GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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59 終末捕喰わけわかめ

 

「ルーちゃん……もしかして、ちょっと具合が悪かったりする……?」

 

 心配そうに私を見上げ、そしてわしわしと顎の下を掻いてくるウチの娘──チハルちゃん。できればもうちょい右の方をお願いしたいところだけれども、まぁそれはともかくとして、今日も今日とてウチの娘ってばとってもステキ。今日は緑のアジアンテイストなバンダナをカチューシャみたいに巻きつけていてすんごく可愛い。クソッタレなアラガミしかいないこの世界にマジもんの天使がいるとは。この世もまだまだ捨てたもんじゃない。

 

「なんかおかしいよねー? このコ、すっごく大人しくて人懐っこいのに……なんで、ラケル先生にだけあんなことしたんだろ?」

 

 私の背中にぎゅっとしがみついてきているのは、ブラッドのナナちゃん。まさかの実物(?)もチューブトップのサスペンダーが取れているという、ママとかオトナとかそんなの抜きにしても色々諸々心配になってくる格好をしているというのに、どういうわけか誰もそれを指摘しないという異常事態。普段のアリサに見慣れていたらこの程度誤差にもならないということだろうか?

 

「顔を舐め回していた、ですもんね……もしかして、おなかが空いていたとか?」

 

 私のおなかに埋まって心地よさそうにしているのはカノンちゃん。何気に結構な頻度で差し入れとして手作りお菓子を持ってきてくれるという女子力百億万点の元祖鉄塔の森ガール。残念ながら未だにミッションをご一緒させてもらったことが無いために、お菓子をくれる優しいおねーさんという印象しか今のところは無いけれども、いつかはそのスヴェンガーリーをぶっ放すところを見てみたいものである。

 

「しかし……空腹であったのなら、アラガミを狩りに行っていたのでは? あの後、何事も無かったように隊長やギルにも懐いていましたし」

 

 私のしっぽに抱き着いて、言葉とは裏腹に表情が緩みまくっているのがブラッドのシエルちゃん。何が凄いってこの娘、私に触れる時の手つきが凄く優しいというか、愛おしくて大切なものにそっと触れるかのような感じなの。時期が時期だからか、まだ表情はちょっと固めで冷たい印象を受けるのに、その瞬間だけマジですっごく柔らかい表情になってさ……! なんかこう、よくわからん母性てきなものがちくちくと刺激されまくりんぐ。個別エピソードの進行不能バグは本当にヤバかったですわァ……!

 

 ──ルゥ!

 

「……ご機嫌だね、ルーちゃん」

 

 そりゃもう。こんなにも可愛い娘たちにこんなにも慕って貰えて、嬉しくないわけないっていう。老若男女問わず、この状況でご機嫌にならない奴なんてこの世にいないんじゃないだろうか。もしいたとすれば、たぶんそれはもう人間としての感性を失っていると思う。

 

 なんだかこう、(てい)のいいデカいベッドとかクッション代わりにされている気がしなくもないけれど、それでこの子たちが喜んでくれるというのなら本望というもの。アラガミの体に生まれて(?)良かったと思う瞬間ですわ。

 

「ねえ、ルーちゃん……なんで、あの時ラケル先生にあんなことしたの?」

 

 ぺたぺた、ぺたぺた。

 

 そんなことを呟きながら、チハルちゃんは私の顔をぺたぺたと触る。何度も何度も繰り返し繰り返し。しまいには全身で私の顔を抱きすくめてきて、なんだかちょっとくすぐたいっていう。

 

「うーん……わからん」

 

 はて、わからんとは?

 

「感応現象って、なんかコツとかあるのかなあ……。私が一番、ルーちゃんと仲が良いはずなんだけどなあ……」

 

 あーね、感応現象ね。あれってばやろうと思ってできることじゃないからしょうがないよね。ユウとアリサがポンポンやってるから勘違いしがちだけど、本来ならいまだその原理が解明されていない謎現象だったりするし。

 

 ……あれっ? ちょっと待って、もしかして妙にみんなのスキンシップが激しめなのって、純粋な好意じゃなくて感応現象目当てだったりするの……? 私ってば、もしかして弄ばれてるのかしらん……?

