GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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95 コクーンメイデン討伐ミッション(ミッションコード:7409FS090)

 

【コクーンメイデン討伐ミッション】

 

◇ミッションコード

 7409FS090

 

◇ミッション目的

 作戦エリア内に出現するアラガミの討伐。

 

◇ミッション概要

 黎明の亡都近辺にて、大量のコクーンメイデンのオラクル反応が確認された。当該エリアに出現するコクーンメイデンを掃討し、近辺の安全を確保せよ。

 

◇ミッション参加者

 藤木コウタ(少尉/クレイドルおよび第一部隊/第一部隊隊長)

 ギルバート・マクレイン(曹長/ブラッド)

 ロミオ・レオーニ(上等兵/ブラッド)

 エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ(新兵/第一部隊)

 

【備考】

 同日同時刻に、周囲のエリアにて同内容の7409FS089(アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、ソーマ・シックザール、桜田チハル、片桐キョウヤ)、7409FS091(真壁ハルオミ、台場カノン、シエル・アランソン、香月ナナ)が発行されています。帰投用ヘリコプターを手配する際は、そちらの任務状況も確認するようにしてください。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

『作戦エリアまで残り約200m……もうそろそろ目視できる範囲に入りますが、状況はいかがですか?』

 

「討伐対象はまだ見えねえが……少なくとも、おかしな感じはしねえな」

 

 耳元の通信機から聞こえてきたフランからの言葉に、ギルバート・マクレインは静かに答えた。

 

 今日の任務はコクーンメイデンの討伐だ。ただし、いつもと違って本格的な討伐任務というわけではなく、半ば休日のような軽く体を動かすためだけの簡単なもので──任務そのものよりも、そのあとに控えているピクニックのほうが主目的と言ってもいい。

 

「……」

 

 だけど──そんな簡単な任務のはずなのに、実際は奇妙な緊張感で満ちている。

 

「キョウヤの嫌な予感、か……。普段だったら、そんなの考え過ぎだろうって言えるんだがな……」

 

 出撃前にキョウヤが感じた嫌な予感。ただ笑い飛ばすにしてはあまりにも以前と状況が同じで、そしてここは何が起きてもおかしくない極東だ。加えて、この手の嫌な予感……あるいは現場の直感はできるだけ信じるべきだ──と、ギルは自身の経験から断言することができる。

 

「前にも同じよーなことがあったって話だし、極東だもんなあ……」

 

 そしてそれは、隣を歩く仲間──ロミオも同様なのだろう。いつもは喧しいくらいに明るいのに、なんだか今日は少し落ち着いているというか、普段に比べて周囲をかなり警戒している節が見て取れた。

 

『作戦エリアまでまもなく残り約100mになります。こちらで確認できる限り、付近にはコクーンメイデンの反応しかありません。アリサさんたちが懸念されていたイレギュラーの兆候は無さそうですが……どうですか?』

 

「……ん、こっちも目視確認できた。数体で固まっている群れが……五つか六つって感じかな。言っちゃなんだけど、やっぱ普通のコクーンメイデンって感じだ」

 

『了解です。それでは改めて説明します……今回の任務の目的はコクーンメイデンの討伐です。藤木隊長、エリナさん、ギルさん、ロミオさんは作戦エリア内のコクーンメイデンを掃討してください。任務中、ほかのアラガミの乱入があった場合は原則的に藤木隊長の指示に従ってください』

 

 フランの口から紡がれる定型文。向こうのほうに数体ほど集まっているコクーンメイデンに何らおかしいところはなく、近くで別のアラガミが暴れているような気配もない。どこからどう見ても普通の任務でしかないのに──一方で自分たちだけは、言葉にできない妙な緊張感に包まれている。

 

「まぁ、取り越し苦労だって言うならそれが一番だけどさ。……いつも通り、俺は後衛として援護射撃をする。接近戦はギルを主体にして、ロミオは右から、エリナは左から援護をする感じで。念のため、援護の二人はやや引き気味で戦ってほしいんだけど……」

