問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



1stシーズン中盤でヒドイことになってて草ァ!!
23.小康状態


 

 “何者かにユニオン軍の施設が一部ジャックされ、ガンダムが武力介入を行う映像の一部が放送された”――。

 

 普通ならば、かなり大きな問題になっているはずの出来事である。だが、あの場に居合わせた情報系列の関係者に問いかけても、彼らは口を揃えて『そのような事態は起こっていない』と答える。クーゴとグラハム、ハワードとダリル、ビリーとエイフマンの組み合わせで人海戦術を行ってみたが、全員が同じ答えを返していた。

 しかも全員が“ある一定の反応”――最初は本当に困惑している様子で対応してくれるのだが、しつこく問い詰めようとすると殺気漂う無機質な雰囲気に変化していく――を示すのだ。本能的に命の危機を感じてしまい、結局それ以上深堀り出来ずに終わってしまう。最終的には『ガンダム調査隊が変なことを聞き回っている』という噂が流れ、上司に呼び出されるに至った。

 

 

『キミたちの言うような事態は発生していないぞ。軍が何者かの手によって施設の一部を乗っ取られるなんて事象が発生していたならば、我が軍そのものの沽券に関わる。もっと大騒ぎになって然るべきだろう』

 

『――まだ、何か?』

 

 

 一応上司にこの一件を聞いてみたのだが、彼の反応も他の人々と同じだった。唯一の相違点があるとするなら、割と早い段階で“ある一定の反応”の後半らしき兆候が出てきたことだろう。

 咄嗟に『自分たちが訊ねた事象が“勘違いである”ことを証明したかった』、『今回の話はこれで解決した』と言うことで難を逃れたような形となり、自分たちは解放されたのだ。

 上司からはお説教と共に身を案じる労いの言葉を貰い、やたらと休暇を取るよう勧められ、最終的には休みを取るよう約束させられてしまった。アルカイックスマイルが無ければ乗り切れなかったろう。

 

 

「なかなかのホラー体験だったな……」

 

「上層部も普段通りの様子だったし、あの事象については何も知らないみたいだよね。寧ろ、彼らの言う通り“そんな事象は起きていない”ってことなのかも」

 

 

 上司の部屋から充分距離を取り、周囲に自分たち以外誰もいないことを確認した後、クーゴは大きくため息をついた。ビリーも難しい顔をして唸っている。

 

 ユニオン軍の基地がジャックされた際に入手した天使や天女の武力介入映像さえ残っていれば、また何か違った反応が返ってきたのかもしれない。だが、その映像はいつの間にか削除されてしまったため、ガンダム調査隊側には何の証拠も残っていないのだ。

 解析途中のデータも一緒になくなってしまったため、ビリーが絶叫しエイフマンが天を仰いだのは記憶に新しい。暫くの間はデータを復旧させようと右往左往していたが、『AEUによる正式な情報公開が行われたのを区切りにして諦めることにした』とのことだ。閑話休題。

 上層部の面々から“おかしいのはお前”と扱われたのは非常に不服であるが、自分たちは組織の歯車。自分たちがいかなる不利益を被り、汚名を着せられることになろうとも、黙って耐え忍んで受け入れるしかない事象(こと)は幾らでもあるワケで。

 

 

「SFホラー作品の世界に放り込まれたのかと思いましたよ」

 

「一体、ここで何が起きてるんだか」

 

「軍はワシらを異常扱いしているが、異常なのはどちらなのだろうな……」

 

 

 ハワードとダリルも顔を見合わせて不気味がっていた。エイフマンも釈然としない様子である。彼らもクーゴたち同様、不本意ながら『異常者は自分たちである』と宣言させられたようなものだった。

 思うところが無いわけではない。ただ、今は、()()()()()()()()()()()()()()のだという予感じみたものがあった。来るべきときが来るまで、今回の話は心の中に留めておく。

 

 愚痴大会はこれくらいにして、面々はそれぞれ仕事に戻っていく。今日も今日とて書類仕事と訓練だ。

 

 ソレスタルビーイングの武力介入や各国の小競り合いは続いているが、世界全体という規模で考えれば充分『小康状態』と言えるだろう。最も、紙面や映像越しからでは分からないことは沢山ある。

 ある意味で蚊帳の外状態のクーゴたちからすれば、実感が薄いか感覚が麻痺してしまったの2択なのかも知れない。今日も何処かで争いが起こり、今日も何処かで誰かが死んでいるのだ。

 自分の端末に目を向ければ、今日もソレスタルビーイング特集で盛り上がっている。誰も彼もが勝手な憶測で盛り上がっているのを見ると、複雑な気持ちになった。理由は――おそらく、きっと。

 

 

(――イデア)

 

 

 クーゴは思わず、イデアから贈られた懐中時計を握り締めた。

 

 ソレスタルビーイングの構成員。戦争根絶のために武力介入を行うという矛盾を抱えながらも、戦いに赴く天上人の1人。純白のガンダム――天女を駆るパイロット。

 彼女は組織に関する話など一切何も零していないし、クーゴに見せた表情は断片的なものだったのかもしれない。けれど、確固たる意志と決意を抱いて戦っていることだけは知っている。

 

 

「――ん?」

 

「どうした?」

 

「タブレットの調子がおかしいんだ。先程まで異常はなかったのだが……」

 

 

 隣の席で書類仕事に勤しんでいたグラハムが怪訝そうな声を上げた。何事かと彼のほうに向き直れば、彼のタブレットが点滅している。

 クーゴがタブレットの点滅具合に既視感を覚えたのと、グラハムのタブレットから不快な砂嵐が鳴り響いたのはほぼ同時。

 何事かと身構えた途端、映像が展開する。映し出されたのは――幾つかの大都市。平和な街並みが並んでいたソレは、一瞬で地獄絵図に変わった。

 

 映像の真ん中近辺に映っていた車、ゴミ箱、荷物、その他建造物が突如爆発したのだ。耳をつんざくような爆発音、上がる黒煙、倒れて動かない怪我人、逃げ惑う一般市民たち――。

 クーゴとグラハムが息を飲んで身構えている間に映像が切り替わる。映し出されたのは、顔に覆面をした武装集団(テロリスト)たち。奴らはコソコソ何かの準備をしている様子だ。

 

 

<ソレスタルビーイングのせいで、我々の活動は上手くいかなくなってしまった>

 

<だから、少し趣向を変えることにしよう>

 

<――憎しみの対象と矛先を、奴らに向けるんだ>

 

 

 奴らの《聲》が《聴こえる》。ソレスタルビーイングやガンダムを邪魔者扱いしている連中の、憎悪と悪意に塗れた《聲》。背中を駆けた悪寒に息を飲んだ。

 

