問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

3 / 73
【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


1.歌い手【夜鷹】になった理由(ワケ)

 

「なあ、グラハム。俺たちが鹵獲しようとしていた機体って、どんな姿をしてたか覚えてるか?」

 

「ああ、覚えているとも! あの機体(■■■■)とは運命的な出会いをしたからな!」

 

 

 クーゴの問いかけに対し、グラハムは曇り無き笑みを湛えて答えた。不敵な横顔は闘争心を剥き出しにしている。

 だが、クーゴの問いかけが呼び覚ましたのは闘争心だけではなかったらしい。どこか熱っぽい調子で――心なしか頬を薔薇色に染めて――口を開く。

 

 

「そう。あれはAEUで行われた“新型モビルスーツ(AEU■■■■)”のお披露目会――」

 

「馴れ初めは後で幾らでも付き合ってやるから、今は俺の質問に答えてくれないか」

 

「言ったな? 武士に二言は無いと誓えるな!?」

 

「自作の和菓子もつけよう。そうだな、白桃羊羹でどうだ?」

 

「その旨を良しとする!!」

 

 

 今ここで恋愛話を始めようとしたグラハムをどうにか買収(?)し、クーゴは話の軌道修正を試みる。部下たちが羨ましそうにしていたので、彼らも茶菓子――もといグラハムと“天使”の馴れ初め話に加えることを約束した。閑話休題。

 

 

「“天使”たちの機体数と、その特徴、覚えてるか?」

 

「勿論だとも! 近接戦闘に特化した機体(タイプ)、射撃を得意とした機体(タイプ)、機動力に特化した可変する機体(タイプ)、超火力と防御に特化した機体(タイプ)、攻防が一体化した機体(タイプ)の5体だ。……まさかとは思うが、クーゴ。キミ、ボケたのか?」

 

「どんな意味の意図で言ったとしても失礼過ぎるだろ、このおばか」

 

 

 フラッグに乗っていなかったら、グラハムの脳天に手刀の一発くらい叩き込んでいたかもしれない。

 しかし、MSに乗っているという現状ではツッコミを入れられる状況ではないので言葉だけにとどめておく。

 武装で頭を叩くくらいなら行けるかもしれないが、敵を前にして味方を損傷させるなんて馬鹿な真似をするわけがなかろう。

 

 今回はクーゴ側が譲歩してやるしかないらしい。ひっそりため息をついた後、改めて機体を見直してみた。

 機体の名前は“天使”たちと同名。この場で量産機を相手取る連中の機体数も丁度5体ぴったりだ。

 

 

(でも、違う。明らかに何かがおかしい)

 

 

 天使のような翼が生えた青い機体、死神のような風貌で大鎌を振り回す黒い機体、両手にカトラスのようなブレードを装備した灰色の機体、竜のように威風堂々とした緑の機体、超火力に特化した重装備の赤い機体。

 

 

(その違和感に目を凝らせ。その違和感を見逃すな)

 

 

 クーゴは自分自身に言い聞かせながら、必死になって思い出そうとする。

 自分たちが追いかけていた機体は、どんな姿をしていたのか。

 

 あの日見た青い機体に、翼は生えていなかった。

 “天使”たちの中に、大鎌を持った黒い機体なんていなかった。

 カトラスのようなブレードを持った機体だっていなかった。

 緑の機体は、腕を伸ばしたり、火炎放射機のような武装なんて有してはいなかった。

 重装備が特徴だった機体のカラーリングは赤ではなく、紫色だった。

 

 確かに、自分たちが最初に目撃した機体は天使のようだった。でも、翼はなかった。あの機体は、ツインバスターライフルなんて装備していなかった。得意なのは砲撃による殲滅戦ではなく、格闘を用いた接近戦だったはずだ。

 クーゴが悩むうちに、コロニーにいた応戦部隊が5機のMSに圧倒され、倒されていく。それを見ていたグラハムが目を瞬かせた後、考え込むように眉間の皴を深くしたのが《視えた》。そんな自分たちに対して、フラッグファイター一同はきょとんと首を傾げている。

 

 

「……そもそも、ここはどこだ?」

 

「どこって……、ニューエドワーズ基地ですけど……」

 

「どうしたんですクーゴ中尉? いつもの中尉らしくないですぜ?」

 

 

 クーゴが零した問いかけに反応したのはアキラとダリルだ。通信越しから、彼らは怪訝そうにクーゴを見つめている。

 

 クーゴ・ハガネは三大国家勢力・ユニオンに所属する軍人である。故に、任務で様々な基地に足を運ぶことがあった。足を運ぶ機会が無い基地もあるにはあるが、情報くらいは頭に入っている。

 しかし、クーゴは現在いる基地――ニューエドワーズ基地なんて見たことが無い。否、そもそもの段階で、ニューエドワーズなんて名前の基地は、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 なのに、仲間たちは当たり前のようにこの基地のことを知っている。ここをユニオン領の基地だと認識し、あそこで暴れる同名の機体を“天使”たちだと認識し、作戦行動に入ろうとしていた。

 

 一度沸き上がった疑念は止まらない。

 クーゴの脳裏に浮かんだのは、つい数分前にダリルとグラハムが交わしていたやり取り。

 

 

『各地のOZ基地が全滅したって本当ですか!?』

 

『ああ……。“天使”は分散して、個々同時に攻撃を仕掛けたらしい』

 

『ヒュウ~♪ やれやれ、“天使”とやり合うのが恐ろしくなってきましたよ!』

 

 

「OZなんて軍隊、三大国家に属する国でも、どの国にも属していない国にも存在してない」

 

 

 口に出す度に、違和感が色濃く滲み出てくる。

 

 

「勿論、この基地で防衛に当たっている量産機(モビルスーツ)だってそうだ。あんな機体、見たことも聞いたこともないぞ」

 

 

 ここはおかしい。

 何かがおかしい。

 何もかもがおかしい。

 

 否――

 

 

「おかしいのは、()()()()()()()()か――?」

 

「――! そうか、そういうことか!!」

 

 

 クーゴが思わずそう零したのと、グラハムが驚愕に目を見開いたのはほぼ同時。

 何かに納得したように、グラハムが顔を上げた。不敵な笑みを浮かべていたはずの横顔には、溶岩のような激情が煮えたぎっている。

 

 

「何故だ。何故、今まで忘れていた!? 何故今まで気づけなかった!? 何故、何故、私は……っ!」

 

