GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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【注意】

 今回のお話は登場人物のファッションに関して言及しています。こういったお話が苦手な方は飛ばしてください。また、この文章を見て「ファッションで何で注意書きしてるんだろう?」と思った方も飛ばしたほうが良いかもしれません……。


41 極東☆ファッション

 

「……ぬ?」

 

「なにやってんだ、あいつら?」

 

 感応実験から二日ほど経って。日々の業務を終えて居住区画への連絡通路を歩いていたチハルとキョウヤは、本来だったら神機使いたちのちょっとした憩いのスペースであるそこ──自動販売機前の休憩スペースにて、何やら難しい顔をしている二人の後輩たちを見つけてしまった。

 

「どしたの、二人とも? 何か困りごとでもあった?」

 

「あ……チハルさん」

 

 松宮レイナと榎本ケイイチ。神機使いになってまだ数か月の文字通りの新人たち。いろいろあってチハルたちとは縁が深く、そしてあの前代未聞の白いアラガミ──ルーのことを共有している、数少ない仲間だ。

 

「何でもねえってツラじゃあないよな。いつなにがあるかわからねえんだ、言える時に言っちまえよ」

 

 神機使いは殉職率が高い。昨日笑いあっていた仕事仲間が、翌日には帰らぬ人になると言うことも決して珍しい話ではない。最近は割とマシになってきているとはいえ、一般のそれから比べたらやっぱり覚悟がいる仕事であるのは間違いない。

 

 だからこそ──チハルもキョウヤも、新人が何か悩みを抱えているのなら、出来得る限り力になってあげたかった。ましてやこの二人は、秘密の共有者でもあるのだから。

 

「えっと、その……いやでも、お二人に相談して良い話なのかどうか……」

 

「言うだけならタダだぞ。解決できるかは保証できないし。それに、そんな辛気臭いツラしてここを占有されるよりかはずっといい」

 

「ごめんねー? キョウヤくんってばこんな言い方しかできないだけで、ホントは二人のこと心配してるんだよ。……特にその、成り行きとはいえいろいろあったみたいだし?」

 

「すみませんチハルさん、それ、キョウヤさんだけじゃなく俺らにもダメージあるんで……」

 

 あの日。チハルが命がけでアナグラへと逃したこの二人……正確に言えばケイイチに、キョウヤは思いっきり掴みかかってしまった。チハルを見捨てて逃げ出したのだと勘違いして、思いっきり罵倒してしまった。直後にハルオミに諫められ、謝罪をするにはしたのだが、微妙に気まずい空気であったのは否めない。

 

 ケイイチやレイナのほうも、キョウヤの気持ちが十分に理解できる……というか、チハルを置いて逃げ出したこと自体は間違いないので、結構な罪悪感を抱えていたりする。結果的にチハルがこうして無事に生きているからよかったものの、生存が確認されるまではむしろぶん殴って詰ってほしいと願っていたくらいだ。

 

「……ともかくそういうわけだ。頼れる先輩に何でも話せってことだよ」

 

 どことなく照れ隠しをするように、キョウヤがそっぽを向きながら呟く。いろいろあったけどきれいさっぱり水に流して、良好な関係を築いていこうぜ──と、キョウヤが言いたいのはそう言うことであった。

 

「…………じゃあその、この際なので聞きたいんですけれども」

 

「おう」

 

 深刻そうな二人の表情。色恋沙汰だろうか、いやいやそれともカネの話だろうか……と心の中で身構えていたキョウヤの予想は、裏切られることとなった。

 

 

 

「「──私服って、どうすればいいんでしょう?」」

 

 

 

 私服。読んで字のごとく、私の服。どうやら普段着ている自分の服それそのものが、この二人の悩みの種であるらしい。

 

「……お洋服も用意できないほどお金に困ってるの?」

 

「いえ、そうじゃなくって……ほら、いまはフェンリルから支給されている制服を着ているんですけど、大体皆さん私服を着てらっしゃるので」

 

 ケイイチたちが着用しているのは、新人に一番最初に支給されるフェンリルの制服だ。動きやすさと耐久性を何よりも重視されているほか、あちこちに小物を入れるポケットがあったりなど、機能性にも優れている。男女によって当然細部に差はあるものの、使い心地としてはそこまで変わらない。

 

