問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
人の進化の可能性、というものに賭けた人々は大勢いる。
その結果が化け物同然という末路なら、何とも言い難いと言うのが本音であった。
「対話不能の種……」
「あれもまた、進化の形なのね。……到底認められるものではないけど」
“革新者”と“理想への憧れ”は険しい表情を浮かべて、嘗て人であったはずの化け物を睨みつける。
あれは人間であったとしても、2人の言うような対話は不可能だとクーゴは思う。ミューカスと同レベルというか、ミューカスよりも話が通じなさそうだというか、文字通り酷すぎるのだ。人間の中にある“人間を超えたい”という欲望を具現化した果ての姿。……“あの人”も最後にはこうなってしまうのだろうか。
コネクト・フォース全体としても、クーゴ・ハガネという個人としても、コーウェンとスティンガーの姿を許容することはできない。それは、“あの人”のやり方を許容することと同義だからだ。奴らは同じインベーダーだけでなく、ミューカスをも取り込んでパワーアップしようと試みている。
これ以上何をする/何になるつもりなのだろう。肥大したエゴと欲望が花開いた/実を結んだ結果だというなら、今すぐそれを駆除および伐採する必要がある。クーゴは周囲に視線を向けた。全員が同じ気持ちのようで、即座に戦闘態勢を整える。先程の戦いで疲弊しながらも、闘志はまだ折れていない。
それが自分たち、コネクト・フォース。
所属部隊や身分や立場を超えて集まった、人類を守る防衛隊だ。
「エゴを貫き通した挙句、文字通り『異形と化した』か……」
「どうした、グラハム」
厳しい顔をした彼の本名を呼べば、“武士道”がむっとしたように声を荒げた。
「だから、グラハム・エーカーは既に死んだと言った!」
「ああはいはい。で、“武士道”は、言いたいことがあったんじゃないのか」
クーゴに言われた、“武士道”は何とも言えなさそうに目を伏せる。奴らの姿に思うところがあるかのように、暗い影が落ちていた。
連想したのは、“武士道”が迷走に迷走を重ねていたときの様子だ。そこで、クーゴは彼が何に思い悩んでいるのかに合点がいく。
「お前は、こいつらとは違う」
クーゴは強い口調で言った。驚いたように目を見張った“武士道”が、クーゴを見つめていた。
いつの間にか通信を開いていた“革新者”も、力強く頷く。クーゴの言葉に続くように彼女は復唱した。
「クーゴ・ハガネの言う通りだ。お前は、あいつらとは違う」
“革新者”は表情を緩めた。彼女のことをよく知る者なら、それが“彼女が微笑んでいる”とすぐに気づけるような表情。
「お前は、ちゃんと気づけたじゃないか。ちゃんと立ち止まれたじゃないか」
「“革新者”……」
「そしてお前は、この道を――コネクト・フォースを選んだ。……だから、お前はあいつらとは違う」
「……そうだな」
“武士道”の声が震えた。仮面越しからでもわかるくらい、感情が表に現れている。泣き笑いに近いような、どこか安堵した顔。
彼は少しの間目を閉じていたが、すぐにインベーダーと化したコーウェンとスティンガーを睨む。口元には不敵な笑み。
ああ、こいつはそうでなければ。クーゴも笑う。そんな自分たちの隣に、ゼクスやクワトロ、ヒイロやアムロ、カミーユたちが並んだ。
先陣を切ったのは、ゲッターやゲッタードラゴンを駆る面々だ。彼らはインベーダーに深い因縁がある。ここで、全ての決着をつけるつもりのようだ。
コーウェンとスティンガーを守るかのように、小型のインベーダーが姿を現す。邪魔者の掃討は自分たちの得意分野だ。言葉にする代わりに、奴らに攻撃を仕掛けることでそれを示す。
戦いの火蓋は切られた。
世界最後の日。
笑うのは一体どちらなのか――それはまだ、誰もわからない。
◆◆◆
ミリアルド・ピースクラフトとトレーズ・クシュリナーダ――地球連邦を率いて戦いを挑んできた2人の大将を撃破し、これで世界が1つになるかと思われていた。だが、世の中はうまくいかないようにできているらしい。地球連合の疲弊を待っていたと言わんばかりに、このタイミングでインベーダーの群れが湧き出した。
ミリアルドとトレーズ対ZEXISの戦いにより、ミリアルドとトレーズ派の生き残りを中心とした地球連邦軍は疲弊してしまって戦力を派遣できない。“革新の名を冠する者たち”派に属する地球連邦軍は沈黙を保っており、インベーダーの侵略を黙殺している。多分後者は、インベーダーの襲撃を“ZEXISを疲弊させる手段”として使うつもりでいるのだろう。
勿論、ミリアルドやトレーズから未来を託されたZEXISに、インベーダーを放置するという選択肢はない。無謀と理解していても、進むしかなかった。――だが、諦めずに地球を守ろうと奮闘するZEXISの姿は、多くの人々に力を与えたらしい。雀の涙程の戦力をかき集めた地球連邦、超合集国などが周辺宙域で戦いを始めていた。
インベーダー側にもZEXIS側にも援軍が駆け付けたり、何者かに制御されたバジュラが乱入してきたりと、戦場はさらに混迷の道を辿っている。気を抜くことは許されない。
(――お前も、どこかで戦っているんだろうか)
先の戦場で遭遇した“武士道”のことを思い返す。
