「いやあ、実に困ったことになったねえ」
支部長執務室。いつもの胡散臭い──否、穏やかな笑みを崩さないままあっけらかんと言い切った榊を、その場にいる大半の人間が信じられないものを見たかのような目で見つめていた。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください……!」
混乱しながらも声を上げたのは、今日もトレードマークである赤いバンダナでばっちり決めた神機使い──桜田チハルだ。声は明らかに震え、ついでに若干瞬きの回数が増えている。もしその腕輪に隠された手首に触れることが出来たのなら、ちょっとびっくりするくらいに脈が速くなっていることにも気づけることだろう。
「榊博士、今なんておっしゃいました……!?」
縋るように問い質すチハルに対し、榊は改めて言い切った。
「白いアラガミ──ルーくんに対して、フェンリル極致化技術開発局から開示請求がきちゃったんだよね」
事の発端は三日前。
「入電があったこと自体は別に不思議な話じゃない。フェンリル極致化技術開発局とはいくらかやり取り自体はしているし、近いうちに彼らはこちらにやってくる……なんて話も上がっていた。だからてっきり、それに関する連絡だと思ったんだが……」
「──実際には、極東支部長に対する開示請求でした。それも相手は、フェンリル極致化技術開発局の副開発室長でもあるラケル・クラウディウス博士と、あのブラッド隊の隊長であるジュリウス・ヴィスコンティ大尉です」
榊の言葉を引継ぎ、緊張した面持ちでヒバリが告げる。生憎チハルにはその二人がどれだけすごい人なのかはさっぱりわからなかったが、その仰々しい肩書とヒバリやアリサの表情を見れば、のっぴきならない事態であると言うことくらいは察することが出来た。
「開示請求の内容は……両方とも、このアナグラでのミッション報告書に関するもの。ラケル博士については、【いくつかの報告書に記載されている、新種のアラガミについての詳細を教えてほしい】といったものです」
「それって……!」
「──閲覧制限かけてたんだろ? 突っぱねればいいじゃねえか」
半ば割り込むように、リンドウが口を開く。
「開示請求だなんて大層な物言いしているが、結局は閲覧権限の申請が来たってだけだ。適当な理由をつけて棄却すればいいだろ」
「ラケル博士の申請だけだったら、そうすることもできた。新種のアラガミ調査において、調査中だからまだ情報の開示はできない……なんて理由での棄却は珍しい話じゃない。というか、そう言う狙いもあってああいった形で報告書を仕立てたわけだが」
この極東におけるアラガミの多様性は、他の地域のそれとは比べ物にならない。極東だけにしかいないアラガミはいてもその逆……すなわち、極東では見かけないアラガミはいないし、種類、出現数共に他の地域の追随を許さない。
新種の発見報告の大半は極東からのものだし、そしてその「発見」した新種がただの奇形や突然変異種、すなわち種として定着しないイレギュラーであった……なんて話はしょっちゅうだ。だから、はっきりしたことがわかるまで報告書を開示しない、といった対応をするのも割とよくあることである。
「だけど、ヴィスコンティ大尉の要求についてはそういうわけにもいかなくてね」
「なんだよ、その大尉様の要求ってのは?」
「……【桜田チハルが生存した経緯の詳細を教えてほしい】」
榊のその言葉を聞いて、お手上げだと言わんばかりにリンドウは肩をすくめた。ついでに言えば、コウタは大袈裟に天を仰いでいるし、ソーマは眉間に皺を寄せている。アリサに至っては、女の子がしちゃいけないような顔で口をへの字に曲げていた。
「……なんでみなさん、そんな顔してるんすか? これも、なんか適当な理由をでっちあげて拒否ればいい……ってことっすよね?」
チハルが言いたかったことを、代弁するかのようにキョウヤが呟く。どうやらそれはエリナやエミールも同じ気持ちだったようで、コクコクと無言で首を縦に振っていた。
「その通りっちゃその通りだけど……うん、キョウヤはさ」
さすがにまだ気づくのは難しいよな……なんて困ったように笑いながら、コウタはその事実を告げた。
「自分が部下を預かる身だったとして……神機を失い、KIA判定で戦場に取り残された神機使いがどうやって生き延びたか、気にならない?」
「……あ」
