問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
「では、太陽光システム開発および技術支援等の援助を引き受けていただけるのですね?」
「はい。
マリナ・イスマイールの問いに、車椅子の女性は凛とした微笑を浮かべて頷いた。
企業および団体名が物騒なものだったため、国のお偉いさんから変な目で見られた。おかげで、アポイントを取るのに苦労したのだ。
会社内で頑張って決めた設定を『通訳』する羽目になり、説明し終えた後は生温かい目で見られたのは記憶に新しい。複雑な気分である。
嬉しそうに微笑むマリナと目が合った。女性の中で、マリナは『口説き落したい女性』の殿堂入りを果たしている。写真で見たときはそれだけであったが、実際に対面してみた結果、『憂い顔すら麗しい女性』、『笑顔になると更に美しい女性』、『笑顔でいてほしい女性』、『幸せにしてあげたくなる女性』の殿堂入りを果たした。
女性の中で5冠殿堂入りを達成したことなど知らないマリナは、女性の様子に何か疑問を持ったようで、心配そうに首を傾げる。女性は盛大に悶絶した。勿論、それを表に出すことはない。他者から見た自分は、男前度120%増の状態に見えていることだろう。エルガンあたりは「オッサン度120%増し」と言いそうな気がしたが、奴は関係ない。
(女神や。女神がおるで。……ああでも安心して、これは浮気ではないの。フォーリンラヴなのは貴方だけだから。結婚して一緒に年を取って一緒にらぶらぶしながら生きていきたいと思った人生の伴侶は貴方だけだから!)
不意に、寂しそうな顔をして遠くを見つめる夫の姿が脳裏をよぎった。
女性は必死になって弁明する。これ、も心の中での出来事であった。
確かに、自分は「おっぱいのついたイケメンになる」と(現在進行形且つ本気で)豪語し、自分よりはるかに年上の師匠に「私は貴女と結婚する」とプロポーズしたことがあった。ちなみに当時3歳。それを目の当たりにしたエルガンがびーびー泣きわめいていたことが妙に引っかかっている。
口説いた女性は沢山いた。師匠、航海長、女史、オペレーター、技術者、占い師、幼馴染の女の子たち、友人のお母さん……挙げれば本当にキリがない。特に友人のお母さんを口説いた際に、「人妻を攻略することの背徳感とその他諸々」を、幼馴染の男どもや長老たちに説いたら大惨事になった。ちなみに当時の年齢も3歳である。
ちなみに、口説いた女性たちからは総じて「あと数十年、自分が若く/貴女が大人になり、且つ男性だったらよかったのに」という評価を頂いている。女性にとって、それは最高の褒め言葉および世辞であり、誇らしいことであった。この話をするとエルガンが両手で顔を覆うのだが、女性は未だに、己の何がいけないのかさっぱり理解できないでいる。
男性で「本気で口説き落したいし、彼に口説き落としてもらいたい」と思ったのは夫だけである。結果は『互いが互いに一目惚れし、互いが互いを口説き落そうと尽力し、互いが互いに口説き落とされた』という形で夫婦になった。そういえば、身内だけで行ったささやかな結婚式では、エルガンが涙にまみれたヘタクソな笑みを浮かべていたか。閑話休題。
<……それにしても、解せないわ>
「シーリンさま。言いたいことがおありのようですが」
マリナの隣に立って話を聞いていた、シーリン・バフティヤールの思念が流れ込む。思わず女性は反応していた。シーリンは驚いたように息を飲む。
当然だ、自分の考えていることを言い当てられて驚かない奴なんかいない。しかも、シーリン本人は鉄仮面の下に隠していたつもりなのだから。
鋭く冷たい眼差しが向けられる。シーリンは女性の心理を探ろうとしているのだろうが、女性は意にも解さなかった。
そのうち、観念したようにシーリンがため息をついた。「貴女には失礼ですが」と前置きし、心の中に渦巻く疑念を吐露する。
「貴女方が、この国に援助をする意図がわからないの。援助の内容だって、どう考えても貴女方にとっては完全に不利な内容よ」
「そのようなことはありません。対価はきちんと払ってもらえます」
「その対価として提示された条件がおかしいのよ」
「何もおかしくありません。我々にとって“それ”は、対価として“太陽光システム開発および技術支援等の援助”を支払うに値するものです」
正直、“太陽光システム開発および技術支援等の援助”では足りない気もする。本当にごめんなさい、と、女性は心の中で詫びた。
マリナとシーリンは顔を見合わせる。シーリンは肩をすくめた。追及を諦めたらしい。唇を結んだ彼女と入れ替わりに、マリナがぺこりと頭を下げた。
「感謝します」
「いいえ。微力ながらもお手伝いできれば幸いです。……では、よろしくお願いしますね」