 程なくしてタブレットの映像は断線する。次に映し出されたのはニュース映像を配信する公式チャンネルだ。アナウンサーが淡々と情報を読み上げていたが、途中から様子が慌ただしくなった。

 何やら速報が入ったらしい。新しく持ってこられたニュース原稿を見ながら、アナウンサーはそれを読み上げていく。音声と同時に映し出された映像は、先程タブレットを占拠していたテロ映像。

 

 

「つい先程、テロを起こした団体が声明を発表しました。彼らはソレスタルビーイングの活動停止を求めており、『ソレスタルビーイングが自分たちの声明を受け入れない限り、無差別報復を続行する』と――」

 

「「――は?」」

 

 

 グラハムとクーゴの声が、綺麗に重なった。

 

 

 

***

 

 

 

 夕焼けの空が広がっている。地上がどんなに薄汚れた陰謀が渦巻いていようと、空はいつも美しく雄大だ。

 

 2機のカスタムフラッグと、それに随伴する2機のユニオンフラッグが空を舞う。探し物はたった1つ。隊長――もとい、グラハムの大好きなガンダムである。

 彼曰く、「大本命は白と青基調、好意に価するのがその他のガンダム」らしい。奴はガンダムであれば何でもいいのだろうか。そう思った途端、頭が痛くなった。

 ファースト、Z、∀、XX、自由、正義、運命、翼、死神、砂岩、剛腕、神龍、一角獣、神――ゴットフィンガー。最後に浮かんだのは、懐かしい響きだった。

 

 東方は赤く燃えている――そう言った青年と、その師の名前は何と言ったか。

 後でビリーに、ようやく思い出せた『グラハムフィンガー』の元ネタのことを伝えておかなくては。

 

 クーゴは端末を取り出して、虚憶(きょおく)を記録した。もちろん、その間の操縦モードは自動に切り替えている。

 

 虚憶(きょおく)をまとめるのに時間はかからなかった。

 端末をしまい、クーゴは再び操縦モードを手動に切り替えた。操縦桿を動かす。

 

 

「隊長。こんなことしても、敵さんは見つかりませんぜ」

 

 

 左後方を飛ぶハワードが、どこか困った様子でグラハムに声をかけた。彼の言葉はご尤もである。

 

 ソレスタルビーイングが活動してから早数か月。世界には、新たな争いの火種がばら撒かれていた。ソレスタルビーイングによって不利益を被ったテロ団体が報復行動を開始したのだ。奴らの目的は『ソレスタルビーイングの活動停止』で、それが果たされるまでテロを続けるつもりでいるという。

 その主義主張が本当なら、奴らが狙うべき相手はソレスタルビーイングとその関係者のはずだ。だが、軍でさえ所在を突き止められない謎の団体が相手なのだ。一介のテロリストでしかない連中が、ガンダムのパイロットやソレスタルビーイングの関係者を探すことなどできるはずもない。

 

 更に言えば、軍や民間軍事会社が所持するような機体や腕利きのパイロットですらガンダムに敵わなかったのだ。一介のテロリストが所持するMSで対抗できるはずがなかった。

 故に、テロ組織が選んだのは無差別報復。ソレスタルビーイングに対し、「お前らが武力介入を行ったせいで、民間人が傷ついた。お前たちこそが争いを呼ぶものだ」と糾弾するための手段。

 戦争根絶を掲げる団体にとって、奴らの主張は――正統性の有無問わず――痛いところを突かれたようなものだろう。イデアが憤る気配を《感じた》のは、きっと気のせいではない。クーゴは苦笑する。

 

 

(非道な上に卑怯とか、本当に救えない)

 

 

 現時点で奴らがテロを起こした場所は、各領内の中でも大都市や経済特区として認定されている街だ。AEUではイタリアやフランス、人革連ではロシアや中国、そして我らがユニオン領では日本やアメリカが標的となったらしい。グラハムのタブレットから流れてきたのは、ユニオン領の各地で行われたテロの映像だった。

 奴らは『正義のためだ』と大義名分を振りかざすが、やっていることは無差別報復にすぎない。関係ない人々を巻き込んでおいて、その行為の責任をソレスタルビーイングにおっ被せている。虎の威を借りておいて、その威を地に落とすような真似をするとは。借りるだけの狐より悪質だ。

 

 

(……こういうのを、日本では『詰め腹を切らせる』って言うんだよな)

 

 

 クーゴは深々とため息をつく。テロ集団の行動は、卑怯かつ卑劣なやり方だ。クーゴ自身、ソレスタルビーイングや彼女たちのやり方を支持しているわけではない。しかし、テロリストを野放しにするつもりはなかった。

 おそらく、ソレスタルビーイングの面々も憤慨しているだろう。自分たちの名前を汚されたのだ。このまま黙っているとは思えない。テロリストたちが動けば、彼ら/彼女たちも武力介入を開始するに違いない。

 

 テロリストいるところに彼らあり。言葉にすると簡単だが、テロリストたちは世界全体を対象にしている。諜報部が調べているが、どこに現れるか予測することは不可能だ。砂漠の中から砂金を探すようなものだろう。非効率的だ。

 

 グラハムは、それをわかって行動している。

 わかっていて、でも、納得できないでいるのだ。

 

 

「私は我慢弱く、落ち着きのない男なのさ。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いときている」

 

 

 苛立ちと怒りにも似た険しい表情。

 通信越しに見たグラハムの顔は、すぐに笑みを浮かべた。

 

 

「ナンセンスだが、動かずにはいられない」

 

 

 彼の瞳は、非道なテロリストへの怒り、愛する少女――刹那・F・セイエイへの想い、恋愛の対象(?)であるガンダムに会えるかもしれないという期待と闘志をごちゃまぜにしたような感情に満ちている。だというのに、狂気的なまでに澄んだ翠緑。口元には、不敵な笑みさえ浮かべていた。

 

 先日、クーゴはエトワール――イデア・クピディターズと、グラハムは刹那と、ある種の決着をつけてきた。後者の方はあまり語らないけれど、迷いを吹っ切ることができたらしい。以前の調子が戻ったように思う。いや、むしろ悪化したかもしれない。

 その元凶を担ったのはビリーであった。少女の名前を知って嬉しそうなグラハムや喜ぶ周囲の面々に対して、『古来の日本では、“相手に自分の名前を教え、相手が自分に名前を教える”ということが、夫婦の契りだった』なんて入れ知恵をしてしまったからさぁ大変。

 ダリルとハワードが諸手を挙げてクーゴとグラハムを祝福し、『それはいいことだ。ところで、結婚式はいつかね?』とエイフマンがすっとぼけ、それを聞いたグラハムが怒涛の勢いで刹那にメールを送っていた。その横顔が爛々と輝いていたことが忘れられない。

