問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。



27.焼野原広し

 

 H.I.A.W.Dの活躍で、人類は宇宙の危機から脱することができた。上位生命体オルブロとその関係者を撃破したり、危機が去った世界で燻る人間同士の争いを仲裁したりと大忙し。

 H.I.A.W.Dという部隊そのものは既に解散しており、所属していた各機関はそれぞれの道を選んでいる。地球連邦軍では、ロンド・ベルが中心になって立て直しに奔走中だ。

 

 地球連邦軍を私物化していた連中の実働部隊――それが、嘗て地球連邦軍で幅を利かせていた“独立治安維持部隊”である。奴らの悪評は未だに残っているため、新体制の地球連邦軍に向けられる眼差しは厳しい。失ってしまった信頼を取り戻すには、地道に成果を上げるのが1番だ。

 

 

「もうすぐ作戦の時間だ。ロンド・ベル隊各機、作戦は分かっているな?」

 

「勿論ですよ! テロリストが占拠している資源衛星の奪還と人質の解放! ケーンでも覚えられるぐらい簡単な任務だぜ!」

 

「そうそう! 俺でも覚えられるぐらい――……! おい、タップ! てめえ、それはどういう意味だ!?」

 

 

 今回派遣されたロンド・ベル隊の指揮官として任命されたのはグラハムだ。彼の問いかけに対してタップが任務内容を復唱し、それを聞いたケーンが通信越しに突っかかる。

 ドラグナー隊の面々の様子からして、ケーンとタップのやり取りは“いつものこと”らしい。雰囲気が緩む気配を感じ取る。成程、この部隊は隊長と副隊長のやり取りが清涼剤になっているタイプか。

 部隊の在り方に対して口を出す主義はないし、緊張を解きほぐすのは大事だ。ただ、リラックスしすぎるというのも問題である。最高のパフォーマンスには、適度な緊張感も必要不可欠なのだ。

 

 勿論、グラハム・エーカー少佐(御年アラサー)はそれを目ざとく察知したようで、和気藹々しているドラグナー隊に注意を促していた。

 

 

「リラックスするのはいいが、油断はするな。敵は追い詰められている状態だ。何をしでかすか分からん」

 

「りょーかいであります! 少佐殿!」

 

(……刹那とガンダムが絡んでなきゃ、文句なしに『立派な隊長』なんだけどなァ)

 

 

 今までの出来事――様々な意味で阿鼻叫喚図だった――を思い出し、クーゴはひっそり苦笑する。グラハムと刹那のお付き合いは順調――あくまでも、グラハム側の自己申告――とのことだ。

 脱線した思考回路を自分で修正しつつ、状況確認に耳を傾ける。トロワ曰く、『人質救助に向かったドルバック隊と連絡が取れないまま』らしい。何やら不穏な気配が漂っている。

 通信機能能力が高い機体であっても、ジャミングが酷くて交信できなくなっていた。“潜入先の資源惑星で何が起きているのか分からない”という状況だが、作戦開始までの時間は迫っている。

 

 例えドルバック隊との交信が復活しなかったとしても、任務は開始される手はずになっていた。そのことについては、ドルバック隊には任務開始前に伝えてある。

 資源惑星奪還を担当する部隊に出来ることは、友軍と人質の無事を祈りつつ、自分の任務を果たすことくらいだ。

 

 

「“太陽の勇者”隊、何か《視聴き》できたか?」

 

「いーや。今のところは、何も」

 

「クーゴは?」

 

「いいや。何も《視えない》し《聴こえない》な。資源惑星に近づけば、何か《分かる》かもしれない」

 

 

 グラハムの問いに対して、隊を代表した■■■■■が答える。いつの間にやら出世していた彼の地位は、ハワードやダリルを上回っていた。“独立治安維持部隊”の終末期に良識派と合流し、“独立治安維持部隊”の終焉に手を貸したという功績が評価されたためであろう。それはハワードやダリルも同じことだが、最終的には全員グラハムの部下として“太陽の勇者”隊に集っていた。

