GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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93 虫の知らせ

 

「──今日の任務が終わったら、みんなでピクニックに行きませんか?」

 

 とある日の朝。今日も今日とておしごとがんばるぞ──とエントランスに赴いたチハルを待っていたのは、静かにほほ笑むシエルからのそんな言葉であった。

 

「ぴ、ピクニック……!? ピクニックって、あの……!?」

 

 ピクニック。言葉だけはチハルも聞いたことがあるものの、実はその詳しい実態は知らなかったりする。知っていることと言えば、景色の綺麗な場所で楽しくお弁当を食べること……と、まあそれくらいのふんわりとしたことだけだ。

 

 そもそもこの付近で景色の綺麗な場所や遊べる場所なんて皆無に等しい。自然豊かであろうアラガミ防壁の外はアラガミが跋扈している危険地帯だし、アラガミ防壁の中であっても、ボロボロでスラムに近い場所なんて珍しくもない。

 

 ついでに言えば、大前提となるお弁当の準備だって難しい。チハルたちが用意できるのなんて、せいぜいが支給品となる軍用レーションくらいだ。

 

 そう、チハルの知っているピクニックとは、あくまでお話の中だけに存在するものだ。出かけられる場所も無ければまともな食事の準備もできないこの世の中では、もはやそれはただの概念に成り下がっているはずのものなのである。

 

「ええ。実は少し前から考えていたのです。どうも我々ブラッド隊は、アナグラのみなさんからのおもてなしに対してあまりお礼ができていないのではないか──と」

 

「そんなことは無いと思うけど……」

 

「ううん、そんなことあるんだよ……! だって私、毎日ラウンジで美味しいご飯食べさせてもらってるもん……!」

 

 シエルの隣にいたナナが、うっとりとした表情でつぶやく。実際、アナグラのラウンジで提供される食事はフライアで提供されるそれより明らかに料理としてのクオリティは高い。より正確に言うと、フライアでの食事はお金がかかっている高級品であることが多いが、アナグラでのそれは安い食材をなるべく美味しくたくさん食べられるように……そんなコンセプトのもとにムツミが作り上げた家庭料理だ。【家族】というつながりを何よりも大事にする彼らにとって、それは決して無視できない要素なのだろう。

 

「あとあと! 私、ラウンジの雰囲気もすっごく好きなの! なんかあそこだとすごくリラックスできるというか、ああ、帰ってきたんだなーってホッとするというか……!」

 

「わかるぅ……! けど、どうしてそれがピクニックに繋がるの……?」

 

「──端的に言えば、今度は私たちの【お気に入り】の場所を紹介したい、ということになりますね」

 

「……ぬ?」

 

 アナグラにおけるみんなの憩いの場所は、フライア所属であるシエルたちも十分に堪能した。そしてだからこそ、シエルたちは──仲間となったアナグラのみんなに、今度は自分たちの憩いの場所を紹介したくなってしまったのだ。

 

「実はですね……フライアには庭園と呼ばれる場所がありまして。その時のお楽しみとさせて頂きたいので、詳細は省きますが──」

 

「ここのラウンジにも負けないくらい、すっごくステキな場所なの! それこそ、ピクニックするためにあると言っても過言じゃないくらい!」

 

「へぇ……!」

 

 フライアの中にある庭園。そこはとても景色が良く、アナグラのラウンジとはまた別の意味での憩いの場所であるのだという。当然のことながら、本来であればフライアの関係者の中でも一部の人間しか利用できないが、なんとも都合のいいことにシエルたちはその【一部の人間】であったりする。

 

「ラケル先生に相談したところ、とても良いアイディアだというお言葉もいただけまして。ピクニックにかかる費用も出してくれるとか」

 

「えっ……そ、そこまでしてくれるの……!?」

 

「いい機会だから存分に楽しんでおいで──なんて、そんな言葉をいただきました」

 

 お金だけでなく、ピクニックに必須となるお弁当の食材もフライア側から融通してくれる。調理するのはムツミになってしまうかもしれないが、それはもう立派なお弁当ができることはもはや疑いようがない。秘蔵の紅茶も提供してくれたんですよ──なんて言葉も聞いてしまえば、もうチハルの心は決まったようなものだった。