 唯一、デザイン面だけはあまり考慮されていないが──背中にある大きなフェンリルのエムブレムは威厳がたっぷりだし、【制服】の名のごとく、一着あればとりあえずどこにでも着ていけるくらいには無難で便利なものだ。

 

「なんか問題あるのか? たしかにちょっと、ダサいというか遊び心に欠けているきらいはあると思うが」

 

「あっ、それともサイズが合わなくなったのかな? 申請すればちゃんと新しいの支給してくれるよ?」

 

 先輩二人が、根本的な勘違いをしていると思い当たったのだろう。少しだけ顔を赤くしたレイナが、意を決したかのように口を開いた。

 

「その……アリサさん、すごかったじゃないですか」

 

「……」

 

「クレイドル所属の少尉があんなにもは……派手な格好をしていて。よく考えてみれば、コウタさんもハルさんもオシャレな格好をしていて」

 

「……」

 

「……なんか私達、地味で浮いているのかなって」

 

「あー……」

 

 コウタもハルオミも、階級も高くて実力も保証されている凄腕の神機使いだ。しかし、そんな肩書に反して普段の服装は非常に派手というか、少なくとも軍事組織の作戦行動中に身に纏うようなものではなかったりする。

 

 ついでに言えば──チハルやキョウヤの格好も、戦場に赴くためのそれとはとても思えないものだ。決して派手というわけではないが、友達とどこか遊びに行くときに着ていてもおかしくない程度には、ラフでフランクな格好である。

 

「なんかこう、逆に制服着ている俺たちがおかしいような気がしてきて……! でも、入ったばかりの新人が私服を着てくるだなんて舐めたマネできるわけないですし、そもそもどういうのを着ればいいのやら……!」

 

「あんな真面目そうなアリサさんがあんな格好しているんですよ……!? 模範とすべき上官があんな格好しているだなんて、もうなにがなんだかわからなくなっちゃってぇ……!」

 

 つまるところ。

 

 極東のあまりのファッションセンスに、新人二人は置いてけぼりを食らっているのだ。

 

「新人が一度は直面する問題だな……よし、お前らにちょっと面白い話をしてやろう」

 

 にんまりと笑ったキョウヤは、おかしくておかしくて堪らないとばかりに語りだす。

 

チハル(こいつ)も同じ悩みを抱えていたことがあってだな。こいつの場合特に、制服が致命的に似合わなかったから」

 

 そりゃまあ、子供にしか見えないのに大人の制服が似合うわけないでしょ──という言葉を、レイナはかろうじて飲み込んだ。

 

「んで、先輩方がオシャレなものだから……そう言う風にしなきゃいけないものだと勘違いして、一回すっげぇ派手で際どいのを着てきたんだよな」

 

「えっ」

 

「いやあ、申し訳ないが笑っちまったね。あのちんちくりんがあんな格好をするだなんて。衣装自体はそりゃあすごいんだろうが、着ている方があまりにもな……憐れみを通り越して滑稽だったというか」

 

「あの、その」

 

「しかもこいつ、自分でやってて真っ赤になってもじもじしてやがんの。必死に体隠したり、物陰に隠れたり……」

 

「……」

 

「堂々としてりゃまだよかったのにな。結局、その時は血相を変えたヒバリさんがちゃんとした服を着せたことで事なきを得たんだが」

 

「……」

 

「あとで笑い話になるだろうって撮っておいたその時の写真、ターミナルに保存しようとしたら【違法な写真を検知しました】ってエラー画面が出てきて、次の瞬間監査室から──!」

 

「ばかぁぁぁぁぁ!!」

 

「いってぇ!?」

 

 顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていたチハルが──キョウヤの尻を全力で叩いていた。それも一発じゃなくて、何発も何発も。乾いた小気味よい音が何度も何度も通路に響き、それにちょっと遅れてキョウヤのくぐもった悲鳴も響いていく。

 

「忘れてって言ったのに! 言わないでって言ったのに! キョウヤくんのばかっ! 悪趣味! 成金じゃらじゃらドクロ!」

 

「なんだと!? 俺のアレはジーナさんリスペクトのパンクなスカルだろうが!」

 

「ふんっ! そのジーナさんに鼻で笑われてたじゃん! リッカさんにもヒバリさんにも微笑ましい目で見られてたじゃん! それで恥ずかしくなって二度と着けなくなったんじゃんっ!」

