェンリル関係者がこっそり出入りするのに申し分なく、そして私自身もある程度自由に出入りができる──フェンリル側からしてみれば、通路さえ張っておけば私の所在もある程度分かるというのだから、これほど都合のいい場所はない。
で、それからはずっと、食べては寝て、食べては寝ての生活を続けている。気が向いた時は外出して、そうじゃない時はここでお昼寝とかをして。あとはシフト制(?)でやってくる神機使いたちをウチの子認定して遊んだりとかも。
まったく、実に自由にのびのびとやらせてもらっていると言わざるを得ない。あのドン引きするほど真っ黒なフェンリルとは思えない好待遇。逆になんか裏があるんじゃねーかって思っちゃうレベル。
「なんでこんなに匂いを嗅ぐのが好きなのかねえ……」
「ヒトの匂いを嗅ぐと安心するから……とか?」
冗談は半分置いておくとして。もはや恒例行事であるかのように、私は彼ら──私の【監視】に来た神機使いの匂いを嗅いでいる。いや、正確に言えば嗅いでいるふりを強要されているというべきか。
私にとっての誤算の一つ。どうやらチハルちゃん、私のことを甘えん坊の犬か何かだと思っていたらしい。監視に来た神機使いは全員がこうして私に匂いを嗅がせようとしてくる──それが友好の証であると思い込んでいる。まず間違いなく、挑発フェロモンチェックの時のアレを勘違いして報告したのだろう。
「…………毎回思うんだが、レイナの方ばっかり匂い嗅がれてないか?」
「ケイイチに限らず、男の人のはあんまり嗅がないみたいだよ? キョウヤさんの時はほぼ一瞬で終わってたもん」
いいか、最初に言っておく。私には間違っても男の体の匂いを嗅ぐだなんて趣味はない。ただ、そうしないとウチの娘の立場が危うくなるから仕方なくやっているだけだ。それで向こうに信頼と安心感が生まれるというのなら、例え嫌であろうとやってみせるのがオトナってものよ。
「匂い嗅いでもらわないと人間認定されずに食べられるって話、マジなのかな……」
「キョウヤさんが大袈裟に言ってるだけだと思う……わぷ」
──ルゥゥ。
女の子のほうを、尻尾でくるんでみる。ママの自慢のふかふか尻尾ですようっと。
「気持ちいい……」
「露骨だよなあ、ホント」
何気に一番困っていること。どうにも情報の共有ができないというか、私からは彼らのおしゃべりからしか現状の把握ができない。いったい私はどういう扱いになっているのか、どういう認識をされているのか、そのあたりがさっぱりわからん。
アナグラ側として大人しくしていてほしいのか、それともマジに自由気ままに出歩いていいのか、あるいはアラガミ討伐に協力してほしいのか。私個人としては普通に人類の味方としてアナグラに協力したいわけだけれども、どれが正解なのかが分からないせいで行動を決めあぐねている節がある。
故に、こうしてなるべく多数の神機使いと戯れて人畜無害な素敵なイケメンママであることをアピールするほかない。なんだかんだで外に出るのも最低限の食事のためってのがメインだしね。
「もう少し仲良くなれたら、チハルさんみたいに背中に乗って一緒に戦ってくれたりとかしてくれるかな?」
「どうだろうな? レイナが乗るよりもチハルさんが乗ったほうが活躍できるだろうし……俺達が受けられるようなミッションじゃ、こいつの出番はないだろ」
まぁ、榊博士が相手であるならば悪いことにはならないだろう。あの人ヒトとアラガミの共存を願っている節あるし、そう言う意味ではまさしく私は格好の研究対象であり希望の光でもある。自分で言うのも何だけど、ここまで人類に協力的なアラガミなんてそうそういないわけだし。
「そういや、ミッションで思い出したんだけど」
「うん?」
問題があるとすれば。
「──赤い雨って知ってるか? なんか、最近こっちの方でも報告が増えてきたらしいぜ」
月が緑で螺旋の樹が無く、そしてエリナちゃんが神機使いとなっている──つまりはGE2本編クリア前なのに、ゲームではまだ登場していないはずのリンドウさんとソーマが居たこと。
