【コクーンメイデン討伐ミッション】
◇ミッションコード
7409FS089
◇ミッション目的
作戦エリア内に出現するアラガミの討伐。
◇ミッション概要
黎明の亡都近辺にて、大量のコクーンメイデンのオラクル反応が確認された。当該エリアに出現するコクーンメイデンを掃討し、近辺の安全を確保せよ。
◇ミッション参加者
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(少尉/クレイドル)
ソーマ・シックザール(少尉/クレイドル)
桜田チハル(上等兵)
片桐キョウヤ(上等兵)
【備考】
同日同時刻に、周囲のエリアにて同内容の7409FS090(藤木コウタ、エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ、ギルバート・マクレイン、ロミオ・レオーニ)、7409FS091(真壁ハルオミ、台場カノン、シエル・アランソン、香月ナナ)が発行されています。帰投用ヘリコプターを手配する際は、そちらの任務状況も確認するようにしてください。
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「くれぐれも、油断しないでくださいね……!」
さて。
さてさて。
さてさてさて。
チハルちゃん、キョウヤ、そしてなんとも珍しいことにアリサとソーマを背中に乗せて、私はアナグラの北北東のほう──つまりは黎明の亡都のほうへと向かって駆けていく。
「いいですか、常にジャミングを半径200mは展開するように。少しでもおかしな反応があったら、即座に雷で射抜いて構いません」
アリサの物騒な言葉。はて、メンツからして何かヤバそげなアラガミの討伐にでも行くのかしらん──なんて思ったら、意外や意外、討伐対象はただのコクーンメイデンであるとのこと。チハルちゃんやキョウヤはともかく、クレイドルであるアリサやソーマを引っ張り出すほど状況が逼迫しているのかと思いきや、どうもそういうわけでもないらしい。
──ルゥゥ。
「何事もなく終わるといいけどなー……」
「ヤバいアラガミの乱入ってのが一番ありえそうだからな。前だってヴァジュラに黄色いボルグ・カムランに……シユウにコンゴウの大盤振る舞いだったじゃねえか」
「……今更ながら、そんな状況で新人を二人も逃せたってのは、大したもんだな」
「あ、あはは……その、あの時は本当に必死だったので……。たぶん、もう一回やれって言われても無理かも……」
……どうも話を総合するに、キョウヤのやつが虫の知らせてきなアレを感じ取ったらしい。任務自体はコクーンメイデンの討伐だけみたいだけど、その悪い予感……というか直感を信じたために、新兵がやるような任務にここまでの過剰戦力を投入しているっぽい。
想定外のヤバいアラガミが出るのなんていつも通りの事なのに、なんでここまでピリピリしているのかはよくわからん。ただまぁ、警戒するのは悪いことじゃない。
……というかどうしてキョウヤはあの時のことをまるで見てきたかのように話しているんだ? アレは私とチハルちゃんだけの大事な思い出……アッ、感応現象か? お前らまさか感応現象したんか? 私だってチハルちゃんとはやったことがないのにズルいぞちくしょう……!
──……。
あかん、ちょっと目がうるうるしてきたっていう。あの時のチハルちゃんの「おかあさん」って泣き顔、本当にマジで心にクるんだよ……! こんな小さな娘がボロボロになって、「おかあさん、おかあさん」って泣きながら助けを求めてるんだよ……? この年になるとマジでああいうのに弱くなるんだよ……!!
「……見えてきましたね」
なんだかちょっぴりおセンチな気分で走ること小一時間。黎明の亡都よりちょっと西寄りのそのエリアにて、ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)にアラガミの反応を確認。目視じゃまだ微妙に見づらいけれど、この感じは間違いなくコクーンメイデン。
数は……やはりというか、五、六体の群れが六、七か所ある感じ。今わかっている限りでは五十体はいないくらいだろうか。コクーンメイデンソムリエである私が言うのだから間違いない。
──ルゥ!
