今日もまた、振り返りとして日中にあったことを整理していこうと思う。
昨日のグボロ・グボロに味を占めた私は、中型以上のアラガミを見つけるべく再び移動を開始した。小型アラガミなんて食べても大して腹の足しにはならないので、今日はあくまで目の前に立ちふさがるものだけを始末することとする。移動のついでだし、少しでも邪魔なアラガミを減らしておいた方が人類への貢献になると思った次第。
今更ながら、既に体の動かし方にもすっかり慣れたようで、パワーもスピードも一日目より上がっていることが実感できた。ついでに五感もばっちりだし、雷の能力も扱いが上手くなったように思う。
雷を纏ってダッシュするだけで、特に何もせずとも小型アラガミがバタバタ倒れていくんだもん。もう小型については完全に敵ではない。
ぼちぼちしたところででっかいサル──コンゴウを発見。しかもただのコンゴウじゃなくて極地適応型とか寒冷地適応型とか呼ばれる、堕天種のほうね。
このコンゴウ堕天、ゲームの設定どおり実に聴覚が優れているらしかった。かなり早い段階で私が接近していることに気付き、そして体を大きく膨らませて背中のパイプ状の器官から氷塊を噴出してきたのを覚えている。
たしかアレ、大気中の水分を凝固させて打ち出している……と、そんな設定だったような気がするけれども、「瞬時に」ってレベルをはるかに超えていた。いやもうマジで一瞬ででっかい氷を撃ちだしているの。体の中に隠してあった氷を撃ちだしたって言ってくれた方がまだ納得できるくらい。完全に物理法則を超えていたように見えたっけ。
ただまぁ、これもやっぱりゲームで何度も見た予備動作だ。あんなに露骨な動きをしたらこっちだっていくらでも対応ができるし、この体のスペックであれば見てから避けるのも楽勝。あくびをしていたって避けられると言って良い。
とはいえ、念のためにあえて攻撃を食らっておく。ドン、と体に何かが当たった感覚こそあれど、これと言ってダメージらしいダメージは受けず。
思っていたよりも全然氷の冷たさを感じなかったってことは、私は氷属性に対する耐性があるってことなのだろう。ま、単純に毛皮がふかふかもふもふしていて寒さに強いだけなのかもしれないけど。
改めて自分のたくましさを確認したところで今度はこちらから攻勢に入る。大地を駆けながら同時並行でガントレットを赤熱化。超高圧の電圧により電熱で疑似的な火属性を再現するという、かなり無駄やロスが多い技だけれども、どうしてなかなかカッコ良さだけは悪くなかったのではないかと思う。
結論から言うと、赤熱化ガントレットの一撃だけでそのコンゴウは動かなくなった。奴には火属性が効くとはいえ、やはりアラガミとしての基礎スペックが大きくかけ離れているのだろう。速さと体重が乗った一撃を真正面から叩き込まれたら、そりゃコンゴウ程度なら耐えられるはずもないわな。
……ここしばらく、ほとんどすべてのアラガミが全部一撃で終わっている。一撃で仕留めきれなかったとしても、瀕死の重傷でもはや活動限界まで秒読みって感じだ。大型アラガミとしての面目は保たれていると信じたい。
ともかく、大して労力を割くことも無くコンゴウ堕天の討伐完了。味は結構いい感じ。ほどほどの噛み応えと、なにより水っぽさを全然感じない。ようやくまともに食べ物を食べている実感ができたと言えよう。ほぼ全身が可食部だったこともあって、ボリュームもなかなか悪くなかったように思える。
一番美味しかったのは、やはりコアだろうか。明らかに旨味の密度というか、口に含んだ時の満足感が他の部位と比べて段違いだった。やっぱりコアはオラクル細胞が濃縮されているとかそういう感じのアレがあるのだろうか?
