GOD EATER:救雷の神鳴   作:ひょうたんふくろう

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96 Deep Lethal Crack

 

「やだ! やだよ隊長!!」

 

「泣き言をいう暇があったら手を動かせ! ……おいロミオ! てめえさっさと目ェ覚ましやがれ! グズグズしているとぶん殴るぞッ!!」

 

 桜田チハルにとって、それは初めて見る光景だった。

 

「ギルさん! エリナちゃん!」

 

「……! よかった、来てくれた……!」

 

「アリサさぁん……! 隊長が、隊長が……!!」

 

 廃屋の物陰。救援信号とルーのユーバーセンスを頼りにエリナたちを見つけたまでは良かったが──そこには、思わず顔をしかめてしまいそうになるほどの濃い血の匂いが漂っている。泣きじゃくるエリナの顔も、明らかに余裕のないギルの顔も気にならないくらいに……チハルの目の前に広がるその赤は、あまりにも鮮明過ぎたのだ。

 

「これは……!? なんてひどい……!」

 

 コウタの脇腹も、ロミオの脇腹も真っ赤に染まっている。手持ちの応急処置キットのそれではとても足りなかったのだろう。応急手当として使用されているはずの包帯も止血帯も真っ赤でびちゃびちゃな状態になっており、もはや本来の機能を果たせていないようにチハルには見えた。

 

 それは応急手当てをしたギルたちにもわかっていたのだろう。よくよく見れば、包帯をさらに上から覆うようにしてバンダナが巻かれているが──コウタに巻かれたオレンジのバンダナも、ロミオに巻かれた紫のバンダナも、元の色なんてほとんど残っていない。

 

 加えて言えば──目の前に広がる赤に反して、二人の顔は不気味なほどに青白い。生気が無いというよりも、これ(・・)は元々そういうモノであると言われた方がしっくりくるくらいだ。

 

「……っ! ルーちゃん、お願い!」

 

 ──ルゥゥ!!

 

 ルーの遠吠えと共に、優しく穏やかに輝く緑色の雷が二人を覆う。いつもよりその輝きが強いように見えたのは、果たしてチハルの気のせいか。

 

 ──ルァァ……!!

 

 ルーの持つ能力の一つ──癒しの雷。言ってみれば神機使いが扱う回復弾みたいなもので、アラガミとしての特性のためかルーの場合は雷の形態を取って放たれる。ちょっとした切り傷や火傷であればあっという間に治るほどの回復効果があり、下手に回復錠を使うよりもよっぽど効果的であるはず……なのに。

 

「そんな……起きてよ、隊長……!」

 

 コウタもロミオも、ピクリとも動かない。

 

 今なおルーの癒しの雷を浴び続けているというのに、何の変化も起きていない。

 

「うそ……ルーちゃんの回復が、効かないなんて……」

 

「……効いていないわけでは、無いようです。ほら、少なくとも血は止まっています」

 

「……」

 

 チハルには、アリサの言葉が本当であるかどうかもわからない。

 

 だって、二人の脇腹は今も真っ赤で、地面には血だまりがあるのだから。血が止まっているかどうかなんてわからないほど、そこには赤が満ちているのだから。

 

「傷はかろうじて塞がっているはずです。ですが、血を失いすぎています。ルーの雷は外傷を癒すこともできますし、疲労感を取り除いて体力を回復することもできますが……でも、これは」

 

 疲労感とか体力とかを気にする以前のレベルで、体へのダメージが激しすぎる。たとえ外傷が癒せたとしてもそんなすぐには血は作れないし、血が流れない以上は体もまともに機能しない。

 

「ここでできる処置は、これが全てです。……お二人の応急処置は完璧でした。それが無ければ、おそらく」

 

 続きの言葉なんて、言われなくてもわかる。

 

 というか、聞きたくない──言葉にしてほしくないというのが、この場にいる全員の気持ちであった。

 

「な、なら! 早くアナグラに戻りましょうよ! そうじゃないと……!」

 

「待て、エリナ……逃げる前に敵のことを教えてくれよ」

 

「そんなのどうだっていいじゃん! キョウヤさんは隊長が──!」

 

「だからこそ、だ。……コウタさんがやられるような相手だぞ? 背中を見せた瞬間に、これ幸いと襲われたらどうすんだよ」

 

「……っ!」

 

「最悪、殿として誰かをここに残す必要だってある。その判断をするためにも、敵の情報が欲しい」

 

