【ブラッドアーツ習得状況について:簡易報告書】
本報告書は、2074年9月現在における神機使いのブラッドアーツ習得状況について簡易的に報告するものである。
【概要】
2074年7月に、ブラッド隊の神威ヒロの《血の力》である《喚起》の影響を受け、第二世代の神機使いである桜田チハルがブラッドアーツに覚醒した。この事例により、第三世代ではない神機使いであっても《喚起》の影響を受けることで感応能力が強化され、ブラッドアーツが使用可能となる可能性が示唆された。
ブラッド隊の協力のもとに行った検証の結果、第二世代以前の神機使いが複数名ブラッドアーツに覚醒したことを確認。以下に、ブラッドアーツ覚醒者を記す。
【ブラッドアーツ覚醒者】
※覚醒順に表記。
桜田チハル(第二世代)
真壁ハルオミ(第二世代)
雨宮リンドウ(第二世代)
藤木コウタ(第一世代)
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(第二世代)
片桐キョウヤ(第二世代)
台場カノン(第一世代)
ソーマ・シックザール(第一世代)
エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ(第二世代)
エミール・フォン・シュトラスブルク(第二世代)
【喚起条件について】
神威ヒロの《喚起》によって第二世代以前の神機使いでもブラッドアーツに覚醒できることが判明したが、厳密な《喚起》条件については明確になっていないというのが現状である。ラケル・クラウディウスによると《喚起》とは【心を通わせた者の『真の力』を呼び覚ます能力】とされているが、その実態は分かっていないことも多く、今までのすべての事例において、神威ヒロ本人も、《喚起》された神機使いたちも《喚起》が発動した瞬間は自覚できておらず、ある日突然ブラッドアーツが扱えるようになったことで初めて自身が《喚起》されたことに気づいている。
これまでの《喚起》事例から、少なくとも以下については《喚起》発動の条件ではない(あるいは影響度としては小さい)と思われる。
・神機世代
第一世代、第二世代に関わらずブラッドアーツに覚醒しているため関係ないと判断。
・オラクル細胞への適合率
ブラッドアーツ覚醒者のオラクル細胞適合率に傾向なし。
・年齢
傾向なし。
・性別
傾向なし。
・神威ヒロとの接触時間
接触時間がゼロである場合は当然《喚起》されないが、ブラッドアーツ覚醒者よりも長い時間神威ヒロに接触している神機使い(榎本ケイイチ、松宮レイナ)が覚醒していないため、単純な接触時間の多寡は《喚起》には関わりが無いと思われる。
《喚起》の発動には複数の条件が絡み合っている可能性も高いと思われる。引き続き《喚起》発動条件の検証、考察を進めていく。
【ロミオ・レオーニについて】
ブラッド隊のロミオ・レオーニは第三世代の神機使いでありながらも、現時点にて《血の力》およびブラッドアーツには未覚醒である。《喚起》の性質を考えるとロミオ・レオーニが未覚醒なのは明らかに不自然であり、ラケル・クラウディウスとペイラー・榊が改めて精密検査を行ったところ、ロミオ・レオーニからは微弱ながらもブラッドアーツに覚醒した神機使い特有の感応波が観測された。
上記より、ロミオ・レオーニはきっかけさえあればいつでも《血の力》に覚醒できる状態にあるといえるが、【非常に強力な《血の力》であるため、発現が遅れているのではないか】、【その力が自身や周囲を危険に晒す可能性があることを本能的に感じ取り、無意識的に力を抑え込んでいるのではないか】とラケル・クラウディウスらは推測している。
香月ナナの事例※があるため、現状安定状態にあり、そして覚醒する《血の力》の危険性が香月ナナ以上に高い可能性があるロミオ・レオーニに対して、神威ヒロの《喚起》による半ば強制的な覚醒を行うかどうかは今後の検討課題となっている。
※ブラッド隊の香月ナナは《血の力》を不完全な形で覚醒させて暴走させてしまったが、この原因はその《血の力》の危険性を本能的に感じ取り、無意識的に覚醒を抑え込もうとしたためだとされている。この暴走は《喚起》により正しく《血の力》を開放することで鎮められた。