「あっちからしてみれば、ここは普段の戦場とは比べ物にならないほどの激戦区だ。万が一が起きないように、事前にできる限りの情報収集はしておきたいだろ? もし逆の立場だったら俺だってそうするし……部隊のみんなに、共有しておくかな」
「そうか……! 部隊の生存率を上げたいってのは真っ当な理由だし、アラガミ調査と違ってこっちは拒む理由が無いのか……!」
「
しみじみと、何かを思い出すようにハルオミが呟く。いろいろあって各支部を転々としていたハルオミは、純然たる事実として、極東以上にアラガミの脅威に晒されている地域を見たことが無い。神機使いの戦闘に関する技術やノウハウは極東が最も進んでおり、他の支部で何かを教えることはあっても、何かを教わることはほとんどなかった。
そう。ありとあらゆる面で、極東が最も進んでいるから。
だから、極東の人間はノウハウを他所の人間に尋ねるといった経験がほとんどないのだ。
「ヴィスコンティ大尉の要求は、至極真っ当でどこまでも正当だ。それは現場で動くキミたちが最も理解できるだろう? 故に、彼の要求を拒むのはかなり難しい……拒めたとしても、かなりの不信感を持たれてしまうだろうね」
「で、でも……! 確か私、アラガミ同士が共食いした隙をついて何とか逃げ延びたってことにしたって、そういうことにしたって博士は……!」
「この件に興味を持っていなければ、その説明だけで終わっただろうね。だが、彼らはそうじゃない。
「そんな……」
「これがラケル博士の要求だけだったら、調査中で拒否することが出来た。ヴィスコンティ大尉の要求だけだったら、まだなんとか誤魔化しも効いたかもしれない。だが……同じ所属の、マネジメントクラスの人間と現場のトップが、同じタイミングで、かつ別ベクトルで聞いてきているんだ」
「……」
「言外に、【わかっているぞ、引く気はないぞ】って言っているようなものだよ」
そうでなければ、このタイミングで別の切り口から同時に開示請求が来るはずがない。そして同時に請求が来てしまっているというその事実そのものが、既に彼らがある程度こちらの事情を把握しているという証明に他ならなかった。
「いやあ、しかし恐れ入ったよ。まさか真正面から堂々と切り込んでくるとは」
「……おう、おっさん」
榊のその飄々とした様子……あるいは、不安そうにオロオロしているチハルに思うところがあったのだろう。いつもより少しばかり不機嫌そうに、ソーマは低い声で唸るようにつぶやいた。
「さっさと結論を言え。わざわざ俺たちをこうして集めたんだ、やるべきことはもう決まってるんだろ?」
ほんの少しだけ目を開いて。
榊は、安心させるようにチハルに呼び掛けた。
「──向こうも、事を荒立てる気は無いと言って良いだろう。少なくとも、今の段階では」
「……え?」
「さっきも言ったが、元々近々こっちに来る予定ではあったみたいだからね。予定が少し早まっただけで……建前としては、その予定のついでにこのミッションの件を確認するという体となる」
「そ、それって……安心できるんですか?」
「本気でどうにかするつもりなら、時間を与えずに強硬手段を取ってるよ。そうでなくとも、局長からの正式なルートでの問い合わせをしているはずさ。それなのに彼らは、あえて報告書の開示請求という比較的小規模なことに留めている……つまり、大っぴらに動かずに現場だけで済ませようとしている」
「……ぬ?」
「──【秘密裏に接触してやるから、わかってんよな】……ってことっすか?」
「その通り。より正確に言えば、ある程度こちらの実情を理解したうえで
状況証拠から、既にルーのことは向こうは把握していると見て間違いない。しかしそのはずなのに、直接的な詰問ではなく遠回しにそれとなく知らせるだけ……それも、傍から見れば日常的なやりとりのそれとしか思えない形での対応としている。
その意味することは、つまり。
「向こうは向こうで、ルーくんのことを知られたくない。もっと言えば、ルーくんのことに興味自体はあるが……ルーくんのことは、
「「ええ!?」」
その場にいた大半の人間が、思わずと言った様子で声を上げた。
ルーに恐ろしい程の価値があるのは、ようやく中堅に差し掛かったばかりの神機使いであるチハルにもはっきりとわかる。人間を襲わないという習性もそうだし、その偏食因子を調べればあらゆる技術に応用することが出来るだろう。ある程度の意志のやり取りができるうえ、単純にアラガミとして強いわけだから、戦力として見ても申し分ない程の価値がある。
