問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


12.ビギニング・エンカウント -ブレイクトリガー編-

 

 少女は今日も料理を作る。大事な大事な片割れに、早く元気になってほしいので。

 少女は今日もネットの海を泳ぐ。素敵な“おはなし”を聞かせてくれる片割れに、少しでもお返しがしたいので。

 少女は今日も周りの大人たちの態度に憤る。どいつもこいつも、片割れが早逝するとばかり思いこんでいるので。

 

 

「くーちゃんくーちゃん! 格好いい言い回しの勉強にぴったりのデータあったよ!」

 

「それ、俺よりあおちゃんが勉強したほうがいいんじゃないかなぁ……」

 

「何言ってるの! くーちゃんにこそ、こういう勉強は必要なんだよ! スパダリの第一歩だよ!」

 

「俺はいいから、あおちゃんはあおちゃんの好きなことしなよ」

 

 

 弟に携帯端末を差し出しながら声をかければ、彼は申し訳なさそうに目を伏せる。片割れの物言いからして、また誰かに何か言われたのであろう。

 

 我が家には“直系男児は早逝しやすい”というジンクスがある。可愛い可愛い片割れも、生まれた頃から病弱であった。医者も『成人するまで生きられるかどうか』なんて抜かしおるわ、両親は『才能あるけどどうせ早逝するから……』『惜しいなあ』みたいな調子で接するわで、弟の柔い心を握り潰しにかかるのだ。

 おかげで片割れは“何があっても控えめに笑うばかりで、何事に対しても遠慮する”ようになってしまった。誰かが彼のために何かを成したときは“悲しそうに笑って『ごめんなさい』と謝る”ようになったとも言う。どうしようもないことや仕方のないことなのに、病気を治すために頑張っているのに、どうして周りの連中は、あの子の心労を増すようなことをするんだろうか。

 

 

「あたしは常に好きなことしてるよ。くーちゃんが元気になって、長生きして、好きな人と結婚して、家族作って、幸せに天寿を全うするのを見届けるの」

 

「無理だよ。お医者様も、お父さんも、お母さんも、周りの人も言ってるじゃないか。『くーちゃんは長生きできない』って」

 

「そんなことないの! くーちゃんは元気になって、『お空で待ってる』って言ってた人たちに会いに行くんでしょ? そのためにも、きちんと勉強しなきゃ!!」

 

 

 少女は頑として譲らない。何故なら、片割れの“おはなし”に出てくる人たちはみんな軍服を着ていたからだ。軍人になるのなら、様々なことを勉強しなければいけない。『どうせ自分は死ぬのだから』と諦めてしまったら、片割れは『お空で待ってる』と言ってくれた人たちとの約束を破ってしまう。そんなの、どう考えてもハッピーエンドになるわけがない。

 少女は『“おはなし”はハッピーエンドで終わってほしい』と思っている派だ。勿論、現実もハッピーエンドになってくれたらいいなと思っている。だから今、自分ができることを精一杯やっているのだ。例えば、片割れのために美味しいごはんを沢山作ったり、ネットや書店から適当な問題集を引っ張り出してきたり、ユーモアの勉強のために動画を見たり。

 今回少女が勉強用のテキストとして用意したのは、ウィット――その場の状況に応じて機転の利く会話や文章を生み出す才能のことだ――に富んだ言い回しについて。日本ではお笑い芸人や落語家のような方面でしか使わないモノだと思われがちだが、政治家や軍人のような職業では、それを有しているか否かで状況が大きく変わってしまうことがあるとのこと。

 

 和をもって尊しというのは日本独自の考え方だけど、多国籍の軍で活動するとなれば、そういう役回りがいないと困るのは事実。

 数少ない部分を補える人間であるというのは大事だし、できることや特技は多い方がいい。

 

 

「あたしのオススメはこれだね! 『女王陛下のキス』!」

 

「クイーンエリザベス号とかしまの接触事故で、かしまの艦長が『女王陛下にキスされて光栄です』って言ったやつ?」

 

「『お互いの損傷が軽微でよかったね』って言った後のコレだよ!? あたしがクイーンエリザベス号の関係者だったら惚れちゃうね!!」

 

「俺、どっちかというと、『Made in Japanじゃないからこうなる』の方が好きかなぁ……。でも、あおちゃんが惚れるような言い回しも覚えとくよ」

 

「覚えといて損はないよ。くーちゃんが好きな女の子ができたら、こんな感じに口説いていけばいいんだもの」

 

 

 少女がえっへんと胸を張れば、片割れの少年は淡く笑う。

 

 

「大人になれるかも、好きな人ができるかも分からないけど」

 

「なれる! そしてできる! だってくーちゃんはあたしの自慢の弟だもん! 美人で可愛いお嫁さん連れて帰って来るよ! 天女みたいに素敵な人!!」

 

「……そっかぁ。そうだといいな」

 

「そうだよ! だから、今のうちから沢山頑張らなくちゃ! いざというときに口説き落とせなくて困るかもしれないでしょ!?」

 

「そうだね。じゃあ、頑張ってみる」

 

 

 何度も根気強く言い続けて、ようやく、少年はやる気を出したらしい。控えめな笑みはそのままに、少女が差し出した携帯端末の動画を見始めた。そんな片割れの横顔を見守りながら、少女は思いを馳せる。

 

 いつか来る未来で、最愛の片割れが、『空で待っている』と約束した友人たちや、片割れが見出した愛する伴侶を伴って帰ってくる姿を思い浮かべる。悲観的な言葉に押され気味ではあるけれど、片割れがひたむきに『頑張りたい』と願う理由なのだ。みんな素敵な人たちなのだろう。

 ならば、最高のおもてなしをしなければ。家の大広間から庭を見渡しながら、行きつけの和菓子屋で素敵な和菓子をたくさん買って、自分と弟の2人でお抹茶を立てて、お客さんたちに振舞うのだ。堅苦しい雰囲気じゃなく、お手軽に楽しめるような雰囲気にした方がいいのかもしれない。

 国内でも海外でも“写真映えするような見目麗しいものがウケる”と相場が決まっている。でも、見た目が地味だったとしても、和菓子の王様や重鎮と言われるような伝統的なものも出したいと思ってしまうのが日本人の性と常であって――ああ、考えなきゃいけないことは沢山ある。

 

 頑張る片割れと、片割れのベッドのそばにある窓から見える景色に視線を向ける。どこまでも真っ青な晴天が広がっていた。

 自分と片割れに待っている未来はどこまでも輝かしいものなのだと信じられる程に、綺麗な空が。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 コツ、コツ、コツ、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 その音を無視したのは“敢えて”であった。

 

 どん、どん、どん、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 その音を無視したのは“敢えて”であった。

 

 どんどんどん、どんどんどん、どんどんどん、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 ついに無視できなくなった■人は、ゆっくりと振り返った。

 

 

「■■■■■――――……」

 

 

 そこにいたのは、ついに得体の知れぬ言語を使い始めた化け物――自分たちと行動を共にする仲間の1人。

 

