GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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※閲覧制限がかかっているため、報告書の中で彼らが読めているのは目次と【概要】の部分のみです。

【参考情報】
14 新人指導実地訓練:死亡事故に関する報告書
24 スプリング・フェスティバル:ミッション発行情報
30 スプリング・フェスティバル:結果報告書
39 新種のアラガミに関する諸調査:ミッション発行情報
45 新種のアラガミに関する諸調査:結果報告書


47 不思議な話(後)

 

「彼らは──この白いアラガミが、人を襲わないと確信していたのか?」

 

 

 桜田チハルを拉致した白いアラガミ。しかし桜田チハルは奇跡的にも五体無事に生還している。

 白いアラガミは非常に強力だ。しかしそんなアラガミが出る戦場に、新兵たちが派遣されている。

 桜田チハルが生きていることを極東支部の人間はどういうわけか最初から知っていて、戦場が比較的安全であることも理解していて。

 そのうえで──報告書には、【白いアラガミの発見】しか記載されていなく、白いアラガミが討伐されたという記録はない。

 

 そして、そもそもの発端である報告書の閲覧制限。閲覧制限とは何らかの理由により──何かを隠したいために行うものであり、そして数々の報告書にまたがって行われている、ミスリードを引き起こすための偽装工作。

 

 さらに、【アラガミの討伐】という神機使いの絶対の使命、話に出すまでも無い大前提を破壊すれば。

 

 出てくる答えは、自ずと限られてくる。

 

「彼らの真の目的は討伐なんかじゃなくて、この白いアラガミの確保だった……! 白いアラガミが(・・・・・・・)安全である(・・・・・)と知っていた! だからこそその特異な存在を隠すために、こんなにも迂遠で高度な偽装工作を何重にも施し、なんてことのないはずの報告書に支部長レベルの閲覧制限を設けた!」

 

「ええ……私もその結論に辿り着いたの。もっと言えば……この白いアラガミは、人類に友好的な、それこそお互いに意志のやり取りができるほどに知能があるアラガミだと思うの」

 

 彼の中で、今まで覚えていた違和感の全てが消えていく。点と点が線で繋がって、頭の中に引っ掛かっていた気持ちの悪い何かが、嘘のように消えてなくなっていく。

 

 人類に友好的な、白いアラガミ。聞けば聞くほど突拍子もない存在だが……そう言う前提でこの簡素でシンプルな報告書を見てみると、そこに含まれる裏の情報があまりにも多いことに、彼はこの段階になってようやく気付いた。

 

「見れば見るほど、そのために書かれているとしか思えない……! それにこの報告書の作成者は藤木コウタ少尉だ……!」

 

「承認者は雨宮リンドウ少尉と、真壁ハルオミ少尉ですね。雨宮少尉はこの業界にずっといますし、腹芸もきっとそれ相応にできるはず」

 

「真壁少尉は……悪い意味での有名人、査問会の常連です。こうしてみると、作成者も承認者もどうにもきな臭いというか。これだけの階級を持ち経験もある人間が……よくよく見れば穴だらけの報告書を、真っ当に承認するはずがない。それなのに、あえてこれで承認を出しているのは……」

 

「彼らほどの人間が承認を出したのだから、きっと内容に問題はないはず……そんな、人間の無意識を突くため……かしら? あるいは単純に、『知ってる』人間以外を報告書の作成に関わらせたくなかったとか?」

 

「かもしれません。自分なら、概要の項目だけでも手直しさせます。少なくとも、白いアラガミの報告については別に報告書を作成しないと……編集性も検索性も悪すぎる」

 

 いつのまにやら、すっかり空になったティーカップ。彼は三杯目の紅茶を淹れようとして……紅茶のおかわりもすっかりなくなっていることに気付いた。

 

「私もおかわりが欲しいわ、ジュリウス。……淹れてくれる?」

 

「ええ、もちろん」

 

 改めて、紅茶の準備をし直して。一息をついた彼は、自分でもはっきりとわかるほどの高揚感に身を包まれながら語りだす。

 

「雨宮1番隊の真の目的が白いアラガミの回収だったとして。その詳細は……【新種のアラガミに関する諸調査:結果報告書】に記載されているということですね?」

 

「半分正解で、半分外れ……かしら」

 

 ぴこん、とモニターに表れる報告書の概要。

 

 こちらもやっぱり支部長レベルの閲覧制限がかかっており、目次と概要だけしか確認することができない。

 

「先程の報告書に比べて、項目も少なくえらく簡素というか……これではまるで」

 

「目次を見た段階で、ろくに調査が進まず打ち切りになったと察せられますね……。実際、概要欄に記載されているミッション結果にも、事実上の打ち切りであると書かれています」

 