だから……もし、フェンリル本部や他所の支部がルーのことを知ってしまったら。きっとルーは、実験サンプルとして強制連行されて拷問に近い実験を受けさせられる羽目になるか、あるいはもっと単純に、戦力として使い潰されるものだと思っていた。
つまり、どういう形であれ、ルーとは引き離されるものだとチハルは信じて疑わなかった。
「な、なんでそんなことわかるんですか……? 普通だったら、ルーちゃんを使って危ない実験とかするんじゃ……」
「──そもそもとして」
その場にいる全員とゆっくりと視線を合わせてから。
榊は、教え子に講義をするかのように語りだした。
「ルーくんを隠蔽するのであれば、報告書なんて書くべきじゃなかった。我々の胸の内に秘めておけばルーくんの存在が他所にバレるはずもないし、純然たる事実として、報告書をきっかけとしてラケル博士たちはルーくんの存在を嗅ぎつけている」
「じゃあ、どうして報告書なんか……」
「──神機使いの行動は全部記録されてるからな。報告書を書かない場合、ミッションに出ているはずなのに報告書が上がってないっていう矛盾が起きる。その時間、お前はどこで何をしてたんだっていう空白が出来ちまう。そっちの方がよっぽど怪しくて不自然だ」
「……」
「だから、報告書は”書かざるを得ない”。もし、行動を偽装したいのであれば……ダミーのミッションを発行して、報告書の内容はでっちあげる。そうすりゃ、少なくともシステム上は問題ない」
「説明ありがとう、リンドウくん。……さすがに詳しいね?」
「そりゃあ、デートの常連だったからな。……いや、あんたの後始末のせいもあるか?」
ソーマを除いたクレイドルの面々が、リンドウの言葉に曖昧な笑みを浮かべる。一方で言われた張本人である榊は、相も変わらず胡散臭い笑みを浮かべていた。
「ともあれ、報告書の作成自体は必至。そうでなければ、例えルーくんの件が無かったとしても疑いの目を向けられる。だがしかし、正直にルーくんのことを書くわけにもいかない」
「それじゃ、もしかして……」
「そう、報告書に偽装工作を施した。ルーくんの存在を隠したばかりか、報告書そのものが見つかりにくいようにした。よくある報告書の一つとして、他の無数の報告書に埋もれるようにした……明確な意図をもって探したとしても見つけられるかどうか、見つけたところでルーくんの存在に気付けるかどうかすらわからないはずだった」
「……」
「なのに彼らは、どういうわけかあの報告書に目を付けた。そもそも、他所の支部の日常業務で作成される報告書を確認することなんて普通は無い。彼らほどの立場の人間ならなおさらの話だ」
「……偽装工作云々以前の話として、おかしな行動をしてるってことっすか? いや、元々別の目的があって、そのために注意深く調べていたからこそ偽装工作に気付けたってことか」
「……確かに、言われてみるとなんか妙だな」
改めて、リンドウは考えてみる。
少なくとも自分なら、他所の支部の細かいデータまで調べようとは思わない。やったとしても、いくつか条件を指定して該当するものをピックアップしてもらうだろう。それこそヒバリのようなミッション管理をしているオペレーターに頼めば自分でやるよりもずっと早く、目的の情報を集めることが出来るはずだ。
さらに言えば、そもそもとして単純に自分で調べるという時間はない。通常の神機使いでさえ訓練や任務で普段のスケジュールはびっしりと埋まっているし、部隊長や副室長ともなればもはや語るまでも無いだろう。
無論、実際に調べた人間が他にいるのかもしれないが……それにしても、何らかの理由を以って、かなり注意深く報告書を読みこんでいたというのは十分におかしな話であった。
「えと、えっと……つまり、ラケル博士たちは元々別の目的があって
「うむ。その本命が何なのかはわからないが……なんてことのないはずの報告書の違和感を嗅ぎ取れる程度には、力を入れ込んだ調査をしているらしい。……案外、その本命を達成するためのイレギュラーを排除したい、というのが目的なのかもしれないね」
ここまでの話は、あくまで状況証拠からの推測でしかない。本当の意味で安心するにはまだ早いが、しかしそれでも、榊の言葉はチハルのざわついた心を少しばかり落ち着かせる。