「はい。約束通り、『どんなことがあっても、平和の歌を歌い続け』ます」
マリナは強い決意を宿して頷く。それを見た女性は、安堵して頬を緩めた。
ふと、マリナは何か疑問に思ったらしい。
それを、躊躇いがちに向けてきた。
「どうして、私が音楽関係の道に進みたかったことを知っていたのですか?」
「そんな気がしただけです。そして、貴女にはそれを成す才能がおありです。だから諦めてほしくなかった」
きっぱり言い切った女性の言葉に、マリナは驚いたように目を見開く。自分にそんな才能があるのかと、まだ半信半疑の様子だった。女性は強い自信を持って肯定する。
女性は、マリナの歌が人々の拠り所になることを《識っている》。だからこその青田買いであり、技術提供及び出資する価値があった。挨拶を終えて、女性は王宮を後にした。
車椅子を手でこぎながら、女性は街の大通りを行く。どこもかしこも活気に満ちてはいた。けれども、どす黒い悪意がひたひたと漂っている。女性は深々と息を吐いた。
端末を開く。どこもかしこも、『ソレスタルビーイングがモラリアに介入(予定)』という話題で持ち切りだった。その話題をひとしきり語り終えたのち、添え物のように『ゲッター線の研究が凍結』という話題が提示される。映像では、エルガンが弁論で無双していた。
チャンネルを切り替えれば、今後はシロエがコメンテーターをやり込めている。こちらは『ゲッター線の研究が凍結』、『PMCトラストが新しい兵器を開発』という話題を出し、ソレスタルビーイングのみに注視している人々へ警笛を鳴らしていた。2人とも、親子以上によく似ている。
女性は端末をしまい、今度はタブレットを取り出した。タッチペンを駆使し、さらさらと図面を描き上げていく。
「相変わらず、図面は綺麗に描けるんだな」
不意に聞こえた声に顔を上げる。そこにいたのは、先程映像で無双していたエルガン・ローディックご本人であった。
女性はむっとした。「図面は」ってなんだ、「図面は」って。他はダメだと言いたいのか。
「失礼ね。私にだって絵心はあるわよ」
「人の顔を描けば、大半がジャガイモになる奴のどこに絵心がある?」
「そんなことない! 見なさい、私の最高傑作!」
女性はタブレットを操作した。出てきた絵に、エルガンは目を剥く。
指示した絵に描かれているのは、愛する夫とその友人――エルガンである。
エルガンはじっと絵を見つめていたが、口元を戦慄かせていた。
「相変わらず、『言いたいことが山ほどありすぎて、何から突っ込んでやろうかわからなくなる』絵だな」
「どこからどう見ても、アンタと私の夫でしょ? 何もおかしくないじゃない」
「私には、どこからどう見ても『私の面影が辛うじて残ったジャガイモの顔を持つ異形と、10割方美化された凛々しい禿げ爺』にしか見えないんだが」
エルガンは不安そうに絵を指さす。女性はもう一度、自分の描いた絵を確認してみた。何もおかしくなんかない。
女性はジト目でエルガンを睨んだ。彼は諦めたように深々とため息をつく。顔面崩壊、と、彼は力なく呟いていた。
正直言って心外である。エルガンだって人のことは言えないだろう。彼の絵心は、古い友人の画力といい勝負だったのだから。
女性が何を言いたいのか察したエルガンが、むっとしたように眉をひそめた。
「私が『画伯』なら、お前とトォニィは『巨匠』だ」
「私がトォニィと同格扱いなのは認めないけど、トォニィが『巨匠』であるのは同意する。大人になっても、画力は3歳児の頃のままだったからね」
懐かしい名前が出てきた、と、女性はけらけら笑った。
刹那、『お前らの方が『巨匠』だろ!!』と、懐かしい声が聞こえた気がする。
振り返ったが、声の主――トォニィ・アスカの姿はなかった。
当然だ。自分たちはトォニィたちと別れ、この星に降り立ったのだから。それから長い時間が経過した。
彼は今、どこで何をしているのだろう。楽園の名を冠した白い艦は、再生した青い星に辿り着けたのだろうか。
人類と“同胞”たちを導く指導者となったトォニィは、両陣営を結び付ける橋渡し役として、“同胞”側の
先代の指導者――“同胞”側の
けれど、トォニィが優秀な指導者であったことは事実である。別れる前も、別れた後も、変わることなく『同胞』たちを率いていることは間違いなかった。
(あいつ、元気でやってるかなァ)
図面を保存し、タブレットに絵を描く。思い出すのは、自分たちが生まれてから
赤い土と砂漠が目立つ辺境の星で、女性たちは生まれた。人類が諦めた植民惑星に降り立った“同胞”たちは、その星に『ナスカ』と名付けて定住しようとしていた。赤い大地で育った野菜の味、赤い大地に咲いた桃色の花、同年代の友人たちと駆けまわった赤茶けた大地を、女性は今でも覚えている。