 

「ルーちゃんとおしゃべりできればなあ。そうしたら、あの時のことを聞けるのに……」

 

 冗談はともかくとして。

 

 まず間違いなく、チハルちゃんたちは先日のラケルせんせーとの一件について不思議に思っているのだろう。人懐っこくてキュートでジーニアスなイケメンアラガミのはずの私が、どういうわけかラケルせんせーに対してだけ顔面を舐め回すなどと言った狼藉を働いたのだ。明らかに今までに見られない特異な行動だし、私か、あるいはラケルせんせーになにかあるんじゃねーかって不思議に思うのは当然の話ではある。

 

 ただなあ……。あの人、ブラッドのママ面しながら実はラスボスだったりするからなあ……。正直どんな風に接すればいいのかよくわかんねえっていう。

 

 既にゲーム本編と違う流れになっている……そもそもとしてとんでもないイレギュラーである私が存在している以上、キャラクターとしての彼らが私の知っている彼らと本当に同じかどうかなんて、だいぶ疑わしいところがある。だけれども、大きくは逸脱していないのもまた事実で、そしておそらく、私がこの世界に存在する前までは──厳密な時期とか定義とかはよくわからんけど、ともかく三か月くらい前までのそれについては、ゲーム本編と同じ流れになっていると考えて良いはずだ。

 

 つまり、どう考えてもラケルせんせーはヤバいやつでしかありえない。ジュリウスが神機使いとして存在しているというだけで、マグノリア=コンパスでは人体実験に近いアレコレで子供たちが犠牲になっているのだろう。

 

 ただ、時系列を考えると、これがマジの悪行だったのか……厳密に言えば、ラケルせんせーだけが悪人だったのかってのには疑問が残る。

 

 まず、ラケルせんせーの年齢は公表されていない。ただ、2074年現在にて姉であるレアせんせーが28歳で、レアせんせーが11歳の時に例の突き飛ばし事件が起きてしまった。【レアせんせーのお人形をラケルせんせーが勝手に持ち出した】のが事件の発端なわけだけれども、行動や過去回想時の体格から考えて、おそらくラケルせんせーは当時7~8歳くらいだったと思われる。

 

 つまり、ラケルせんせーはレアせんせーの3歳年下の25歳である、とすることにして。

 

 ジュリウスがラケルせんせーに……マグノリア=コンパスに引き取られたのは、回想シーンの体格から考えて10歳にもなってない頃だろう。5歳にしては考えもしっかりしているし、まぁ7歳くらいだとしておくとすると、つまり今から13年前、2061年の話だ。

 

 すなわち、ラケルせんせーは12歳の時にはマグノリア=コンパスを設立していて、GE2の一連の事件の計画……全ての偏食因子に適合できる人材を探していたってことになる。改めて考えると有能すぎるってレベルじゃない。もちろん実務や難しいところはパパや周りの人に助けてもらったのかもしれないけど、行動力がマジ半端ない。

 

 ……12歳の割に、ジュリウスの回想に出てきたラケルせんせーは今とおんなじ姿していなかったっけ? まぁ細かいことは気にしないでおくとしよう。

 

 ともあれ、マグノリア=コンパスに引き取られたジュリウスはその後、偏食因子に関する実験の被検体になるわけだけれども……。

 

 この時期って確か、ラケルせんせーに限らずフェンリルではだいぶヤバめの人体実験が横行している時期じゃなかったっけか?

 

 かなり古い世代の神機使いとしてよく名を挙げられるソーマ、リンドウさん、ツバキさんだけれども、ツバキさんの入隊が2059年、ソーマの入隊が2064年の話だ。神機使いの運用開始そのものは2056年だけど、この時はまだピストル型の第零世代神機の話だから、第一世代が普及し始めたのは2059年くらいと思っていいはず。

 

 で、この時はまだまだ適合失敗によるアラガミ化とかはしょっちゅう起きていた。というか、神機への適合が安全に行われるようになったのは割と最近の話で、【始まりのゴッドイーター】であるソーマが実戦に投入されるまでは、適合自体がバクチみたいなもので、だいぶヤバめの人体実験てきなアレコレは裏では普通に行われていた……ってのは、プレイヤーの共通認識だろう。ラケルパパと同僚の回想シーンでも、『実験の最中にオラクル細胞が暴走して死者が出る事故が起きた、フェンリルではよくある話だ』って言ってたし。

 

 つまり、少なくともソーマの初陣である2065年くらいまでは、だいぶヤバめの人体実験はフェンリルでは普通に行われていた、と考えて良いはず。

 

 そのうえで、GE2RBのキャラであるリヴィは、ジュリウスというラケルせんせーが探していた人物が見つかったことでお払い箱になってしまった。ラケルせんせーの性格的に考えても、【要らなくなったもの】はすぐにポイしちゃうだろうし、その後はジュリウスだけに注力していたのは想像に難くない。

 

 つまり。

 

 ジュリウスが見つかってから……人体実験とか、やってなかったんじゃね?