ミリアルドとトレーズが手を回してくれていたおかげで、旧フラッグファイターの面々は“あの人”の元から解放された。支配から『完全に脱した』とは言えない“武士道”の動向は掴めなくなってしまったが、旧フラッグファイターたちは『“治安維持部隊”の良識派を筆頭とした派閥に合流するつもりだ』と聞いている。
“武士道”が懸念しているのは、“あの人”によって私物化されてしまった“治安維持部隊”に残っている親友・ビリーのことだろう。“武士道”曰く、『ビリーは“あの人”から強い干渉を受けている人間の1人』らしい。他にも複数名の軍人が“あの人”の毒牙にかかり、当人に無自覚で玩具にされていると聞く。
『キミたちのおかげで、私は自分の願いを思い出すことができた。――故に今、ここにいる』
『散々迷惑をかけたことは百も承知。……その上でまた1つ、迷惑をかけることを許してほしい』
『いつ“壊れる”やも分からぬ身だが、それでも――この願いを抱いた以上、私は進むと決めたんだ』
『新たな扉を開けるために、最後のけじめをつける! もう少しだけ付き合って貰おう、少女!』
『いつ“壊れる”かも分からない身』と、“武士道”は言った。ある程度であろうとも、“あの人”の支配がまだ暗い影を落としている。
更に言えば、親友のビリーがまだ“あの人”の玩具として使い潰される寸前だ。“治安維持部隊”の良識派に寝返るには時期尚早と判断するのは間違いではない。
1つ確かなことは、“武士道”はこれ以上、ZEXIS――および“革新者”に害をなすことを望まない/戦うような事態にならないことくらいだろうか。
(――いつかお前が、“革新者”の名前をもう一度呼べる日が来るんだろうか)
そんなことを考えつつ、敵の掃討に励む。現状はZEXISに戦況が傾いているようだ。
「行けるぜ! 俺たちが押してる!」
「油断するのは早いよ、凱!」
「相手は想像を絶する宇宙の脅威だ。このまま終わるとは思えない」
「気を付けろ! 次元境界線が湾曲していく!」
渓とサンドマンの警告に応えるかのように、次元境界線が歪んでいく。それに気づいたマリンがこの場の異変を告げたのと、新手が姿を現したのは同時だった。
増援として現れたインベーダーたちはみな巨大だが、その中でもひと際巨大でグロテスクな見た目――人間の顔のようなものがついている――の個体が目を惹く。
「何てデカさだ! これまでの奴以上だぜ!」
「あいつがインベーダーの親玉のようね!」
ダンクーガの先輩後輩コンビ――忍と葵が眦を吊り上げると、ひと際巨体な個体がもったいぶったような調子でそれを肯定する。
解読不能の叫びをあげるだけだったインベーダーが人の言葉を介している事実に驚く中、声に覚えがあったゲッターチームの面々が目を見開いた。
コーウェンとスティンガー――ゲッターチームの関係者、早乙女博士と親交があった研究者たちだ。
奴らはゲッター線を悪用した結果、超大型インベーダーの1個体として合体したらしい。奴らはそれを進化と称し、膨れ上がった巨体を使ってZEXISをも取り込もうと画策していた。
「これが、ゲッター線を用いた進化だと……!? なんと悍ましい……!」
「いやいやいやいや、無理無理無理無理!」
「こんな進化、絶対お断りだっての! 取り込まれんのも然りだ!」
“仲良し3兄妹”は顔面蒼白で首を振る。さもありなん。人類とインベーダーが元は同じ種族だったのが、ゲッター線の影響で大きな差を持つことになったなんて聞いたら、誰だってそんな反応する。
だってそれは、『ゲッター線を浴び続けた人類はインベーダーになってしまう』ことと同義だ。――しかし、コーウェンとスティンガーの言葉に対し、真正面から否を唱えた人物がいた。
「たとえ、お前たちと同じ起源だろうと……! たとえ、ゲッター線を浴びたからだとしても! あたしたち人類は自らの意志で進化したんだ!」
渓の叫びを聞いた面々が、次々に彼女の言葉を肯定し、コーウェンとスティンガーの言葉を否定しにかかる。「ゲッター線の力に酔い、他人に寄生し、自分以外のすべてを攻撃するだけの悍ましい生き物――インベーダーは人類とは違う生き物なのだ」――そう訴える渓やZEXISの面々を見て、奴らは鼻で笑った。
コーウェンとスティンガーからして見れば、人類では“絶望の未来”を回避するには脆弱すぎるらしい。奴らにとっての理想像――或いは、奴らが考えた“絶望の未来”の回避法が、『人類がゲッター線を浴びてインベーダーに進化する』というモノだった。研究者の思考回路は一般人に理解しがたいと聞くが、それを実地で教えて貰えるとは思わなんだ。
だが、事態は更に悪化する。陰月が地球に向かって落下しようとしているらしい。コーウェンとスティンガー曰く、「陰月が地球に激突することが、アンチスパイラルの語っていたフェイズ2」とのことだ。インベーダーどもは陰月の落下後、人類が滅んだ後の地球に降り立って栄華を極めるつもりでいるのだ。黙って滅びを受け入れるわけにはいかない。
インベーダーを撃破して陰月の落下を阻止する――ZEXISが行動指針を打ち立てたのを見て、奴らが不気味な笑みを浮かべた。そうして、周囲にいたインベーダーと融合する。
「この圧倒的な力の前に、人間如きが勝てると思うな!」
「御託を並べる暇があったら来やがれ! 俺たちの進化が――生き様が間違いかどうか、その目で確かめてみろ!!」
高らかに笑ったインベーダーの親玉に対して、竜馬が成大に啖呵を切る。それを皮切りに、仲間たちは奴らに向かって挑みかかった。
世界最後の日。
