問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

2 / 73
【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


まだ1stシーズン入ってなくて草ァ!!
0.クーゴ・ハガネと仲間たちの平穏


 

 巨大な隕石の上で、様々な機体が戦いを繰り広げている。隕石を落とそうと画策する2代目“赤い彗星(空っぽの器)”と、奴を止めるために暗躍していた元祖“赤い彗星”のぶつかり合いだ。

 

 自分たちが所属しているZ-BLUEは双方に振り回されたものの、“赤い彗星”たちの真意を知ったことで、元祖側と共闘するに至った。隕石落としに関わっていた関係者の一部も、元祖側へ味方する。

 どちらも同じジオン――赤い彗星の名を背負っている団体/人間のはずなのに、選んだ答えは正反対。二代目は永遠に繰り返される停滞を、元祖は未来へ進むための革新を選んだ。

 

 

「風神の次に、雷神と日輪の使いが続く! クーゴ!」

 

「了解、グラハム!」

 

 

 プリベンダー・ウィンドが搭乗していた機体――騎士をモチーフにしたMSに続き、クーゴとグラハムの機体が攻撃を仕掛ける。2人が乗っているのはつい最近ロールアウトされたばかりの試験機であるが、隕石の周辺で戦う数多のロボットたちに劣るようなモノだとは言わせない。機体性能の壁にぶち当たって頭を抱えるような時期はとうに過ぎ去っていた。

 グラハムの駆る可変型の機体――ミッドナイトブルーの指揮官機は、相変わらず無茶苦茶な機動力と変形を見せてくれる。スタンドマニューバを駆使して飛び回るという芸当は、技の生みの親であるグラハム以外だと一握りくらいしか出来ない代物だ。最も、グラハム率いる“太陽の勇者”部隊(たち)の必須技能であったが。閑話休題。

 クーゴもまたグラハムに続き、隊長の討ち漏らしを掃討した。敵機撃墜とパイロットの脱出を見届けたのと、突撃し続けていたグラハムがこちらへ舞い戻って来たのはほぼ同時。視線を向ければ、2代目“赤い彗星”の傘下についた量産機がグラハムを追撃しようとしているところだった。相棒の意図を察したクーゴは、即座に援護及び迎撃行動へと移った。

 

 

「グラハム少佐、クーゴ少佐! 援護します!」

 

 

 動いたのはクーゴだけではない。ウィンドも、クーゴとグラハムに援護してくれた。自分たちの攻撃を喰らった機体は爆散する。寸でのところでパイロットは脱出したようだ。

 

 破界事変と再世戦争の縁から秘密組織プリベンダーに所属することになったクーゴだが、最近は専ら『機体の無力化』や『討ち漏らしの掃討、及びトドメ役』を担うことが多かった。理由は単純明快、『グラハムとウィンドが前線での切り込み隊長を買って出るため』だ。

 グラハムとウィンドは、破界事変から再世戦争を共に駆け抜けた戦友同士である。クーゴがウィンドと共闘したのは破界事変のときで、再世戦争のときは敵対していた。その経験故に、ウィンドの実力はよく知っている。特に敵対していた再世戦争のときは、人間としての瀬戸際に立たされた相棒を助けてくれた恩もあった。

 

 互いに礼を述べあった後、ウィンドは別の新手と対峙する。グラハムもいつも通りの突撃っぷりを披露したため、クーゴは即座にフォローに回った。

 敵兵を的確に無力化、或いは撃破していくグラハムであるが、相手も引く気は無いらしい。捨て身覚悟でグラハムへと突っ込んでくる。

 

 

「っ、グラハム下がれ!」

 

 

 両者に割り込むような形で、クーゴは愛機を駆った。右手に小太刀、左手に太刀の二刀流――剣道における逆二刀の構えのまま突撃し、小太刀で相手量産機のサーベルを受け止める。敵機体のコックピットの位置は把握済みなので、敢えて関係のない場所を狙った。

 攻撃を切り払い、即座に突きに転じる。手ごたえを感じて離れれば、敵機が爆発した。際どかったが、パイロットは無事に脱出できたらしい。それを確認したクーゴはすぐさま指揮官機に視線を戻す。彼の機体に傷は無い。

 

 

「感謝するぞ、クーゴ!」

 

「そっちが無事でよかった」

 

<――革新者(■■■■■■)として覚醒したキミならば、人類はより良き方向へ進まなくてはならないことも理解できよう>

 

<それは誰かが強要することではない!>

 

 

 2人がほっと一息ついたときに《聴こえた》のは、2代目“赤い彗星”の《聲》。奴が対峙していたのは、同じ部隊に所属する“革新者”の女性だ。

 赤の他人が愛しの君を掻っ攫おうとしている気配を察知したのか、グラハムとその愛機が弾かれたように首を動かす。視線の先では、奴と女性が問答を繰り広げていた。

 

 

<それでは人類が持たないのだよ。私が見た未来では>

 

<それを変えるためにするべきことは戦争ではないはずだ! 未来を放棄したお前に、この世界を好きにはさせない!>

 

 

 2代目“赤い彗星”の決意は固く、彼女でもそれを解くには至らなかったらしい。きっとそれは、2代目“赤い彗星”側にも言えることだろう。

 奴は“革新者”として目覚めた彼女だからこそ、彼女のことを「自分のやり方の正当性を理解できる人間のはずだ」と考えていた。

 だが、先の言葉通り、2人は決裂。対話による未来を選んだ“革新者”の機体と、2代目“赤い彗星”――否、人の意志を集める空っぽな器に徹した紛い物がぶつかり合う。

 

 その死角から、“革新者”の女性を狙う量産機の姿が見えた。グラハムが目を剥くが、丁度そのタイミングで、彼女を狙っていた量産機が何者かの突撃を喰らって弾き飛ばされる。

 “2つの0”を冠する機体を守る様に現れたのは、革新者の相棒として共に戦場を駆けた/何度も戦場で相対峙した好敵手にして理解者――或いは“同胞”と呼ぶべき女性(ひと)だ。

 

 あからさまにグラハムはほっと息を吐く。彼の気持ちが分かるような気がして、クーゴも同じように息を吐いた。

 

 

「戦況は?」

 

「相変わらず混戦状態だな」

 

 

 グラハムの問いに答えたタイミングで、“革新者”/“2つの0”を冠する機体が元祖“赤い彗星”と入れ替わる。酷く似通った赤い機体/“赤い彗星”同士が向き合った。彼らの会話が《聴こえて》くる。

 

 

<結局、こうなったか>

 

 

 重々しく口を開いたのは、元祖“赤い彗星”の方だった。纏うプレッシャーも、抱えてきた想いも、並大抵のものではない。

 対して、次に口を開いた2代目“赤い彗星”は、どこか飄々とした――がらんどうな調子で返答する。

 