結局のところ、今はまだ待つことしかできない。そして、どういうわけか向こうも大っぴらにこちらを糾弾するつもりはないらしい。
ならば、下手に不安を抱えてオロオロすることに何の意味も無い。無駄に精神を消耗するだけである。
「はー……しっかし、報告書に偽装工作なんてしてたんすね。俺もアーカイブにあがってるやつは見ましたけど、全然気づかなかったっすよ」
「ははは、それはそうだよ。あからさますぎたら偽装の意味がないし、あくまで自然に見えないとね」
キョウヤのつぶやきに、ゆったりと笑って榊が答えた。
「何も知らなければ、その裏に隠された本当のことが分からない。報告書ごとの繋がりを追えないようになっているから、それそのもので完結される。そのうえで、既に知っている我々からしてみれば内容のことがすぐにわかって関連書類も追えるようになっている──そういう意味で、偽装のレベルは非常に高い」
「さすが榊博士……でも、いつの間に偽装工作なんてしたんですか?」
コウタのつぶやきに、わざとらしく笑みを浮かべて榊が答えた。
「何言ってるんだい、実に見事な出来栄えだったよ──コウタくん?」
「えっ」
「えっ?」
「えっ!?」
なぜか驚愕の表情をするコウタ。
聞き間違えではないかと声を上げてしまったエリナ。
まさかそんなはずはなかろう、信じられない──と言わんばかりの顔をしているアリサ。
三者三様ではあるものの、いずれにせよ榊の言葉は全員に衝撃をもたらした。
「ど……どういうことなんですか、榊博士! あの隊長が、偽装工作って……!」
「エリナくんは、【スプリング・フェスティバル】の報告書は読んだかい?」
「そりゃあ、読みましたけど……別に、特に変なことは書かれていませんでしたよ?」
「──その通り。変なことは全く書かれていない。あの報告書は閲覧制限のために部外者では概要しか読めなくなっているが、全くもって違和感なく……肝心なことがよくわからないようになっている」
「……」
「まず第一に、検索性が悪い。確かにあのミッションの目的はチハルくんの救出ではあったが、結果的には、報告書として記載すべき重大事項はルーくんのこととなる。……後から我々以外の人間がそのことを検索しようとして、あの報告書に辿り着けるだろうか?」
「無理……だって、報告書のタイトルからは新種のアラガミのことなんて読み取れない……!」
「そう。あくまであの報告書はチハルくんの救出に関するもの、という体を貫き通している。事実、ミッション発行時の情報もチハルくんの保護についてしか書かれていない。故に、我々以外がルーくんを調べようとしても、あの報告書にはたどり着かない」
「……隊長、狙ってやったの?」
「そそそ、そりゃそうに決まってるだろ?」
「……怪しい」
疑惑の目。なんだかとても居た堪れなくなったコウタは、冷や汗をかきながら明後日の方向を向いた。
「第二に、中身がわかりづらい。先ほどの話と少し被るが……救出任務の報告と発見報告が同じになってしまっている。本来なら、新種の発見であれば別個に報告書を仕立てるべきだろう。なのに、あえて一つの報告書にまとめているということは……」
「わざわざ別に報告書を仕立てるレベルじゃない、ちょっとしたおまけ程度の簡易的な報告でしかない……?」
「そういう印象を受ける人が大半だろうね。それこそ、極東の事情に詳しい人間であるほどそう思うはずさ」
「……」
「もちろん、妙に詳しく概要を書いているな……とは思うだろうが。だが、概要だけではルーくんが特別な……友好的で意思疎通のできるアラガミであるとは読み取れない」
それもそのはずである。だって、あの報告書はあくまでチハルの救出任務の結果を報告するものなのだから。新種の発見報告書として別に報告書を作成しなかったというその時点で、あの任務の裏で起きていた本当のことを探り当てるのは非常に困難となるのだ。
「何より驚くべきなのは、それらが全て、ごく自然に行われているという点だ。意図的にそうしたというような、
「待ってください、マジでもう勘弁してください……!!」
「……隊長ぉ?」
「は、はは……」
じとっとした瞳でねめつけるエリナ。年下の女の子からとは思えないほどの余りの圧の強さに、コウタの心拍が悪い意味で増えていく。
「どうしたんだい? キミの偽装工作がどれだけ素晴らしいか、語り明かしたい気分なのだが……」