 

「美味しいお弁当! 美味しい紅茶とお菓子! ピクニックしながらお茶会もやる女子会……! たまにはこんな贅沢もいいよね!」

 

「こら、ナナ。贅沢ではなくて、私たちからアナグラのみなさんへのおもてなしですよ?」

 

 ちなみに、出資者であるラケルは非常に残念そうな顔をして「行けたら行く、ずっとは無理でも紅茶の一杯くらいは一緒に楽しみたい」と言ったらしい。レアもまた、ちょっぴり寂しそうにも見える表情で「誘ってくれて嬉しいけれど、今回は若い子だけで楽しんできなさい」と言ったそうだ。

 

「あ……そうだ、メンバーは?」

 

「フライアからは私とナナ、そしてフランさん。アナグラからは……都合のつく人全員に声をかけようと思っています」

 

 あえて語るまでもないが、声をかけるのは全員女子だ。なんてったって、これは女子の女子による女子のための神聖なる女子会なのだから。

 

「ん、おっけー! じゃあ、もうしばらくここで待ってアリサさんやカノンさんたちに声をかけよっか! 今日の任務は……軽くさっと流せるやつをヒバリさんに選んでもらお!」

 

「ええ。できればお互い、近場で済ませられるものだといいですね。あと……チハルが良ければ、一緒に任務に行くのも手かと」

 

「もちろんそれでも全然大丈夫だけど……何か気になることでもあるの?」

 

「あ、いえ……その、ピクニックのメンバーを考えると、キョウヤと別行動になってしまうので……」

 

「──おう、呼んだか?」

 

 まさしくベストタイミング。ちょうど朝の支度を終えてエントランスにやってきたキョウヤが、少しばかり眠そうな顔のままチハルたちに声をかけた。

 

「なんかウマい儲け話でもあったか? それとも……とうとうこの前話したアラガミシューティングツアーをやることになったとか?」

 

 そんな物騒なツアーなんて開くわけないでしょ──と、チハルはキョウヤの尻をぱしんと叩く。なんだつまんねえ──と、キョウヤはあくびをし、そしてぐうっと大きく背中を伸ばした。

 

 シエルがほんのちょっぴり残念そうな表情をしていたことに、チハルは気づいていない。

 

「そうじゃなくてね、今日はシエルちゃんたちと任務に行こうかなって話してたの。で、任務の終わりにピクニックに行こうかなって!」

 

「ピクニックぅ……? いくらルーがいても厳しくねえか? アラガミに襲われなかったとしても、外で食うよりラウンジで食う方が絶対良いだろ」

 

「外じゃなくて、フライアでピクニックするの! えっとね、庭園っていうすっごくキレイで素敵な場所があるんだって!」

 

「あー……なるほど、そういうことか。じゃあその一緒に受ける任務ってのも適当な軽いやつってか?」

 

「ええ。ちょうど黎明の亡都のほうでコクーンメイデンが大量発生しているそうなので、それの討伐に行こうかと」

 

「ふむ」

 

 大量発生したコクーンメイデンの討伐。文字通り、入隊したばかりの新人でも片付けられるような任務だ。いったいどれだけ発生しているのかはわからないが、ブラッド隊であれば余力を残して戦ったとしてもあっという間に終わるような任務だろう。鼻歌を歌いながらでも片付けられる簡単な任務なわけで、適当に処理できる任務としてこれ以上のものはない。

 

「アレか、元々はロミオたちと行く予定だったって感じか?」

 

「うん! 私とシエルちゃんと、ロミオ先輩とギルの四人の予定だったの!」

 

 ピクニックという名の──おそらくは、女子会。そして任務はコクーンメイデンという棒立ちしているアラガミを撃つだけの、暇つぶしにさえもならないあまりにもつまらないもの。であれば、わざわざそんな任務に自分が参加する必要なんてないのではないか──と、キョウヤはそんな風に思えてならなかった。

 