 

 イデア経由で「その文化は、現代日本においては適用されません」とフォローを入れたが、果たして。

 最も、刹那・F・セイエイという名前は偽名のため、名前云々が現代日本に残っていたとしてもセーフだと思われる。閑話休題。

 

 

「知ってるよ。お前がそう言う奴だってことは」

 

 

 クーゴは苦笑しながらため息をついた。昔から、グラハムには迷惑ばかりかけられてきたような気がする。

 それでも彼と共にいたのは、彼の人柄に惹かれたからだ。どこまでもまっすぐに空を見つめる横顔に、懐かしさと親しみを感じたからだ。

 一番の理由は、「空で待つ」と笑いクーゴを「友」と呼んだ男性が“彼”であると、本能的に察していたためである。本人には伝えていないが。

 

 グラハムのあり方は、多くの人を惹きつける。

 同調する者、反感を抱く者、一目置く者。方向性は本当に様々だ。

 

 

「まあ、お前の気持ちは分からなくもないからさ」

 

「――え?」

 

「本当に、しょうがない。しょうがないから、同行するんだよ。俺は」

 

 

 クーゴは肩をすくめる。……余計なことを口走ってしまった。自分は相当、グラハムに毒されてしまったらしい。

 

 その言葉に何を思ったのか、グラハムは眩い笑みを浮かべた。

 合点がいったとでも言いたそうな表情である。

 

 

「成程。日本で言う『ツンデレ』だな、クーゴは」

 

「ちげーよ。お前が変な方向に暴走しないよう、フォローしてやるってことだ」

 

「それは心強いな!」

 

「当たり前だろ。地獄だろうが天国だろうがついて行ってやるよ」

 

 

 変な方向にこじれかけた会話を終わらせる。グラハムの嬉しそうな笑みを見ると、どうでもよくなってしまうから不思議だ。

 クーゴはふっと笑みを浮かべた。仲間とやり取りをしている時間が、一番楽しくて充実している。幼い頃は、想像すらできなかった光景だった。

 そのとき、微笑ましそうに自分たちを見ていたハワードとダリルの顔が《視えた》気がした。そのコンマ数秒後、彼らは頼りがいのある微笑を浮かべる。

 

 

「お供しますよ、隊長!」

 

「サポートは任せてください、副隊長!」

 

 

 ハワードとダリルが返事をした。

 

 本当に、彼らは頼れる部下たちだ。グラハムの人事は間違っていなかったと言えよう。

 ふと一瞬、沖縄に駐屯しているアキラが「俺、のけ者にされた気がする」と呟きながら泡盛を飲んだくれている姿が《視えた》気がした。

 

 

「その忠義に感謝する!」

 

 

 グラハムは笑みを浮かべ、フラッグを加速させる。クーゴもそれに続くため、操縦桿を動かした。ハワードとダリルのフラッグも随伴する。

 ユニオンの『空の護り手』たちは加速し、夕焼けの空を切り裂くように飛んでいく。高く、高く、高く――どこまでも。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「テロリストが所有していると思しき車両や船が、日本およびその近郊で、原因不明の事故を起こしてる?」

 

「どういうことなのでしょう、お嬢様」

 

「わかるはずないじゃない。……あ、まただわ。今度は、タンカーが突然垂直に傾いた後、数十メートル程浮かんで、海面に叩き付けられたそうよ」

 

「こちらでも、テロリストが所有すると思しき車が突如潰れたそうです。別の場所では、突然車が発進し、きりもみ回転しながら湖に転落していったとの情報が入りました。エージェントが捕まえたテロリストたちは、総じて『化け物だ』、『青い光を見た』と口走っていたそうです」

 

「一体何が起こっているというのかしら……。あ、また? もう、本当にどうなってるの……!?」

 

 

 

*

 

 

 テロリストたちが悲鳴を上げながら後ずさる。イデアはそれを見下ろしながら、奴らの元へと歩み寄った。目撃者はテロリストのみ。留美(リューミン)が放ったエージェントたちは、まだここを嗅ぎ付けてはいない。

 彼らがここに来る頃には、すべて終わっているだろう。力を具現させながら、イデアは屹然とした眼差しでテロリストたちを睨みつける。少し前まで戦う気満々だったのが嘘みたいだ。今ではみんな、怯えの感情に満ちている。

 奴らが放った銃弾は、すべてイデアの目前で止まっている。傍から見れば、壁にめり込んでいると言われそうな状態だろう。それこそ、イデアが一番得意とする能力の発現方法だった。ロケット弾を撃ち込まれようと、ミサイルをぶち込まれようと、耐え抜ける強度と自信はある。

 

 但し、それはあくまでも「普通の実弾およびビーム・レーザー兵器」であればの話だが。

 ここでは見かけないが、“同胞”を殺すことに特化した兵器に対しては、防御力は劣ってしまう。

 

 

(それに関する対策も練ってはいるけど、後手に回りがちなんだよなぁ。MDの件も考えると、流出および開発されてそうで怖い……)

 

 

 そんなことを考えつつも、イデアは表情を崩さない。

 

 青い光が揺らめく度に、テロリストたちは情けない声を上げる。

 声明文でソレスタルビーイングに噛みついていたのが嘘みたいだ。

 

 荒ぶる青(タイプ・ブルー)。“同胞”の持つ能力の中で、最強と謳われる能力。その発現者はあまり多くないものの――古の“同胞”の場合は――たった1人で艦隊を殲滅する力を有すると言われている。イデアもまた、荒ぶる青(タイプ・ブルー)と呼ばれる能力者の1人であった。

 “同胞”の能力は4つある。1つがイデアの属する荒ぶる青(タイプ・ブルー)であり、万能型の能力だ。他には防御系に優れる完全なる防壁(タイプ・グリーン)、攻撃系に優れる過激なる爆撃手(タイプ・イエロー)、テレパスや感応および読心術に優れる思念増幅師(タイプ・レッド)の3つがある。

 

 

「死ね、化け物め!」

 

 

 声がした方向を向く。男がナイフを振りかざし、飛びかかってきた。イデアが手をかざして下ろせば、男は地面に叩き付けられ呻き声をあげる。

 これくらいなら、“同胞”であるなら、訓練すれば誰でも使えた。基礎中の基礎である。むしろ、この場で発現させた力は『基礎中の基礎』だけだ。

 

 

「化け物、ねぇ」

 

 

 イデアは自嘲する。古の“同胞”たちは、そうやって処分(ころ)されてきた。人間とは大きな違いがある方と言う理由で、命を、仲間を、家族を、安住の地を奪われてきたのだ。同じヒトから枝分かれしたというのに。

 

 