「ルーちゃん、見つけたの?」
「この様子なら……特に変な感じじゃあなさそうだな。……おっ、あいつらか?」
「……毎回思うけど、キョウヤくんって目ぇ良いよね」
「銃使いだったら大なり小なり自然とそうなるぜ……ルー、いったんストップだ」
踵でとんとんってされたので止まる。ここまで近づけば私の目でもはっきりとコクーンメイデンの姿を捉えることができた。通常のやつに赤いの、黄色いの、青いの……と、割とバリエーション豊か。あいつらの索敵範囲からは離れているから、まだ気づかれてはいない。
スナイパーだったら、ここから一体一体撃ち抜くってのもアリなんだけどな……。私がガチったら文字通り焼け野原にしかならないっていう。それじゃああまりにも味気ない。主に食料的な意味で。
「……どうする? 見たところ、何の変哲もないコクーンメイデンだ。少々群れてるが、いつも通りだろ」
「ですね……なので、俺とチハルで蹴散らしてこようと思います。すみませんが、アリサさんとソーマさんは、その……」
「妙なアラガミが乱入しないか、周囲を見張る……ですね。……二人とも、気を付けていくように」
「「はい!」」
コクーンメイデンは普通のやつ。もし万が一が起きるとしたらやばやばアラガミの乱入って感じ。だから、雑魚の討伐はチハルちゃんたちが担当して、アリサたちはやばやばアラガミに備える……ってことだろう。戦力の割き方としてはこれがベターなんだろうな。
ちょっと意外だったのは、ソーマがすんなりとそれを受け入れたことだろうか。昔のソーマだったら自分でさっさとコクーンメイデンをぶっ殺しに行っていただろうし、階級が下の人間の言うことなんてよほどのことが無い限りは聞かなかったはずだ。そう考えると、ソーマも心のどこかでは万が一に対する警戒ってものをしているのかもしれない。
……私はどうすればいいんじゃろ? とりあえずすぐ動けるように待機ってかんじかね?
「行くぞチハル!」
「おっけー、キョウヤくん!」
なんて思っているうちに、チハルちゃんとキョウヤが神機を構えて走り出す。チハルちゃんのそれは私とおそろ(?)のカッコいい白い神機。バスター、ブラスト、タワーのめっちゃ重装備。小さな体でこんなにもゴツくて勇ましい神機を選ぶだなんて、さすがはウチの娘ですわァ……!
一方でキョウヤの神機はショート、アサルト、バックラーの見事なまでの軽装。ここしばらくの間でちょっと強化しているっぽいけれど……別にこれといって特筆するべきことは無い。
「いィィィィ……!」
ただし、それはあくまでの神機の話であって。
それを振るうキョウヤ自身となると、話は別だ。
「ィやッはァァァァッッ!!」
──ッッッ!?
うん、なんかコイツ銃を撃つと人が変わるんだわ。というかすっげーうるせェんだわ。今だってほら、まるでどこぞの世紀末であるかのように──いや、ぶっちゃけ似たようなもんなんだけど、ともかくこれでもかってくらいにアサルトを乱射しまくって、コクーンメイデンに弾をブチ込みまくっている。
「ひゃっはァ! 久々にブチ上げていくぞおらァッ!」
ずだだだだだ、ずだだだだだ──って感じでキョウヤはアサルトを乱射しまくっている。神機の構成からして、おそらく銃撃特化でスキルを積んでいるんだろう。世界観的な意味でのスキルの原理はよくわからんけれども、これだけ撃ってオラクルが切れていないってことは……トリハピあたりは間違いなくつけている。ついでにあいつ自身も
……スキルのせいで人が変わるとかはないよね?
「あああ、もう……! キョウヤくんってば、あんな下品に叫んで……!」
「カノンと大して変わらねえだろ」
「そういうことじゃないんですっ! ああ!? ほら、今だって弾がチハルちゃんに当たりそうに……!」
「……あれだけ乱射しているように見えて、弾は全部アラガミに当てている。いいや、それ以上に……」
「どっせぇぇぇいっ!」
──ィ。
あ、コクーンメイデンがグシャッて潰れた。潰れたって言うか、頭をカチ割られてそのまま縦に圧縮されたって感じ──いや、それってつまり潰れたってことか。
「よいしょぉーっ!」
──ギャアアアアア!?