 閉じ込められたゾンビという西洋系ホラーゲームのギミックやシチュエーションに、日本産ホラーゲームに出てくるタイプの幽霊やクリーチャー――しかもラスボス――を配置したような光景が広がる。顔にはすでに生気はなく、虚ろな黒目は極限まで見開かれ、何かを訴えるような眼差しをこちらに向けてきた。彼は東洋人のはずなのに、顔も肌の病的なまでに真っ白になっている。

 車の扉を閉めているにも拘らず呻き声が漏れ出ているということは、扉を開けたらかなりの声量で呻いていることを意味していた。車の窓を叩き続けるその有様は、隔離されたゾンビと言っても過言ではない。尚、着物を着ていたせいで、彼の外見はジャパニーズホラー産の幽霊に成り果てていた。扉を開けた瞬間、アポカリプスレベルの災いでも起きそうである。

 

 日本文化の中には“オンリョウ”や“タタリガミ”なる概念があると聞いたが、肉眼で視認できるとしたら、丁度彼のような感じなのだろう。

 今は車内に閉じ込めるような形で封印されているが、帰投命令に従うためには車のドアを開けなければいけないワケで。

 

 

「……これ、本当に、封印(車の中)から解放し(出さ)なきゃダメなのかしら?」

 

 

 オッドアイの青年の背中に庇われていた銀髪の女性が、酷く怯えた調子で問いかけてきた。

 この場にいる全員は、彼女の問いに対する正しい答えを把握している。――把握は、している……のだが。

 『こんなやばいものを野に放つ真似ができるのか』と問われたら、みんな躊躇うだろう。

 

 

「……ダメみたいだな」

 

 

 紫の髪の青年は諦めたように目を閉じた。“彼に記憶と経験を託した張本人”だったらどのような反応をしたのだろうか――なんて考えたが、現実逃避にもなりはしない。

 

 

「「……ダメなんだろうなぁ」」

 

 

 双子の兄が天を仰ぎ、弟は額を押さえて俯く。<自分の愛する人たちが今この場に居合わせなくてよかった>という思念が流れてきたが、そこは自分も同意できた。

 仲間の1人が“こう”なってしまった原因の大部分を担っている身として、色々な方向に対して申し訳ない。

 

 

(――腹を括らなくては)

 

 

 男は大きく息を吐いた後、車のドアに手をかける。仲間たちに視線を向ければ、彼や彼女たちも腹を括ることにしたようで、鬼気迫る顔で頷き返した。

 ……いや、それしか道がなかったといった方が正しい。本当に悪かったと思っている。ジャパニーズホラーの恐ろしさを、自分が1番知っていたはずなのに。

 こんな形で一蓮托生になってしまうとは思わなかったが、致し方ない。ええい南無三――覚悟を決めて扉を開ける。

 

 

 

「■■■■■■■■■■――――!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛――――ッ!!」

 

 

 

 ――メイドインジャパンのホラーは、どの作品でも、何度目であっても、“夜明けを迎えても安心できない”と相場が決まっているのだ。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「軍に戻らなくてもいいのかい? 今頃大わらわだよ」

 

「ガンダムの性能が知りたいのだよ。あの機体は特殊すぎる」

 

 

 車外にテーブルを置いたビリーは、モニターを眺めながら一心不乱にキーボードを叩いていた。そんな彼とは反対側の席に座り、グラハムは天を仰ぐ。

 現在の時間帯は深夜であるが、あと数時間が経過すれば夜明けの時間帯に突入するだろう。人口灯から離れた荒野のためか、まばらながらも星が瞬いていた。

 

 グラハムはつい数時間前の出来事――AEUの軍事演習場に突如現れた謎の機体・ガンダムについて思いを馳せる。あのときの光景は、鮮明に、ありありと思い浮かんだ。

 

 

「戦闘能力はもとより、アレが現れるとレーダーや通信・電子装置に障害が起こった。すべてはあの光が原因だ」

 

 

 コツ、コツ、コツ、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 その音を無視したのは“敢えて”であった。

 

 

「カタギリ、あれは何なんだ?」

 

「現段階では“特殊な粒子”としか言えないよ。おそらくあの光は、フォトンの崩壊現象によるものだね」

 

 

 ビリーが操作していたパソコン画面には、様々な文字列が所狭しと並んでいる。彼は一端手を止めてコーヒーを飲み、再び画面に向き直った。

 コーヒーが注がれたマグカップの傍に、食べかけのドーナッツが2つ置かれていた。親友が差し入れで持ってきていた手作り品である。

 

 健康志向のドーナッツは、油分も糖質も既製品より大幅カットされていた。しかし、味は既製品と肩を並べるほどの逸品だった。

 

 どん、どん、どん、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 その音を無視したのは“敢えて”であった。

 

 

「特殊な粒子……」

 

 

 グラハムがそう呟いたタイミングで、車のエンジン音が聞こえてきた。音につられて視線を向ければ、1台の車が自分たちの前に近づいてくる。――迎えの車だ。

 

 

「粒子だけじゃない。あの機体にはまだ秘密があると思うな」

 

「――好意を抱くよ」

 

「えっ?」

 

「興味以上の対象だということさ」

 

 

 不敵に笑ったグラハムに対し、ビリーは目を丸くする。丁度そのタイミングで、迎えの者たちが車から降りてきた。

 彼から伝えられたのは、グラハム・エーカー、クーゴ・ハガネ、ビリー・カタギリへの帰投命令。

 

 

「その旨をよしとする!」

 

「ところで、ハガネ中尉は?」

 

 

 返事をして敬礼を返したグラハムとビリーだが、迎えの者からの問いかけに対して顔を見合わせた。

 

 ただでさえお互いの顔が鏡写しみたいなことになっているというのに、お互いの瞳にお互いの顔が映る。

 グラハムもビリーも笑ってはいたが、誰がどう見ても苦笑の類であった。こめかみから嫌な汗が流れ落ちている。

 

 どんどんどん、どんどんどん、どんどんどん、と音がする。背後からだ。

 具体的には、自分たちの後ろに停めた車から。

 ついに無視できなくなった2人は、ゆっくりと振り返った。

 

 

「■■■■■――――……」

 

 

 そこにいたのは、ついに得体の知れぬ言語を使い始めた化け物――クーゴ・ハガネ。

 

 閉じ込められたゾンビという西洋系ホラーゲームのギミックやシチュエーションに、日本産ホラーゲームに出てくるタイプの幽霊やクリーチャー――しかもラスボス――を配置したような光景が広がる。顔にはすでに生気はなく、虚ろな黒目は極限まで見開かれ、何かを訴えるような眼差しをこちらに向けてきた。彼は東洋人のはずなのに、顔も肌の病的なまでに真っ白になっている。

 車の扉を閉めているにも拘らず呻き声が漏れ出ているということは、扉を開けたらかなりの声量で呻いていることを意味していた。車の窓を叩き続けるその有様は、隔離されたゾンビと言っても過言ではない。尚、着物を着ていたせいで、彼の外見はジャパニーズホラー産の幽霊に成り果てていた。扉を開けた瞬間、アポカリプスレベルの災いでも起きそうである。

