GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

8 / 141
8 広がる違和感

 

「今日も頑張ったね!」

 

「うう……でも、やっぱりまだまだ全然だった……! また今度、もう一回付き合ってもらえますか!?」

 

「うんうん、全然おっけー! ……だけど、頑張り過ぎも良くないからね? 休む時は何も考えず、ちゃんと休まないとだよ!」

 

 榊に例のミッションの報告をしてから約一週間後。実地訓練としてエリナと一緒に小型アラガミの討伐を行ったチハルは、アナグラのとある飲食スペース──ラウンジへと訪れていた。

 

 暖かなオレンジ色のライトに照らされたその空間には、個別のカウンター席や豪華なソファが設けられている。おまけにビリヤード台やピアノまで設置されているものだから、何も知らない人間が見れば高級バーか何かのように思えるかもしれない。

 

 そんな落ち着いたオシャレな高級感漂うラウンジだが──実際は、このアナグラみんなの憩いのスポットとして使われていた。任務後の神機使いや休憩中のオペレーターが訪れることはしょっちゅうだし、無礼講な歓送迎会が開かれることも多い。良い意味で、その高級感を気にせずゆったりと休めるスペースなのだ。

 

「よぉ、おつかれさん」

 

「……ぬ?」

 

 ただ、今日は少しばかり様子が違う。

 

 カウンターの中にエプロン姿の少女──ムツミがいるのはいい。彼女は弱冠九歳にして調理師免許を取得し、このラウンジを取り仕切っているラウンジの主だ。年端も行かない子供でありながらその実力に疑いはなく、そして三角巾……広義でのバンダナ着用者とあって、チハルも日頃から仲良くさせてもらっている間柄である。

 

 カウンター席の所に黒のライダースジャケットを着た神機使い──真壁ハルオミがいるのも不思議な話じゃない。グラスを片手に座っているその姿はびっくりするくらいキマっていて、この場の雰囲気とよく馴染んでいる。アナグラの中でラウンジの似合う神機使いトップ3に入るだろうとチハルはひそかに睨んでいるくらいだ。

 

 問題なのは、カウンターの中にいるもう一人のほうだ。

 

「……なにやってんの、キョウヤくん」

 

「見ての通り、ウェイターだが?」

 

 本来であれば、休憩中の神機使いとしてカウンターに座っているはずのキョウヤが。なぜだか、そんな神機使いをもてなすウェイターとしてカウンターの中に立っていた。

 

「未だに神機がメンテ中なのは知ってるだろ? やることも無くて暇だったところで、ムツミちゃんが凄まじい量の食材をひとりで運び出そうとしているのを見かけてな……」

 

「そ、その……! 最初は断ったんですけど、気にしなくていいっていってくれて……! 食材の運び出しの後も、いろいろ手伝ってくれたんです!」

 

「たまにはこういう形で人類に貢献するのも悪くはないだろ? ハルさんやほかの神機使いのみんなからの有意義な話も聞けるし」

 

「ふぅん……」

 

 勝手知ったるなんとやら。チハルはまるでそれが当然であるかのようにキョウヤの目の前のカウンター席……ハルオミの隣の席に座り、そしてエリナをちょいちょいと招く。先輩らしく奢りでジュースを頼んでから、へらへらと笑うキョウヤの顔をじとっとした目で見つめた。

 

「……お手伝いと称して、つまみ食いいっぱいしたでしょ?」

 

「失敬な。つまみ食いなんてするわけないだろ。……ムツミちゃん公認で【味見】はしたけど」

 

「「……」」

 

 へらへらと笑うキョウヤ。

 はぁ、とため息を吐くチハル。

 ムツミはぽかんと口を開けていて、エリナはとんでもないダメ人間を見てしまったかのような顔でキョウヤを見ていた。

 

「やっぱり。どうせそんなこったろうと思ったよ……」

 

「神機使いたるもの、いつだって【喰らう】ことに真摯であるべきだろ。それに今回はちゃんと合法だぜ?」

 