 

 自分で自分自身を殺しかねない勢いで叫んだグラハムの様子からして、やっと気づいたのだろう。彼が追いかけていた“天使”に対して不誠実な真似をしていたことに。クーゴも叫び散らすグラハムの気持ちが(わかりたくないのに)わかってしまった。

 あの5機は、自分たちが追いかけていた“天使”ではない。同名ではあるが、全くの別物だ。何故自分たちは、これらの機体を『自分たちが鹵獲しようとしていた機体』だと認識し、追いかけ続けていたのだろうか。

 

 

「……最悪の極みだな」

 

 

 怪訝そうに首を傾げるフラッグファイターたちを尻目に、グラハムは力なく笑った。

 

 

「“愛しの君”を見間違えた挙句、全くの別物(べつじん)に対して現を抜かしていたとは。これでは示しがつかんよ」

 

「ボケていたのはお前の方だったな」

 

「悪かったからもう言わないでくれ」

 

 

 ボケたと言われて嬉しい奴はいない。仕返ししてもバチは当たらないだろう。クーゴはグラハムの傷に塩を塗りこめつつ、もう一度この場を確認してみる。

 “天使”と同じ機体名を有する別物は、OZと呼ばれる軍隊の基地で大暴れを繰り広げていた。量産機たちも必死になって防衛に当たるも、あっという間になぎ倒されていく。

 つい先程まで、クーゴとグラハムはニューゲート基地のことにも、5機の別物のことにも、OZやその軍部のエースパイロットなどの情報についても、違和感なく“そういうものだ”と認識していた。

 

 否、『認識させられていた』のだ。クーゴやグラハムのような人間が知覚できないような“何か”によって。運がいいのか悪いのか、クーゴとグラハムは違和感からそれに気づき、思い込みを振り払った。クーゴとグラハムは顔を見合わせて頷いた後、友軍たちに視線を向け――思わず息を飲んだ。

 

 確かに友軍たちは、クーゴとグラハムを見返している。心配している者、怪訝そうな顔をしている者、狼狽している者など、表情は様々だ。

 だというのに、どうしてか、彼らの表情から生気を感じない。何度目を凝らしても、精巧な作りをした人形のように見えるのだ。ぞわりと悪寒が背中を駆け巡る。

 

 

「グラハム中尉までどうしたんです? おかしなこと言い出して……」

 

「近寄るな!」

 

 

 気遣うような口調で声をかけてきた()()()()()()()()()()()を一喝したグラハムは、怒気を滲ませた眼差しで彼らを射抜く。即座に戦闘態勢を取った彼の傍に控えるような形でクーゴも身構えた。

 

 

「敢えて問おう。――貴様らは一体、何者だ!?」

 

「友軍の皮を被ってたんだ。返答によっては容赦しないぞ……!」

 

 

 グラハムの問いかけ/クーゴの宣言を聞いたフラッグファイターたちは暫しこちらを見返していた。相変わらず、心配している者、怪訝そうな顔をしている者、狼狽している者など、彼らの表情は十人十色。精巧な作りをした人形のように見えるという違和感さえなければ、きっと何もおかしなところはなかったであろう。

 暫し沈黙と睨み合いが続いて、どれ程の時間が経過したのか。――刹那、フラッグファイターたちの表情が一瞬で抜け落ちた。先程まで浮かんでいた感情なんて嘘だったんじゃないかと思うくらいの激変ぶりに、クーゴとグラハムはぎょっとする。静から動への鮮やかな変貌具合は、いつか見た日本産ホラー映画を思い出させた。

 変わったのはこの場にいた友軍たちだけではない。ニューゲート基地を防衛していたOZの量産機も、量産機相手に一騎当千の活躍をしていた機体も、動きを止めてこちらを凝視していた。誰も彼もが能面みたいな無表情。先程とは違って、誰も何も言葉を発しなかった。それが余計に不気味さを引き立たせている。

 

 まだ戦ってすらいないのに、嫌な汗がどっと流れ落ちた。

 喉の奥に蓋でもされてしまったのか、何も言葉が出てこない。

 

 そして――次の瞬間、()()()()()()

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 クーゴに《聴こえた》のは、ガラスにひびが入って割れたような高い音。それが合図となったかのように、喧騒が戻って来た。

 端末に表示されているのは動画サイトの音楽プレイヤー。映像再生が終わったらしく、既に真っ暗になっている。

 

 

(何だ、今の)

 

 

 先程の現象には覚えがある。あれはヴィジョンだ。しかも、先程までの光景は“クーゴにとって身に覚えのない状況や知識”――虚憶(きょおく)

 

 クーゴが視聴していた動画は、歌い手と呼ばれる配信者が投稿した歌だ。歌い手とは、Web上にある動画サイトに曲を歌った映像を投稿している者を指す。アイドルや歌手のような事務所が売り出しをバックアップしているのとは違い、個人で歌を録音して動画を編集・投稿するというやり方で自由に活動していた。

 歌い手という文化に精通していないクーゴが何の気なしに開いたのは、【エトワール】というハンドルネームで活動している女性の歌い手だ。彼女の動画再生数やフォローしているユーザー数を見る限り、界隈でも有名人なのだろう。投稿履歴を確認すれば、クーゴがグラハムと出会って間もない頃から投稿を始めていたようだった。

 

 一通り情報を確認したクーゴは、先の現象を再現するために再び動画を開こうとした。だが――

 

 

「……あれ?」

 

「どうしたクーゴ。何があった」

 

 

 クーゴが異変に気付いたのと、丁度その場をグラハムが通りかかったのはほぼ同時。

 奴はクーゴが返答するよりも先に、クーゴの端末を覗き込んでいた。

 半ば強引な相方の姿に内心苦笑しつつ、クーゴは状況を説明する。

 

 

「ついさっきまで何の気なしに動画を視聴してたんだけど、ちょっと気になることがあってな。もう一度同じ曲を聞こうとしたんだよ」

 

「『URLが間違っています』と出ているが?」

 

「そうなんだよなぁ」

 

 

 首を傾げつつ、クーゴは端末を操作する。しかし、クーゴのできる範囲では、先程の動画を発見することは叶わなかった。

 顎に手を当てて悩むクーゴを見かねたのか、グラハムが突如動き出す。

 

 

「幸い他にも動画があるようだし、そちらで代用できるかもしれない。聞いてみたらどうだ?」

 

「あ、こら。人の端末を勝手に操作しない!」

 