 コウタとロミオを一刻も早くアナグラに連れ帰る必要がある。しかし、敵の正体が何もわからないままというのが非常によろしくない。陸路にせよ空路にせよ、無防備な帰投中に襲われたら元も子もないし、誰かが足止め役として残るにしても、二人の二の舞になったら何の意味もない。

 

「焦る気持ちはわかるが……ちょっとは落ち着け。大丈夫、二人はこんなことじゃ死なないし、ルーだっている」

 

「……はい」

 

「……で、実際の所どうなんだ? 通信じゃ、何が起きたのかわからない……って言ってたが」

 

「……言葉通りの意味だよ」

 

 エリナよりかは落ち着きを取り戻したのだろう。ゆっくりと深呼吸をしたギルが、忌々しそうに吐き捨てた。

 

「俺たちはコクーンメイデンと戦っていた。その途中で、いきなり大きなアラガミ反応が現れた……が、そんなアラガミどこにもいなかった」

 

「……」

 

「背中合わせで警戒していて……コクーンメイデンのオラクル弾が撃ちあがった。それをロミオが盾で防ごうとして……こうなった」

 

「……マジか」

 

 ちら、とキョウヤはギルの視線の先を見る。

 

 ここからおおよそ30mほど離れたところ。ミサイルか何かの砲撃でも食らったのではないかという酷い有様だ。地面は吹っ飛んでクレーターみたいになっているし、そこらには出来立てほやほやの瓦礫が散らばっている。

 

 さらに付け加えるなら、その砲撃地点からここまでの間に点々と……と言う言葉では言い表せないほどにはっきりとした、赤いラインが引かれている。

 

「なんとかロミオとコウタさんを引きずってここに隠れたはいいが……時折ヤバい砲撃が飛んでくるくらいで、肝心の敵の姿は一切見えない」

 

「コクーンメイデンの攻撃に合わせて攻撃したってことか……? いや、コクーンメイデンの攻撃に偽装した攻撃……か?」

 

「で、でもキョウヤくん……もしそうだったとしても、攻撃したアラガミはどこにいるの……? ここにはコクーンメイデンしかいないよ……?」

 

 見渡す限り、ここにはコクーンメイデンしかいない。なのにコウタ達は、とてもコクーンメイデンに襲われたとは思えないほどの重傷を負っている。いや……それ以前の話として、神機の中でも特に防御に特化している──扱いやすさを犠牲にしてまで守りを追求したタワーシールドをたった一撃でここまで壊すことができるアラガミなんて、この極東でもそうはいない。

 

『し、新種のアラガミでしょうか……?』

 

「……フランさん?」

 

 通信機から聞こえてきた声。それは奇しくも、チハルの頭に浮かんだ考えと同じであった。

 

『さ、さっきからずっと強いアラガミ反応は確認できています……! だから、そこに何かがいるのは間違いないんです……!』

 

「だから! ンな奴どこにもいないんだよ! もっと遠くから攻撃してきてるんじゃないのか!?」

 

『そんなことありませんよ……! 作戦エリア外には目立ったアラガミ反応なんてありません……! いるとしたら、間違いなくそこのどこかなんです……!』

 

 おそらく、そんなやり取りはもう何度もやっているのだろう。ギルの声には明らかに苛立ちが混じっているし、そしてフランのほうは怯えながらもしっかりと事実を告げている。

 

「落ち着けよ、ギル……フランさんに当たったってしょうがねえだろ」

 

「だけど……! ……いや、すまん。たぶん今の俺は……冷静じゃない」

 

「それがわかってりゃ大丈夫だ……というか、謝るなら俺じゃなくてフランさんだろ?」

 

『い、いいえ……ギルさんの気持ちはわかりますし、現場の皆さんからしてみれば当然の感情ですから……』

 

 現場にはそれらしいアラガミがいないのは事実。

 レーダー上では強いアラガミ反応が確認されているのもまた事実。

 

 二人の意見がどちらも間違っていないのだとしたら、考えられる可能性はそんなに多くない。

 

「ねえフランさん……新種のアラガミだと思ったのって、どうして?」

 

『この極東では、新種のアラガミがよく発見されると聞きます……。それこそ、レーダーを攪乱できるように適応したアラガミが生まれても、おかしくないのでは……と。実際、ルーはジャミング能力を持っていますし』

 

「あ……」

 

