問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



8.知らん……何それ……怖……

 

 男は、今日の日付を確認した。

 

 9月10日。なんてことはない、普通の1日。

 何も変わらない。何も変わることのない、普通の日だ。

 

 

(ああでも、特別なことが現在進行形で『起きている』な)

 

 

 思いを馳せる。大義名分は違うが、確かに今日は特別な日だ。月に数回ある、友人の護衛役/歌姫の護衛たる少女との逢瀬。その延長線で、男は日本の京都にいた。

 憧れの地に、大切な友人/想いを寄せる少女らと共にいる。これだけでも充分、男にとっては特別なことであった。たとえその理由が、“男にとっての”9月10日と違っていても。

 氷塊のような感情を飲み込んで、男は朝風呂の準備を始めた。“男にとっての”9月10日なんかよりも、普段より少しだけ“特別な”9月10日を過ごすことの方が心躍る。

 

 そのことだけを考えて、楽しみたい。

 

 旅館にある露天風呂に浸かれば、少しはマシになるだろう。

 こんな気持ちを抱いたままでは、暗い影を見せてしまいそうだった。

 

 友人は自分より先に起きて、朝風呂へ向かっていたようだ。隣の布団はもう既にもぬけの殻となっている。相変わらず早起きだ。

 風呂の時間は、圧倒的に友人の方が長い。だが、そろそろこちらに戻ってきそうな気配がする。行き違いになりそうだ、と男は思った。

 

 

「あれ? お前、今から風呂か?」

 

 

 案の定。廊下に出て少し歩いたら、朝風呂を終えた友人がやって来た。露天風呂の脱衣所で着替えも済ませてきたようだ。今日は和服ベースに洋服を取り入れた和洋折衷――友人曰く“書生スタイル”というものらしい――。インナーとして白いカッターシャツ、その上に着流しと袴を着て、くるぶし程度のワークブーツを履いている。

 歌い手仲間の女性と会う日は、特に気合を入れた格好をしていたように思う。着物を中心とした服装にするのは、当人が着物に慣れ親しんでいるという事実以外にも、顔を赤らめた彼女から『キモノ姿の夜鷹さん、すっごく格好いいです!』と褒めちぎられ、写真撮影を強請られたことが関わっているのであろう。

 

 そんな友人の姿を見ていると、つくづく思うのだ。「自分も彼も、あのとき“運命の相手”に出会っていたのだ」と。

 

 友人はこのことを自覚していない。知っているのは男とその周辺だけだろうし、男はこれからも教えてやるつもりもない。自力で気づいてこそ、価値のあるものだ。

 もし、友人がその事実に己の力でたどり着くことができたら――それはきっと、何よりも尊いものになる。今の男にとっての少女のように、あるいは男にとっての友人のように。

 その瞬間が楽しみだ――などと考えつつ、それを友人に悟られないよう心掛けながら、自分は敢えて普段通りの調子で彼の質問に答えてみせる。

 

 

「ああ。この旅館の露天風呂は本当に最高だ。しかも、朝にも入れるとは! これは是非とも堪能すべきだな!!」

 

「だからといって、昨日みたいに『打たせ湯で滝行』すんなよ。血行が良くなるだけだから」

 

 

 生温かく笑った友人は、男の地雷を容赦なくぶち抜いた。

 昨日、自分を眺めていた旅行客と同じ目をしている。居たたまれなくなるからやめてほしい。

 

 

「キミは、人の黒歴史をネチネチと……」

 

「お前にそういう指摘をできるの、俺やあいつぐらいなもんだろ。お前に振り回される被害者筆頭として、これからも指摘してやるから覚悟しておけ」

 

「『京都の女はねちっこい』という噂は聞いていたが、キミも相当だな!」

 

「残念。俺程度で根を上げるならまだまだだな。おふくろや姉貴のような女に粘着されたら、お前の胃にどでかい風穴が開くだろうよ」

 

 

 友人は笑っていた。だが、その笑い方に影を感じて思わず息をのむ。彼とその家族のやり取りを考えれば、冗談でも話題に出すのは精神的に辛いだろう。

 彼に自分と同じ氷塊を味あわせるつもりはなかったのだ。男は慌てて謝罪しようとしたが、彼がぽんと手を叩く方が早かった。

 

 

「いや、あの子に粘着してるお前の方が酷いよな」

 

 

 彼は至極真面目な顔で頷いた。いきなりの話題転換。

 場の空気を和ませようとしたのではない。彼は素で、その話を持ち出したのだ。

 

 友人は山羊座のB型だ。一般的には、『粘り強さと野心に満ち溢れており、大器晩成型の傾向が強い』、『乙女座同様、自他に対して厳しい傾向がある』、『山羊座の中で、B型は比較的友人が多い』、『努力家で信念があり、努力でどんな職業もこなせてしまう』という話を聞く。

 少なくとも、『他人の揚げ足を取る』や『切り替えが早い』、『素で人の地雷をぶち抜く』や『ねちっこい』なんて特性はなかったはずだ。そう言ったら男も似たようなものである。乙女座のA型には『道理を無理で押し通す(件の友人談)』や『努力の方向性が方向音痴(件の友人談:その2)』なんて記述はない。

 純粋、潔癖、気が強い。乙女座のA型の特徴には、男の三拍子が揃っている。生真面目も合わせれば四拍子か。ついでに、少女の星座である牡羊座とは壊滅的なほど相性が悪かった。だからといって“運命の相手”を諦めるつもりなど毛頭ないのだが。こういうときこそ、友人の言う『道理を無理で押し通す』を体現するときだ。

 

 

『死ぬのが怖くて、恋ができるものか』

 

 

 男の意地と努力が実を結んだのか、星座相性占いの結果は崩れつつあった。少女の態度が軟化したこと、昨日少女が口にした一言がその証明である。

 

 ちなみに、友人の“運命の相手”は蠍座のO型。星座相性占いの結果は上々だ。断じて悔しくなんかない。

 どうしてこんなに詳しいのかって? 答えは単純。もう1人の友人や付き合いのある部下たちの協力も得つつ、情報収集と戦況分析を行った結果だ。閑話休題。

 

 

「それじゃ、ゆっくり浸かってこいよ。のぼせない程度にな」

 

「わかっているさ」

 

 

 友人と別れ、男は露天風呂へと向かった。脱衣所で服を脱ぎ、風呂場へ足を踏み入れる。早朝であるが、朝ぶろを楽しむ客がぽつぽつといた。

 体を清め、外へつながる扉を開ける。風呂場のむっとした空気が一瞬で吹き払われ、少し肌寒い空気が頬を掠めた。それがひどく心地よい。

 外気の影響を受けているせいか、露天風呂の温度は少しぬるめだった。昨日、そうと知らずに滝行していた打たせ湯や、室内風呂の方が熱かった。

 

 湯船にしっかりつかりながら、男は大きく息を吐いた。

 朝の始まりに露天風呂とは、“特別な”9月10日の始まりに相応しい贅沢だ。

 

 今日はどんな1日になるのだろうか。楽しみで楽しみで、たまらなかった。

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 “武士道”と名乗っていた頃の自分にも、生き恥を晒してまで生き永らえた理由があった。道化――いや、あれはどちらかと言えば玩具か――にされても尚、生きようと決意した理由があった。

