BGM:煉獄の地下街3(炎の舞 -終わらない旅-)
【注意】
今回のお話は《聖なる探索》です。その言葉の意味が分からない方、また著しいキャラ崩壊(?)を苦手とする方、こういったお話を苦手とする方は読み飛ばしてください。
「──可愛い女の子って最高じゃないか?」
どこまでも真剣な表情で、極東支部第四部隊隊長──真壁ハルオミは語りだす。
「ははは、いきなり何言ってるんだ──なんて、そう思ったかな? ……ところがどっこい、これはいたってまじめな話で、ともすれば哲学……いいや、それをはるかに超えた宇宙の真理、あるいは俺たちの生まれてきた意味にも繋がってくる話なんだ」
手にしたグラスを傾けて、ハルオミは唇を湿らせた。
「世の中には、本当にいろんなヤツがいる。良いヤツも悪いヤツもいて、気の合うヤツも合わないヤツもいる。会ったその瞬間に親友になれる場合もあれば、長年行動を共にしても反りが合わないこともある。そしてこんな風にいろんな人間がいるのに……究極的には、人間ってのはたった二種類しかいないんだ」
誰かに聞かせるというよりかは、自分自身に問いかけるようにして。どこか遠くの、ここではないどこかを見つめながらハルオミはつぶやいた。
「それについて、俺の中では常にある考えが渦巻いていて……ずっと、答えを求めている」
──その探索に、付き合ってほしい。
決意に満ちたその言葉。小さくつぶやかれたはずのそれは、不思議と部屋によく響いた。
「単刀直入に言おう──お前が思う女性の魅力とは何だ?」
例えば優しさ。例えば強さ。包容力や、母性もまた魅力と言えるものだろう。
だけれども。
「──質問を変えよう。世の男は、女性のどの部位に魅力を感じる?」
その答えに満足しなかった──否、それは本心ではないと見抜いたハルオミは、すべてを見通すようなまなざしで告げる。
「ははは、本心を晒すのは恥ずかしいか? ……昔から、男はこうやって本心を晒すことで絆を深めてきたもんだ。どうせここには俺たちしかいない。本当の自分を──見せつけてみないか?」
遠慮がちに返ってきた答え。まだまだ緊張がほぐれていないな──と内心で苦笑しながらも、少しばかり縮まった距離感にハルオミは大いにほほ笑んだ。
「そうだな、そういうヤツは多い……俺も若い頃はそうだった。……でもな、きっと違うんだ」
悪くはない。それは決して、悪いものじゃない。事実、ハルオミも昔はそうだった。そして今も、それに魅力を感じている。なんならこのまま一晩これだけで語り明かせる自信がある。
けれど、それは今求めている答えじゃない。本題はもっと別のところにある。
「──おめかし、だよ」
自信に満ちたその表情。その瞳には、眩しいほどの探求心の光が宿っていた。
「最近の俺のムーブメントはな、おめかしだ」
「おっと、コスプレやフェティシズムと一緒にしてくれるなよ? それもまた一つの”答え”ではあるが……今回はあくまで”おめかし”について探求していきたい」
「まず、おめかしの定義から語ろうか」
「単純な言葉の意味としては、【化粧をしたり、着飾ったりすること】となるが、そこはまぁ一つの側面というか、おめかしという言葉の一要素にすぎない」
「今回追及するおめかしの要諦は、【いつものあのコが、特別に着飾っている】というところにある」
「例えば晴れ着。この極東では、新年を迎えると振袖と呼ばれる和服で着飾るという風習があった。綺麗な柄のひらひらとした服でな、普段見慣れているはずのあの娘が特別な装いをしているというだけで、なんだかすごく……すごく、イイんだ」
「例えば制服。制服だけがもつあのカチっとした雰囲気はまさに特別感の象徴だ。限定的な場面でしか着られないってところもイイ。この制服姿を見られるのは、今この瞬間だけ……あとになって、何気ない日常がいかに特別であったのかってことに気づくんだよな」
「例えばドレス。着飾るって意味じゃ一番メジャーで、そして一生に何度あるかもわからないものだが……ウェディングドレスはもちろん、パーティドレス──アフタヌーンドレスやイブニングドレスも最高だ。正直、ここで語り切れる自信がないくらいだよ」
「だけど」
「だけどな」
「おめかしによる特別感……衣装そのものが特別なのも、確かに大事なんだが」
「ここで重要なのは……俺が言いたいのは、なぜ、どうして着飾っているのか……という理由そのものだ」
「ちょっぴりの背伸び? 大人っぽい気分を味わいたいから? ……なるほど、それもいい」
「あこがれの人の真似をして? 単純に、可愛いものを着たいから? ……うむ、それも悪くない」
「だけど、もっと大事なのは」
「──着飾った自分を、見てほしいから」
「──可愛い姿を、見てほしいから」
「──ドキドキしながら、臆病な自分を健気な勇気で奮い立たせて……ああ、可愛いって言ってくれるかな、気づいてくれるかな──なんて思いながらする”おめかし”」
「……もっとはっきり言おう」
「