『ジャミング……つまり、現実にはいるのにレーダーには映らないアラガミがいるのなら、その逆も……レーダーには映るのに、現実では見えないアラガミがいる可能性だって……』

 

 アラガミはすさまじい勢いで進化する。いや、厳密には進化ではなく適応なのだが、ともかく今までにない特徴を持ったアラガミが一匹出現すれば、瞬く間にそれと同じ特性や能力を持ったアラガミが広まっていく。それはオラクル細胞の特性として当然のことで、そんな特性があるからこそ、人類の守護者たるフェンリルの技術者たちは常に装備や設備を最適化し続ける必要に駆られている。

 

 つまり、ルーというレーダーに何かしらの干渉ができるアラガミがいる以上、同じようにレーダーに干渉できるアラガミがいたとしても何ら不思議はないのだ。

 

『──その可能性は否定しきれませんが、それだとギルさんたちが追撃を受けていないことへの説明がつきませんね』

 

「──ヒバリさん!」

 

 割って入ってきた通信。少し音が反響して重なって聞こえてきたところを見ると、おそらくヒバリがフランの近くにやってきたのだろう。あるいはもしかしたら、ヒバリはフランと同じ端末の画面を見ながら……フランにかなり顔を近づけて話しているのかもしれない。

 

『フランさん。レーダーの再スキャンは行いましたか?』

 

『は、はい……ですが、何も変わりませんでした。システム的な不具合の可能性は低いと思います』

 

『そうですか……やはり(・・・)変わりませんでしたか』

 

『え……それって』

 

『……確かに、非常に強いアラガミ反応ですね。そして作戦エリアの外には目立ったアラガミ反応はない。敵は確かに、その作戦エリア内にいる』

 

 事実の復唱。ヒバリが行っているのはそれだけだ。だけれども、先ほどフランが同じことを言った時とは違い、それには確かな自信があると言うか、ある種の安心感を覚えるほどしっかりとした声であった。

 

『この場合はアラガミ反応の強さではなく、識別波形のパターンを見ましょう』

 

『え……でも、コクーンメイデンの波形しか検知されていませんよ……? ほかのアラガミが潜んでいるのなら、波形はもっと崩れるはずです。潜んでいるのが強力なアラガミであれば、そっちの波形パターンのほうがはっきり出てこないとおかしい……!』

 

 レーダーの再スキャンくらい、フランはとっくに試している。オラクル反応の強さだけではなく、波形パターンからの識別だって試みている。それくらいはオペレーターのマニュアルにも載っていることだし、想定している対応を全て実施してなお、現実が悉くそれを裏切るからフランは己の無力さに打ちひしがれているのだ。

 

 そして、そんなフランの必死の訴えを──ヒバリは、優しく肯定した。

 

『であれば……その通りなのでしょう。事実はそのまま受け入れるべきです。技術班をもっと信じてあげましょうよ』

 

『え……それって、どういう……』

 

 

 

『──敵の正体は、コクーンメイデンですよ』

 

 

 

 通信機から聞こえてきたその言葉の意味が、チハルにはわからなかった。そしてそれは、ギルやエリナも同じだったのだろう。ギルはその困惑した様子を隠そうともしていないし、エリナは聞こえてきた言葉が信じられないと言った表情をしている。

 

「……よくわからんが、つまりコクーンメイデンなんだよな? じゃあ、とりあえずここから見える奴を全部ぶっ殺せばいいってことか?」

 

「だ、だね……早く倒して、コウタさんたちをアナグラに連れて──」

 

 チハルもキョウヤも、神機を構え直した。色々分からないことは多いが、結局のところただのコクーンメイデンだ。事態は一刻を争うのだから、グダグダ考えるよりもさっさと始末してしまったほうが良いと、そう判断した。

 

 

 

 

 

「出るなッ!!」

 

「絶対にここから飛び出しちゃいけませんッ!!」

 

 

 

 

 

 そんな二人を止めたのは。

 

 顔を真っ青にした──とてもコクーンメイデンを退治しに来ただけとは思えないほど緊迫感に満ち溢れた、ソーマとアリサであった。

 

「はっきり言うが、お前らじゃ力不足だ。ここで大人しくしてろ」

 

「は、はは……何をそんな……。たかがコクーンメイデンっすよ……?」

 

「……ただのコクーンメイデンではないのです。いえ、倒すだけならできるかもしれませんが……今のキョウヤくんたちには荷が重すぎる。ベテラン以上の神機使いで無いと、任せられません」

 

「……アリサ、やれるな?」

 

「ええ、もちろん……ルーにも、頑張ってもらいましょうか」

 

 ──ルゥ!