 

「やめろ! 思い出させるんじゃねえ!」

 

 どうやら、この二人の先輩たちにも服装でいろいろ悩んだ時期があるらしいぞ──と、新人二人は何かを察する。お互い真っ赤になってぎゃあぎゃあと言いあっているあたり、それはそれは興味深い光景だったのだろう。

 

 なんとなく知ってみたいような、知るのは怖いような。詳しく聞いていいものなのか、ダメなものなのか。

 

 もういっそ、普通に制服でいいじゃないのかな──という気持ちが、二人の中で膨れ上がっていく。

 

「えっと……! その、チハルさんがそう言う格好したのって、きっと止むに止まれぬ事情があったんですよね……!?」

 

 とりあえず、この場を収めなくては。

 

 そう思って咄嗟に放たれたレイナの言葉は、レイナたちを更なる絶望(?)へと誘うものでしかなかった。

 

「……キョウヤくん、アレ、見せてあげよっか」

 

「……そうだな。どうもこいつら、俺達の言葉をマジに冗談か何かだと思っている節がある」

 

 先ほどまでぎゃあぎゃあと喚いていた二人の先輩がぴたりと動きを止めて。

 

 そして──通路の傍らにある、簡易ターミナルを起動した。

 

「ちょっと来い、お前ら。……この人、どう思う?」

 

 ちょいちょいと手招きされて、そしてレイナとケイイチはターミナルの画面をのぞき込む。

 

 そこに映っていたのは。

 

「う、お……!?」

 

 白いスーツを着た、気の強そうな派手な女性。一言で言えばそれまでだが──その女性からは、形容しがたい威圧感というか、思わず背筋が伸びてしまうほどのプレッシャーが放たれている。

 

 ただ、それ以上に。

 

「な、ななな、なんて格好しているんですかこの人……!?」

 

 女であるはずのレイナが、真っ赤になっている。

 

 女であるはずのレイナが真っ赤になるほど、その女性の服装は特別なものだった。

 

「な、なんでこんなに胸元開いてるの……!? やだ、腰とか太ももとかの側面もほとんど丸見え……! 背中もほとんど開いているようなものじゃない……!」

 

 そして当然のごとく、その女性はそんな際どい服装に負けないほど立派なスタイルをしていた。出ているところはとんでもなく出ていて、足はすらっと長くて美しい。その上着の襟をちょっと引っ張ればとんでもないことが起きてしまうのは明白なのに、これだけの迫力があればちょっとやそっとじゃそんなことにはならないのだろうという確かな確信がある。

 

 そう、これは。

 

 自分の魅力を完全に理解していないと──自分にはっきりとした自信がないと着こなせない衣服なのだ。

 

「……っ!」

 

 ちらりと、レイナは自分の胸元を見て。

 

 決定的な戦力差を突き付けられた気がして、酷く悲しい気持ちになった。

 

「こ、これまたなんともすっげえというか……口元のホクロとか妙に色っぽいんですけど、その、これチハルさんの前で見て良い奴なんですか……?」

 

「……そいつはどういう意味だ? いいや、回りくどいことはやめにしよう。ケイイチ、お前はこの人を見て……どう思った?」

 

「どうって、それは……」

 

 耳まで真っ赤にしたケイイチが、妙にもじもじとしながら視線をせわしなく彷徨わせる。

 

「……じょ、女王様とか? あるいはその……イケナイ遊びを教えてくれるお、おねえさまとか?」

 

 嘘偽りのない、ケイイチの本音。このノリならば許してくれるだろうと、ケイイチは意を決して自分の本心を口にした。

 

「あながち間違っちゃいないな。聞いて驚け、この人は俺達の教官様だぞ」

 

「えっ」

 

「それもすんげえ鬼教官。そういう意味じゃ間違いなく女王様だ」

 

「そのうえ、リンドウさんのお姉さんでもあるんだよねー」

 

 雨宮ツバキ。画面に映っているのは、他でもないキョウヤたちの教官その人だ。今はクレイドルとしてこのアナグラを離れて活動しているが、少し前までは毎日のように顔を合わせ、偉大なる先輩神機使いおよび教官としていろいろ指導して頂いたキョウヤたちの大恩人である。

 

「絶ッ対嘘ですッ!! 教官がこんな格好する必要がどこにあるんです!? いったい何を教えてたって言うんですかこの人はァ!?」

 