 ここだけ見れば、割とよく見かける報告書でしかない。新種を発見したと思って一次報告こそしたものの、その後の追加調査ではろくな成果を上げられず、テンプレとなっているフォーマットににそのまま一言二言書いて無理矢理にクローズさせたようにしか思えない仕上がりだ。

 

 しかし、そんな思い込みを捨ててよくよく中身を見てみれば。

 

「……何なんですかこの参加メンバーは!?」

 

「……」

 

「クレイドルが四人に、オペレーターから整備士までアサインされている……!? いいや、今回の一連のミッションに参加した全員が参加者になっているのか……!?」

 

「錚々たるメンバーですよね」

 

「ただのアラガミ調査でどうしてこんなメンバーが必要になるんだ……! しかも【スプリング・フェスティバル】の時にはいなかったアミエーラ少尉が合流している……! 彼女は確か、極東から離れていたはずでは……」

 

「極東を離れ、サテライト拠点の候補地を探して飛び回っていたはず……それがクレイドルとしての彼女の仕事で、そう公言してついこの前旅立ったはず……なのに、こんなにも早すぎるタイミングでとんぼ返りし、アラガミ調査なんていう取るに足らない雑事と言っても良い任務に参加している」

 

「クレイドルの主戦力をかき集めなくてはいけない理由があった……ということですか?」

 

「今の任務を中断してでも戻る必要があったのは、間違いないでしょうね……。クレイドルの主戦力の八割を招集しないといけない理由なんて、私には思いつかないけれど」

 

「……」

 

 そんなの、彼にだって思いつかない。そもそも、白いアラガミは強大でありながらも何らかの理由により安全であることが分かっているから、彼らはあんなにも違和感のある部隊編成をしていたのだ。それなのに、ここにきて戦力を集中させるというのはどうにも行動が矛盾している。

 

「……クレイドルからオペレーターまで含めた本格的な調査で、調査期間も妙に長いのにろくに成果を得られなかった体で仕立てられている。本来は主目的ではないはずの【スプリング・フェスティバル】に書かれている項目の方がよほど多いくらいなのに……包括的な報告書と銘打っている」

 

「でも包括的な報告書のはずなのに、【スプリング・フェスティバル】で記載されていた項目が無い。新種の調査報告書なのだから、分かっていることも含めて書くべきなのに。なのに、そうしなかった……ええ、本当に不思議な報告書ね」

 

「調査に進展が無かったのなら、そう書けばいい。結局見つからなかった、上手く調査できなかったというのは別に珍しい事じゃない。そういうのが多発するくらいには、極東のアラガミは多様性に満ちすぎているというのは他でもない彼らが一番よく知っているはずだ。普通は誰も気にしないのに……なのに、閲覧制限があるというのは」

 

「明確に隠したいことがあるということ。おそらくだけど、概要じゃわからないようにしつつ、本文には詳細を記載しているんじゃないかしら」

 

「……」

 

「そうすれば、【スプリング・フェスティバル】にまとめて書いたのは別途報告書を作成するまでも無い簡易的な一時報告だからで、こっちの報告書で、その後の本格調査が失敗したという体に見える……一連の報告に、全く別のある程度筋の通ったシナリオが浮き上がる(・・・・・)

 

「なるほど……神機使いの行動記録は消せませんし、本当の記録も残さないといけないからそういう偽装をする必要があったのか……。しかし気づいた人間からしてみれば、どう見ても穴だらけです。ラケル先生が疑問を持つのも頷ける……というか」

 

「……」

 

「この報告書には、【新種のアラガミについて】としか書かれていない……白いアラガミについては、一切触れられていない」

 

「……そうね」

 

「このメンバーを見れば、【新種のアラガミ】が【白いアラガミ】を指しているのは明らかです。なのに、【スプリング・フェスティバル】の報告時からあえて表現を変えている。それこそ、別物であると誤解させるかのように」

 

「……」

 

「関連書類の記載もないから……このメンバーの意味することを知らなければ、白いアラガミの調査報告としてこの文書にはたどり着けない」

 

「こうやって順序立てて調べれば辿り着けるけれど……逆を言えば、別アプローチで時系列的に考えて調べないとこの書類にはたどり着けないし、その意味にも気づけないですね」

 

「……恐ろしいほど高度な隠蔽工作ですね。ラケル先生が仰っていた違和感が無さ過ぎる、不自然なほどに自然であるという言葉の恐ろしさの意味が今更ながら理解できたような気がします。言われなければ……ただの出来の悪い報告書だと判断していたかもしれません」

 

 彼は自ら端末を操作して、気になったことを調べていく。

 

 まず……この一連の事件のキーマンとなっている桜田チハル。彼女自身はミッション中に不幸な事故に遭っただけのように思えるが、よく見てみると生還してからの記録が少しおかしい。

 

