GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

51 / 141
51 想定外

 

「あなたって人は……一体何を考えているんですか……ッ!」

 

「うふふ、こわぁい」

 

「私は、本気で言ってるんですよ!」

 

 眉間の皺を隠そうともせずに真っ赤になって怒るジュリウスと、そんなジュリウスの事なんてまったく気にしていないとばかりにくすくすと笑うラケル。あの冷静沈着なジュリウスがこんなふうに怒鳴る姿なんてブラッドの誰も見たことが無いし、ましてやその対象がラケル──ついでに言うと、ラケルもまたちょっと異様だと言えるくらいに上機嫌だというのだから、ブラッドの全員が困惑に満ちていた。

 

「ま、まぁまぁ……そのくらいで勘弁してあげてもいいんじゃないかな?」

 

「──申し訳ないですが、これは我々フライアの問題です。大変不躾ではありますが、もうしばらくご容赦願いたい」

 

「う、うむ……」

 

 ──ああ、これはマジにキレてるな、とギルは思った。

 ──ああ、あの胡散臭いおじさんがちょっと引いてるよ、とナナは思った。

 ──ああ、絶対ジュリウスだけは怒らせないようにしよう、とロミオは思った。

 ──ああ、私はどちらの味方をすればいいのだろう……と、シエルは一人でおろおろした。

 

 ここはアナグラ、支部長執務室。極東のメンバーもブラッドのメンバーも勢ぞろいしていて、本来であれば楽しい楽しい【お話し合い】が始まっている頃合いだ。それも極東支部の支部長にクレイドル、さらにはフライアの副開発室長にブラッド隊の隊長という重要な人間ばかりが集っているのだから、一分一秒だって無駄にすることはできない。

 

 ところが、実際は。

 

「何度も何度も言ったでしょう……! 私が傍にいるから、決して離れるなと……!」

 

「もう、ジュリウスったら……大事なお客様の前なのに、何をそんなにピリピリしているのかしら……?」

 

「自分の胸に手を当てて、よく考えてみてください……ッ!!」

 

「言ってくれないと、伝わらないわ?」

 

 アナグラの支部長執務室の真ん中で、アナグラの人間に囲まれている中でブラッド隊の隊長がフライアの副開発室長に延々と説教をするという珍事。文字通り人目も憚らず──というより、もはやそんなこと考える余裕も無いのだろう──ブラッドの人間でさえも唖然としてしまうような光景が、かれこれ十分ほど続いている。

 

「……ね、ヒバリ。なんかこう……なんかこう、いろいろすごいことになってるけど……コレ、何?」

 

 何が何だか分からなさ過ぎて、この中で唯一メカニックとして招集された楠リッカは、一番状況を理解していそうな友人に声をかけた。

 

「その……あの車椅子の女性がフライアのラケル博士なのですが」

 

「へー……なんか随分イメージと違うけど……ラケル博士が、どうしたの?」

 

「本来の予定よりも随分早く到着されまして。資料の準備自体はすでにできていたので、私と榊博士で簡単に挨拶と例の件(・・・)の資料の共有をしていたのですが」

 

「……なんかサラッと大事な所をすっ飛ばしている気がするけど、それで?」

 

「……あの男性──ブラッド隊隊長のヴィスコンティ大尉が血相を変えて飛び込んできまして」

 

「……なんで?」

 

「…………ラケル博士、一人で勝手にこちらに出向いて来たそうです。ほんの一瞬とはいえ、行方不明扱いだったとか」

 

「…………」

 

「それからずっと、お説教されてます」

 

 ヒバリも困惑しているのが、リッカにははっきりとわかった。それもそうだろう、予定より早く到着するくらいならまだしも、資料を共有している最中にあんなにも必死な人間が部屋に飛び込んできて、しかもそのままお説教を始めたというのだから。

 

 おそらく、ラケル以外の誰にとっても予想外の出来事。ブラッドの人間もただただその姿を見守ることしかできないし、いつもだったら良くも悪くもその飄々とした態度を崩さない榊でさえも、面食らっている……というか、ジュリウスのあまりの剣幕に戸惑いを隠せないでいる。

 

「言いましたよね!? アナグラに行くのは認めるけれども、絶対に私の傍から離れるなと! それが条件で、最低限の譲歩だと!」

 