「じゃあ、俺はロミオとギルと……あと、捕まれば誰かを誘って適当な任務を受けるとするか」

 

「え……いいの? チハルちゃんと一緒に任務を受けるつもりだったんじゃ……」

 

「別に決めてたわけじゃないし、そっちとしても都合が良いだろ? ギルやロミオも、もうちょっとやりがいのある任務にしたい……なんて、ブツクサ言わなかったか?」

 

「……言ってた、ような?」

 

 であれば、女子は女子で、男子は男子で任務を受けたほうが良い。そっちの方がお互いにとって都合がいいし、なんなら男は男同士でラウンジでちょっぴり贅沢するのも悪くはない。もしかしたら、ピクニックの食材のおこぼれに預かれる可能性もあるかもしれない。

 

「決まりだな。……おうチハル、あんまり食い意地張ってガッついたりするんじゃねえぞ。ピクニックの作法ってのもあるかもしれないんだからな。あと、お前からも適当に一品くらいは持ち込んどけよ?」

 

「わ、わかってるってば! キョウヤくんこそ、ギルさんたちに迷惑かけないようにしてよね!」

 

「へいへい。わかったからさっさと行けっての」

 

「もぉーっ! 『楽しんでこいよ』って素直に言ってくれてもいいじゃんっ!」

 

 ぷくっと頬を膨らませ、チハルはキョウヤに背を向ける。シエルとナナの二人に声をかけ、ヒバリのいるミッションカウンターに向かって歩き出して──

 

 

 

「──っ!?」

 

「……ぬ?」

 

 

 

 ──なぜだかキョウヤが、チハルの腕を掴んでいた。

 

 

「え……どしたの、キョウヤくん?」

 

 キョウヤの様子が明らかにおかしい。額には冷や汗をかいていて、どことなく息遣いが荒いようにも見える。チハルを見つめるその視線は落ち着きなく揺れていて、まるで何かに怯えているかのよう。

 

 そんなキョウヤは……絞り出すようにして、小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

「チハル……行くな」

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「──任務を中止すべきです」

 

「むぎゅ」

 

 ブリーフィングルーム。チハルをその胸にしっかりと抱きしめて、アリサは断言した。

 

「女子会のために簡単な任務に出掛けるのも……! 出撃前にキョウヤくんが嫌な予感を感じたというのも……! あの時と全く同じじゃないですか……!」

 

 ほんの三十分ほど前。キョウヤは自分でも説明ができない嫌な予感と不安が胸の中に満ちるのを感じ、チハルの腕を掴んで引き留めた。

 

 そう──かつて、チハルがMIAになる原因となった新人指導実地訓練の時も、キョウヤは同じように嫌な予感を抱いて、そして同じようにチハルを止めている。その時は本当に気のせいか何かだと思っていたために、呼び止めるだけで終わってしまったが……今回はこうして神機使いたちがブリーフィングルームに集められるほどの事態になってしまっていた。

 

「えーっとぉ……私、よく知らないんだけど……そんなに大変なことなの?」

 

「あー……まぁ、そうなるのかな? 偶然にしては状況が似過ぎているし、キョウヤの虫の知らせは実績があるからなあ……」

 

 当時のことを知っている数少ない人物であるコウタは、ナナのそんな質問に苦笑いをしながら答える。コウタがこの話を聞いたのはほんのついさっき──すごい剣幕のアリサに半ば無理矢理連行されてからであるが、聞けば聞くほどあの時とそっくりな状況であるがゆえに、どう判断すればいいのかわからない、というのが本音であった。

 

「でも、ただ嫌な予感がするってだけで任務を放り出すわけにもいかないんだよな……」

 

 神機使いは毎日が死と隣り合わせだ。常に命がけで戦う以上、嫌な予感なんてものは大なり小なりいつだって感じている。おまけにここが極東ともなれば、それこそ想定外の強力なアラガミが出現する……なんて話も、決して珍しくはない。

 

 だけれども、それはやっぱりいつも通りの事であるわけで。

 

「そ、そうだよ……たかがコクーンメイデンを倒すだけなのに、みんな大げさだよ……」

 