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「今日もいい天気だねー……」
青い空。
白い雲。
そして視界の端にちらちらと映る赤いバンダナ。
ぐうっと大きく深呼吸をしてみれば、膨らむ私のおなかの感覚が心地よかったのか、赤いバンダナの神機使いの女の子──チハルちゃんがそりゃもう楽しそうな感じで私のおなかをぽふぽふと叩く。いや、全身でしがみつくようにして体を預けているから、叩くというよりかは抱きしめ直していると表現したほうがいいかもわからん。
「ルーちゃんのおなかは、いつもやわらかくてあったかいねえ……」
ママの自慢のワガママダイナマイトボディだもの。伊達にたくさんアラガミ食べて栄養付けてるわけじゃないっていう。まぁ、このアラガミの体だとどれだけ食べてもおなかがぺこちゃんだし、多分食べたもん全部エネルギーになってるから余分なお肉とかつくはずが無いんだけど。
「たまにはこうして、のんびりと過ごすのも悪くないねー……」
アラガミが跋扈するクソッタレな世界であるとはとても信じれないほど、うちの娘ってば緩み切っている。それもそのはず、最強☆無敵なイケメンママアラガミである私の懐ほど安全な場所なんてこの世に二つとないのだから。比喩でも冗談でもなんでもなく、私であれば近づく敵を見逃すはずが無いし、そして襲われたところで返り討ちにできる。ついでに言えば機動力もダンチだから逃げるのだって問題なし。
自分で言っててなんだけど、このアラガミさては無敵だな?
──ルゥゥ……。
「ん……ルーちゃんもおねむなのかな?」
冗談はともかくとして、だ。
割とまじめに、明確な脅威は大体全部排除し終わったと思えないことも無い。ギルのイベントであるルフス・カリギュラは今やすっかり私のおなかの中だし、そしてついこの前に至ってはナナちゃんの《血の力》の暴走イベントも無事に終わらせることができた。なんだかゲームで体験したときのそれよりもずいぶんとアラガミが集まっていた気がしたけれども、私としてはアラガミ☆食べ放題が出来て大変満足。欲を言うなら、もうちょっと手強い……いいや、美味しいアラガミがいてもよかったかなって感じ。まぁ質より量のほうが嬉しいし、ホントにヤバいアラガミが出たらそれはそれで困るんだけれども。
──ルゥ……。
ヤバいアラガミと言えば、ナナちゃんイベントの最中に出てきたあのマルドゥークはやっぱり例のマルドゥークであっていたのだろうか? この時期にロミオの傍に現れたマルドゥークってことで嫌な予感しかしなかったわけだけれども、蓋を開けてみたらなんだか普通のモブ(?)のマルドゥークのような気がしないことも無い。
や、確かになんだか妙にロミオばっかり執拗に狙っていたから、いわゆる運命の強制力的なのが働いているんじゃねーかって最初は思ったけれども……イベント戦にしてはそんなに強くなかったし、何よりロミオイベントは本来であればナナちゃんイベントのちょっと後に発生するものだ。いろいろあってロミオがアナグラから家出(?)して、外部居住区のじーちゃんたちと触れ合って、そんなこんなしているうちにアラガミの襲撃で外部居住区の防壁が破られて……っていうのが大きな流れだった気がする。
私というイレギュラーがいる以上、ゲーム通りには進んでいないというのは明らかだけれども、それにしたってここまで大筋が変わっているのは初めてのような。さすがに初めて出現したであろうマルドゥークがただのマルドゥークだったとも思えないし……ううむ。
まぁ、どちらであったにせよあの場じゃそっこー喰い殺す以外の選択肢なんてなかったんだけどね。おなかの中に収めてさえしまえばもうこっちのもんよ。意外と噛み応え良し&初めての風味と食感でなかなか美味しかったっていう。できればもう二、三十匹くらい食べさせてほしいし、なんなら普通のガルムもセットで食べ比べフルコースを楽しみたいものですわァ……!