「もう……ジュリウスったら、落ち着いて? 極東の皆さんが困惑されているわ」

 

「誰のせいだと思っているんですか……!!」

 

 半分ほどはあんたのせいでもあるだろ──と、極東の人間の何人かが心の中でツッコミを入れる。原因を作ったのは間違いなくラケルの方ではあるが、それをここまで大きな問題にして引き延ばしているのは間違いなくジュリウスの方なのだから。

 

「……なんかすっかり警戒するのがバカらしくなっちゃったけど、向こうからしてみれば総大将が勝手にいきなり敵地に乗り込んで行っちゃった……みたいなものなのかな?」

 

「そうでなくとも、ヴィスコンティ大尉はラケル博士の付添の方みたいですし……その心労は察するに余りありますね……」

 

 立場的には、間違いなくラケルの方が上だろう。そんなラケルを、他所の支部の支部長室のど真ん中で説教しているのだ。一体どれだけ頭に血を昇らせればそんなことができるのか、リッカにはちょっと想像がつかなかった。

 

「……ラケル博士のことはなんとなくわかったけどさ」

 

 説教するジュリウス。のほほんとしているラケル。それを見守るブラッドと極東メンバー。そんな中で、別の意味で目立っている二人にリッカは目を向けた。

 

「……なんでチハルちゃんとキョウヤは、あんなに真っ青になっているの?」

 

 榊博士の机の横。ジュリウスの説教をくすくすと笑いながら受け流すラケルの近くで、なぜだかチハルとキョウヤの二人が真っ青になっている。リッカのいる位置から見てもはっきりとわかるほどに冷や汗をかいているし、視線もせわしなく動いていて落ち着きがない。みんながラケルとジュリウスを見ている中で、二人だけは別の方向を見ている……顔を上げようとすらしていない。

 

「それは……私にもわからないです。ただ、この部屋に入った瞬間、二人ともさーっと顔から血の気が引いていきました」

 

「……」

 

「人間、あんなにもはっきりと顔の色が変わるんだなって、初めて知りましたよ」

 

「……何やったの、あの二人?」

 

「──ふふふ、何をしたんでしょうね?」

 

 突如として会話に割り込んできた声。小さなひそひそ話だったというのに、自分たちに向けて放たれた言葉だとはっきりと伝わるほどに明確なそれ。

 

 気づけばラケルがヒバリたちの方を見ていて、そしてチハルたちの肩がビクっと大きく震えた。

 

「ラケル先生! 話はまだ──!」

 

「──ジュリウス(・・・・・)。そろそろ本当に、極東の方の迷惑になるわ。何をしにここに来たのか、忘れたわけではないでしょう?」

 

「……っ! いいでしょう、続きはフライアに戻ってからじっくりやりますからね!」

 

 わかったわ──と小さく呟いたラケルは極東の面々へ向き直り、少々大袈裟に、にっこりと笑って告げた。

 

 

 

「極東の皆さん、初めまして──どうも、アラガミ大好き解剖おばさんです」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「……ラケル、趣味が悪いわよ」

 

「ちょっとした場を和ませるためのジョークですよ、お姉様……いいえ、【頭の固い神経質おばさん】?」

 

「怒るわよ、もう……!」

 

 なんやかんやあって。

 

 未だに真っ青なままのチハルとキョウヤの二人を除き、ようやくその場が落ち着いたところで、アナグラのメンバーとブラッドのメンバーは正式に挨拶を交わすことになった。

 

「改めて──フェンリル極致化技術開発局開発室長の、レア・クラウディウスです」

 

「同じく、副開発室長のラケル・クラウディウスです。……よろしくお願いしますね、極東のみなさん」

 

 エムブレムを付けた白衣姿の女性──レア・クラウディウス。ラケル・クラウディウスの実の姉でありフェンリル極致化技術開発局の開発室長でもある彼女は、見るからに病弱の妹とは正反対の、少々派手で華やかな印象を持つ人間だった。あらゆる意味で健康的な体つきをしており、良くも悪くも研究者に見えないが──彼女こそが神機兵の開発責任者であり、フライアにおける実務上の実質的なトップである。

 

「同じく、ブラッド隊隊長のジュリウス・ヴィスコンティです……先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ない」

 