「大げさなものですか! あの時だって……たかが(・・・)グボロ・グボロを倒すだけのつもりだったんでしょう!?」

 

「むー……」

 

 今にも泣きそうな顔で、アリサはチハルをぎゅっと抱きしめる。

 

 そしてちょっぴり意外(?)なことに、そんなアリサの味方をするようにキョウヤも口を開いた。

 

「そうだそうだ。大体、コウタさんも言った通り俺の虫の知らせには実績があるんだ。それに……お前だってわかってるだろ? 嫌な予感ってのはいつだって当たるもので、そんでもって現場の直感ってのは時に理屈を超えるんだよ」

 

「…………」

 

 理屈で考えれば、ただのコクーンメイデンの討伐任務だ。そこに危険性なんてあるはずがない。しかし、あの時とあまりにも似ているこの状況に、キョウヤの直感──それをただの偶然や気のせいで片付けられるわけもない。もしそんな考えをしていたならば、おそらくこの部屋にいる人間の八割は既にこの世から去っていたことだろう。

 

「でもどうするんだよ、アリサ。チハルを出撃させないにしても、誰かがやらなきゃいけない任務だろ? どうせ誰かがやらなきゃいけないのなら、チハルであっても関係ない……っていうか、誰がやってもヤバいんじゃ……」

 

「──私が一緒に出撃します」

 

 アリサの答えは、実にシンプルであった。

 

「コウタの言う通り、誰かがやらねばなりません。そして、いつまでもチハルちゃんを引っ込めておくというのも現実的ではありません。であれば──私が一緒に出撃します」

 

「もちろん、俺も行くっすよ。前みたいに何もできないってのはごめんですから」

 

「ええ、もとよりそのつもりです。もしいかないと言ったとしても、無理やりにでも連れていくつもりでした」

 

「……なんか意外です。アリサさん、俺も残れって言うと思ってました」

 

「だってキョウヤくん……あなた、もしそう言われたら命令を無視してでも無理矢理ついてくるつもりだったでしょう? だったら、最初から一緒にいたほうが私としても目を光らせやすいです。それに……あなただって、可愛い後輩の一人なんですから」

 

 言葉は悪いが、あの時のチハルには新人二人という足かせがあった。しかし今回は、キョウヤという相棒にアリサというあまりにも頼りになる先輩もいる。加えて言えば、三人ともがブラッドアーツを習得している……つまり、その戦力はあの時のそれをはるかに超えている。もしあの時と同じ七体のアラガミが出現したとしても、難なく切り抜けれる──それどころか、返り討ちにすることだって不可能ではない。

 

 加えて。

 

「万全を期します──ルーに加えて、ソーマも連れていきます」

 

「……」

 

 勝手知ったるなんとやら。ソーマのジャケットを遠慮なくぐいっと引っ張って、アリサは高らかに宣言した。

 

「……俺に選択肢は?」

 

「ありません」

 

 だから、連れていきますって断言したのね──と、コウタはソーマにちょっぴりだけ同情した。

 

「今抱えている仕事も、どうせそこまで緊急性は高くないのでしょう? あなた、ウチの子の安全と仕事のどっちが大事だというのですか!」

 

「別に嫌とは言ってないだろ。ただ、俺である必要がどこにあるんだって聞いてるんだ。それこそコウタでも良いだろうが」

 

「キョウヤくんが銃撃主体の戦い方をするので、チハルちゃんはどちらかというと接近戦を主体としています。私はどちらもやりますが……ここにコウタを入れると、全体的に銃撃に偏りすぎるんです。場合によっては、チハルちゃんだけがアラガミと切り結ぶ場面も出てきかねない」

 

「相手、コクーンメイデンだが」

 

「だから、常にチハルちゃんの近くにいられる接近戦のエキスパートとしては……私が知る限り、この場ではあなたが一番の実力者なんです。……私だって、できることならユウにお願いしたかったですけどね」

 

 どちらかというと接近戦を主体にしているチハル。

 接近戦はできるがほぼ銃撃メインのキョウヤ。

 接近戦も銃撃も、サポートだって何でもできるアリサ。

 