「私にだって感情があるわ。私にだって、心があるわ。私にだって、意志があるわ」

 

 

 倒れ伏した男の方へ足を進めた。身動きの取れない男は、かすれた声を上げてこちらを見上げている。奴の目が血走っていた。

 崇高な意志というお題目で、彼らは沢山の人に危害を加えた。力ある者に刃を向けられないと知っているから、無力な人間を狙った。

 おまけに、自分がやったことをソレスタルビーイングに押し付けて逃げようとしている。卑怯な上に無責任ときた。

 

 わかりたくもないことだが、機械が最後に“あんな”決断をした理由がわかったような気がする。ヒトがヒトである限り、逃れることのできない業。それがたくさんの悲劇を生み出し、命を刈り取っていく。学習しても尚、同じことを繰り返す。だから機械は、そんなヒトを「非効率」だと判断したのだろう。

 機械を開発した人間からしてみれば、創造主に牙を剥くだなんて想像できるはずがなかった。その証拠に、機械には『どちらが優れた種族か』を判断する権限しか与えていなかった。しかし、時が経つにつれ、機械は人を管理するようになった。支配するようになった。次第に機械は拡張を続けていく。

 

 その果てに起きた悲劇と犠牲を、知っている。

 

 だけど。だからこそ。

 あんな方法は、認められなかった。

 

 ヒトの尊厳を踏みにじり、ヒトという存在そのものを否定した、欠陥だらけの箱庭を。

 

 

「貴方たちがすることは、箱庭を作り出すのを助長しているだけよ。あるいは、箱庭の管理者がすることそのものだわ」

 

 

 ソレスタルビーイングもまた、箱庭を作り出すための舞台装置でしかないのだろう。存在意義という名の定めに抗うと決断を下したのも、彼らを守ると決めたのも、他ならぬイデアだ。その始まりが『託された』ものだったとしても、選んだのは自分自身。

 銀色の髪に、緑の瞳を持つ女性の姿が浮かんで消える。彼女の最期の言葉が耳をかすめた。『来るべき日のために、遺志を継ぐ者たちを守り抜いて』、『望まれた子どもたちを、お願い』――託されたものの重さを噛みしめて、イデアはソレスタルビーイングにいる。

 

 

「自分の行いに関して、()()()()()()()()()。……そんな貴方たちの方こそ、ヒトじゃない。――()()()()()だわ」

 

 

 イデアの手に青い光が収束する。そして、荒ぶる青(タイプ・ブルー)としての力は、躊躇いなく振るわれた。

 群青(あお)が爆ぜる。吹き荒れた風が晴れたとき、そこには気絶したテロリストたちが山を築くようにして倒れていた。

 誰も彼もが泡を吹いていた。『化け物だ』だの、『青い光が』だのと、うわ言のように繰り返している。

 

 遠くから響いてきた足音を察知し、イデアは即座に力を使った。薄暗い部屋の一室は、あっという間に岩山へと変わる。そこは、AEU領のスコットランド。刹那のエクシアとイデアのハホヤーが隠されている待機場所だ。

 今頃、留美のエージェントたちがテロリストのグループを発見していることだろう。パイロットスーツに着替えなくてはと思ったときだった。スメラギから、ミッション開始の通信が入った。同時に、エクシアのステルスモードが解除される。タクシーバイクに乗った刹那の姿が見えた。

 

 中東出身だと一目見てわかる、簡素な民族衣装。しかし、刹那は男物を好んで着る節があった。動きやすいからというのが理由だろう。イデアの護衛任務およびグラハムと会うとき以外は、いつもその格好で過ごしていた。

 

 彼女はタクシーバイクを乗り捨てて、そのままガンダムに搭乗した。イデアもパイロットスーツに着替えることなく、ハホヤーに乗り込む。

 自分たちに割り振られたのはタンカーの襲撃だ。了承の返事をして、空へと飛び立つ。本日の天気は晴天、いい任務日和だ。

 

 

(……あ)

 

 

 不意に、《視えた》。

 

 白い砂浜、青い海。水着姿のスメラギが日光浴に勤しみ、クリスティナとフェルトがシュノーケリングを楽しんでいる。麦わら帽子に半袖半ズボンのイアンは、海に来た人というより農家のおじさんに見えなくもない。

 アレルヤが困った顔をした理由がわかる気がする。ティエリアがぶちぶち文句を言っていた理由もわかった気がする。自分たちが頑張っている間に、面々だけバカンスに興じているのだ。幾ら偽装工作のためだとはいえ、『ちょっと待て』と言いたくなるのは当然だろう。

 ロックオンがテロリストの憎悪以外に抱え込んでいた感情は知っていた。フェルトの水着姿に何やら思うところがあったらしい。そして、そんなことを考える余裕があった自分に驚愕していた様子だった。その調子で、幸福に関する執着を持ってくれたらいいのに。

 

 

(任務が終わった後のことでも考えよう。今日話す内容とか、オフ会の日程とか、任務終了後はバカンスに加わることとか、水着のこととか)

 

 

 イデアにだって楽しい時間がほしいと願う心はある。スメラギやクリスティナたちがキャッキャウフフしているように、クーゴともそういう時間がほしい。

 自分たちは刹那と違って『そういう』関係ではないけれど、でも、好きな相手と距離を縮めたいと思うことは間違いじゃないはずだ。色々弁えれば、多分。

 

 

<――さて、頑張ろっか! 今回もお願いね、アメリアス>

 

<任せて、イデア>

 

 

 ホログラムで映し出された人物――金髪ボブカットで赤紫色の瞳を持つ少女――アメリアスに声を駆ければ、彼女は控えめに微笑み返した。

 

 ソレスタルビーイング側は誰も把握していない、イデアの大切な仲間。(ふる)き“同胞”が生きた世界の技術の粋が込められた存在だ。

 機械によるヒトの管理・監視から脱却し、新たな世界体制を――ヒトと機械の在り方を模索する過程で、彼女は生まれ落ちた。

 彼女もまた、イデアの使命を手伝うためにここにいる。組織が掲げる理想――戦争根絶のため、“来るべき対話”に備えるため、イデアに手を貸してくれた。

 

 

<もうすぐ目標ポイントだよ。目立った敵は見当たらないけど、気を付けてね>

 

<了解!>

 

 

 目標ポイントに辿り着く。イデアは盛大に脱線させていた思考回路を元に戻し、刹那と共に介入行動を行ったのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

(当てもなく飛び回れば、こうなるってのは分かり切ってたのになぁ)

 

 

 クーゴは自分のデスクに積まれた書類を眺めてため息をついた。“無理を押し通そうとすればどこかで歪みが出る”の典型的な例である。

 隣に座っているグラハムはどこか遠い目をしながら書類を眺めていたが、気合を入れるように頬を叩いてデスクワークに取り掛かった。クーゴも作業を再開し、ペンを動かした。

 