「「気持ちはわかる」」

 

 チハルもキョウヤも、レイナの気持ちは痛いほど理解できた。だって自分たちも、初めて会ったときは全く同じように思ったのだから。

 

「『つまらないことで死にたくなければ、私の命令には全てYESで答えろ』……って、いきなり言われたんだよね」

 

「まさか教官だとは思わなかったからな……最初、普通にタメ口利いてめちゃくちゃにしごかれたっけ……」

 

 ぶるりと背筋を震わせたキョウヤは、端末を操作して次の画像を表示させた。

 

「んじゃ、こっちの人は?」

 

 穏やかに笑う、優しそうな顔立ちのおかっぱ頭の女性。先ほどのツバキは気の強そうな雰囲気であったのに対し、こちらは優しいお姉さんのような、どこか甘やかしてくれそうな雰囲気も感じられる。

 

 ただ、やっぱり。

 

「あー……なんか優しそうな人ですね。格好はちょっと派手ですけど」

 

「……ちょっとってレベルじゃないと思うけど。背中は完全に丸見えだし、その、横からも結構見えるし。下だって……ホットパンツにパレオだよ? すごく透けてるし、足は思いっきり出してる……でも、さっきの人よりかはすっごく健全な気がする」

 

「……」

 

「なんでだろ……あっ、水着みたいな感じだからかな? 何だろ、モデルとか広報の人……ですよね?」

 

「ううん、少し前まで第一部隊の副隊長だった人。凄腕の衛生兵で狙撃の腕もピカイチ!」

 

「元第一部隊の隊長……つまりはリンドウさんの右腕ともいえるベテランで、そしてリンドウさんの奥さんでもある」

 

「嘘でしょ……」

 

「嘘なもんか。めっちゃ優しい頼りになるお姉さまだ」

 

 雨宮サクヤ。やっぱり少し前までこのアナグラにいた神機使いだ。見た目通りの優しい性格で、チハルたちも新人時代は公私ともにかなりお世話になっている。明るく気さくでちょっぴりお茶目な魅力的な人だから、叶わぬ恋とわかっていつつも秘かに憧れている神機使いは決して少なくない。

 

 ちなみに今は、育児休暇のために第一線から退いている。

 

「で、こっちはジーナさんだな。今はサテライト防衛任務についていて、アナグラから長いこと離れているわけだが……」

 

「うぉ……パンクでクールでカッコいい人ですね。さっきの二人とはまた違った方向の魅力があるというか」

 

「…………今度の人はスレンダーだけど。でも、ツバキさんとは比較にならないくらい思いっきり前が開いている……」

 

「ジーナさんの美学に基づいたファッションだな。命のやり取りをするから、心臓を……胸元をさらけ出しておきたいらしい。狙撃手として最高にクールでカッコいいだろ?」

 

「…………」

 

 タイプの違う、派手な格好をした女性神機使いが三名。アリサを含めれば、合計四名。ただでさえ人手不足の神機使いにおいて、よりにもよってそんな趣味嗜好の人がこうまで集中するというのはいささかおかしいというか、偶然にしては出来過ぎていると言えるだろう。加えて言えば、四人ともがこの極東で主力と呼ばれるほどの実力を持っている。

 

「たまたまおまえ達とはタイミングが合わなかっただけで、ちょっと前まではマジで神機使いの女の人って全員派手な格好してたんだよな。極東では普通だって言った意味……わかっただろ?」

 

「……カノンさん! カノンさんは!? カノンさんだってベテランの域ですけど、普通の格好してますよね!?」

 

「レイナちゃん」

 

「はい」

 

「……カノンさんは、着ててもすごい」

 

「アッ、ハイ」

 

 たったの一言で、チハルはレイナを黙らせた。

 

 たったの一言で納得するほど、カノンの実力は周知の事実であった。

 

「……だから私は、服装でその辺アピールしなきゃいけないのかなって思ったの。ううん、強くて頼りになる先輩がみんなそういう格好だったから、せめて格好からでも合わせて行かなきゃって……っ!」

 

「……は、はは」

 

「……レイナちゃんは、ずっとこっちにいて良いんだからね? 神機使いの強さと服装に関係なんて、全く、これっぽっちもなかったからね?」

 