その星は、もうない。惑星を破壊する兵器によって、跡形もなく消されてしまった。故郷滅亡の瞬間もまた、忘れたくても忘れることのできない光景であった。そこから、本当の意味で2代目
『グラン・パ』
『――やれ』
『――了解!』
人類軍の連中が乗っていた脱出艇に手を当てて問いかければ、指導者は冷徹な声で返事した。それに応えるように青の力を発動し、脱出艇を爆発させた。人間の断末魔の悲鳴に関してはあまり思い出せないけれど、自分に指示を出してきた指導者の青年の冷たい声は、今でもはっきり覚えている。
人類側に所属する人々を殺した。殺して、殺して、先代の――ひいては“同胞”たちの、「
こんなもののために、と、悔しそうに叫んだ先代の指導者の後ろ姿を覚えている。トォニィと長老たちを連れて、地球に降りた姿も覚えている。その後のこと――指導者たちが世界を管理する機械に挑み、後継者に未来を託して果てた姿――も鮮明に刻まれていた。彼らから託された想いは、今でも胸の中にある。
「できた。……トォニィ、アルテラ、タージオン、タキオン、コブ、ツェーレン、ペスタチオ!」
どうだ。
女性はエルガンに向き直る。奴はタブレットを眺めた後、懐かしそうに目を細める。口元には、乾いた笑み。
「…………多分、トォニィ、タージオン、タキオン、コブの4人が確実に泣くぞ」
「どうしてよ?」
「ヅラを被ったハニワみたいだからな。アルテラたちは美人に描かれているのに……」
エルガンは遠い目をした。自分の描いた絵はおかしいだろうか? よく描けた方だと思うのだが。
そんなことを考えていたとき、端末が鳴り響く。仲間たちからの定期報告だった。
全員の報告レポートを読み終えて、女性は険しい表情で端末を閉じた。
どこもかしこも問題だらけ、常に綱渡り状態だ。彼等はみんな、手探りで道を探している。
目的地まではまだ遠い。それでも、たどり着きたい場所がある。女性は端末をしまった。
「そろそろ戻らないと危ないんじゃないの? 国連代表。休憩時間はもうすぐ終わりよ?」
「言われなくても帰るさ。それじゃあな」
エルガンは女性に背を向け、ひらひらと手を振った。刹那、彼の姿が消えうせる。彼が立っていたはずの場所には、もう誰もいなかった。
女性も車椅子を自分でこぎながら、静かに目を閉じる。次の瞬間、そこはアザディスタンではなかった。悪の組織本部の社長室。
「さて、仕事仕事」
女性はタブレットを取り出し、図面の続きを描き始める。
今日もまた、忙しい日々が過ぎていく。
◇◇◇
ある種の“決着”をつけるときが来た。
イデアは、夜鷹からのメッセージを読み返しながら、大きく息を吐いた。
『俺は、キミと過ごした日々のすべてが嘘だったなんて認めない。何があっても、キミを信じている』
彼の文面で、すぐに気づいた。夜鷹およびクーゴ・ハガネは、エトワールがソレスタルビーイングのガンダムマイスターであることに気づいている。その上で、エトワールを、イデアを信じようと――信じたいと願う文章でメッセージを締めていた。
イデアは手を強く握りしめる。手は小刻みに震えていた。彼への想いを失うことは、イデアにとって死ぬより怖いことだ。でも、彼を想い続けることは、死ぬよりもつらく苦しい痛みと向き合わなければならないことを意味している。
『死ぬのが怖くて、恋ができるものか』。まったくもってその通りだ、と、イデアは思う。今更ながら、言葉の重みをひしひしと感じてきた。逃げたい。でも、逃げたくない。相反する感情がせめぎ合い、悲鳴を上げていた。
いがみあう双子。相反する感情を持つ者が所有していた、力の名前。
諦めの中にある憤りを、絶望の中にある希望を。その力を持っていた異星人の名前は何だったか。奴からその力を奪い取り、新たな所有者となった青年の名前は何だったか。
今なら、彼らの気持ちがよくわかる。心の中でのたうち燻るこの想いに、今にも押しつぶされてしまいそうだ。それでも、諦めたくない。失いたくない。
(そうだ、私が選んだんだ)
悲しみも苦しみも理解したうえで、茨の道を選んだ。そのことに後悔はない。
だって、イデアは《識っている》。茨の道の先に、自分たちが笑いあえる
あそこにたどり着けるなら、きっとこの痛みも耐えられる。どんな痛みや苦しみが目の前に立ちはだかっても、超えていけると信じた。それが、己の決意だった。
恋も愛も使命も、諦めない。自分自身で決めたことだ。イデアは気合を入れるように、強く握った右手を左手に打ち付けた。
(死ぬのが怖くて恋なんかできない! だから、その恐怖すら飛び越えて、恋と明日をつかみ取る! ……恋する乙女、舐めるんじゃないわよ!!)