笑うのは一体どちらなのか――それはまだ、誰もわからない。
◆◆◇
一定の人間が定期的に集まれるということは、本当にいいものだ。
(どの曲を歌えば、どの
クーゴは端末を開き、まとめられた情報を確認していく。今まで歌った曲と、それに対応して浮かんだ
命名はクーゴの意見を優先的に反映される形になっており、今回視た
『世界最後の日』という題名で差異があるパターンは、OE以外でZがある。OEではジオンの和平工作部隊オルトロス隊として活動後にコネクト・フォースという部隊と合流、および所属してインベーダーと戦ったが、Zでは独立部隊として承認されたZEXISの面々と合流し、協力してインベーダーと戦っていた。
類似の
例外はGgとGgOであり、こちらは多元世界云々とは毛色が違う。確か、“大きなシステムに異常が発生したため、それの修正を行うために、所属部隊および敵味方の枠を超えて結成された部隊が駆け抜ける”という内容の
エトワールが部隊の総指揮を執っており、様々なトラブル――主に素寒貧な懐事情――に見舞われながらもMSや戦艦の開発を進めて戦力を整え、時には“世界の異変に気付き、システムの支配から逃れた結果、孤立無援になってしまった面々”を仲間に加えて異変解決に奔走していたか。閑話休題。
「あいつら、何度見ても悍ましいな」
「流石に、あんな進化はゴメンですぜ……」
ダリルとハワードが苦い表情を浮かべた。
進化という単語には確かに浪漫がある。しかし、あのインベーダーに浪漫を感じるかと言われると、嫌悪しか感じない。何度見ても「どうしてこうなった」としか言えない存在だ。最後に2人の人間が文字通り融合してしまった姿は本当に酷かった。
インベーダーがゲッター線と深くかかわっていることは、
人革連は黒い噂の宝庫だと言われている。その噂の先鋒を行くのが、“超兵”と呼ばれる人間兵器らしい。詳しいことはわからないが、人体実験が必須であることは容易に想像がつく。もっとも、『軍部自体が黒い噂に塗れている』と言われたらお終いである。人のふり見てなんとやら、だ。
ユニオンやAEUでもゲッター線の研究は行われている。軍部だけでなく、民間企業レベルでも盛んであった。
そういう話を聞くたびに、クーゴはいつも薄ら寒さを感じていた。何か嫌な予感がしていた。口には出さなかったが。
(まあ、“インベーダーの誕生にゲッター線が関わってる”とくれば、なぁ)
人間であった頃の面影など感じさせない異形の姿。体に引っ張られるかのように、コーウェンとスティンガーらの言動からは、人間だった頃の名残は伺えなかった。インベーダーとして目覚めたときにはもう、彼らは人としての死を迎えていたのだろう。
彼らは自身の異変に気づいていたのだろうか。気づいていたとしたら、どうして立ち止まろうと思わなかったのだろう。科学者だったら、危険性を察知することだってできたはずなのに。――いや、科学者だからこそ、突き進んでしまったのだろうか。
「『好奇心は猫をも殺す、って言うからね」
「それは、研究者としての意見か? ビリー」
クーゴの問いに、ビリーは苦笑した。
「うーん……。分野違いだし賛同はできないけど、未知のものに対する探究心や好奇心はわかるかな。成果が出れば、尚更ね」
成果が爆発的なものであればあるこそ、人はそれに惹かれていくものだ。新しい論文や技術、政治家の手腕、例を挙げればキリがない。
しかし、成果が爆発的であるということは劇薬に等しいとも言える。ハイリスク・ハイリターン。世界を文字通りひっくり返してしまうだろう。
そのとき、ビリーが「そういえば」と手を叩いた。
「ゲッター線の研究してた軍事施設や企業が、根こそぎソレスタルビーイングの攻撃対象になったらしいね」
「ああ、声明が上がってたな。今すぐ研究を放棄しろって、全メディアを通じて警告してた」
「それを受けた大半の企業や軍事施設が放棄したみたいだけど、一部はまだ稼働を続けてるみたいだよ」
捨てるに惜しい研究だし、と、ビリーは呟くように言った。
停止したふりをして稼働している所もありそうだ。
そこも漏れなく武力介入の対象にするつもりなのだろう。これでまた、世界の変革に拍車がかかる。
(ソレスタルビーイングも、劇薬と言えるよな)
クーゴはひっそり、そんなことを考えた。彼らの武力介入によって、確かに世界は変わり始めてる。“歪みを修正するために戦う”と彼らは言うけれど、彼らの行動理念こそ大きな
彼らの理念が、彼らを破滅に追い込む要因になりそうな気がする。しかも、その破滅は“世界ごと巻き込んだ規模のものになる”可能性が高い。もし、ソレスタルビーイングが『己の理念で首を絞められる』日が来るとしたら――。
エレガントな男が3人並んでいた。彼は完全な勝利を手にするためなら何でもしたし、そういうとき以外は引きこもって表に立とうとしなかった。残る2人――ゼクスとトレーズとは正反対。
それ故に、彼は一番最初に盤上から引きずり降ろされた。2人の真意を知らぬまま、結果的に巻き込まれるような形で道化となっている。そういう意味では、彼を負かした人間は合計3人と言えよう。
(“優しい兄による、世界最大の茶番劇”か……)
そんなことを考えていたとき、通信が入った。ソレスタルビーイングがまた動き出したらしい。彼らは数か所に分かれて進軍しているという。
進軍ルートを考慮すると、そこはゲッター線を研究していると噂されている研究機関に行きつく。