私という異物が混入している時点でほぼ確定だったけれども──どうやらこの世界は、ゲームと異なるシナリオを描きつつあるらしい。少なくとも、私の知っている
▲▽▲▽▲▽▲▽
「やあ、体の調子はどうだね?」
支部長執務室。いつぞやと同じくそこに呼び出されたチハルは、ふかふかのソファに座ったまま緊張で身体を固くした。
目の前にいる榊は、胡散臭そうに見えるが誠実で信頼できる人間なのだろう。人を助けてくれるアラガミなどという、どう考えてもトチ狂ったとしか思えないチハルの話を信じてくれたばかりか、あの白いアラガミを討伐しようともせず、どういうわけか住む場所まで与えてくれたのだから。
変に実験体扱いされるくらいなら、フェンリルに歯向かってでもあの子を逃がさないと──なんて秘かな覚悟を決めていたチハルにとって、それはまさしく最も理想的な展開だったと言って良い。
そういう意味では、チハルの命の恩人を丁重に扱ってくれている榊もまた、恩人であるわけなのだが。
「もうすっかりだいじょうぶになりました……けど」
「ふむ! それは実に喜ばしい!」
──どう見ても、悪い人の笑顔にしか見えないんだよね。
細い目をさらに細めてにっこりと笑う榊を見て、チハルの中でそんな思いが強くなっていく。
「体調も戻ったとなれば、本格的なヒアリングも問題なくこなせるというわけだね」
「それはまあ、そうですけども」
ちら、とチハルは周囲を見る。
「……なんか、すっごく気まずいというか」
ソーマ、リンドウ、そしてコウタ。チハルと同じくこの執務室に呼び出された神機使い。しかしただの上等兵でしかないチハルと違い、三人ともが少尉であるうえあの独立支援部隊クレイドルの所属でもある──つまりは、なんかすごくてめっちゃ偉い人というわけだ。
もし、馴染み深く今も明るい笑みを浮かべているコウタが居なければ。チハルはきっと、もっとガチガチになってまともに受け答えはできなかったことだろう。
「コウタくんが書いてくれた報告書は見てくれたかい? あれはキミからの聞き取りの結果も反映されているわけだが、内容に間違いはないかな?」
「は、はい……というか、もうほとんど全部あそこに書かれているような」
「ふむふむ。では改めて……報告書にはあんまり書けないことについて聞かせてほしい」
チハルが呼び出された理由。もはや疑うまでも無く、榊はチハルを助けてくれたあの白いアラガミについていろいろ知りたいのだろう。そこにクレイドルのメンバーまでいる理由まではわからないが、きっと偉い人たちには偉い人たちなりの理由があるのだろうとチハルは思うことにした。
「まず最初に……あのアラガミは、キミの言葉を認識していると思うかね?」
「……たぶん、してると思います。呼びかけには反応しているし、ある程度言うことも聞いてくれますから」
「では……他の人間が、あのアラガミに指示を送ったりすることはできると思うかい?」
「出来ると思います……けど、なんとなく、好き嫌いは激しいと思います。監視のためにエイジスにいったキョウヤくん、すごくそっけない態度とられたって言ってたし」
「なるほど……チハルくんから見てもそう言う印象があるわけか。では、次に」
にこやかな表情を一切崩さないまま。榊は、さらっととんでもないことを口にした。
「チハルくんの主観で構わない。……あのアラガミに、明確な自我や意識があると思うかね? そう、それこそ……人間のような」
「……えっ?」
自我、あるいは意識。普段気にすることなんてほとんどないが、それは人間であればだれでも持ち合わせているものだ。
しかし、人間以外の生物の場合──果たして、
「私の印象ですけど……さすがに、人の意識みたいなものはないんじゃないかなって。もちろん、普通のアラガミみたいな感じじゃないですけど」
「言うなれば愛玩動物のそれに近いものというわけかい? 例えば……ラウンジで飼われているあのカピバラのような」
「です。……まあ、愛玩動物どころか普通の動物も、あのコ以外見たことないのであってるかわかんないですけど」
