GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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39 新種のアラガミに関する諸調査(ミッションコード:7404NO007)

 

【新種のアラガミに関する諸調査】

 

◇ミッションコード

 7404NO007

 

◇ミッション目的

 作戦エリア内に出現するアラガミの種属調査および生態調査などの諸調査。

 

◇ミッション概要

 該当エリアにて、既存のデータベースに未登録であると思われるアラガミの目撃例が多発している。目撃回数の多さおよび事前調査より、新種のアラガミないしは特異な変異種が潜んでいる可能性が高いことが分かった。このアラガミの戦闘能力および生態は未知数であるため、神機使いによる生息調査を含めた諸調査を実施する。

 

 未知のアラガミとの戦闘も想定されるほか、神機使いには通常求められない専門知識及び能力を必要とする機会が想定されるため、本ミッションは別途定める参加資格を満たした神機使いのみ参加可能であるものとする。

 

◇ミッション参加者

 

 雨宮リンドウ(少尉/クレイドル)

 藤木コウタ(少尉/クレイドルおよび第一部隊/第一部隊隊長)

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(少尉/クレイドル)

 片桐キョウヤ(上等兵)

 桜田チハル(上等兵)※

 

 ※神機使いではなく、オブザーバー(アシスタント)としての参加。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「おいで、ルーちゃん!」

 

 ──ルゥゥ!

 

 そして、翌日。

 

 チハル、キョウヤ、アリサ、コウタ、そしてリンドウの五人は前日のブリーフィング通り、感応実験を行うためエイジスへと訪れていた。

 

「……本当に人懐っこいというか、見事に手懐けているんですね」

 

 近づいてくる白い影。思ったよりもずっと大きいんだな──というのが、アリサがその白いアラガミに抱いた印象だ。報告書通り、ヴァジュラより二回りは大きいことだろう。その相貌も非常に凶悪で、生えそろった鋭い牙や爪だけを見れば、一般的なイメージ通りの凶暴なアラガミにしか見えない。

 

 一方で──まるでじゃれついているかのようにチハルにその鼻面を擦り寄せる姿は、三年前に出会ったアラガミの少女を彷彿とさせるほど無邪気なものだ。凶悪な姿とは正反対のその様子が妙にギャップがあって可愛らしいというか、白くふわふわな体であることも相まって、ぎゅっと抱き着きたくなってくるほどである。

 

「でも気を付けてくださいよ、アリサさん。あいつ、人によって露骨に態度変えますからね」

 

「それに……何度ノラミって呼んでもちっとも反応してくれないんだ。機嫌の良し悪しはだいぶあると思うよ」

 

「…………コメントは差し控えさせてもらいます」

 

 はぁ、とアリサは小さくため息を吐く。どう考えても隣にいる男たちの方に問題がある気がしたが、あえてそれを口に出さない程度には良識があるつもりだった。

 

「いーい? あっちのきれいなおねーさんはアリサさん! これから感応実験ってのをやるんだけど……もしかすると、ちょっとびっくりしちゃうかもしれない。だけど、危ないこととかじゃないからね?」

 

 ──ルゥ?

 

「ふつーにしてればおっけーだから! 実験が終わったら、また一緒にアラガミを食べに行こうね!」

 

 ──ルゥ!

 

 もはや本当に人の言葉を理解しているのではないか──と、そんな風に思わずにいられないほど、そのアラガミの聞き分けは良かった。チハルの言葉に反応して相槌を打っているように見えるし、そしてなにより、はっきりとアリサ(じぶん)のことを見て、認識しているように見える。

 

 ひょっとしたら。

 

 単純な理解力だけで言えば、コウタよりも高いのではないか。アリサの頭の中には一瞬だけ、そんなチームメイトに向けるにはあまりにもあんまりな考えがよぎってしまった。

 

「アリサさん? ……大丈夫ですか?」

 

「あ……は、はい」

 

「怖くなったら、いつでも言ってくださいね? ……ルーちゃん?」

 

 ──ルゥ。

 

 チハルの呼びかけで、その白いアラガミ──ルーが、のそのそとアリサに近づいてくる。その瞳は妙にキラキラと輝いており、好奇心や興味を持っているという印象をアリサに抱かせた。

 

 ──ルゥ!