「やっぱり、そうほいほいと凍結できなかったんだな」
ハワードが苦笑した。おそらく、該当場所はゲッター線の研究を放棄しなかった研究機関なのだろう。ソレスタルビーイングはそれを目ざとく見つけたのだ。どんな情報網を所持しているのか、本当に気になるところである。
出動要請が出る。ユニオン内にも、放棄を拒んだ施設があったらしい。クーゴたちは着替えるため、部屋を片付けて慌ただしく飛び出した。パイロットスーツに着替え、即座に自分の愛機に乗り込む。出撃準備は万全だ。カタパルトが開く。
そうして、ガンダム調査隊は空へ飛び出した。カスタムフラッグ2機とユニオンフラッグが空を翔る。仲間たちからの通信が入った。
「こんなに早く、リターンマッチのチャンスがくるとは思いませんでしたよ!」
「隊長! 副隊長! 今度こそ、ガンダムにリベンジです!」
「そうだな。我々は本当に運がいい。幸運の女神が微笑んでくれている」
ハワードとダリルの言葉に、グラハムは感慨深そうに頷いた。彼の声も、表情も、お目当てのガンダムに会えるかもしれないという期待に満ち溢れている。
……果たして、笑ったのは本当に“幸運の女神”なのだろうか。クーゴからしてみれば、貧乏神と死神が不気味な笑みを浮かべているようにしか思えない。
しかし、楽しそうに語るグラハムたちの様子を見ると、口に出すことは憚られた。こういうところが、『貧乏くじ同盟』の歌詞に「わかるわかる」と言ってしまう所以であろう。
元日本人は辛いよ。
そして副官は辛いよ。
だったら辞めりゃあいいじゃん、なんて声が聞こえてきそうだが、それは反対である。この場所を失うのだけはもっと嫌だ。
「副隊長?」
「何か気になることでも?」
「なんでもない」
ハワードとダリルから心配そうな通信が入る。クーゴは苦笑しなが返した。
もうすぐガンダムの襲撃地点。気を引き締めるように、と告げて、クーゴは操縦桿を動かした。
既に施設は襲撃を受けた後らしく、遠くから黒煙が漂う。仕事を終えたとでも言うかのように、2機のガンダムが空を飛ぶ。
白とオレンジ基調の可変機型ガンダムと、白と緑基調のスナイパー型ガンダムだ。今回は、グラハムの追いかける天使――白と青基調のガンダムはここに来ていないらしい。
グラハムは落胆したように息を吐いた。が、曇った表情はすぐに不敵な笑みへ変わる。機体が違っても、敵がガンダムであることに喜びを感じているかのようだ。
「たとえこの場にキミがいなくとも。仲間を
グラハムの言葉に、クーゴは頭を抱えたくなった。ポジティブシンキングにも程がある。
しかし、グラハムはガンダムという存在そのものに恋をしているらしい。大本命が白と青基調のガンダムだとするなら、その他は「賞賛と好意に値する」存在ということか。
そう考えると、『グラハム・エーカーがハーレムを作ろうとしている』という疑惑が湧き上がってきそうだ。クーゴには弁明の余地がない。弁明できる人間がいるならヘッドハンティングしたいくらいだ。
<任務完了。今回、スターダスト・トラベラーは出てこなかったみたいだね>
<余計な邪魔が入らなかったんだ。いいことじゃないか。……いや、スターダスト・トラベラーより厄介なのが来たぞ!>
声がした。若い男の声が、2人。ガンダムのパイロットだ、と、クーゴはすぐに合点が言った。通信は開いていないはずなのに、どうして声が聞こえるのだろう。
認めたくないのだが、やはり、クーゴにはニュータイプの“ケ”があるのだろうか。人間卒業までのカウントダウンが聞こえた気がして、首を振ってそれを振り払った。
しかも彼らの声、どこかで聞いたことがある。確か――ブリタニア・ユニオンとAEU特務隊OZの合同作戦で、自分たちは初めて、ソレスタルビーイングの全ガンダムと対峙した。
そうだ、
彼らとは、そこで初めて対峙した。
現実では、この場所で初めて対峙した。
口をついて歌が零れる。旋律が響く。次の瞬間、クーゴの世界は一変した。
◇◇◆
二大国家――AEU特務部隊OZとブリタニア・ユニオンの“ガンダム追っかけ”が率いる部隊。
今回の作戦メンバーを考えると、その言葉がしっくりきてしまうのは何故だろうか。
操縦桿を握り締めながら、クーゴはそんなことを考えた。
AEU特務部隊OZから派遣された部隊の総大将は、ライトニングバロンと名高いゼクス・マーキスである。彼の副官として配属されたルクレツィア・ノインは、ゼクスとは旧知の仲で、所謂ツーカーの間柄らしい。ただし、彼らはグラハムと少女のような恋愛関係ではないようだった。
グラハムが生温かな眼差しを向け「キミも頑張れ(超要約と意訳)」と言っていたけれど、そのアドバイスは見当違いだったのではなかろうか。ゼクスとノインは意味を理解していないようで、顔を見合わせて首を傾げていた。息ぴったりでお似合いだとは思うが、本人たちにその気がないなら仕方ないだろう。
話が大幅に逸れてしまったが、自分たちは現在、テロリスト狩りに来ていた遊撃隊の裏部隊を襲撃するため現場に急行している。ゼクスとノインが率いる部隊とは、現地で落ち合う予定となっていた。合流ポイント到着まで、あと数分。ガンダムたちとの戦いも近い。
(しかし、よく考えると、ガンダムっていっぱいいるよな)
コロニー製のガンダムが4機、ソレスタルビーイング製のガンダムが5機。確認されているだけでも、世界には9機のガンダムが存在していることになる。他にも脅威となりうる機体は沢山いるが、自分たちが中心に追いかけているのはガンダムであった。