恋と愛のため、命を懸けて歌い続けた歌姫たちがいた。『死ぬのが怖くて、恋ができるものか』と叫んで、迫りくる敵を屠った女性軍人がいた。誰かに恋をし、誰かを愛し、戦う女性の美しさと強さを、イデアは《識っている》。
そんな恋に憧れた。そんな愛に憧れた。そんな相手に憧れた。そんな生き方に憧れた。そのすべてが、今のイデアを突き動かす。決意を新たに、イデアは端末にメッセージを打ち込んだ。『すべてを話すことはできません。ですが、私は、『私を信じる』と言ってくれた貴方に応えたい。そう言ってくれた、貴方を信じます』――それが、イデアの精一杯の答え。
「イデア。お前さん、何百面相してるんだ?」
ソレスタルビーイングの技術者であるイアンが、きょとんと首を傾げた。
隣にいたロックオンも、物珍しそうにイデアを見ている。
ふと、イデアはロックオンが握りしめている端末に視線を向ける。そこに映る画像データは、クリスティナによってドレスアップされたフェルトのものだった。私服に対してあまり拘りのない――むしろ疎い――フェルトが、花柄のシフォンミニワンピースを着ていた。
おまけに、顔をほんのりと染めて恥ずかしそうに俯いているではないか。ポーズもアングルも完璧だった。フェルトを買物に連れて行く口実として、クリスティナは『ロックオンも喜ぶ』および『ロックオンもイチコロ』等の発言をしたのだろう。
クリスティナに急かされたフェルトが、困惑しながらも揺れ動く姿が容易に想像できた。写真撮影時も、同じようなことを言ったに違いない。次の瞬間、ロックオンの端末が鳴り響いた。転送されてきたのはフェルトの画像データであるが、服装は全く違うものだ。
先程のワンピースではなく、切り替えのワンピースで、上が白のノースリーブ、下はゴールデンオレンジの透かし生地でできたスカート風のもの。違う服装に着替えたらしい。向うはきっと、ちょっとしたファッションショー状態になっているのだろう。
フリルとギャザーをふんだんに使った白と赤基調のワンピース、花柄のタンクトップとデニムの3分丈ズボン、ワイシャツ型の半そでシャツに黒のフレアスカート、シフォン地のフリルを重ねた薄水色のブラウスと白の7分丈レギンズ。画像が次から次に転送されてきた。
「…………ぉぅ」
ロックオンはかすれた声を出して、端末を握っていない方の手で口元を覆う。彼もフェルトと負けず劣らず、照れくさい様子だった。
イデアがニマニマ笑い始めたのに気付いたロックオンが、慌てて端末を閉じる。「やましいことなんてありませんよ」と言いたげな眼差しをこちらへ向けているが、嘘っぱちであることは明白だ。どう根掘り葉掘りしてやろうか。
フェルトに対して自重気味だったロックオンであるが、最近はじりじりと距離を縮めつつある。彼の中で何かが変化を起こしたらしい。おそらくその原因は、ゲッター線研究施設の壊滅作戦だろう。
『何人たりとも、私の愛を阻むことはできない! 阻むものがあるなら、そんなもの、私の無茶で押し通す!』
『年の差その他諸々考えろ、この変態が!!』
『キミにそれを言える資格はないな! キミは私と同類と見た!』
『天地がひっくり返ったとて、お前さんとだけは一緒にされたくないね! こっちは頑張ってお兄さんやってるんだからな!』
『そうやって、キミは愛するものが他人にかっさらわれていくのを、手をこまねいて静観すると? そんなこと、私はお断りだ!』
『俺は人殺し、いつかは裁きを受ける身だ。幸福を手にする権利なんか存在しない。あんただってそうだろう? 軍人さん。――その覚悟は、とうにできてるんだよ!』
『ああそうだな! 敵を撃ち、部下や上官を死なせ、屍の山を築いていく……そんな人間がたどり着く場所くらい、私も心得ているさ! そしていずれは、私もそこに墜ちるのだと!』
『だったら!』
『だからこそだ!』
『だからこそ、好いた相手を――心から愛した