 

<並行世界間の同一人物は、基本的に『同じ世界に存在しない』そうですよ>

 

<だから、私とお前は『“赤い彗星”の座を賭けて戦う』と言うのかね?>

 

<『似た者同士は反発し合う』ということですよ>

 

<不快だな。お前のような男と同じにされるのは>

 

 

 己の感情をそのまま吐き出した元祖“赤い彗星”は、キッと眦をつり上げた。味方とはいえ、寒気を感じてしまう程のプレッシャーが放たれる。

 

 

<お前の出自の目星はついている……! だが、それとこの戦いは無関係だ! トレーズもゼロも手段はそれぞれだったが、共通しているのは『世界の未来を信じての戦い』だった!>

 

<それは私も変わりませんよ>

 

<違うな、2代目“赤い彗星”。お前は未来など求めていない!>

 

<――だから?>

 

 

 2代目“赤い彗星”が苛立たし気に元祖の方を睨んだ。先程まで軽々しい響きだった男の声に、ジワリと感情が滲み出る。

 他人の感情を詰め込むための器に徹して生きてきた男が見せた、生々しい感情。思わず零れてしまったのか、或いはそれを零した本人すら無自覚なものだったのか。

 それを目の当たりにした元祖“赤い彗星”は、意地悪く――けれどどこか安堵したような調子でヤツを挑発した。

 

 

<ようやく生の感情を見せたな>

 

<そうまでして私を怒らせたいか、元祖“赤い彗星”!>

 

<2代目“赤い彗星”! 人間を導く者は、人間でなくてはならない! お前のような存在に世界は渡せない! 私と共に、時空修復の人柱になって貰うぞ!>

 

 

 片や、世界を救うため、一時的に自分たちの敵になった壮年の男――元祖“赤い彗星”。

 片や、壮年の男に()()()()ために生み出され、巨大隕石を落とそうとする仮面の男――2代目“赤い彗星”。

 

 2つの赤がぶつかり合い、ビームサーベル同士が火花を散らした。両者共に機体性能・パイロットとしての技能はほぼ互角。勝利を掴めるか否かは、パイロット自身の想いや覚悟にかかっている。

 これはクーゴの個人的な意見だが、想いや覚悟は元祖“赤い彗星”の方が上だ。破界事変や再世戦争、或いは友軍たちや当人が語っていた“それ以前の戦い”で、人の想いに触れてきたためである。

 心の中に虚無を抱える2代目“赤い彗星”に、人の想いに触れて数多の奇跡を見てきた元祖“赤い彗星”が負けるはずがない。敵として、或いは仲間として、共に戦ってきたからこそ知っている。

 

 2代目“赤い彗星”は元祖“赤い彗星”に対して感情を露わにしており、知らず知らずのうちに、自分自身の振り回されている様子だった。そのためか、動きや言動に精彩を欠いてきている。勿論、それを見逃す程、元祖“赤い彗星”は甘くは無い。

 

 そうして、勝敗は決した。

 

 負けたのは、2代目“赤い彗星”が駆る機体。どこからどう見ても満身創痍なのだが、奴は諦めるつもりはないらしい。

 ふらふらとした軌跡を描きながら、奴の機体は隕石の中心へ飛んでいく。元祖“赤い彗星”もまた、奴を追いかけて隕石の中心へ向かった。

 元祖の機体が2代目の機体に掴みかかる。2代目は振りほどこうと藻掻くが、元祖によって抑え込まれてしまった。

 

 

「このままお前は、私と時空修復をやってもらう!」

 

「私が同意すると思うか、元祖“赤い彗星”? 私は人類の未来に対する覚悟がある。――そう、この生命を投げ出すだけの」

 

 

 2代目“赤い彗星”が駆る機体の動きがおかしい。それに気づいた2人の革新者が息を飲む。

 

 

「奴はまさか……!」

 

「自爆する気か!」

 

「ダメ! 特異点が揃わないと、時空修復ができない!!」

 

「そうまでして、この地球(ほし)を滅ぼしたいってのか……!!」

 

 

 それを聞いて声を上げたのは、“革新者”の女性を援護するような形で戦場を飛び回っていた“同胞”の女性だった。クーゴも思わず眉間に皴を寄せる。

 2代目“赤い彗星”がかたるモノは覚悟ではない。そんな高尚なものなんかじゃない。がらんどうだった器から滲みだしたのは、酷くねばついた感情だ。

 

 

「なんという執念だ……!」

 

 

 ねばついた感情の答えを言語化したのはグラハムだった。彼は苦々しい表情で赤い機体を睨む。再世戦争時代の頃の黒歴史を思い返していたのも、彼の表情が陰った要因なのかもしれない。

 

 周囲には『若気の至り』と弁明していたけれど、それで誤魔化し切れたとは思っていないだろう。勿論、グラハム本人もそれに気づいている。『互いの事情に協力し合うけれど、相手の事情に土足で踏み込む真似はしない』というスタンスがZ-BLUEに浸透しているが故に、誰もそれを掘り返そうとしないだけだ。

 でも、違う。グラハムが抱いていた感情(モノ)は、2代目“赤い彗星”のような狂気的なものではない。滅びに向かって邁進するためだけの、空っぽでがらんどうなものではないのだ。支離滅裂な愚行の奥には、何処までも一途で真っ直ぐな――それ以上に切実な、愛と祈りがあった。

 

 クーゴはそれを口に出そうとしたが、迫ってきた気配によって中断された。

 のっぴきならない状況であるにも関わらず、更に事態を混迷させるような輩が姿を現したためだ。

 

 

「何だよ、元祖“赤い彗星”。特異点が2人だってのに気づいていたのか」

 

 

 野次馬根性丸出しの調子でちょっかいをかけてきたのは、自分たちと敵対する異星人の総大将――ガドライト・メオンサム。奴は地球人――その中でもとりわけ元祖“赤い彗星”のことを侮っていたらしく、愉快そうに手を叩く。

 ガドライトの見立てでは、元祖“赤い彗星”の計画は失敗すると予測していたという。「決行したとしても中途半端に終わると思っていた」と語った異星人は、飄々とした調子で――それでも目は一切笑っていなかった――こちらを挑発する。

 Z-BLUEが特異点のことに気づいたのは、ガドライトがヒビキにちょっとしたヒントを与えたためだ。元祖“赤い彗星”がZ-BLUEを敵に回すような真似をしたのは、ガドライトから情報を開示されたから。奴はこちらに対して「感謝してほしい」などと言うが、それが皮肉であることは予想がつく。

 

 勿論、この場にいる誰1人として、ガドライトに感謝する者はいない。

 全員が厳しい眼差しで奴を睨んだ。一同を代表し、元祖“赤い彗星”が唸る様に吐き捨てる。

 

 

「ガドライト・メオンサム……! 貴様に感謝することなど、何1つ無い!」

 

「あ、そう……。――だったら、こういうのはどうだ?」

 

 

 ガドライトは一瞬真顔になったが、すぐに笑った。次の瞬間、隕石が恐ろしい勢いで加速し始める。しかも最悪なことに、阻止限界点の突破寸前。これが落ちたら、時空修復どころか地球が滅亡してしまう!!