 煩雑なデスクワークを淡々と片付けていく。報告書や書類の確認などを淡々とこなしていけば、あっという間に時間が過ぎていった。

 

 無差別報復の声明を発表したテロリストたちは、あの声明以降動きはない。ソレスタルビーイングの反応待ちなのだろう。テロリストのことなので、“彼女たちが何かしらの理由で何処かへ武力介入を始めれば、そのタイミングでテロを起こす”下準備を水面下で行っていそうだ。

 ソレスタルビーイングはどう反応するのだろう。エイフマンはソレスタルビーイングのことを『滅びを求めているかのようだ』と言っていたが、多分、『こんな形の滅び方は“何か違う”』と思えてならない。……まあ、『根拠を語れ』と言われると言葉に窮してしまうのであるが。

 クーゴがそんなことを考えてしまうのは、十中八九エトワール――イデアと交流を重ねためだろう。人は“関係性が無い、或いは関係性が薄い他人”に対しては何処までも冷めた態度でいられるが、親しい間柄となると感情が先走ってしまいがちだ。

 

 

(……きっと、俺は、軍人として色々間違ってるんだろうな)

 

 

 自分が出した答えに後悔はないけれど、それでも、思うところはある。クーゴはひっそり苦笑しつつ、今日の仕事をこなしていった。

 いい感じに片付いてきたとはいえ、この調子だと空を飛んでガンダム探し――或いは、テロリストへの牽制は無理だろう。

 

 クーゴはちらりとグラハムに視線を向ける。デスクワークをそつなくこなしているように見えるが、時折、何とも言い難そうな顔で窓へと視線を向けていた。

 

 

(分かりやすいんだよ、このおばか)

 

 

 自分のことを棚上げしつつ、クーゴは作業へ戻る。

 

 “グラハム・エーカーがガンダムを探し回っている”――それが、ガンダム調査隊が比較的容易に出撃できていた大きな理由だ。けれど――グラハム本人は何も言わないけれど――、カスタムフラッグが出撃を繰り返した理由はもう1つあった。

 ソレスタルビーイングに無差別報復を宣言した連中はテロリストだ。奴らは世界のどこかで身を潜めている。どこにいるか分からないというのは、どこに潜んでいてもおかしくないことと同義。なれば、ユニオン領にも奴らは潜んでいるとも言えよう。

 

 権限や地理的な関係で一部の地域しか飛び回れないとはいえ、軍のMSが空を飛んでいるという状況だ。奴らが“ガンダムを探し回るフラッグ”を無視することは出来ないだろう。

 テロ活動をしたくとも、軍のMSが飛び回っているという状況でテロを行う度胸は無さそうだ。“ソレスタルビーイングの反応待ち”と言えど、プレッシャーを与えることは出来るかもしれない。

 グラハムにとっての刹那は単なる恋人同士だけでなく、最大の好敵手でもあるのだろう。そう思えるような出来事があったからこそ、奴はテロリストに対して怒りを露わにしていた。

 

 

「…………」

 

 

 グラハムは手を止め、端末についているつがいのお守り――その片割れを眺める。空いている片手でお守りを撫でたが、その手つきはとても優しい。

 誰に対して思いを馳せているのかが痛いほど伝わって来たような気がして、クーゴは自分の仕事に向き直る。奴の気持ちは、こちらも分からなくはないから。

 

 

(好敵手(ライバル)だからこそ、第三者から変な横槍や難癖を付けられるのを見過ごせない。……誰よりも、相手のことを理解していると――そう在りたいと思っているから)

 

 

 こんな気持ち、きっと、グラハムやその関係者くらいしか理解できないだろうし、して貰えないだろう。軍人としての立場が、組織人としてのルールが、それを許してくれそうにない。――たとえそうだったとしても、きっとクーゴは、それをやめることなど出来やしないのだ。

 

 ……と言っても、自分たちがやっていることは、雀の涙程度――或いはそれにすら至らない足掻きに過ぎない。テロリストは世界中に潜んでおり、軍部は明確な拠点を探し出せずにいるのだ。

 居場所さえ掴めれば介入出来るが、拠点が国境を越えて跨いでいた場合は話が変わる。特に3大国家陣営に属さない国に拠点があった場合は、国際法の問題で手を出すことができない。

 結局のところ、テロリストどもに名指しされているソレスタルビーイングが自力で手を下さない限り、テロリストどもは平気な顔をしてのさばり続けるのだ。何とも腹立たしい話である。

 

 

(むしろ、それを逆手に取りそうな強かな奴がいるのかも知れない)

 

 

 クーゴの脳裏に浮かんだのは、いつぞやの“あん畜生”。態度も言動も小物だったのに、いつの間にやら人類軍の総司令官になっていたろくでもない野郎である。トレーズやミリアルドよりも先に“あん畜生”が浮かぶあたり、虚憶(きょおく)の持ち主は“あん畜生”への苦手意識が強かったらしい。

 他にも、シャルルやシュナイゼルの親子のような『政治に関わるタイプの王族』もいる。前者は弱者を嫌うあまり、自国民や支配地域の人々を理不尽に虐げることを厭わなくなってしまった。後者はあらゆる権謀術数を駆使して自分の勝利を揺るぎないものにしようとするし、それが絶対であると信じている。――中々に厄介な相手だ。

 

 

「――ん?」

 

「どうした?」

 

「タブレットの調子がおかしいんだ。先程まで異常はなかったのだが……」

 

「前にも似たようなこと起きなかったか?」

 

「そうだな。まるであのときのような――」

 

 

 隣の席で書類仕事に勤しんでいたグラハムが怪訝そうな声を上げた。何事かと彼のほうに向き直れば、彼のタブレットが点滅している。

 2人がタブレットの点滅具合に既視感を覚えたのと、グラハムのタブレットから不快な砂嵐が鳴り響いたのはほぼ同時。

 次の瞬間、映し出されたのは――グラハムが追いかける天使と、クーゴが追いかけている天女がどこかへ飛んでいく映像だった。

 

 刹那とイデアが武力介入を行ったのは、AEU領海にいたタンカーだ。タンカーに乗っていたテロリストたちの阿鼻叫喚と断末魔が《聴こえた》と思った瞬間、ガンダムの攻撃によってタンカーが沈没する。

 テロリストはまともな戦力――MS――を有していなかったのか、はたまた抵抗する間も無かったのか、何もできないまま終わってしまったらしい。天使たちは悠々とどこかへ去って行った。

 

 程なくして、グラハムとクーゴの端末が鳴り響く。

 

 