「……この人、マジに悪気はないんだよなぁ。本当にただのおしゃべり好きってだけで」
「……ハルオミさん? なんだか他人事のように言ってますけれども、あなたもあの報告書の承認を出していますよね? それに、リンドウさんも」
エリナと同じくらいに冷たい顔をしたアリサが、ここぞとばかりに口を出す。一方で口を出された側であるハルオミは、コウタとは違い……いつもの飄々とした、大人の余裕をもって当たり前のように嘯いた。
「ああ、もちろん俺はあの報告書を見てすぐにピンと来たぜ? こいつはあえて、意図的にわかりにくく……凄まじく自然な形で偽装工作した報告書だって。だからそのまま、その意図に乗っかったってわけさ」
「もちろん俺もだ。コウタも第一部隊の隊長として腹芸もできるようになったんだって感動しちまったよ。正直、抜かされて悔しくもあり嬉しくもあった。あれだけ立派な報告書が書けるんだ、俺も書類仕事から引退して、次からはずっとあいつに任せても良いと……そう思えちまったよ」
「……へえ? つまりお二人とも、ちゃんと読んだうえで判断したってことですか? ろくに目を通さずに承認したわけじゃないと、そう言ってるんですか?」
「「……ははっ」」
ハルオミもリンドウも、あいまいに笑って明後日の方向を向いた。肯定も否定もせず、されど狼狽えることも無く。どっちともとれるようにあえて考える余地を残した……と言えば聞こえは良いが、結局のところ
「なんだ、やっぱり単純に読みにくくてわかりにくい報告書ってだけなんじゃん……!」
「お、俺だって頑張って書いたんだよぉ……! ……というかさ! 俺のおかげで偽装工作になったってことは、アリサが言ってたみたいな完璧な報告書にしてたらダメだったってことじゃん!」
「ただの結果論ですね、それは」
身も蓋もないアリサの言葉に、コウタはがっくりとうなだれる。「結果オーライってやつだ」と他人事のようにリンドウがその左肩を叩き、「怪我の功名とも言うな」と何処吹く風でハルオミがその右肩を叩いた。
「あれ……でも、ルーちゃんの能力確認とかの一連の調査ミッションは? あれを見られちゃったら、賢い事とかも全部バレちゃうんじゃ……」
「ああ、それについては……【スプリング・フェスティバル】とは報告書的なつながりは一切ないし、概要にはよくわからなかったから調査を打ち切った、という風にしか読み取れないように記述した。極東じゃよくあるタイプの打ち切り報告書にしか見えなくて、白いアラガミのことであるということすらわからない」
「……だが、連中には見つかってんじゃねえか」
ソーマの言葉に反応して、榊の目がほんの少しだけ開かれた。
「だから不思議なんだよ。見つからないように工夫して、そして見つかったとしても興味が持たれないような内容のはずなのに、彼らはどういうわけかそこから事実を嗅ぎつけた。どうして彼らがそんなにも注意深く報告書を探り、読みこんでいたのか……その理由が分からない」
「……」
「よっぽどその”本命”が重要なのか……あるいは、非常に考えづらい事ではあるが」
「……なんだよ?」
「──そもそもの大前提であるルーくんの存在を、
最初から、ルーの存在……もしくはもっとシンプルに、この極東に未知のアラガミの存在していると知っていたうえで調査を行っていたのなら。そうであるならば、偽装工作の効果はほとんどなくなる。未知のアラガミがいるという前提で一連の報告書を読んでいれば、種々の違和感にすぐに気づけてしまうのだ。
「ありえるのか、そんなこと」
「限りなく低いが、ゼロではないというだけさ……いずれにせよ、他所に知られたくないという点で彼らと我々の方向性は一致している。そして彼らは、小規模な公式問い合わせとして極力目立たないように接触を図ってきている。つまり、話し合いの余地があるわけだ」
「……」
「先ほどのキミの問い──結論を改めて述べようか」
ついうっかり、おしゃべりが過ぎてしまったね──と、榊は一切悪びれた様子もなく告げた。
「──ルーくんの存在を彼らにバラし、彼らも【共犯者】にしようと思う。そして出来得ることなら彼らの本当の目的を探って、お互いが協力関係に成れたらいい……と、現段階で私はそう思っているよ」
ちょっと間が空きすぎたので、ゆっくりペースで出来るところまで更新再開して第三章を進めていきたいと思います。