「分かった。では失礼」

 

「イヤホン強奪するのも駄目!」

 

「失礼と言った!」

 

「そう言えば何でも許されると思ってるんじゃないよ、このおばか!」

 

 

 勝手に端末を操作した挙句、クーゴからイヤホンの片方を強奪して勝手にシェアし始めたグラハム。文字通りの暴挙に対し、クーゴは思わず苦情を入れた。

 「親しき中にも礼儀は必要ではないのか」と言いかけた直後、そのタイミングで動画再生が始まる。

 

 そして――次の瞬間、()()()()()()

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 クーゴとグラハムの愛機(専用カスタムフラッグ)が、数分間目を離した隙になくなってた。

 何を言っているのかわからないと思うが、クーゴたちも何が起こったのか全然わからない。

 

 愕然と佇むグラハムの背中を叩いたのは、2つのゼロを冠する“天使”を駆っていた“革新者”の女性だった。彼女は『訳の分からない世界に放り出されて四面楚歌状態だったクーゴとグラハムを助け、この部隊に迎え入れてくれた恩人』の片割れでもある。

 “革新者”の女性の表情も晴れない。何とも言い難そうな表情を浮かべて、彼女はふるふると首を振った。その様子からして、どうやら彼女の愛機も似たような被害に合ったらしい。恩人の片割れたる指揮官殿は何を考えているのだろう。『幾らパイロットがいても、機体が無ければ意味がない』ことは、指揮官殿が一番わかっていそうなことなのに。

 グラハムはぼんやりと格納庫を見上げていたが、変わらぬ現実に打ちのめされてしまったようだ。愛機の名前を呼びながら、がっくりと膝をつく。気のせいでなければ、彼の肩がプルプルと震えていた。その様子があまりにも不憫で――同時に、酷く物珍しいものに見えて、クーゴは思わずグラハムに問う。

 

 

「泣いてるのか?」

 

「泣いてなどいない!」

 

 

 キッ! とグラハムはクーゴを睨む。普段は彼を見上げているのだが、彼を見下ろす構図は珍しかった。

 

 言葉とは裏腹に、グラハムは泣きそうなのを耐えている。口はへの字に歪み、新緑の瞳にじわりと涙がにじんでいた。

 自分が大切にしていた愛機がなくなってしまったのだ、無理もない。落ち込む気持ちはよくわかる。

 

 クーゴの場合は、諦め半分で達観していた。普段からグラハムに振り回されてきたのだ。多少のことなら動じないでいられる。

 ただ、今回はかなり斜めにかっ飛んだ状況に置かれていた。人間、想定外のことに遭遇すると茫然とすることしかできないとは、本当のことらしい。

 女性はグラハムの肩を叩いた。彼女は口数が少ないが、相手を思いやれる優しさを持っている。

 

 

「大事な機体だったんだな。その気持ちはよく分かる」

 

 

 女性はうんうんと頷く。

 そうして、重々しくため息をついた。

 

 

「これは、指揮官からの提案なんだ」

 

「提案?」

 

 

 クーゴの問いかけに対し、女性はどこか遠くに視線を向けた。

 今までの出来事――戦いの日々を思い返しているかのように。

 

 

「今までずっと戦い続きだったろう。ワールドシグナルを止めるため、偽りの歴史を生み出す“呪われた黒い不死鳥”を追いかけてきた」

 

「最初の頃は大変だったな。俺とグラハム、キミと指揮官の4人でどうにか遣り繰りしてさ。人員や戦艦、機体とかに余裕が出来たの、最近になってからだっけ」

 

「ああ。そんな状況を見ていた指揮官が、今までの慰労を兼ねて企画したようだ。……突発的な“シャッフル乗せ替え”をな」

 

 

 その単語にグラハムとクーゴは顔を見合わせた。首を傾げた自分たちに、女性は訥々と説明を始める。

 

 どうやらこれは、指揮官の思い付きで企画された“お遊び企画”らしい。曰く、『戦い詰めである自分たちの気分を紛らわせるためには、このような娯楽が必要なのだ』という。確かについ最近まで、クーゴたちはジェネレーション・システムの異変を解決するために奔走しっぱなしだった。小休止はあれど、殆どが戦場を飛び回っていたように思う。

 指揮官の考え――常に戦い続けてばかりでは心を病んでしまうため、定期的に娯楽でガス抜きをする必要がある――は間違ってはいない。前線で戦い続けているクーゴたちを労わろうと思った結果なのだろう。……最も、そのために講じた手段については、お茶目と言えばいいのか、悪質だと言えばいいのかは分からなかったが。

 向う側から悲鳴が聞こえた。喧騒はあちこちに広がっていく。他の部隊も似たような被害にあったようだ。どこもかしこも、悲喜こもごもの大騒ぎ。自分の機体の行方を問う者もいれば、今回の“シャッフル乗せ替え”で搭乗することになった一時の相棒に対して感想を零す《聲》が《聴こえて》くる。

 

 背後の扉が開き、メカニックたちがやって来た。乗せ換え用の機体が用意できたことを伝えに来たようだ。

 誰も彼もが苦笑を浮かべている。端末に、今回自分たちが乗ることになる機体の名前が表示された。

 

 

(……■■■■アストレイ・レッドフレームか。確か、コズミック・イラの機体だったな)

 

 

 端末をスクロールし、情報を確認する。この機体は誕生間際に遺伝子改造を施された人種・コーディネーター()()()()普通の人間――ナチュラルが使用していた赤い機体であるが、元の持ち主がOSに手を加えたり、疑似人格コンピューターによるバックアップを受けていた。刀を使った接近戦を得意とする機体である。

 この機体の弱点を挙げるとするなら、『空中適性が無いため、空中ステージでは戦闘が行えない』という部分だろうか。空を愛するフラッグファイターにとっては致命的だと言えよう。クーゴは思わず落胆したが、頭を切り替える。この機体――アストレイ・レッドフレームでどう戦うか、作戦を練らなければ。

 

 何より、グラハムや他の仲間たちとの連携についても考えなくてはならないだろう。

 

 そのためには、まずグラハムの機体について把握しなければならない。

 クーゴは端末を操作し、機体情報を確認する。機体名はゴッド■■■■。

 名前を見た瞬間、何の脈絡もなくぞっとした。恐る恐るグラハムへと視線を向ければ、奴は子どものようにキラキラと目を輝かせている。

 

 