「そこに宿るものこそが”おめかし”の神髄で──そこにこそ、本当の意味での女性の魅力があるのだと、俺はどうしてもそう思えてならないんだ」
「その気持ちが大事なんだ。その気持ちさえあれば、ドレスや晴れ着なんて大層なものを持ち出す必要なんてないんだ」
「ちょっとオトナなヘアアレンジ、ママの道具を借りた初めてのお化粧、少し背伸びしたデートの時だけの一張羅……その初々しさが、何もかもが愛おしい」
「そう。あなたのために、可愛くなりたい──そんな気持ちこそが、”おめかし”ってものだと俺は思うんだ」
「【いつものあのコが、俺のためだけに着飾っている】……ああ、なんて言うかな。言いたいことはあるのに、うまく言葉がまとまらないや」
「だけど、これだけは言わせてもらおう」
「なぁ……お前ら、おめかしは好きか?」
「……そうか、わかってくれたか!」
「いや、いい! 言葉にしなくても確かにその気持ちは伝わった!」
「それじゃあ各々、己が
「……ああ、野暮なことは言わないさ。だって俺たちは……同志だろ?」
「それじゃあ始めよう──俺たちの、聖なる探索を!」
▲▽▲▽▲▽▲▽
「か、か、か……!」
目の前に差し出されたそれを見て、チハルは叫ばずにいられなかった。
「──可愛いーっ!」
真っ白で、ふわふわで、あったかそうで──そして何より、とってもオシャレなその衣装。フェンリル支給の制服よりも上等で、素人のチハルがパッと見ただけでもその質の高さがわかるくらいに出来の良い純白の衣装が、チハルの目の前にある。
「ほ……ほんとに、もらっていいんですか……!?」
「もちろん! チハルちゃんのために作ったものだからね!」
満足そうに微笑んだのは、神機整備士である楠リッカだった。
──チハルたちの目の前に広げられている、純白のコート。ダウンコートとボアコートの良い所取りをしたようなデザインで、その丈はチハルの膝下ほどもある……つまりはロングコートだ。ダウンコートの大人っぽさとスタイリッシュな感じはそのままに、手首や首元、その他随所に使われたボアコートのもこもこが可愛さをも醸し出している。
そう、カッコよくもあり可愛くもあるという究極のオシャレ。一枚羽織るだけで無敵のオシャレマスターになれる逸品を、リッカは見事に製作して見せたのだ。
「神機製作の時にできたルーの素材の端材をちょいちょいーって使ってね? もこもこのところは毛皮をオラクル処理して作ったもので、全体に使われているアラガミ繊維は毛や血から作ったやつなの! 見た目はダウンコートを参考にしたけど……メインの素材は羽毛じゃなくてルーの
ルーの素材を使っているので、防刃性、断熱性、耐摩耗性に優れ、そして難燃性でもある。見た目のオシャレ具合だけでなく、防具としても超優秀。極端な話、そこらのアラガミの炎や氷の吐息程度だったら、フードを被って蹲るだけで防ぐことができることだろう。
「オウガテイル程度の爪や牙なら傷一つつかないよ! ヴァジュラだったらさすがに傷はつくかもだけど……」
「ヴァジュラくらいのおっきいアラガミでも、傷をつけられるかどうかってことじゃないですか! こ、これ、もしかして普段支給されている戦闘用の制服よりもすごいんじゃ……!?」
「まーね! 一着だけの完全オーダーメイドだし、頑張っちゃいました!」
「ほぁぁ……! すっごいなあ……! リッカさん、神機だけじゃなくてお裁縫もできるんだあ……!」
「あー……その、昔ちょーっといろいろあってね……」
「……?」
普通の裁縫と、アラガミの素材を使った裁縫──つまりはアラガミ繊維を使った裁縫はその勝手が大きく異なる。たとえ裁縫の達人であったとしても、アラガミ繊維を使った衣装を作ることはできない。アラガミ繊維の扱いはそのままオラクル細胞の扱いに等しいわけで、むしろ神機の整備・作成ができるリッカのほうこそ専門職と言っていいだろう。
もちろん、神機を扱える人間が誰しもアラガミ繊維の衣装を作れるわけではない。そこにはやっぱり、そもそものセンスと純粋な裁縫の技術・知識が必要となる。
今回リッカがこの衣装を作れたのは、それらの条件をたまたま満たしていたことと……そして、これが初めてではないという、純然たる経験によるものが大きかった。
「リッカさん……! その、着てみてもいいですか……!?」
「もちろん! そのために呼んだんだから!」
リッカの目の前で、チハルは嬉しそうにそのコートを羽織る。ふぁさっと広げたそれに袖を通して、なんとも楽しそうにくるくると回って。チハルが回るたびにロングコートの裾がひらひらと舞って、チハルの白い脚がちらちらと見えた。
「えへへー……!」
「うんうん、サイズはばっちりだね。着丈もちょうど膝下のところで良い感じ……かな? 肩回りとか胸周りとかはキツくない?」
「はい、大丈夫です! ……なんだろ、きゅって締め付ける感じでフィットするのに、全然苦しくないし、肩も普通にぐるぐる動かせます!」