「ソレスタルビーイングによって、無差別報復を宣言していたテロ組織の根城が攻撃されたようです」

 

 

 ――どうやら自分たちは、ソレスタルビーイングとニアミスしてしまったようだった。

 

 原則的に、国がテロリスト討伐のために他国領へ押し入ることは不可能である。そのため、三大国家は、どこの国に属さない彼らにテロリストを片付けてもらおうとしたのだ。

 各国のデータバンクから情報が流され、それがテロリストの潜伏場所確定に繋がったという。今回はWin-Winの関係が成立したからこそできた連携であった。互いが互いを利用した形である。

 

 

「政治家とは得てしてそういうものか」

 

人災をまき散らかした奴(“あん畜生”)と比較すること自体ナンセンスだが、敢えて言わせてもらう。こっちの方が数倍かわいい」

 

 

 グラハムは険しい顔をした。クーゴも深々と息を吐く。

 

 世界の悪意は深く、人の業もまた然り。憎しみの象徴としての道を進まされそうになったソレスタルビーイングは、自らの手で最大の危機を脱した――ということだろうか。

 ……自分たちが何かしなくとも、彼女たちは己の手で火の粉を振り払うことが出来る。機体性能でも、心理面でも、彼女たちは真の意味で()()()()()()()()()()()

 

 

「……余計なお世話、だったのかもな」

 

 

 グラハムがぽつりと呟く。彼の視線は、つがいのお守りへと注がれていた。

 どこか寂しそうに笑う彼は、もう闇雲に出撃することはないのだろう。

 書類仕事を再開した彼だが、先程と比較するとかなりペースが落ちている。

 

 

(分かりやすい奴)

 

 

 クーゴは苦笑した後、おもむろに口を開いた。

 

 

「最近は虚憶(きょおく)の調査が疎かになってたからな。そっちにも回った方がいいんじゃないか?」

 

「……! ――その旨を良しとする! 感謝するぞ!」

 

 

 特に何かを言わずに――礼の言葉はノーカンということにして――乗って来たグラハムの笑顔に免じて、クーゴも何も言わないことを選ぶ。

 書類に向き直った2人がペンを動かす音だけが、静かな部屋に響き渡っていた。

 

 ――尚、仕事終わりに端末を確認したグラハムが、刹那からのメッセージを見て狂喜乱舞するまで、残りN時間。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 ミス・カイルス。

 クーゴたちが所属する部隊で行われた、美女コンテストである。

 

 石神からバカンスへ行こうと誘われたときから、なんとなく嫌な予感がしていた。戦艦で目的地へ向かうことになった話を聞いたときには、厄介ごとが起きそうな気配を感じていた。悪の組織関係者が“石神の協力者”として嬉々と同行してきたのを見たときから、愉快犯的な作為を感じていた。

 石神がバカンスを計画した理由を説明するときに一物抱えたような悪人面なんかするものだから、黒い笑みを浮かべて『真の目的とはミスコンである』と宣言されたとき、『悪人面で言う台詞じゃない』と突っ込みを入れたクーゴに非はないはずだ。

 その話を聞いた加藤と森次がスンとした真顔で石神を詰めにかかったが、最終的には石神に言いくるめられてしまったらしい。やれやれと肩をすくめて手を上げるジャスチャーをしていた。グラハムにぶん回されたときのクーゴも、きっとあんな感じなのだろう。

 

 

「森次くん、その恰好暑くない? 大丈夫? スポーツドリンク飲む?」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

 

 スーツで完全武装している森次玲司の様子を見るに見かねて、クーゴはスポーツドリンクを差し入れた。森次は一礼してペットボトルを受け取り、水分補給を行う。

 

 他の面々は水着や薄着になっている中では、黒いスーツで完全武装している森次は非常によく目立つ。同じくらい目立っていたのはゼロだった。ゼロの方には“宇宙(そら)を継ぐ者”が差し入れをしていた。

 前者はスーツ、後者は仮面とマント。衣服や小道具の殆どが黒基調の長袖長ズボンだ。黒は熱を吸収しやすい素材なので、大分しんどいだろう。特に後者は、絵面的な問題も関わって来るから猶更だ。

 

 

「仮面とマントを死守した状態で水着や薄着……どんな格好でも、どう考えてもイメ損にしかなりませんよね……」

 

「……“宇宙(そら)を継ぐ者”。この前、“キミにとって大切な書類”にジュースを零してダメにした件、やはり許していないんだな……?」

 

「え? だって、熱中症になって倒れちゃったら大変じゃないですか。今回はもう間に合わないけど、酷暑対策した服作ってもらえないか相談しに行ってきます」

 

 

 “宇宙(そら)を継ぐ者”が踵を返して走り去っていく姿を見送ったゼロは、何とも言い難い雰囲気を漂わせている。クーゴは苦笑した。

 

 

「自慢の■■だよ。俺には勿体ないくらいの」

 

「それは、お前が■■としての役目を果たしているからだろう」

 

「……だといいなァ」

 

 

 クーゴがぐだぐだ考えているうちに、ミスコンはどんどん進んでいく。教師コスプレが速着替えで水着に変化したり、無人機が襲撃してきたので撃退したり、アイドルが水着で出てきて三角関係大炎上したり、無人機が襲撃してきたので撃退したり、アイドルファンが露骨な贔屓に走ったり、無人機が襲撃してきたので撃退したり。

 途中で挟まる出来事――無人機の襲撃が、普段の日常と大差ないように思うのは何故だろう? 地球の敵と戦いを繰り広げてきたためなのか。自問自答をしている間にも時間は流れ、ミスコン進行と無人機撃退を繰り返し、やって来た乱入者(くろまく)も追い払い、休暇なのに休暇じゃないバカンスは過ぎていく。

 

 夏の日差しが眩しい。いや、原因はおそらく、ミスコンで盛り上がる熱気とか、ミスコンで披露されるアレなアレとかだろう。

 それに見惚れてパートナーからぶん殴られる男性陣とか、落ち込んで裏方でぐちぐちやってる女性陣とか、悲喜こもごもだ。

 

 

「初代“狙い撃つ成層圏”、最ッ低……!!」

「待ってくれ“オペレーター次女”! これは誤解だァァァァァァァ!」

 

「ライルが、ライルが浮気したァァァァァァァァァァ!」

「待ってくれアニュー! これは誤解だァァァァァァァ! お前の家族にも説明させてくれェェェェェェ! 俺死ぬ、確実に殺されるゥゥゥゥゥ!」

「待てコラ、ライル・ディランディィィィィィィ!」

「可愛い妹分を泣かせやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「貴様の罪を数えろォォォォ!」

「天誅だ!」

「粛清する!」

「DNAを残さないレベルで頑張ってみようか。これは、リボーンズキャノンを使わざるを得ない案件だな」

 

