後書きにネタバレがあります。念のためご注意ください。
【新種のアラガミに関する諸調査:結果報告書】
本報告書は、2074年4月に発行されたミッション(新種のアラガミに関する諸調査/ミッションコード:7404NO007)およびその関連ミッションの結果について包括的に報告するものである。
※支部長命令により、本報告書の閲覧には制限がかかっています! 閲覧権限の申請は別途申請フォームより行ってください。
◆目次◆
【概要】
◇対象ミッション
◇ミッションコード
◇ミッション開始日
◇ミッション参加者
◇ミッション目的
◇ミッション結果
【調査結果】
◇新種のアラガミについて
◇その他特記事項など
◆本文◆
【概要】
◇対象ミッション
新種のアラガミに関する諸調査、およびそれに関連するいくつかのミッション。
◇ミッションコード
7404NO007
◇ミッション開始日
2074年4月30日
◇ミッション参加者 ※1
雨宮リンドウ(少尉/クレイドル)
ソーマ・シックザール(少尉/クレイドル)
藤木コウタ(少尉/クレイドルおよび第一部隊/第一部隊隊長)
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(少尉/クレイドル)
真壁ハルオミ(少尉/第四部隊隊長)
台場カノン(上等兵/第四部隊)
片桐キョウヤ(上等兵)
桜田チハル(上等兵) ※2
エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ(新兵/第一部隊)
エミール・フォン・シュトラスブルク(新兵/第一部隊)
榎本ケイイチ(新兵)
松宮レイナ(新兵)
竹田ヒバリ(オペレーター) ※2
楠リッカ(整備士/神機整備室第1班/副班長) ※2
※1 関連ミッションに関する関係者も含む。
※2 オブザーバー(アシスタント)としての参加。
◇ミッション目的
作戦エリア内に出現するアラガミの種属調査および生態調査などの諸調査。
◇ミッション結果
新種と思われるアラガミの確認。種族調査および生態調査は継続中。当該アラガミは個体数が少なく、発見が困難であることから、調査には非常に長い時間を要すると推定される。よって本報告を以って一連の調査をクローズし、継続調査の結果については別途報告するものとする。
【調査結果】
◇新種のアラガミについて
現在もエイジスに収容されている。相変わらず人間に対する敵意は示さず、破壊行動も確認されていない。0600頃に起床し、2100頃に睡眠をとるという概ね人間の生活リズムに則った行動をとることが確認されている。日中は概ね神機使いとの実験や訓練に参加し、夕方以降はエイジスにてのんびりと過ごしていることが多い。捕喰活動のため時折エイジスから離れることもあるが、捕喰活動を済ませた後はすぐにエイジスに戻ってきているらしく、どんなに遅くとも概ね1800にはエイジスに戻っていることが確認されている。夜間外出についても同様で、夜明け前にはエイジスに戻り、電撃によって体表の付着物を焼き落として身嗜みを整え、朝の任務通達に備えているような行動を見せている。
収容以降、監視のためにエイジスを訪れる神機使いたちと段々と打ち解けているようで、コミュニケーションやスキンシップのレベルが段階的に上昇していることが確認されている。これには各個人ごとにいくらかの傾向の違いがあり、女性神機使いは男性神機使いに比べ、初期の好感度が高く、また好感度の上昇(コミュニケーションレベルの向上)が早いことが分かっている。また、オペレーターや整備班といった神機使い以外の人間であっても友好的な態度を示すことも確認されており、オラクル細胞の有無に関わらず、人間という一つの種族に対して友好的であると言うことはほぼ間違いないと思われる。
なお、現段階にて最もこのアラガミとの友好を深めているのは桜田チハル上等兵であり、彼女に対しては他の人間とは明確に異なる親愛表現を示すことがわかっている。
本アラガミは、桜田チハル上等兵により暫定的に【ルー】と名付けられ、本アラガミもそれを受け入れている(藤木コウタ少尉が【ノラミ】という名を与えたが、【ノラミ】と呼びかけても一切の反応を示さなかった)。