 そうだよ、だからみんなでバンダナ着ければいいんだよ──と、チハルは虚ろな笑みを浮かべる。実際の所、そう言った経緯もあってオシャレアイテムとしてのバンダナに手を出したというのもあるのだろう。少なくともバンダナであれば、胸やおなかや足を丸出しにするよりかは、はるかに健全で手軽で応用も利く。

 

「……キョウヤさんもコウタさんも、アリサさんの格好を見ても何とも言わなかったのって」

 

「見慣れてるだけだな。俺も最初はビビっていたけど、今じゃ何とも思わない。それどころか、アリサさんがまともな服を着てきたら……何かあったのかってみんなが心配するだろうよ」

 

「……」

 

「なぁに、お前もいずれ慣れる。その時こそ、お前が本当に極東に馴染んだ時ってことだ」

 

 それより、おすすめのファッションを教えてやるぞ──と、キョウヤはケイイチの肩に腕をかける。とっておきのバンダナファッションを教えてあげるよ──と、チハルはレイナににじり寄った。

 

「いや、あの、やっぱ俺たちは今のまんまでいいかなーって……」

 

「遠慮すんなって。ちなみにコウタさんは、入隊当初から少し前までおなか丸出しファッションだったんだぜ? 案外、強くなるにはマジに露出増やしたほうが良いのかもな」

 

「嘘だろ……」

 

「マジなんだなあ、これが」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「なーんか楽しそうな話してるなあ……」

 

 キョウヤたちが話し込んでいる連絡通路の反対側。聞き耳を立てている──否、聞き耳を立てずとも聞こえてしまったその内容に、コウタはぽつりとつぶやいた。

 

「確かにだいぶ感覚マヒってたかも。よく考えてみれば、アリサの格好ってすっげえよな」

 

「……男ってサイテー」

 

 心底軽蔑した様子でコウタをねめつけるのは、神機使いの腕輪を着用した少女──第一部隊所属のエリナだ。今日もまた、半そでブラウスとベスト、短めのスカートに真っ赤なニーソックス……そして、トレードマークともいえるベレー帽でばっちり決めている。

 

「そーですか、つまり隊長は強くなるためには露出を増やせって言ってるんですね」

 

「や、そうは言ってないけど……まさかとは思うけど、エリナはそんなことしないよな? そんなことしたら、きっとエミールのやつがうるさいぞ」

 

「だ・れ・が! 好き好んであんないかがわしい格好するっていうんですか!」

 

 あ、いかがわしいとは思っているのね──という言葉を、コウタは心の中に仕舞い込む。同時にまた、だったら何でそんな短いスカート履いてるんだろうなという言葉もぐっと飲みこんだ。

 

「……でも、確かにどうしてみんな派手な格好するんだろう? サクヤさんなんて、全然そんな感じじゃないのに」

 

「確かに、オペレーター時代のサクヤさんは普通の格好……今の私と同じような格好でしたね」

 

 コウタ、エリナと一緒に歩いていたもう一人の人物──ヒバリが、しみじみと呟いた。

 

「オペレーターとしてのサクヤさんとお仕事をできたのってほんの少しの間でしたけれども。でも、あんなにやさしくて落ち着いた先輩が……神機使いになった瞬間、あんな格好になったのはちょっとびっくりしちゃったっけ……」

 

 私じゃちょっと、あの格好はできないかも……と、ヒバリは小さく呟く。そして、ふと何かを思い出したかのようにしてエリナに語り掛けた。

 

「エリナさん。以前、誰かが言っていたのをチラッと聞いてしまったことがあるのですが……」

 

「?」

 

「神機使いの皆さんがああいった格好をしているのは……気分を盛り上げるため、だそうですよ。アラガミ相手じゃ防具なんて着こんでも意味ないですから。だったら動きやすくて、気に入った服を着たほうが良いじゃないですか。……それに着たい服を着ておかないと、絶対後悔するからって」

 

「あ……」

 

 アラガミ──ひいてはオラクル細胞の性質上、かつての時代で用いられていた防具は一切意味を成さない。どれだけ丈夫で頑丈であろうと、オラクル細胞は簡単にそれらを食い破る。防御力を目的とした重装備は、アラガミの前ではただの機動性のない的でしかないのだ。

 

