GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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9 胸騒ぎ

 

「──今日は一緒にミッションに行くって話じゃなかったか?」

 

「あ、あはは……」

 

 朝。ようやっと神機の修理も終わり、今日こそは不貞腐れた相棒のご機嫌を取ることが叶いそうだ──とエントランスへと訪れたキョウヤが目にしたのは、申し訳なさそうに頭を下げるチハルの姿であった。

 

「おーおー、このバンダナ娘がよぉ。自分で言った約束も守れないほど頭バンダナになっちまったのかぁ?」

 

「むー……キョウヤくんには言われたくないもん……」

 

 冗談は置いておくとして。今日もいつものお気に入りの赤いバンダナでばっちりキメたチハルの隣には……いかにも初々しい感じの新人神機使いが二人ほどいる。まだまだぎこちなさが残っているというか、こうしてチハルと「いつものやりとり」をしている自分を見て、妙に緊張感を抱いていることが見て取れた。

 

 長年この仕事をしているとなんとなくわかるようになるのだが……キョウヤには、今日一緒に行くはずだったミッションについてこれる実力がこの二人にあるとはとても思えなかった。

 

 そんな二人がチハルと一緒にいると言うことは、キョウヤとの約束の方がすっぽかされたということにほかならないというわけだ。

 

「……で? 今日は一体何だってんだ?」

 

「その、ね? この前エリナちゃんとの訓練に付き合ってから、ちょくちょくそう言う機会が増えてね? 私自身楽しかったってのもあるけど、上からもそっち方面で信頼されてるみたいで……今朝来たら、できればこの二人の実地訓練に付き合ってほしいって指名が……」

 

 ちら、とチハルが目配せをすると、ハッと慌てたようにその二人は名乗り出た。

 

「じ、自分は榎本ケイイチと言います! 17歳です! オウガテイルはソロで倒せますが、シユウはソロだと厳しいです! どっちかというと剣で切り結ぶ方が得意です!」

 

「わ、私は松宮レイナです! 16歳で、ザイゴートを銃で撃退するのは褒められたことがあります! コンゴウは苦手です!」

 

「ふむ」

 

 やはりというか、二人ともこの極東における一人前のレベルには達していない。まったく使えないってわけではないけれど、引率してやらないとまだまだ不安が残るほどのルーキーだ。第二世代の神機使いなので、これからの活躍に期待する……といったところだろう。

 

 ちょっと気になるところがあるとすれば。

 

「なぁ、お前さんたち」

 

「な、なんでしょう?」

 

 ──なんか、特徴が無いパッとしない奴らだなあ。

 

 そんな人として最低すぎる言葉を心の中だけで呟いてから、キョウヤはずっと気になっていたことを告げた。

 

「どーせチハルから何か言われたんだろうが、バンダナなんて付ける必要ないぞ」

 

「「えっ」」

 

 ぴしりと固まる新人二人。明後日の方向を見て口笛を吹くチハル。

 

 ケイイチの額には鉢巻のように紫のバンダナが巻かれていて、レイナの頭にはベアバンドのようなオシャレなアレンジで緑のバンダナが巻かれていた。

 

「これって……臨時で組んだ部隊において、隊員の識別を容易にするための簡略的なシンボルだって……」

 

「同じ道具を身につけることで連帯感を出して、チームとしての動きを円滑にする効果があるって……」

 

「引率役の立場を利用してバンダナ布教してるだけじゃねえか……」

 

「い、いいじゃん……全くの嘘ってわけじゃないもん……!」

 

 まだまだ現場を知らず、先輩たちから知識を吸収する必要がある新人。そんな新人を実戦を通して導いていく引率役。新人に仕事を教えるのが楽しいという言葉も嘘ではないのだろうが、それ以上にその立場を使ってバンダナ布教をしたいというのがチハルの本音なのだろう。

 

「まったく……それで? 今日はどいつをぶっ殺しに行くんだ?」

 

「グボロ・グボロの単体討伐! ヴァジュラよりかは弱いし、二人の相手にはぴったりかなって!」

 

「ほお、グボロ。悪くないな」

 

 本来予定していたミッションは中止になってしまったとはいえ、それでもアラガミを撃ちに行けることには違いない。お守りをしなきゃいけないために自由に動くことはできないかもしれないが、たまには制限プレイとしてサポートに特化した銃撃を楽しむのも悪くはないのかもしれない。

 

「よっしゃ、じゃあ雷のバレットを多めに持ってくか。ちと歯ごたえは足りないが、あいつもアレでなかなか撃ちがいがあってスッキリするんだよな」

 

 そんなキョウヤの考えは、にっこりと笑ったチハルに否定された。

 

「──あ、キョウヤくんは来ちゃダメだよ?」

 

「なぬ!?」

 

「言ったじゃん。この二人のための実地訓練だって。キョウヤくんが一緒だと……二人を無視して好き勝手撃つでしょ? そんなの二人の訓練にならないじゃん」

 

「いや、さすがにそんなこと……」

 

「撃つでしょ?」

 

「そんなわけ……」

 

「撃つよね?」

 

「………………撃つかも」

 