 

 

「出てくる度に余計なことばかり……!」

 

「……自傷行為の是非は棚上げしとくけど、今は罵倒の方にしてくれよ?」

 

「こんなときまで手厳しくしなくとも良いじゃないか!」

 

「こんなときだからだよ、このおばか!」

 

 

 クーゴの指摘に何の意味が込められていたのかを、グラハムはきちんと《分かって》いたようだ。むっとした様子でこちらを睨む。後でフォローを入れておかなくては。いや、そもそも後があればの話だが――なんて考えている間にも、隕石と時空修復を取り巻く状況は悪化していった。

 時空修復を行う準備は未だに出来ていないし、隕石は加速を続けている。このペースだと、時の牢獄を破壊するよりも先に地球へ落下するだろう。2代目“赤い彗星”は時空修復を行うつもりはない。どう考えても八方塞がりだ。

 

 

「全ては無駄なのだよ、Z-BLUE。大人しく隕石を見送るがいい」

 

 

 2代目“赤い彗星”が得意げに笑う気配がした。しかし、奴の言葉に「はい分かりました」と答えるような人間などZ-BLUEにはいない。

 

 

「それでもっ! 俺は……俺たちはっ!!」

 

「ブライト!」

 

「……すまんが、みんなの生命をくれ……!」

 

 

 バナージとアムロが叫ぶ。仲間たちもみんな、モニター越しに顔を見合わせ頷き合うのが《視えた》。クーゴもまた、グラハムやプリペンダー・ウィンドらと顔を見合わせ頷き合う。

 それを目の当たりにしたブライトが、重苦しさを滲ませながら指示を出した。真っ先に返事をして飛び出したのはカミーユだ。Z-BLUEの面々も頷いて、即座に隕石の下部へと終結する。

 

 自分たちのすることなんて、とっくに決まっていた。

 

 

「ガドライト・メオンサム! 私もZ-BLUEも……そして、人類もお前の思い通りにはならない!」

 

「お、おい。まさか……」

 

「そのまさかだ!」

 

「――たかが石っころ1つ、■■■■で押し出してやる!」

 

 

 珍しく狼狽するガドライトに対し、ヒビキとアムロが言い切る。彼らの返答とZ-BLUEの行動に対して混乱したのか、それとも呆れていたのか――ガドライトの真意には触れられない。けれど、ガドライトは何もしなかった。食い入るようにして、大特異点となった隕石の運命を見つめる。

 

 

「無駄だ、Z-BLUE。大特異点は落ちるよ」

 

「そんなの、やってみなけりゃわからないだろ!」

 

 

 「運命は変わらない」と嘲る2代目“赤い彗星”に対して反論したのは、運命の名を冠する機体を駆る少年だ。彼の言葉を皮切りに、Z-BLUEは隕石を押し返す。文字通り、魂を燃やし尽くす勢いで。

 摩擦を受けた隕石と自分たちの機体が赤く発光する。Z-BLUEの仲間たちは誰1人として諦めてなどいない。伊達に、多元歴の地球に攻め込んできた侵略者を撃退してきたわけではないのだ。

 

 しかし、待てど暮らせど時空修復が始まる気配はない。しびれを切らしたアムロが元祖“赤い彗星”に訊ねるが、まだ準備が進まないようだ。

 

 準備ができない原因は、他でもない2代目“赤い彗星”である。奴はこの状況に置かれても尚、「時空修復に手を貸すつもりは一切ない」という持論を曲げなかった。このまま放置すれば自分諸共命を落とすと理解していても、奴にとっては他人事でしかない。何故なら――2代目“赤い彗星”は、自分自身の生死に対し、一切感心がなかったためだ。

 多くの面々からその精神性を糾弾された2代目“赤い彗星”だが、その精神性故に、彼や彼女らの言葉に心を動かされることはない。奴は自身の意見や見解を曲げることなく、「隕石さえ落ちれば、世界は正しい方向に進む」とまで言い切った。「そうすることで、自分自身の役目も終わる」とさえ。

 

 

「2代目“赤い彗星”!」

 

「!? これは――元祖“赤い彗星”の意識が流れてくる!?」

 

「互いにサイコ・フレームを搭載した機体に乗っていたのが幸いしたな!」

 

 

 涼しい顔をしていた2代目“赤い彗星”であったが、勝利への確信とその余裕は崩された。元祖“赤い彗星”が、双方の機体に搭載されていたサイコフレームを共振させ始めたためだ。

 

 

「私の意識を抑え込むつもりか! そうして、お前の望む世界に時空を修復するのか!?」

 

「私とお前は、人々の意志を集める器に過ぎない! 未来を決めるのは、この世界に生きる全ての人だ!」

 

 

 元祖“赤い彗星”の言葉は、2代目“赤い彗星”が生み出された理由そのもの。だけれども、元祖“赤い彗星”の出した答えは、2代目“赤い彗星”が出した答えとは真逆だった。

 『人の意志を集める器たれ』と望まれて生まれた2代目は、人々の意志を集める器――人類の総代として、「自分が世界を管理し、人々を導かなくてはならない」と考えた。

 『人の意志を集める器たれ』と願われていた元祖は、人々の意志を集める器――人々が持つ平和への祈りを体現する存在の1人として、困難に立ち向かう戦士たちの仲間として戦うことを選んだ。

 

 

「聞こえるかい? ミスター赤い彗星」

 

「トライア博士……!」

 

「博士、準備は!?」

 

「OKだ。何とか間に合ったよ」

 

 

 そう言って微笑むトライア博士は、元祖“赤い彗星”から色々と協力を打診されていたらしい。Z-BLUE陣営に所属しつつも、Z-BLUEを裏切った(ように振る舞った)元祖“赤い彗星”の計画を成就させるため、裏で手を回していたと言うのだ。

 

 

「こちらアスラン・ザラだ。■■■■■■■■■■と悪の組織から提供された■■ドライヴ、及びE■P-P■yon搭載型の■■ドライヴにより、■■粒子の拡散と■イ■ン波の出力強化は完了した」

 

「これで各コロニーの間は■■粒子とサ■■ン波で繋がったも同然だよ!」

 

 