しかし、なぜだろう。何とも言えない嫌な予感がする。もしもこの先、万が一、ガンダムという機体の数が増えるようなことが起きたら、確実にゲシュタルト崩壊しそうな人間が
AEUの軍事演習場でガンダムの降臨/蹂躙を目の当たりにしてから、彼はあの機体に魅入られてしまっていた。その結果が現在の有様である。
普段はまだいい。戦闘中がまずかった。すさんだ心に武器は危険だと言われているが、『グラハムに意中の少女』もしくは『グラハムにガンダム』も充分危険な組み合わせだとクーゴは考えている。居合わせた人間の気苦労的な意味で、だ。
クーゴの頭と胃に鈍い痛みを感じたのは、緊張しているからという理由だけではなさそうだ。出所は分かっている。精神的なものだ。これからストレスフルの戦場に飛び込むのだから、気を引き締めなければやっていられなかった。
自分たちの後ろにダリルとハワードが続く。その少し後ろには、ブリタニアが派兵した機体が続いていた。現場に到着する。ゼクスたちの部隊とほぼ同じタイミングで、遊撃隊たちの前に現れた。両勇共に準備は万全であった。通信は良好とは言い難いものの、作戦のすり合わせはとうに終えている。
あとは、作戦を始めるだけだ。
偶然を装って、遊撃部隊もろともガンダムたちを撃破するのみ。
「まさか、我々がAEUと合同で作戦に当たるとはな」
「今回の任務は特命だ。複雑な事情があるのだろう」
意外な展開に、ダリルが感慨深そうに呟いた。ハワードは任務の裏にキナ臭さを感じたようだが、そこについては言及しないことを選んだらしい。
対して、グラハムは色々な意味でテンションが高かった。目を爛々と輝かせ、僚友と敵部隊を確認する。
「僚友はライトニングバロン、敵はガンダム……。心躍るな」
「ただし、黒の騎士団やゲッターロボ、ブラスタ、レッドショルダー等にも注意すること。要は気を抜いたり、むやみな単騎突撃は控えろってことだ」
「わかっていると言った!」
クーゴの指摘を本当に理解しているのかはわからないが、グラハムは不敵な笑みを浮かべて返答する。翠緑の瞳には一切の迷いはない。あの日、AEUの演習場で降臨した青と白基調のガンダムへ向けられていた。
AEUとの協力作戦を通してしまっただけでなく、作戦とはいえブリタニア・ユニオンの領土であるエリア11――旧国名:日本への『侵入』までもを許可させたトレーズ・クリシュナーダの手腕は驚嘆に値する。
ゼクス曰く、『トレーズは魔法を使った』らしい。クーゴもそれに同意見である。見返りとして払ったカードは何だったのだろう。詳しいことはゼクスでも知らないようだし、トレーズ本人も黙して語らなかった。
「すべては仕組まれた計略……」
クーゴはふっと笑みを浮かべた。他人から見たら、これ以上ない悪い笑みだったろう。
時代劇で私腹を肥やしていた悪代官も、こんな気持ちだったのだろうか。
そんなクーゴに触発されたのか、グラハムとゼクスも頷き返した。不敵な笑みを更に深くして、言葉を紡ぐ。
「だが、これはあくまでも偶然の遭遇戦」
「エリア11内での特別演習に参加した
「――よって、それぞれに賊を殲滅すべく、部隊を展開させたという筋書きだ」
改めてグラハムとゼクスの言葉から考えると、悪意に満ちたシナリオだ。エレガントを地でいくトレーズからは想像できない展開である。
いいや。案外、彼は彼なりにけじめと覚悟を背負って、この脚本を描いていたのかもしれない。もしくは、誰かからこの脚本を譲り受けたか。
だが、敵はそれを看破したようだ。即座に
トレーズもそこは見越しているだろう。だったら話は早い。クーゴが操縦桿を握り締めたとき、敵部隊の会話を拾い上げた。
どうやら、彼らは己を囮にして(主に軍事力を有する陣営に対する)敵味方の判別をしていたようだ。釣られてくれた、と、彼らは不敵に笑っている。
そんなことはこちらも承知だ。互いが互いにとっての釣り餌であり、獲物である。釣ったのはどちらか、釣られたのはどちらか。
「確かめさせてもらうぞ、ZEXIS!」
ゼクスが搭乗する機体――獅子座の名を冠するMS・リーオーが唸りを上げる。
「キミたちが私の想いを受け止めるに足る存在であるかどうかを!」
グラハムが搭乗するユニオンフラッグが空を舞う。
クーゴの注意などなんのその、彼は迷わず白と青基調のガンダムへ向かって突撃した。
「わかってない……!」
頭を抱えたくなったクーゴは何も悪くないはずだ。通信の向うで、誰かが苦笑いした気配がする。
あちらには平和そうだから、珍妙な光景に見えるのかもしれない。それはそれで羨ましいことだ。
……まあ、話は完全に別次元になってしまったが。
クーゴは腰の鞘からガーベラストレートとタイガー・ピアスを抜刀し、構える。敵も味方も大混戦。一瞬でも気を抜けば、待ち受けるものは『死』一択だ。気は抜けない。
黒の騎士団も、ゲッターロボも、ダンクーガも、ブラスタも、そして――ガンダムも、機体性能差から考えると強敵だ。だが、相棒たちとフラッグで、どこまで戦い抜けるか。
まずは、グラハムの援護に回らなくては。クーゴは操縦桿を握り締め、暴走気味な相棒の元へと駆けたのであった。
<あのフラッグは危険だ、下がって!>
白と青基調のガンダムを庇うようにして、白とオレンジ基調のガンダムが飛び出した。
若い男の声。パイロットの判断は間違いではない。クーゴ自身も、グラハムが危険だということは十二分に察していた。