 ほら、やっぱり──とチハルはえへんと胸を張る。

 

「それともなに? キョウヤくんがこの青いバンダナ着けてくれるって言うならついてきてもいいけど?」

 

「絶対やだ」

 

「二人とも、よく見てね。こーやって人の好意を無碍にしたり、連携を高めるために行うことを拒否するのは部隊として一番やっちゃいけないことだからね」

 

 そうしてチハルは、キョウヤのことなんて気にもしていないとばかりにミッションの手続きを進めていく。本当にいいんですか──と苦笑しながら最終確認をしてくるヒバリに対し、それはもう見事な笑顔で問題ないと答えていた。

 

「そ、それでは……今回のミッションはチハルさん、ケイイチさん、レイナさんの三人での出撃となります。十五分後に出撃ゲートまで集合してくださ──」

 

「──あ! チハルさん!」

 

 ヒバリの声をかき消すような大きな声。今度は一体何なんだ……と思ってキョウヤが振り向いてみれば、そこにはある意味予想通り、第一部隊の面々……具体的には、エリナとコウタ、そしてエミールがいた。

 

「もしかしてこれから新人指導のミッションですか? うう、一緒に行きたかったですぅ……!」

 

「ごめんねー! 今日はこの二人にしっかり教えてあげなきゃなの! また今度一緒に行こうね!」

 

「絶対、約束ですからね!」

 

「もちろん! ……あ、あとね、ミッション終わったらムツミちゃんのところでご飯しよ! 実はね、カノンさんとお茶会しようって約束もしているの!」

 

 今日も……というかいつだって。キョウヤの目の前にいるこの頭二つほど小さい少女は、殊更に明るくて周りに元気を振りまいている。このあとに化け物退治という命のやり取りが控えているというのに、それを感じさせないほどの無邪気さだ。

 

 実際、緊張でガチガチだった新人二人は、チハルとエリナのやり取りを見て自然と肩の力が抜けてきている。ケイイチのほうは何か微笑ましいものを見ているかのようにくすくすと笑っているし、レイナに至っては「私もご一緒して良いやつかな……」なんて呟く余裕さえ生まれている。

 

「だからキョウヤくんも! 今日は寄り道しないですぐ帰ってくるんだからねっ!」

 

「へいへい。分かったからさっさと行けっての」

 

「もぉーっ! 『行ってらっしゃい』くらい素直に言ってくれてもいいじゃんっ!」

 

 ぷくっと頬を膨らませたまま、チハルがキョウヤに背を向ける。新人二人に声をかけ、出撃ゲートに向かって歩き出して──

 

 

 

「──っ!?」

 

 

 

「え……どしたの、キョウヤくん?」

 

 ──なぜだかキョウヤは、チハルの腕を掴んでいた。

 

「あ……いや……」

 

「……そんなに、一緒に行きたかったの?」

 

「……んなわけあるか。それより、ハンカチちゃんと持ったか? 携帯食料(レーション)と回復錠は……」

 

「日帰りだし、レーションは要らないよ? だいたいそんなの持ってった試しないじゃん……あ、カノンさんから貰ったお菓子はあるけど」

 

「……それもそうだな」

 

 日帰りであればわざわざ荷物となるようなレーションはもっていかない。複数日かかるミッションであっても、食料は移動のための車やヘリに搭載するから自前で持ち込む必要はない。無論、ミッションの合間の休憩用に嗜好品としての食料を持ち込むことはあるが、それにあのあまりおいしくもないレーションを選ぶ人はいない。

 

 実際、キョウヤだって今までに一度たりともレーションは持ち込んだことがない。持ち込む必要性を感じたことは、一度も無かった。

 

「じゃ、私もう行くからね?」

 

 そう言って、チハルは新人二人を伴って出撃ゲートの向こうへと消えていく。

 

「なんか悪いな、キョウヤ」

 

「……コウタさん」

 

 自分でもよくわからないもやもやに襲われたまま呆然としていたキョウヤに声をかけたのは、これまでの成り行きを見守っていたコウタだった。

 

「最近、ウチのエリナも含めてチハルが新人の面倒をよく見てくれるからさ。そういう中堅は貴重だし、元より人手不足だ。だからついつい教官たちもチハルを頼っちゃって……」

 

「ああ……確かに討伐報酬が稼ぎにくいから、進んでやろうとするやつはあんまりいないっすよね。でもまあ、あいつはマジに楽しんでますから。世話好きというか、見た目があんなナリなせいか、先輩風吹かせるのが堪らなく嬉しいんですよ」

 

「……よく見てるんだな?」

 

「妹みたいなものなので」

 

 そっちのほうがダメな弟じゃないの──というエリナからの無言の追及を、キョウヤはいつも通りのへらへらとした笑みで受け流した。 

 

「でもま、そう言ってもらえると助かるよ……本当は隊長(おれ)の仕事でもあるし、お前との先約をダメにしちゃったのも申し訳なかったから」

 

 約束したのは間違いないが、別段それほど重要なものでもない。たった一人の同期入隊同士、気兼ねなくつるんで稼ごうか……というそれだけのことだ。新人指導のほうがよっぽど有意義で、人類のためになる立派な仕事だろう。