食後にて、自分の真っ白な魅惑のボディがだいぶ薄汚れていることに気付く。今までさんざん食い散らかしてきたせいで、色々諸々汚れが飛び散ってしまっていたらしい。さすがに心までケダモノになるつもりはなかったので、ここらでひとつ、体を綺麗にしてみようと試みる。
設定的には、アラガミは体のどこからでもモノを食べることができたはず。故に、この身にこびりついた汚れも「喰らう」ことで落とすことができる……ものの、それはなんかヤだ。同様の理由で、獣らしくペロペロと毛づくろいするのも憚られる。
そんなわけで、汚れを全部電撃で焼き払ってしまおうと思い当たる。全部炭……灰にしてしまえば動いているうちにカラダから落ちるのは確定的に明らか。これなら見えない所や手(?)の届かないところまで綺麗にできるしね。
さっそく、ヴァジュラの電気のドームみたいなアレができないか試みることに。アレをやれば全身満遍なく電撃を纏えるのでイメージ的にまさにぴったり。
さっそくやってみよう……と、背中のビリビリパワーを周囲に展開したところで。
デカい何かがこちらに近づいてきているのが本能で感じ取れた。
巨大な咆哮と共に物陰から飛び込んできたのは──厳めしい兜を冠し、背中に赤いマントをたなびかせたでっかい虎、すなわちヴァジュラ。ヴァジュラのことを考えていたから出てきちゃったのだろうか。ある種の運命さえも感じてしまうほどのタイミングの良さだったと言えよう。
目と目があっちまったからにはしょうがない。合図も無しに始まったタイマンガチバトル。大型アラガミと戦うのは今回が初めてなので、自然と気も引き締まるというもの。私の方が少し大きかったとはいえ、体格もそれほど変わらなかったしね。
ただ、少しばかり残念なことに……このヴァジュラも、まるで相手にならなかった。私ってば強すぎるかもしれない。
酷く悲しいことに、ヴァジュラの最大の武器である電撃が私には効かない。元々雷を操るアラガミなのだ、そのアラガミが電撃にやられてどうするんだって話である。
科学的に言うのなら、私のこの体は絶縁性が非常に高いってことなのだろう。いくらヴァジュラが電撃を打ち込んできても、まるで何も感じなかった。曲がりなりにも電撃に耐えているんだからそれなりに発熱もしているんだろうな……と思ったものの、それらしい温もりも感じず。ほんのりと、カイロ程度にあったかくなっていたくらいか?
ヴァジュラほどの高電圧でも問題のない絶縁性。焼損すらしないってことは、難燃性の素材なのだろう。つまり火にも強い。
ふかふか毛皮の特性である冷気に強いというのも合わせれば、【火】、【氷】、【雷】の属性攻撃に対する耐性があると言える。もしかしなくてもつよつよアラガミなのでは?
……まぁ、いくら耐性が多かったところで、そもそもそんな複数属性を同時に使う神機使いなんていないんだけどさ。ちゃんと相手に合わせた神機を選んで出撃するし、複数が相手で弱点属性がばらばらの時は、無属性の高威力の神機にする……というか、熟練であればあるほど応用性と汎用性の高い無属性神機を愛用する傾向が強かったし。
その後はなんとなく取っ組み合い(?)でじゃれあい、そして私の勝利。力比べをしたくてあえて全身を使ってみたわけだけれども、やはり基礎的な身体能力は私のほうがずっと上であった。あれだけの図体を誇るヴァジュラであっても、子猫ちゃんと遊んでいるのと何ら変わらないレベル。
でもって、私の電撃は普通にヴァジュラに効いた。あいつも雷を操るアラガミで雷耐性は高かったはずなのに。やつの絶縁性を上回るレベルの電圧だったのか、それとも電撃にはかろうじて耐えていたけど電熱によってやられたのか。いずれにせよ、表面が黒焦げになっていたから調べる手段もない。
そしてお待ちかねの実食タイムだけれども……これが、今までで一番素晴らしかった。
久々に食べた肉らしい肉。はっきりとわかる味に、顎を使って食べてるんだって実感できる噛み応え。匂いが少々クセのある感じだったけれども、慣れれば全然気にならない……というか、むしろ生き物を食べてるって感じがして病みつきになってしまいそう。
何より、デカい。可食部がいっぱい。部位もいっぱいで味のバリエーションも豊か。わぁい。
コア以外では、一番おいしかったのは大胸筋(?)の部分。あれだけデカい体を支えているだけあって、よく発達していて食べ応えも十分。ぶちぶちって筋繊維をかみ切る瞬間が特に最高。熱もしっかり通っていてお肉の匂いが良い感じ。肉汁は少なかった……脂身はほぼ無かったけど、その分さっぱりしていていくらでもいけちゃう。
欲を言うなら、塩か醤油が欲しかった。いやむしろあれはタレでいくのが“答え”か?