 赤い服を着た軍人たちは、嘗てZ-BLUEの前身組織に所属していた者たちである。今回の戦いには同行していなかったけれど、別動隊として飛び回っていたようだ。

 運命の名を冠する機体に乗っていた少年がぱっと表情を輝かせる。彼の上官、或いは先輩に当たる軍人も、「後はお前たちに任せる」と言って激励してくれた。人類の未来を託してくれたのだ。

 他にも、地上では別の軍部が協力してくれたらしい。あちらも■■粒子の散布、及び■イオ■波の出力強化は完了していると言う。所属部隊も組織も何もかもを超越して揃えられた切り札が大盤振る舞いされていた。

 

 

「全ての人の意志を、■■粒子とサ■■ン波で繋ぐのか!?」

 

「無茶だ……! 幾ら■■粒子とて限界がある!」

 

 

 驚愕する2代目“狙い撃つ成層圏”。所属組織上■■粒子の詳細に詳しかった“革新者に寄り添う者”が、思わずといった調子で苦言を呈した。次の瞬間、トライア博士の通信に割り込みが入る。

 

 

「■イオ■波だって万能じゃないよ。でも、未来を望むヒトの意志は――ヒトの心を繋ぐ手段(もの)は、それだけじゃあないはずでしょ?」

 

「グラン・マ……!」

 

「1人や1つじゃ、限界なんてたかが知れている。だからみんなでやるんじゃないか」

「“革新者に寄り添う者”ー! 頑張ってー!」

「こっちも頑張るから、そっちも頑張ってよね! 僕らの妹分の結婚式がかかってるんだから!!」

「や、やめてください! 恥ずかしいから!!」

「いいじゃん。さっきから『ライルと結婚式挙げられますように』って思念波垂れ流しなんだし」

「そういう問題じゃないんですよ!!」

 

「隕石を押し返しに行くには間に合わなかった分、手助けさせてください!」

「チームトレミー、頑張って!」

「こんな形でしか力になれなくて済まない。だが、我々も出来る限りのことはさせて貰おう!」

「あっずるい! 俺も混ぜてくれよぉ!?」

 

 

 得意げに微笑んだのは、民間企業・悪の組織の女総帥(しゃちょう)。Z-BLUE及び私設部隊■■■■■■■■■■に所属しているクーゴの好敵手――及び、“同胞”にとっての指導者だ。

 彼女の後ろから激励を飛ばしてくるのは、悪の組織に所属する幹部たちだった。“革新者に寄り添う者”の同胞に当たる面々と、派遣社員であり■■■■■■■■■■公認の2ndチーム。

 

 

「隊長! 副隊長! 頑張ってください!」

「そちらで直接手助けができないことが無念ですが、我々も全力を尽くします!」

「副隊長ー! 戦いがひと段落したら鍋パーティーするって約束ー! 俺、楽しみに待ってますからー!」

 

「みんな……!」

 

 

 次に画面に映し出されたのは、自分たちと別行動をとっていた部下たちだ。Z-BLUEに合流することを選んだクーゴとグラハムの背を押してくれた戦友たち。彼らの中心で手を振るのは、クーゴとグラハムにとっての年上の親友――ビリー・カタギリだ。

 

 

「2人とも、絶対無事に帰って来てよ!」

 

「っ……! ――ああ……、ああ! 当然だ、我が友!」

 

 

 一瞬感極まったように息を詰まらせたグラハムだが、すぐに不敵な笑みを浮かべて頷き返した。

 

 

「敢えて言わせてもらおう! 『必ず帰還する』と!!」

 

 

 そう宣言した彼は、隕石へと向き直った。

 クーゴもそれに倣い、隕石へ向き直る。

 

 

「弟夫婦の結婚式を賭けられちゃ、ますます引くわけにはいかないな……! ヤンチャな義妹の願いを叶えてやるのも義兄さんの務めだ!」

 

「それでやる気になるのはどうかと思うなァ!」

 

 

 初代“狙い撃つ成層圏”に対し、2代目“狙い撃つ成層圏”がツッコミを入れた。双子の兄弟漫才は通常運転のようだ。話していることは場違いだけれども、そんな馬鹿話が出来る世の中を平和と呼ぶ。――それこそが、Z-BLUEが守ろうとしているものだった。

 「ヒトの心を繋ぐ手段(もの)は1つではない」と語った悪の組織総帥の言葉を肯定したトライア博士が微笑む。彼女は■■粒子やサイ■■波だけでなく、他の手段も用いたようだ。数多の世界が多元的に結びついたからこそできる、異世界同士の技術交流。その真髄が示される。

 フォールドクォーツを用いて作られた■■粒子の中継ステーション、“胡散臭いロボット”がため込んでいたZチップ――超高純度のDECによって生み出された精神波の領域、先の大戦で火星に残されていたZONEを用いた増幅アンプとスピーカー……文字通り、この世界の人類が持ちうる限りの手札が切られていた。

 

 集めた意志は、大特異点である隕石へと送られる。

 ここからが正念場だ。隕石を押し戻しながら、クーゴは仲間たちを見回す。

 

 

「“革新者”!」

 

「わかっている! ■■■■■バーストを使う!」

 

 

 アムロに名前を呼ばれた“革新者”が、間髪入れず機体の力を解放した。緑の粒子が吹き上がり、人々の意識をつなぐ空間が広がる。

 

 

「アルト、フォールドウェーブシステムを作動させろ! バナージ、カミーユ、俺についてこい!」

 

 

 アムロの指示を受けたアルトがシステムを起動し、カミーユが先陣を切ってアムロの元へと向かおうとする。

 だが、名前を呼ばれた2人の機体は体勢の制御に不安があるらしく、バナージが躊躇いを見せた。

 

 そのとき、アクエリオンを駆っていたアマタとガンバスターを駆っていたノリコが声をあげる。

 

 

「バナージ、EVOLの腕に捕まれ! 無限拳でユニコーンを支える!」

 

「カミーユくんはガンバスターに捕まって!」

 

 

 それを皮切りに、他の仲間たちも次々と動き出した。文字通りの総力戦。

 

 

「EVAのA.T.フィールドで壁を作ります! その間なら移動できるはずです!」

「ラムダ・ドライバも作動させる!」

「ヒビキくん!」「分かっています! ジェニオンのD・フォルトも全開で行きます!」

「蜃気楼のドルイドシステムで状況を分析し、最適なルートを算出する!」

「ゼロ、データを俺にも回せ。お前の計算とゼロシステムの予測を組み合わせれば、更に精度が上がるはずだ」

 

「みんな!」

 

「見てください! ネオ・ジオンのモビルスーツも隕石を支えようとしています!」

 

 

 ぱっと表情を輝かせたカミーユの傍にいたバナージが驚きの声をあげた。先程まで敵対していた量産型モビルスーツが、隕石を押し返そうとするZ-BLUEを手助けしに来たのだ。未来を諦めなかったZ-BLUEに感化されたのだろう。