 真っ暗闇の宇宙を引き裂くように飛んだのは、“天使”の機体が持つ特徴だった緑色の光。その先にいるのは、白と青を基調にした“天使”/自分が焦がれてやまなかった“革新者”。

 

 この心臓が止まるまで、この意識が途切れるまで、その光を――その姿を、目に焼き付けて終われたのなら。

 

 本当の願いは投げ捨てた。手を伸ばすには、積み重ねてきた生き恥が多すぎる。暗く嗤った女の白い手が、自分の体を這いずり回る感覚が振り払えない。

 最早自分は、あの頃には戻れない。“革新者”も、変わり果ててしまった自分の悍ましい姿を目の当りにしたら、侮蔑の眼差しと軽蔑の言葉を向けるのだろう。

 すべてが終わったら、二度とこちらを振り返ることはないのだ。彼女は前を向き、未来を生きるために生きていく。――そうして、自分は過去になるのだ。

 

 

(――あの日、私は思ったのだ。『ならばせめて、キミの“未来の水先案内人”になれたらいい』と)

 

 

 自分が“壊れていく”中で、せめてそれだけはと願っていた。彼女の名を呼ぶこともできず、彼女の足を引っ張るような真似しかできず、そのくせ未来のない自分。

 好敵手としての矜持はとうに折れ、彼女を愛した男という勤めも果たすことのできない、いずれは思考もままならない肉塊に成り果てるだけの命だ。だからこそ足掻き続けた。

 

 足掻いて、足掻いて、足掻いて、足掻いて。

 

 その果てに、“天使”の手を取ることができた。蒼く煌めく御旗の元へ“還る”ことができた。失ったものは沢山あって、積み重ねた罪や口に出せない黒歴史も沢山残ったままで、やることだって沢山あった。絶えず動き続ける世界と、新たに迫りくる驚異の数々。忙殺される日々を過ごす中、それでも考えずにはいられない。

 “武士道”と名乗り始めた頃から、ずっと同じ光景を見続けている。蒼く煌めく“未来への水先案内人”――それに殉じることだけが、自分に許された唯一のことだと思っていた。それだけは奪われたくないと願って、それを標にして宇宙(そら)を駆けていた。最期にそう在れるなら、そう在れたなら、それはきっと。

 

 

(ずっと、確証があった。悟りを開いたとも言えるだろうし、使命感とも言えるだろう。或いは――脅迫概念とも言える程のモノが)

 

 

 今なら――いや、今だからこそ、自分は胸を張っている。誰を泣かせることになっても、誰の怒りを買うことになろうとも、誰から罵詈雑言をぶつけられようと、何人たりともそれを否定させない。それが我が友であろうとも、共に戦う僚友であろうとも、“革新者”たる彼女であってもだ。

 

 

(――そうだ)

 

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、前を向く。

 そうして、いつもの調子で笑った。

 

 

(私は、この瞬間(とき)のために生きてきたんだ)

 

 

 彼女の道を阻むモノは一掃した。だが、後一手が足りない。自分の機体はもう既に満身創痍だし、既に“金属生命体”によって浸食されている。浸食は機体内部どころか、自分の身体まで進んでいた。

 いずれ自分の機体は“金属生命体”によって完全に侵食され、“革新者”やZ-BLUEを害するだけの存在に成り果てるだろう。武装も殆ど使用不可。文字通りの万事休す。最早手立ては失われた。

 ……否、まだだ。まだできることがある。自分の役目を――彼女の“未来の水先案内人”になるという役目を果たすために、必要なものは残っている。そうと決まれば――

 

 

『この戦場、私も命を懸けて戦う! ――だが、敢えて言おう! 『必ず生きて帰る』と!』

 

「…………」

 

 

 脳裏に浮かんだのは、出撃前に自分が言った言葉だ。彼女と対をなす“もう1人の革新者”であり、自分が越えるべき存在と見定めた人物。

 彼から『命を粗末にするな』と、『“革新者”を泣かせるような真似はするな』と釘を刺された際への返答。その言葉に嘘はなかった。

 

 ――結局、嘘にしてしまうけれど。

 

 

(……また、キミを泣かせてしまうのだろうな)

 

 

 誓いを果たすことができない己の不甲斐なさに苦笑する。いつか、この離別(わかれ)を乗り越えて未来へ進んでいく“革新者”の背中を思い描いて、寂しさを感じてしまう自分の弱さに苦笑する。いつか見た彼女の涙を思い出して、ちょっとの安堵と優越感に浸ってしまった己の馬鹿さ加減に苦笑する。

 

 

『全部終わったら、鍋パーティしよう。俺と、お前と、“革新者”と、“理想への憧れ”の4人でさ』

 

『…………』

 

『後でリクエスト聞いてやる。だから、何味にするのかちゃんと考えておけよ』

 

 

 出撃前に交わした副官との会話。

 目を丸くする自分の答えを敢えて聞かなかった彼に言えなかったこと。

 

 ――“自分は、彼が作った鍋を食べられない”という結末(みらい)を《識っていた》から、答えることができなかった。

 

 

『来年はどうする?』

 

『――また来年も、私の誕生日を祝ってくれないか?』

 

『それでいいのか?』

 

『ああ。プレゼントはなくてもいい。キミが「おめでとう」と言ってくれるなら、私はそれだけで充分だよ』

 

 

 戦いが始まる前――つかの間の平和な時間に祝ってもらった、己の誕生日。

 自分が、来年の話をしてきた“革新者”に告げた願い事。

 

 ――“来年の誕生日は来ない”という結末(みらい)を《識っていた》が故に漏らした、ささやかな弱音。

 

 

『未来は変わらない』

 

 

 そう言っていた誰かが辿った結末を、自分は《識っていた》。主を裏切り、数多の人を騙し、卑劣な裏切り者となってでも、主ごと人類を救わんと奮闘した忠義の男を。

 “裏切り者”の名を冠したマキナから齎された英知に、彼は自身の結末を見た。『故に、自分たちでは世界を救えないのだ』という答えを悟って、そうして――彼は役目に殉じた。

 

 かの殉教者の名は、何だったか――なんて、考える。馬鹿みたいな現実逃避はここまでだ。

 

 

(――還りたかった、な)

 

 

 未練や後悔は山のようにあった。もうやってこない未来を惜しみ、悼む。

 ああでも、悪くはなかった。幸せだった。充分生きた。

 だから――もう、いかなくては。“未来への水先案内人”として。

 

 敢えて機体の動力源を暴走させる。目標は、“金属生命体”の中核――その道を阻む巨大な壁。

 

 一世一代、さいごの大仕事だ。後ろ髪を引かれるような感情を振り払って、尻込みしそうになる己を鼓舞するように。

 “未来への水先案内人”として在れることを誇りながら、自分が生き永らえた意味を噛み締めながら、男は腹と心の底から叫んだ。

 

 

「これは、死ではない! 人類が、生き残るための――!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『やっぱり、間違いない!』

 

『ここは、ラインバレルの電脳世界で見た景色――天児さんが見せてくれた、未来の世界だ!』

 

 

 浩一は、月に広がる廃墟群を見てそう叫んだ。

 

 