チハルの中では、あの白いアラガミはどこまでも甘えん坊な小さな男の子というイメージしかない。休憩の度に甘えてきて、顎の下を撫でられるのが何よりも好きな、かわいい弟のような存在だ。ああも積極的にアラガミを狩ってくれたのも、顎の下を撫でてほしいからではないかと思ってさえいる。
「でも、一体なんでそんなことを……いくら賢いアラガミだからって、人みたいに意識があるだなんて」
「……順を追って説明しようか。いや、どれも相互に関わってくるから、明確な順番なんて付けられないのだがね」
なぜだか一瞬開けられた間。
「あの報告書の中でまだわかっていないことがいくつかある。一つは【なぜあのアラガミはジャミングをしているのか】、そしてもう一つは……【そもそもどうしてキミを助けたのか】だ」
「……」
「後者については、正直どの考えも推測の域を出ない。ただの気まぐれなのかもしれないし、アラガミとしての性質という可能性もある。だからまずはジャミングの件から考察を重ねていくことにしたわけだが……時に、チハルくん」
「はい?」
「──ジャミングとは、何のために行うものだと思う?」
「何のため、って……」
ジャミング。詳しい原理はよくわからないが、なんかレーダーが上手く機能しなくなるアレ。
「レーダーとか無線とか、相手の通信の妨害をするため……ですか?」
「その通り。かのアラガミは自身の周囲にジャミング領域を展開することで、疑似的なステルス状態となっていたわけだが……ここで一つ、疑問が出てくる」
「疑問?」
「なぜ、ステルス状態になる必要があったんだろうね?」
「……あ」
「あのアラガミが接触禁忌種すらあしらえるほど強力だというのは、チハルくんが一番知っているだろう?」
「たしかに……あの子の強さなら、逃げる必要も隠れる必要も無いような」
「だろう? 古来より、生物が擬態やその他手段により自身を隠蔽する理由は主に二つ……攻撃のためと逃げるためであるわけだが。下手な小細工なんていらないくらいにあのアラガミは強く、そしてあのアラガミを脅かせるアラガミもまた、今のところは存在しない。さらに言えば」
「……」
「現在の所、レーダーや電波、電気信号といったものを使って索敵をするアラガミは確認されていない」
使う理由も無いのに備わっていて、する必要も無いのに展開しているジャミング領域。明らかに不自然極まりない話ではあるが、これはある前提──敵がアラガミであると限った場合の話である。
そう。この世の中には、レーダーの類を使って索敵し、アラガミを脅かし得る……アラガミ以外の存在がいる。
「……まさか、
「おや。その口ぶりだと……気づいていたのかい?」
ほんのすこしだけ、細められていたはずの榊の目が開かれる。
「あの子、すっごく良い子なのに……【アナグラに行って】ってお願いだけは、なぜかずっと聞いてくれなかったから。だから最初は、昔神機使いに虐められてトラウマになっちゃったのかなって思ってました」
「なるほど……いや、実は私が考えていたのもまさにそこでね。あれほど聞き分けの良いアラガミなのに、どうしてすぐに戻ってこないで傷ついたキミを連れ歩いていたのか。する必要も無いはずのジャミング能力と併せて考えると、その可能性が思い浮かんだわけで……そしてここからは、推測なわけだが」
「……」
「あれほどの高い知能だ。例えばだが……キミを連れ歩くことで、神機使いが安全であるかを確かめていたとか。あるいはキミを連れ歩く姿を我々に見せることで、敵意はないと示して攻撃されないようにしたとか」
「うーん……そこまで考えているようには、思えないですけど……」
「ははは、まあいずれにせよ推測の域を出ない話ばかりとなってしまう。故に……これもまた仮説で申し訳ないが、ジャミングとはあくまで副次効果的なもので、アレには別の理由や能力があるのではないかと、私はそう思っているよ」