 クーゴに問いかけてきたグラハムの様子からして、グラハムもクーゴ同様“何も《視聴き》できなかった”のだろう。彼も“同胞”の力を有しているとはいえ、平時ではギリギリ平均値レベルだ。一定の条件を満たすことで、初めて本来の力――“同胞”の中でも最高/最強格の力をフルパワーで行使できるようになる。前大戦が終結する直前に“目覚めた”ときのアレコレは、今でも忘れられない。

 そんな会話をしているうちに、作戦開始時間を迎えたようだった。グラハムの音頭に従い、各々が動き出す。自分たちの動きに呼応するかのように、テロリストたちも部隊を展開し始めた。若者で構成されているドラグナー部隊――特に隊長であるケーン――だが、ギガノス戦役を戦い抜いた実力者だ。彼は見事な剣裁きを披露し、テロリストどもを叩きのめす。

 

 

「見事な剣技だ、准尉! 流石はギガノス戦役の英雄と呼ばれるだけのことはある!」

 

「へへ、なんのなんの! こんなの朝飯前ってね!」

 

「頼もしい限りだ! 私も負けてられん!」

 

「あ、こら!」

 

 

 嫌な予感――主に気苦労関連――を察知したクーゴが呼び止めるが、もう遅い。ケーンと意気投合、或いは触発されたグラハムが、彼と並んで突っ込んでいく。ああなったらもう止められない。

 タップのため息とぼやきが《聴こえて》きた。クーゴも同じようにため息をつく。ドラグナー部隊と共同で任務を行う度にこんな感じの光景が広がるのだ。ため息や愚痴を零したくもなる。

 

 クーゴは“勇者”の武装を展開する。“同胞”としての力を行使すれば、鮮やかな()()()が舞い上がった。他の機体もクーゴの意図を察したらしい。

 

 いつもの調子で武装を■■■ば、光が爆ぜる。一瞬の浮遊感と共に、世界が一気に変貌した。先程までは“目視で確認するのがやっと”だった隊長機がはっきり視認できる。

 突然の乱入者を目の当たりにし、あちこちから隊長機を狙っていたテロリストたちの動きが止まった。それを、置いてけぼりにされた面々で掃討していく。

 クーゴも展開した武装を利用する形でテロリストの機体を薙ぎ払う。すると、クーゴの武装を目印にしたグラハムの“勇者”がスタンドマニューバで戻ってくるのが見えた。

 

 

「部下を置いて突撃するんじゃないよ、このおばか!」

 

「やはりな! キミなら来てくれると信じてたぞ!」

 

「お前の無茶を止められないんだから、フォロー(こう)するしかないんじゃないか! 次やったらお前の分だけ弁当ナシだからな!!」

 

「それは理不尽すぎやしないか!?」

 

 

 軽口を叩きながらテロリストを掃討する。ついでに、“同胞”の力を使って周囲の状況を確認する。《聴こえる》のはテロリスト側の思考だけで、資源惑星にいるであろう人質の思考はさっぱりだ。

 

 

<――おかしい>

 

<何か《視聴き》したのか?>

 

()()()()()()()()()()

 

 

 資源惑星との距離は、任務開始時より随分と近づいている。普段ならば充分中の様子を《視た》り、《聲》を《聴き取れる》範囲なのに、何も《視えない》し《聴こえてこない》。

 襲い掛かって来たテロリストを武装で薙ぎ払いながら、クーゴは更に意識を集中させてみた。相変わらず《視えない》し《聴こえない》ままだ。

 クーゴたちのような“同胞”が人質救出任務を行う際、人質や生存者の感情を《聲》として《聴こえてくる》ものなのだ。死への恐怖、生への渇望、襲撃者への憤り――それらが無いというのは異常事態である。

 

 コックピットに持ち込んでいた懐中時計に視線を向ければ、現在時刻がお目見えだ。時間的に、先行していたドルバック隊が人質を救出していてもおかしくはない。

 だというのに、相変わらず人質の感情を拾い上げることはできなかった。勿論、自分たちが助かったことへの安堵や喜び等も察知できない。……何だか、嫌な予感がする。

 