 

 ソーマとアリサは、神機を構えた。その顔には覚悟が満ちていて、とてもコクーンメイデンを──新人が初陣で相手にするような弱いアラガミを倒しに行く姿には見えない。まるで支部を壊滅させかねない凶悪なアラガミを討伐しに行くかのような雰囲気で、そんな二人の姿はチハルもキョウヤも初めて見るものだった。

 

『ソーマさん、アリサさん。オペレーター(わたしたち)による支援は』

 

「要らない。俺たちはいいから帰投のための準備を整えてくれ」

 

「ええ……ちょっと、集中したいので」

 

『了解です──ご武運を』

 

 ソーマもアリサも、耳元の通信機のスイッチを切った。きっと、戦闘中に聞こえる通信を──戦闘の妨げになるノイズをできるだけ取り除きたかったのだろう。あるいは、オペレーターからの支援という貴重な情報を捨てざるを得ないほど……それがノイズとして悪影響を及ぼしかねないほど、これから始まる戦闘はシビアなものになるということなのかもしれない。

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

 ──ルァァァ!!

 

 ソーマとアリサ──そしてルーが駆けだしていく。チハルたちはただ、その様子を眺めることしかできない。

 

「お、らぁッ!!」

 

 ──ギャアアアアアア!?

 

 白い神機がコクーンメイデンを喰い破る。耳を塞ぎたくなるような断末魔と共にそいつはぐったりと動かなくなり、そしてソーマは自分が倒した獲物になんて目もくれずに、次の相手に攻撃を仕掛ける。

 

「そこっ!!」

 

 ──ッ!?

 

 強力な銃撃がコクーンメイデンの頭部に叩き込まれる。もはや断末魔を上げることすらできなかったのだろう。立ち込める煙の向こうにアリサはさらに追加の銃撃を加え、ついでと言わんばかりにその隣にいたコクーンメイデンにも特大サイズのオラクル弾を叩き込んでいた。

 

 ──ルアァァァアアアア!!

 

 閃光と雷鳴。ルーの雄叫びと共に巨大な雷が落ち、近くで群れていたコクーンメイデンが一瞬で炭になった。真っ黒になったそれは戦場に伝わる振動を受けてポロポロと崩れ去り、あとには何も残らない。ただ、何かが焼けたような匂いだけが漂っていて……それも、あっという間に消え去っていく。

 

『早くも六体……いいえ、十体撃破。さすがのペースですね』

 

「す、すごい……さすがアリサさんにソーマさん……」

 

「……けど、普通にコクーンメイデンだよな? なんで俺たちじゃ力不足だなんて言ったんだ?」

 

 ここから見る限り、普通にコクーンメイデンと戦っているようにしか見えない。それがチハルたちの嘘偽りのない本音であった。

 

「それに……ルーのやつもなんかおかしい。いつもだったら喰い漁るのに、今回は一回も喰ってない」

 

「ほ、ホントだ……それに、なんかやたらと雷で攻撃しているような……」

 

 ガントレットや爪で攻撃している……が、牙で攻撃したり、倒した相手を喰い漁ったりはしていない。いつもだったら多少なりともつまみ喰い(・・・・・)をするし、実際にそれができるほどの余裕があるはずなのに、なぜだかルーはそんなことは一切せず、ひたすらに戦場を駆けまわってコクーンメイデンを屠っている。

 

「アリサさんたちが手を出しにくい遠くのやつらを率先して倒している……? いや、数を減らすことを優先している……? あの、ルーが?」

 

「ルーちゃんが食べることよりも倒すことを優先するなんて……あっ」

 

 どん、と撃ちあがったオラクル弾。コクーンメイデンとの乱戦となれば、絶対に見ることになるであろうそれ。

 

 普段であれば、適当に軽く跳んで避ければ済む話だ。不意打ちされるならばともかく、この程度の敵の密度であればこんなあからさまな飛び道具を見逃すことなんて無いし、直線的な動きである以上、少しでも体をズラせばあたらないのだから。熟練の神機使いほど最小限の動きでそれを避けて……自分の動きのリズムを崩さずに、撃ってきたやつを叩き斬ることだろう。

 

 だけど。

 

 

 

「ちィッ!?」

 

「く……っ!?」

 

 ──ルゥ!!