 

「……私、コクーンメイデンくらいなら一人でも普通に倒せますけど」

 

「知ってる。でも、三人ともが前に出すぎると俺が援護できなくなっちゃうじゃん? それに……何かあったときに、俺を守ってくれる人が近くにいないと困るから。頼りにしてるぜ、エリナ?」

 

「……了解!」

 

 こういう気の使い方は本当に上手いよな──と、ギルはぼんやりと思う。少なくとも自分には決定的に欠けている能力だし、ジュリウスだってお世辞にも長けているとは言い難い。ギルが知る限り、同じような気の使い方ができるのはハルオミくらいで……残念ながら、今のブラッドに同じことができる人は無い。

 

 しいて言うなら、ヒロならそれに近しいことができるが……それでもやっぱり何かが違う。今のギルには、その奇妙な違いを言葉で表すことはできなかった。

 

「うっし! じゃあ作戦通りやってくぞ! さっさと片付けて、みんなで楽しいピクニックに行こうぜ!」

 

「「了解!」」

 

 コウタのその言葉を皮切りに、ギルは神機を構えて駆けていく。

 

「──神機展開!」

 

 神経接続された腕輪からの指令に従い、ギルの神機の穂先が二つに分かれた。どこか禍々しい凶悪な刃が姿を現すと同時に、活性化したオラクルがギルの全身を駆け巡っていく。

 

「おおお……っ!!」

 

 渾身の力で行う高速の突進突き。衝撃波さえも伴うその一撃は、本来であればチャージグライドと呼ばれる必殺技だが──ギルはそれに荒ぶる紅い刃を纏わせた。

 

「おらァッ!!」

 

 ──ギャアアアアア!?

 

 紅きオラクルの刃を纏わせたチャージグライド──バンガードグライド。ギルが最も得意とするそのブラッドアーツは、二体並んでいたコクーンメイデンをまとめて串刺しにして、耳障りな断末魔の声を上げさせる。

 

「……手ごたえあり、だな」

 

『目標の沈黙を確認!』

 

 胴体に大きく開いた風穴。石突でちょん、と突くだけで千切れて倒れてしまいそう。普通のチャージグライドで攻撃した時とは異なり、このブラッドアーツで攻撃すると、攻撃面がまるでアラガミに喰い荒らされたかのようにズタズタになることを、ギルは最近知った。

 

「行くよ、オスカー!」

 

「こっちも負けてられねえな!」

 

『エリナさん、一体撃破! 同じくロミオさんも一体撃破!』

 

 そうこうしている間に、少し遅れて突撃した二人もコクーンメイデンを撃破している。ギルに比べればはるかに経験年数が少ない二人であったが、コクーンメイデン程度に後れを取るなんてことはやはりなかったらしい。

 

「……ま、そりゃそうか」

 

 コクーンメイデンすら倒せない人間が、この激戦区である極東で神機使いを名乗れるはずがない。他所の支部からやってきたギルだからこそ、『極東で活動できている』という言葉が持つ重さを、本当の意味で理解できるのだ。

 

「二人とも、あんま前に出すぎんなよぉ!」

 

『コウタさん、三体撃破──三時の方向に新たなアラガミ反応!? コクーンメイデンです!』

 

「おう、見えてる! にょきにょきって生えてきた!」

 

 話しながらも、コウタは的確にコクーンメイデンを撃ち抜いている。ちょっと離れているところに集まってるやつらから率先して処理するあたり、さすがは極東の神機使いと言ったところだろう。この乱戦の中で最も脅威的なのは、針でしか攻撃しない近くの個体よりも、遠くからしつこく射撃してくる個体なのだから。

 

『ギルさん、二体撃破! ロミオさん、一体撃破! ……十時の方向にいる集団からオラクル反応の高まりを確認! 射撃が来ます、気をつけて!』

 