『そうか、思い出した! リーンの翼が見せた滅びの未来もこの街だった!』

 

『ああ、確かに。この風景には見覚えがある!』

 

 

 リーンの翼の影響で一時的に姿を消していたエイサップとサコミズも、それに続く。

 

 

『未来から来たヒトマキナが、自分たちの世界に似せてここを作ったとか?』

 

『違う……。そうじゃない』

 

 

 デントンの推論を、ショウが真っ向から否定した。

 彼と彼の相棒たるチャムが、戦慄した面持ちのまま口を開く。

 

 

『だ、だって、この街は……!』

 

『ここは、俺の知る東京……! 俺たちがいた、“並列世界”の東京なんだ!』

 

 

 アルティメット・クロスの面々は、異なる“並列世界”からこの時代・この世界に召喚されて集まった寄せ集めの部隊だった。――今まで、そう思われていた。

 ここにきて、参謀組の推理が崩れ始める。『並列世界だと思っていた/思われていたショウの知る東京の街並みが、浩一が見た滅びの未来と同じ光景である』ことが発覚したためだ。

 エイサップとサコミズの発言――『リーンの翼が見せた滅びの未来もこの街並みだった』――も合わさり、ますます謎が深くなる。誰もが混乱している様子だった。

 

 

『月に未来世界があって、そこが並列世界の東京……?』

 

『訳が分からねーぞコラ!』

 

 

 カレンが首を傾げ、張飛が全員の意見を代弁するが如く火の玉ストレートをぶん投げたその瞬間、轟音が響き渡った。

 

 

『オーバーライド現象を確認! 何かがここに転移してきます!』

 

『気を付けて! この周辺に出現しているヒトマキナとは比べ物にならない反応です!』

 

 

 何事かと身構える仲間たちに、初代“狙い撃つ成層圏”と懇意にしているオペレーターと仲間の操舵手と懇意にしているオペレーターの先輩後輩コンビが状況説明を行う。

 それを聞いた加藤の表情が強張る。彼はここに転移してくるであろう存在に対し、何か覚えがある様子だった。そして、オーバーライドの終わりを告げる光が爆ぜて、転移してきたマキナが姿を現す。

 

 自軍に所属するラインバレルと似通ったマキナが、マントを翻して降臨する。それを見ていた石神は、相棒である“裏切り者”から託された情報を諳んじた。

 

 転移してきたマキナこそが全ての現況。未来世界に滅びを齎し、以後は月を拠点にして人類を監視してきたヒトマキナの統率者だ。

 本来なら存在するはずのなかった、人の手によって生み出された機械の神。アルはそれを『エクストラ・デウス・マキナ』と称する。

 “機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)”。『物語(せかい)の幕を閉じる神』――その名で締めくくったのは道明寺だった。

 

 

『そういうコトだったのね。久嵩が、アタシたちをアーカムシティに向かわせた理由(ワケ)がようやく分かったわ』

 

 

 嘗て加藤機関に潜り込んでいたユリアンヌは納得したように呟く。眼前に現れたマキナは“機械仕掛けの神(デウス・マキナ)”の名を冠しており、それはデモンベイン――“鬼械神(デウス・マキナ)”と同じである。字面が違えど同じ名を冠した機体の存在を知った加藤は、それが気になっていたのだろう。彼は人類の敵として君臨しつつ、人類を救う手立ての模索も忘れていなかったから。

 

 

『――ついにここまで辿り着いたか、人間たちよ』

 

 

 倒すべき敵と対峙したアルティメット・クロスの存在を視認したマキナ――デウスエクスマキナは、厳かな調子でこちらを言祝ぐ。

 今までのヒトマキナは、人間の言葉を介さなかった。赤ん坊の姿を取っていた奴だって、奇声を上げるので手一杯だったというのに。

 驚く仲間たちなど歯牙にもかけず、奴はこの世界に隠された真実を話し始める。こちらが理解できるよう、流暢な言葉を操って。

 

 

『それ程までの力がありながら、お前たちは何故、自ら滅びの道へと向かうのか』

 

『想像力を失った種は、生きるコトを許されない。ならば、死こそが想像の糧。死こそが、命の始まり』

 

『その糧を1つ摘み取れば、人類は1つ、滅びへと向かう』

 

 

 それが意味することは、即ち。

 

 口元を戦慄かせたキラが、恐る恐る口を開く。

 機械仕掛けの神は、それを肯定した。

 

 

『平和になればなる程、人類(僕たち)は、滅びへ近づいていく……?』

 

『そうだ。人類を滅ぼすのは我々ではない。ここに辿り着いたお前たちこそが、滅びの元凶なのだ』

 

 

 平和を求めて戦い続けたアルティメット・クロスは、幾度となく、人類の危機を打ち払ってきた。平和に近づいていくことを実感し、それをモチベーションにすることでここまで辿り着いた。

 故に、デウスエクスマキナの言葉は衝撃的だったのだろう。だって奴の言葉が真実なら、『外敵を退けることは、己の手で自滅スイッチを入れる準備をしているのと同義である』ことを意味している。

 マキナたちが人間を監視していたのは、“適度に戦いを振りまくことで想像力を掻き立て、滅びない程度に人類を飼い殺すため”――奇しくもそれは、天児が否定した、嘗ての加藤のやり方だ。

 

 ――そうしてそれは、クーゴたちとも因縁が深い■■(そんざい)のやり方と、ほぼ一緒。

 

 

「機械に世界の管理を任せると、ろくなことにならない」

 

 

 愕然とする人々の心情をよそに響いたのは、“理想への憧れ”の声だった。

 

 

「どいつもこいつも似たような答えばっかり。本当に辟易しちゃう。神さま気取りの機械はみんな、頭■■■■■■■■■■『■■』なのね」

 

「仕方ないでしょう。最適化を突き詰めて極めれば、ああいう手合いは“同じ答えに辿り着く”よう出来てるんですよ。だって『それが一番効率的なやり方』なんだから」

 

 

 一時期は加藤機関に所属し、ライセンサーという特殊な地位を与えられていた“高貴なる魂”も、“理想への憧れ”の意見に同調した。

 

 クーゴや“そらを継ぐ人”、“高貴なる魂”はこの地球で生まれ落ちた“同胞”だが、“理想への憧れ”は母親とその関係者が『機械によって迫害されてきた』タイプの“同胞”である。故に、“機械による人類の管理”という事象に対し、強い怒りをあらわにしていた。

 “同胞”が生まれた理由も機械が絡んでいる。人間として最低限の能力を有しているか否かを判別するための検査が“同胞”の持っていた因子に干渉することにより、力に目覚めるという仕組みだ。最も、当時の人類は“同胞”を拒絶し、殲滅するためにその検査を悪用し始めるのだが。

 終いには、“同胞”との共存と支配の打倒を選んだ人類に対し、機械は『人類と“同胞”の排除こそが最良の方法である』という答えに行きつき、人類を滅ぼそうとしてきた。人類と地球を守るために生み出されたというのに、機械は目的を外れて支配者/管理者へと進化したことも要因の1つ。

 

 絶対的な力を持つ機械。

 その支配を打ち破ったのは、あまりにもちっぽけで無力な人間たちだった。

 

 

「クーゴさんは、知ってますよね?」

 