 いくらか冷静さが戻ってきたのだろう。先ほどとは打って変わって落ち着いた様子でジュリウスが軽くお辞儀をする。もしもう少しだけ深い角度でお辞儀をしていたら、きっとその真っ赤になった耳の端が髪から覗いていたことだろう。

 

「私はペイラー・榊。この極東支部の支部長を務めているものだが……まぁ、私のことは既に知っていることだろう。こちらは人数が多いので少々省かせてもらうが、彼が第一部隊の隊長である藤木コウタくん、あっちがクレイドルである雨宮リンドウくんとソーマくん、そして──」

 

 いったん言葉を区切って。

 

 本来であれば、あまりにも場違いなその人物の名前を榊は告げた。

 

「──この娘が、桜田チハルくん……あと、片桐キョウヤくんだね」

 

 どうしてわざわざ、取り立てて特徴のない一般的な神機使いの名前が呼ばれたのか。その理由を察することが出来たのは、フライアの人間の中ではラケル、レア、ジュリウスしかいない。ブラッドのメンバーの大半は、そのことを不思議には思ってもその真実にはたどり着けなかった。

 

「さて……諸君も知っている通り、フライアでは神機兵の開発を行ってる。レア博士が神機兵の有人制御、ラケル博士が無人制御の研究をしているわけだが、今回は無人制御を確固たるものにするためのデータ収集という名目でこの極東を訪れた」

 

「ふふふ……確かに建前ではありますが、そちらも目的の一つですよ。この極東ほど、アラガミの行動データが蓄積されているところはありませんから。もちろん、神機兵無人運用のためのデータ収集……具体的には、無人運用テストについても相談させて頂きたいと思っていますわ」

 

「ふむ、尤もな話だ……そちらについても、自然な形で実りある結果が得られるよう、協力することを約束しよう」

 

「ありがとうございます、榊博士」

 

 何も知らない人から見れば、胡散臭いようにしか見えない榊の笑顔。

 一見優しそうだが、どこかつかみどころのないラケルの微笑み。

 

 なんとなく空気が張り詰めて、緊張感が漂っていく。その理由がわかっている者にいない者、事前に聞かされていた情報と明らかに食い違っていることに不信感を抱く者──など、三者三様ではあるが、それは疑いようのない事実であった。

 

「さて……さっそく詳しいことを話したいところだが、遠路はるばるこの東の果てまでやってきてくれたばかりだからね。諸君らのための居住フロアを確保してあるから、まずはそこで旅装を解くといい。ここに滞在中は好きに使って構わないよ」

 

「あら……いいんですか?」

 

「もちろんだとも。長い滞在になるだろうし、フライアにいちいち戻るのも手間だろうしね。……見ての通り、このアナグラはそこまでお堅い場所じゃない。いつもの私服で過ごしてもらっても構わないよ。ここを自分たちの家だと思って、くつろいでくれれば幸いだ」

 

 アナグラ内で過ごす上での注意事項を三つ四つつらつらと述べて。

 

 そして榊は、その表情を一切変えないままその一言を告げた。

 

「──旅装を解いて落ち着いたら、1500にラウンジに集まってくれるかな?」

 

「……っ! それは、例の……!」

 

 ジュリウスの声が、はっきりとわかる程度には震えた。そのことに気付いていない……いいや、気付いたうえで気づかないふりをした榊は、含みを持たせた調子で言葉を続ける。

 

「……ああ、そうだ。アナグラの関係者(・・・)は基本的にそこに参加することになっている。無論、スケジュールの都合で参加できない人間もいるが……重要な関係者は、みんな参加していると思ってもらっていい」

 

「──お話の途中、失礼します」

 

 静かに、されどはっきりと会話に割り込んだのはシエルだった。

 

「1500にラウンジで、ブリーフィングをするのですか? ……必要な資料の準備などをしておきたいので、概要をお聞かせいただきたく」

 

「……まぁ、そんなところだね。詳しいことはヴィスコンティ大尉に聞くといい。……ただ、ちょっとこちらも念のために確認しておきたいのだが、このブリーフィング(・・・・・・・)にそちらで参加するのは」

 

「ここに居るブラッド隊の六人と、私とお姉様の二人だけですわ」

 

「グレムスロワ局長殿は?」

 