「クーゴ、“革新者”! 我々は■■■■タイプの機体で戦えるようだぞ!」

 

 

 「一度、隅々まで眺めてみたいと思っていたんだ!」なんて奴は笑っていた。その言葉は、クーゴとグラハムがこの部隊に加わることが決まった際、“革新者”の女性の機体に対して向けた発言と同じである。

 

 そもそもこのゴッド■■■■は、クーゴたちの世界でブイブイ言わせている“天使”とは似て非なるものだ。“天使”の性能の大部分を賄う特殊なドライヴは使われていないし、この機体に使われているモビルトレースシステムは、クーゴたちの世界では実用化されていない。だというのに、グラハムのはしゃぎ様。余程■■■■が好きなのか。

 子どものように大喜びするグラハムに、“革新者”の女性は静かに目を細める。何かを懐かしむような瞳の奥から、深い慈しみと悲しみが滲み出ていた。彼女の過去に何があったかは知らないが、彼女自身が決して語ろうとしないだろう――そんな予感がした。

 

 

『ジェネレーション・システム起動。ステージを再現します』

 

 

 無機質なシステムアナウンスが響く。戦闘が始まる合図である。

 自分たちはメカニックに挨拶し、戦闘準備に入った。パイロットスーツに着替え、指定された機体へ飛び乗る。

 

 

『皆さん、出撃してください! 指揮官、行きます!』

 

 

 指揮官の指示が飛んだ。パイロットたちは頷き、次々に宇宙(そら)へと飛び出していく。

 

 

「ウイング■■■■ゼロ。“革新者”、未来を切り開く!」

 

「ゴッド■■■■! グラハム・エーカー、出るぞ!」

 

「■■■■アストレイ・レッドフレーム。クーゴ・ハガネ、出る!」

 

 

 “革新者”の女性に続いてグラハムが、グラハムに続いてクーゴが、宇宙へと飛び出した。

 

 

 

*

 

 

 

「ゴッド・グラハムフィンガー! ヒート・エンド!!」

 

 

 奴の拳が黄金(こがね)に爆ぜる。敵を倒せと轟き叫ぶ。終いには、元の機体の持ち主に無断で技を改名してしまった。

 まともに一撃を喰らった機体は、耐えきれずに爆発四散。視覚的にも威力的にも、ゴッドフィンガーはオーバーキル過ぎるのだ。

 文字通りの一騎当千である。「もうこいつ1人でいいんじゃないかな」と言いたくなるような光景であった。

 

 これはひどい。とにかくひどい。べらぼうにひどい。

 

 

(始末書どころか裁判沙汰だ)

 

 

 ゴッド■■■■の持ち主――ドモンからは、何か言いたげな視線が突き刺さってくる。彼の場合、始末書や裁判よりも■■■■ファイトを所望するのか。

 いずれにしろ、ロクなことになりゃしない。胃がキリキリと痛むのを感じながら、クーゴはため息をついたのだった。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

(今の虚憶、さっきのとは違うな……)

 

 

 忽然と姿を消してしまった歌と、今でも問題なく再生できる別の歌から《視た》異なる虚憶(きょおく)に思いを馳せていたクーゴだが、隣にいる男が異様に静かであることに気づいて試案を中断した。同じイヤホンをシェアして歌を聞いていたグラハムは微動だにしない。

 

 歌によってヴィジョンを介した虚憶(きょおく)の共有を可能にするクーゴだが、予め録音されたものであれば虚憶(きょおく)の共有は発動しない。ただし、『それがリアルタイムの肉声である』ならば、スピーカー越しでも発動してしまうという欠点がある。

 「リアルタイムの行動でなければ、コーヴァレンター能力は発動しない」というのが、30年弱の研究で定着した説だ。動画は録画・録音されたもののため、本来ならヴィジョン共有現象は発生しない。だというのに、現に今、それが発生している。

 先程共有させられたヴィジョンの虚憶(きょおく)はクーゴ自身のものだ。何の疑問もなく、その事実がすとんと胸に落ちてくる。この歌声の主も、自分と同じコーヴァレンター能力者であり虚憶(きょおく)持ちだ。証拠は一切ないものの、なぜか強い確信があった。

 

 

(でも、今まであんな虚憶(きょおく)は見たことがなかった。どうしていきなり出てきたんだ? しかも、本来ならヴィジョンの共有現象なんて起きないはずなのに)

 

 

 考えてみたものの、その方面に精通していないクーゴには見当もつかなかった。

 

 研究が進められているとは言えど、『まだまだコーヴァレンター能力は未知数な部分が多い』とは研究者たちの談である。

 今回のケースが今後の研究に役立てばいいのだが。後で研究員やチームメイトらにも報告しよう、とクーゴが思ったときだった。

 

 瞬きひとつしなかったグラハムが、弾かれたように立ち上がった。その勢いで、彼の耳についていたヘッドフォンの片割れが吹っ飛んで床に落ちる。

 

 

「ゴッドフィンガーだ」

 

 

 グラハムの瞳が輝く。エメラルドを思わせるような緑色には、光で満ち溢れているようだった。

 その横顔は、いつ見ても自分と1つ違いだとは思えない。むしろ一回り年が離れているように感じる程だ。笑顔が眩しい。

 

 そういえば、彼が呟いた言葉は聞き覚えがあった。先程見えた、クーゴの“新しい虚憶(きょおく)”。

 

 

「……ゴッドフィンガー?」

 

「ああ。ゴッドフィンガーだ」

 

 

 子どもがいる。目の前に、20代後半のでっかい子どもがいる。グラハムは念を押すように、「ゴッドフィンガーだよ、クーゴ」と笑った。

 嫌な予感がした。最初は漠然としたものだったのだが、少し離れた廊下で見かけたビリーの姿に確信に変わる。

 案の定、グラハムはわき目も振らずにビリーの元へ駆けだした。ボールを追いかける犬を思わせるような走りっぷり。慌ててクーゴも追いかける。

 

 

「カタギリー! ゴッドフィンガー、ゴットフィンガーだ! 私は是非とも、ゴットフィンガーが打ちたい!」

 

「ゴットフィンガー? なんだいそれ?」

 

 

 グラハムの言葉に、ビリーが首を傾げる。

 クーゴはビリーの肩に手を置いて、己の頭の中に浮かんだ未来予想図を告げた。

 

 

「やめとけビリー。どう考えても、お前が過労死する未来(まつろ)しか見えない」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 動画編集は趣味で何度かこなしたことがある。だが、自分の歌を動画にして投稿するのは初めてであった。