「腕輪を袖に通せるように、ある程度の弾力性を持たせてあるからね。加減を間違えるとすごく苦しくなっちゃうんだけど……うん、これなら問題なさそうだね!」
ぽんぽん、ぱんぱんとリッカはチハルの肩やら背中を叩いてコートの状態を確認する。一方でチハルはと言えば、少しばかり恥ずかしそうにしてその身をよじらせていた。
「あ、着心地はどう? ……その、”きちきちちくちく”したりしない?」
「ちくちくはしないですけど……きちきち? さっき話した通り、すごくフィットしていい感じですよ?」
「うん、忘れて。なんでもないから」
脳裏に浮かんだ、無邪気な少女のどこか不満そうな顔。スタイルとしてはあっちのほうがすごかったよね──なんて、リッカは少しばかり懐かしくて切ない気分になった。
「でも本当にいいんですか? その、私だけこんなにいいもの貰っちゃって……」
「いいのいいの! さっきも言った通り、余った端材を有効活用しているだけだから! こっちもいい仕事させてもらって楽しかったし、それに手間賃ってわけじゃないけど──」
「チハル! おまえ──うぉ!?」
リッカの話を遮った……というかいきなり部屋に押し掛けてきたのは、少しばかり息を荒げた様子のキョウヤだった。
「キョウヤくん? どしたの?」
「いやその……というかお前、そのカッコは……」
「あっ! 気づいちゃったかあ!」
なんとも誇らしげな……そして嬉しそうな顔をして、チハルはキョウヤの目の前で見せつけるようにくるくると回る。というか実際、見せつけているのだろう。リッカとしてはこの二人の関係がマジでよくわからないし、そして気の利いた言葉の一つもかけないキョウヤのことを全力で叩きたくなってきている。
「うらやましいでしょ! これ、すっごくあったかくて着心地も良いんだから! ……ん? どうしてもってお願いするなら……入れてあげるよ?」
からかうようにして、ひらりとチハルがコートの前を開けてキョウヤを誘う。いったいどこまで本気なんだろうなあと、リッカはぼんやりと思った。
「いやお前、それ物理的に無理だろ……待て、それってルーの毛皮か?」
「うん! リッカさんがねえ、余った端材で作ってくれたんだあ! ……一回くらいなら、キョウヤくんに貸してあげてもいいよ? キョウヤくんじゃ似合わないだろうけど!」
「バカ言え、着こなして見せるわ……まぁ、俺が着たらロングコートじゃなくなっちまうが……いや、そんなことは今は良いんだ」
「……え。……な、なに?」
頭のてっぺんから足のつま先まで、チハルのことをジロジロと眺めまわしたキョウヤは。
「ど、どしたの? その……そんなにジロジロみられると、いくらキョウヤくんでも……恥ずかしいよぅ」
やがて、意を決したようにして……重々しく言葉を紡いだ。
「……チハル」
「は、はいっ!」
「──バンダナ外して、俺と任務に出てくれ」
ぴき、とチハルの額に青筋が浮かんだ。
「今度、ハルさんたちと任務に行くことになったんだけどさ。こう……気分転換に、いつもとちょっと違う装いで行こうぜってことになったんだ。で、今のお前を見て気づいた」
「……」
「お前、バンダナが無いとずいぶん印象変わるよなあ! 何ならそっちのほうが良いまであ──いってぇ!?」
リッカはキョウヤの足を全力で踏みつけた。
なお、リッカが履いているのは安全靴──つまりは、鉄板が仕込まれた重い靴であった。
「な、何するんですかリッカさん……」
「あんたってやつァ! それがわかってないからダメなんだよ!!」
「そうだよ! い、言うに事欠いてバンダナ外せって何さっ! わ、私のことなんだと思ってるの!?」
「何って言われても……」
「
「可愛い可愛い、すっげー可愛い。超似あってる。銃の次くらいに愛してる」
「……こーゆー人なんです、リッカさん」
「……そうだった、こいつはこーゆーやつだった」
怒りを通り越して、もはや諦めの境地に至ってしまった二人。キョウヤのほうは、褒めたのにどうしてこんな風に言われなくっちゃならないんだ──と、釈然としていない様子だ。
所詮、男子に服の可愛さを理解しろというほうがおかしかったのだろう。
「……それで? ハルさんたちと任務に行くんでしょ? いつなのさ?」
「……良いのか?」
「ふん。このコートだっていつもと違う装いだもん。これなら文句ないでしょ?」
「ああいや、そうなんだが……」
少しばかり困ったように、キョウヤは告げた。
「──目的地、煉獄の地下街なんだよ」
・《聖なる探索》は公式設定です。
・安全靴を履いた状態で誰かの足を踏むのは非常に危険なので、絶対に真似しないでください。
・煉獄の地下街はもう何もかもがズルい。
・ゴツい腕輪付けてるのにどうやってその服着たの?
⇒神機使いの着ている服は超伸びる ということでお願いします。「きちきちちくちく」のうちの「きちきち」は超伸びる≒それなりに締め付けてくるために出てきた表現なんじゃないかなって勝手に思ってます。
・明日も更新します。