だからといって、クーゴがグラハムを『何とかできる』かと言われたらNoだ。安全装置のくせにと言われても困る。
車のブレーキだって、元から車のスピードが出ていたときはうまく作動しないだろう。それと同じなのだ。
誰に言われたわけでもなく、クーゴは心の中で言い訳した。
周囲の攻撃を躱しながら、グラハムの援護に集中する。
「可変型が……! だが、空中の機動性ならば、このフラッグでも!」
<速い……! それにこの独特の動き……かなりの腕のパイロットだ!>
「このフラッグは私が育てた機体だ……! 相手がガンダムだろうと、やってみせるさ!」
グラハムのフラッグが、可変機タイプのガンダムに狙いを定める。
ユニオン軍の“空の貴公子”という2つ名は伊達ではない。相変わらずの速さを披露し、相手を翻弄した。
いや、翻弄しているというよりは、速く追い抜いて意中の相手――白と青基調のガンダムと戦いたくて仕方がないのだ。
あの可変機も、スナイパータイプも、超火力集中型の重装備タイプも、攻防一体型も、確かに奴にとっては賞賛と好意に値する。
しかし、グラハム・エーカーという男が『愛してやまない』のは、可変型に庇われたガンダムであった。AEUの軍事演習場に降り立った、白と青基調のガンダムだった。
空を飛び回るグラハムのフラッグ。奴から繰り出される攻撃と回避も容赦なくなってきている。グラハムにとってあの可変型タイプは、いつの間にやら“賞賛と好意”から“人の恋路を邪魔する奴”という存在になってきたらしい。
「キミのような奴は有名な故事に乗っ取り、馬に蹴られるものと心得てほしいな! 彼女をエスコートするのは、この私だっ!!」
<何言ってるんだこのパイロット!? って、あれ!? 通信回路は開いてないはずなのに、どうして声が聞こえるんだ……!?>
<言ってることもやってることもアレだが、それ以上にこのパイロットはヤベェぞ! 文字通りイロイロとな!>
クーゴの“ケ”がおかしくなければ、何やら可変型ガンダムのパイロットたちも恐怖体験をしているようだ。しかも会話が成立している。ついでに、グラハムはクーゴの援護も必要なさそうだ。
だが、白と青基調のガンダムを守ろうとする機体は他にもいた。少し下に待機していた白と緑基調のガンダムが、銃口をフラッグに向けたのだ。クーゴは慌ててグラハムの名を呼ぶが、奴はわかっていたようだった。
「スナイパー型のガンダムか! 私の変幻自在、天衣無縫の動きを追いきれるかな!?」
「それ、自分で言うような台詞じゃないぞ」
「細かいことはいいのだよ、クーゴ!」
スナイパー型のパイロットを挑発し、間髪入れず、グラハムのフラッグが飛行形態を取る。グラハム・スペシャルの逆バージョンだ。
これもまた、パイロットにかなりのGがかかる。相変わらず無茶苦茶だが、彼は文字通り『縦横無尽』に飛び回った。
グラハムの言葉と飛びっぷりに闘争心を刺激されたのか、ガンダムからは強い殺気がにじみ出ていた。
<この野郎、俺の狙いを甘く見るなよ!>
そう言うなり、白と緑基調のガンダムがライフルを構える。
しかし、その動きが止まった。理由は、別な人間からの指摘であった。
<貴方は一体、誰と話しているんだ>
<え? ――嘘だろおい。通信開いてないのに、声がしただと……!?>
あっちもこっちも怪現象が多発しているようだ。恐怖体験日和らしい。しかも、他人から指摘されなければ気づくことなどなかったというおまけつきだ。
ならば、『通信が開いていないのに、この場の通信内容のすべてを網羅してしまう』クーゴは一体何なのだろう。人間卒業目前なのだろうか。そんなつもりは微塵もないのに。
白と緑基調のガンダムが、次々とライフルを撃ち放つ。グラハムのフラッグはそれをスレスレで回避しながら、一端下がっていた白と青基調のガンダムめがけて突っ込んでいく。
それを白とオレンジ基調のガンダムが阻もうと割り込んだ。さらに、2機のガンダムは互いの持ち味――高速移動と射撃の連携により、グラハムの翔るフラッグを阻もうと試みる。
クーゴは即座に、グラハムとスナイパータイプの間に割り込んだ。そのままガーベラストレートとタイガー・ピアスを振るう。
放たれた銃撃を文字通り一刀両断。日本文化や日本刀はまだまだ現役、銃弾だって真っ二つにできる。
<何!? サムライ・ソードだと!?>
まさか、自分の攻撃が刀で真っ二つにされるだなんて思わなかったのだろう。
パイロットが驚愕の声を上げる。クーゴはニヤリと笑みを深めた。
「知っているか? スナイパー。……21世紀の初頭、どこぞの物好きが『
<は?>
「ルールは至ってシンプルだ。
パイロットは沈黙する。
ややあって、彼は<もちろん、銃だろ>と、自信満々に言いきった。成程、銃に対する信頼と愛着は強いらしい。
流石はスナイパー。この人物は、スナイパーとしての腕前だけでなく、他の部分――特に心構えだって優れているのだろう。
だが、クーゴだって負けちゃいない。友人が開発してくれた2振りの刀を信頼しているし、愛着だって持っている。
「残念。正解は――」
クーゴはそう言って、操縦桿を握り締めた。フラッグを一気に加速させる。不意打ちに近い突撃に、パイロットが慌てて銃の照準を合わせたのが見えた。
銃撃が放たれる。それを、2振りの刀で叩き切る。また攻撃が放たれる。刀で真っ二つに切り裂く。それを繰り返して6回。――距離が、迫る!