 

 機材の使い方はマニュアルを熟読したから何とかなりそうだ。マイクの準備もばっちりだし、部屋の遮音性は優秀である。研究者と上層部にダメもとで掛け合ったのだが、世の中はどうにかなるらしい。快く許可を出してもらった。

 今回もチームメイトたちに集まってもらっている。虚憶(きょおく)の情報は1つでも多く収集しておきたい。彼らの雑音が入ったとしても、編集でかき消すことは可能だ。身も蓋もない発言だが、報道業界では『そういう手段がまかり通って問題になった』ケースが後を絶たない。

 

 記録媒体からヴィジョンの共有を可能とする歌い手・エトワールと関わりを持つ方法を考えた結果、“歌い手仲間として接触した方が安全ではないか”とクーゴは思い至った。

 インターネット上で活躍する人間とリアルで顔を合わせるには、掲示板やコミュニティを使い、且つ、その人物と共通の話題を使って関わるのが一番手っ取り早い。

 エトワールに関する情報は『女性の歌い手であること』以外手に入らなかった。そこで、クーゴは閃いたのだ。『自分も歌い手として活動すれば、エトワールと関わりが持てるのではないか』と。

 

 

(我ながら突拍子のない案だとは思ってたし、この案が通るわけないと思ってたんだけど……)

 

 

 クーゴの拙い案にGoサインを出してくれた上司の煤けた表情を思い返す。我が軍におけるサイバー調査の専門家たちが、歌い手・エトワールの調査に乗り出したときのことを。

 幾ら追いかけても彼女に辿り着けないばかりか、捜査員の汚職やスキャンダル――規模や大小問わず――が次々とマスコミにリークされて大騒ぎになった一件は、今でも燻り続けている。

 

 

『このままいったら、我がユニオンが別な意味で壊滅してしまう。これ以上、軍部のイメージダウンに拍車がかかるのは困るんだ』

 

 

 上司はそう言って頭を抱えていた。ここ数週間はスキャンダルの火消しに奔走していたためか、すっかり窶れてしまっている。それでもまだ騒ぎや余波が残っているため、彼の尽力が必要であることは明らかだ。

 エトワールには“情報を自由自在に操れる後ろ盾(パトロン)”がついているらしい。うかつに手を出せば、社会的な死は免れない。――とまあ、そんな切実な背景があって、クーゴの意見が採用されるに至ったという話だった。

 

 今回は、歌い手仲間として近づくために必要なこと――同じ歌い手としてデビューするための下準備なのだ。

 

 

「で、どの曲を歌うんですか?」

 

「これ」

 

 

 ダリルの問いに、クーゴは迷わず曲名を指さす。音源の準備は完璧だ。音声だけを消すくらい、なんてこともない。

 多元世界の虚憶(きょおく)を集めるために、何度も歌ってきた曲の1つなのだ。その中でもこの曲は、とても思い出深いものだった。

 

 

「おお、この曲か!」

 

「僕らの“はじまり”の曲だね。最初の活動で、一番初めにクーゴが歌ったのがこの曲だった」

 

 

 グラハムとビリーが目を輝かせた。他の面々も懐かしそうに微笑む。

 思えば、“多元世界技術解析および実験チーム”の面々とも長い付き合いになったものだ。

 

 

「準備はいいな?」

 

「ばっちりです!」

 

「うむ、いつでもいいぞ!」

 

 

 頷いた彼らを見て頷き返した。機会を操作すれば、イントロが流れ始める。クーゴは息を吸い、旋律を紡いだ。

 

 空を愛した男がいた。男は、空を飛ぶために様々なものを捨ててきた。それでも男の手の中には、かけがえのないものが輝いていた。大切な友人、大切な仲間たち、尊敬できる人々。

 ある日あるとき、男は偶然にも、“天使”が降り立つ瞬間に居合わせた。その瞬間、男は恋に落ちた。男は天使を追いかける。「これは運命だ」と笑いながら、“天使”を捕まえるために空を駆けた。

 “天使”を愛し、“天使”に焦がれた男。彼女を追いかけていくうちに、男は世界を動かす悪意に触れる。混迷する世界は“天使”を「倒すべき悪」と認識し、彼女らを撃とうと動き出す。

 

 空を飛ぶこと以外能のない男では、世界の動きを止めることなど不可能だった。それでも男は、“天使”から視線を外そうとはしない。唯真っ直ぐに、一途に、“天使”の行く末を見つめていた。“天使”を愛する者として、彼女の好敵手であろうとし続けた。

 だって自分たちは《分かり合えていた》。追う者と追われる者同士という関係でありながらも、最後は敵対者として戦場で向かい合うことになろうとも、確かに心を通わせていたのだ。それを裏切らないために、男は果て無き宇宙(そら)を駆る。最愛の“天使”が待つ場所へ向かって。

 

 

「どこからどう見てもバッドエンドなのに、どうしてこんなに澄み渡るような気持ちになるんだろう」

「世界情勢が悲劇的でも、当人たちがお互いのことを《分かり合っていた》からじゃないか? だから、あの選択を選んだんだ」

「こんなに前向きな離別あるんだ……。お互いが納得してるってのが唯一の救いなんだろうな」

「そんなの無理だって分かってる。お互いの立場的に許されないって分かってる。――でも、2人には、幸せになって欲しい……」

「愚かだって? 失礼な、純愛だよ。もしくは殉愛(じゅんあい)。今俺がそう決めたから、あれは愛なの!!」

 

 

 面々は複雑そうに虚憶(きょおく)の感想を述べあう。その気持ちは、クーゴにもわからなくない。

 だがしかし。この場で唯一、違う反応を示している男がいた。グラハムである。

 

 緑の瞳は虚空を見上げ、口元には柔らかな笑みを浮かべていた。何かに見とれているのか、うっとりとしている。その眼差しはどこか熱っぽい。

 普段通り「記録しないのか」と仲間たちに問えば、弾かれたようにビリーやハワードたちは動き出す。それに対して、グラハムは一切反応しなかった。この曲を歌うときはいつもそうである。

 最初のうちは、皆がグラハムを心配して声をかけたものだ。しかし、グラハム本人の「大丈夫だ」宣言もあって、今では皆虚憶(きょおく)の整理に集中するようになった。

 

 正直に言おう。彼のこんな姿は、何度見ても慣れない。

 