「いいえ、局長は関係者じゃありません(・・・・・・・・・・)──正真正銘、この八人のみです。……もしかしたら、今後一人くらいは増えるかもしれませんが、少なくとも今は」

 

「──わかった、信じよう」

 

 その言葉を最後に、その場は一旦のお開きとなる。最後まで真っ青なままのチハルとキョウヤをいぶかしみながらも、フライアの面々はヒバリの案内で居住フロアへと連れられて行く。

 

 その道中、何回かアナグラの関係者──一般神機使いやフェンリルの職員だ──とすれ違うことがあったが、彼らは少々物珍しそうにチラチラとこちらを見るばかりで、ただ純粋に見慣れぬ人間たちがいるのに興味を引かれた、という以上の気持ちは抱いていないのは明白だった。

 

 もちろん、案内された居住フロアも取り立てて不自然なところはない。男女に分かれた個室と、ちょっとした会議室としても使えそうな共有スペースからなる、ごく普通の居住フロアだった。

 

「フライアと比べるとちょっとボロ……いや、年季が入ってる感じがするけど、話に聞いていたよりかは普通というか、拍子抜けだよな?」

 

「うんうん。あの榊博士って人はちょっと胡散臭い感じがしたけど……オペレーターの人は優しそうだったし、割と普通……だよね?」

 

 荷物をまとめて、私服に着替えて。共有スペースの椅子に腰を掛けたロミオとナナは、事前に聞かされていたよりも随分と和やかなアナグラの雰囲気に対して、思ったままのことをそのまま口に出した。

 

「確かにな。あの榊博士って人はここのトップって話だが……その割には、いい意味で偉ぶっている感じがしない。話が通じる……いいや、現場のことを良くわかってるタイプだろう」

 

 ウチの局長と代えてほしいもんだ、とギルが小さな声で呟く。

 

 そして、向かいに座っているジュリウスに向けてはっきりと告げた。

 

「──だからこそ腑に落ちない。ジュリウス……何を隠している?」

 

 アナグラには不穏な空気が漂っている。もしかしたら不穏分子が潜んでいて危険なことがあるかもしれない。ジュリウスは確かに事前にそう言っていて、ラケルが一人で勝手にアナグラに先行した際も、血相を変えて後を追うくらいにはそのことが真実であるという確信を抱いている。

 

 しかし実際は、アナグラはいたって平穏で、トップである榊も取り立てておかしな様子はない。ジュリウスがあれほど危険視するような事態にはとても思えず、それ故に余計にジュリウスの行動が不可解となる。

 

「ボカして話していたが、神機兵の無人運用のためのデータ収集ってのも建前なんだろ? 本当の目的は一体なんだ? どうしてここが危険な場所であると俺たちに教えたんだ?」

 

「隊長。榊博士は、この後のブリーフィングの内容について隊長もご存知であると仰っていました。……つまり、本来の目的について我々とアナグラで情報共有は既に済んでいるということです。先ほど隊長が仰っていたクレイドルが集結した理由についても、すでにわかっているのでは?」

 

「…………」

 

「……きっと、私達に言うことが出来ない事情があるのでしょう。隊長の判断を私は信じますし、どういう命令であろうと果たして見せますが……せめて、それくらいは」

 

「……ああ、そうだな。お前たちには隠していることがある」

 

 既に、誤魔化しが出来ない程度には不自然なやり取りを見られている。ラケルの独断先行というとんでもないイレギュラーのおかげで、事前に対策することすらままならず、冷静さを欠いた姿を見せてしまった。

 

 もしかすると、それが全ての原因なのかもしれない──と、ジュリウスは半ば投げやりのように思った。

 

「だが、俺としても……どこまでを、どう伝えればいいかわからなかったんだ。だから余計な情報は与えず、各々が実際に見聞きしたことで判断してほしかった……言い訳だな、これは」

 

 まだ致命的なレベルではないが、信頼関係が揺らいでいるのをジュリウスは確かに感じ取っている。

 

 だからジュリウスは、正直に自分の本音を告げることにした。こんな状況になった以上、それが一番家族に対して誠実であると感じたのだ。

 

「まず、本当のことを知っているのは俺とラケル先生、レア先生の三人だ。そして、俺がこの極東……いいや、アナグラのことを危険視していたのは間違いない。ラケル先生が勝手に一人で乗り込んだと知った時は、本当に、本当に肝が冷えた」