「……さっき、リッカさんのところに神機預けてきたんだけどね。キョウヤくんにちゃんと反省しろって強く言っといてって言われたの。『あいつは神機の使い方が極端すぎる! なんで毎回銃身ばっかりこんなボロボロなのさ!』ってリッカさんすっごく怒ってた。反省してないようなら、強硬手段も辞さないって」

 

「俺の奢りにするから、【味見】以外のところをなるべく好意的にリッカさんに伝えておいてくれ」

 

 とん、との目の前に出されたジュース。ちらりとキョウヤを見上げてみれば、それはもう胡散臭い感じのウィンクが返ってきた。反省していないのは疑いようもなく、そして悲しいことに、これこそが片桐キョウヤという人間であることをチハルは誰よりもよく知ってしまっている。

 

「どーせキョウヤくんに何言ってもわかんないもんね……いいよ、これで手打ちにしてあげる」

 

「ありがとうチハル、銃の次くらいに愛してる」

 

「けっ」

 

 追加で別の物も頼んでやろうか……なんて思いつつ、チハルはそのグラスに口をつける。ミッションが終わってからのこの一杯は格別で、それだけでもう幸せな気分になるほどだった。

 

「はは、前々から思っていたが──仲いいな、お前たちは」

 

「ハルさん……いえ、どっちかっていうと手のかかる弟って感じですよ」

 

 チハルたちのやり取りと穏やかに笑いながら見ていたハルオミは、片手に持っていたグラスをカウンターにことりと置く。

 

 そして、いつになく真剣な様子でチハルに問いかけてきた。

 

「──なあ、ちょいとマジな話をしたいんだが」

 

「マジな話、ですか?」

 

「ああ。どうもここ最近、妙なアラガミがこの付近をうろついているようでな」

 

「「……」」

 

 この付近をうろついている、妙なアラガミ。チハルとエリナの頭に同時によぎったのは、榊の執務室で聞いた話だ。ついでに言うと、それは告示があるまで内緒にしなきゃいけない……簡易的なものとはいえ、緘口令が敷かれたものでもある。

 

「ここ最近討伐対象のアラガミが既に討伐……いいや、喰い荒らされているってことが多くてな。最初は偶然だと思っていたんだが、ちょっと気になって聞き込みをしたら、同じようなことを体験したやつがあまりにも多かったんだ」

 

「……」

 

「で、いろんな可能性を考えて聞き込みしてたんだが──妙な雄叫びが聞こえただとか、見慣れない戦闘の痕跡があっただとか、ここ数日でぽつぽつとそんな話が増えてきてな。直接かかわりがあるかはわからんが、今までは無かったはずの妙な違和感や形跡が増えているってのはマジらしい」

 

「俺もハルさんからこの前のザイゴート討伐の話を詳しく聞かれたんだけどさあ。確かによく考えてみれば、普段はあんなとこでザイゴートなんて見かけたことないなって。アラガミなんてどこで湧いてくるかわかったもんじゃないから、気にも留めてなかったんだけど」

 

「そんなわけで、チハルたちも何かそう言った違和感とかがあれば教えてほしいんだが……どうだ?」

 

 もしかして──いいや、もしかしなくとも。ハルオミが話しているこの件は、榊が話していたものと全く同じことなのだろう。どうやらエリナもチハルと同じくその確信を抱いたようで、「どうしましょう?」……と言わんばかりの不安そうな顔でチハルを見つめている。

 

「ああ、マジな話とは言ったがそこまで気を張る必要はなくて、雑談レベルでいいんだ。ヴァジュラをどつきまわしているアラガミを見ただとか、グボロ・グボロの丸焼きを食べているアラガミを見ただとか、そんな荒唐無稽な話も結構あるからな」

 

「……もしかして、その噂を集めるためにラウンジにいたんですか?」

 

「まぁな。それだけ気になる……というか二日前に、ウチの隊員(カノン)が遠目にその姿を見たんだよ」

 

「えっ!?」

 

「本当に一瞬だけしか見られなかったそうだが、めちゃくちゃ凶暴で強そうなアラガミだったらしい。話を総合すると最近出現が確認されたガルムに似ているようなんだが……」

 

 ごくりと、誰かの喉が鳴った。

 