──ルゥ……。
「おーおー、すっげー腹の音だしてら……なんかこいつ、腹の減り方が速くなったって言うか……どんどん食う量増えてないか?」
「どうだろ……今まで満腹になったところ見たことないし、アラガミならこんなものなんじゃない?」
で、だ。
仮にあのマルドゥークがロミオイベントのマルドゥークだったとして。
ロミオが殺される前に私があのマルドゥークをぱっくりむしゃむしゃしてやった以上、ロミオの死の運命は回避できたってことになる。ロミオが死なないってことはジュリウスが闇堕ち(?)する運命も回避できたってことになるわけで、ジュリウスが闇堕ちしないってことは、ラケルせんせーによるジュリウスを使った終末捕喰もできなくなる……すなわち、ラケルせんせーの最大の【やらかし】を未然に防げたというふうにも捉えることができるわけだ。
それってつまり……GE2のシナリオ、もう大体全部終わったってことになるんじゃね?
もちろん、運命の強制力的なアレコレでさらなる試練が降りかかるかもしれないし、いっそ不気味なほど神機兵関連の話が聞こえてこないのも気になるけれど……私が覚えている限り、絶対に回避しなきゃいけないヤバいターニングポイントはもうない……はず。
「今日の晩飯なんだろうなあ……」
「えっと……素材の味を楽しめる、シンプルなトルティーヤって言ってたよ!」
「……それってジャイアントコーンを挽いて作ったいつもの薄いパンだろ?」
「……」
「オシャレに言い直したって中身は変わんねえよ……」
「……キョウヤくんのばか」
「……そんなこと言っていいのか? 実は、いざってときのための秘蔵のジャムがあるんだが」
「はんぶんこ!」
「初めて会った頃のお前だったら、『ひとくち!』だったってのに……」
「ふーんだ。半分も残してあげるんだから、逆に感謝してくれてもいいんだよ?」
「全部行く気だったのかよお前……!?」
こうしてウチの娘たちがのんきに夕餉の話をしていられる程度には割とマジで平和だ。なんかいつのまにやらウチの娘どころかキョウヤでさえもブラッドアーツに目覚めていたし、対感応種の戦力もばっちり。少なくとも、私が緊急で呼び出されるようなことはもうほとんどない。
なんかいまだにロミオが《血の力》に目覚めてないって話だけはちらっと聞こえたけれど……まぁ、世界が平和ならそれが一番だと思うことにしよう。ロミオには悪いけれども、あいつの《圧殺》は下手に目覚めるとマジやばいというか、ナナちゃんみたいに暴走させたら冗談でも比喩でもなんでもなく、神機使いが全滅しかねない。この私でさえもたぶん抵抗できずに死んじゃうっていう。だったらまあ、一生目覚めないほうが良いかもわからんね。
……いや、どうなんだ? ゲーム本編だとマルドゥークに襲われた時に一応発現していたっぽいけども……そのあとはレイジバーストのシナリオでなんやかんやいろいろありまくって《対話》になってたからなあ……。《圧殺》と《対話》じゃゲーム設定的にも微妙に異なるし、こういったイレギュラーの影響を受けずに順当に《喚起》されたなら、また別のちょっと違う能力になるのかね?