 

 

「しかし、彼らの機体では、これ以上は……」

 

「地球が駄目になるか、ならないかなんだ!」

 

「やってみる価値はありますぜ!」

 

「お前たち……」

 

 

 しかし、援軍に加わった面々の様子を見てアムロが表情を曇らせた。そんなアムロに対して、ネオ・ジオンのパイロットたちは力強く笑い返す。

 呆気にとられたような声を漏らした元祖“赤い彗星”へも、同じように笑い返していた。

 

 

「『自分のやってきたことを棚に上げて』って言うのはナシですぜ、総帥」

 

「今なら俺たちも、総帥のやろうとしたことが分かります! だから……!」

 

「……すまん」

 

「――謝るくらいなら、最初から、こんなやり方をしなけりゃいいんですよ!」

 

 

 元祖“赤い彗星”の謝罪にクーゴが既視感を抱いたとき、割り込むように響いた声があった。元祖“赤い彗星”へ喝を飛ばしたのは若々しい青年士官で、彼の言い分(ド正論)も既視感がある。

 

 脳裏に浮かんだのは、再世戦争の頃に迷走していた相棒の姿。事実上の孤立無援状態で戦い続けていた仮面の男が、必死になって抗っていたときのことだ。精神的に追い込まれていた彼にとって『それしか選択肢が無かった』のは事実だが、それはそれとして当時の頃を『若気の至り』や『黒歴史』として認識している。

 クーゴや“革新者”の女性の奔走によって相棒は“還ってこれた”。その当初も、時間が経過した今も、彼は当時のことを申し訳なさそうに謝ることがある。その度に、彼の関係者がこぞって口にする言い分(ド正論)とほぼ同じだった。クーゴがそれに思い当たるのと、青年士官と同年代の面々が表情を輝かせて彼の名前を呼んだのはほぼ同時。

 

 

「お前も来てくれたのか!」

 

「当然だ! 総帥の無茶を止めるのは俺の役目だからな!」

 

「……そうだったな」

 

 

 年若い青年士官は、誇りと自負を持って堂々と言い切った。

 力強く微笑み返す副官の姿に感極まったのか、元祖“赤い彗星”の声が震えている。

 深い感動と感謝の念を感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 

「…………ふ」

 

「こんな状況で何笑ってるんだ」

 

「大したことではないよ。――元祖“赤い彗星”も、私と同じ果報者だと思っただけさ」

 

 

 柔らかな微笑を浮かべたグラハムの言葉に、思わずクーゴは面食らった。何か言い返そうとして口を開くが、結局言葉は出てこない。グラハムは上機嫌に笑うと、再び隕石へ向き直る。

 

 敵も味方も関係ない。永遠の停滞よりも、無限の未来を選んだ人々による総力戦。見ていると胸が熱くなる。クーゴはコックピットを仰いだ。隕石の表面が視界を占めていたが、視界の切れ目からわずかに宇宙が見える。自分の背中には地球があるのだと考えると、負けていられない。

 人々の心が大特異点へと集まっていく。このチャンスを逃すまいとするかのように、アムロがカミーユとバナージに呼びかけた。2人は頷き、サイコ・ウェーブでシャアをフォローする。次の瞬間、大特異点である隕石の周囲に緑の光が漂い始めた。光に触れたとき、たくさんの声が耳を打つ。頑張れ、負けるな、未来を、明日を――聞いているだけで力がみなぎってきた。

 

 

「感じる……。これが、全ての人たちの意志か……」

 

「不思議だ……。こんな状況なのに恐怖は感じない。むしろ温かくて、安心を感じるとは……」

 

「だが、この温かさを持った人間が感情を制御しきれず、自滅の道を歩んでいる……! ならば、より良き世界に導く指導者が必要になる!」

 

 

 感嘆の息を漏らすアムロと元祖“赤い彗星”を横目に、2代目“赤い彗星”は尚も抵抗する。しかし。

 

 

「わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!」

 

 

 アムロが語気を強めて叫ぶ。より一層、緑色の光が眩く輝いた気がした。

 

 

「感じろ。これが人の心の光……未来を望む力だ!」

 

「ぐっ!!」

 

「ララァ! 私を……世界を導いてくれっ!!」

 

 

 元祖“赤い彗星”の叫びに呼応するように、彼の機体が白い光に包まれる。

 まるで、機体の背中に白鳥の羽が生えたかのようだ。

 

 

『――世界を』

 

 

 誰かが微笑む気配がしたと思った瞬間、この場は緑色の光に飲み込まれた。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

「ああああああああああああああうわああああああああああああああああああああ!!」

 

「これが、人の心の光……!」

 

「見える、見えるぞ! ササビーの背中に、白鳥の羽がァァァァァ!!」

 

「よく頑張った。みんな、よく頑張ったよ……!」

 

 

 誰も彼も、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 

 歌が終わったカラオケボックス内は、男たちの嗚咽で満たされていた。1回歌っただけでこの有様だと先が思いやられる。

 この面々の中に、目的を覚えている人間がどれ程いるだろう。刃金 空護――クーゴ・ハガネは、泣きじゃくる同僚と部下と友人の顔を見回した。

 

 

「余韻に浸る気持ちはよく分かるけど、さっきの歌で見えた【ヴィジョン】で分かったことを忘れないうちにまとめておくんじゃなかったのか?」

 

 

 ヴィジョンとは、“あるとき突然、人間の頭の中に浮かび上がる映像、又は画像のこと”を指している。近い原理を挙げるとするなら、数百年前に発売されたレトロゲームに出てきた視界ジャックであろう。あれもまた、他者の視界を通じて、本来なら知覚できない場所の光景や情報を手に入れることが可能だった。

 ヴィジョンで見れる映像、或いは画像の具体例としては、“ヴィジョンを持っている人間の記憶および経験”や“思考回路の内容”であることが多かった。しかし、ヴィジョンを持つ人間がそれを見るためには、“ヴィジョンを有する人間が一定の行動を取る”必要がある。具体例としては、クーゴの“歌う”が該当した。

 だが、ヴィジョンを有する人間の中には、“自分が有するヴィジョンを他人に見せる”ことができる者もいる。その方法もまた、“ヴィジョンを有する人間が一定の行動を取る”――クーゴにとっての“歌う”行為が該当していた。視界ジャックが他者の視界を媒介にしたものなら、クーゴによるヴィジョンの共有は、歌を媒介にして行うものであった。

 

 ヴィジョンを他者に“共有させる”ことができる人間は【共有者(コーヴァレンター)】と呼ばれている。最近ではヴィジョン現象を使った意志疎通やシンクロ等の研究も行われており、特にデザインベイビーの分野などで期待されているらしい。。