「カノンは白いアラガミだったと言っていた。だがガルムの体色は白じゃない。堕天種か、接触禁忌種の可能性がある」

 

 榊とハルオミは全く同じことについて話をしている。ただしハルオミの話はもっと具体的で……そして、チハルが話を聞いた一週間前よりもその頻度(・・)が格段に上がっているらしい。少なくとも、神機使いたちの間でそこそこの噂になる程度には、それ(・・)は近づいてきているのだろう。

 

「ま、アラガミの性質を考えればちょっとした異形みたいのはそう珍しくない。レーダーにも反応はなかったし、見間違えの可能性もあるだろう。ただ──」

 

 遠いどこかを見つめながら、ハルオミは言った。

 

「もし本当に未知のアラガミだったとしたら……かなり危険な奴だろう。落ち着くまでは、お前たちも普段以上に注意するようにしてくれ」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 今日の獲物。グボロ・グボロが三匹、シユウが四匹、ヴァジュラが二匹にボルグ・カムランの赤い方の堕天種が一匹。

 

 ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)を覚えてから、狩りの効率が格段に良くなった。中型以上のアラガミを一日で十匹も食べられたのは、何気に新記録である。

 

 自分でもびっくりだけど、ちょいと気合を入れ直すだけでこの電気の知覚範囲は半径100mの単位で広げることができる。さすがにどんなアラガミがどんな風に群れているかまではわからないけれども、どれくらいの大きさのアラガミがどのあたりにいるのか、くらいまではばっちりだ。背後に潜まれても「近づいてくる」ことはわかるわけで、文字通りのレーダーだと言って良い。

 

 なんかコレ、ちょーっと練習を頑張ればレーダーの知覚だけで戦闘もできそうな気がする。範囲を絞って精度を上げて、三次元的な動きにも対応できるようにすれば出来ないこともなさそう。オラクル細胞ってすげえなあ。

 

 そうそう、レーダーと言えば。活動範囲を広げた影響か、はたまたアラガミがいる場所をピンポイントで見つけることができるようになったからか、私史上初となるゴッドイーターとの邂逅を果たしてしまった。

 

 いやま、邂逅と言っても遠目にチラッと見ただけなんだけれども。なーんか向こうの方でアラガミが暴れてんな……と思って顔を向けたら、その足元でゴッドイーターがちょこまか動いてたんだよね。少し苦戦していたけれども、何とか倒せたのを見た時は年甲斐もなく(?)ホッとしちゃったっていう。

 

 んで、最初のその邂逅(?)を果たしてからは、今まで人間と会わなかったのが嘘だったかのようにゴッドイーターたちを見かけるようになった。というかたぶん、私とゴッドイーターとでターゲットがブッキングしている可能性があるかもわからん。

 

 よく考えてみれば、強いアラガミ……討伐しないとヤバいアラガミであれば当然ゴッドイーターが派遣されるわけで。私自身がこの空腹感を少しでも紛らわそうと強くて大きなアラガミを捕喰している限り、カチあってしまうのもそう不思議な話じゃない。

 

 ただ、彼らと私とでは機動力に差がありすぎる。彼らがアナグラでミッションとして受注してからこのフィールドにやってくるまでに、私のほうが先にさっさと倒してしまうことの方がきっと多いだろう。遠目で何度か見かけたゴッドイーターたちはきっと、そんな感じでやって来た者がほとんどだと思う。

 

 ……あらやだ、どうしましょう。割と調子に乗って気分よく遠吠えとかしちゃったんだけど。誰もいない夜道でノリノリで鼻歌を歌っていたら実はすぐ近くに人がいたことに気付いちゃったみたいな気分。ちょう恥ずかしい。

 

 さて、マジな話をすれば、遠目とはいえ実際に姿を見られているであろうと言うことと……なにより、レーダーがあるから私のことはすでにアナグラには把握されていることだろう。自慢じゃないが私は結構強いアラガミだ。そのオラクル反応も強いわけで、レーダーで捉えられないはずがない。

 