ともあれ。
──ルゥ……。
「あ」
「おん?」
ぐうっと改めて大きく伸びをする。今日も今日とてクソッタレなこの世界だけれども、裏を返せば私のご飯がたくさんある世界ということでもある。決して油断はできないけれど、このぬるま湯のような平和な日常をできるだけ楽しみたいところ。そして願わくば、このまま何事もなく……ヤバいイベントとか発生することなく、【メインシナリオはこれでおしまい、あとはみんなそれぞれ頑張って暮らしました】……って感じでダラダラ続いてくれるといいなあ。
GE3? 13年後のことはその時に考えればいいや……最悪ソーマに引っ付いて、事前にそれっぽいやばやば機械や施設を片っ端からぶっ壊せばなんとかなるじゃろ……。機械は電気に弱いってのは常識だし、【たまたま既存の雷対策じゃどうにもならないヤバい雷が発生しました】ってことにすれば証拠は残らないはずだもんね。
……13年後ともなると、チハルちゃんやキョウヤもアラサーってところか? コウタやアリサは間違いなく30歳を超えているはずだし、とっくに神機使いを引退していることだろう。そうでなくとも、異動とかそーゆーのでこのアナグラから去っていてもおかしくない。
30歳くらいまで成長した彼らの姿も見てみたいけれど、メンバーが変わるのは悲しいな……いや、それ以前にちゃんとまっとうに神機使いを引退できるのかな……あかん、なんかちょっぴりおセンチな気分になってきた。
「どした、ルー? そろそろ飯か?」
「それとも顎の下を撫ででほしいのかあ?」
うーん、なんとも魅力的。だけれども、今はそういう気分じゃなくて……。
──……。
「………………おい?」
片桐キョウヤ。ウチの娘に近づく不届きもの。腹立たしいことにウチの娘と同期入隊で、そして相棒って扱いになっていて、なんか幼馴染的雰囲気もバリバリ醸し出しているこの男。なんだかんだで私の扱いも上手く、この極東でやっていける程度には実力もあって、なんか地味に賢い(?)かもしれないという……素行の悪さを除いたカタログスペックは割といい感じじゃねっていうこいつ。
「…………」
私はアラガミだ。つまり強い。ってことは大体のワガママは許される身で、そもそも私を縛る法律なんてここには存在しない。
何が言いたいかって、つまり。
──ルァ。
「あ」
大きく大きく口を開け、キョウヤの頭に噛り付く直前で止める。
どれ、暇つぶしにここはいっちょキョウヤのやつを頭からしゃぶってやろうか──そんな気分。決して、さっきのチハルちゃんとのやり取りがうらやましかったわけじゃないし、おセンチな気分から抜け出したかったわけでもない。ただ単純に、今日は一回もキョウヤのことをしゃぶっていなかったってのを思い出しただけだ。
「おい……」
「もー……ルーちゃんってば、口さみしいのかなあ? ……それともまさか本当に、顔を舐めるって言うのは特別な親愛行動なのかなあ。私、一回も舐められたことないんだけど……」
「いや、こいつの場合は完全に俺をおちょくってるだけだろ……人が慌てふためくのを見て楽しんでるんだよ」
うん、それ正解。
そこまで通じ合っているってことは、しゃぶりつくしてOKってことでいいよね? これもう合意だよね? 最近こいつ腕を舐めても驚かなくなってきたし……っていうか親愛行動って伝わってるならこれもう好きにしちゃっていいっていうアレだよね?
──ルゥゥ……!
「もぉ! ルーちゃんもあんまり意地悪しないの! 構ってほしいなら遊んであげるから!」
「いや……別にいいぞ、好きなだけ舐めまわしても。頭どころか全身好きなだけ、気の済むまでやりゃあいい」
えっ、マジ?
「──その代わり、汚れたらチハルのコートで拭くからな」
「えっ」
えっ。
「ハンカチじゃ拭ききれないしなァ……。洗い落とすにしても水は貴重だし、そんなことしたらリッカさんがおっかねーんだよ……」
「え……水がもったいないってこと……?」
「いや、貴重な
私の素材で作ったチハルちゃんのコートは超高級品だ。撥水性についてはわからんけれども、手触りもめっちゃ柔らかでふかふかだし、こーゆーやつの内側はだいたい吸水性に優れていい感じって昔ネットで見たことがある気がする……つまり、タオルとしてもそれなり以上に機能するはず。
「コートでどこまでできるかわからんが、これだけデカけりゃそれなりの量のサンプルが確保できるだろ。俺だってフェンリル所属の神機使いだ、人類の発展のためなら喜んで身を差し出すさ」
「え……やだ……」
ホレ舐めろ、さあ舐めろと言わんばかりにキョウヤは私の口に体を突っ込もうとしてくる……も、真っ青な表情で、抱きしめるようにコートをぎゅっとしているチハルちゃんをみたら、当然そんなの受け入れられるわけがない。
──ルゥゥ……!
「お? どうした? ほら、好きなだけ舐めろよ。お前、俺のこと舐めるの大好きだったろうが。俺とお前の仲だろ? 今更遠慮なんてするんじゃねえ」
マジ何なのコイツ? 鬼か? てめえの血の色は何色だっていう。
「だ、ダメっ! ルーちゃん、舐めちゃダメっ!」
いじわるばっか言う男子ってやーねー。やっぱ私にはチハルちゃんしかいないですわァ……!