 データベースには、神機が破損したため神機使いとしては休職中であるとはっきりと書かれている。その代わりに、新たに発見された新種のアラガミについての聞き取り調査、および研究・検証に協力している……とある。

 

 内容それそのものには、違和感が無いように思える。しかし、別の記録と照らし合わせて考えると。

 

「神機を持たない桜田チハルが、どうして現場に出てアラガミの調査をしているのやら……」

 

「データベースのその書き方だけを見るなら、現場ではなく支部内での勤務であると普通は受け取りますよね……?」

 

「ええ。それによく見ると、彼女のデータベースにも白いアラガミとは一言も書かれていない。一連の案件だとは特定できず、どういう風にも受け取れる。何も知らない人間が見れば、休職中の神機使いに適当な仕事を割り振ったように見えますが……見る人が見れば、【件のアラガミ】が白いアラガミを指していることがはっきりとわかる」

 

「一応聞くけれど……あなたなら、神機を失った部下を未知のアラガミの現地調査に同行させるかしら?」

 

「させませんね、絶対に」

 

「では、彼女がこのアラガミの調査に参加している──いいえ、参加できる理由は何だと思いますか……?」

 

「白いアラガミ自体が非常に大人しく、我々人間に友好的で……いえ、彼らがそのアラガミを御する術を持っていて、危険が無いと分かりきっているからでしょうか。この報告書では諸調査と銘打ってはいますが、我々が通常思い浮かべるようなアラガミ調査……フィールドワーク的なそれとはおそらく全く別のものでしょう」

 

 それ以外にも、おかしなところはいくつかある。

 

「このミッション……ミッション開始が4月30日となっていますが、報告書がデータベースにアップされたのは一昨日です。実に一か月近くも放置されていたということになりますね」

 

「普通は遅くとも一週間以内には提出しますよね……? 桜田チハルの救出が4月16日なのだから、アラガミの調査が始められたのは最速で4月17日以降になるはずですけれど……いずれにせよ、開始日とアップロード日で奇妙な齟齬があることには違いないわ。後追いでコードを変えたのか、それとも単純に留めていただけかはわかりませんが、日付をズラすことで別の報告書に紛れさせ、少しでも特定される可能性を減らそうとしたのかも」

 

「痕跡をなるべく残さないようにするため、複数の調査ミッションの報告を新種の調査失敗報告にまとめて処理しようとした結果こうなってしまった可能性も……どちらにせよ、何かを隠しているのはほぼ間違いないというわけですね」

 

 つまるところ──極東の人間たちは、明確な意図をもってこの白いアラガミのことを隠そうとしているのだ。どうしてそんなことをしているのかまではさすがに読み取れないが、少なくともうっかりや偶然でこんなあからさまな報告書ができるわけがない。

 

 そうなると……真っ当に考えた場合、フェンリル本部やその他の支部に知られたくない何かがそこに在ると考えるべきだろう。

 

「この白いアラガミを調べることで、アラガミを御する前代未聞の発見があったりする……のでしょうか。正直、こうまでして隠す意図というのがわかりかねますが」

 

「それこそ、理由なんていくらでもあると思いますよ……ねえ、ジュリウス」

 

「なんでしょう?」

 

「私はそれが知りたいの。ええ、とっても気になるの。だから……ね?」

 

 ヴェールの向こう。なぜだか彼には、彼女の瞳が妖しく輝いたように見えた。

 

「極東へ行く予定を、少し早めようと思うの」

 

「それは……」

 

 彼は思案する。

 

 元々、近いうちに極東へ向かうかもしれないということは聞いていた。しかし、こうして彼らが妙にきな臭い秘密を抱えている中で、果たして向かっていいものなのか。隠し事をするというのは後ろ暗いことがあるからで、その秘密の一端を知っている自分たちがみすみす彼らの懐へ入り込むというのは、非常に危険なことなのではないのか。

 

「お姉様にもグレム局長にも、私から話を通しておくわ。あなたはただ、私に付いてきてくれるだけでいいの」

 

「しかし……危険では? もう少し、彼らの動きをはっきりつかめてからの方が良いのでは」

 

「大丈夫よ……私はあなたを信じていますから。それに、そのためにこそやるべきことが……いいえ、あなたにお願いしたいことがあるの」

 

「……何でしょう?」

 

 ほんの少しだけ心の中で身構えた彼に対して。

 

「私一人では無理でも、あなたと一緒ならきっと上手くいく……。二人で力を合わせれば、できないことなんて何もないわ……」

 

「……えっ?」

 

「ふふ……フェンリル極致化技術開発局副開発室長(わたし)フェンリル極致化技術開発局ブラッド隊隊長(あなた)の二人で──」

 

 彼女は、今日一番の笑みを浮かべた。

 

 

 

「──この報告書の、開示請求をしましょうか」




 第二部、完結。

 書き溜め期間に移ります……。
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