 ……まぁ、実際のシナリオだとレーダーに映っていなかったアラガミが乱入してきたり、めちゃくちゃ近づいてきてからレーダーに反応したりってのがしょっちゅうだったけどさ。シナリオやゲーム上しょうがないとはいえ、私の中でのレーダーは大事な時に限ってポンコツになるイメージしかない。

 

 ともあれ、お互いがお互いを認知しているこの現状、ちょーっと考えないといけないことが出てきてしまう。

 

 そう──彼らは、私をどんなアラガミだと認識しているのだろうかってところだ。

 

 私自身は人を襲ったことがないし、襲うつもりもない。できることなら助けたいし、積極的な手助けもやぶさかではない。あくまで結果としてそうなっているだけとはいえ、この周辺のヤバそうなアラガミを積極的に狩っている……つまりはゴッドイーターと同じことをやっている同業者、すなわち味方と捉えることもできる。

 

 だけど向こうからしてみれば、どこまで言っても私はアラガミだ。それも他のアラガミを平気でぶっ殺せるレベルともなれば、その動向を全力で監視しなきゃいけない対象だろう。未知の新型アラガミともなれば余計にぴりぴりしているに違いない。

 

 で、だ。

 

 そんなヤバそうなアラガミが近くをうろついているのだとしたら……ミッション討伐対象に指定されていてもおかしくない。今は被害が出ていなくとも、被害が出る前に何とかしようと考えるのが普通だろう。

 

 これが地味に厄介だ。私自身に敵対する意思がなくても、言葉が通じない。このおっかない見た目である以上、向こうは先手必勝で問答無用で襲ってくるだろう。私だったら絶対そうする。

 

 これがもし、シオちゃんのような人型のアラガミだったら……いや、人型アラガミだなんて贅沢は言わずとも、サリエルとかツクヨミとか、まだしも人に近い造形のアラガミだったらチャンスはあったかもだけど……バカでかいオオカミと対話ができるとは誰も思わない。

 

 一応、普通のゴッドイーターにやられるってことはないだろう。この極東ではヴァジュラをソロ討伐できて一人前って話だけれども、言ってしまえばその程度の実力しかない。ヴァジュラをおやつにできる私であれば、片手であしらえる程度のものだ。

 

 ただ、それはあくまで一般的なゴッドイーターの話であるわけで。もしここにソーマやリンドウさんが入ってきたとなれば……私でも、ちょっとわからない。

 

 何よりヤバいのは、GEBの主人公……つまりは神薙ユウくんないしはプレイヤーの存在。あいつだけはマジでヤバい。

 

 いいか、主人公補正ってレベルじゃないからなあいつ。シナリオ設定的に見ても無茶苦茶すぎるミッションを……第一種接触禁忌種の同時討伐をソロで余裕でこなしているんだもん。設定的にはその出現は天災級の被害となるウロヴォロスをコンビニに寄るくらいの気軽さで何百体と討伐しているし。

 

 その無双っぷりは枚挙にいとまがないけれども、とにかくあいつはヤバい。もしあいつが全力でこちらを殺りにきたら、普通に喰われる可能性がある。というか、無事でいられる確証がまるでない。

 

 まぁ、月が緑ってことは今はGE2の時代……彼は、クレイドルとして世界を飛び回っているはずだ。そうであると信じるほかない。

 

 とりあえず、榊博士の存在に期待するとしよう。あの人ロマンチストだし、普通に聡明な人間だ。私が人を襲わないアラガミだってことくらい、きっと既に見抜いているはず。特徴的な行動をする新型アラガミが出現したとなれば、まずは対話……平和的な接触を計画するはず。

 

 そうだといいな。

 

 そうであってくださいお願いしますマジで。

 

 ……ふう。これくらいにしておこう。とりあえず今のところは明確にゴッドイーターに襲われたわけじゃないし、様子見ないしは放置するしかないだろう。このまま何となく今の関係を続けてもいいし、もしダメそうなら……死なない程度に返り討ちにするしかないのかなあ。

 

 まあいいや。難しいことは未来の私に任せよう。あんまり頭を使うとおなかも空いちゃうしね。

 

 ──明日は、もっともっと食べられますように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。