GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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72 リッカの携行品講座(後)

 

 

『──ルーの涎だけど?』

 

 

 

 五人の表情が、ぴしりと固まった。

 

『強制解放剤は活きの悪いオラクル細胞を使っているせいでデメリットがあるわけだけど! でも、強力なアラガミの採れたてほやほやのオラクル細胞がいつでも手に入る今なら! 技術的課題はほとんどクリアしたも同然! あとはもう、携行品としてデザインを落とし込むだけで済むんだよ!』

 

 だって、普通に捕喰しているのとほとんどやっていることは変わらないのだから。劣化しないように加工を施し、持ち運べるようにしたオラクルの塊……否、液体。それこそが、【強制解放剤 極】の正体であった。

 

『無理矢理励起させているわけじゃないから、体力の消費がないのも当然だよね! むしろ原料が持つ潜在的なオラクルエネルギーが大きすぎて、安定化させるのに苦労したくらいだよ!』

 

 従来の強制解放剤とは根本から仕組みが違う。そしてやっていることは至極単純。そして何より、強力なアラガミの素材がいつでもたくさん手に入る……そんな、今までになかった理想の環境。ゆえに、この短時間でこれだけの効果をもたらすものを開発することができたのだ。

 

「くそ……ッ! くそ……ッ!! リッカのやつ、なんてモン作りやがったんだよ……!!」

 

「いやコレ……発案は榊博士じゃない? だって初恋ジュースを作るような人だよ?」

 

「効果だけは魅力的なのが、逆に悔しさすら感じますね……!」

 

 ソーマもコウタもアリサも、どこかげんなりした顔で愚痴をつぶやく。科学的には全く問題ないし、そもそも体にオラクル細胞を取り入れるのなんていつものことではあるのに、やっぱり気分的にはひどく受け入れがたいものであるらしい。

 

「涎か……たしかに回収してたけどさ……! 薬の材料にするなんて言ってなかったじゃねえかよ……! 材料にするにしても、毛とか血とか、ほかにもこう……さあ!」

 

『そっちはもっと大事なサンプルだからねー。大量に採れてほかに使い道のないのは涎だけだったんだよ?』

 

「チハル! お前はどうなんだよ!?」

 

「ど、どうって言われても……そりゃ、涎って言われた時はその……ちょっと、アレだなって思ったけど」

 

 ──あ、いくらなんでも涎はイヤなんだな……と、その場にいた人間の気持ちはひとつになった。

 

「でも、背に腹は代えられないっていうか、これだけすごいんだからそんなに気にならないよ! やっぱ技術の進歩ってすごいなあって思った!!」

 

『そうそう。従来の強制解放剤だって、作るの大変だったんだからね? バースト関連で言えば、リンクバーストもすごく進歩しているでしょ? 三年前まではリンクバーストした後に捕喰しても持続時間は伸びなかったし、濃縮アラガミバレットを撃ったらバースト状態は解除しちゃってたけど……今は捕喰すればその分維持できるし、濃縮アラガミバレットを撃っても解除されない』

 

 チハルたちが普段あまり気にしていないだけで、神機使いの戦闘が少しでも楽になるように、技術者たちは常にその頭を悩ませている。普段何気なく利用しているそれらさえ、技術者たちの努力の末に生まれた結晶に他ならないのだ。

 

『ちなみにこれは余談だけど……実は、リンクエイドも強制解放剤と仕組みが似てるんだ。自分のオラクルを呼び水にして、相手のオラクルを活性化させてるんだよ。だからあくまで意識不明を呼び起こすだけしかできない……けど、神機の調整次第で、体力回復効果を付与したり、相手をバースト状態にすることもできる』

 

 自身のオラクルを使った、心臓マッサージのようなもの。意識不明……つまり、活動停止に近しい状態になったオラクル細胞を、外部からのオラクル的刺激により再度活性状態に持っていくというのがリンクエイドの原理だ。それゆえに、神機によるサポートを加えることで対象の体力をより多く回復させたり、対象をバースト状態にすることもできるのである。

 

『ただ、これには直接相手に触れる必要がある。少なくとも今の技術じゃ、回復弾みたいなやり方でリンクエイドをすることはできない。……少し前に話した、神機を使わずオラクルを外部的に作用させられる例外ってのは、このリンクエイドのことなんだ』