ぶおんぶおん、ぶおんぶおんとチハルちゃんがバスターを振り回している。その小さな体全部を使って、まるで自分も神機の一部であるかのように。ともすれば神機に振り回されているようにも見えるのに、その重い一撃が振るわれる度に──風を切る音にちょっと遅れて、コクーンメイデンの断末魔が響く。
「ぬぉりゃあああーっ!」
「ひゃっはぁぁぁぁッ!!」
──ァァァァ!?
そう。
コクーンメイデンたちのど真ん中、キョウヤの銃弾が乱射されている中で──チハルちゃんはのびのびとバスターをぶん回している。
「後ろからあれだけ銃撃されているのに、そんなことまるで気にしちゃいない。いつ、どこに銃弾が叩き込まれるのか完璧にわかってる」
「キョウヤくんのほうも、チハルちゃんの動きを完全に読み切ってますね……いくらチハルちゃんの体が小さいと言っても、前衛があれだけ動いていたら普通は誤射を恐れるのに」
「お互いがお互いの動きを分かっているから、全力で動ける……か」
それだ。
私の目から見ても、チハルちゃんとキョウヤの連携のレベルは非常に高い。連携の基礎がしっかりしているってのはもちろんのこと、本来であれば味方への誤射がヤバいであろうキョウヤの乱射が、チハルちゃんに対してだけは純粋な援護として活きている。
で、キョウヤの銃撃でひるんだところにチハルちゃんがバスターを叩き込み、バスターの隙を狙ったコクーンメイデンの攻撃はキョウヤの銃撃により防がれる。そして当然のように、キョウヤを狙ったコクーンメイデンの攻撃は、チハルちゃんが一つも見逃さずにバスターで叩き潰していた。
加えて。
「キョウヤくん!」
「おう!」
前衛と後衛の見事な
「オラクル寄こせやぁぁぁ!!」
「ぶっぱなーす!」
軽さを活かしたキョウヤの連撃。いくらコクーンメイデンとはいえ、さすがにショートで撫でるように攻撃しただけでは倒しきれない……けれども、走りながらコクーンメイデンを切りつけたキョウヤを追う様にしてぶっ放されたブラストの一撃が、コクーンメイデンをこんがりと美味しく焼いていく。
「いーい気分だァ……!! 全力で暴れられるってのは最高だぜ……!」
「ふふふ……! 先輩たちが後ろで見守ってくれるのなんて、本当に久しぶりだもんね!」
そして、気づけば。
キョウヤの神機は銃形態に戻っていて──そして、チハルちゃんの神機は剣形態に戻らずに銃形態のまま。
お互い銃を構えた二人は、心底楽しそうに笑いながらその銃口を向けあった。
「「──《神機連結開放》ぉ!!」」
……こんなにも息ピッタリだなんて、ちょっと妬けちゃうっていう。
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「なんか、思いのほかあっけなく終わったっすね……?」
くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ。
なんだかんだで小一時間程度で周囲のコクーンメイデンの掃討は完了。なんだか途中で十数体ほど追加でにょきにょき生えてきた気がしないことも無いけれど、極東の一般的な神機使いであればそんなの気にすることも無い。チハルちゃんとキョウヤは特に危なげなくコクーンメイデンを討伐して……うん、なんか普通に任務が終わっちゃった。
──ルゥゥ……。
「ルーちゃん……やっぱり自分で狩って食べたかったのかなあ」
くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ。
微妙に鮮度が落ちているというか、なーんか味気ないというか。いつも通りのコクーンメイデンと言われればそれまでだけど、いつもと同じ満足感は得られない。本来の形が崩れているものを口にするってのは……言い方は悪いけれど、残飯を漁っている気分になるというか。や、残飯を漁ったことなんて一回も無いのだけれど。
ただ、やっぱり無いよりかはあったほうが良い。口に入ってしまえば見た目が多少不格好なところで何ら問題はない。そんなことよりも、この微妙に我慢できそうで出来ないような空腹感のほうが気に障る。
「普通に終わっちゃいましたね……。ルーが反応しないということは、周囲に潜んでいるということもなさそうです」
「アラガミの乱入も無いことはなかったですけど、ふつーにザイゴートとかでしたもんね」
くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ。
私のビリビリパワーのユーバーセンス(仮)に反応はない。中型はおろか、小型のアラガミが潜んでいるってことも無いだろう。というか、もし潜んでいたとしたらそっこーで私のお腹の中で同胞と再会させてやるっていう。
「……ま、取り越し苦労だってってことだな。たまには悪い予感が外れたっていいだろ」
小さくつぶやいたソーマが、リラックスした感じで私のお腹によりかかる。なーんかカッコよく腕を組んでポーズをとってるんだけれども、さては私ってばカッコいいポーズをとるための土台(?)として使われちゃってる感じ?