 

 日本文化の中には“オンリョウ”や“タタリガミ”なる概念があると聞いたが、肉眼で視認できるとしたら、丁度クーゴのような感じなのだろう。

 今は車内に閉じ込めるような形で封印されているが、帰投命令に従うためには車のドアを開けなければいけないワケで。

 

 

「……これ、本当に開放しなきゃダメかなぁ?」

 

「……ダメなのだろうなぁ」

 

「ダメなんでしょうねぇ……」

 

 

 ビリーとグラハムが苦笑いしながら顔を見合わせ、迎えに来た軍人が泣き出しそうな顔をして呟く。

 暫し沈黙していた3人であったが、帰投命令が出ている以上、このままでいるわけにはいかなかった。

 改めて、顔を見合わせて頷き合った後、グラハムが恐る恐るドアに手をかける。そして、意を決して扉を開けた。

 

 

 

「■■■■■■■■■■――――!!」

 

「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛――――ッ!!」」」

 

 

 

 ――メイドインジャパンのホラーは、夜明けを迎えたとしても安心できないものらしい。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 茜色に染まった空は、青空と違って、どこか神秘的な雰囲気を帯びている。光に目を細めながら、クーゴは風景を眺めていた。

 

 現在、クーゴたちは軍からの帰還命令に従い、移動している真っ最中だ。といっても、ジープで揺られて帰還するわけではない。ユニオンの輸送船に間借りする形となっているようだった。輸送船にはクーゴとグラハムの愛機が積まれていた。

 クーゴが5徹近い状態から解放された――眠っていた間に話はついていたようで、目が覚めたときには既に船内であった。グラハムとビリーが額に手を当てながら明後日の方向を向いているあたり、相当酷いものを見た/体験したらしい。

 何があったかを訊いてみたのだが、2人は『Made in Japanの底力を体験した』、『ジャパニーズホラーだからああなる』という言い回しをするだけで詳細を教えてはくれなかった。絶妙にはぐらかされている。あるいは誤魔化されてしまったようだ。

 

 

(睡眠時間が確保できるって、素晴らしいことだよな)

 

 

 クーゴはしみじみそれを噛みしめる。頭の中もはっきりしているし、体も軽やかに動かすことができた。もう“グラハムに振り回された挙句、連続で徹夜する”という地獄はこりごりである。

 そう考えつつ、クーゴはちらりとグラハムを伺い見た。彼は端末を見ては一喜一憂している。連絡先は件の少女だろう。グラハムの嬉しそうな横顔に、クーゴは毒気を抜かれてしまった。

 

 

(だから、結局、断れないんだよなぁ)

 

 

 己の甘さ加減にため息が出る。クーゴは苦笑した。気を紛らわすために、視線を別方向へと移す。

 

 相変わらず空が綺麗だ――そんなことを考えたタイミングで、端末が鳴り響く。

 エトワールからの連絡ではなく、軍部からの情報だ。

 

 

「セイロン島への武力介入……」

 

 

 ソレスタルビーイングのガンダムが行動を開始したらしい。AEUの軍事演習場でイナクトを派手に撃破したガンダムや、人革の機動エレベーター10周年記念式典で起こったテロを鎮静した別のガンダムらが、セイロン島へ向かって移動しているという。

 旧スリランカのセイロン島は、20世紀初頭から多数派のシンハラ人と少数民族派のタミル人がいがみ合いを繰り返していた。『紛争の平和的解決』というお題目で行われた人革連軍の介入もあって、その争いは泥沼化している。現在、あの島は事実上の無政府状態だ。

 人革連は少数派のタミル人に肩入れしている。その理由は多数あるが、1番は『島の地下を通る太陽エネルギーの安全確保』という点だ。セイロン島の勢力図は、少数派のタミル人が有利である。少数派が多数派を圧倒するための戦術は、大半がゲリラ戦であった。

 

 ソレスタルビーイングはタミル人とシンラハ人の民族紛争を“このタイミングで、武力介入してでも止めなければいけない”と判断を下したらしい。

 

 その決断が下されるまでの過程と武力介入の優先順位に興味はあるが、部外者には理解できないルールや基準が設けられていることだけは確かだ。

 戦争根絶のために武力行使を行う、矛盾した私設部隊。既存MSを軽くあしらって強さを示したこともあり、巷は彼らの話題で持ち切りである。

 

 

「――人革連の介入によって、セイロン島(あそこ)は無政府状態にまで陥ってしまった」

 

 

 状況整理はグラハムの静かな言葉によって締めくくられた。そうして、彼は窓から視線を逸らしてフラッグを見つめる。クーゴは彼の背中を見つめていた。

 

 少し前に情報整理がてら、ソレスタルビーイングの宣言を確認した。300年前に実在したイオリア・シュヘンベルグにより発足された、武力による戦争根絶という矛盾した理想を掲げる私設部隊。あの宣言が流れて以降、各国は必死になって彼の情報を集めているという。

 現時点で分かっている情報は数少ない。その中でもハッキリしていることは、“創始者は本気で戦争根絶を目指しており、その手段として武力を選んだ”ことくらいか。彼が何を考え、何を思い、どのような葛藤を経て、その答えに辿り着いたのだろうか。

 

 だってクーゴは《識っている》。数多の虚憶(きょおく)で、地球を侵略せんと現れた異星人たちの脅威を。人類側が武力を有していたから、奴らの侵略をどうにか退けることができたのだ。

 この地球が虚憶(きょおく)のような目にあった――異星種族との全面戦争が発生した――場合、ソレスタルビーイングの理想が体現された世界で生きる人類はその脅威に対抗できるのだろうか。

 ……まあ、そういう事態なんて、そうそう起きるわけがないのだけれど。流石に、ソレスタルビーイングの創始者もそこまで考えていないだろう。クーゴでさえ、あの虚憶(きょおく)は突拍子のないものだと思っているから。

 

 

「ソレスタルビーイングについて思ったことがあるんだけど、聞いてくれるか?」

 

「構わない。続けてくれ」

 

虚憶(きょおく)で見たけど、『異星人の来襲等が起きたとき、武力がなければ対応できない』みたいな話になってたよ。……そう考えると、奴らの掲げる“武力の根絶”は限りなく不可能に近いはずだ。むしろ、やったら人類が危ないことになる」

 

 

 クーゴの言葉に、グラハムとビリーが目を瞬かせた。

 

 

「確かに。キミや私の見た虚憶(きょおく)では、異種生命体が来襲していたな。金属生命体、インベーダー、バジュラ、ヒトマキナ、フェストゥム、イマージュ、宇宙怪獣、アンチスパイラル……挙げるだけで気が遠くなるようだよ」

 

「巷のSF小説もびっくりな光景だったよね。そんな脅威が現れたとき、武力を失った、あるいは捨てた人類は、どうやって対応するんだろう……」

 

 