「眩しいわね、アレルヤ」

「そうだね。でも、僕にとって一番眩しいのはマリーだよ」

「アレルヤ……」

「マリー……」

 

「“革新者と歩む者”さんの馬鹿ー! 女装で可愛いなんて悔しいですぅー!」

「ちょっと待ってくれ! 山下は!? 彼はいいのか!?」

「私よりも可愛い“革新者と歩む者”さんなんて、“革新者と歩む者”さんなんて……っ! 大好きですぅぅぅぅうわぁぁぁぁぁん!」

「待ってくれ、僕もキミが大好きだァァァァァァァァァ!!」

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!!」

「貴方、みっともないわよ。人の恋路を邪魔する奴はって言うじゃない」

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアー……ッ」

 

 

 喧騒が聞こえる。

 

 審査員に抜擢されたことで壇上に上がり、美女を見てデレデレしていた“狙い撃つ成層圏”兄弟。そんな彼らの姿は、お互いの恋人から顰蹙を買ったらしい。特に弟は悲惨で、彼の背後には妹分を想う家族が獲物を構えて迫っていた。スイカ、スイカ割り用のバット、氷で作られたジョッキ、サメの形をした浮き輪、釣竿、ロケット花火等、凶器は様々である。

 端の方では、「ミスコンなんてどうでもいい。キミさえいてくれるなら。むしろキミこそがミス・カイルスだ」を地でいく恋人たちがいた。見るからに、幸せそうで何よりである。クーゴも彼らのように自分の世界へ入り浸れればよかったのだが、性格上、うまく逃げることができないでいた。本当にしょうがない。

 後ろでは、山下の巻き添え+αを喰らって女装した“革新者と共に歩む者”を見た“末っ子オペレーター”が、大泣きしながら走り去っていったところだった。彼女の悲しみもわかる。だって、件の恋人はそこらへんの女性よりも女性らしいのだから。そんな“革新者と歩む者”も、“末っ子オペレーター”の後を全力で追いかけていった。

 人語の大部分をかなぐり捨てた“末っ子オペレーター”の“お父さん”が鈍器を片手に“革新者と共に歩む者”を強襲しようとしていたが、彼の妻によって無力化されていた。そのままずるずる引きずられ、娘たちが去って行った方向とは正反対に消えていく。

 

 ミスコン進行と無人機襲撃を繰り返し、休暇なのに休暇じゃないバカンスは過ぎていく。

 C.Cによって半ば強引に引きずり出されたバニーガールが悲鳴を上げて逃げ去っていった後のことだった。

 

 

「何やら、向うが騒がしいな」

 

 

 悲鳴が聞こえる。引きずり出されたバニーガールと同じ色の悲鳴だ。

 

 

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 羞恥心によって憤死してしまいそうな、女性の声。何事かと壇上を見た。

 

 

「また飛び入り参戦らしいな」

 

「いや、無理矢理引きずり出されたの間違いだろ」

 

 

 隣にいたグラハムは能天気に言った。クーゴは思わずツッコミを入れる。誰がどう聞いても、飛び入り参戦しようとした風には聞こえない。

 真夏の太陽が目に刺さる。次の瞬間、かき氷片手に観戦していたグラハムが目を剥いた。クーゴも息をのんで、その光景を凝視する。

 

 白。

 

 太陽の光なんか気にならないほど鮮烈な、白だった。

 

 水着である。まごうことなき水着である。胸元が強調され、きわどいレベルでざっくりと切込みが入った水着である。フリルもふんだんに使われていた。

 一言で表すとするなら、花嫁という単語が相応しい。頭につけられたヘアバンドの飾りが、花嫁に被せるようなヴェールのようにも見える。

 隣にいたグラハムがかき氷を落とした。砂浜にブルーハワイの青が派手に飛び散る。しかし、奴はもう、かき氷なんて気にしていなかった。

 

 視線はただ、まっすぐに。

 純白の水着を身に纏う、刹那・F・セイエイに向けられている。

 

 彼女を引きずり出したイデアは、真夏の太陽よろしくな笑みを浮かべていた。

 空と海の境目を思わせるような、青いグラデーションのビキニ。

 目が焼けただれそうなくらいの眩しさを感じる。クーゴは思わず目を逸らす。

 

 その先に、グラハムの横顔があった。

 

 

「――天使だ。天使が降臨した」

 

 

 グラハムの声は、至極真面目な響きを宿していた。言っていることは(経験則上)アレだが。

 

 ギャラリーが大盛り上がりする中で、グラハムは迷うことなく壇上へと向かった。顔を真っ赤にしてぷるぷる震える刹那だが、グラハムが近づいてきたことに気づいて顔を上げる。

 至極真面目な顔が、今にも泣き出してしまいそうな顔と向き合う。ギャラリーがどよめいたその瞬間、奴は姫に求婚する貴族よろしく刹那の手を取り跪く。どこまでも澄み渡った翠緑の瞳が、赤銅色の瞳を射抜いた。

 

 

「刹那」

 

「な、なんだ?」

 

「結婚しよう。今すぐ、ここで」

 

 

 絶対零度。熱気に燃えていたギャラリーが、ほんの一瞬だけれど、確かに、文字通り『凍り付いた』。

 

 

 

*

 

 

 

「ご家族の皆さん、刹那を私にくださぁぁぁぁぁぁぁいッ!」

「誰がやるかコンチクショウ! お父さんは赦しませんよォォォォ!」

「兄さんが! 兄さんが壊れたー!」

「いくらなんでも酷すぎる……!」

「ここから先は死守する! テコでも動かん!」

「“戦術予報士”さん、指示を!」

「ええ。各自に通達! 手段は問わないから、グラハム・エーカーを全力で迎撃して!」

「よっしゃああ! “お父さん”、アレ持ってこい!」

「任せろ! こんなこともあろうかとォォォォ!」

 

 

 空を彩る花火なんてなんのその。波打ち際で、ぎゃあぎゃあ叫び声が聞こえる。

 さっきまでいいムードだったのに、完全に台無しであった。

 

 

「あそこの2人が構えてるやつ、バズーカじゃないですか?」

 

「そうだな」

 

「どこから持ってきたんだろう、アレ……」

 

「わからん」

 

 

 銀河の問いかけに、クーゴは曖昧な笑みを浮かべて見せた。

 

 

「あの人たち、生身の人間に対してバズーカ向けてますケド大丈夫なんですか?」

 

「多分」

 

「多分、って……」

 

 

 浩一の問いかけに、クーゴは曖昧な笑みを浮かべて見せた。

 

 

「……止めないのですか?」

 

「止められると思うか?」

 