 

 ナナもロミオもクラス(?)が別だから、マグノリア=コンパス時代は面識がなかった。シエルはジュリウスの付き人として、レアせんせーがガチで心配する程度には過酷な戦闘訓練を強制されていたわけだけれども、それでも未だにレアせんせーを「先生」と呼び慕うくらいには真っ当で、そして普通に三人とも卒業している……人体実験てきなことは、されていない。

 

 レア先生だって、『他のみんなも立派に巣立っていった、それだけが唯一の救いだ』……って言ってたし、後ろ暗いことがあったのは事実だとしても、養護施設としてのマグノリア=コンパスの実績は割とマジなんだろう。

 

 やっても意味がない実験を延々とやり続ける理由は無いし、下手にそんなことをしていたら誰かにバレるリスクはどんどん大きくなる。となると、目的を果たした後は養護施設という隠れ蓑だけがそのまま残った……って考えたほうが、自然なような気がしなくもない。

 

 結論。

 

 2061年頃にジュリウスがマグノリア=コンパスに引き取られた。でも2065年くらいまでは、みんなヤバめの人体実験をやっていた。で、ジュリウスに適性があると分かってからは、人体実験はやってなかったかもしれない。

 

 一応、不正を告発しようとしたラケルパパが殺されたのは2071年だけれども、この頃にはもうジュリウスもリヴィもフェンリルに所属している……つまりは、マジでマグノリア=コンパスは用済みだから、非合法の実験を続けていたとは考えにくい。神機兵の開発もしていただろうし、そんなの気にする余裕も無かったことだろう。

 

 つまり、ラケルパパが告発しようとしたのは……明言されていないだけで、過去のラケルせんせーの悪行だったんじゃないかなって思うのよな。

 

 長くなったけど、時系列的に考えるとラケルせんせーだけが悪人とは思えないし、むしろもっとヤバそうなのがフェンリル本部にはもっとたくさんいるんじゃねーか疑惑もある。それに一切の感情を抜きにして考えると、【野垂れ死ぬかアラガミに食い殺されるか】のどちらかの未来しかない子供に対し、【死ぬほどつらいかもしれないけど、ひとまずの生活は保障するしその後の生活も安泰になるかも】って選択肢を与えているともとれるわけだし。

 

 あのご時世、身寄りのない子供を引き取って面倒を見るってだけでも大変なのに、だいぶスパルタとはいえ普通に職業訓練をして職業斡旋までしてくれているからね……。それに結果的に、マグノリア=コンパスがあったおかげでブラッドが生まれたわけで、彼らがいなければ感応種に対抗手段を持たない人類は冗談でも何でもなく滅亡している。

 

 シナリオ的には悪役に描かれているし実際に悪人なのは間違いないんだけど、あのご時世のなかじゃしょうがない部分は大きいし、偽善とも呼べないけれどそれのおかげで本当に助かった子供たちも少なくはない。そして、それ以上に人類に対する貢献がデカすぎるからラケルせんせーを恨み切れないんだよな……。

 

 ──ルゥゥ……。

 

「……ルーちゃん? どしたの、おなかでも痛いの?」

 

「えっ……このコ、おなか痛めるとかそーゆーのあるの?」

 

「うーん……毒のあるアラガミでも平気で食べてぴんぴんしているから、そういうことはないはず……なんだけど」

 

 あとマジな話、あの場でラケルせんせーの頭を噛み砕いていれば、この後に起きる問題を全てなかったことにできる……けども、さすがにそれをやったらいろいろヤバい。私はもちろん、チハルちゃんやアナグラの面々の立場も悪くなる。それに、まだやってない以上咎めるわけにもいかないしな……。

 

「ラケル先生だけ無視して、ラケル先生だけ舐め回す……味を確かめても、食べようとはしなかった。行動だけで推測するならば、【ラケル先生を危険なものと判断した】ともとれると思いますが」