 2人も、クーゴと同じように考え込む。あくまでも虚憶(きょおく)内の出来事なので何とも言えないのだが、未知との遭遇は考えられないわけではない。

 各国の代表陣営は皆、宇宙開発および進出にも意欲的だ。その下準備の開発戦争も水面下で行われているという。もしかしたら、そういう生き物と遭遇する可能性だってある。

 言葉が通じるのか、友好的かどうか、気になることは沢山あった。人類は宇宙生命体と、どんな関係を築いていくのだろう。浪漫溢れる話ではないか。

 

 尚、その浪漫は“敵対的な異星人と遭遇して全面戦争することになった場合の危険性”と比例しているのだが。閑話休題。

 

 とりとめのない話を終えて、また静かな時間が帰ってきた。

 幾何かして、グラハムは何かを思いついたらしい。通信を開く。

 

 

「キミ。キャプテンに言って、進路を変更してもらえないか。あと、フラッグの整備も頼む」

 

 

 グラハムの言葉に、クーゴとビリーは息を飲んだ。彼が言わんとしている言葉の意味を理解したためである。

 

 グラハムはあのガンダムに戦いを挑むつもりでいる。彼が戦いたいと願う相手は、AEUの軍事演習場に降臨したあの“天使”だ。イナクトを叩きのめし、その強さを派手に披露した青と白基調の機体。

 つい先日に開発された新型ですら倒されたのだ。イナクトよりも早い段階で開発されたフラッグが、ガンダムと戦えるかと言われれば「ノー」と答えが返ってくるだろう。ガラスに映り込むグラハムの瞳は本気であった。

 

 

「正気かい!? 無茶だよそれは!」

 

「熟知している。――だが、こうも言うだろう? 『無理を通して、道理をブチ破る』と!」

 

「そう言って、本当に“道理も摂理も運命もブチ抜いた連中”を《識っている》からなァ……。分の悪い賭けは、嫌いじゃない」

 

 

 慌てて止めに入ったビリーに、グラハムは諭すように笑いかけた。ぎらつくような新緑の瞳に、クーゴは苦笑する。

 クーゴは昔から、そういう()にどうしても弱い。夢を追うその横顔を見ていると、しょうがないなという心持になってしまう。

 グラハムの目がこちらを捉えた。「キミも来るだろう?」と言いたげな翠緑の瞳に、クーゴもゆるりと目を細めて頷いた。

 

 狼狽しだすビリーに対し、自分たちの心境は凪いだ水面のように静かな面持ちであった。しかし、その水面の底では溶岩が燃えたぎっている。相棒と顔を見合わせれば、互いに闘志は充分だ。入れ替わりに、これみよがしなため息が響く。出どころはビリーであった。

 

 「まったく、この2人は」――と、彼の双瞼は雄弁に語っている。わかっていて一緒にいるくせに、と、クーゴとグラハムもニヤリと笑ってみせた。ビリーは苦笑いをしたが、期待するような眼差しを向けてくれた。頑張って来い、ということだろう。

 そうと決まれば出撃準備だ。部屋へと戻り、パイロットスーツに身を包む。余計な装飾のない、シンプルな白いものだ。ヘルメットを被り、フラッグへと向かう。丁度整備も終わったようだ。調子は上々。クーゴとグラハムはコックピットに乗り込む。

 

 

「いました! ガンダムです!」

 

 

 船長の言葉に外を見る。AEUの軍事演習場で見た、白と青の機体だ。

 

 

「クーゴ、準備は?」

 

「大丈夫だ、問題ない!」

 

 

 発進準備は万全だ。カタパルトが開く。

 

 

「グラハム・エーカー、出るぞ!」

 

「クーゴ・ハガネ、出る!」

 

 

 2機のフラッグが空へと飛び立つ。大気を切り裂く勢いで、自分たちはガンダムへ向かった。

 特にグラハムはぶれない。まっすぐに、白と青基調の機体へと突っ込んでいく。必然的に、クーゴはフォローに回る。

 

 

<あの機体……ユニオンのフラッグか!?>

 

 

 通信越しから声がした。少しだけ低い、やや中性的な声だった。

 

 緑の粒子が飛び交っていたというのに、今回は通信不良が起きていないらしい。それはそれでラッキーだ、とクーゴは笑った。しかし、恐ろしい勢いで突っ込んでいくグラハムに気づいて、慌てて操縦桿を動かした。状況によってテンションが著しく高くなるところが、一定の相手からめんどくさがられる理由でもある。

 次の瞬間、グラハムのフラッグは空中で変形した。通常、フラッグを空中で変形させると相当のGがかかる。並大抵のパイロットがやれば耐えきれない。しかし、グラハムはそれを初めてやった男である。その技は人呼んで、グラハムスペシャル。命名はビリー・カタギリである。技誕生の瞬間、ビリーの言葉を聞いて吹き出したクーゴは悪くないはずだ。

 敵はそれに驚いたらしい。反応が鈍った青と白基調のガンダムに対し、グラハムは一気に距離を詰め、プラズマソードで切りかかる! 敵パイロットの判断は早い。ガンダムも即座に応戦した。装備されていたブレードが展開し、刃と刃がぶつかりあう。派手な火花が散った。

 

 

「はじめましてだなぁ、ガンダム!」

 

 

 通信機越しから聞こえたグラハムの声は、いつぞやの声とよく似ていた。

 脳裏をかけたのは、クーゴがエトワールと/グラハムが少女と出会ったときのことだ。

 

 グラハムは少女に話しかけるときは、いつもこんな感じだったとクーゴは思い出す。

 

 なんだろう。

 なにか、ものすごく嫌な予感がする。

 クーゴの予感は、次の瞬間に的中した。

 

 

<何者だ!?>

 

「私はグラハム・エーカー。キミの存在に、心奪われた男だ!」

 

 

 通信から聞こえたのは、いつぞやの再現である。

 クーゴの気が遠くなった。もちろん気苦労再現的な意味でだ。

 

 

「まさか、よもやこんな所でキミに出会えるとは。乙女座の私には、センチメンタリズムを感じずにはいられない。……それとも、光の粒子を出していなかったから見つけられたのか? ――おそらくは、後者だ!」

 

 

 1人でぶつぶつ話し込むグラハムであるが、現在進行形でガンダムと鍔迫り合いを行っている最中だ。実力はほぼ互角、いいや、グラハムの方が有利だとクーゴは思う。言動は色々とあれだが、伊達にMSWADのエースをやっているわけではない。

 しかし、次の瞬間、クーゴの予想は覆された。鍔迫り合いに勝利したのはガンダムだ。プラズマソードが宙を舞う。体勢が崩れたグラハムのフラッグに、ガンダムは追い打ちしようと刃を振りかざす。クーゴは即座に射撃でグラハムのサポートへ入った。

 ガンダムに当たれば儲けものだが、別に当てる必要はない。時間にしてコンマ数秒、相手の進路を妨害すればいいだけだ。そのコンマ数秒さえあれば、グラハムはすぐに体制を整えることができる。果たして、クーゴの意図通り、グラハムは態勢を整えた。