冗談は置いておくにしても……あれだけ警戒していた割に、本当にマジに何事もなく任務が終わったってのは逆の意味で驚きだ。アリサもソーマも、そしてもちろん私もほとんど手を出していないし、チハルちゃんとキョウヤだけで十二分にお釣りが出ている。今から適当な大型アラガミを討伐しろって言われても余裕があるくらい。
「ルーの索敵に引っかからない以上、乱入されるってこともないだろうしなあ……なんかすみません、俺が変なこと言ったせいでお二人の貴重な時間を使ってしまって」
「いえいえ。何事も無かったのですから、これ以上喜ばしいことなんてありませんよ」
「……まあ、ちょうどいい気分転換にはなったかもな。あとは……フライアでのピクニックが残ってるんだろ? 俺としてはそっちの方が気が滅入るぜ」
女同士のおしゃべりの場である上に、七面倒くさい作法やマナーだってあるかもしれない。そんな場に出るくらいなら、アラガミを狩っている方が何倍も気が楽だ──と、ソーマは冗談めかしてわざとらしく肩をすくめた。
「……案外、俺の嫌な予感はそっちのほうに反応したのかも」
「うーん……? 普通のピクニックって言ってたし、ラケル博士の参加は難しそうって話だから、そんな身構えるような奴じゃないと思うんだけどな……」
「いずれにせよ、あとは帰投するだけですね……帰るまでが任務ですから、最後まで気を抜かないように」
「はい!」
「うっす!」
ちら、とアリサが……いいや、みんながこちらを見つめてくる。そろそろ食べるのをやめて帰る準備をしろってことなんだろう。いい加減このコクーンメイデンをしがむのも飽きてきたし、残りは帰り道か、あるいはみんなと別れた後に食べに来ればいいか。
──ルゥ!
「ルーちゃんも準備おっけーみたいだね……あ、一応コウタさんたちにも連絡入れておきます?」
「ええ、そうしましょうか。この様子なら向こうも終わっているでしょうし、うまく行けば同じヘリで帰れるかも……ルー、ジャミングを解いてくれますか?」
はいはい、りょーかいしましたっと。
──ルゥ。
ビリビリパワーのユーバーセンス(仮)を解くと、ふわっと広がっていた私の毛並みがゆっくりとぺたんこになっていく。毛が広がっているのといないのとでは見た目の印象もずいぶん変わってくると思うのだけれど、アラガミ用の姿見が存在しないのが困るところ。水場だったら一応見えないことも無いんだけど、いかんせんただの水だからあんまりはっきりくっきりとは見えないんだよね……。
『……がった! ……つながったっ!!』
通信機から聞こえてきた、そんな切羽詰まった声。
アリサも、ソーマも、キョウヤも……そしてチハルちゃんも、その声を聴いた瞬間にぴしりと体を強張らせた。
「え、エリナちゃん……!? どしたの、何があったの!?」
『助けて……! このままじゃ、持たない……!』
要領を得ない答え。半ばパニックになっていることは疑いようが無くて、そしてそんな状態になっているってことは……緊急事態が起きているのは間違いない。
「おいエリナ! 何があった!? 敵はどんなやつだ!?」
『わかんない……! わかんないよぉ……!』
チッ、とソーマが苛立たし気に舌打ちをする。いくらまだ新兵とはいえ、エリナちゃんがここまで……泣いて取り乱すってことは、相当な異常事態なのだろう。ソーマの舌打ちは、きっとそんな焦燥感が現れたものに違いない。
「エリナちゃん、どうか落ち着いて……難しそうなら、コウタに変わってくだ──」
『おい!? アリサさんたちの所につながったのか!?』
「ギルさん? ええ、繋がってますのでとにかく状況を──」
『ロミオとコウタさんがやられた! 至急応援を頼む!』