 

 

 

 ソーマも、アリサも、ルーも。

 

 不自然なほどに大げさに──全力で回避行動をとった。

 

「……なんで、コクーンメイデンの攻撃にあんなにマジになってんだ?」

 

「さあ……? 見えてる攻撃だし、あんなに大げさに避ける必要なんて──!?」

 

 

 

 ──ドォォォォォォン!!

 

 

 

 爆音。体の芯まで響く衝撃波。見えない何かがチハルたちの体を突き抜けていくと同時に、埃っぽい土煙がもうもうと立ち込める。呼吸も苦しければ耳鳴りも酷い……と、まるで近くに強力なミサイルが落ちたかのよう。

 

「けほっ!? けほっ!?」

 

「な、なんだ……!? 何が起きた……!?」

 

『──コクーンメイデンの攻撃ですね』

 

 通信機から聞こえてきたのは、ありのままの事実であった。

 

『攻撃そのものは通常のコクーンメイデンのそれと同じです……が、ただ単純に強力になっています。本当に、ただそれだけなんです』

 

 シンプルに、強力な攻撃であるというだけ。ヒバリは確かに、そういった。

 

『この極東では、異常活性した明らかに強力な個体が出現するということが、稀によくあるんです。コクーンメイデンの場合だと、三年前に確認されたのが最後でしょうか』

 

「何を、そんなバカな……アレはどう見ても、”強い個体”の範疇を越えてんぞ……?」

 

『残念ながら、ギルさん……それが事実です。三年前に出現したコクーンメイデンの異常個体は、たった一発でウロヴォロスも接触禁忌種も仕留められるほどのオラクル弾を撃っていましたよ』

 

「ウソ、だろ……」

 

『幸い、出現数は少なくて……当時の第一部隊であるユウさんやアリサさんが連日任務で周囲を巡回し、大きな被害を出すことなく収束させることが出来ました。少しでも攻撃を食らったらダメな相手で、できるだけ行動させる前に倒す必要があったので、討伐任務に参加できる部隊が第一部隊くらいしかいなかったんですよね』

 

『そんな……そんなことが、ありえるのですか……?』

 

『はい……最近は発生していませんでしたが、十分にあり得ることなんです。さすがにこれは、経験者じゃないとすぐには気づけないですよ』

 

 ただ単純に、今まで出現したどんなアラガミよりも強力な攻撃ができるコクーンメイデン。

 

 コウタ達が襲われたのは──そんなアラガミだったのだ。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

『──それでは、先ほどお伝えした合流ポイントまで急行してください。コウタさんとロミオさんはそこで医療用ヘリコプターで回収し、そのままアナグラの医療施設での処置に移ります』

 

「了解。ルー(こいつ)の足なら全員乗せて走っても三十分もかからない。受け入れ準備を整えておいてくれ」

 

『ええ。本当は、ルーがそのままアナグラに入れればベストなのですが……』

 

「いや、それよりもドクターヘリで一秒でも早く輸血をしたほうがいい。とにかく血が足りてないし、ドクターヘリならそのまま医療施設に直行できる」

 

 結局、あれから物の数分のうちにアリサたちは目に見える範囲のコクーンメイデンを討伐していた。途中で二、三回ほどオラクル弾を撃たれてしまったものの、それ以外は一切相手の攻撃を許さずに仕留めることに成功している。これは紛れもなく、この極東で生き抜いてきた神機使いだからこそできたことだろう。

 

 ──ルゥ。

 

「ん、もうちょっとだけ伏せて……あと、マントで神機を押さえておける?」

 

 ──ルゥ!

 

 癒しの雷を纏ったまま、ルーが地面に伏せる。それぞれロミオとコウタを抱きかかえたギルとエリナがゆっくりとルーの背中に乗り、そして二人の神機はルーが背中のマントに包んで保持している。もしルーがここまでマントを器用に動かすことが出来なかったら、神機を置いて帰る羽目になっていただろうな──と、チハルはぼんやりと思った。

 

「八人も乗るのはちと狭いが……」

 

「コウタさんたちが落ちないように押さえておかなきゃいけないし、むしろぎゅうぎゅうなくらいでちょうどいいんじゃない?」

 

「……だな」

 