 記録を終えて、クーゴはグラハムの方を向き直った。彼の眼差しは相変わらず虚空に向けられている。口元には、幸せそうに緩んだ笑み。まるで、情人に愛を語らうかのような佇まいだ。奴に恋人はいないけれど、恋人がいたらこんな感じかとクーゴは思う。

 次もまた、同じ曲を歌う。今度はバックコーラスを録音した。バックコーラスからも虚憶(きょおく)のヴィジョンは共有できるようで、皆がまた複雑そうに眉をひそめる。やはり、グラハムだけは笑っていた。

 

 

「どれだけの“天使”が現れようと、私の心を射止めたのはキミ……。美しき光と共に、我が眼前に降り立ったキミだ」

 

 

 甘ったるい声で、グラハムは囁く。ここにはいない“誰か”へと。

 

 

「誰が何を言おうとも、キミは確かに私の“運命の相手”だよ。……過去も、今も、そしてきっと――未来(これから)も」

 

 

 どこまでも真摯な眼差しで。/痛々しいほどの笑顔で。/歯に浮くような台詞で。/一切の冗談などない響きで。

 グラハムは、確かに“天使”への愛を語っていた。 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「会いたかった……! 会いたかったぞ、■■■■ゥゥゥ!!」

 

 

 ブリタニア・ユニオンに所属するオーバーフラッグス隊の中で、一際異様なテンションを纏う機体が1つ。あのノリからして、パイロットは刹那にお熱な“乙女座の男”であろう。

 機体名を呼ばれたパイロットたちが険しい表情を浮かべる。特に、エクシアを駆る■■■■マイスター――刹那・F・セイエイが頭を抱えたそうにしている姿が《視えた》。

 

 AEUの新型兵器のお披露目会で出会った当初から、彼はガンダムタイプの機体にご執心だった。彼の副官や他の部下たちが困った様子で顔を見合わせる程度には。

 それ以前から、“乙女座の男”は刹那に対して一途に愛を叫んでいた。2人のやり取りを見ていた自分が思わず頬を緩ませ、巻き込まれた副官が頭を抱える程度には。

 一途と言えば聞こえはいいが、その一途さが大変なことになっている。現状の混沌っぷりをより一層引き立てているように感じた。

 

 理由は単純明快。■■■■と名のつく機体(もの)は、この場に()()()()いたからだ。

 

 自分が所属する私設武装組織が有する機体、オペレーション・メテオを遂行するために生み出されたコロニー製の機体、異世界から迷い込んできた機体などより取り見取り。“乙女座の男”がテンション鰻登りになる様子がはっきりと《視えた》。

 この多元世界には様々なロボットが集っている。だが、私設武装組織が把握しきれていなかっただけで、世界には■■■■と名がつく機体が沢山あった。刹那が駆る機体に執着する“乙女座の男”にとっては、何かしら思うところがあるのだろう。

 

 

「■■■■がこんなにも! ああ、目移りしてしまうなぁ!!」

 

 

 “乙女座の男”は今日も単騎フルブラスト。三大国家陣営における主力の一角を担っている。

 

 

「私の邪魔をする者は故事にのっとり、馬に蹴られるものと思え! うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「た、隊長ー!?」

 

「自分で陣形乱してどうするんですかー!?」

 

 

 フラッグファイターを率いる隊長でありながら、自ら率先して突っ込んでいく隊長機。後方にいた部下たちが呆然としている中、迷うことなく“乙女座の男”のフォローに飛んだ機体があった。

 

 

「部下を置いて突撃するんじゃないよ、このおばか!」

 

「やはり、キミなら来てくれると思っていたぞ!」

 

「お前の無茶を止められないんだから、フォロー(こう)するしかないじゃないか!」

 

 

 普段は『隊長の無茶を止めるのが自分の仕事だ』と自負している副官――“空の護り手”であるが、『暴走する隊長を押さえられない』と判断したときの対応もお手の物らしい。隊長がやろうとしていることを察知し、それが円滑に行われるよう、露払い役を買って出る。相変わらず優秀な男だ。敵ながら惚れ惚れしてしまう。

 

 “乙女座の男”が焦がれる■■■■だらけの戦場で、彼は誰と踊るつもりでいるのだろうか。翼を持つ“天使”か、自由の名を冠した“天使”か、運命の名を冠した“天使”か――ある程度の予想を立てていた自分であったが、その予想は全て裏切られた。

 翼を有する“天使”も、自由の名を冠した“天使”も、運命の名を冠した“天使”も、みんな違う相手と戦っている。“乙女座の男”の気配を辿れば、彼は迷いも躊躇いも無く一点を目指していた。自分が所属する私設武装組織が有する機体――刹那が駆る“天使”の元に。

 

 

「いたか! 我が愛しの“天使”よ!」

 

「なんであんたが俺の方に来るんだ……」

 

 

 嬉々とした“乙女座の男”とは対照的に、刹那は酷く困惑していた。<■■■■は自分以外にも沢山いるのだから、そっちの方へ行け>という声が《聴こえて》くる。

 しかし“乙女座の男”はそんな刹那の気持ちなど知ったことではないのか――或いは敢えて無視しているのか、気にすることなく彼女を口説き始めた。

 

 

「どれだけの“天使”が現れようと、私の心を射止めたのはキミ……。美しき光と共に、我が眼前に降り立ったキミだ!! あの日の甘美なときめきが今の私の胸にある……! そう……それこそが、私をこうも突き動かす!!」

 

<……どうして俺は、こんな奴のことが好きなんだろう……>

 

 

 文字通りの熱烈なアピールだ。友人が語っていた“告白シーン”の1つが脳裏を駆ける。多分、“乙女座の男”にこの話を持ち掛ければ、それを一文字一句再現してくれそうだ。勿論、発言全てが彼の本心、或いは本音となるだろう。

 『愛を語るには叫ぶ必要がある』と言わんばかりに口説き文句を熱弁する“乙女座の男”と、『愛は惜しむほどに大切にする』を地で行くタイプ故に顔を真っ赤にして頭を抱えたそうにしている刹那。今このとき、確かに2人は互いのことを想いあっていた。

 だが、今の2人は追う者と追われる者同士である。己の立場を忘れていない2人の心を表すように、フラッグとガンダムが激しくぶつかり合った。“乙女座の男”も刹那も、お互いを心底信じあっており、且つ、『公私はきちんと分けて動く』タイプ人間であるが故に。