 忙しなく聞こえてくるフランからの通信。しかし一方で、ギルたちの動きには一切の淀みが無い。特にこれと言って苦戦することもなく、当初の予定通りにコクーンメイデンを撃破していってる。

 

「……やっぱ、考えすぎか」

 

 ありていに言って──いつもと変わらない。コクーンメイデンの攻撃なんて掠りすらしないし、攻撃すれば普通に倒すことができる。数が多くて乱戦気味になっているのは問題と言えないことも無いが、こんなのここでは日常茶飯事だ。

 

 

 

『──これは!?』

 

 

 

 なんて、思っていたら。

 

「どうした、フラン?」

 

『大きなアラガミ反応……!? 作戦エリア内に、突如として巨大なアラガミ反応が現れました!』

 

 先ほどとは違った意味で、切羽詰まったようなフランの声。この場にいる全員が、苦虫を噛み潰したような顔をしたのをギルは確かに感じ取った。

 

『は、反応が大きすぎて……細かい位置が特定できません! みなさん、警戒してください!』

 

「コウタさん!」

 

「ああ! コクーンメイデンは一旦無視! この距離なら大した脅威にはならない! 乱入アラガミに全力で警戒!」

 

 近くにいるコクーンメイデンは全部倒した。遠くの方にも数体いるが、これもまぁ無視できるレベルと言っていい。攻撃範囲内ではあるものの、数を減らして乱戦状態から脱した今ならば、遠距離からの攻撃──つまりは着弾までに時間がかかるそれは脅威でも何でもないのだから。

 

「エリナ!」

 

「わかってます!」

 

 たまたま、近くにいたから。

 

 だからギルは──エリナに声をかけた。死角をカバーするために、二人一組になって背中を預け合うのは神機使いの中では常識だ。座学や戦闘訓練では基礎の基礎として最初のほうに学ぶことになるし、たとえ教育を受けていなかったとしても、自然とその動きは身につくことになるだろう。

 

 もちろん、優等生であるエリナは即座にギルの考えを読み取って、迷うことなくギルの背中をカバーできる位置に着いた。

 

「コウタさん!」

 

「任せた!」

 

 少し離れたところでは、同じくロミオがコウタの背中を預かっていた。神機は剣形態にしていて、いつでもガードができる構えを取っている。

 

「こちらコウタ! 少なくとも目視できる範囲にはそれっぽいやつはいない!」

 

『あ、アラガミ反応に変化はありません……! 間違いなく、その近くに潜んでいるはずです……!』

 

 通信機から聞こえてくる、フランの声。しかし、ギルの視界の範囲には数体のコクーンメイデンしかいない。大きなアラガミ反応というならば、それ相応に凶悪そうなアラガミがいてもおかしくないはずだが、アラガミ特有の息遣いも、巨体が大地を駆けるような……そんな物音も聞こえない。

 

「ギルさん……何か、見えますか?」

 

「いや……」

 

 物陰に潜んでいる可能性。ないことは無いが、ここにある物陰はそんなに大きくはない。オウガテイルくらいならまだしも、中型以上のアラガミがこっそり隠れるなんてことは無理だろう。

 

「地面の下……は、無いか」

 

「だったら地鳴りとかあると思う……」

 

 隠れている可能性は低い。地面の中に潜んでいる可能性も低い──というか、そんなアラガミなんて聞いたことが無い。

 

 なら、一番可能性が高いのは。

 

「空、か……?」

 

 例えばシユウ。例えばサリエル。例えば──カリギュラ。

 

 空を飛ぶことができるアラガミというのは非常に多い。神機使いや要人を輸送するヘリが空を飛ぶアラガミに襲われて墜落するなんて話は珍しくもなく、総じてそれらのアラガミは非常に強力で、倒しにくい相手であることが多い。嘘か真か、あのウロヴォロスが空を飛んでいた──なんて目撃情報でさえ、この極東にはあるくらいだ。

 

「……」

 

 ちら、とギルは空を仰いだ。

 

 ──が、やはり何もいない。何も見えないと言うべきか。

 

「異常なし、だな……」

 

「……案外、レーダーが壊れただけだったり」

 

「楽観的な考えはするべきじゃないが、今回ばかりは……む」

 

 ──……ッ!!