「まあな。ただ……」

 

 

 クーゴは周囲を見回す。先程告げられた“滅びの託宣”が尾を引いているらしく、仲間たちの動きが鈍い。平和にするために戦い続けてきたのに、それが滅びへ向かうカウントダウンだったなんて言われて、平然としていられる人間は滅多にいないだろう。

 アルティメット・クロスの面々は「自分たちは人類と地球の平和のために戦ってきた」という矜持を持っていた。それを支えにしていたからこそ、(“あん畜生”の策略とはいえども)世界から「テロリスト」の烙印を押されても戦ってこれたのだ。

 

 勿論、その動揺によって引き起こされた隙を見逃してくれる程、機械は甘くない。この場一体に全体攻撃が降り注いでくる。

 どうにかそれを回避し、奴らに攻撃を仕掛けた仲間たちであったが、デウスエクスマキナは尚も言葉を続けた。

 奴の言葉に呼応するかのように、体の傷が修復していく。マキナの持つ自動修復機能なんか比じゃない程の回復力。

 

 

「この力……こんな力を持ってしまったがために、人は滅ぶのか……」

 

 

 神の如き御業を披露を披露したデウスエクスマキナは、相変わらずこちらを憐れむように見下している。

 

 

「人は何故、人のままではいられない。与えられた楽園を、何故享受することができないのか……」

 

 

 『死を想像するからこそ人は生きていける』、『死ぬことこそが命のはじまり』――奴の言い方は何かの核心をついているように思う。命のこたえを得たことで真の力を発揮したサヤであるが、それだけでは答えが足りないのだろうか。

 思考回路を別なところに巡らせていたとき、デウスエクスマキナの攻撃が繰りだされた。躱しきれない。慌てて防御機能を作動させたが、機体に凄まじい衝撃が走る。爆発音に呼応するように、仲間たちの悲鳴が響いた。息が詰まる。

 

 やっと動けるようになったとき、周囲から黒煙が立ち上っていた。

 

 死にたくない。そんな声が、周囲から響く。

 クーゴがそれに気づいたのと、デウスエクスマキナが厳かに語ったのは同時だった。

 

 

「生きたいか? 死ぬのが恐ろしいか? それが想像だ。それが命だ」

 

 

 呼応するように、マキナたちが姿を現す。奴らは現れるなり、間髪入れず攻撃を繰り出す。

 まるで雨あられだ。あちこちから悲鳴と黒煙が上がる。

 

 

「もうやめて! 彼らの存在を消さないで!!」

 

 

 エルシャンクの通信越しに、操が悲鳴を上げた。

 

 

「こんな痛みが……こんな苦しみが、命だっていうの!?」

 

 

 操は彼の創造主たるミールの命を受け、『いのち』について学んでいる最中だ。おそらく彼は、フェストゥムの能力である読心術で、その痛みや苦しみを感じたのだろう。

 フェストゥムは痛みや苦しみに慣れていない。数か月前の戦いで、半ば強引に総士を取り込んだイドゥンが痛みに耐えきれず、『自分を消せ』と叫んでいたことを思い出す。

 

 嘗て、一騎の母親――真壁朱音は、フェストゥムとの全面戦争に異を唱え、フェストゥムを祝福した。彼女がフェストゥムに教えたのは――愛。

 マークニヒトのパイロットをしていた道夫と弓子の幼馴染・狩谷由紀恵は、意図せずフェストゥムを祝福した。彼女がフェストゥムに教えたのは――憎しみ。

 イドゥンによって無理やり同化させられるような形であるが、皆城総士はフェストゥムを祝福した。彼がフェストゥムに教えたのは――痛み。

 

 彼女らや彼の祝福を受けたフェストゥムが生み出したのが、今ここにいる少年・来主操。彼は人一倍、痛みを嫌っていた。苦しみを嫌っていた。それらすべてから、逃れようとあがいている。

 

 

「こんな辛い思いをしてまで、なんで神様に逆らわなくちゃいけないんだよ!?」

 

「黙れよ!」

「だからよ」

 

 

 それを遮ったのは、浩一と“理想への憧れ”だ。

 

 

「何が『与えられた楽園』だ! 死の恐怖に怯えて、絶えず戦って、地にはいつくばって……! そんな世界の、どこが楽園だって言うんだよ!?」

 

「だ、だけど……」

 

 

 神に逆らい痛みと苦しみを与えられるか、かりそめの楽園を教授するか。

 操は悩んでいるようだった。浩一の言葉を引き継ぐように、“理想への憧れ”が厳しい口調で告げる。

 

 

「その楽園が、人間から人間らしさを奪うの。人の心を壊すの。そして、人を滅ぼすのよ!」

 

 

 “高貴なる魂”も、蔑むようにため息を吐いた。

 

 

「貴方のようなポンコツ、どっからどう見ても同業者の二番煎じですよね」

 

「貴方は“嘗て存在した支配者”の再来になるつもりですか?」

 

「“『地球』の母親(■■■■■■■■■■『■■』)”か」

 

 

 デウスエクスマキナは2人の言葉からすぐに対応する存在を割り出した。“理想への憧れ”と“高貴なる魂”、“そらを継ぐ人”も驚きに目を見張る。クーゴも息を飲んだ。

 このことは前対戦に関わった、ごくわずかな人間しか知らないはずだ。……だが、地球を監視し続けてきたこの神なら、掴んでいてもおかしくないかもしれない。

 

 

「彼女は失敗だった。真綿で首を締めるような管理方法(やりかた)では生温かったのだ。だから私はその失敗を活かし、この管理方法(やりかた)を選んだ」

 

 

 神は思いを馳せるように目を閉じる。嘗て存在し、人間を管理していた同業者に、何やら思うところがあるようだった。

 だが、やはり、人間らしさを潰すようなやり方をしている時点で、こいつは“『地球』の母親”と大差ない。クーゴは小さく舌打ちした。

 操縦桿を握り締める。自分の力が発揮されたことを意味する青い光が、ゆらゆらと湧き上がってきた。

 

 

管理をする(まるでモノを扱う)ようなニュアンスで言われるのは、随分と癪なんだがなぁッ!」

 

「これだから、機械に世界の管理は任せられないのよ!」

 

「“『地球』の母親(■■■■■■■■■■『■■』)”の末路をご存じなら、貴方みたいな機械が最後にどうなるのか、ご存知ですよねっ!?」

 

 

 クーゴの機体だけではない。“理想への憧れ”と“高貴なる魂”の機体も青く輝き始める。

 

 

「そうだ、俺たちは人形じゃない! 人間なんだっ!!」

 

 

 そう叫んだショウも機体からもまた、光が湧き上がる。平和であってほしいと願う戦士の思いが、オーラ力を増幅させているのだ。

 クーゴの持つ力と聖戦士のオーラ力を見た機械が興味深そうに力を分析する。片や人類の進化の可能性のひとつ、片や人の理念が為せる業。

 

 

「死にたくないって想うことが命なら、平和にしたいと思うことだって命でしょう!? だったらショウには……人間には、その想いをカタチにする力があるんだから!」

 

 

 すると、ほんの一瞬、機械の神が考えを巡らせるように目を伏せる。

 