それ以外では、尻尾の食感が面白かったような? なんかちょっと不思議な弾力があって、ふにっとしているようなぷちっとしているような、柔らかいんだけどちょっとだけ噛み応えがあるという、珍味的な美味しさがあった。
この世界に生れ落ちて初めてのご馳走だった故に、結構な時間をかけて味わっていたように思う。気づけばもはや食べる気にもならない残骸だけしか残っていなくて、周りが結構スプラッタな感じになっていたっけ。
ここまでの経験から、どうやらアラガミの美味しさとは強さとほぼ直結しているような節が見受けられる。水っぽさについてはアラガミの防御力……つまりは、オラクル細胞の結び付きの強さから感じられるものだろうか。なんだかんだで、防御力があってタフなアラガミほど食べ物っぽい感じがしたもんね。
……ということは、アラガミの強さが美味しさに関わっているんじゃなくて、アラガミのオラクル反応の強さが美味しさに関わっているということか? それなら、コアが一番おいしかったということにも説明がつくし。まぁ、オラクル反応の強さはそのままアラガミの強さみたいなものだし、そう大して違いはないか。
だいたいこんなものだろうか。日中は結構な満足感でいっぱいだったけれども、やっぱり今は空腹感が私を苛んでいる。電撃も使えるし体も普通に動くから、体の燃費が悪いってわけではなく、単純にアラガミとしての特性なのだろう。好きなだけ一杯食べることができる体なのだ……と前向きにとらえておくことにする。
しかしまぁ、大型アラガミですら余裕で仕留めることができるとは。いくら相手がヴァジュラ──この極東ではこいつをソロで倒せてようやく一人前と言われる相手とはいえ、それでも一般的に見ればこいつが一匹現れただけで支部全体が大騒ぎになるような相手だ。
もしかしなくとも、よほどの相手でもない限り、私が後れを取ることなんてないのだろう。それすなわち、この世界で文字通り好きに生きることができるということを示している。
やりたいこと。今一番やりたいのは、もっと美味しいご飯を食べたいというその一点だ。ヴァジュラであの美味しさだったのだから、ピターやハガンコンゴウとかだったらもっと美味しいに決まっている。セクメトとか、なんか焼き鳥みたいな味がしそうじゃん?
私にも適用されるのかどうかはわからないが、アラガミは喰らえば喰らうほど強くなると言われている。美味しいものを食べ続ければ、より安全かつ確実に美味しいものを食べられるようになっていく。ついでに人類の脅威も排除できるとか、やらない理由がない。最高では?
おまけに今日のヴァジュラとの戦いの前に感じたアレ──今思い返してみれば、ユーバーセンスの一種だろう。周囲に展開した電気がレーダーとなって、感知圏内のアラガミの存在を教えてくれるってやつのはず。
わざわざあんな高出力でやらずとも、それに特化させたよわよわ電気で広範囲に展開することができれば、もっと良いレーダーになりそう。そうすれば、もっとたくさんアラガミを見つけて頂きますが出来そう。夢が広がるじゃんね。
このあたりにしておこう。この空腹感とは一生付き合っていかなきゃいけないとはいえ、どうしてなかなか希望も持ててきた。何も考えずにただ食べているだけでいい生活って最高。
──明日も、もーっと美味しいものをおなか一杯食べられますように。