クーゴのフラッグは一気に肉薄した。
「日本刀だ!」
振り下ろした刃は、ガンダムを一刀両断することは叶わなかった。間一髪で、ガンダムがビームサーベルで受け止めたからである。
<俺に! 俺に、剣を使わせたな!>
スナイパー型のパイロットにとって、ビームサーベルに頼るというのは余程の屈辱だったらしい。激情をあらわにして咆哮する様子は、グラハムがガンダムを追いかけている様子とよく似ている。
日本武術諸々に心得があるクーゴにしてみれば、接近戦は十八番である。異種格闘技、大いに結構。親戚たちとやったことがあるが、それはそれで結構楽しかった。但し、今回は命がけだと言えた。
ぶつかり合う自分たちの元へ、可変型のガンダムとグラハムが援護に入った。見上げると、グラハムのお目当てはブリタニア帝国の兵士たちと戦っているらしい。ガンダム2機は、彼が白と青基調のガンダムへ突っ込むのを妨害しようとしているようだ。
クーゴはすぐにグラハムの援護に入る。相変わらず、グラハムは白と青基調のガンダムに対し、愛を叫び続けていた。
やり取りがおかしくなりはじめたのは、いつだったのか。
クーゴが気づいたときには、何もかもが遅かった。
「私は彼女が好きだ! 彼女が、欲しいィィィィィィィ!!」
<お父さんは! お父さんは赦しません! こんなの絶対に認めないぃぃぃぃぃぃ!!>
<う、うわああああああああー! “狙い撃つ成層圏”が、“狙い撃つ成層圏”が壊れたぁぁぁぁぁ!!>
<ははははははははは! こりゃ酷ぇや! あっははははははははげほっごほっ>
<■、■■■■!? 大変だ、■■■■が呼吸困難に!>
なんだこれ。
◆◆◇
「私は彼女が好きだ! 彼女が、欲しいィィィィィィィ!!」
<お父さんは! お父さんは赦しません! こんなの絶対に認めないぃぃぃぃぃぃ!!>
<う、うわああああああああー! ロックオンが、ロックオンが壊れたぁぁぁぁぁ!!>
<ははははははははは! こりゃ酷ぇや! あっははははははははげほっごほっ>
<ハ、ハレルヤ!? 大変だ、ハレルヤが呼吸困難に!>
「……アレー? ドコカデミキキシタコトノアルジョウキョウダナー」
クーゴが思わず呟いた声は、抑揚のない棒読みであった。見覚え/聞き覚えがありすぎて、なんと言っていいのかさっぱりわからない。
ちなみに、ハワードとダリルにはこの混沌めいた会話は聞こえていない。全体の動きを読み取りながら、グラハムやクーゴの援護に奮戦している。彼らはきっと、こんな会話が繰り広げられていることなど夢にも思っていないだろう。このまま永遠に気づかないでいてほしいくらいだ。ささやかな願いだが、果たしてどうなることやら。
“通信が開いていないのに、この場の通信内容のすべてを網羅してしまう”クーゴにしてみれば、この状況は本当にカオスである。
今回の任務は“ガンダム鹵獲およびデータ収集”のはずなのに、『白と青基調のガンダムおよびそのパイロットをどうこうする』話になっているように感じるのは気のせいか。
実際、スナイパー型のパイロットとグラハムの会話は『娘を嫁に出したくない父親VS恋人との結婚を望む男』の縮図に見えなくもない。
そして被害を受ける第三者2名、可変型のパイロットたちとクーゴ。何も知らない幸運な第三者2人、ハワードとダリル。
「グラハムー、いろんな意味で戻ってこーい」
堪えきれなくなって、クーゴはグラハムに呼びかけた。
しかし返事は返ってこない。その代わりに、盛大なやり取りが聞こえてきた。
「何人たりとも、私の愛を阻むことはできない! 阻むものがあるなら、そんなもの、私の無茶で押し通す!」
<年の差その他諸々考えろ、この変態が!!>
「キミにそれを言える資格はないな! キミは私と同類と見た!」
<天地がひっくり返ったとて、お前さんとだけは一緒にされたくないね! こっちは頑張ってお兄さんやってるんだからな!>
「そうやって、キミは愛するものが他人にかっさらわれていくのを、手をこまねいて静観すると? そんなこと、私はお断りだ!」
「グラハァァァァァァム!!」
クーゴの声は、グラハムには届いていない様子だった。彼は今、スナイパータイプのパイロットと会話するので忙しい。追記として、スナイパータイプのパイロットとグラハムの通信回路は開いていないのだ。それでも会話のデッドボールが成り立っている。おまけに、2人とも、この事実に気づかず、自然に会話を行っているではないか。
戦いは激化していく。銃撃を受けて被弾しても、グラハムのフラッグはスナイパー型のガンダムへと向かった。
その一撃を「肘鉄ごときで引き下がる私ではないよ!」と言ってしまうあたり、もう色々とアレである。
随分とリーチの長い肘鉄だ。ガンダムの持つ銃の銃身で殴打されたなら、かろうじて肘鉄と言えそうだとクーゴは思うのだが。
<俺は人殺し、いつかは裁きを受ける身だ。幸福を手にする権利なんか存在しない。あんただってそうだろう? 軍人さん。――その覚悟は、とうにできてるんだよ!>
「ああそうだな! 敵を撃ち、部下や上官を死なせ、屍の山を築いていく……そんな人間がたどり着く場所くらい、私も心得ているさ! そしていずれは、私もそこに墜ちるのだと!」
<だったら!>
「だからこそだ!」
グラハムのフラッグが、一気にガンダムへと肉薄する! 間一髪、白と緑基調のガンダムはビームサーベルで攻撃を受け止めた。派手な火花が飛び散る。
スナイパータイプのパイロットの表情が《視えた》。
「だからこそ、好いた相手を――心から愛した
フラッグとガンダムが鍔迫り合いを演じる。“通信が開いていないのに、この場の通信内容のすべてを網羅してしまう”クーゴは、2人が真面目に戦っていることが痛いほど伝わってきた。
但し、本来の目的をすっかり忘れているという点から視ているせいか、ひたすら異常な光景としか認識できない。
そんな自分が悪いのか、場違いなことをやっている2人が悪いのか、いくら考えても判断が下せそうになかった。
可変型はなんとかして目的――戦場からの離脱を試みているが、ハワードやダリルたちが追いすがっているため叶わないでいる。もっとも、離脱できない要因の1つであるスナイパー型のガンダムは、グラハムと激しい戦闘を繰り広げていた。
事実上の硬直状態。打破する手が見つからないのは、自分たちガンダム調査隊やガンダムのパイロットたちも同じらしい。あと一手。それさえあれば、この戦況をひっくり返すことができるのに。鹵獲の可能性が目の前にある以上、諦めたくなかった。
