GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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55 邂逅(前)

 

『──正直、危険性はないと思う。具体的な根拠って言われたら困るけど……うん、すごく説明が難しいけど、見たらわかるというか』

 

「そうか……わかった。ヒロ、お前の判断を信じる。……何事も無ければ、あと十五分ほどでそちらに着く」

 

『了解』

 

 エイジス付近上空、ヘリの中にて。通信が切れた途端にどこか物憂げにため息を吐くジュリウスと、そんなジュリウスとは対照的にどこまでも楽しそうに微笑むラケル。

 

 先行していたブラッド隊からもたらされたその報告は間違いなく吉報ではあるのだろうが、それはそれとして、ジュリウスが未だこれからのこと──ラケルを白いアラガミに会わせるということに心では反対しているのは明白だった。

 

「まあ、その、なんだ……この仕事が終わったら、一杯やるか?」

 

 ジュリウスの胃の痛みが何だか自分にも伝わってくるような気がして、リンドウは思わずそんな言葉を口にする。隊長経験者として部下を取りまとめる苦労も、いろんな意味で上に振り回される苦労も知っているリンドウにとって、今のこのジュリウスの状況を見て見ぬふりをするなんてとてもできなかったのだ。

 

「気持ちは大変ありがたいのですが……正直、そんな余力が残っているとはとても……」

 

「俺が言うのもなんだけど、気を張り詰めすぎないほうがいいんじゃないか? 先行している四人とも仲良くやれてるんだろ? 心配することなんて何もないさ」

 

「む……ですが、しかし」

 

「あいつの背中で昼寝するのは気持ちいいんだ、これが。索敵も勝手にやってくれるし、あいつの傍がある意味じゃ一番安全だぞ」

 

「──そうよ、ジュリウス。そんなに難しい顔をしていると、逆に嫌われてしまうかもしれないわよ?」

 

 ──このねーちゃん、自分のせいでピリピリしてるってわかってんのかな?

 

 どこまでも呑気で楽しそうなラケルの発言に、リンドウは心の中だけでそんな言葉を呟く。

 

 そう、全てはこのラケルが問題なのだ。白いアラガミ──ルーに興味を持ちすぎたあまり、勝手に一人で極東に乗り込んできたばかりか、現場職でもないのに実際に実物を見てみたいと言い出し、こうして半ば強引にそれを認めさせている。周りを振り回すのをなんとも思っていない……それどころかそれを楽しんでいる節さえある。

 

 もしラケルがもっと落ち着いた性格をしていたのなら。きっとジュリウスはもっと心穏やかにこの任務を遂行することが出来ただろう。

 

「ははは、ジュリウスくんの懸念も尤もだ──しかし、私がルーくんと触れ合う姿を直接見れば、少しは気も休まるんじゃないかな?」

 

「……榊博士」

 

 リンドウの隣から聞こえてきた、これまたやっぱりどこか楽しそうな声。確認するまでもなくいつも通りのどこか胡散臭い笑みを浮かべているのは、他でもない極東支部長である榊だった。

 

「確か、榊博士も白いアラガミ……ルーと触れ合うのは初めてだとか」

 

「うむ。ラケル博士の前に行うテストケースとしては申し分ないだろう? 男性である私で問題なければ、ラケル博士もまず問題は無いはずだ」

 

 研究肌の人間という意味で、榊とラケルは同じ属性を持っていると言える。そのうえで、榊は男性であり成人している……すなわち、若い女性であるラケルに比べてルーの友好度はやや稼ぎにくい性質だ。そんな榊が問題なくコミュニケーションを取ることが出来たのであれば、ラケルも当然問題ないだろうという理屈である。

 

「さらに、キミを始めとしてここにリンドウくん、ソーマくん、ギルくん……手練れの神機使いが四人もいる。もし今から会いに行くのが普通のガルムであったとしても、過剰戦力と言ってもいいんじゃないだろうか」

 

 ラケル博士にはジュリウスが。

 レア博士にはギルが。

 そして榊博士にはソーマが。

 