ロックオン・ストラトスの恐怖体験。あれは恐怖だけでなく、もっと別な方向にも影響を与えたようだ。いい変化だとイデアは思う。イアンは合点がいったらしく、眩しそうに目を細めた。彼もまた、年の差カップルの1人である。彼の場合は妻に襲われた側で、ロックオンのように手を出そうとした側ではない。
この2人に『イオリア・シュヘンベルグも年の差婚である』ことを話したら、どんな反応を示すだろうか。“互いに互いを襲おうとして失敗を繰り返した挙句、今度は互いに互いを誘いあったために失敗を繰り返し、何度も襲いあいと誘いあいを繰り返した”という事実。きっとクルー全体が唖然茫然するだろう。
長々と馴れ初めを話す女性のことを思い出し、イデアはそっと視線を動かす。視線の先には、新装備が取り付けられたエクシアと、機体を見上げる刹那の姿があった。彼女は自分の
浜辺には、新装備を得たガンダムたちが並ぶ。イデアのハホヤーは、現在、巨大なコンテナの中で調整中だ。
コンテナには、赤い宝玉に金の片翼が描かれている。悪の組織のロゴマークであった。
「しかし、徹底した秘密主義だな。悪の組織は」
イアンはぶつくさと文句を言いながら、巨大コンテナを眺める。強力なスポンサーでありながら、最大のライバル。その動向を気にするのは当然と言えよう。
コンテナを睨みつけていたのは彼だけではない。ティエリアは仇敵に対する眼差しを向けている。ヴェーダの采配とはいえ、イデアがガンダムマイスターとしてソレスタルビーイングに見出されたことに強い反感を抱いていたのは事実だからだ。
悪の組織は、自分たちの技術をヴェーダに報告しようとしない。ソレスタルビーイングのクルーおよびメカニックにすら教えていないのだ。そのため、ハホヤーの機体整備はイデアや出向してきた技術者たちが行っている。勿論、修理中はクルー全員“部外者のため立ち入り禁止”だ。
「ティエリア、お前さんも気になるのか?」
「っ!? い、いえ……」
イアンに話しかけられたティエリアが、驚いたように肩をすくめる。驚き以外に別な感情も見え隠れしていた。困惑および何かの予兆に、どう対応すべきか迷っているかのような。
そういえば以前、無断でトレミーに乗り込んだイアンの娘を見て挙動不審になっていたのを見かけた。丁度、彼が刹那から恋愛相談を持ちかけられた頃の出来事だったと思う。
ティエリアが弄んでいる感情の意味がわかるのは、あと数年後だ。確証を持って言える。早くそんな日が来ればいいのに。そうしたら、盛大に根掘り葉掘りしてやる。
イデアがひっそりと決意を固めた直後、ティエリアが体を震わせて周囲を確認した。嫌な予感を察知したらしい。
しかし、その出どころがイデアであることまでは察せなかったようだ。苛立たしげにコンテナへと視線を向ける。
アレルヤがティエリアを諫めようとしたのと、コンテナが開いたのはほぼ同時。武装の取り付けを終えた少年と少女が顔を出す。
「イデアさん、調整終わったッス!」
「新武装も問題なく取り付け終わったわ!」
「ありがとう、朝陽くん! シャッテも!」
夕焼け色の髪と頬のテープが印象的な青年――乾朝陽と、朝焼けのようなブロンドの髪と浅黒い肌が特徴的な少女――シャッテ・ジュードヴェステンへ、イデアは礼を述べた。
ついでに、意気揚々と帰還準備に勤しむ朝陽に続こうとしたシャッテの肩を叩く。何事かと振り返ったシャッテに対し、イデアはニマニマしながら耳打ちした。
「――で、朝陽くんとの仲はどんな感じ? どこまで進んだ!? この前買ってた過激な衣装は役に立ったの!?」
「あ゛ー、あ゛ー、あ゛ー! 勘弁してよ! あたし忙しいからもう帰る!!」
<<<<あぁ……ご愁傷様……>>>>
顔を真っ赤にしてきゃんきゃん叫ぶシャッテの姿に、マイスターの面々が憐れむような視線を向けた。つい先程まで警戒心を剥き出しにしてシャッテたちを見つめていたのに、雰囲気が柔らかくなったのは気のせいではない。根掘り葉掘りされる姿が自分自身と重なって見えるためだろうか。