 コーヴァレンターは2270年代に入って以降、突如現れ始めた。以後はどんどん数を増やしており、これからも増えていくことだろう。能力が発現する年齢や人種はまちまちで、胎児から90歳を超えた老人までの幅広さを持つ。いつなんとき、誰でも発現しておかしくない能力なのだ。

 

 しかし、この能力を発現する人間の中にも特殊なケースがある。

 

 

『感じろ。これが人の心の光……未来を望む力だ!』

 

『ぐっ!!』

 

『ララァ! 私を……世界を導いてくれっ!!』

 

 

 “自身がまったく見たこと経験したことのない記憶および経験や知識を、本人がそうと知らぬまま得てしまう”という人間がいる。先程クーゴが歌うことで《視る》ことができた光景――巨大隕石の落下を阻止するために、多種多様のロボット兵器たちや様々な世界の技術を結集して立ち向かった――もその1つ。“身に覚えのない記憶や学んだ覚えのない知識を有するという現象”は【虚憶(きょおく)】と呼ばれていた。

 虚憶(きょおく)の多くが有益な技術や情報であることが多いのだが、持ち主によってはその価値を理解することができず、持て余したり埋没させてしまうケースが多かった。他者との共有が可能だったヴィジョンに対し、虚憶(きょおく)は“第3者との共有は不可能”とされていたこともある。もっと酷い事情を挙げるなら、虚憶(きょおく)の内容が突拍子が無さ過ぎたせいで『精神障碍者』のレッテルを張られてしまったケースもあった。

 

 その後、2270年代に出現し始めた共有者(コーヴァレンター)の存在やその研究により、大きく改善するに至る。虚憶(きょおく)の持ち主がコーヴァレンターであるならば、彼や彼女らの持つ虚憶(きょおく)をヴィジョンとして出力し、共有させることが可能であることが明かされたためだ。

 

 クーゴが今、友人たちと一緒にカラオケボックスに来ているのにも、コーヴァレンターとしての力や有する虚憶(きょおく)が深く関わっている。

 

 クーゴが持つ虚憶(きょおく)は【多元世界】と呼ばれており、“異なる世界同士が不自然な形で融合し、そこで出会った人々が愛機(ロボット)を駆り、様々な侵略者から地球を守る”というものだった。そんな背景があるためか、多元世界の技術力は西暦2300年代のものよりはるかに上回っている。

 この虚億(きょおく)から情報を引き出すことができれば、自分たちの技術発展に使えるのではないか――そう判断したユニオンの上層部は、クーゴのコーヴァレンター能力と相性が良かったグラハム・エーカーとビリー・カタギリを中心とした人間たちで、“多元世界技術解析および実験チーム”を結成したのである。

 といっても、このチームに選ばれた面々はクーゴと付き合いの深い者たちばかりだ。年下の友人であるグラハム、年上の友人であるビリー、かねてから親交のあった部下ハワード、ダリル、アキラたちで構成されている。コーヴァレンター能力は、発信者が心を許している相手だと鮮明に残りやすい。それは、虚憶(きょおく)のヴィジョン共有にも当てはまるそうだ。

 

 

「「「「あ」」」」

 

 

 “多元世界技術解析および実験チーム”の面々は、慌てて端末を操作をする。しかしもう手遅れだ。

 

 

「あれだ! ネオなんとかっていう帝国の量産型MS! 機体名、何て言ったっけ?」

 

「フォールドクオーツを使って作ったのって、何の役割があったんだ? ……くっそ、これ以上何も思い出せない……!」

 

「エタニティ・フラットの意味わかる人いませんか? 俺、これしか覚えてなくて」

 

「『世界に人の心を見せなきゃいけない』って言葉しか覚えてません」

 

「ガドライト・メオンサムって異星人の名前しか覚えてないんだけど、これ何かに使える?」

 

「ララァって誰です?」

 

 

 歌が終わって数十秒。歌っている間中叫び散らしていた連中が、自分が叫んだ言葉の意味についてうんうん唸っている。

 大半の面々が、単語や人名の一部を覚えているだけだ。簡潔な説明文を覚えていられれば御の字である。

 

 

「2人の赤い彗星、赤い彗星の無茶を止めるのが役目、サイコ・フレームの共振、世界平和のための秘密組織プリベンダー、火消しのウィンド、日本神話における神の御使いが烏、ライトニング……」

 

 

 単語および簡易説明文の数と正確性では、グラハムの右に出るものはいない。

 

 

「大特異点、時の流れが止まることで永遠に未来(あす)が訪れないという時の牢獄、民間企業・悪の組織、仮面、……ぐっ、頭が!」

 

 

 グラハムが頭を抱えて唸る。どうやら、ヴィジョンを通して見た虚憶(きょおく)に振り回されている様子だった。

 こいつも悩むことがあるんだな、と、クーゴはひっそり失礼なことを考える。本人に知られたら、間違いなくむくれるだろう。

 

 

「常人とかけ離れた強い脳波を発する人間のことで、サイコミュ兵器を動かしたり、空間認識能力が高かったり、予知能力なんかが使えたりするやつ。一言で言い表す言葉があったはずなんだけど、何だったかな?」

 

 

 人によっては『物の名前は覚えていないが、どんなものなのか説明できる』者もいた。この中では、ビリーがそれに該当する。

 

 虚億(きょおく)をヴィジョンで共有させる場合、ヴィジョンの内容を正確に覚えていられるのは“コーヴァレンター能力が発動している間”らしい。

 時間が経過すればするほど、ヴィジョンで共有した虚憶(きょおく)の内容が薄れていく。クーゴの虚憶(きょおく)は、持って最長10分弱が限界だ。

 

 

「ハガネ中尉も、覚えてることがあったら書きだしてください」

 

「ああ。多分、俺が一番長く覚えていられる人間だろうからな」

 

 

 ハワードの言葉に従い、クーゴは椅子に座って端末を起動した。覚えている単語や対象物の説明を打ち込んでみる。

 虚憶(きょおく)の持ち主であるクーゴ自身は、コーヴァレンター能力でヴィジョンを共有した第三者よりも長く内容を覚えていられた。と言っても、15分持てばいい方だったが。

 

 あらかたその作業を終えた面々は、互いの端末にその情報を送信し合って情報を共有する。情報を組み合わせて整理するのは、今回は後回しだ。

 

 

「これくらいか。クーゴ、頼むぞ」

 

「お前、大丈夫なのか? 仮面で辛そうな顔をしていたが」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 グラハムがクーゴを見て頷く。他の面々も端末を打ち込む準備や録音機材の確認を終えたらしい。「もう一度歌え」と目で合図する。

 クーゴは頷き、カラオケ機材に番号を打ち込んだ。落ち着きながらも洒落た感じのイントロが流れ始める。テレビ画面には曲のタイトルが表示された。

 