 

 風を切る音と共に空中に撃ちあがったオラクル弾。いつのまにやらちょっと離れたところに追加で生えていた、コクーンメイデン。オラクル弾の見た目からして、そのコクーンメイデンが撃ち込んだものなのだろう。

 

 そういうふうに、ギルには見えた。

 そういうふうに、見えてしまった。

 

「俺がカバーします! コウタさん、後ろに!」

 

「サンキュ!」

 

 そのオラクル弾は、コウタ達を狙って放たれたものだった。そしてロミオは、回避行動をとることで一瞬でも陣型が崩れるのを──あるいは死角や隙を見せるのを避けようとしたのだろう。コウタの前に躍り出て、その大きなタワーシールドをどっしりと構えた。

 

 それ自体は、別に何の問題も無い。ロミオの行動に間違いは無いし、同じ場面であったら十人中八人は同じ行動をとることだろう。ましてやコウタは第一世代の銃型神機使い……つまり、神機によるガードができない神機使いなのだから、ロミオが攻撃を確実に防ぎ、その分コウタが後方を警戒するというのは紛れもなく合理的な判断だ。このオラクル弾が追尾性を持っている可能性もあるのだから、これ以上の判断はそうそうないだろう。

 

「……ん?」

 

 だけど。

 

 ベターな判断が必ずしも正解であるとは限らない。

 

「……ッ!?」

 

 それ(・・)に気づいたコウタの目が見開かれる。驚愕に染まったその表情に、先ほどまであったはずの余裕は一切ない。

 

 声すら出せないそんな一瞬の中で、コウタができたのは。

 

「ちょ、コウタさ──!?」

 

 盾を構えるロミオの肩をひっつかみ、地面に押し倒そうとするところまでだった。

 

 

 

 

 

 ──ドォォォォン!!

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 何かがギルの横を吹っ飛んでいった。

 

 黄色のような、オレンジのような。

 

 そしてそれは──何やらびちゃびちゃした、赤い放物線も描いていた。

 

「……え?」

 

 どうやらそれは、気のせいなんかじゃなかったらしい。自分にも、エリナにも、その赤い何か……しぶいたそれが降り注ぎ、特有のどこか鉄臭い匂いが二人の鼻腔に満ちていく。

 

「え……?」

 

 ピクリとも動かないコウタが、横たわっている。

 ピクリとも動かないロミオが、伏せている。

 

「た、隊長……? そ、そんなところでなにしてるの……?」

 

「ろ、ロミオ……お前、何バカやってるんだよ……。コウタさんのノリが良いからって、そんな、くだらねえこと……」

 

 信じたくない。

 

 というか、何が起きているのかがわからない。

 

「ね、ねえ……嘘、だよね……」

 

 ロミオの神機が。

 

 堅牢無比で鉄壁の防御力を誇るはずのタワーシールドが、半壊している。ひしゃげて原形を留めていないうえに……全体の四割ほどの大きさにもなるような、綺麗な穴が開いている。

 

 そして。

 

 二人の脇腹が真っ赤に染まっていて……そこから流れ出た何かが、赤黒い大きな花を地面に描きつつあった。





・知っての通り、ゲームシステム上タワーシールドはガードが間に合いさえすればどんな攻撃も無効化できますが、ここではあくまで「現実的には限度がある」ということでお願いします。

・アニメで一瞬だけ出てきた、空飛ぶウロヴォロスって何だったんでしょうね……?

・あと、82話にて「サリエルはザイゴートから進化したアラガミである」みたいなことを言っていますが、アニメの空飛ぶウロヴォロスが出て来た回では、まさしくサリエルに進化しかかっているザイゴートがしれっといっぱい出てきていましたね……。
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