この状況を唯一理解できていない朝陽だけが無邪気に首を傾げている。彼らは整備が終わり次第、次の派遣先へ向かう手はずとなっていたためだ。頭に大量の「?」マークを浮かべる朝陽の鈍感っぷりに苛立たしさを募らせたシャッテは、彼を蹴飛ばすような調子で急かし、この場から離脱を図った。
彼らの背中を見送ったイデアは、チューンナップが終わったハホヤーを見上げた。ソレスタルビーイングに身を置くガンダムたちの中でも、更に女性らしさを追求したようなフォルムだと言えよう。元ネタとなった素体――スターゲイザーを軸にしつつ、知人の
機体にマウントしていた自立兵器の数が6機から12機に増え、残り6機は推進力の役割を果たす後輪の周囲に取り付けられている。武装の元になったのは、アド・ステラと呼ばれる世界で生まれた機体・ガンダムエアリアルのエスカッシャン。あれには12人の“中の人”がいたが、流石にそこまで再現するのは問題である。そのため、イデアと
自立誘導兵器は機体の一部――両腕――やレーザーガンに合体することで、武装の威力や射程・攻撃範囲を著しく上昇させる仕組みとなっている。腕に合体すれば実体を持つ盾になるし、シールドバッシュを用いて疑似的な鈍器としても使用可能だ。レーザーガンと合体すれば弓のような形状となり、射撃と砲撃モードを使い分けることもできる。
(武装のコンセプトは“近づかれる前に相手を達磨にする”、“近づいてきたとしても、合体変形を駆使してオールラウンドに立ち回れる”だっけ)
武装の設計構想に関わった知人の言葉を思い出し、イデアは苦笑した。『教え子にカクテルを振舞った』と語っていた彼は、潜入先でも元気にやっているらしい。
尚、この自立型兵装には他にも“同胞”由来の技術が使われているが、それがお目見えするときは――きっと、イデアが
……許されるなら、少しでも長く、ソレスタルビーイングの守護天使として、天使たちの盾として、彼女や彼らと共に歩めたらいいのだが。閑話休題。
(他にも、
知人の言葉を思い出しながら視線を向ければ、ハホヤーに搭載された実体系の武器が視界に飛び込んでくる。脚部には木星の輪を思わせるようなチャクラムと、チャクラムを装備するためのアームが付けられている。舞ってよし、敵機に向けて投げてもよしの遠近両用武装だ。性能はGNブレイドと同格で、引けを取らない。
参考はパールネイルおよびパールファングで、多元世界を侵略しようとしたインサラウムの部隊に所属していた女性が搭乗していた機体の武装である。後に、パールネイルのパイロットはZEXISの仲間に加わり、元から敵対していた女性パイロットがパールファングに搭乗し、戦いを繰り広げていた。
これで、モラリアへの軍事介入における準備は万全である。あとは、この力を存分に振るうだけだ。全機のガンダムが並ぶ姿は壮観であった。イデアは大きく息を吐く。モラリア介入は一筋縄ではいかないだろう。軍だけでなく、PMCも新型兵器をテストがてら投入するという噂が飛んでいるためだ。
その兵器の名は、
PMCは「ガンダムに対抗する切り札」として売り出そうとしているらしい。これなら、パイロットの命を消費しなくても戦力になる。モラリアやAEUだけでなく、ユニオンや人革軍も喉から手が出るほど欲しいことは明らかだった。
モラリアへの介入に踏み切った理由は、MDの存在も含まれていた。今回の介入ではMDを叩き潰し、ガンダムには通じないということを示すという意味もある。こんなものが実用化されてしまえば、世界の紛争に、積極的に投入されることは明らかだ。
「こっちもあっちも大決戦、か」
イデアは小さく呟いた。丁度、刹那がグラハム専用端末からメッセージを受け取ったらしい。
彼女はじっと、端末を眺めていた。驚きと悲しみと不安に満ちた、悲壮な横顔。しかし、それは一瞬のこと。
刹那は首を振り、新たな力を得たエクシアを見上げる。それはまるで、余計な感情を振り払うかのようだ。
成程、刹那も決戦が近いらしい。相手はグラハム・エーカー、刹那の『運命の人』。