 であれば。何を着ても変わりがないのであれば、好きな格好をしたほうが良い。動きやすさを取るのはもちろんのこと、気分が高揚すればそれだけパフォーマンスも良くなる。そう言った精神面での影響は、決して少なくない。

 

「理屈はなんとなくわかりましたけど……でも、あんなに派手な格好する理由にはならなくないですか?」

 

「ふふ、そうでしょうか? ちょっぴり勇気を出したおめかしというのは、非日常のファッションとしては全然普通のことですよ。あとは……」

 

「あとは?」

 

「……布面積が少ない方が、安上がりですから。そのぶん装飾やデザインにお金を回せる……とか?」

 

「ありそう……」

 

 物資難のこの時代。如何に神機使いでお金を持っていようと、そもそもの資材が無ければ何もできない。入手できる布が限られているなかで、質もデザインも求めるならば……必然的にそうなってしまうのも無理ならぬ話ではある。

 

「うー……でも、例えお金や布がいくらでも使えたとしても、私は今のままでいいかなあ。いくらなんでもあんなにも肌を出すのは、ちょっと……」

 

「まぁ、結局のところ自分が着たい服を着るのが一番なんでしょうね。アリサさんたちの場合、たまたま着たい服というのがああいったものだったというだけなのだと思います」

 

 ある意味、神機使いの特権ですね──とヒバリは朗らかに笑う。そしてそんなヒバリに、エリナは悪戯っぽく笑いながら問いかけた。

 

「……じゃあ、ヒバリさん。ヒバリさんが神機使いになったらどんな格好して戦いますか?」

 

「え」

 

「ずっとそのオペレーターの制服ってわけにはかないでしょうし……それに私、ヒバリさんの私服姿って見たことないかも!」

 

「いや、あの」

 

「……この際だから際どい格好して、タツミさんを悩殺しちゃいま──ひゃんっ!?」

 

 にっこりと笑ったヒバリは、むにっとエリナの頬を優しくつまみ上げた。

 

「あら。こんなところに悪戯なお口があるみたいですね?」

 

「ごめんなしゃい……」

 

 ちなみにヒバリは、適合候補者リストに名を連ねられる程度には神機使いとしての才能を秘めている。まだ十分に適合率の高い偏食因子──ひいては神機が見つかっていないためにオペレーターをしているわけで、近い未来に神機使いに転向する可能性は決してゼロではない。

 

「……やっぱ、アリサの服っておかしいよな?」

 

「……隊長?」

 

 ヒバリとエリナがきゃあきゃあとおしゃべりしている中で。

 

 珍しく会話の輪に入らずに何やら思案していたコウタが、改めてぽつりとつぶやいた。

 

「今更何を……むしろ、先輩たちは周りの目を気にしなさ過ぎなんですよ」

 

「いや、そうじゃなくてさ……もっと根本的な所なんだよ」

 

「はい?」

 

 自分自身に問いかけるようにして、コウタはその考えを口にする。

 

「アリサのあの格好ってさ……本人曰く、ファスナーが閉まらなかったからって話なんだけど。実際俺も、最初に言われたときはそれですんなり納得したんだけど」

 

「それで納得するって段階で、隊長はだいぶ感覚おかしくなってると思う……」

 

「サイズが違うなら大きめのを頼めばいいし、そもそもアレ──オーダーメイドなんだよね」

 

「「え」」

 

 アリサが着用しているクレイドルのジャケット。本人の着こなしがたいへん挑戦的なものであるとはいえ、元々は由緒正しい制服だ。当然、きちんと理由を添えて申請すればサイズの異なるものだって用意してもらえるし、たとえそうでなかったとしても、アリサほどの役職を持つのであればたかだか上着一枚のお金を出せないはずがない。

 

「クレイドルって発足したばかりで正隊員も少ないだろ? まだ量産品の制服が支給できる段階じゃないし、戦闘員のやつは細かくカスタムできるようになってるんだよね」

 

「「……」」

 

 一般神機使いに支給される制服は、量産品としてある程度決まったサイズが一通りそろっている。兵種ごとにいくらかデザインが異なるほか、ほんの少しだけカラーバリエーションもあったりする。組織としての統一性と所属を一目でわかるようにするという実利的な目的はもちろん、大量生産することでコストを下げるというコスト面でのメリットもあるのだから、そうしない理由がない。

 