 歌の出だしに合わせて声を出す。旋律に乗って、歌を歌う。

 

 脳裏に浮かんだのは、巨大な隕石での最終決戦。2つの赤い彗星が対面し、異なる目的のために火花を散らしていた。世界を超えて組織された遊撃部隊・Z-BLUEの面々は、人類の革新を信じた元祖赤い彗星と共に、赤い彗星たれと望まれた空っぽな器へと挑む。

 時間の流れが停止した永遠の牢獄などまっぴらごめんだ。自分たちはこんな時獄(じごく)の中で、永遠にまどろむことなど認められない。その想いは、2代目赤い彗星の虚無を打ち砕いた。けれども奴は諦めない。いがみ合う双子を宿す侵略者による乱入もあり、隕石は地球めがけて落下する。

 遊撃部隊は諦めなかった。彼らを応援する人々も、地球で生きる人々も、明日を手にしたいと願っていた。文字通りの総力戦。人の心の光が満ち溢れ、不可能を可能にしていく。その果てにある奇跡を、人々は目撃するのだ。

 

 

『――謝るくらいなら、最初から、こんなやり方をしなけりゃいいんですよ!』

 

 

 彼が若者だからこそ、壮年に足を踏み入れつつあった元祖“赤い彗星”へ突きつけることが出来た言い分(ド正論)。ネオ・ジオンの青年士官の名前は、何といったか。

 

 

『グラハム少佐、クーゴ少佐! 援護します!』

 

 

 自分たちより8つも年下だけれど、数多の戦場を駆け抜けてきた友人。秘密組織プリベンダーに所属していた同僚でもあり、コードネームは火消しのウィンド。

 本名はミリアルド・ピースクラフトだったけれど、Z-BLUEやプリベンダーの仲間たちからは別の名前で呼ばれていたはずだ。その名前は、何と言ったか。

 

 

『私の意識を抑え込むつもりか! そうして、お前の望む世界に時空を修復するのか!?』

 

『私とお前は、人々の意志を集める器に過ぎない! 未来を決めるのは、この世界に生きる全ての人だ!』

 

 

 元祖“赤い彗星”の言葉は、2代目“赤い彗星”が生み出された理由そのもの。だけれども、元祖“赤い彗星”の出した答えは、2代目“赤い彗星”が出した答えとは真逆だった。

 『人の意志を集める器たれ』と望まれて生まれた2代目は、人々の意志を集める器――人類の総代として、「自分が世界を管理し、人々を導かなくてはならない」と考えた。彼の名前は、何といったか。

 『人の意志を集める器たれ』と願われていた元祖は、人々の意志を集める器――人々が持つ平和への祈りを体現する存在の1人として、困難に立ち向かう戦士たちの仲間として戦うことを選んだ。彼の名前は、何といったか。

 

 

「シャア、こんなに綺麗になって……! 人類の革新を信じたアンタは、フロンタルなんかに負けるはずがない!」

「『人間を導く者は、人間でなくてはならない』か。深い言葉だよなぁ」

「そうだ! たかが石ころ1つ、押し出してやれ!」

「みんな頑張れ。文字通りの総力戦だ!」

「地上で待ってる人々の想いが伝わってくる……」

 

「ふふ。……いや、まさかキミと共に戦える日が来るとは。その喜びを、改めて噛みしめていただけだよ。――さあ行くぞ!」

 

 

 曲が終わった。興奮冷めやらぬと言わんばかりに、この場にいる全員が余韻に浸っている。その中で一際目立つのがグラハムだった。

 

 ヴィジョンを介して虚憶(きょおく)を見ているグラハムは、戦場を駆っているときのようにテンションが高くなる。本人曰く『自分を鼓舞するために、敢えて“そんな感じ”の物言いをしている』とのことだが、どこまでが真実かは不明だ。敢えて言うにしても、セクハラやコンプラ違反スレスレラインの発言も多々あるから心配であった。

 虚憶(きょおく)の余韻に浸っているグラハムは、時々クーゴに指示を出したり、誰かの援護に加わる旨を叫んでいることもあった。まるで、虚憶(きょおく)の中でも戦っているかのように。それと同じくらい、「人としてその発言はどうなんだ」と首を傾げたくなるようなこと――セクハラまがいの告白(?)――を口走ったりする。

 

 

『会いたかった……会いたかったぞ!』

 

『キミの視線を釘付けにする!』

 

『乙女座の私には、センチメンタリズムを感じずにはいられない!』

 

『この想い、今日こそキミに!』

 

『私たちは運命の赤い糸で結ばれているようだな!』

 

 

 クーゴが覚えている限りでこんな感じだ。敢えてだろうと本気だろうと、セクハラとコンプラ違反手前である。

 現状、グラハムがここまで危険な物言いを向ける相手――特に人間――はいない。

 故に、“虚憶(きょおく)が関わらなければ”問題が表面化する危険性は極めて低かった。

 

 

(このまま有耶無耶になってくれれば、平穏に過ごせるんだけど……)

 

 

 本題を忘れて頭を抱えている間に、それ相応の時間が経過してしまったことに気づく。

 それは他の面々も同じようで、端末に内容を記録することを忘れていた。

 

 自分のことをひっそり棚上げしつつ、クーゴは仲間たちへ声をかける。

 

 

「ところで、メモ取ったか?」

 

「あ」

 

 

 クーゴの指摘に、面々は慌てて情報をまとめていく。

 

 ダリルが唸り、ハワードが額に手を当て、他の部下たちが己自身の言葉に首を傾げ、ビリーが端末をいじり、グラハムが「ブシドー」という単語に頭を抱える。

 そんな彼らを眺めながら、クーゴは端末に虚憶(きょおく)で見た情報を覚えている限り記録していく。これが、軍事以外のささやかな日常光景。他にも穏やかな時間はあるが、クーゴはこの時間を気に入っていた。

 

 

(この時間が、長く続けばいいんだがな)

 

 

 端末をいじりながら、クーゴは口元に微笑を浮かべた。こうしている面々を見ると、この光景がひどく愛おしく感じるのだ。同時に、砂上の楼閣という言葉が脳裏をちらつく。

 和やかで平穏な光景だというのに、薄氷の上を歩くような心地になったのはなぜだろう。クーゴが己の心情に首を傾げたとき、頭の奥底に鋭い痛みが走った。

 

 断末魔の悲鳴。仲間の乗った機体が無残に爆ぜる。もがれた翼、割れた眼鏡、血しぶき。

 我が物顔で“アレ”が舞う。戦場を蹂躙するのは、天使を思わせるような白のMSだ。

 フラッグファイターとしての矜持も、大切な部下たちも、友人の心も、自分たちが愛した空も、すべて“アレ”が奪っていった。

 