どうか、自分や彼女たちの歩く道に、行きつく果てに、幸福があらんことを。
イデアは、そう願わずにはいられなかった。
◇◇◇
「教官、何を書いてるんですか?」
タブレットを覗き込んだヨハンが首を傾げた。彼につられ、ミハエルとネーナも画面を覗き込んでくる。
「これは、何かの図面か?」
「機体と、武器?」
「ああ、ちょっとな」
ノブレスはタブレットに図面を描きこみながら、ミハエルとネーナに答えた。
「今は
「本当!? 凄い!」
ネーナがぱっと目を輝かせた。他の2人も尊敬の眼差しでこちらを見上げてくる。どうしてだか、酷く照れくさい。ノブレスは苦笑し、図面を描きこんでいく。現在描いているのは、バスターライフルとバスターシールド。元々は、
コロニー解放のために戦った5機のガンダムのうち、翼を持つ機体と死神の愛称で知られる機体の武装。トリニティ3兄妹のガンダムスローネシリーズに施す新武装の候補としてピックアップしたものである。他にも候補はあるが、話すと長くなるので割愛させていただく。
今はもう、ノブレスの身内は誰もいない。完全に天涯孤独である。
昔のことを思い出したせいか、何とも言えぬもの悲しさを感じてため息をついた。
「教官、他にはどんな図面があるんだ?」
宝の山を目の前にしたかのように、ミハエルが問いかける。その眼差しの中で煌めく光に、思わずノブレスは頬を緩ませた。
『ねえ、他にはどんな図面があるの?』
隣の家に住んでいた少年も、同じようにして目を輝かせていた。彼は今、MSの権威として名をはせる技術者となっている。教え子を多く輩出し、現在も教え子と共にMS開発に着手しているという。
大成するだろうなとは思っていたが、雲の上の存在になるとは思ってもみなかった。持ち前の好奇心と探究心、および粘り強さがいい方向に働いた結果だろう。ただ、最近は、それ自体が彼自身の首を絞めてしまいそうな気がしてならない。
ノブレスはタブレットを3人に手渡す。見てもいい、という言葉の代わりにだ。
3人は仲良く並んで図面を眺めている。時折気になる機体や武装を見つけては、きゃあきゃあ黄色い声を上げていた。見ていて微笑ましい光景である。
図面だけ引いてお蔵入りしてしまったもの、現在進行形で開発中のもの、既に開発が終わり改良品が出来上がっているもの等、様々な種類が保存されている。
トリニティ3兄妹およびアレハンドロ一派には極秘で開発を進めている新武装設計開発計画。だが、パイロット本人の希望を叶えてあげたいと思うのが技術者の願いだ。
本人たちの戦術も含めた検討のためでもあるし、本人たちからの希望を秘密裏にリサーチするのも大事な仕事である。
ノブレスは聞き耳を立てながら、一字一句聞き逃さぬよう集中した。
「わあ、この機体可愛い! 機体名は……ファルシア? あ、後継機も出てるんだ。こっちも可愛い! ……ああでも、キャリバーンのライフルもお洒落! ノーベルの武装もいいなぁ!」
「ピンポイントバリアか。これ、攻撃にも使えそうじゃねえか? ファングと組み合わせれば、突貫力が上がりそうだよな」
「バスターライフルにサテライトキャノン、か。どれも凄まじい破壊力だ」
ネーナは可愛さを前面に出した機体に惹かれ、近接攻撃を好むミハエルが珍しく防御系の技術に興味を示し、ヨハンはライフルやキャノン系の装備を眺めている。
ノブレスは即座に端末を取り出し、彼らが惹かれたもの、興味を持ったものを記録していく。
自分が手掛ける装備が、彼らの明日を守り、切り開くものになるように。ノブレスは、そう願わずにはいられなかった。
◇◇◇
悪夢のような
『よかった……』
『討つというのか、同類を!』
『ブリングの仇ぃぃぃ!』
『た、助けて! リボンズーッ!』
『う、うわああああーっ!』
いつも一緒にいてくれた家族が、断末魔の悲鳴を残して宇宙へと消えていく。
(アニュー! ブリング! デヴァイン! ヒリング! リヴァイヴ!)