以下に、各種訓練および実験の結果を示す。
・知能確認訓練
こちらの指示に非常に高い精度で反応し、正確に実行する能力がある。学習能力も高く、一度実施した指示であれば明確に発音しなくとも、ある程度その意図を読み取って実施してくれる。特に騎乗状態での指示については、手で軽く叩く、踵で軽く合図を送るといった簡単な合図だけでこちらの意図通りに走る、曲がる、跳ぶといった反応を示した。
本アラガミは感応現象によって我々の意志を読み取っているらしく、指示が明確に、遅滞なく伝わるのはこの能力による影響が大きいと推測される。感応現象が起きない相手(あるいは感応現象としての相性が悪い相手)から指示されたときに戸惑いを見せる様子も確認されたが、指示をこなすうちに学習したのか、最終的にはどんな相手の指示であっても十分に満足するレベルの反応を示すに至った。
総じて、本アラガミには非常に高い理解力と学習能力があると推測され、訓練次第では単独での高度な作戦行動、および神機使いと連携した作戦行動も実施できるポテンシャルを秘めていると思われる。
・能力確認実地訓練
ジャミング能力に関する調査を実施。影響範囲は半径数百メートル単位で操作できるほか、範囲操作の精度も非常に良好。ジャミング能力についてはあまりエネルギーを使わないらしく、50回の連続展開確認にて、出力や精度の低下は確認されなかった。また、睡眠中であっても数十メートルの範囲で常に展開できることがわかっている。
このジャミングはジャミング発生源からの距離の影響を受けず、ジャミングエリア内であれば一様の効果を受ける。また、ジャミングエリア内であっても概ね100~200m圏内であれば無線同士の通信は成立する。
コクーンメイデンなどの既存のアラガミがもたらすジャミングとは根本からの仕組みが異なり、より工学的なジャミングに近いらしく、アンチジャミング剤によるジャミングの解除はできない。
また、このジャミングは副作用的なものらしく、本アラガミはこのジャミングをユーバーセンスとして扱っているらしいことが分かっている。
その他能力の調査状況については以下の通り。
◆雷操作
本アラガミの出力に耐えられるテスター(計測設備)が無いため、調査難航。グボロ・グボロを瞬間的に炭化させられる程度の出力があるため、通常の雷と同様、1~5億V程度の電圧を操作できると思われる。なお、今後の調査で任意の電圧での出力が可能であると判明した場合、電力不足解消のための検証をしたいと整備班より要望が上がっている。
◆回復オラクル
擦過傷、打撲、凍傷など、軽微な負傷であればほぼ完璧に治療できることが分かっているほか、雷という形態であることから、瞬時に広範囲に展開できることも分かっている。ただし、治療能力の限界については未検証。現段階では、ミッション行動中における回復行動での確認にとどまっている。
◆嗅覚
未検証。優先度の高い検証案件が完了した後に検証予定。
・感応実験
感応現象により本アラガミの意志を直接的に確認するという目的の元、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ少尉と本アラガミとで感応実験を実施。本アラガミとの物理的接触により感応現象が発生し、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ少尉は【負傷した桜田チハル上等兵が泣きじゃくる光景】を確認した。これは新人指導実地訓練(ミッションコード:7404FE043)にて本アラガミが七体のアラガミに襲われた桜田チハル上等兵を保護した時の光景であることが、桜田チハル上等兵本人により語られた。
感応現象により本アラガミの意思を直接的に確認するという目的こそ達成できなかったものの、本アラガミとの感応現象自体は発生させられることが確認できたため、今後も継続的な調査を実施予定。