 

 問題があるとすれば。

 

「どうすっかな……ヒマになっちまった」

 

「じゃ、俺達と行くか? チハルじゃないけど、今日()二人の実地訓練なんだよね」

 

「ふむ」

 

 困ったように笑うコウタ。その後ろでいつも通りの自信満々な笑みを浮かべるエミールと、そんなエミールをギロっと睨みつけているエリナ。

 

 いろんな意味で不安要素を抱えている前衛二人に、隊長格と言えど後衛が一人。万全を期すなら、もう一人ほど後衛を──それも、出来得ることなら前衛として動くこともできる第二世代の神機使いがいるのが理想的だろう。

 

 つまり、今この瞬間においてはキョウヤが適任というわけだ。

 

「お供させてください。……ただ、出来れば近場が嬉しいです」

 

「サンキュ! ……近場ってのは、さっきのお茶会のためか?」

 

 当然の疑問。別段隠すことでもないので、キョウヤは嘘偽りなく本当のことを告げた。

 

「ええ。……実は、ささやかながらチハル(あいつ)の入隊二周年の記念のお祝いをしようかなって」

 

「マジ!? なんだよ、なんでそーゆー大事なことを早く言わないんだよ!?」

 

「いや……元々はカノンさんが女子会したいって話をしていて、それに俺が乗っかる形なんですよ」

 

「いやいや、言い訳になってないからな!?」

 

 言ってくれたら一緒に準備ができたのに、とコウタは笑いながら悔しがる。

 

「万が一にも準備が終わる前に帰投することがないように、一緒にミッションに行って適宜時間稼ぎをする……ってのが今日の本当の目的だったんですよね」

 

「おお……! なんかすっげえ本格的じゃん……!」

 

「まぁ、企画は全部カノンさん任せなんですけど。俺はその分、料理やお菓子の金を稼ぐのを頑張る感じだったんです」

 

「むっ……キョウヤ、たしかキミ、少し前に神機を酷使していなかったかね? それはもしかして、その資金を稼ぐために頑張りすぎてしまったということかい?」

 

「……幸か不幸か、そのおかげでリッカさんと話を詰めるのも不自然に思われなかったな。まぁ、八割方説教だったけど」

 

「おお……なんと美しく気高き精神……! これが騎士道ならぬ、極東に伝わる武士道というものか……!」

 

 本音半分、建前半分。あの時神機を酷使してまでアラガミを狩ってしまったのは、ひとえに今日この日のための資金を稼ぐためだ。目的地に討伐対象のアラガミがいなかった時は、キョウヤは冗談でも何でもなく肝を冷やしている。

 

「うっわ、マジでなんかワクワクしてきたな……! なぁその女子会、俺も出て良いやつかな!? チハルの入隊記念だっていうなら、男が参加しても大丈夫だよな!? もちろん、記念品は準備するし参加費も払うから!」

 

「それはまあ、問題ないと思いますけど……困ったことが一つあって」

 

「うん?」

 

「……お祝いの記念品、まだ決まってないんですよね。ムツミちゃんに色々聞いてみたんですけど、いまいちしっくりくるものが無くて……なんだよ?」

 

「べっつにー?」

 

 からかいがいのあるおもちゃを見つけたかのような。あるいは、とてもいじらしい弟を見るかのような。なんだか妙ににやにやとした笑みを浮かべながらエリナがこちらを見ているのに気づいて、キョウヤは思わず、突かなくてもいい藪を突いてしまった。

 

「ただ、普段はあんな態度なのに、ちゃんとチハルさんのこと見てるんだなーって」

 

「うっせ」

 

「なんかいいなあ、そういうの……でも、キョウヤさんも同期入隊なんだからお祝いされる側なんじゃないの?」

 

「いーんだよ、俺は。そんなの気にする年じゃないし」

 

「……ふふっ。じゃあ私からキョウヤさんへのお祝いとして一つアドバイスを。チハルさんへのお祝いなら……キョウヤさんがバンダナ付けてあげるのが一番喜ぶんじゃないんですか?」

 

「そうとしか思えないから困ってるんだよ……」

 

「はは……! じゃあ、ミッションはさっさと片付けて記念品探しをしないとだな……!」

 

 そうしてコウタは、近場で手ごろな討伐対象がいないかヒバリに問いかける。あっという間に討伐対象が決まって、そしてキョウヤもその参加メンバーにアサインされた。今のキョウヤであれば楽勝で片づけられる程度の難易度だから、おそらくかなり早い時間に帰投することができるだろう。

 

「……」

 

 不安になることなんて何もない。最悪、良いものが見つからなかったらバンダナをつければいい。そうしてあげても良いと思えるくらいには、キョウヤはチハルのことを憎からず思っている。

 

 そのはずなのに。

 

「…………」

 

「キョウヤ? おい、どうした?」

 

「いえ──なんでも、ないです」

 

 最後に見た、チハルの後ろ姿。

 

 何故だかキョウヤの胸の中に、例えようのない不安と嫌な予感が渦巻いていた。




 レーションとか持って行ったことないし、使ったこともないっていう。
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