 

 敵がブレードを振りかざす。クーゴとグラハムが不敵に笑う。即座に操縦桿を動かした。2機のフラッグはガンダムの攻撃を易々と躱した。

 その隙を突く形で、グラハムのフラッグが肉薄する。伸ばした手は、ガンダムの装甲を掴んだ。

 

 

(あれ、この構図はどっかで見たぞ)

 

 

 脳裏に浮かんだのは、エトワールとのオフ会。少女を口説こうとするグラハムと、その手を払いのけた少女の姿だった。

 

 何故、そんな光景が浮かんだのかはわからない。

 気を抜いてはいけないというのに。

 

 

「!?」

 

 

 次の瞬間、レーダーがけたたましく反応音を出した。空の彼方から純白の機体が飛来する。AEUの軍事演習場で見かけた純白のガンダムだ。背中に大きな輪を背負った機体。それは寸分の狂いもなく、クーゴのフラッグに突っ込んできた。

 慌てて操縦桿を動かし、寸でのところで突撃を躱す。あと少し遅かったら、クーゴのフラッグは弾き飛ばされ、海面に叩き付けられていただろう。クーゴは突っ込んできた天女を見返す。天女は即座にガンダムの援護へ向かおうとした。

 いくらグラハムでも2対1は分が悪い。クーゴはリニアライフルの照準を天女に合わせた。先程グラハムを援護したのと同じように、この攻撃は別に当たらなくても問題ない。あの天女を足止めすることさえできればいいのだから。

 

 案の定、天女は軽やかに弾丸を躱していく。その動きが、何故かエトワールとよく似ているように思った。

 機嫌がいい彼女は、ステップを踏むような足取りでいたからだ。

 

 クーゴが天女を足止めしている間に、グラハムのフラッグは、ガンダムの装甲をもぎ取ろうとしていた。

 

 

「手土産に、破片の1つをいただいていく!」

 

<――俺に、触るな!>

 

 

 次の瞬間、フラッグはガンダムに、思いっきり振り払われた。

 やはり、この光景はいつぞやのオフ会、もといグラハムと少女のやり取りとよく似ている。――いや、そうではなくて。

 

 

「グラハム!」

 

「ちぃ!」

 

 

 クーゴの呼びかけに答えるかのように、グラハムのフラッグがリニアライフルを撃つ。

 クーゴもそれに続いてリニアライフルを撃った。ガンダム2機は易々それを躱した。

 

 青い方のガンダムが盾を捨て、懐から何かを取り出す。グラハムもそれに気づいたが、もう遅い。紫の光が爆ぜる。ガンダムは肉薄し、ビームサーベルを振るった。リニアライフルとビームサーベルがぶつかり合う。

 本来の用途とはかけ離れた使われ方をしたリニアライフルが、正しい用途で振るわれた近接武装に耐えられるはずがない。あっという間に弾き飛ばされてしまった。これで、グラハムのフラッグに搭載された武装は、牽制用の実弾しかなくなった。

 最早丸腰/無防備と言っても過言ではないグラハムを庇うようにして、クーゴのフラッグが躍り出る。もしもあの2機が追撃なんてしてきたら、間違いなくグラハムは()とされてしまうだろう。それは避けなくては。

 

 撤退戦。殿。戦いにおいて一番難しい戦術、および役割である。

 

 気が重くなるような言葉であるが、今は仕方がない。

 腰の鞘からガーベラストレートとタイガー・ピアスを引き抜き、二刀流の構えを取る。

 

 

「クーゴ!?」

 

 

 グラハムに名前を呼ばれたクーゴは笑い返した。

 

 

「鍛え抜かれた“ハガネ”は、そう簡単に折れやしないよ」

 

「しかし……!」

 

「『無理を通して、道理をブチ破る』って言ったお前に同意したんだ。これくらいするのが普通だろ?」

 

 

 当たり前のことを当たり前にしただけ――そう念を押しても、奴は動かない。グラハムが撤退するための時間を稼ごうとしているクーゴの意図を知っての狼藉だ。頑固すぎやしないか。

 親友の動きを見守るのと並行して、相手の出方を伺う。天使がこちらを追撃しようとしていたものの、天女に引き留められていた。

 

 しばし待つ。天使と天女は動かない。

 両者に、追撃の意思はなさそうである。

 

 

(それは余裕か、それとも気まぐれか。……どちらにしても、俺たちの完全敗北だ)

 

 

 クーゴは深々とため息をつく。それと呼応するかのように、2機のガンダムは高度を上げた。そのまま、空の彼方へと飛んでいく。

 天女がちらりとクーゴを見たような気がする。対して、天使はグラハムの方を見ていた気がする。2機の姿は遠く、遠く、地平線の向うへと消えてしまった。

 その後ろ姿は、やはりどこかで見覚えがあった。似ている。エトワールと少女が並んで歩く様子とそっくりだ。でも、どうしてそんなことを連想したのだろう?

 

 

「2人とも、大丈夫かい!?」

 

 

 ガンダムたちの姿が見えなくなって、どれくらい時間が経過したのだろう。ビリーから入った通信に、自分たちはようやく我を取り戻した。空は既に薄闇に包まれ、星が瞬き始めていた。

 クーゴとグラハムは返事を返し、輸送船へと進路を変えた。戦果は最悪、けれども命は持ったままだ。生きてさえいれば、リベンジチャンスはいくらでもある。そう言い聞かせないと、なんだかやっていられなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「いやはや、本当に予測不能なコンビだよ。キミたちは」

 

 

 ビリーがパソコンをいじりながら、クーゴとグラハムに生暖かい眼差しを向けてきた。まるで、近隣に住む悪ガキを見守る人みたいな口調だ。少々不服だが致し方ない。

 

 

「ライフルとプラズマソードを失った。始末書ものだな」

 

 

 グラハムは深々とため息をつく。誰も、好き好んで始末書を書きたがる人間はいない。

 クーゴだって始末書は御免である。始末書関係の大半は、グラハムの余波を喰らうことが多かった。

 

 

「その心配はないよ。今回の戦闘で得られたガンダムのデータは、フラッグ1機を失ったとしてもおつりがくる」

 

「待てビリー。その言い草だと『データさえ得られれば、パイロットは死んでもOK』ってことになるぞ。ユニオン軍はいつからブラック企業になったんだ?」

 

「手厳しいなぁ。そんなつもりで言ったんじゃないんだけど」

 

 

 クーゴのツッコミに、ビリーは苦笑いした。笑いごとではないとクーゴは思う。人員に関して、軍はブラック企業とよく似た側面があるからだ。志願者さえいれば、事実上、供給は無限にできる。多少パイロットが使い物にならなくなったとて、代用品はいくらでもいるのだ。

 世の中は世知辛い。いくらグラハムがエースパイロットであろうとも、彼と同等の人間は存在している。グラハムと同程度の実力者で、且つ、MSWADの座を狙う者もまた、(自薦他薦、および本人や周囲の主張の有無に関わらず)掃いて捨てる程いた。