 

「……まあ、あの姿を見れば嘘だという奴はいないだろうよ」

 

 労うような声音。多少なりとも、不信感は拭えたのだろう。ギルの目つきが幾許か柔らかくなり、少しばかり張りつめていた空気が緩くなっていく。

 

「あれれ? でも、それじゃあラケル先生は危険かもしれないってところに一人で行ったの?」

 

「──ジュリウスはそう思っていても、私はそう思っていなかった。それだけの話よ、ナナ」

 

 レアの手で車椅子を押され、部屋に入ってきたラケル。彼女は楽しそうにくすくすと笑っており、そしてジュリウスは、そんな彼女の様子を見て小さくため息をついた。

 

「……ラケル先生。結果的に、彼らはその……変な動きを見せませんでしたが。先ほども言いましたが、今後はああいったことは一切やめてください」

 

「はぁい。……反省しているから、許して?」

 

「………………まぁ、いいでしょう」

 

 ──全然反省してねぇな、とギルは思った。

 ──なんかすごくラケル先生が楽しそう、とナナは思った。

 ──ジュリウスが諦めるなんて初めて見た、とロミオは思った。

 ──結局どうして先行したのだろう、とシエルは思った。

 

「こら、ラケル。いい加減にしないと本当にジュリウスが心労で倒れるわよ。……それで、結局例の件は本当だったの? これだけ気苦労をかけたのに、何の収穫も無かったってことはないわよね?」

 

「ええ、お姉様……私たちの推測は、間違っていませんでした。榊博士は実に快く、資料を開示してくれましたよ。例の報告書だけでなく、それ以外にまとめられたものも、全て」

 

「え……そんなにあっさりと……!?」

 

「さすがに持ち出しは止めてくれ、と言われてしまいましたが。あの場で閲覧する分には、全く問題ないと仰ってくれました。それどころか……私たちが想像していた以上に、研究は進んでいます。謙遜してはいましたが、事実上の制御下にあると言って良いでしょう」

 

「そんなことが……ありえるのか……!?」

 

「ええ。何なら明日にでも確認して構わない、と言ってくれましたよ」

 

 想像していたよりもずっと、アナグラは協力的(・・・)である──と、ラケルは微笑む。実際、隠し事をされることなく情報を公開されたうえ、自分たちが掴んでいた以上の事実さえもあっさりと認めてくれたのだ。本来であればある程度出し渋ったり交渉をしてくるはずなのに、その素振りもほとんどない。当初想定していたような、悪辣な組織であるという可能性はかなり小さくなったと言って良いだろう。

 

「ごめんなさいね。今回の件は、本当に私のワガママなの。ジュリウスの懸念は尤もだし、結果的に問題ない……問題ないはずだとは言え、本来であれば迂闊に手を出すべきでは無かった。少なくとも、私の行動は褒められたものじゃない」

 

「……そんな危険を冒してまで、ラケル博士が知りたかったことって何ですか?」

 

 ジュリウスがあれほど必死に止めてなお、ラケルが好奇心を抑えきれなかった何か。あの冷静で穏やかなジュリウスが周りの目を気にしないほどに真っ赤になって怒り、そしてあの、物静かで落ち着いたラケルが年頃の娘のようにはしゃいで上機嫌になってしまう何か。

 

 そんな「何か」がどうしても気になって。今までずっと黙っていたヒロは、思わずつぶやいてしまった。

 

「……ジュリウス?」

 

「そうですね……ここまで来たのなら、私の口で伝えるよりも実態を知ってもらったほうが良いでしょう。今の私が伝えるよりも、ありのままを直接見てもらったほうが信じてもらえる」

 

「妙に引っ張るな……そんなにヤバい代物なのか?」

 

「それを判断するのは、お前たちだ……ただ、信じがたい代物であるというのは保証しよう。正直、俺自身もまだ信じ切れていないのだから」

 

 ちら、とジュリウスは時計を見る。約束の時刻まで、あとおよそ十五分と言ったところ。少々早めだが、まだこのアナグラ内に慣れていないことを考えると、そろそろ出発したほうが良い頃合いだろう。

 