 

「えーっ! そんなこと、ありえるんですか?」

 

「私も専門ではないので何とも言えませんが……危険であると判断したものに、近づこうとしないのは自然な考えです。また、危険かもしれない……そう、例えば毒があるかもしれないものに対して慎重にアプローチするのもまた、それほど不思議ではないように思えます」

 

 ごめんねえ。ただ単純に、面倒ごとになりたくないからスルーしていただけなのよ。あの人マジで頭アラガミだから何考えているかわかんないし、下手にいちゃもんとか着けられると困るから完全に無視しようと思ってたのよ。

 

 でもなぜか、すんげえキラキラした顔でこっち見つめてくるしさァ……! ビジュアルだけはめちゃくちゃいいし、声だってすごく綺麗だし、原作にはなかった年相応の無邪気さもあって無視するのもだいぶ良心が痛んだんだよマジでさ……!

 

 でもって、そんな感じで見た目だけはすごく良いのに、あの人マジでアラガミくさいんだよ。もうホント、ソーマやリンドウさんとは比べ物にならないくらいにアラガミ臭がぷんぷん。

 

 や、アラガミくさいって言うとちょっと語弊があるかも。意外なことに、普通に良い匂いなんだよね。割とマジに冗談でも何でもなく良い匂いで……そう、綺麗なおねーさんとすれ違ったときの甘い匂いというか、近所の少年の初恋キラーのおねーさんの匂いというか、クールだけどふとした時にすごく優しい表情になるおねーさんの匂いというか……わかる、このニュアンス?

 

 ただ、それと同時にヤな匂いでもあるんだよ。美味しそうな匂いではあるんだけど、それはそれとして食事時以外は嗅ぎたくないというか。例えるならニンニクとか豚骨とかそっち系のイメージ。食べているときは良い匂いなのに、仕込み中とか食後とか、あるいはふとした拍子に「ウッ」ってなっちゃう系の匂い。マジにニンニク臭がするわけじゃなくて、あくまでそういう系統のアレってだけなんだけど。

 

 で──そんな匂いがするもんだから、ついつい「味はどうだろう?」って気になっちゃったのよね。なんかよくわからん感じでガン飛ばされたりもしていたし、これならビビらせることもできてちょうどよいと思った次第。相手をビビらせつつ味見もできるとか一石二鳥なのでは?

 

 まぁ、全然美味しくなかったんだけど。スルメ、あるいはコクーンメイデンみたいにそのうち味が染みて来るかな……なんて思って何度も舐めて見たけどほぼ味はしない。地味にお高い化粧品(?)っぽいアレの味はしたけど、ほぼ無味。アラガミとしての味もしなかった……ってことは、たぶんあの匂いは精神性か何かに起因するもので、少なくとも肉体的には普通の人間とほぼ同じってことなんだろう。

 

 最後になぜか失望(?)されたのだけはわけわかめ。ブチ切れられるよりかは良かったと思うことにする。あの様子だと、顔を舐めたことに対するお咎めはない──私をどうやって咎めるんだって話はともかくとして、無事に切り抜けられたのだろう。

 

 それにほら、言ってみれば可愛いわんちゃんが深窓の令嬢の頬を舐めただけだ。もし何かあろうとも、俺たちの榊博士ならきっとそういう風に弁護してくれるはず。

 

 【悪役が囚われのヒロインの頬を舐めてる】って言われたらおしまいだけど。昔のアニメだと割とよく見るシーンだったのに、最近じゃ全然見なくなったよね。

 

「でも……ラケル博士って、危険な感じはしませんよね……?」

 

「……で、ですよね」

 

「というか、あの中じゃ一番か弱い人になるんじゃないかなあ……?」

 

「うーん……怪我をしていた時の私よりもか弱いだろうし、今まで見てきた中で一番守るべき存在になる、と思うんだけどなあ」

 

 というか、そもそもの話として。

 

 ラケルせんせーの目的って、いったい何なのだろう?