 一方でクレイドルは、ついこの前立ち上がったばかりの組織だ。当然、人員もそこまで多くないし、その制服を大量生産する理由も目下の所存在しない。故に、少々値は張るものの、隊員ごとのオーダーメイドで制服は作られている。

 

「俺の場合は着安さと動きやすさを重視して袖なしのラフな感じのジャケット。リンドウさんは、右腕のガントレットに合わせて腕まくりが前提になってるもの。ソーマは……よくわかんないけど、どこかしら標準のそれから弄ってる」

 

 そう、そこまで個人に合わせてクレイドルの制服は作られているのだ。この時代では考えられないほど、贅沢に作られているのだ。

 

 それなのに──サイズが合わないだなんてことが、果たして本当にあり得るのだろうか。

 

「オーダーメイドで作っているのにサイズが合わないなんて、あるのかなあ。合わなかったとして、どうして新しいのを頼まないんだろうな」

 

「「……」」

 

 尤もな疑問。わざわざサイズの合わない制服を着続ける理由はどこにもない。正式な場ならまだしも、そうでなければ服装はかなり自由が利く。それこそ、以前着用していたものをそのまま着ればそれだけで済む話なのだ。

 

「……きっとアレだよ、隊長。作り直すのはもったいないし、少しでも節約しなきゃいけないからって……アリサさんなら、そう言うはず」

 

「そ、そうですよ。それにオーダーメイドっていっても、注文してすぐに作られるわけじゃないんですよね? アリサさんだってその……成長期なわけですから。サイズが合わなくなるのも、そんなに不思議な話じゃないですよ」

 

 エリナとヒバリの必死のフォロー。なるほどたしかに、頷けないこともない。

 

 しかしながら──コウタは、そんな二人のフォローを決定的に打ち砕くそれに言及してしまった。

 

「俺、別に女の子の服にそこまで詳しいわけじゃないけどさ」

 

「……」

 

「あの手のファスナーって、普通は下から上にあげるものだよな? なんであいつ、ファスナーを上から下に下げてるんだ?」

 

「「あ」」

 

「ダブルファスナーでもあんな風には使わないし、シングルだったらなおさらだ。それとも……俺が知らないだけで、そういうファッションがあったりするの?」

 

「「……」」

 

 答えられない。答えられるはずがない。

 

 ヒバリもエリナも、そんな奇特なファッションは存在しないとはっきりと断言できる。上から下に下げることで閉じるファスナーというのは、二人ともアリサ以外に使っている人間を見たことがないのだ。

 

 それ即ち、あの服装そのものがアリサ自身のオーダーによってデザインされたものということにほかならない。そしてそこまで特別な造りをしているというのに、寸法間違いなどという初歩的なミスが起きるとはとても考えられない。

 

 もっと言えば──相手はあのアリサだ。真面目で几帳面で、完璧主義の気もあるアリサだ。そんな人物が一点物の制服を頼む際にオーダーミスをする確率が、果たしてどれだけあるというのだろうか。

 

 それに気づいてしまったからこそ──二人とも、何も答えることができないのだ。

 

「……やっぱ、そうだよな?」

 

 二人の奇妙な沈黙を見て、色々諸々察してしまったのだろう。

 

 コウタは、どこか遠いところを見つめながら呟いた。

 

「アリサのやつ……サイズを間違えたって、本当なのかな?」

 

 ──答える者は、どこにもいなかった。




 【物資難だから必然的に布が使えない】、【どうせ防御は意味がないから好きな服を着る】、【誰かに覚えておいてもらいたいため(印象に残したいため)】……が、神機使いたちの服装が布面積が少なく派手な理由とであるとまことしやかにささやかれていますが、ゲーム本編で厳密に言及されたことはないような……?

 ちなみに私は、GEBの頃はなんだかんだでオレンジのパーカーをよく着ていた気がします。GE2はクレイドルの制服かアルハンブラかな……。

 あと、一度はみんなキグルミ姿や水着姿とかで『逃げるなぁっ!!!』して顎をぱっかーんってやるはず……!

 最後におしらせです。ストックが尽きました。あと2~3話で一区切りの報告書まで行ける手はずだったのですが、やっぱりしゃちくには勝てませんでした……。

 年末年始休みでなんとかそこまで書いて投稿するつもりです。一区切りがついたら、第三章の書き溜め期間に入りとうごうざいます。なろうの方の更新も進めないといけないし……!
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