 

「……わ」

 

 報告書の通り、腕を開いて待ち構えていたアリサであったが──次の瞬間、全身が暖かくやわらかな感覚に包まれる。

 

「おお……! いきなりの好待遇……! アリサさん、ルーちゃんに気に入られていますよ!」

 

「ずるい……! ずるいぞアリサ……! 俺、そこまでしてもらうのにめっちゃ時間かかったのに……!」

 

 白いふかふかの尻尾で全身を包まれたのだ──とアリサが気づいたのは、ちょっと遅れてからであった。思考が一瞬止まってしまうほどそれは心地よく、文字通り夢心地の気分だったのである。

 

 ましてや、アリサはかなり露出過多な格好をしている。素肌に直接その気持ちの良い毛皮が触れるものだから、他の人達よりもより一層その毛皮を楽しむことができていた。

 

「けっ。やっぱりこいつ、露骨に人によって態度変えやがる」

 

「妬み僻みはカッコ悪いよ、キョウヤくん。……それでアリサさん、感応現象はどうですか?」

 

「あ……ちょ、ちょっと待ってくださいね」

 

 すでに毛皮に触れている──が、触れているのはあくまでそのふわふわな毛皮だけ。これでは本当の意味での接触とは言い難く、そして都合のいいことに、少し手を伸ばせば届く距離に、興味深そうにこちらを覗き込んでくる白き狼の顔がある。

 

「それでは──行きます」

 

 自分に言い聞かせるように宣言して。

 

 そしてアリサは、チハルがやっていたのと同じように、その大きな顎の下にそっと触れた。

 

 

 

 

「──ッ!?」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

「……なんだ?」

 

 最初に異変に気付いたのは、キョウヤだった。

 

 ルーの顎の下に触れたアリサが、ぴたりとその動きを止めたのだ。そればかりか──目が虚ろで、まるで周りのことが見えていない。ブリーフィング中でさえ気を張ってわずかな隙すら見せまいとしていた人物が、曲がりなりにも防壁の外でこうも隙だらけになるだなんて、キョウヤにはちょっと信じられなかった。

 

「お。こいつぁ……もしかするとマジで成功したかもな」

 

「リンドウさん?」

 

「前に何回か見たことがあるんだ。心配しなくとも、すぐに──」

 

 リンドウの言葉が合図になったかのように。まるで自分がここに居ることに今はじめて気づいたとばかりに、アリサがはっと顔を上げて辺りを見渡す。

 

 どうやら、本当に感応現象を起こすことに成功したらしい。いや、キョウヤがそれを断定することはできないのだが、少なくともアリサとルーの間で何かがあったことだけは確かだった。

 

「どうだアリサ、何かわかったか?」

 

「…………」

 

「……アリサ?」

 

 が、しかし。

 

 肝心のアリサは……どういうわけか、リンドウの言葉に反応しない。

 

「……アリサ? なあ、どうしたんだ?」

 

「…………」

 

 リンドウどころか、コウタの声にも反応しない。聞こえていないのか、それとも聞こえていて無視をしているのか……どうにも、キョウヤにはそのあたりの判断がつかなかった。

 

「こ、コウタさん……これって感応現象の……?」

 

「いや……何か、何かがおかしい」

 

「……だな」

 

 少しばかり眉間に皺を寄せたリンドウが、ほんの少しだけ神機を構え直す。一方でコウタは、ほぼ無意識のうちに周囲に異常がないか──未知なるアラガミが潜んでいないか、索敵を行っていた。

 

「おいアリサ! 聞こえるか!?」

 

「…………」

 

 聞こえては、いたのだろう。

 

 リンドウの声に反応してアリサがこちらを向く……が、リンドウのことなんて全く目に入っていないことが、キョウヤにもはっきりとわかった。

 

「ちっ……トラウマか何かでも思い出しちまったのか……?」

 

「そう言えばアリサのやつ、若干不安定なとこあったよな……!」

 

 いざとなったら、力づくでもどうにかする。そんな気迫がリンドウからあふれ出し……そして、アリサがぴたりと動きを止めた。

 

 いや、より正確に言えば──それ(・・)を見つけたのだ。

 

「……アリサ、さん?」

 

「あ……あ、ああ……!」

 

 アリサの顔に──笑みが広がっていく。歓喜と慈愛と、そしてちょっぴりの悲哀がこもった複雑で繊細な笑みだ。その瞳には光が戻り……ずっとずっと待ち望んでいたものをようやく見つけたかのように、ゆったりと手を伸ばしている。

 

 どういうわけか。

 

 そんなアリサを見て、キョウヤは……離れて暮らす、母親のことを思い出した。

 

「アリサさん……?」

 

 アリサの視線の先。アリサがゆっくりと歩を進めているその先にいるのは──他でもない、チハルだ。

 

 一歩、二歩、三歩。最初はゆっくりだったその歩みも、やがてはどんどんと早くなり……ついには小走りとなって。

 

 

「……っ!」

「むぎゅ!?」

 

 

 そしてアリサは、もう絶対に離さないとばかりにチハルのことを強く抱きしめた。

 

「大丈夫……! もう、大丈夫だからね……!」

「むーっ!? むーっ!?」

 

 服が乱れるのなんてまるで気づいていないとばかりに、アリサはチハルの頭を抱きすくめる。

 

「もう、怖いことなんて何もないからね……! 大丈夫、心配することなんて何もないの……!」

「むぎゅ……」

 

 慈愛に満ち満ちた、聖母の如きその表情。アリサの頬には、一筋の涙が流れていた。 

 

 

 

 

「──これからはずーっと、ママが守ってあげるからね……! もう絶対、あなたをひとりになんてしないからね……!」

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