リボンズの手は、彼らの手を掴むことすら叶わなかった。命が零れ落ちて、星に還っていく。
しかし、目の前にいる『彼』は、彼らの命が散っていくことに何の感慨もないようだ。振り向くことなく歩き続ける。
(何故だ! どうして、どうして『
大切な家族だったのに。同じ同胞だったのに。同じ同志だったのに。なのに、どうして『
いいや、『自分』は、悲しんですらいない。駒が一つなくなった――『
切り捨てて、切り捨てて、『自分』は目的を果たすために突き進んでいた。『世界に己の優位性を証明する』ために、イオリア計画を利用した。沢山の人々の運命を弄んだ。
不意に『自分』が立ち止まる。立ちはだかったのは、「自身が人類を導いてもいいのではないか」と思い至った同胞。紫の髪に眼鏡をかけた青年だった。家族の1人が、『自分』に銃口を向ける。
発砲音。『自分』が崩れ落ちる。青年の歪んだ笑み。
彼があんな風に笑うなんて、リボンズは生まれて初めて知った。
『あ……』
再び響いた発砲音。次に崩れ落ちたのは、『自分』を手にかけたことに優越感を持っていた青年であった。
(リジェネ!)
手を伸ばしたリボンズとは対照的に、『自分』はまるでゴミでも見るような眼差しで、彼を見下した。
次の瞬間、世界が一変する。そこはかつて、何度も出入りしたヴェーダの内部であった。
リジェネと同じ遺伝子配列を持つイノベイド。名前は確か、ティエリア・アーデ。
『自分』は彼にも銃口を向ける。邪魔者を排除する、ただそれだけのために。嫌な予感がして、リボンズは慌てて手を伸ばす。
ティエリアを庇おうとしたその手は、何も掴めなかった。そんなリボンズの代わりとでもいうように、別の人物がティエリアの間に割り込む。
(エルガン代表!)
胸を撃ち抜かれて倒れたのは、エルガン・ローディックであった。彼はティエリアにコードを託す。エルガンを撃った『自分』は舌打ちし、計画を進めるために駆けだした。呻く彼には目もくれず、ZEXISの邪魔をする。トライアルシステムを無効化させたのだ。
仲間を守るため、ティエリアが『自分』の仕掛けたプロテクトに挑む。無茶だ、と、リボンズは直感した。しかし、『自分』の妨害を跳ね除けるため、もう1人の人物が名乗りを上げる。翼を持つガンダムと、無限の可能性を演算し未来を見せるシステムを駆使する1人の少年。
彼を信じたティエリアと、ティエリアに信じられた彼が、協力してプロテクトを突破した。情報の奔流に、ただの人間が耐えきれるはずがない――奇しくも、リボンズと『自分』の見立ては一致する。翼の生えた機体からの返答は、ない。
次の瞬間、驚くべきことが起きた。
『勝手に殺すな』
(生きてた!!)
未来を見た少年は、情報の奔流に耐えきったのだ。
彼はただの人間である。普通の(?)人間である。
唖然としていたら、更に驚くべき事実が明かされた。
イオリアの遺産、ふたつのゼロ、兄弟機、イオリアが見出した“もうひとりの革新者”。
『明日を見ようとしない者に、ゼロは何も語ってくれない』
イオリアの遺産の継承者が、『自分』に向けてバスターライフルを向ける。
『刹那!』
『わかっている!』
聞こえたのは青年と少年の声。刹那、という名前は、自分が“彼女”に与えたコードネームだった。“彼女”と同じ名を持つ青年と『自分』、およびZEXISたちがぶつかり合う!
勝利者は、青年およびZEXISだった。彼の言葉を『自分』は切り捨て、青い機体に挑みかかる。――敗北したのは、『自分』であった。
絶望。『使い潰されるだけの存在でしかない』宿命を覆したくて、自分の優位性を証明したくて、必死になってあがき続けた。自分が一番なのだと、神に等しい存在なのだと、そう信じていないと自分が崩壊してしまいそうだった。
どうして自分は生み出された? どうして自分は使い潰されなければならない? どうして自分は踏み台にされなければならない? どうして、どうして自分が敗北しなければならない? どうして、どうして――!!
『自分』の苦悩に触れる。嘗てのリボンズが抱えていたコンプレックスそのものだ。現在では、家族たちや友人たちのおかげで、さほど気にならなくなってきたものだ。『
『
『僕は……! 僕はぁぁぁぁぁっ!』
断末魔を残して、『
(む、胸糞悪い……! 文字通りの完全敗北じゃないか、これ)
リボンズは胸を抑えて大きく息を吐いた。アレハンドロの長話につき合わされて、やっと解放されたばかりだというのに。
ストレス発散と定期報告を兼ねて、『悪の組織』の代表取締役に連絡しようとしていた矢先の出来事であった。おかげで余計にストレスがたまる。
「……定期連絡し終えたら、飲もう。飲み明かそう」
そうでもしなければやっていけない。リボンズは心の中で小さく付け加えると、端末を操作する。
やるべきことを終えたリボンズは、夜の街へと繰り出した。
星1つ見えない、地上の光に支配された夜のことだった。