「劣等種にしては、賢明な判断ですね」

 

 

 “連邦初の革新者”が、言葉とは裏腹に、労わるような眼差しを向けてきた。

 クーゴは曖昧な笑みを浮かべて見せる。ぶっきらぼうに肩を叩かれた。

 

 

「結局、最後までしまりませんでしたね」

 

「そうだな」

 

 

 取っ組み合うグラハムとソレスタルビーイングクルーたちを眺めながら、イデアがのほほんと微笑んだ。

 クーゴは大きく息を吐く。打ち上げ花火はもうすぐ終わりそうだというのに、彼らの戦いはまだ終わりそうもない。

 寄せては返す波の音に紛れて、水しぶきが跳ねる音がひっきりなしに響く。誰かが転んだのか、派手に水が爆ぜた。

 

 でも、とイデアは言葉を続ける。

 

 

「私たちらしくて、いいですよね」

 

「……そうだな」

 

 

 クーゴはイデアの言葉に同意し、喧騒へと視線を向ける。

 平和な日常が、そこにあった。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

 

 虚憶(きょおく)を記憶し終えてソファに座っていたクーゴは、ぽつりと呟いた。

 

 虚憶(きょおく)を見て真っ先に思ったことである。もちろんまとめは終わっていたが、色々とツッコミどころがありすぎて捌ききれなかった。シチュエーションで分類するなら、堂々の迷場面だ。

 ミスコンの真っ最中に、(敵の策略と言えど)無人機来襲しすぎである。そもそもミスコン開始から内容そのものに、多くの問題が多発している。女装男子まで参戦可能って、どの方向に行くつもりなのか。

 強制的に壇上へ上げられた人々も可哀想だ。特に『刹那』は公開処刑ものである。いくらなんでもフリーダムすぎやしないか、『グラハム』。終いには『刹那』の家族たちと戦闘を始めてしまった。

 

 本人たちにしてみれば、仁義なき戦いである。

 第三者にしてみれば、ただのはた迷惑である。

 

 

「でも、今の虚憶(きょおく)は初めて見るやつだよね」

 

 

 ビリーの言葉に、ハワードとダリルが頷いた。

 

 

「UXにもバカンスする虚憶(きょおく)がありましたけど、今回の奴は違いますね」

 

「カイルス、でしたっけ? 今まで聞いたことのない部隊名です」

 

「ってことは、新しい分類を作らなきゃな。えーと……」

 

 

 クーゴは考え込む。カイルスとは、ローマ神話で、天空を守護する神の名前だ。スペルは『Caelus』、頭文字はCである。

 

 分類名は部隊の頭文字が基本なのだが、OEの場合は部隊名よりも、『オペレーション・エクステンド』という単語が先に出てきたのである。

 スペルは『Operation Extend』。その頭文字を取ってOEだ。今回は『Caelus』なので、頭文字はCということになる。しかし、今回は何故だか腑に落ちなかった。

 Cだけでは足りない。Cが2つ必要だ。ただ漠然と、強い意志に引っ張られる。そうでなくてはならないという義務感に突き動かされるような形で、クーゴは口を開いた。

 

 

「CCだ。CCじゃないといけない」

 

「それはまた、どうしてだい?」

 

 

 ビリーの的確なツッコミに、クーゴは言葉を詰まらせる。

 何かいいアイディアはないものか。しばし考え込む。

 

 

「……『カイルスの歴史(Chronicle of Caelus)』だから?」

 

「なら、それにしようか」

 

 

 文字通りのこじつけだった。しかし、周囲の面々にはそれで充分だったらしい。満場一致で、後ろにつくアルファベットはCCに決定した。その調子で長々と話し合い続け、『カイルスの青い夏/CC』というタイトルが決まった直後、グラハムの端末が鳴り響いた。

 端末を開いた彼の表情が、ぱあっと明るく輝く。どうやら、メッセージを送ってきた相手は刹那らしい。小さくガッツポーズを取るあたり、また何か進展があったのだろうか?グラハムの喜び具合に何かを察したビリーたちも、まるで自分のことのように表情を明るくした。何事かと端末を覗き込み、何やら盛り上がり始めている。

 

 クーゴの耳がおかしくなければ、『水着』という単語が聞こえた気がした。

 水着。つい先程見た『カイルスの青い夏/CC』でも、彼女と同じ名前の女性が水着で引きずり出されていた。

 花嫁衣装を思わせるような純白の水着を身に纏っていた『刹那』。それを見て、本能に駆られて行動した『グラハム』。

 

 何故だろう。嫌な予感しかしない。

 

 

「まるで花嫁衣裳ですよね、この水着!」

 

 

 ハワードの言葉で、その予感はさらに色濃くなってきた。クーゴが恐る恐るグラハムの端末を覗き込もうとしたときを見計らったかのように、今度はクーゴの端末が鳴り響く。

 メッセージの送り主はイデア。『バカンス』というタイトルで送られてきたのは、眩い水着姿の女子2人だった。写っていたのは、他の誰でもない、イデアと刹那である。

 刹那が花嫁衣装にも似た純白の水着を着ていて、イデアは空と海の境目を思わせるような青いグラデーションの水着を着ている。直視したら目が焼けてしまいそうだ。

 

 いや、もう遅い。脳みその奥が焼けたような痛みを覚えて、クーゴは慌てて視線を逸らす。

 先程見た虚憶(きょおく)と、よく似たデザインの水着だ。刹那の水着が露出控えめになっている以外は。

 

 恐る恐る画像へ視線を戻す。ついでに煩悩も駆逐した。手が勝手に動いて画像を保存してしまったが、仕方ないことだと言い聞かせる。

 

 水着をなるべく意識しないよう心がけながら、クーゴはイデアと刹那が並んで写る写真を見つめた。刹那は顔を真っ赤にし、居心地悪そうにしている。対してイデアは楽しそうだ。バカンスに全力投球しているのがよくわかる。

 何度見直しても、2人がソレスタルビーイングに属する人間とは思えない。どこにでもいる、仲の良い友人同士だ。姉妹のようにも見える。どこにでもある平和な光景に、クーゴの口元は知らず知らずのうちに緩んでいた。

 

 

(『人の業そのものに戦いを挑み、それらすべてを背負わされる運命にある存在』、か)

 

 

 ソレスタルビーイングに属するイデアや刹那たちの行く末を考えると、今回の件も手放しで喜べない。

 

 たとえ、いつか自分たちが空/宇宙《そら》で相対峙し、戦う運命にあるということを知っていたとしても。

 『人の心の光』を宿す、気高き天上人たちに安らぎが訪れるようにと、クーゴは祈らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。




【参考および参照】
『スーパーロボット大戦Wiki』より、『カイルス』
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