 ドラグナー隊の誰かが『人質の救助を確認次第、一転攻勢に出よう』と言っているのが聞こえたように思ったのと、ひと際悪意と狂気に塗れた存在の気配を察知したのはほぼ同時。

 

 

<戦争だァ……! 戦争だぁぁぁッ! はは、あははははははははッ!!>

 

 

 高らかに笑う男の声と、戦乱によって広がる一面の焼け野原。男の声にも、そいつが抱いているであろうヴィジョンにも覚えがある。

 しかもそいつは、以前の戦乱のアレコレで行方不明になっていた輩だ。いや、どこからどう見ても()()は死亡確定の光景だったはず。

 

 

「焼野原広し……?」

 

 

 前大戦であの場に居合わせたクーゴは、思わず“戦争屋”関連のワードを口走る。あの戦いが終結して以降は一切口に出すことのないそれに誰かが反応するより先に、テロリスト部隊に新手が降臨する。

 

 機体はガンダムタイプ、機体のカラーリングは赤と臙脂色――前大戦で“惑星(ほし)の命を奪う兵器”に特攻し、破壊した際のエネルギーに飲み込まれて消滅したと思しき機体、“権天使”。それを視認した途端、またヴィジョンが流れ込んでくる。

 資源惑星に踏み込んだテロリストたちが一番最初に行ったことは、人質たちを皆殺しにすることだった。人質の殲滅を確認したテロリストどもは、連邦へ救助要請を出す。奴らを指揮していたのが“権天使”を駆る“戦争屋”だった。

 テロリストどもは奴の指示を受けて動き回っていた。断片的に《聴き取れた》のは、『“独立治安維持部隊”の再現』、『“独立治安維持部隊”は嘗て、テロリストごと人質を惨殺したことがある』。――此度のテロの目的はただ1つ。“新しい戦争を始めるための準備”だった。

 

 ドルバック部隊に関する情報が無いのが余計に嫌な想像を掻き立てられるが、戦慄している暇はない。

 クーゴは即座に“同胞”としての力を行使し、ロンド・ベル部隊全体に現状を報告する。

 

 

<各機体のパイロットに通達! これは罠だ! 資源惑星を占拠する過程で、奴らは真っ先に人質を全員殺害している! それを確認してから、資源衛星の爆破準備と連邦への救助要請を行った模様!>

 

「なんだって!?」

 

「オイオイ!? いきなりネタ晴らしかよ!? ショーのワクワク感が台無しじゃねえか!」

 

「――ハガネ少佐の言う通りだ! みんな、急いでここから離れろ! 資源衛星の爆発まで時間がねえ!」

 

 

 クーゴの《聲》はこの場全体に響き渡ったようだ。“戦争屋”には伝えた覚えはないが、何かを察知したことで“クーゴが“戦争屋”の作戦を見抜いた”と気づいたのだろう。不満そうに声を上げた。

 そのタイミングで飛び出してきたのは、人質救出任務に就いてから今の今まで音信不通だったドルバック隊の面々である。真人はクーゴの通達を補強するように声を張り上げた。

 

 慌てるロンド・ベル部隊を見ていた“戦争屋”が鼻で笑う。

 

 

「もうおせーよ」

 

「――ッ!」

 

 

 クーゴは即座に武装を展開し、■を■■■た。イデアのガンダムのような防御力とまではいかないが、“資源惑星の爆発の威力を削ぐ”くらいのことなら出来るだろう。

 凄まじい衝撃に歯噛みしつつも、ありったけの“力”を防御機構へ回す。仲間たちの気配は未だ健在であることに安堵しつつ、クーゴは状況を確認する。

 

 

「アイツら……本当に資源衛星を爆破しやがったのか……!」

 

 

 ケーンは“戦争屋”を睨みつける。彼の言葉通り、資源惑星は跡形もなく消滅してしまっていた。

 