 

「見た目は地味だけど、言われてみりゃたしかにそうか……てっきり、例外ってのはブラッドアーツのことだと思ってたんすけど」

 

『私はリンクエイドのつもりで話してたけど、なんか言える空気じゃなくなっちゃったからねー』

 

 リッカの話が終わったまさにそのタイミングで、五人全員のバースト状態が終了する。先ほどまでの高揚感は夢か幻であったかのようにすっかり消え去って、あれほどうるさかった脈拍も今は平常時のそれと変わらない。

 

『うんうん、問題ないみたいだね! 旧型も新型も、継続時間の誤差はこっちの想定に対して2%以内! チハルちゃんもキョウヤも持続時間はほぼ同じだから……うん、やっぱり感応能力の高さも関係はなさそうだね』

 

 サンプルデータが都合五つほど。そのどれもが想定通りの結果となっているのだから、検証結果としてはこれ以上のものはないだろう。まだいくらか細かい検証をする必要はあるのかもしれないが、大きな課題はこれでクリアできたと言ってもいい。

 

「……ん?」

 

「どした、キョウヤ?」

 

「いえ……今のリッカさんの言葉ですけど。第一世代の銃型でコウタさん、同じく第一世代の剣型ってことでソーマさんがテスターに選ばれたってことですよね」

 

「だな。いまアナグラにいる旧型なんて俺たちくらいだろうし」

 

「で、新型神機使いの俺と、《喚起》されて感応能力が高くなった新型神機使いのチハル……これで、条件は一通りそろってるわけです」

 

 つまり、リッカが最初に述べた【本人の強い希望により参加した人】とは。

 

「……アリサさん?」

 

「わ、私も感応能力の高さではちょっとした有名人なんですよ?」

 

 確かにアリサは極東における感応現象の第一人者と言ってもいいくらいに感応能力が高い。が、それもあくまで程度問題であり、ブラッドアーツに目覚めたチハルほど高いわけでもない。アリサと同じくらいに感応能力が高い人間は、数こそ少ないと言えど探せばそれなりに見つかるのである。

 

「そ、それに……サンプルは多ければ多いほど良いはずですし……」

 

「そりゃそうですけど、クレイドル(あなた)がわざわざこんな雑用を受けなくても……ただでさえ、普段から激務だってのに」

 

「だからこそ、です! 激務だからこそ、少しでもチハルちゃんと一緒にいられる時間を大切にしたいんじゃないですか!」

 

「わぷ」

 

「……う、うっす」

 

 堪えきれないとばかりに、アリサはチハルをぎゅっと抱きしめる。毎度のことながら、チハルはアリサのされるがままになってしまっていた。

 

「うーむ……昔から、いろいろ気にかけてくれる優しい人だとは思っていたが。割とマジに、あの感応実験から性格が変わっちゃってる気がするな……」

 

「……そっか、キョウヤ達にはそういう風に見えるのか」

 

「……うん?」

 

 キョウヤの何気ないつぶやき。それを目ざとく(?)拾ったのは、どこかおかしそうにニヤニヤと笑うコウタであった。

 

「いやさあ……キョウヤ達以上に、俺たちはアリサの変化に驚いているんだよ」

 

「そうなんですか? ああでも、コウタさんたちのほうが付き合いは長いんだから当然か」

 

「そうじゃなくて……昔のアリサは、本当にヤバいやつだったんだよね」

 

「「えっ」」

 

 チハルとキョウヤが、驚きの声を上げる。

 

 そして──アリサは、表情も含めて全身を強張らせていた。

 

「今でこそ後輩を気にかけたり、面倒見が良かったりするけどさ。昔はツンツンしていて、めちゃくちゃヒネくれていてさ。誰にも心を開かないぞーって感じだったんだよ。それどころか……」

 

「そ、それどころか?」

 

 コウタは、自身の神機を撫でながら、おかしそうに笑った。

 

 

 

「『旧型は、旧型なりの仕事をしていればいいと思います』……って、バカにされたっけ」

 

 

 

「「え゛っ……!?」」

 

 取り乱したのは、ほかでもないアリサであった。

 

「ちょ、ちょっとコウタぁ!? あなた、チハルちゃんたちの前でなんてことを!」

 

「そ、そうだよコウタさん……まさか、いくらなんでもアリサさんがそんなこと言うわけない……よね?」

 