 グラハム1人が抜けても、その痛手は軍にとっては「多少」のことでしかない。補充要員は「掃いて捨てる」程の中から選び出せばいいだけだ。もちろん、それはクーゴやビリーにだって当てはまる。一時期日本で『社畜』という言葉が流行(はや)ったが、さしずめこちらは軍畜と言えそうだ。

 

 しばし雑談に興じた後、グラハムは物思いにふけるようにフラッグを見た。

 

 

「それにしても若かったな。ソレスタルビーイングのパイロットは」

 

「話したのかい?」

 

「まさか。MSの動きに、感情が乗っていたのさ」

 

 

 グラハムはそう言ったが、ふと、何か思い至ったらしい。

 顎に手を当てて、付け加えた。

 

 

「……ただ、名前を訊かれたような気がしたんだ。パイロットに」

 

「ああ、それで名乗ったのか。だから会話が成立してたように見えたんだな。通信が聞こえてたから、てっきり会話してたんだと思ってた」

 

 

 クーゴの言葉に、グラハムとビリーは驚いたように目を見開いた。

 グラハムは考え込むように俯き、ビリーが慌てたようにして「待ってくれ」とクーゴに詰め寄る。

 

 

「あそこ周辺は、粒子の影響で通信機器は使えなかったはずだ。実際、データを分析しても、キミとグラハムの通信回路は異常が発生して、まともに機能していないんだよ?」

 

「え」

 

 

 なんだ、そのホラー。

 

 

「で、でも、俺、グラハムと会話できたけど」

 

「それか。キミが私以上に無茶なことをやらかそうとする気配がしたから、つい反応してしまっただけだな」

 

 

 思わず言い募るクーゴだったが、グラハムの否定によって道は断たれた。凍り付いたクーゴに、ビリーはデータを示して見せる。

 

 それを見る限り、確かに通信はまともに機能していなかった。しかし、機体の中にある記録から自分たちの発言を拾って、自分が聞いた通信内容と組み合わせる限り、間違いなく会話が成立しているではないか。

 何がどうなっているのだろう。通じていないはずの通信、それでも聞き取れた会話の内容、かみ合っているようで実はかみ合っていなかったグラハムとガンダムパイロット――或いはクーゴとグラハムのやり取り、会話内容すべてを聞いてしまったクーゴの耳。恐怖体験にも程がある。

 

 

「冗談じゃない。俺は霊媒体質になった覚えはないぞ!」

 

「僕だって怖いさ! オカルトは専門外だし! 連日徹夜明けのクーゴと同じくらい怖い!」

 

「俺の徹夜明けがなんだって?」

 

「なんでもないよ!」

 

「……もしかして、ニュータイプと似たようなものか?」

 

 

 慌てる男2人に対して、グラハムは何かを思い至ったように顔を上げてこちらを見る。その単語に、ビリーはハッとしたように手を叩いた。確かに、それなら充分、化学および科学でも説明できることだ。

 ニュータイプはこの世界で言う“超能力者”に近い。主な能力は未来予知である。しかし、中には、『通信を通さず、他者の会話や心情を聞き取ったり感じ取ったり、話しかける』ことができる者もいるらしい。

 もしかしたら、クーゴにもその“ケ”があるのだろうか。信じられないことではあるが、言われてみれば「そう」と言えるような体験をしていないわけではない。例えば、イナクトお披露目時におけるコーラサワーとのコンタクトとかだ。

 

 ケースが少ないため何とも言えないけれど、そこも視野に入れておくべきだろうか。

 虚憶(きょおく)保持者にして共有者(コーヴァレンター)でありながら、更にニュータイプの“ケ”があるなんて。

 

 軍部はますます、クーゴの持つ能力を解析しよう/クーゴの持つ能力を使おうと躍起になるだろう。これは身動きが取れなくなりそうだ。そもそも、クーゴという存在は、最後にどこへ行きつこうとしているのか。

 

 グラハムや仲間たちと一緒に空を飛べるなら、多少の窮屈は我慢できる。この日常が続くなら、きっと、自分はどんな状況にも耐えてみせよう。

 今の所は、(何故か)上司に気にいられているのと、仲間たち――主にグラハムとビリーが頑張ってくれたため、クーゴの『人並みの権利』は守られている。

 しかし、いつ状況が逆転するかわからないのだ。そうなった場合、クーゴは一体どうなってしまうのだろう。考えるだけで気が遠くなりそうだ。

 

 

(俺、近々人間を卒業する可能性が出てきそうだ)

 

 

 クーゴが深々とため息をついて頭を抱えたとき、不意に両肩を叩かれた。見上げれば、力強く笑う親友2人。

 

 

「何を考えているのかは知らないが、そんなに悲観することはないぞ。私はいつだってキミの親友だからな」

 

「そうだよ。キミが何になってしまっても、僕たちは最後まで親友だよ」

 

「お前ら……」

 

 

 不覚だ。および不意打ちだ。クーゴは思わず、泣きそうになるのを堪える。

 代わりに、クーゴは笑い返す。それを見た2人もまた、嬉しそうに笑った。

 

 そこへ、丁度いいタイミングで通信が響く。

 

 

「ガンダム、ロストしました」

 

「フラれたな」

 

 

 グラハムが肩をすくめて苦笑いした。自分たちも一緒になって、でも、別の意味で苦笑した。恋愛面で振り切れているときの彼のリアクションと同じだったためである。人の次はメカに恋するのか。

 次の瞬間、グラハムは端末を操作し始めていた。彼は件の少女と話題を共有するため、話題探しに必死になっている節がある。ちょっとした出来事から愛の言葉まで、メール内容の種類は様々だ。

 クーゴ自身の行方も心配であるが、グラハムの恋路も心配である。彼は一体どこへ行きつくつもりなのだろうか。大体の『たどり着きたい場所』はわかるが、方向性があれであった。つき合わされる少女のことも心配である。

 

 というか、少女の次はガンダムを狙うのか。

 こいつの恋愛観は一体どうなっているのだろう。

 

 

「グラハム。日本の諺には、『二兎追う者は一兎も得ず』って言葉があってだな」

 

「そんな道理、私の無理で押し通す! どちらもこの手にしてみせるさ」

 

 

 メールの送信ボタンを押しながら、グラハムは不敵に笑い返した。これはもう重傷である。

 ビリーは羨ましそうにグラハムを見上げていた。クーゴは息を吐いて窓へ視線を移す。

 

 空は闇に包まれていた。眼下には、街の明かりがぽつぽつと瞬いている。まるで地上の星のようだ。

 

 いつもと変わらない景色。だけれど、世界は動き始めている。どんな方向にまとまるかは知らないが、ソレスタルビーイング、およびガンダムの出現により、確実に何かが変わろうとしていた。

 明日はどんな景色が広がっているのだろう。一歩方向が変われば、この景色が荒野になっているかもしれない。もしくは砂漠か、あるいは世紀末よろしくな無法地帯か。クーゴは空へと視線を動かす。