 その隙を逃すほど、自分たちは甘くない。ショウと共に、機械の神めがけて攻撃を仕掛ける。

 次の瞬間、凄まじいエネルギー波が発生し、自分たちの一撃は呆気なく相殺されてしまう。

 

 

「なっ!?」

 

 

 逆にこちらが驚いた。その隙をつかれ、弾き飛ばされてしまう。

 

 仲間たちが息を飲む。自分たちはおろか、ショウのようなオーラバトラーでさえ太刀打ちできないとは。機械神の力は浩一の機体と同じ、圧縮転送フィールドを使っているらしい。

 彼のライバルである元“黒騎士”も動揺していた。誰もが諦めかけていたとき、浩一が叫ぶ。この少年は諦めるという言葉を知らない。正義の味方は決して諦めない――その言葉を体現するような子だ。

 浩一の作戦は、“地獄公務員”や石神が試みようとしていた対消滅とよく似た原理である。ラインバレルに搭載された圧縮転送フィールドの力をぶつければ、デウスエクスマキナの防御を突破出来るかもしれない。

 

 その、一瞬のスキを突く。成功率は天文学的に低いし、成功したとしても機械の神にダメージを与えられるかもわからないのだ。

 歌姫が不安げに問う。聖戦士と正義の味方は間髪入れずに頷いた。負けることばかり考えれば、本当に負けてしまう。

 

 

「できるかどうかじゃない! 必ずやり遂げてみせるんだァァァァァァァッ!!」

 

 

 浩一の機体から、白い光があふれ始める。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 ショウのオーラ力が爆発する。

 

 

「浩一さん、援護します!」

 

「その賭け、乗った!」

 

「人は機械を超える! 人間の力、ちゃんと見ておきなさいよ!」

 

「人間を舐めないでください!」

 

 

 先陣を切った“そらを継ぐ人”に続くようにして、自分たちの力を一気に発現させる。“荒ぶる青”が爆ぜた。

 

 浩一が駆るラインバレルが先陣を切った。機械神と正義の味方のエネルギーがぶつかり合う。拮抗したエネルギーが弾け、その一瞬のスキをついて、自分たちが攻撃を仕掛けた!

 響く轟音。確かな手ごたえを感じ取ったと思ったとき、爆ぜるような音がした。デウスエクスマキナは驚愕に満ちた顔で自分たちを見返していた。

 無敵だと思われていた機械の神を、自分たちは怯ませた。それは仲間たちにとって、最高の起爆剤になったようだ。仲間たちが次々と普段の調子を戻していく。

 

 何のために自分たちが戦ってきたのか、その意味を思い出せたのだろう。

 誰かの命を守りたいから、人が人として生きる世界を守りたいから、ここまで戦ってこれた。

 

 

「恐れるな、悲しむな! 信じる心が、正義になるんだァァッ!!」

 

 

 ショウの言葉を皮切りに、仲間たちが反撃の狼煙を上げた。

 それを見た機械の神が戦慄する。

 

 

「これが、ニンゲンの力……! これが、人間の可能性……!」

 

 

 怯んだ神とは対照的に、今度は浩一が託宣する。

 

 

「教えてやるぞ、デウスエクスマキナ! 正義は、必ず勝つってことを!」

 

「僕らが手を取り合えば、運命だって変えられる! ――人間の可能性は、機械なんかじゃ測れないんだ!」

 

 

 仲間たちが次々とマキナを撃破していく。防戦一方だった戦いが嘘みたいだ。さすがにマキナたちも焦り出したのか、増援が次々と現れる。

 今の浩一なら、機械の神など襲るるに足らず。クーゴは“同胞”に視線を向け、次に空を見上げた。

 

 曇天を切り裂くように空を翔るのは、白と青を基調にした天使と青い閃光。“革新者”とグラハムである。

 

 この2人も漏れなく動揺していたのだが、今はもう迷いはない。いつもと変わらぬ戦術を駆使し、最高のコンビネーションを披露して、マキナたちを屠っていく。

 あれならもう、何も心配することはない。“理想への憧れ”に合図をすれば、彼女は自分の力とヴォワチュール・リュミエールを駆使してマキナたちを翻弄した。

 その隙をつくような形で、クーゴと“高貴なる魂”がマキナたちを倒していく。“そらを継ぐ人”は浩一と共に、デウスエクスマキナと激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。

 

 星屑の渦を突き抜けるような勢いで、アルティメット・クロスの面々は奮戦した。

 人の心が持つ強さを、機械仕掛けの神に示すかのように。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 京都の空は秋晴れと称するに相応しい天気となった。今日は洛北を中心に見て回る予定となっている。

 現在、クーゴたちは清水寺を訪れていた。京都の観光地であり、『清水の舞台から飛び降りる』という諺のもとになった有名な場所でもある。

 

 

「意外と高くないのだな」

 

 

 舞台の手摺から身を乗り出して下を眺めていたグラハムが、不満そうに呟いた。

 

 

「当然だろう。俺たちは普段から、もっと高い場所から下を見てるんだから」

 

 

 クーゴは苦笑した。今、改めて下を除き込むと、彼の言葉通りに思える。幼い頃、ここを覗き込んだときは恐怖で足がすくんだものだ。

 隣で蒼海が楽しそうに笑いながら、手摺から身を乗り出していたことは昨日のことのように思い出せる。

 

 彼女は『大丈夫よくーちゃん! あたしは傍にいるんだから!』と笑って、こちらに手を――……?

 

 

(()()? ()()()()()?)

 

 

 脳裏に浮かんだ光景に首を傾げれば、不意に、目を隠されたような気がした。小さな掌に視界を覆われたような感覚に目を瞬かせれば、一瞬、青い光が煌めいた。

 

 ――ああそうだ。蒼海はずっと仏頂面だった。クーゴが隣にいるという事実だけで憎悪を募らせていたからだ。どうして忘れていたのだろう。怯える自分に対し、『ここから落ちて死ねばいいのに』と耳打ちしてきたではないか。『病気で死ぬか、飛べない空を夢見ながら飛び降りて死ぬかを選べ』と迫ってきたではないか。

 両親がこちらに声をかけてこなければ、クーゴは蒼海によって息の根を止められていたかもしれない。空を夢見た理由も、そのときに交わした『約束』も果たせないまま、1人寂しくこの世を去っていたのかもしれない。……考えるだけで、寒気がする。今こうしていられることの幸いを、クーゴ・ハガネはよく知っていた。閑話休題。

 

 ふと隣を見れば、エトワールが手すりから身を乗り出して景色を眺めているところだった。目が見えないという自己申告は嘘ではないらしく、時折目を閉じて、聴覚やその他感覚を駆使して景色の雄大さを感じ取ろうと試みていた。その姿を見ていると、何だか微笑ましくなってくる。

 

 紅葉シーズンより早い時期のため、葉の色はまだ綺麗に色づいていない。見ごろは10月から11月頃だ。一応12月でも見れるが、朽ちかけているといっていいザマになっている。もちろん、綺麗ではない。京都に修学旅行に来た東北在住の親戚が「もう帰りたい」と嘆いた話が忘れられなかった。