なお、本実験後、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ少尉が桜田チハル上等兵に対して過剰ともとれる母性を示すようになったが、感応現象で見た光景に少尉の母性が刺激されたのか、それとも本アラガミが持っていた母性を感応現象によって少尉が共有してしまったのかは現在の所不明。この母性は一過性のものであると思われるが、その後もアリサ・イリーニチナ・アミエーラ少尉は桜田チハル上等兵に対し友人に対するものにしては過剰ともとれるスキンシップ(というより、もはや母が娘に向ける親愛表現)を行っており、少尉の行動傾向が明確に変化したのは明らかである。
今回の事例が特異的なものなのか、それとも本アラガミとの感応現象によって必ず引き起こされるものなのかは不明だが、今後感応実験に望む神機使いは男性、女性に関わらず、この点について留意すること。なお現在の所、桜田チハル上等兵は本アラガミとの感応現象は発生させていないため、本アラガミとの感応現象を発生させるためにはある程度の相性や条件が必要なのだと推測される。
・騎乗戦闘訓練
桜田チハル上等兵、片桐キョウヤ上等兵を騎乗させた状態でウロヴォロスとの戦闘を実施し、以下の知見が得られた。今後も継続的な調査を行い、体系的な戦闘方法としての確立を目指す。
◆騎乗射撃
大型種に対しては一定の効果あり。ある程度の射撃技術は求められるものの、移動と回避のことを考えず射撃だけに専念できるため、総合的な火力はまずまず。ただし、射撃ペース配分が乱れがちになるので注意されたし。ウロヴォロスとの戦闘においては、瞬間的に正面からの射撃が可能であったため、破壊しにくい複眼および角の破壊に片桐キョウヤ上等兵が成功している。高威力だがホーミング性能が無いといった取り扱いが困難な強力なバレットを、機動力に任せて撃ちこむという手法が特に有効だと思われる。
◆騎乗斬撃
大型種に対しては一定の効果あり。単純に機動力がある分、斬撃の威力もそれに比例して増加する。ただし、相手が大型種以上でなければ物理的にブレードが届かないというデメリットもある。また、騎乗状態で神機を振るうため、取り回しに難があるバスターでの騎乗斬撃にはある程度の慣れが必要となるほか、場合によっては攻撃時の抵抗が大きく、神機をまともに把持することも難しいことがある。そのため、貫通に特化しているショートブレードやチャージランスよりも、切断に特化したロングブレードか、瞬間的な打撃を目的としたバスターブレード、ブーストハンマーでの運用が有効だと思われる。
◆騎乗捕喰
有効ではない。【アラガミに喰らいつき、噛み千切る】という捕喰行動は攻撃時の抵抗が大きすぎるため、高速で移動しながらの攻撃としては向いておらず、神機を把持できず手放してしまう可能性が高い。捕喰行動の最大の弱点である動作の長さ、隙の大きさを機動力でカバーできるというメリットは大きいが、現段階では、何かしらの工夫をしないとまともな運用はできないと思われる。
◇その他特記事項など
本アラガミは非常に高い機動力と戦闘能力を有しており、また人間に対し友好的で知能も高く、たいていの指示を理解して実行することができる。それらの能力を活かし、緊急の救援要請に対する対応を行うことが本アラガミの能力を活かす方法だと思われる。
また、昨今では感応種の出現が少しずつ増加しているが、極東支部において唯一、感応種の影響を全く受けずに戦闘できる存在であるため、対感応種専用の戦力としての活躍が期待できる。
▲▽▲▽▲▽▲▽
「──どうぞ、入ってくださいな」
静かに──しかしはっきりと聞こえてくるノックの音に、車椅子に腰掛けた穏やかそうな女性は、ふわりと笑いながら応えた。
「失礼します……お呼びですか、ラケル先生」
「ええ、待っていたわ──ジュリウス」
柔らかく微笑む彼女とは対照的に、亜麻色の髪の彼は生真面目そうな表情を崩そうともしない。きっと、隊長格である自分がいきなりこの開発室に呼び出されたという事実を重く受け止めているのであろう。良い事なのか悪い事なのかはまだわからないが、いずれにせよ、それなりに重要な案件であることに疑いようはないのだから。
「何やら、内密に相談したいことがある……とのことでしたが」