 街の明かりにかき消されたせいか、星の姿はない。月も叢雲に隠されてしまい、姿を伺うことはできなかった。闇だけがぽっかりと口を開けている。果てもなければ道しるべもない空を、クーゴは厳しい眼差しで見つめていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 この世界に生きる誰もが、ソレスタルビーイングについてのことを調べ始めている。しかし、ガンダムの情報はヴェーダによってブロックされているため、並大抵の人間やハッカーでは得られないだろう。

 特に、創設者であるイオリア・シュヘンベルグについては皆無に等しい。21世紀のセキュリティおよびデータバンクは、24世紀の技術から見れば「在って無い」ようなものだ。というか、正直、24世紀のシステムも「在って無い」ようなものである。

 抜け穴なんてすぐに見つけられるし、いくらでも誤魔化すことは可能だ。自分たちが所有するコンピュータ、およびプログラムだってヴェーダと同クラスである。情報をいじるのはお茶の子さいさいだ。

 

 何せ、自分たちはソレスタルビーイングと対をなす存在。

 彼らと対抗できる力を有しているのは当然である。

 

 彼らの情報秘匿に協力するだけでなく、自分たちの秘匿にも精を出さねば。今日も状況をチェックする。サポートAIである女性はしばし情報を検索していたが、ややあって、穏やかに微笑んだ。

 

 

「今のところは問題ないでしょう。イオリアの関係者はみな死亡していることになっています。一応、貴女に関する情報も薄ら残っていますが、たどり着ける可能性は皆無だと思われます」

 

「うん。ありがとう、アプロディア。……最近休んでないでしょう? 今日はもう休みなよ」

 

 

 自分の言葉に、画面に映っていたサポートAIの女性――アプロディアはルビーレッドの瞳をぱちぱち瞬かせた。

 透き通った白い肌。カナリアイエローからスカイブルーまでのグラデーションを持つ髪がさらりと揺れる。

 彼女はふわりと微笑み返した。自分は大丈夫だ、と返すかのように。

 

 

「ふふ。お気づかい感謝します、マザー。そのお言葉に従い、この作業が終わり次第、今日はスリープモードへ移行します」

 

「そうしてくれると、私も嬉しいな」

 

 

 女性がにっと笑ったとき、アプロディアも情報をまとめ終わったらしい。

 

 

「イオリア・シュヘンベルグ、およびソレスタルビーイングについて調査をしている団体および個人の特定が完了しました」

 

「ありがとう」

 

 

 アプロディアから転送されてきたデータリストを見て、女性はふと目を留めた。その名前と存在に、酷く惹かれるものがあったからである。

 職業はジャーナリスト。国籍は日本。性別は女性。家族は弟が1人。経歴を見る限り、職業が天職と言えるような生き方をしている。無銘ではあるけれど、見所があった。

 

 住所を見る。日本の東京にある、中流階級レベルのマンション。そこは“ソレスタルビーイングのガンダムマイスター2人が拠点として使うために間借りする予定”の部屋がある場所であり、“自分たちの仲間が拠点として使っている”部屋があるマンションでもある。

 間違いなく両陣営のダブルブッキングが起こる。片方は自分たちの存在など知らないから別に問題はなさそうだが、片方にとっては顔なじみとの再会になるのだ。彼女ならたぶん大丈夫だとは思うが、果たしてどうなることやら。一応、連絡を入れておくべきか。

 女性は端末を操作した。連絡先は、件のマンションを拠点としている“同胞”たちへ。キーボードを叩く音が軽やかに響いた。文章を打ち終わった女性は、アプロディアにメッセージの転送とセキュリティブロックを頼む。アプロディアは2つ返事で頷き、直ちに実行してくれた。

 

 あとは、女性の動向を見守らなくては。ジャーナリストということは、世界の行く末を左右するような大物に突っ込んでいくこともある。

 

 自分の“同胞”の中から、職業柄ジャーナリストと関わりそうな面々を挙げていく。彼らにもメッセージを転送した。即座に既読のマークが点灯し、了承の返事が転送されてきた。

 アプロディアは何か懸念要素を発見したようで、「誠に勝手ですが」と付け加えてデータを指示した。そこに出てきた人間の名前を見て、思わず女性は顔を顰めた。

 

 

「アレハンドロ・コーナーと、その派閥に属する連中ね」

 

「ええ。彼らなら、何をやってもおかしくないと思われます」

 

「そっちはノブレスとリボンズたちを引っ付かせてるから、多少は止められると思うけど……最後は、手を下す必要が出てきそうね」

 

 

 派手なことは好きであるが、状況的にそんなことはできないだろう。そこが難しいところなのだ。

 

 女性はアプロディアに挨拶した。アプロディアも微笑み、挨拶を返す。画面の光がふっと消えて、あとは静寂だけが残った。

 さて、そろそろ自分も休むべきだろう。外を見れば、綺麗な星々が瞬いている。時計の針は深夜を指示していた。

 

 

「でも、誰も、気づかないだろうなぁ。そもそも、考え付くはずないよねー。……あの頃の関係者が――」

 

 

 星を見ながら、女性は呟く。

 遠い空の向う側にある何かをなぞりながら。

 いつかの想いを胸に抱えて、女性は星屑の夢を追い続ける。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ふんふんふん♪ ふふ~ん、ふんふ~ん♪」

 

 

 イデアの気分は最高潮だった。まるでダンスのステップを踏むかのように、軽やかな足取りで機動エレベーターへと向かっていた。

 対して、刹那は俯いたまま、黙々と歩いている。どことなく思いつめたような横顔に、イデアは足を止めて振り返る。

 

 彼女の気持ちはわからなくない。ミッション終了後に対峙したあのフラッグは、グラハム・エーカーとクーゴ・ハガネが搭乗していた機体であった。立場上、覚悟していたとはいえ、やはり現実は厳しく重たい。

 

 刹那は不愛想であるが、その心根はとても責任感が強い子だ。自分の犯した過ちを、自分で延々と責め続けている。そのためか、自己評価はやや低い傾向があった。自分は幸せになってはいけないと思っている。

 もし、自分たち――ソレスタルビーイングが世界に裁かれるときが来たら、彼女は抵抗せずにその断罪を受け入れるだろう。どのような責め苦に合おうとも、仕方がないと片付けてしまいそうだ。

 でも、『仕方がない』なんて言葉で片付けて(それで)いいのだろうか。イデアは古の“記憶”をなぞりながら考える。人とは違うからという理由で、生きる権利を奪われていい/諦めるしかないとは思えない。

 

 

「刹那」「お前は」

 

 

 イデアが言葉を紡いだのと、刹那が言葉を紡いだタイミングは同じだった。イデアは言葉を押しとどめ、刹那の発言を待つ。

 

 

「……どうして、“そうやって”いられるんだ」

 

 

 砂漠の大地を思わせるような眼差しに、イデアは緩やかに笑った。

 

 

「好きだからよ」

 