 合流したドルバック隊は資源衛星に潜入した際に見聞きした情報をこちらに伝えてくれた。クーゴが“戦争屋”を始めとしたテロリストたちの思考回路から又聞きした通りの光景――テロリストによって人質は既に全滅しており、資源衛星を爆発させるための準備も終わっていた――という。

 「ロンド・ベル隊の面々にこの情報を伝えなければと思ったが、ジャミングが酷かったのと、脱出に手間取ってしまって伝えるのが遅れてしまった」、「奴らは最初から人質を解放するつもりなどなかった」――ドルバック隊に所属しているルイとピエールは、悔しそうな様子でそう締め括る。

 

 

「あーあ、ひでえ奴らだぜ。まさか俺たちを殺すために、資源衛星ごと爆破するとはなァ」

 

<貴様……! 地球連邦軍に罪を被せて『“独立治安維持部隊”の所業を再現する』ことで、新たな戦乱を呼ぶつもりか!>

 

「ぐあああああああ! クッソうるせぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 そんな自分たちを見ていた“戦争屋”は、楽しそうに笑いながら嘯く。

 だが、間髪入れず怒髪天になったグラハムの《聲》がこの場一帯に響き渡った。

 頭に直接衝撃を叩き込まれたようなものらしく、“戦争屋”が不快感を露わにして怒鳴り返す。

 

 味方判定であるはずのクーゴでさえ、反射で肩を竦める程の《聲》及び音量なのだ。怒りの矛先である“戦争屋”にはどれ程の威力で叩きつけられたものだったか。あまり考えたくなかった。

 クーゴの思考回路が脱線している間にも、2人――グラハムが“戦争屋”に対して一方的に《聲》を大音量で叩きつけ、“戦争屋”がそれにキレ散らかしている――の怒鳴り合いは続く。

 

 

「テメェ、クルジスのガキの恋人(オトコ)だな!? 毎度毎度喧しい野郎だ! “あの女”に()()()()()頃も、クルジスのガキ(アイツ)が絡むとすぐに牙を剝くとこだけは変わってねぇ!」

 

<そう言う貴様は、()()()と何も変わらんのだな……! このテロを起こすために、幾つの人生を捻じ曲げた!? 無辜の人々を使い潰したのだ!? この悪鬼外道が!!>

 

「だからいちいちうるっっせえんだよ! 普通に喋れねーのか!? ――ったく……!!」

 

 

 あらかたネタバレされた“戦争屋”は非常に不服そうにしていたが、奴は飄々とした態度でこちらに向き直る。

 他のテロリストたちが撤退していくのを横目に、“権天使”と、“戦争屋”の一派が再び武装を展開した。

 

 

「俺たちの仕事はとっくに終わってるが、折角だからな。少し遊んでやるぜ!」

 

「テメエ、よくも――」

 

「――准尉、迂闊に深追いするな」

 

 

 普段の突撃癖を発揮して“戦争屋”に突っ込もうとしたケーンは、グラハムの言葉に動きを止めた。■■波では激しい怒りを露わにしていたはずなのに、実際に口から出た奴の声は普段より一段と低い。どこまでも冷徹な響きを宿している。実際に《視えた》グラハムの表情もまた、文字通りの真顔であった。

 そんなグラハムの様子に気づいたのか、“戦争屋”は愉快そうに目を細める。「みょうちきりんな仮面をつけていた頃のお前よりも楽しめそうだ」――“戦争屋”が笑みを深くすれば、反比例するが如く、グラハムの表情は、より一層鋭く研ぎ澄まされていく。怒りが一周回った結果の産物だろう。

 

 

「さあ、始めようじゃねえか! とっておきの戦争ってヤツをよォ!!」

 

「この世界に貴様のような輩の居場所はない。――大人しく、地獄へお帰り頂こうか」

 

 