 そこに──アリサの知る限り、戦闘経験が豊富で類まれなる実力を持ち、囮だろうと殿だろうと問題なく任せられるソーマが加われば、今このアナグラで組める部隊としては最上のものとなる。そのうえさらに何もかもが規格外のルーまで加わるというのだから、これ以上の準備なんてしようがない。

 

 たかがコクーンメイデンの討伐に、クレイドル所属ではじまりのゴッドイーターであるソーマ・シックザールを駆り出す。ソーマ個人の実力を考えると、あまりにも程度が低すぎる任務──戦力の過剰投入あるいはソーマという駒の実力を無駄に燻ぶらせるような行いだが、アリサは自身が持つ権力を最大限に使ってでも、そのワガママを貫き通す所存であった。

 

「まー、ソーマとアリサにルーもいれば、万が一なんて起こりっこないか。というか、それでもヤバいやつが出るって言うなら誰がやっても変わらないってことだもんな」

 

「……念のため、コウタにも動いてもらいましょうか。万が一に備えて、コウタは隣のエリアでアラガミを討伐してください。もし、私とソーマに何かあったときは……その時は、チハルちゃんとキョウヤくんを頼みます」

 

「……う、うっす」

 

 どれだけヤバい事態を想定しているんだよ──と出てきそうになった言葉を、コウタはぐっと飲み込む。そんな軽口なんて叩けないほど、アリサの目は割とマジでガチで真剣だったのだ。

 

「え、えっとぉ……結局、今日の任務はどういう組み合わせってことになるの……?」

 

 いい加減頭がパンクしてきたのだろう。どことなく不安そうにしたナナが、どこか縋るように──この中では一番冷静で頼りになるのであろうコウタに問いかけた。

 

「そうだなあ……。アリサ、ソーマ、チハル、キョウヤでコクーンメイデン討伐だろ? ……そういえば、ブラッド(そっち)のメンバーってジュリウスさんもヒロもいないんだよな?」

 

「え、ええ……二人とも、今日はフライアで別の仕事がありまして」

 

「んー……じゃあ、ハルさんたちも誘っていいかな? で、集まったメンツで適当に臨時部隊を二つ組む感じで行こうと思うんだ」

 

「構いませんが……その理由は?」

 

 シエルの当然の疑問。それに対して、コウタはどこか遠くを見ながらつぶやいた。

 

「──隊長経験者が欲しい」

 

「……」

 

「そっちの実力は十分にわかってるつもりだけどさ。それでもまだ、本当の意味での極東の緊急事態って体験したことないじゃん? や、そんなの体験しなくてもいいならそれに越したことはないんだけどさ……」

 

 しかし現実として、この極東で神機使いとして過ごしているならば数か月に一度は本気で死を覚悟することも珍しくない。これはもうどうにもならないと絶望することだってある。けれど、そのたびに──頼りになる隊長や先輩が、活路を切り開いてくれる。極東の神機使いたちは、そうやって生き延びてきたのだ。

 

「もし、本当に万が一の事態が起きるとしたら……絶対に、極東の隊長格がいたほうが良い。極東(ここ)の緊急事態に一番慣れているのは、間違いなく極東(ここ)の隊長たちだから」

 

「警戒なんて、し過ぎる(・・・・)なんてことはないんですよ。いつだって、これくらい大丈夫だと油断している時に足元をすくわれるんですから」

 

 だから、今出せる全力を尽くす。明日もみんなで笑って過ごすためであるならば、アリサはどんなことだってやってみせるつもりであった。

 

「たかがコクーンメイデン。されどコクーンメイデン。この極東では、何が起きるかわかりません」

 

 新人でも相手ができるようなグボロ・グボロを倒すだけのつもりだったのに、隊長格が部隊を組んでようやく相手ができるようなアラガミ七体に襲われることだってあるのだ。ことこの極東においては、悪い想像は想像をはるかに超えた形で実現しがちなのである。

 

 

 

「だから、絶対に油断しないように──必ずみんな無事に戻って、ピクニックをするんですからね!」

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