 少女は何も言わず、古都の趣を眺めていた。先日の一件があったためか、グラハムとの距離がやや近い気がする。それが嬉しいのだろう。グラハムも機嫌が良さそうだ。今朝はどことなく暗い影が漂っていたことを除けば、グラハムは至って普通であった。――“普通に振る舞おうとしていた”。

 

 

(ばればれなんだよ、このおばか)

 

 

 今日が何の日か。わかっていたからこそ、クーゴはこの旅行を計画した。エトワールや少女に頼み込んで、だ。

 全貌を知ったら、グラハムはどんな顔をするだろうか。考えるだけでワクワクする。そのためにも、このプランは全力で秘匿しなくては。

 

 

「それじゃ、そろそろ次へ行こうか」

 

「そうですね。お店巡り、楽しみです」

 

 

 クーゴに促され、エトワールが頷いた。計画のこともあってか、足取りがいつもよりも軽やかな気がする。今にも踊り出してしまいそうだ。

 少女は計画を隠し通そうとしているせいで、何やら動きがぎこちない気がする。グラハムもなんとなく察したようで、彼は数割増しで少女に話しかけていた。

 彼の気を逸らすために、クーゴはわざとグラハムの首根っこをひっつかんでは苦言を呈した。勿論、律儀なグラハムはクーゴに対し、不満げな眼差しを向ける。

 

 地図を開いて目的地を確認しつつ、クーゴはグラハムの不満を受け流していた。その隙に、エトワールが少女のフォローに回る。これで何とかごまかせるだろう。

 

 不意に、グラハムが地図をひったくった。何事かと見れば、奴の目はある一点に釘付けである。グラハムは端末をいじりながら、地図と端末画面を交互に見比べていた。

 端末の説明に出てきたのは、古くから縁結びの神様を祀っている神社だ。クーゴが首を傾げたとき、彼は興味深そうに商品名を眺めている。縁結びのお守りだ。

 

 

「夜鷹。カタギリ司令が仰っていたのだが、『日本の恋人は、つがいの縁結びのお守りを交換し、持ち歩く』と聞いた」

 

「すべてというわけじゃないぞ。清水寺のすぐ隣にある神社にその類のお守りが売ってるが……行きたいのか?」

 

「是非!」

 

 

 グラハムが満面の笑みを浮かべて頷いた。おそらく、奴は縁結びのお守りに目を付けたのだろう。

 その神社には、恋人同士の中を深めるというお守りを販売している。お守りはつがいになっており、カップルがそれぞれ1つずつ持つと愛がより深まると言われていた。

 日本は宗教観が薄いと言われるが、実際は“沢山の神々が当たり前のように傍にいた”ために、『神様=絶対の存在』という西欧や中東とは違うものを持っている。閑話休題。

 

 恋人同士が愛を深めるお守りを買うと言っているが、グラハムと少女は恋人ですらない。

 クーゴが言及しようとしたが、奴が次手を打つほうが早かった。

 

 

「そういえば、『真の愛で結ばれた日本のカップルは、石破ラブラブ天驚拳を放てる』と司令が」

 

「それはない」

 

 

 クーゴは胸を張って言った。グラハムの表情がきらきら輝いており、それを切り捨てるとなると些か胸が痛む。

 だが、間違っているのは事実だ。指摘してやらないと、奴は『真面目に取り組んだ結果』として暴走してしまう。

 

 

「というか、お前と彼女は――」

 

 

 その先は、グラハムが視線を向けた先から聞こえた声によって遮られた。

 

 

「お義父さん、ルイスを僕にください!」

「私のお婿さんは沙慈以外考えられないの! だからお願い、パパ!」

「貴様のようなヤツに、娘を渡すことなどできん! どうしてもというなら、我々を超えてみせろ!」

 

 

 数世代前の日本のドラマを思わせるようなやり取りが聞こえた。誰もがその1点に注目する。

 

 

 

「ルイス! 僕と一緒に……」

「沙慈! 私と一緒に、石破ラブラブ天驚拳を打ってほしいの!」

「ルイス……!」

「大丈夫よ、私たちならできるわ!!」

 

 

 金髪碧眼の気が強そうな少女と、どこか苦労していそうな東洋系の少年が見つめ合う。クーゴの目がおかしくなければ、何やら変なオーラが漂ってきた気がした。

 少年少女は手を取り合う。彼らの目には一切の迷いがない。2人の手が真っ赤に燃える。幸せ掴むと轟き唸る。恋人たちは同じ場所を見て、同じ未来を見ているのだ。

 

 それを見た少女の両親も負けていない。

 

 

「貴方! 私たちも!」

「当然だ。我々の真の愛の力は、若気の至りなどに負けやしない! 郷に入りては郷に従う……日本文化の作法に乗っ取り、真の愛を思い知らせてやろう!」

「ルイス、見せてあげるわ。私たちの石破ラブラブ天驚拳を!」

 

 

 こちらも変なオーラが漂い始める。2人の手が真っ赤に燃える。真の愛を示して見せようと轟き唸る。

 けれど同時に、夫婦は思っているらしい。2人が真の愛ならば、きっと己を超えていく。そのときは、2人の背中を押してやろう、と。

 鴛鴦夫婦と若き恋人たちのオーラがぶつかり合うのが見えた。この場にいる人間たちは固唾を飲んで見守っている。

 

 だから、日本にはそんな風習もなければ作法もない。痛いくらいに突き刺さるグラハムの眼差しに、クーゴはモノ申したくて仕方なかった。

 エトワールは固唾を飲んで見守っている。少女は割って入ろうとしていたようだが、圧倒されてしまったようだった。

 

 

「ふたりのこの手が真っ赤に燃える!」

「幸せ掴めと轟き叫ぶ!」

「せきぃっ!」「はっ!」

「ラァァァッブラブゥゥゥッ! 天っ驚ぉぉぉ拳っっっ!!」

 

 

 清水寺一帯を覆い尽くすような勢いで、色とりどりの光が爆ぜた。吹きすさぶ突風に、思わずクーゴは目を覆った。

 

 煙が晴れる。立っていたのは若い恋人たちだった。少女の両親は膝をついている。心なしか、夫婦と恋人たちは傷だらけだ。

 コンマ数秒間に何があったのだろう。カップルと夫婦は互いを讃えあうように、ぐっと手を組んだ。

 

 

「見事だ。キミこそ、ルイスの婿に相応しい」

「お義父さん……!」「パパ……!」

「沙慈くん、ルイスをよろしくね」

「はい、お義母さん……!」「ママ……!」

「見合い相手には、私から断りを入れておこう。何人たりとも、2人の幸せを邪魔させない!」

 

 

 なにやらいい話で纏まったらしい。ひとしきり話を終えて満足したカップルと夫婦は、肩を並べて清水寺から去っていく。清々しい秋の風が吹いた。

 クーゴがツッコミを入れる前に、大嵐は過ぎてしまった。心が宙ぶらりんになったような錯覚を覚える。しばらくこの場は静かだったのだが、弾かれたようにざわめきがもどった。

 長らく日本で生活してきたし、日本の親戚からも情報を仕入れている。日本文化研究の権威と呼ばれる教授も親戚にいる。だが、日本文化にあんなものがあるなんて聞いてない。

 

 

(知らん……。何それ……。怖……)

 

 