 当然のことながら、意識を失っているコウタとロミオは誰かが押さえておく必要がある。できるだけ安静に……安定した状態を保つ必要があるとなると、二人がかりで抑えたほうが賢明だろう。横に寝かせて上げられればそれが一番良いのだが、さすがにこの人数となるとそこまでは望めない。

 

「ええと……先頭はチハルちゃん。すぐ後ろにギルさんで、私と二人でロミオさんを押さえましょう。私の後ろにソーマで、あなたはエリナちゃんと一緒にコウタを押さえてください。最後尾はキョウヤくんで」

 

 背の高いギルを前のほうにおいて気持ちばかりの風避けにする。一番体格のしっかりしているソーマは真ん中にして、前から寄りかかられても後ろから寄りかかられても良いようにする。一番後ろのキョウヤは適宜エリナを補助しつつ、全体に目を光らせる役目だ。

 

「チハルちゃん……難しいかもしれませんが、なるべく速く、なるべく揺れないようにお願いできますか? ルーもそのあたりは分かっていると思いますし、この雷があるから傷が開くということも無いと思うのですが……」

 

「任せてください……ルーちゃん、準備はいーい?」

 

 ──ルゥ!

 

 全員がルーに乗り、出発準備が整っていることを確認して……そしてチハルは、ルーを立ち上がらせる。

 

「合流ポイントまでは私が指示するからね。あと、難しいかもだけど回復の雷はずっとでお願い。ぶわーってするやつ……ジャミングは使ってもいいけど、ヒバリさんたちと連絡を取らなきゃだからその時は合図を送るね」

 

 ──ルゥ!

 

「ん……いいこ、いいこ」

 

 いつもの通り。

 

 自分の声にしっかりと返事をしてくれたルーを、チハルはその小さな手で優しく撫でた。

 

「それじゃあ、しゅっぱ──」

 

 

 

 

 

 ──ドンッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 衝撃。

 

 ただただ、強い衝撃。

 

「きゃっ!?」

 

「うぉっ!?」

 

 砲撃特有の空気を切り裂く音も、何の前兆もなく。

 

 今までに感じたことが無いほどの空気の震えが体を貫き……そして、ぐらりと体が傾くのをチハルは確かに感じ取った。

 

「な、なに!?」

 

「クソ……っ! まさか、まだ生き残りがいたのか!?」

 

 すぐ後ろから聞こえてきたギルの声。ちらりと後ろを振り向いてみる……も、土煙が酷くてソーマより向こうがほとんど見えない。かろうじて、キョウヤがせき込む音が聞こえるから……ひとまずは、みんな無事と言っていいのだろう。

 

「チッ……やるか!?」

 

「いえ! 正体がわかっている以上、リスクはもう高くないです! それにこの復活の速さ……戦うよりも逃げたほうが良い!」

 

 アリサの声。もう懸念事項なんてないのだから、ここに留まる理由なんてない。

 

 だから。

 

「行くよ、ルーちゃん!」

 

 だから、チハルはルーに声をかけた。キョウヤと同じくらいに信頼している相棒(ルー)に、いつもと同じように合図を出した。

 

 

 

 

 ──ァァ……ッ! ガ、ァ……ァァ……ッ!!

 

 

 

 

 

 腹の奥底から絞り出したかのような、耳慣れない苦悶の声。聞こえてくるはずの、いつものルーの声が、待てども待てども聞こえてこない。

 

「……ルー、ちゃん?」

 

 ──そういえば、どうしてあんなに体が揺れたのだろう?

 

 ふと、思いついてしまった疑問。

 

 攻撃を受けた瞬間、確かにチハルはその衝撃を体で感じたが……それと同時に、体が大きくぐらりと揺れた。バランスを崩しかけたと言ってもいい。それは初めてルーに乗ったときから一度も起きえなかったことで、今までに一度たりとも、ルーは背中に乗せた人を落としそうになったことは無い。

 

 

 

 ──ガァァ……ッ!! ァ、ァァ……ッ!!!

 

「……っ!? ルー、おまえ……!?」

 

「え……キョウヤ、くん……?」

 

 

 

 じゃあ、どうしてバランスが崩れたのか。

 

 その答えは、酷く単純なものであった。

 

 

 

 

 ──ァァァァァァァ!!!!

 

「おまえ……っ! 脚、が……っ!」

 

 

 

 

 ──ルーの左後脚が、半ばから千切れかけていた。




 超強化コクーンメイデン……DLC……ウッ。
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