「──よし、勝った」
「もぉ……! キョウヤくん、このコート私のおきにって知ってるでしょ!」
「こればっかりは、そーゆーのを持ち出さないとこいつ言うこと聞いてくれないんだよ……割とマジに、こいつ俺のこと舐めても減らない飴玉か何かと思ってんじゃないか?」
──ルゥ!
「…………ほら」
べろべろ、べろべろ、べろべろ、べろべろ。
さすがに全身舐めまわすのは勘弁してやるっていう。その代わりにいつも通り、その右腕だけは舐めさせてもらうっていう。こいつの腕でもこう見えて何度も舐めているうちにはクセになってきたというか……しばらく口にしないとなんか物足りない、あるいは口寂しくなってくるというか。
あとね、内緒だけど地味に腕輪の部分が良い感じ。やっぱいろいろオラクル詰まってるのだろうか。これ噛み砕いたらめっちゃ美味しそうな気がするんだけど、さすがにそれは倫理的にヤバいから舐めるだけに留めてあげているんだっていう。
……神機って美味しいのかな?
「ええい、いつまで舐めてやがる!? マジでチハルのコートで拭くぞ!?」
やーねー、こんなのただのスキンシップじゃん。お前もさっき言ってたじゃん、私とお前の仲だって。これくらいマブダチなら普通だってば。
「まったく……こいつはいいよな、毎日何も考えずに本能のままダラダラできてよぉ……」
「まぁまぁ……ルーちゃんのおかげで私たちもずいぶん楽ができているんだし、キョウヤくんの腕がでろでろになるだけで済むんなら、それこそ安いものじゃん……?」
「そうなんだけどさぁ……! だからと言ってお前、毎回腕をヨダレ臭くされる俺の気持ちも少しは考えてくれよ……! この前なんて、ムツミちゃんに露骨に顔を背けられたんだぞ!? しかもそのあと、ムツミちゃんもやっちまったって思ったのかすっげー申し訳なさそうな顔で謝ってくるしさ……!」
「あ、あはは……」
「割とマジに、俺は体を張ってこいつの機嫌を取ってるんだからな……? 何ならお前、代わりにこいつに舐められてみるか……?」
「…………これからも頼りにしてるよ、キョウヤくん!」
チハルちゃんがキョウヤの背中のだいぶケツ寄りをぱしんと叩き、そしてキョウヤはあきれながらも私の涎をアンプルに回収していく。
赤い雨は止まない。アラガミも減らないし、きっと今もどこかで誰かが襲われてるのかもしれない。
それでも──私の目の前に広がっているこの光景は、こんなクソッタレな世界では数少ない平和な光景で、自惚れかもしれないけれど私自身が作り出し、つかみ取ったものだ。
──ルゥゥ……。
願わくば。
こんな平和な日常が、いつまでも続いてほしい。私の救える範囲だけでもいいから──せめてこの二人だけでも、こんなくらだない話をしていてほしい。子供みたいにふざけあって、さぁ、明日も頑張ろうって思いながら……なんてことの無い日常を、年相応の子供らしく過ごしてほしい。
それくらいは許されるはずだし、そのために私はここにいるんじゃねーかって最近はそう思えてならない。体はアラガミでも心は人間だもの、身近な人間の無事や平穏を願って何が悪い。それを妨げる者がいるのだとしたら、全員ブッ殺して頭から食べてやるっていう。
だからどうか。
「あーっと……そろそろ任務の時間か?」
「だね……いつものルートをぐるーっと回ってアラガミ食べ放題かな? もしかしたら、他所の部隊の応援に行くことになるかもってヒバリさんが言ってた」
「そういやァ、最近なんか妙に気が立っていて手強いアラガミが多いって言ってたっけ……割といつも通りじゃね?」
「あはは、そうかも。でも、その分ルーちゃんが美味しくご飯を食べられるってことだから!」
──ルゥ!
だからどうか。
──明日もみんなで、楽しく笑って美味しいご飯を食べられますように。
──虫出しの雷。