「そうなの。私だけじゃちょっとわからないことがあって」
「わからないこと?」
心の中だけで、彼は首をかしげる。目の前で静かに微笑んでいる彼女は、二十代半ばという十分に若い年齢ながら、フェンリルの誇る天才科学者として持て囃されるほどの人物だ。歴代最高と謳われる彼女の頭脳をもってしてわからないことが果たしてあるのか、あったとして、自分がその解決の手助けになるのか──彼にとって、それは甚だ疑問であった。
「ええ。これを見てほしいのだけれど……」
「これは……」
モニターに映されたのは、特別珍しくも何ともない
そこに映っていたのは。
「【新種のアラガミに関する諸調査:結果報告書】……ですか?」
「
「ふむ」
画面に映されている報告書は三つ。日付順で並べると、【新人指導実地訓練:死亡事故に関する報告書】、【スプリング・フェスティバル:結果報告書】、【新種のアラガミに関する諸調査:結果報告書】となる。
「これは……極東でのミッションの報告書でしょうか。そんなに気になるところがあるようには思えま……うん?」
よくあるミッションの、おなじみのフォーマットで作成されたその報告書。アラガミ討伐を日常とする神機使いにとっては毎日と言っていいくらいに目にする馴染み深いものであり、別段珍しいものでも何でもない。
ただし、これに限って言えば──目次と概要欄しか、確認することができない。
「閲覧制限? それも支部長クラスの……いったいどうして」
「気になりますよね……?」
その反応が見たかったとばかりに、車椅子の彼女はチュールレース越しにくすくすと笑った。
「私の権限でも、見られるのは目次と概要だけ。いったいどうして、こんなにも厳重なアクセス制限がかかっているのかしら……? ……ねえジュリウス、このミッションはどんなミッションだったと思う?」
「……」
モニターの文字を、彼はざっと目で追っていく。
その内容は……一人の神機使いを救うために作戦エリア内のアラガミを掃討するという、ごくありふれたもの。ミッションの結果も成功となっている。新種のアラガミが発見された、という一文こそ少し気になるが、それ以外は別に気にするような内容では無いように思えた。
「詳しいことはわかりかねますが、比較的規模の大きい救出任務があって、それ自体は成功。途中で新種の白いアラガミを見つけた……と、そんな内容であるようですが」
「なのにどうして、閲覧制限がかかっているのかしら……?」
「それは……」
わからない、というのが彼の正直な本音だった。目次と概要だけでしかないが不自然なところは無いし、閲覧を制限しなきゃいけないほどの何か──軍事機密に類するような内容があるようにも思えない。
もっと言えば、どうして彼女がこの報告書を気にしているのかもわからない。だけどきっとそこに、重要な何かが隠されているように彼には思えてならなかった。
「そう。この報告書は違和感がないの。あなたでさえもそう思ってしまうほど、普通に
「……」
「違和感があるはずなのに、まるで違和感がない……いいえ、違和感としてあまりにも自然すぎる。なんてことのない形式のよくある報告書で、普通なら誰も気にしない。閲覧制限がかかっている以外は不思議なことは何もないし、概要を見ても、どうしてこの内容でこのレベルの閲覧制限がかかるのかわからない」
それは、ただの事実の羅列。しかし、そうやってはっきりと言葉にされたことで彼の中にも一種の不信感というか、この報告書の違和感──ともすれば、ある種の薄気味悪さが沸き上がってくる。
「ええ、そうなの。これは不自然すぎるほどに自然……いいえ、すごく自然に不自然なの」
「ラケル先生……まさか、あなたが言いたいことは」
静かな微笑みを崩さないまま、彼女は言い切った。
「凄く高度な偽装工作ですね、これ」
だから一緒に、どうしてそんなことをしたのか考えましょう──と、彼女は驚愕に目を見開いている彼に穏やかに笑いかけた。
ラケルせんせーって最初絶対こいつ裏切る奴か真の黒幕じゃんって思ってた。
……まさかマジだったとは。榊博士と同じく実は普通に良い人だったってパターンであってほしかったのに……!