 年下の友は、“アレ”を追いかけるために何もかもを捨ててしまった。その権化が、仮面の武士。

 年上の友は、裏切られた悲しみから走り出してしまった。その権化が、殺戮に特化した機械人形(オートマトン)

 

 

<――それが、この先にある未来。何もなければ訪れる光景>

 

 

 誰かの《聲》が《聴こえる》。声色的に、幼い少女のものだろう。それが誰かは分からないけれど、その声の主がクーゴに警告していることだけは理解できた。

 

 

<キミは、どうしたい?>

 

 

 その問いかけと共に、先程の光景が繰り返される。

 

 断末魔の悲鳴。仲間の乗った機体が無残に爆ぜる。もがれた翼、割れた眼鏡、血しぶき。

 我が物顔で“アレ”が舞う。戦場を蹂躙するのは、天使を思わせるような白のMSだ。

 フラッグファイターとしての矜持も、大切な部下たちも、友人の心も、自分たちが愛した空も、すべて“アレ”が奪っていった。

 

 年下の友は、“アレ”を追いかけるために何もかもを捨ててしまった。その権化が、仮面の武士。

 年上の友は、裏切られた悲しみから走り出してしまった。その権化が、殺戮に特化した機械人形(オートマトン)

 

 

(だめだ。そんなのはだめだ。そんなの、絶対にだめだ。だから――)

 

「クーゴ、顔色が悪いぞ」

 

 

 グラハムに名前を呼ばれ、はっとした。きょとんとした表情を浮かべる金髪碧眼の青年は、妙に子どもっぽい。

 

 

「今、虚憶(きょおく)が見えた。……内容があまりにも凄惨だったから、少し、精神的にキツくてな」

 

「なんと! それは一大事だ。今日はここで切り上げた方がよいのではないか?」

 

「心配するな、大丈夫だから。今見えたのも、覚えてる限り打ち込んでおく。何かの役に立つかもしれんだろ」

 

 

 大仰に驚き心配するグラハムを制し、クーゴは端末を操作する。思い出すのが正直苦痛であるが、断念するわけにはいかない。この虚憶(きょおく)が、誰かの明日を救うことに繋がるかもしれないのだ。突き動かされるようにクーゴは内容を記録していく。

 打ち込めるだけ打ち込んで、クーゴは次の曲を歌うために準備をした。これから更に喉を酷使するのだ、休憩や喉の痛みを抑える処置はしておかなければ。持参してきた自家製コーディアルを炭酸水で割ったものを飲み干す。イギリスから遊びに来た叔母が作り方を教えてくれたものだった。

 さっぱりとしたレモンの風味と心地よいエルダーフラワーの香りを楽しんだ後、クーゴは再び番号を打ち込んだ。周囲に目くばせすれば、仲間たちは頷く。マイクを持って立ち上がり、クーゴは再び歌い始める。

 

 そうして今日もまた、日常は過ぎていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 子どもの泣き声が響いている。双子として生まれた自分の半身。

 泣いているのは男の子。自分よりも後に生まれた、可愛い可愛い弟だ。

 

 

「いやだ、いやだよ」

 

 

 弟は選ばれた。“てんしさま”の代弁者に。それが嫌で、泣いていた。

 

 弟を選んだ“てんしさま”は、それを名誉なことだという。“てんしさま”の代弁者になれば、弟は元気になれるという。外を駆け回ることもできるし、病気で寝込むこともないし、空へ行きたいという夢だって叶うんだ、と。

 「そのためには、弟が大切にしている“おはなし”を、全部忘れさせる必要がある」と“てんしさま”は言った。弟は、“おはなし”を忘れたくないと泣いている。彼がその“おはなし”を大切にしていたことは、ずっと見てきたから知っていた。

 嫌がる弟を、“てんしさま”はむりやり連れて行こうとした。弟は必死になって抵抗する。吹けば飛ぶような頼りない体は、あっという間に“てんしさま”につかまってしまった。鳥の翼をへし折るが如く、“てんしさま”は弟の目を覆う。

 

 

「だれか、たすけて」

 

 

 弟のか細い悲鳴に、少女は飛び出した。“てんしさま”と弟の間に割って入る。

 弟を庇うようにして立った少女は、“てんしさま”を見上げた。

 

 

「弟を連れて行かないで」

 

 

 少女は、“てんしさま”から視線を逸らすことなく告げた。

 

 

「代わりに、あたしを連れて行って」

 

 

 姉の言葉に、弟は大きく目を見開いた。情けない声で自分の名前を呼ぶ弟に、姉は満面の笑みを浮かべて見せる。

 

 

「大丈夫。お姉ちゃんが、守ってあげる」

 

 

 弟に笑いかけた後で、少女は“てんしさま”に向き直った。“てんしさま”はしばらく少女を見下ろしていたが、妥協することにしたらしい。

 弟にかざしていた手を引っ込めて、少女を招き入れた。少女は躊躇うことなくそれに従う。“てんしさま”は祝福するかのように、少女へ手をかざした。

 少女は逃げなかった。ただまっすぐに、その祝福を受け入れた。それが何を意味しているか、知ったうえで――覚悟したうえで。

 

 

 

*

 

 

 

 ――この痛みを知るのは、ただ1人でいい。

 

 今も昔もこれからも、自分だけでいい。

 あの子には幸せになってほしいのだ。

 そのためならば、自分は何だってできるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「私はキミが好きだァァァ! キミが、欲しいィィィィィィ!!」

 

「貴様は歪んでいる……!!」

 

「やめないか、グラハム。彼女が困っているだろう」

 

 

 フラグが回収されたことが原因で、友人の恋愛に巻き込まれてしまうことを。

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、『グラハムフィンガー』の人ですよね?」

 

 

「勿論。コミュニケーションには難儀しますが、魅力的なデータの宝庫ですから」

 

「このファンネル、νガンダムのものを下地にしつつ、ファラクトやダリルバルデの武装の要素を取り入れてみたんです」

 

 

(……小隊長(あっち)の僕が現実だったら良かったのに……)

 

 

 自分と同じ“歌によってヴィジョンを共有させる共有者(コーヴァレンター)”であり、自分とは違う虚憶(きょおく)を有する人々と出会うことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

『たとえ貴方がうすらハゲになっても、皺くちゃになっても、この想いは変わらない』

 

『――愛しているわ、イオリア』

 

 

 己の能力に、数百年越しの“愛”が込められていたことを。

 

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難が始まるまで、もう少し時間がかかるようだ。




【推奨BGM】
虚憶/大特異点を押し返せ!:<Beyond The Time>『第3次スーパーロボット大戦Z 時獄編』
現実/歌を歌う:<Beyond The Time>『TM WORK』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。