 

 GE2本編では、結局のところ終末捕喰を起こすために色々諸々頑張っていた。どこまでが計画の内だったかはわからないけれど、赤い雨によって生まれた黒蛛病──特異点の素みたいなものに対し、オラクルリソースとしての神機兵とジュリウスの《統制》を使うことでジュリウス自身を特異点に仕立て上げようとしていた。細かいところはよくわからんけど。

 

 そう考えると、ラケルせんせーは私のことを特異点だと思っている……って可能性は、割と高いと思う。あんな面倒なことをしなくとも、ちょっと足を延ばせば特異点を現地調達できるってんなら、それに越したことはないわけだし。

 

 で、普通のアラガミとは違うという意味では、私は間違いなく特異点候補なんだろうけれども……そもそも、特異点ってなんだろう? 何を以って特異点は特異点と呼ばれるのだろうか?

 

 シオちゃんは存在そのものが特異点だった。まぁ人型アラガミってだけで特別感が満載だし、それ自体は不思議でも何でもない。そしてジュリウスはいろいろあって特異点化させられたわけだけども、なんかこう特異点の素を詰め込まれて煮詰めた(?)結果そうなったのだから、これもまあわかる。

 

 だけれども、私の場合はちょっと賢いイケメンアラガミってだけだ。特別は特別だけど、特異点として特別なのか……って言われると、ちょっと疑問が残る。おそらく、肉体的な意味ではただのめちゃくちゃ強いだけのアラガミだろうし、そもそも世界観的に考えて、特異点とかそういう次元を超えたイレギュラーなわけだしね。

 

 だから、あの時ラケルせんせーが失望した顔をしていたのも、「アッこれ特異点じゃないわ」って察したからだと思う。そこはまぁ、私の脳ミソでもなんとなくわかる。

 

 ……改めて、特異点ってマジで何なんだろうな? 超高密度の情報集積体で、終末捕喰を引き起こすためのコア……ノヴァの起動キーって感じだけど、別にノヴァそのものでは無かったはず。あくまで終末捕喰時に【好き嫌い】をさせないためのレシピみたいなもので、単体ではそんなに意味が無いはず……だよね?

 

 そう、特異点であるシオちゃんをノヴァに与えて終末捕喰を引き起こしたヨハネスのことはわかる。だけど、特異点&アラガミ化したジュリウスを使って終末捕喰を起こそうとしたラケルせんせーのことがわからん。ジュリウスが特異点なら、それとは別に終末捕喰を実行しているアラガミがいるはずじゃろ?

 

 あと冷静に考えると、もう一つの終末捕喰で終末捕喰を相殺するってのもわからん。実際にどんな存在が喰らい合ってるっていうんだろうか?

 

 ともあれ、ラケルせんせーの究極の目的は終末捕喰で間違いないはず。となると、何かのきっかけで私自身がノヴァてきに終末捕喰してくれるのを期待しているのか、それとも何かのきっかけで特異点化した私をジュリウスの代わりに使う……いや、特異点化したジュリウスをわざわざアラガミ化してるんだからどっちも大して変わらないのか? それとも単純に、ジュリウスが上手くいかなかったときのためのバックアップを期待していたのだろうか?

 

「か弱いし、優しい人……だよねえ。ルーちゃんの好みのタイプだと思うんだけど」

 

「ですよね。こう……部外者の私が言うのも何ですけど、ブラッドのおかあさんって感じで」

 

 そうなんだよなあ。割とマジに身内に関してだけは本当に母親みたいな振る舞いをしているんだよなあ。血の力が暴走してメンタルやられかけたナナちゃんを心配してケアしていたり、それ以外にもちょこちょこ「家族」のことを気にかけていたり……。

 

 というか、ラケルせんせーってば頭アラガミのヤバい奴扱いされているけれど、アラガミの意志のおかげで人間らしくなったんじゃねーかって思わないこともないこともない。今のラケルせんせーがサイコさんなのは事実だけれど、P73偏食因子による蘇生手術を受ける前……内なるアラガミを宿す前から、あの人はだいぶヤバかった。幼少のレアせんせーが薄気味悪く思うくらいにはちょっと異常で平気で人のものを持ちだしたりしているし。

 

 「あの事故のあとから、あの子は前よりもずっと笑うようになった」……ってレアせんせー自身が言ってるんだもん。つまりラケルせんせーがサイコさんなのは生まれつきの素で、アラガミ成分が入ったおかげでまともになったって言ってもいい。

 

 で、だ。

 

 生まれる前から……胎児の段階でP73偏食因子を埋め込まれたソーマは、後天的にP73偏食因子による治療を受けたラケルせんせーよりも、よっぽどアラガミに近い存在だと言って良い。偏食因子の影響が肉体に色濃くでていることからも、それは間違いない事だろう。

 

 なのに、ソーマは別に終末捕喰を望んだりはしていない。ラケルせんせーよりもよっぽどアラガミに近しい存在なのに、アラガミの声なんて聞いちゃいない。

 

 つまり……例のアラガミの声ってのは、アラガミの意志でも何でもなくて素なのでは? 遅れてきた厨二病というか、元来の電波でサイコなそれが未だに治ってなくて残り続けているだけなのでは?