「──行こう。ひとまず最悪の事態は回避できたが、油断はできない。ラケル先生には常に注意を払うのと、何があっても、何を見ても取り乱さないようにしてほしい……これは、隊長としての命令だ」

 

 ぴん、と張り詰める空気。ただし今回は、悪い意味のものではない。ジュリウスのその真剣な気持ちがメンバーに伝わって、お互いの気持ちの切り替えができたという証明だ。

 

「……ここだな」

 

「……思っていたより、早く着いちゃったね」

 

 連絡通路を抜け、エントランスのエレベーターに乗って。アナグラ内は武骨で似たような景色が多く、少々迷いやすい構造になっていたが、「親切な神機使いさんたちに教えてもらった」というラケルのおかげで、ジュリウスたちは想像していたよりもずっと早くそこ──ラウンジの前の扉へとたどり着くことが出来た。

 

「……考えてみれば、ラウンジでブリーフィングをするというのも妙な話ですね」

 

「それってつまり、フツーの会議室じゃできないようなことをするってことかな?」

 

「具体的には、ロミオ先輩?」

 

「お、俺に聞くなよな!」

 

「……さっき言ってたろ、関係者全員を集めるって。単純に、デカい部屋がここしかなかったってだけの話だろうさ」

 

 どうやらすでに、極東の人間は集まっているらしい。扉一枚隔てたその向こうからは、人の気配を確かに感じる。それも一人や二人の話ではなく、僅かに漏れるその喧噪の気配から……おそらく、二十人近くはいると思われた。

 

「ふー……」

 

「あら……緊張しているの、ジュリウス?」

 

「らしくないわね。ここまで来たのだから、どんと胸を張りなさいよ」

 

「善処しましょう……ヒロ、何かあったらフォローを頼む」

 

 最後に大きく深呼吸をして。

 

 ジュリウスは、その扉を静かに叩いた。

 

「──失礼、ジュリウス・ヴィスコンティ以下ブラッド隊の者ですが」

 

 

 ──やべっ!? もう来ちゃった!?

 ──大丈夫、準備はばっちり整っているッ!

 ──待って待って、まだ心の準備が……!

 

 

「……なんか慌ててない?」

「……慌ててるね」

 

 

 ──やっぱ開幕で土下座するしかないか……!? 最悪査問会行きか……!?

 ──なぁに、それくらいだったら問題ないさ。俺が言うんだ、間違いない。

 

 

「……はて、土下座とは?」

「……なんか聞き覚えがあるような。いや、まさかな」

 

 

 ──ふ、服っ! 服、変なとこないですかっ!?

 ──ええ、ばっちり。世界で一番可愛いですよ……でも、ちょっとだけ直させてもらえますか?

 

 

「……ジュリウス」

「……どうした、ヒロ」

 

 

 ──よーし、みんな準備は整ったな!? 開けちゃうぞ!

 ──待って隊長、マイク忘れてる!

 ──おっといけね!

 

 

 扉の向こうからわずかに聞こえてくる、そんな声。なんだかとてもとてもフクザツな気持ちになったヒロは、その言葉を言わずにいられなかった。

 

「これから始まるの、ブリーフィングなんだよね?」

 

「…………」

 

 ジュリウスは、無言でその扉を開けた。

 

 

 

『あっ──んん! ブラッド隊のみなさん、ようこそ極東へ! 突然ですが──ささやかながら、歓迎会をしたいと思います!』

 

 飾り付けられたオシャレなラウンジに響く、マイクの音。

 

 ジュリウスたちの目の前──部屋の真中のバーカウンターには、豪勢なご馳走が並べられていた。




 GE1主人公が喋った時は、満を持しての初台詞があんなにも熱いシーンでの燃える台詞だったので、めちゃくちゃテンション上がりました。セリフは今でも諳んじることができるくらいで、本当に大好きでマジでゲーム史上に残る偉業だったと思います。

 でもGE2主人公が喋った時は、「えっ待って今の誰?」、「えっもしかして今喋った?」……ってなっちゃったの。そのあとボタンを押して主人公のアップが出たところで、「お前か!」ってなりましたね。

 割とぬるっと会話に参加してきたし、一言二言で終わっちゃったし……。GE2主人公の初台詞ってGE1に比べると印象が薄いというか、パッと思い出せる人ってかなり少ないと思います……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。