 万が一を考えて、非戦闘員──フェンリルの中でもあらゆる意味で重要な役割を持つこの三人には、専属の護衛として神機使いが配備されている。元より、今から向かう先に危険なんてないのはリンドウや榊にはわかりきってはいることだが、それでもこういった態勢を取っているのは、ジュリウスの不安をぬぐうためという一面もあった。

 

「もし想定外のアラガミが乱入してきたとしても、その時はきっとリンドウくんがなんとかしてくれるさ。我々の身が脅かされることなんてありえないよ」

 

「……博士の御身だけでなく、我々部下の心労についても慮ってほしいものですな」

 

「なぁに、信頼しているからこそさ」

 

「だったら、全部俺たちに任せて部屋で大人しくしていてくれよ……」

 

 ぎょっとした様子でリンドウを見るジュリウスとギル。しかしリンドウは一度言った言葉を撤回するつもりは一切ないし、ソーマに至ってはわざとらしく見せつけるようにして首を縦に振っている。

 

 きっと色々諸々、普段から振り回されて鬱憤が溜まっているのだろう。こういう時でもないと「反撃」ができないのだから、こぞってそれに乗っかっているに違いない。

 

 というか、そもそもとして。

 

 リンドウは──現在進行形で、榊博士に【内緒のお願い】をされてこき使われている身だ。

 

(なぁにが「リンドウくんがなんとかしてくれる」だよ……人使いが荒いぜ、このおっさんは……)

 

 三人の博士に、三人の護衛の神機使い。たった一人あぶれたリンドウは「何とかしてくれるための人」、すなわち万事に対し即座に対応する遊撃隊のような役割を持っている……と、榊博士は言った。そしてそれは、紛れもない事実である。 

 

 ただし。

 

 それには全く別の、本当の意味合いが含まれている。

 

「……おや、そろそろ見えてきたんじゃないかな?」

 

「思っていたよりもずっとエイジスって大きいのね……あら? もしかしてあそこに見えるのが……」

 

「ふふ……! ようやく、ようやく会えるんですね……!」

 

 

 

 ──ラケル博士と会った時のルーくんの反応を、注意深く見ておいてほしい。

 ──ルーくんと会った時のラケル博士の反応も、注意深く見ておいてほしい。

 

 

 

 出撃前に、榊からリンドウだけにこっそり伝えられたその言葉。一人だけ身軽に動けるという立場を利用して、何よりも優先して注意を払っておいてほしいと言われた、その秘密の【お願い】。

 

(どうせ何か理由があるんだろうが……)

 

 ルーと出会ったときのラケルの反応を見て、何の意味があるのだろうかとリンドウは思っている。というかルーの反応でさえ、サンプルデータはすでに十分に集まっていると言って良い。そもそも、ルーが人に対して友好的なのは明白なのだから、もはや調べる必要なんてどこにもないのではないか……と、リンドウにはそう思えてならないのだ。

 

(何か疑ってるってんなら……言ってくれればいいんだがね)

 

 ヘリコプターの小さな窓から、必死に体を伸ばして外の様子を確認しようとするラケル。それはどこか子供らしい無邪気さと好奇心で心を満たした、なんとも微笑ましい様子にしかリンドウには思えない。隣に座るジュリウスの眉間の皺がどんどん深くなっていくことだけは気になるが、それはそれとして、あえてわざわざ内密に指示が下されるほど注意するべきことには思えなかった。

 

(ホントにマジで、最後に美味い酒が飲める一日であってくれよ……)

 

 

 ──もし、ルーくんがラケル博士に興味を示さなかったら(・・・・・・・・・・)

 

 

 榊からリンドウに伝えられた、最後の【お願い】。最初の二つの意味もリンドウにはよくわからなかったが、こちらは意味も意図も何もかもが理解できない、いっそ不気味ともとれるものであった。

 

 

 ──ラケル博士が嫌われているよりもマズい事態だから、決して彼女から離れないようにね。

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