 

 火花を散らし合う両機を視界の端に捉えつつ、自分も敵機を撃墜していく。『■■■■が沢山いて目移りしてしまう』などと発言していた“乙女座の男”であるが、それはあくまでも“倒すべき相手”としての側面が強いのだろう。名実ともに特別な相手は、刹那・F・セイエイと彼女が駆る“天使”だけなのだ。

 本人の自己申告以上にまっすぐな上に、一途で誠実な男である。彼が刹那に向ける想いは本物だ。それを真正面から喰らった刹那は呆れつつも、それを無下にすることなく真っ直ぐ受け止め返していた。そこまで想い合えることは幸せだと言えばいいのか、前途多難だと言えばいいのか。

 

 そんなことを考えている間に、こちらにもフラッグが近づいてくる。“乙女座の男”のフォローに飛びまわっていた“空の護り手”だ。

 

 彼は二刀流の構えを取ってこちらの出方を伺っていた。最初の遭遇では射撃による援護を主体としていたためスナイパータイプかと思っていたが、本業は二刀流剣術による格闘戦らしい。

 “空の護り手”が駆るフラッグがぼんやりと発光する。彼自身も、周囲で戦う仲間たちも、きっとこの事態に気づいてない。“空の護り手”もまた、“目覚め”が近いのだろう。

 

 

(惜しむべきところは、あの副官(ひと)と同じ部隊で立つ機会は『まだ先』ってことかな)

 

 

 操縦桿を握り締めつつ、自分の持っている『力』を機体へと送る。青い光が輝いていることを、この場にいる誰が気づいているだろうか。

 

 “空の護り手”が息をのんだ。違和感を感じ取ったのか、眉間にしわが寄る。

 しかし、彼はすぐにこちらに向き直った。彼の瞳をまっすぐに《視》返す。

 

 

「本気で行くぞ!」

 

「迎撃します!」

 

 

 こちらの戦いも、火蓋が切って落とされた。

 

 

 

*

 

 

 

 ――そして、“乙女座の男”が率いるオーバーフラッグは次々と撃破されていく。

 

 自分と彼は、お互い満身創痍に等しかった。あと一撃で勝負が決まるだろう。

 そのとき、視界の端で何かが爆ぜる音が響く。見れば、刹那と“乙女座の男”の決着がついたらしい。

 

 男が駆っていたオーバーフラッグが悲鳴を上げている。軍配は刹那の方に挙がったようだ。

 

 

「それでこそ、私が命を懸けて恋焦がれるだけの相手だ!」

 

 

 戦闘不能に追い込まれたというのに、“乙女座の男”は酷く嬉しそうだった。心なしか、普段よりもテンションが上がってノリノリになっているように見える。

 その様子を目の当たりにし、副官は深くため息をついた。心なしか、先程よりも萎びてしまったように見える。彼は眉間の皴を深くしつつ、咎めるように口を開いた。

 

 

「現在進行形で、墜とされかけている側が言う台詞ではないだろう」

 

「む。キミは無粋だな。今いいところなのに」

 

「おばか。愛の言葉はいいから、撤退するぞ」

 

「相変わらずひどいぞ」

 

 

 軽口を叩き合う2人はとても仲がよさそうだ。ただの上司と部下、および隊長と副官とは思えない。

 

 自分と鍔迫り合いを演じていたフラッグが離れる。本格的に撤退するつもりのようだ。無抵抗の相手を追い打ちする趣味はないので、あえて迎撃態勢を取らなかった。

 それは自分が所属するZEXISの面々も同じで、去る者を必要以上に痛めつける気はない。向うもその意図を察したようで、肩をすくませる。

 

 

「どうやら見逃してくれるらしい。気が変わる前に撤退するぞ。……ほら、“隊長”」

 

 

 隊長機は相変わらず、刹那が駆る“天使”を名残惜し気に眺めていた。勿論、搭乗している“乙女座の男”も、刹那に眼差しを向けていた。刹那に恋い焦がれてたまらないのだと叫ぶ《聲》が《聴こえてくる》。

 しかし、最後は諦めた――副官の言葉に従い、戦場から撤退することにしたようだ。引き上げの体勢に入る。が、去り際に、改めて刹那の駆る“天使”の方へと向き直った。

 “乙女座の男”の眼差しはまっすぐに彼女の方を見ていた。互いの顔なんてわからないはずなのに、2人が対面しているような錯覚に駆られていたとき――彼から自分たちへ、大音量の通信が入る。

 

 

「また会おう! それまで誰の手にも落ちるなよ、我が“愛しの君”()()よ!」

 

 

 言い残し、隊長機が撤退した。副官機の動きが止まる。

 いつの間にか、撤退を促していた副官機と立場が入れ替わっていた。

 

 あまりの爆弾発言――『■■■■であれば誰でもいい』――を耳にしたためか、■■■■の名を持つ機体のパイロットたちが目を剥く。先程、迷わず刹那の元へと突撃していった一途さはどこへ行ったのか。

 

 

「――次こそは、キミを釘付けにしてみせるさ。他の誰でもない私がな」

 

 

 刹那の眉間に苛立ちが滲んだのと、“乙女座の男”が刹那だけに向けた通信が《聴こえた》のはほぼ同時。刹那は酷く驚いた様子で隊長機に視線を向けたが、隊長機の視線の先には別の機体があった。

 刹那と因縁深い相手が駆るモビルスーツは、小学生の社長が操るロボットと鍔迫り合いを演じている。他の機体を退けた民間会社のロボットが援護に入った。短い沈黙の後、刹那が小さく頷き返す。

 ややあって、刹那の駆る“天使”が因縁の相手――“戦争屋”の元へと飛んだ。民間会社のロボットが引き、入れ替わるようにして刹那が“戦争屋”と対峙する。激しい鍔迫り合いが始まった。

 

 それを見届けた後、満身創痍のフラッグは戦場から離脱していく。その背中を見送っていた次の瞬間――()()()()()()

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 今のヴィジョンは、なんだろう。

 

 女性はぴたりと手を止めた。周囲を見回したが、特に変化はない。変わったことと言えば、今まで聴いていた歌が止んだだけだ。

 端末の画面に浮かぶのは、動画サイトの再生プレイヤーである。再生動画が終わったため、画面は真っ暗になっていた。

 

 

(この音楽を聴いて見えたヴィジョンは、私の知っている虚憶(きょおく)と全然違う。でも……この虚憶(きょおく)は、私のものだ)