しかし、クーゴの思考回路はレーダーの反応音によって中断させられた。自分たちの機体の背後に、すさまじいエネルギーが集まっている。思わずクーゴがフラッグごと振り返ったとき、大地をと轟かすような音が響き渡り、瓦礫と化していた施設の一部が崩れ始めた。
何か、いる。
途方もない大きさの“何か”が、ゆっくりと蠢いていた。
姿は確認できないが、廃墟の中には“何か”がいる。いてはいけない、“何か”が。
「――下から来るぞ、気を付けろ!」
<何っ!?>
「何だ!?」
「うおっ!?」
「なんと!?」
クーゴの警告に、スナイパー型のパイロット、ハワード、ダリル、グラハムが慌てて回避行動をとった。クーゴもそれに続く。緊急回避のため、体に凄まじいGがかかった。
次の瞬間、自分たちが先程いた場所に、得体のしれない異形が花開いていた。化け物と言ってもいい図体は、自分たちなど歯牙にもかけず、まっすぐ空へと突っ込んでいく。
クーゴの気のせいでなければ、笑い声が聞こえた。人の笑い声。しかも、1人ではない。複数人の笑い声。老若男女の声がする。辛うじて聞き取れたのは、『シンカ』という単語。
ワームを思わせるようなフォルムの巨体に、数多の人の顔が浮かんでいる。何かで見たような気が、しないでもない。
異形は猛スピードで、大気圏めがけて飛んでいく。むしろ、宇宙へと向かっているように思った。
どう考えてもフラッグの推進性では間に合わないし、大気圏突入も難しい。
<新しいミッション? ――よし、そうと決まれば!>
不意に、スナイパー型のパイロットの声がした。次の瞬間、2機のガンダムが離脱に入る。
「逃すか!」
「待て!」
「ハワード、ダリル! 深追いするな!」
追いかけようとした部下2人をグラハムが制止した。刹那、生き物のうめき声のような音がして、新たな異形が湧いて出た。ハエトリソウとラフレシアを足して、大量の目玉を付けたような姿のものが、十数体。
もし、2人がそのままガンダムを追いかけていたら、下から飛び出してきたアレの餌食になっていただろう。今はガンダムを捨て置き、この異形を何とかしなくては。異形どもが市街地にでも出てしまったら――考えるだけで恐ろしい。
仲間たちは通信越しに顔を見合わせ、頷いた。
そのまま、異形どもの討伐に奮闘する。リニアライフルで撃ち抜き、プラズマソードで真っ二つに叩き切り、連携を駆使してバケモノたちを屠っていった。
クーゴもガーベラストレートとタイガー・ピアスで異形を切り裂く。断末魔と血しぶきが飛び交う戦場。援軍はもう少し時間がかかるらしい。
次の瞬間、背後から空を切り割くかのような音が響いた。振り返る。赤紫の残光が、空の中に溶けていく。砲撃だ。その主がスナイパー型のガンダムだと直感する。
直後、2発目が放たれた。
大気圏をぶち抜いて、宇宙まで届く一撃だ。
「大気圏越しのスナイピング!?」
「本当になんでもありか、ガンダム……!」
クーゴとグラハムが戦慄する。ハワードとダリルも、ごくりと生唾を飲み干した。
直後、通信が入る。異形が現れたという知らせを受けたユニオン軍が、こちらに援軍としてやって来たらしい。
そのまま合流し、異形の掃討を行う。異形が沈黙したのは、それから暫く経過した後だった。
◇◇◇
作戦終了後のブリーフィングで。
「ロックオン。貴方、誰と会話してたの?」
「――え」
通信越しからスメラギの指摘を受けたロックオンが、表情を凍らせた。
しかし、ここからが、彼の恐怖体験の本番である。
「通信記録には、誰かと会話したような音声は一切記録されていません。全部、ロックオンの声だけです」
クリスティナがデータを分析する。ロックオンの表情がますます青くなった。イデアは素知らぬふりをする。
「そんなことないぞ! 確かに俺は、あのフラッグのパイロットたちと会話を――」
往生際悪く食いついたロックオンに対して、仲間たちはデータを示した。1人で叫び散らすロックオンの声だけが、淡々と再生されていく。
ロックオン・ストラトス25歳。彼は今、得体の知れぬ悪寒に体を震わせて、こめかみから大量の汗を流している。似たような経験をした刹那以外、彼の話を信じる者はいないだろう。
イデアはそれが真実であると知っているけれど、敢えて知らないふりをした。刹那は空耳および直感だと思っているため黙っている。後でフォローが入るだろうか。どちらにしろ、この事実はまだ公にすべきではない。
「ロックオン、疲れてる?」
「大丈夫だよ。心配するなって!」
フェルトは憂いに満ちた瞳を向ける。普段から表情は薄いけれど、今はロックオンを心配する気持ちが色濃く表れている。
これ以上フェルトの表情を曇らせたくなかったようで、彼は必死になって弁明する。心配してくれたことに対する感謝の念が通じたのか、フェルトは表情を緩めた。
そのままお開きになり、仲間たちは次々と通信を切る。イデアはロックオンに通信を入れた。まさか、ブリーフィング終了直後に通信が来るとは思っていなかったのだろう。ロックオンが驚いた顔で「どうした?」と首を傾げた。
「今のロックオンにぴったりの曲があるの。聴く?」
「今のお前には悪意しか感じないから、やめておく」
「ごめんなさい、もう手遅れ」
それだけ言い残し、イデアは即座に通信を切った。今頃、彼は流れてきた曲を聴いて身につまされている頃だろう。イデアはちらりと端末画面に目をやる。ロックオンに送信した曲は、テオ・マイヤーの『貧乏くじ同盟』だ。
ロックオンの同胞とも言える男たちの背中が《視える》。その中に無理やり組み込まれかけた者もいるし、新規加入を果たしてしまい落ち込む者の姿も《視えた》。貧乏くじと言いながらも、彼らの表情は笑顔で満ちている。苦笑に近い表情だけれど。
イデアは端末を閉じる。次のミッションまで時間はあるが、オフ会をできる時間は確保できないだろう。そんな予感がした。ゲッター線の研究施設は潰せたが、突然現れた異形の存在を見過ごすことはできない。あれもまた、争いの火種になる。
稼働し続けた研究所でもアレなのだ。停止した場所であっても、アレが飛び出してくる危険性はありえる。
“同胞”たちも動き出すだろう。まずは政治的な部分から、次は企業として、最後は――遊撃部隊として。
世界はまだ、迷走の途上。
「この1件では、片付かない」
イデアはぽつりと呟いて、空を見上げる。今日は曇りのためか、星も月も見えなかった。
クーゴ・ハガネの災難は続く。