 襲い掛かって来た“権天使”を、ロンド・ベル隊の実質的な引率役をしている“勇者”が迎え撃つ。

 “勇者”の気迫に気圧されていた他の面々も、“戦争屋”への怒りを原動力にするかのように武装を展開した。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「今回の虚憶(きょおく)、名称や分類が不明の奴だったよね。部隊名や世界の特徴も見えてきたし、そろそろ名前を付けた方がいいんじゃないかな?」

 

「そうだな」

 

 

 ビリーの問いかけに、クーゴは2つ返事で頷いた。

 

 

「じゃあ、今回は部隊名から取ってH.I.A.W.Dにする?」

 

「『X(クロス)-Ω(オメガ)』だ。『X-Ω』じゃなきゃいけない」

 

「その理由と根拠は?」

 

「…………『交差する最終極点(X-cross Ω)』だから? ほら、Xは英語、Ωはギリシャ語の文字で一番最後のヤツだし」

 

「……キミ、分類名の根拠を説明するとき、理由をこじつけようとしてるときがあるよね。別に異論はないけどさ」

 

 

 クーゴのかなり苦しい辻褄合わせを聞いたビリーは、生暖かな眼差しでこちらを見た。“悪戯小僧の言い訳を聞いた”みたいな調子で苦笑され、クーゴは居心地悪さに視線を逸らす。

 結果、“微笑ましいものを見守る”みたいな目をしたグラハム、ハワード、ダリルたの眼差しとかち合った。成程、クーゴの逃げ場は何処にもないらしい。なんてことだ。

 彼らの眼差しから逃れたい一心で、クーゴは端末に情報を入力していく。虚憶(きょおく)の記録を思い出した面々もまた、大慌てで情報を入力し始めた。

 

 

「しかし、この“戦争屋”はとんでもない奴だな。軍部の黒歴史を動乱の下準備として利用するとは。奴のように待ちきれない輩や、奴よりも理性が無い輩が多い分、余計に異質さが目立っている」

 

「他の虚憶(きょおく)でも好き放題やっていたからな。行動原理は本能剥き出しなのに、“戦争を起こすためなら、知略を張り巡らせて期を待つ”こともできるなんて……」

 

 

 虚憶(きょおく)の情報を纏め終えたダリルが眉間に皴を寄せて不快感を露わにする。隣にいたハワードも頷いた。

 

 “戦争屋”の行動原理は至極単純、『自分が大好きな戦争を続けたい』。この思考回路を正しく理解し、且つ、奴の意見に同調できるのは、奴の同業者――“争いを生業にする人間”ぐらいなものだろう。平和を夢見る人々にとっては、蛇蝎の如く嫌われる存在だ。実際、H.I.A.W.Dに在籍していたロンド・ベル隊の面々も、奴の行動に対して怒りを露わにしている。

 しかもこの“戦争屋”、『戦争がやりたい』と主張する連中と比較すると“かなり理性的”な方だ。自分が大好きな戦争を起こすためなら、策謀を張り巡らせることも厭わない。基本は実行役として、依頼者の関係性や得意分野によってはプランナーとして、マッチポンプや世論操作を行える程の頭脳を持っている。本当、厄介なことこの上ない。

 

 

「同じ『X-Ω』の虚憶(きょおく)には、“戦争をするための舞台(ばしょ)がなくなると困る”って理由で世界を救う側に手を貸したケースもあったね」

 

「“とにかく相手を殲滅したい”、“人類と地球を滅ぼしたい”って思考回路ありきで動く連中のことは、あまり好きじゃなさそうな印象あるな。そういう奴らとは最終的に手を切って潰し合い始めそうだ」

 

 

 ビリーの言葉を聞いたクーゴは、虚憶(きょおく)で相対峙した連中のデータを改めて見直してみる。“戦争屋”と似たようなタイプは沢山いるが、よくよくデータを見返すと相性が悪そうな輩も結構いた。例としては、コズミック・イラ系の人間――ラウ・ル・クルーゼあたりか。

 クルーゼの出自は“とある要人のクローン”。彼の後継者になるために生み出されたようだが、最終的には『実の息子を後継者にするから、もうお前は必要(いら)ない』と捨てられたらしい。しかも、彼はテロメアの異常を抱えており、長く生きられない身だった。生まれた意味を失っただけでなく、残された時間も短かったのだ。