 新興文化だろうか。だとしたら、独り身の男性には厳しい世の中になりそうだ。

 

 逃避をしても仕方がない。諦めて現実と向き合わなくては、とクーゴが決意したときだった。

 グラハムが少女の手を取り、藪から棒に言った。

 

 

「少女よ! 私と一緒に、石破ラブラブ天驚拳を」

 

「俺に触るな!!」

 

 

 少女は顔を真っ赤にして、グラハムの手を思い切り振り払ったのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 現在、自分たちは清水寺境内にある神社に来ている。グラハムの強い希望に引っ張られたような形となった。

 

 境内もまた、人々でごった返していた。参拝客やお守りを買う客など、目的は様々だろう。

 自分たちは現在、2手に分かれて境内を散策している。今回、クーゴは少女と行動を共にしていた。

 

 理由は簡単。グラハムが普段にも増してしつこかったからだ。少女が何かを隠していることを敏感に感じ取ったためだろう。

 少女の方もまた、隠していること――サプライズを隠し通せなくなりつつあった。そこでエトワールと相談した結果、一端2人を引き離すことにしたのだ。

 グラハムが不満そうにクーゴを見ていたことを思い出し、苦笑する。意中の相手が違う男と一緒にいるというのは、耐えがたいことだろう。後が怖い。

 

 

「日本の宗教観は、わからない」

 

 

 少女は真顔で呟いた。隣にいたクーゴは思わず苦笑いしてしまう。エトワール曰く『少女は中東系の出身』とのことだから、神という単語には深い思い入れがあるのだろう。

 

 

「確かに。中東での唯一教から見れば、日本の『どこにでも、何にでも神様が宿る』って考え方は難しいか?」

 

「他宗教の祭りを取り入れているのに信仰心が見当たらなかったり、モノリスが神になってしまったり、神の中に『貧乏神』や『トイレの神様』なんてのもいたりするところが、特に」

 

「なかなかマニアックな例を挙げるな……」

 

 

 モノリス大明神なんて、21世紀初頭の出来事ではないか。確かに、一時期「日本人の宗教観」を調査するのにうってつけな例だと話題になったが。

 『トイレの神様』も同様である。作曲者にして歌手の女性が、生前の祖母から言われていた民間伝承が入っている。元々は祖母と暮らした日々のことを歌っていたものだ。

 蛇足ではあるが、日本文化研究の権威となったクーゴの親戚は、この歌を聞いて日本文化研究を志したという。世の中、何がきっかけになるかなんてわかったものではない。

 

 

「最初の1つは、単に『日本人がお祭り好きである』だけだろうな。自分たちが盛り上がって楽しめるなら、宗教なんて関係ないんだよ。2つ目のモノリス大明神は、アニミズム的な精霊崇拝と非常に近い。モノリスのオブジェが親しまれるうちに、些細なこと……たとえば『名刺に願い事を書いてオブジェに置くと願いが叶う』あたりの噂話をきっかけにして、そのまま神格化されたんだろ」

 

 

 『俺は詳しくないが』と前置きし、少女に説明する。こんなことならもう少し、きちんと調べておけばよかったと後悔した。

 少女はクーゴの話に耳を傾けていた。しかし、説明内容の違和感に気づいたらしい。少しだけ、首が傾いた。

 

 クーゴにとって、日本の宗教観を一番如実に表すのは、少女の3番目の疑問だと思っている。

 

 

「3つめは、『必要ない存在がいない』ってことじゃないかな。貧乏神は取りついた相手を貧乏にしてしまうけど、貧乏だからこそ“ものや人を大切にする”、“質素に、慎ましやかに暮らしていくことは大切だ”ってことを教えてくれる。トイレの神様の逸話は……」

 

「耳にしたことはある。『徳が高く見目麗しい女神が、自ら不浄を司る神として名乗りを上げた』と」

 

「そうだな。誰もが使う場所で、絶対に必要な存在で、でも汚いから誰もやりたがらない。自らそこに名乗りを上げ、実際に神様としての役目を果たしているんだ。凄いことだと俺は思う」

 

「汚いから誰もやりたがらないけれど、絶対に必要な存在……」

 

 

 少女は何か思うところがあったらしく、はっと息を飲んだ。噛みしめるように呟く。

 

 

「日本の神様は、必死になって頑張る人を助けようとするんだよ。そうとはわからない程度に、そっと背中を押してくれるんだ。『想いと祈りを届けよう』、『大丈夫だから、自信を持て』って感じでな」

 

 

 日本人にとっての神は「世の中捨てたものではない」ことを示してくれる“燈火”みたいなものだ。もしくは、困ったときに力を貸してくれる“正義のヒーロー”、大切なことを気づかせてくれる“先生”とも言えそうだと、クーゴは思っている。

 『神様に守ってもらう』という話はよく聞いた。病弱な子ども時代、両親はクーゴが健康になるように、と、しょっちゅうお参りしてくれていた。“苦しいときの神頼み”とはよく言うが、神様はあくまでも背中を押してくれるだけで、あとは当人次第ではないだろうか。それを成し遂げたご褒美として、ささやかでかけがえのない幸福をくれる。

 

 そこまで語った後、クーゴは笑った。何かに似ているだろう? と。

 

 

「人間と同じだ。“自分のことを、きちんと見てくれる”相手は、誰にだってちゃんといる。それに気づけたとき、嬉しいって思ったり、救われたような気持ちになったりするだろ?」

 

「…………」

 

「日本人にとって、神は隣人以上に身近だった。身近すぎたんだ。その反動で、宗教観が非常に薄くなったって言われてる」

 

「そうか」

 

 

 少女は淡々と返答した。ここまでが一般論だ、と、クーゴは付け加える。

 

 

「俺個人としても、神様はどこにでもいる説を推す。ただし、神社仏閣その他諸々より、“人の心”や“良心”と答えるがな」

 

「“人の心”?」

 

「ああ。夢とか、希望とか、信条とか、正義とか、道徳とか、優しさとか、好奇心とか、わかり合おうとする気持ちとか、誰かを大切に思う気持ちとか、誰かを守ろうとする気持ちとか。人の心の底から湧き上がる、そういうものを信じたいよ」

 

 

 クーゴはそう言って、空を見上げた。あそこへ行きたくて、なんとしても行かねばならなくて、自分は努力を続けてきた。

 実家に渦巻くしがらみや憎しみとは無縁で、美しく雄大な空。あそこに辿り着かねばならないという思いに突き動かされて、ユニオンの軍人になった。

 

 

『キミが空を目指すなら、我々は必ず相見えるだろう。――空で待っているぞ、我が友よ!』

 

 

 待っていると言ってくれた人がいた。刃金空護が空に辿り着くのを待っていると言って、笑ってくれた人たちがいた。自分を友だと、或いは大好きだと言ってくれた人がいた。

 しかしながら、どうして『ユニオンの軍人』になろうとしたのかは、クーゴ自身でもわからない。本能によく似た、漠然とした衝動だった。

 だけど、それに従ってよかったと思う。おかげで、グラハムやビリー、エイフマンや調査隊の皆と出会うことができた。エトワールや少女とだって出会えた。

 