聞き分けは良いのになぜかアナグラだけには近づこうとしなかったこと。アラガミ相手では必要が無いはずのジャミング能力があって、対神機使いを想定しているならば辻褄だけはあうこと。ジャミング能力には我々が気づいていない本来の使い方があるかもしれないこと。
現状から判断できるのは、今のところはこれくらいしかない。
「長くなったが……つまりジャミングについては、我々に対して何か思うところがあるのか、あるいは別の本来の使い方がある……という、二つの可能性があるわけだ」
机の上に置かれているカップに口をつけて。そして榊は、再びその口を開いた。
「では次に、あのアラガミの偏食傾向についてだが……これがまた、実に興味深い結果が出てね」
「あっ……! それ、すごく気になってたんです!」
偏食傾向。すごくざっくり言えば、何が好きで何が嫌いかという、食べ物の好みを表したもの。偏食因子に基づき定まるそれは、何でも喰らい尽くすというアラガミに対して唯一抵抗出来得る手段であり……たとえば、ある特定のアラガミが食べたがらない偏食因子を防壁に組み込むことで、【アラガミにも食い破られない壁】を作ることが出来たりする。
「人を食べないあの子の偏食因子なら……! きっと、すごくいろんなことに役立つんじゃありませんか!?」
「まさしくその通りだ。少しベクトルは違うが、ソーマくんたちはそんな今までにない偏食因子を探すことを任務としていたわけで……今回の報告は、果てしなく続くであろうその任務があっさりと片付く可能性を示していた」
「……示していた? ヒトを食べない偏食因子が……見つかったんじゃないんですか?」
「……見つからなかったんだよね」
ぴこん、と榊の手によってモニターの電源が入れられる。そこには、顕微鏡か何かで拡大された細胞のようなものが映っていた。
「これは簡単な偏食傾向のテストを示したものでね。画面に映っているのは培養したヴァジュラ由来のオラクル細胞なんだが、ここにヒト由来の細胞を入れると……」
「……あっという間に取り込んだというか、食い破ったというか」
「次に、ヴァジュラの偏食傾向から割り出された、ヴァジュラが好まない偏食因子を組み込んだ細胞を入れると……」
「……その細胞だけ食べずに、他の所を食べだした」
「……で、同じことをあの白いアラガミ由来の細胞でやってみた結果がこれだ」
画面の中で、先ほどと同じヒト由来細胞が投下される。
しかし……どれだけ待っても、白いアラガミのその細胞はぴくりとも動かず、それを食べようとする気配は終ぞ訪れなかった。
「……あれ? ヒトの細胞食べてない……ですよね?」
「ああ。偏食傾向としては確かに人を好まない……人を襲わないのは間違いない。だけど、どれだけ探しても……それを決定づける偏食因子は、見つからなかった」
「えっ」
「少なくとも我々の現在の科学力においては、あれはごく普通の特別でも何でもないオラクル細胞と結論付けるほかない」
偏食傾向として人を食べないのは間違いない。なのに、そのオラクル細胞からはどれだけ探してもそれを決定づける偏食因子は見つからなかった。
それが意味することは、つまり。
「あのアラガミは──純粋な意志の力を以て、我々への捕喰衝動を抑えている可能性がある」
「うそぉ……」
「ただ、それもまた可能性の話で……実のところは、わけが分からないというのが本音かな」
意志の力で抑えていたとして。いったいどうして、体から切り離されたオラクル細胞までもがヒトの細胞を食べようとする傾向を見せないのか。それは明らかに道理が合わないし、そもそもとして偏食傾向はあくまで好き嫌いを示すもの──つまりは、好まないだけであって食べられないというわけではない。
なのに、この細胞は文字通り、一切ヒトの細胞を取り込もうとしないのだという。もはや、食べ物と認識すらしていないらしかった。
「実に研究のし甲斐があるが、調べれば調べるほどわけがわからない。実際問題として、我々はあの白いアラガミのこの後のことを考えないといけないわけだが……その根拠を示せない。こうなるともう、実績のあるチハルくんに色々頑張ってもらわざるを得ない」