 

 

 女性の持つ虚憶(きょおく)は、“世界管理システムに重大なエラーが発生したため、世界と立場を超えたMS連合艦隊を率いてプログラム修正のために戦った”というものだ。自分は指揮官兼MSパイロットとして戦場を駆けるオーバーワークに励んでいた。

 しかし、今見た虚憶(きょおく)は“異なる世界同士が不自然な形で融合し、そこで出会った人々が愛機(ロボット)を駆り、様々な侵略者から地球を守る”というものだった。その世界での自分はZEXISと呼ばれる特務部隊に所属し、世界を守るための戦いに身を投じていたらしい。

 異なる虚憶(きょおく)の共通点は、そこに登場する人々――自分が所属している団体の仲間たちや、ユニオン軍に在籍する2人の軍人――仲間の1人と1機に対して一途な愛(?)を向ける“乙女座の男”と、彼に振り回され気味な副官“空の護り手”のコンビが何度も戦場で顔を合わせていたことだろうか。

 

 

「あ、そうだ。記録しないと」

 

 

 そこまで考えて、女性はハッとして目を閉じた。先程見た自分の虚憶(きょおく)は、後学のためにまとめておく必要がある。

 誰も端末に触れてないにもかかわらず、勝手にウィンドウを開いていく。常人が見ると、わけのわからない画面がチカチカしているようにしか思えないだろう。

 

 先程、女性の脳裏に浮かんだ光景が、ドラマのワンシーンのように展開していった。

 

 個人的なことだが、自分の虚憶(きょおく)は一般流通しているハリウッド映画よりもぶっ飛んでいると思っている。

 試しに、自分が普段見ている虚憶(きょおく)をマイスターたちに《視せた》ところ、開始数分で発狂してしまって大変だったことは記憶に新しい。

 

 

『ぼ、僕は、俺は、私は! う、うわぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『どうしてお前が戦場(ここ)にいるんだ、ライルゥゥゥゥゥ!?』

 

『また僕だけハブられた……』

『今日からお前ハブラレルヤな』

『酷くない!? 幾らキミでも流石に怒るよ!?』

 

『俺もお前もガンダムだ。そうだ、皆ガンダムだ! 俺たちは分かり合える!!』

 

 

 文字通りの地獄絵図。収拾がつかなくなったため、女性の独断で手を打っておいた。虚憶(きょおく)の特性と相まって、この出来事はすっかり忘れ去られている。

 他の要因としては、“自分たちの計画を開始するための下準備が行われており、そちらにかかりきりになってしまった”という要因も絡んでいるのだろう。

 時折――主にシミュレーター関係でPTSDやフラッシュバック現象を彷彿とさせる反応を示すことがあるようだが、マイスター間はおおむね平穏であった。

 

 画面いっぱいに展開していたウィンドウ画面が閉じる。残されたのは、再生が終わったメディアプレーヤーのみ。

 

 この歌を歌った歌い手のユーザーネームは【夜鷹】。投稿された動画はこの曲のみ、投稿日時は5時間前、再生数は2桁を超えるか否か。新人歌い手としてデビューしたばかりのようだった。

 ユーザー情報は殆どが不明となっており、辛うじてわかるのは男性であることくらいだ。サムネイルも動画も1枚絵で、夜明けの海と鐘がある時計塔のイラストが使われているだけ。

 

 

(彼こそ、“私たち”が探し続けた《力》の持ち主)

 

 

 女性には見当がついていた。この歌を歌った人物が、自分と()()であることも。この歌が、彼の仕掛けたトラップであることも。

 

 

(――そして、私がずっと会いたかった《相手》でもある)

 

 

 全てを知っている上で尚、女性は口元を綻ばせていた。彼と顔を合わせるその瞬間(とき)が待ち遠しくて仕方が無かったのだ。

 

 

「……ええそうね。“私たち”は、貴方のような人をずっと待っていた。――貴方に会える瞬間(とき)を、ずっと待っていたの」

 

 

 女性は迷うことなく投稿者の名前をクリックした。メッセージ欄を開き、文字を打ち込んでいく。そして、送信ボタンを押したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

「わんっ!」

「ダーリン! お前ロリコンじゃったのか!?」

「フフフ…ハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハ!! アヒャヒャ! ヒャーハッハッハッハ!」

「レーベン…ああ…レーベン!!」

「僕はね…ぶつのも、ぶたれるのも、大好きなんだよ!」

 

 

「カイメラ隊はー?」

「病気ー!!」

 

 

 クーゴの歌ってみた動画を視聴したとあるアイドルが、そこから見た虚憶(きょおく)から“とある虚憶(きょおく)”を連想し、電波ソングをリリースすることを。

 

 

 

 

「運命だ……」

 

「は?」

 

「彼女こそ、私の運命だ! 間違いない!!」

 

「何を言っているんだ、お前は」

 

 

 クーゴに同行していたグラハムが、“彼女”と運命の出会いを果たすことを。

 

 

 

 

「大佐ぁぁぁぁ! 俺と石破ラブラブ天驚拳を一緒に打ちませんかーっ!?」

 

「ルイス! 僕と一緒に……」

「沙慈! 私と一緒に、石破ラブラブ天驚拳を打ってほしいの!」

「ルイス……!」

「大丈夫よ、私たちならできるわ!!」

 

「少女よ! 私と一緒に、石破ラブラブ天驚拳を」

「俺に触るな!!」

 

 

 何故か巷で『石破ラブラブ天驚拳』が流行語になることを。

 

 

 

 

「あれ? どうしたんですか、ハガネ少佐」

 

「いや、俺の目の錯覚かな。“空に咲いた花”に、何か刻まれているような…………相合傘?」

 

「下に名前が書いてあるぞ」

 

「何々? “革新者”と……」

「その隣には、少佐の名前が書かれてますね」

 

「なぁっ!!!?」「なんと!?」

 

 

 クーゴの虚憶(きょおく)で、世界三大告白シーンの1つが再現されたものが出てくることを。

 

 

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難が始まるまで、もう少し時間がかかるようだ。




【参考及び参照】
Kurashiruより
『夜空のような白桃ようかん』


【推奨BGM】
現実/“天使”に焦がれて:<DAYBREAK'S BELL>『L'Arc〜en〜Ciel』
虚憶/愛しの“天使”:<DAYBREAK'S BELL>(第2次スーパーロボット大戦Z)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。