 憎しみや悲しみがなかったわけじゃない。けれどそれ以上に、思いを共有できる人たちがいた。夢や希望を語り合える、大切な人たちがいた。

 彼らに何度救われただろう。何度助けられただろう。彼らのおかげで、尚更、人の心を信じたいと強く思えるようになった。思い出し、クーゴは目を細める。

 

 

「……成程。お前の神は、そこにいるんだな」

 

 

 不意に聞こえた声に振り返れば、少女もゆるく目を細めていた。

 

 そして、考え込むようにして俯く。やはり難しかったのだろうか。心配になって問いかければ、彼女は首を振った。相変わらずクールな横顔で、「いいや、充分参考になった」と礼を述べる。端末をいじり、何やら色々と見始めた。“神頼み”に挑戦してみるか、と、赤銅色の瞳は語っている。

 手が止まる。その異変に気づいてクーゴが端末を覗き込めば、つがいになった縁結びのお守りがあった。一般的な袋のようなものではなく、キーホルダー形式のものだ。アクセサリーと見間違う、シンプルなハート型。少女は、金色と銀色に輝くお守りに狙いを定めたようだ。それともう1つ、厄除けのものも買うつもりらしい。

 何かに気づいたように少女がこちらを振り向いた。クーゴは端末から視線を逸らし、そ知らぬ顔で通す。安心したかのように、少女はまた端末へ目を戻した。しばらく端末を見ていた後で、意を決したように顔を上げる。視線の先には、お守りを撃っている売店。

 

 少女はそこへ向かい、狙いを定めたものを購入して戻ってきた。

 そこへ、境内を散策し終えたグラハムとエトワールもやってくる。

 

 

「少女! 手を出してくれないか?」

 

 

 グラハムは息を切らせて少女の元へ駆け寄った。子どもみたいにはしゃぐグラハムに気圧されつつ、少女は首を傾げながら手を出す。

 少女の掌に乗ったのは、赤いお守り。グラハムが狙いを定めていた、縁結びのお守りである。彼の手には、青いお守りが握りしめられていた。

 

 

「お揃いだな!」

 

「!!」

 

 

 満面の笑みを浮かべるグラハムの言葉を理解し、少女が鉄仮面のような顔を崩した。困惑と羞恥が混ざり合った表情で、体全体を戦慄かせる。

 

 途端に始まる普段のやり取り。この数カ月間、日常的に見てきたものだ。もう何も語るまい。クーゴはふっと笑みを浮かべ、友人とその想い人に生温かい視線を向けた。

 そのとき、服の裾を引っ張られた。振り返れば、エトワールが、じっとこちらを見上げていた。どうしたのだろう。暫しの沈黙の後、意を決したかのように、エトワールが口を開く。

 

 

「夜鷹さん、手を出していただけますか?」

 

「あ、ああ」

 

 

 差し出されたのは、少女が購入したお守りと同じものだった。クーゴの掌に乗せられたのは、銀色のハート。思わずエトワールを見れば、彼女は悪戯っぽく笑う。彼女の手の中には、金色のハートが握られていた。

 エトワールは鼻歌を歌いながら、軽やかな足取りで離れていく。グラハムの影響に毒されてしまったのだろうか。クーゴは何とも言えない不安を覚え、エトワールを見る。彼女は2人の間に入って、恒例行事の仲裁をしていた。

 もう一度、お守りへと視線を下す。銀色のハートが太陽に照らされて輝いた。あまりにも眩くて、クーゴは思わず目を細める。胸が温かくなるような感覚に頬を緩めた。向けられた好意を無下にするつもりはない。

 

 これは大事に持っていよう、と、クーゴはひっそりと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、教官は蟹座のO型だから…………」

 

「…………星座占いが何よ。血液占いが何よ。そんなもの、絶対信じない! ぜったいぜったい、諦めないんだからっ!!」

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふふ。あはははははははははーっ!!!」

 

 

「ネーナが! ネーナが壊れた!! どうする!? ってかどうすればいい!?」

 

「……わからん。ただ、前途が多難であることだけは確かだ」

 

 

 

「――!?」

 

「どうしたんだい?」

 

「今、ものすごい悪寒が……!?」

 

 

 相性占いに風穴をぶち明けることを選んだ者が、グラハム以外にも存在することを。

 

 

 

 

 

「この運命がどんな顛末に至ろうとも、私は決して後悔しないよ」

 

 

「それはキミも同じだろう? クーゴ」

 

「だな。俺も、この運命を否定しない。だけど、諦めて受け入れるのとは別問題だと思っている」

 

「それは同感だな。あえて言わせてもらうが、私は諦めていないぞ!」

 

「知ってる。散々見せつけられて疲れた」

 

「痛いものを見るような目でこちらを眺めるのはやめてくれないか!? そして、じりじり間合いを開けるのもだ!」

 

 

「散るにしても生き残るにしても、“彼女”に恥じぬ生き様を貫きたいものだ」

 

「縁起悪いことを言うんじゃないよ、このおばか。必ずここに帰るんだ。忘れるなよ?」

 

 

 神様以上に悪趣味な運命に立ち向かうという、長い戦いへと身を投じることを。

 

 

 

 

 

 

「か、可憐だ……」

 

「ああ、沙慈ー! 遅ーい!」

「ごめんよルイス。色々あって……」

「許さなーい! 本当に申し訳ないと思ってるなら、今すぐ私にちゅーしれー!」

「ちょっと待ってよルイス! ここ、人がいっぱいで、その……」

「うふふ、そういうところがかわいいのよねー。からかうの楽しいー」

「る、ルイスっ! ……ぼ、僕だって、僕だって男なんだからね」

「!」

 

「…………」

「…………」

 

 

「………………失恋した」

 

 

「アンドレイ……。……強くなれ、息子よ……!」

 

「どうかしたんですか? 大佐」

 

 

 誰かの恋が、開始数秒(じんせいさいたん)で終わってしまうことを。

 

 

 

 

 

 

「この世界に、神などいない」

 

「だが――この世界には、あんたがいた」

 

「だから、何も恐れていないし、悲しんでもいない。……大丈夫だ。俺は、あんたの心を信じている」

 

 

 

「我々は何も知らずに出会い、わかり合い、すべてを知っても尚、“こう”あることを選んだ」

 

「だからこそ、私は望んでいる。今この瞬間、キミとの真剣勝負を!」

 

 

「……俺もだ。決着をつけよう、グラハム・エーカー」

 

 

 誰かの恋が、ひとつの結末(くぎり)を迎えることを。

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。




【参考および参照】
『12星座占い性格早見表ランキングガイド』より、『乙女座/A型』、『山羊座/B型』、『蟹座/O型』
『星占い 十二星座の相性と特徴 - NAVER まとめ』より、『牡羊座』、『乙女座』、『蠍座』、『山羊座』
『血液型&12星座、性格・恋愛・結婚運・相性ランキングのまとめです』より、『山羊座/B型』、『蠍座/O型』

『縁結び祈願 恋愛成就 京都地主神社|初詣 お守り 恋占い おみくじ 桜 七夕祭り 紅葉』より、『愛のちかい』、『ふたりの愛』
『ちょっとアレなニュース 外国人が日本人を見て和む瞬間が多数挙げられる』より、『モノリス大明神』
『トイレの神様 (歌.植村花菜)』
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