「──言ったよな、アリサ?」

 

「う……」

 

 どこまでもおかしそうに笑うコウタ。そんなはずはないだろう、いつもの冗談か何かだろうと目を泳がせるキョウヤ。そして、自分の腕の中で不安そうに見上げてくるチハル。

 

 そして、アリサは先輩だ。後輩たちの目の前で嘘をつくことなんて出来るわけがない。ましてや、仮に嘘をついてこの場をしのげたとしても、後で調べればすぐにそんなのバレてしまう──つまり、余計に心証は悪くなる。

 

 この段階でもう、アリサに残された道は一つしかなかった。

 

 

 

「いっ……言いました、けども!」

 

 

 

 やけくそ気味に答えてから。そしてアリサは、おそるおそるチハルの顔を覗き込んだ。

 

「え……ほ、ほんとなの……!?」

 

「ちがう、ちがうの……! あの時の私は若かったというか、その……!!」

 

 例えようのない罪悪感。いや、そんなものでは済まされないほどの絶望感。ただじっと見つめられているだけなのにアリサの心はこれでもかというくらいに憔悴して、はっきりとわかるほどに顔から血の気が引いていく。

 

 出来ることなら今すぐ自室に帰って毛布を頭からかぶってしまいたい……いいや、過去の自分を縊り殺してやりたい。それが、今のアリサの本音であった。

 

「そ、ソーマさん……? アリサさんがそんなこと言ったのって、嘘だよね……? コウタさんの冗談とか、大げさに言ってるだけ……ですよ、ね……?」

 

 信じられない。信じたくない。

 

 そういわんばかりの、チハルの懇願にも似たその言葉を……しかしソーマは、彼にしては本当に珍しく、愉快そうに小さく笑いながら否定した。

 

「いいや、本当だ。俺も全く同じことを言われたからな」

 

「う、そ……」

 

「あの時は悔しくて悔しくて、枕を涙で濡らさない夜は無かったな……」

 

「ちょっとソーマぁ!? あなた、そんなキャラじゃないでしょう!? だいたいあなたのベッド、ガラクタが占拠していて寝られる状態じゃないじゃないですか!」

 

「でも、言ったのは事実だよな? 旧型だって、鼻で笑ってたよな?」

 

「わ、笑ったりなんかは、してませんよ……」

 

 でも、それに近しいことはしていた。鼻で笑ったと受け取られても仕方のないことはしていた。というか、あのアリサがはっきりと否定をしていないというその事実そのものが、コウタやソーマの話が本当であるという証明にほかならない。

 

「いや……いやいやいや……ちょっとマジで待ってくださいよ……。いくらなんでもそんなのあり得ないですって……!」

 

「キョウヤくん……! ええ、あなたならそう言ってくれるって信じてましたよ……!」

 

「だってどう考えてもおかしいじゃないですか!」

 

 予想外のところから現れた、救いの言葉。絶望の淵に叩き落されたアリサを照らす、希望の光。

 

 そんな希望は、一瞬にして崩れ去った。

 

 

 

「もしそれが本当なら、アナグラの神機使いのほぼ全員にケンカ売ってたってことになりますよ!?」

 

 

 

 その言葉に、アリサは撃沈した。まったくもってその通りなので言い訳のしようもない。とうとう堪えきれなくなったコウタはおなかを抱えて笑っているし、ソーマもまた、はっきりと見てわかるほどの笑みを浮かべている

 

「くっくく! そうだよ、あの時のアリサはマジでほぼ全員にケンカを売ってたんだ! 隊長であるリンドウさんとサクヤさんには一応従ってたけど……それも、けっこー不満たらたらって感じで!」

 

「アリサ以外の唯一の新型……ユウが相手でも、元無職の新人だからって明らかに見下していたよな」

 

「ちがう、ちがうんです……! 本当に、あの時の私は世間知らずのバカだったんですぅ……!」

 

「うわあ……し、信じられない……」

 

「逆に、そんな人がどうしてこんなにも優しい人になったんだ……? 俺たちが入ったときは今のアリサさんだったんだから、一年経たずに性格が変わったってことだよな……?」

 