「んんー……! なんかもう、すごくこんがらがって来ちゃったんですけど……ともかく、言われた通りに実験とかに協力すればいいってことですよね……?」
「まあ、そういうわけだ」
どこか胡散臭くも見える笑みを浮かべた榊は、種明かしをするかのように言葉を紡ぐ。
「ちなみにだが。コウタくんがあのアラガミには意思が無いという考え……つまりはキミと同じ考えだ。理由としては行動があまりに本能的で人懐っこく見えるから。私とソーマくんがあのアラガミには明確な意思があるという考えで、理由は……キミを連れていた時の行動と、そして子供のような無邪気さは感じないから」
「……リンドウさんは?」
「よくわからんし、どっちのようにも思えるから【どちらでもない】派だな……まったく、榊博士の話は毎回長いし回りくどいから困るぜ」
いい加減、我慢が出来なくなってきたのだろう。ぐうっと大きく伸びをしたリンドウは、はっきりと断言するかのように言った。
「つまるところ、調べれば調べるほどわけがわからんってのがあのアラガミだ。だけど、だからと言って放っておいていいわけがない。これからお前にはいろいろな調査に協力してもらうことになる。さしあたって──」
あのアラガミに意思はあるのか。
いったいどうして、アラガミなのに人間を助けるのか。
なぜ、する必要のないジャミングをしているのか。
この三つのうちの一つでも分かれば、それに連動するように他の二つの問題も解けるかもしれない。故に、様々なアプローチよりそれらの検証をする方向でこれからは動いていくらしい。
「細胞サンプルの採取とか、知能テストなんかもするだろうが……あのアラガミと一緒にアラガミ討伐に出かける機会も増えると思っている。つまり」
「私があの子の背中に乗って、一緒にアラガミを討伐する……ってことですよね」
「ああ。もちろん、他の神機使いも同行するわけだし、危険な目に合わせるつもりはないが……それでも、神機なしで戦場に立つことになる」
「大丈夫ですよ、それはもう経験済みなので!」
現状、あのアラガミと最も心を通わせているのはチハルだ。そしてチハルには、例の五日間という実績もある。いろいろと不確定要素が多い中では、これ以上の適任がいるはずもない。
ついでに言えば……チハルとしても、その要請に否はない。というかむしろ、何としてでも立候補したいくらいであった。
「いーい返事だ……で、大事なことが一つあってな」
「大事なこと、ですか?」
「あのアラガミの呼び名を決めないといけないんだ。さすがにいつまでも【白いアラガミ】って呼び続けるわけにもいかないしな」
至極尤もな話。こうして多くの人間に知れ渡った以上、その呼び名が必要となるのは当然のことである。
「そんなわけで……チハル、あいつの名前を決めてくれないか?」
「え……私が決めちゃっていいんですか?」
「普通だったらフェンリルのお偉いさんが決めるんだけどな。だけど今回はあいつが反応してくれる名前じゃないと意味がないから……お前が付けちまえ」
「うー……実は、こっそり考えているのはあるんです。でも、ちゃんとした名前じゃないというか」
「十分だ。俺たちの呼びかけに反応してくれればいいだけだからな」
正式な名前ではなく、あくまで愛称やニックネームのようなもの。しかしそれでも、【白いアラガミ】とずっと呼ばれるよりかははるかに良いのは誰の目にも明らかだろう。
出会ってからずっと、二人きりだったために使う必要が無かったその名前。自分の心の中だけに秘めていたそれを、チハルは恥ずかしそうにはにかみながら口にした。
「──ルーちゃん! あの子の名前は、ルーちゃんです!」
20231209 誤記修正。「カルビ」はナナによって名付けられたので、この時点では名前はありませんでした。
お久しぶりです。
期間が空きすぎるのもよくないので、隔日を目標に一区切りがつくところまで更新する予定です。ストック作りきってから投稿したかったのですが、そんなこと言ってるといつまで経ってもできそうにないので……。