 

 奇しくも、8歳とか9歳なら見えないものに憧れるというか、その……そういう(・・・・)お年頃なわけだ。ほら、クラスに一人は幽霊が見えちゃう系女子っていたじゃん。それ自体ははしか(・・・)みたいなもので、誰しも若い頃に一度は経験するちょっと恥ずかしい若い思い出なんだけども……。

 

 罪悪感マックスのレアせんせーと、あの閉ざされた生活環境で存分に甘やかされていたら……ねえ? そりゃあ性格もひん曲がるのも頷けるって物ですわ。せめて、もっと真っ当に対話が出来ていればよかったんだろうけれども。

 

 ──ルゥゥ……。

 

「ルーちゃん? ……もしかして、あの時のこと反省しているの?」

 

 や、それはない。生まれてこの方、やって来たことに後悔したことなんてちょっとしかない。

 

 けどまあ、勘違いしてくれるならそれに越したことはない。

 

「……大変だったんだからね、あの後。ルーちゃんの涎でべたべたになっちゃったラケル博士をみんなでお風呂に入れてさ。お洋服だってちゃんとしたやつだから、きちんと手洗いしないといけなかったし」

 

「おまけに、ラケル先生はずっとぼーっとしていて上の空……おかげで、やりやすくはありましたが」

 

 なんだろうコレ、私が聞いても良い話なのだろうか。なんだかとってもイケナイ感じの匂いがぷんぷん。まぁ、ジュリウスにはさすがに任せられないのだろうけれども。というかバスタブなんてあそこにあったの……?

 

「……ぬ?」

 

 おん?

 

 ピピ、っていういつもの電子音。チハルちゃんのインカムに何か通信が入ったらしい。

 

「通信ですか? 定期連絡にはまだちょっと早いような気が……」

 

「それが、カノンさん……なんか、今すぐみんな戻ってきてほしいって」

 

「「えっ」」

 

 えっ。

 

「みんな、とは当然我々ブラッドも含んでいますよね。何か異常事態でもあったのですか?」

 

「そういうわけじゃないみたいです。ただ、関係者全員で臨時のブリーフィングをしたいから戻ってきてほしいって。こっちには、代わりにケイイチとレイナちゃんがやってくるからって……」

 

「いきなり呼び出しってことは……何か、新しいことが分かったってことなのかなあ?」

 

「うーん、どうだろ? でも緊急で呼び出したってことは、何かあるはず……だと思う」

 

 そう言って、チハルちゃんは名残惜しいとばかりに私の顎をわしわしと掻きあげる。ナナは背中にぎゅっとしがみつき、カノンちゃんはおなかにほおずりし、そしてシエルは愛おしそうに尻尾を抱きすくめて。

 

「じゃ、また来るから……ちゃんといい子にしておくんだよ?」

 

 ──ルゥ!

 

 いきなりの呼び出し。たぶんきっと、榊博士が何か新しいことを発見したのだろう。それがいったいどんな結末になるのかはわからないけれど……まあ、あの人のやることなら間違いはないだろう。私はただ、チハルちゃんたちの帰りを待つだけだ。

 

 でも、できれば。

 

 出来ることなら……誰も傷つかない優しい未来であってほしい。難しいことを考えず、呑気にアラガミ食べ放題を楽しめるこの生活が続けられたらなって思う。どうか、この呼び出しが平穏無事に終わりますように。




・ゲーム本編や漫画版を見ても、結局特異点って何なのかよくわかんなかった。

・GE2ラストの「終末捕喰で喰らい合わせる」ってのは、それ以上によくわかんなかったです……。プレイしていた当時はノリと勢いでそういうもんだと思ったけど、冷静に考えると「……ん?」ってなっちゃったの……。
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