「好き?」

 

「ええ。クーゴ・ハガネ(あのひと)も、彼を好きになった自分も、そんな人に出会わせてくれたこの世界も、この運命すらも、この運命を選び取った自分自身も。それらすべてが愛おしい。むしろ誇らしいくらいだわ」

 

 

 イデアは空へと目をやった。そう、そんな世界に、自分は生きている。古の“同胞”たちが望んでも手に入れられなかった、この世界(ばしょ)で。

 “同胞”たちが夢見た場所とは違うかもしれない。ここは戦いと陰謀に包まれた場所だ。人々は憎み合い、殺し合い、争いを続けている。

 けれど、この惑星(ほし)じゃなければ、イデアはクーゴに出会わなかった。なんて素敵なことだろう。誰かと出会い、誰かを好きになれるだなんて。

 

 誰かを好きになることの素晴らしさや美しさを、イデアは知っている。それに触れられる幸せを、イデアは知っている。だから、それを自らの意志で手にすることができた自分が、何よりも誇らしい。

 

 イデアは自分の髪についた簪に触れた。これに触れるだけで、『クーゴがどんな気持ちで桜の簪を選んだのか』が伝わってくる。相手に喜んでほしい、相手によく似あうものをあげたい、と、どこまでもひたむきで真摯な想いだ。実物を見て、手にとって、妥協することなく選んでくれた。

 それは、グラハムが刹那に贈ったシェルカメオにだって言えることだ。オンラインショッピングで購入したとはいえ、『刹那に似合うだろう』、『刹那に喜んでほしい』という気持ちが強く強く伝わってきた。その想いに触れた人間が照れてしまうくらい、愛に満ち溢れている。触れてないのに伝わってくるあたり、相当惚れ込んでいることは明らかだ。

 

 

「嬉しいね。誰かが自分を想ってくれるのって。そんな人と出会わせてくれた世界が、より良い方向に変わっていくのって。そして、そんな――世界を変えられる力を、私たちが持っているって」

 

 

 歌うように言って、イデアは刹那の手を取った。刹那の困惑した感情が、掌から伝わってくる。

 どうか、選び取ってほしい。自分が幸せになる/グラハムを幸せにすることを、決して諦めないでほしい。

 

 刹那の首元へ手を伸ばす。金の鎖に触れた。それをゆっくりと前に出せば、件のシェルカメオが服の中から顔を見せた。天使は穏やかな微笑を浮かべている。まるで、すべてを赦すかのように。

 

 

「わからない」

 

 

 「“これ”でよかったのか、わからない」――刹那は、弱々しく呟く。悲痛な横顔から浮かぶのは、『手にしたものを失いたくない』という想いだった。

 大丈夫だとイデアは笑った。ただ静かに、刹那を見つめる。大丈夫。彼とこの子は、絶対に大丈夫だ。どんな痛みや悲しみが阻もうとも、乗り越えられる。

 2人が笑いあう光景を知っている。そこに至る道筋はわからないけれど、この2人なら。イデアは静かに頷く。刹那は目を伏せていたが、ややあって、小さく頷いた。

 

 彼女が頷くまで、長い葛藤があった。本当は逃げ出したいに違いない。でも、刹那は前を向く。絶対に、眼差しを逸らすことはない。

 そう、それでいい。イデアはふわりと微笑み、頷いた。刹那の決意は間違っていないのだと肯定するように、しっかりと。

 

 今日は本当に嬉しいことが続く。イデアは再び、鼻歌を歌いながら歩き出した。合流ポイントである人革連の機動エレベーターは目前だ。

 

 自動ドアが開く。ロックオン、ティエリア、アレルヤはすぐに見つかった。そのまま合流する。

 テーブルの上にはコーヒーが2つとノンアルコールビールが1本。どうやら、この3人が待ち時間を潰すために注文したもののようだ。

 

 

「おう、遅かったなお2人さん」

 

 

 ロックオンが笑いながら手を挙げる。

 

 

「死んだかと思ったぞ」

 

 

 ティエリアは冷ややかな眼差しでそう言い放った。仲間に対し、あまりにもひどい言葉ではないか。

 イデアはむっとして頬を膨らませたが、すぐに今日の出来事を思い出し、破顔する。

 

 

「ティエリア、ひどーい。でも、今日はいいことがあって機嫌がいいから、全部許しちゃう!」

 

「……僕には理解不能だ」

 

「はは。今日は一段と増して楽しそうだね、イデア」

 

 

 ティエリアとイデアのやり取りを聞いたアレルヤが苦笑する。イデアも悪戯っぽく笑い返した。

 

 

「そうよ。女の子は、恋や愛を知って、綺麗になるんだから。楽しかったなぁ、一時の逢瀬は」

 

「え」

 

「あ。アレルヤ、もしかして、誰か好きな子がいるの?」

 

『おい、どうする。完全に狙われてるぞ!? ……俺は退散するぜ。じゃあな!』

「ちょ、ハレルヤ!? 待って! ラスボスの真ん前に置いていかないで!!」

 

 

 ハレルヤに見捨てられてしまったアレルヤの脳内は、絶賛大パニック中だ。彼の頭の中に浮かぶのは、美しく長い銀髪の少女。

 成程、これがアレルヤの初恋の子か。イデアがニマニマ笑っていることに気づいたアレルヤは、更に慌ててしまったらしい。

 

 

「ま、マリーはとても優しい女の子で……」

 

「落ち着け! 誰が意中の子を話せと言った!? イデアに恋バナは危険だろうが!」

 

「あ」

 

 

 自らも被害者であるロックオンがストップをかけて、ようやくアレルヤは止まった。顔は真っ赤である。お願い追及しないで、と、灰色の瞳は悲鳴を上げていた。さて、どうしようか。後で根掘り葉掘りしてやろう。イデアはそう決めた。

 ティエリアは相変わらず冷たい眼差しをこちらに向けてくる。理解不能だ、と、彼はまた同じことを言った。ティエリアに春はまだ来そうにない。あと数年待たなければならないか。早く来ればいいのに。

 そんなことを考えていたら、ティエリアは刹那と話していた。と言っても、事務的な内容であるが。ティエリアは刹那が合流時刻に遅れた理由を問い、刹那はヴェーダにレポートを提出したことを報告する。

 

 そこへ、ボーイがやって来た。配膳の上には、牛乳とオレンジジュース。どうやらロックオンの奢りらしい。

 飲み物を受け取り、イデアはストローを咥えた。新鮮なオレンジの、素朴だけれど爽やかな味が口の中に広がる。

 

 雑談もそこそこに、自分たちはそれぞれ動き出す。次のミッションが始まるまでの、短いインターバル期間だ。ティエリアは宇宙へ戻り、イデアや刹那たちは地上で待機である。

 

 リニアに乗ったティエリアを見送り、待機場所へ向かう。

 世界を変える戦いは、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。




【参考及び参照】
『酒井光雄オフィシャルWEBサイト』より、『これは才能!とっさに面白く切り返すワザ』
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