 本当に、いろいろあったからね──と、ガラス越しにその光景を見ていたリッカは、心の中だけでつぶやく。あの一年間は他に類を見ないほど濃密な一年間で、リッカの人生の中で最もいろんなことがあった一年間だったと言ってもよい。いくらこの極東が波乱に満ちていると言えど、あれほどのことはもう起きないんじゃないか……とさえ、思えてしまう。

 

 けれども。

 

(それを言うなら、この数か月もそうなんだよね)

 

 ヒト型アラガミでもないのに、意志の疎通ができて人間を襲わないアラガミ──ルーの存在。その出会いをきっかけとした新しい発見が毎日のようにあるし、結果論とは言え一般神機使いであるはずのチハルがブラッドアーツに目覚めたりもした。

 

(……)

 

 そう。

 

 なんとなくだが──この時代の変遷に立ち会っているかのような不思議な感覚は、あの一年間のそれを彷彿とさせるものなのだ。

 

『……ま、あれほどのことなんてそうそう起きるわけないか』

 

「……ん? リッカさん、何か言いました?」

 

『んーん、なんでもない!』

 

 訓練所の中できゃあきゃあと平和そうに騒ぐ神機使いたちを、どこか愛おしそうなまなざしで見つめてから。

 

 そしてリッカは、取得したデータをまとめる作業にとりかかった。




 あえて語るまでもありませんが、強制解放剤の原理については独自解釈です。色々調べてみましたが、原理についての記載はどこにも見つかりませんでした……。

 以下は使ったことがない携行品ランキングになります。※個人の意見です。

1位:アンチジャミング剤
 もはや説明不要。ジャミング状態にしてくるアラガミがコクーンメイデンとラーヴァナしかいない。ジャミングに罹る機会自体が非常に少なく、そしてジャミングになったところで不便を感じない。なんなら罹ったことに気づきすらしない。そしてすぐに自然回復するのであえてわざわざアイテムを使って回復する理由もない。 
 なお、アンチジャミング剤は50%の確率でジャミング状態を解除できないため、そういう意味でも報われない。また、【アンチジャミング剤 改】はジャミングを確実に解除できるが店売りされていないため、難易度4クリア後に解禁となる、アンチジャミング剤とエーテルによるアイテム合成で作成する必要がある。わざわざ合成で作成するのも手間だし、エーテルは【エリキシル錠 改】(体力、スタミナ、OPを中程度回復)のアイテム合成に使ったほうが良いので、【アンチジャミング剤 改】も使われることは無い。

2位:レーション
 立ち止まればすぐに自然回復するスタミナの、回復アイテムの存在意義とは。スタミナ上限を引き上げるアイテムや、スタミナ回復速度を引き上げるアイテムがほかに存在するというところにも悲哀を感じる。そもそも、緊急の回復を要するほどスタミナが枯渇しているという時点でアイテムを使う暇なんて無かったりする。そしてアイテムを使う暇があったとしたら、その時間だけでスタミナは回復するという……。
 体力に余裕があるのにスタミナの緊急回復が必要となる場面はおそらく無い(スタミナが枯渇するほど追い込まれている≒攻撃を食らわないようにステップを連発している⇒あと一発でも攻撃を食らうと倒れる)ので、レーションの使用場面があるとしたら【一発も攻撃を受けられない体力ギリギリの状態で全力でアラガミから逃げてきた】という場面が想定されるが、自然放置で回復するスタミナを体力よりも優先して回復する神機使いがどれだけいるのかは不明。ちなみにエリキシル錠であれば体力、OP、スタミナのすべてを一度に回復できるため、【アイテムによるスタミナの回復】はエリキシル錠での実績のほうが多いと思われる。

3位:強制解放剤
 アラガミと戦わなくてもバースト状態になれると言えば聞こえはいいが、体力を75%も消費するのが痛すぎる。そしてそれだけのデメリットがあるのに持続時間は捕喰でバーストした時の半分だけというのが致命的。「アラガミとの戦闘前にバースト状態になれる」という設計コンセプトだったと思われるが、使用してもアラガミと戦う頃にはバースト状態が終わってしまう。また、アラガミの一度の攻撃で75%も体力を削られることなんて(基本的には)ないことを考えると、普通に捕喰によるバーストを狙ったほうが速いしリスクも少ない。
 一応、餌場で捕喰中のアラガミに対し、ハイドアタック&バーストスキルなどを盛って最大ダメージを狙うときには使える……のか?
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