 『世界はクソ』という答えに辿り着いたのは事実だが、それと同じくらい『“この世界には希望がある”と信じたい』と願い続けていたクルーゼは、自分自身を生贄にするような形で大暴れした。自分の所業で世界を滅ぼすために行動しつつも、自分を止めてくれるであろう希望の出現を待ち焦がれていた。

 

 人類と地球が滅ぼうが、己が斃れようが、クルーゼにとっては喜ばしいことだったらしい。寧ろ、世界がどう転ぶのかを試していた節もあった。多分、彼のようなタイプの人間とは相性最悪だろう。……後に台頭してきた彼の親友――デスティニープランを掲げた“議長”のことも嫌いそうだが。

 

 “人が持ちうる遺伝子情報、及びその適性から人生のすべてを決める”デスティニープランは、“議長”なりに戦争根絶を目指した結果の産物である。

 それが適用された世界が存在していた場合、件の“戦争屋”は真っ先に排除される存在だろう。――そこまで考えて、ふと思う。デスティニープランを提唱した“議長”の名前は、何と言ったか。

 

 

「…………」

 

 

 そんなことを考えて顔を上げれば、真顔のまま微動だにしないグラハム・エーカーという光景が飛び込んできた。

 

 単なる真顔だったら、特段気にすることはなかっただろう。だが、今の彼の表情は、つい先程《視た》虚憶(きょおく)に出てきた『グラハム』のものと瓜二つだった。

 微かに漏れる吐息のトーンも、普段より一段と低い。そういうところまでもが虚憶(きょおく)の『グラハム』と同一である。

 

 ――いや、もっと前にも、似たようなことが無かったか? 激情を宿した翡翠が、ただ1点を見つめていたはずだ。

 

 

(……青と白基調のガンダムが、モラリアでAEUイナクトと戦っていたときも、こんな感じじゃなかったっけ――?)

 

 

「隊長? どうかしたんですか?」

 

 

 クーゴが既視感を覚えたのと、無言を貫くグラハムの様子が気になったハワードが彼に声をかけたのはほぼ同時。

 部下から名前を呼ばれたグラハムは、暫し目を瞬かせた後、普段通りの調子で笑った。

 

 

「――いいや、何でもない。……少し、考え事をしていただけだ」

 

 

 ――彼の声は、普段よりワントーン低かったけれど。

 

 

 

***

 

 

 

 アザディスタンの夜空を切り裂くようにして、4機のフラッグは空を翔けていた。

 

 この国の治安は本当に不安定だ。首都だろうと郊外だろうと、テロが絶えない。停戦援助なんて表だけだろうと思ったが、本格的にしないと対応できない程酷かった。

 ユニオンのお偉いさん方は、“治安維持なんて手を抜いて、本命であるガンダムに集中したかった”に違いない。手抜き不能な状態だとは予想外だっただろう。

 今晩だってそうだ。改革派の象徴である太陽光発電受信アンテナ施設に、保守派の過激派が攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 保守派の重鎮であるマスード・ラフマディー氏の誘拐事件のせいで、改革派と保守派の対立は更に深まっている。

 犯人は改革派か、保守派のマッチポンプか、第3勢力か。理由はわからないが、だだっ広い焼野原のイメージが頭から離れないでいた。

 

 

「行くぞ、フラッグファイター!」

 

「了解!」

 

 

 グラハムに従い、クーゴたちは彼の後ろに続く。

 MS同士が激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

 しかも、同じ機種のMS同士が戦っている。

 

 

「隊長! 味方同士でやり合ってますぜ!」

 

「どうします!?」

 

 

 ハワードとダリルが、グラハムに問いかける。グラハムも戸惑っている様子だった。

 

 

「く……! どちらが裏切り者だ……!?」

 

 

 攻撃する方を間違えれば、最悪の結果が待っている。下手に手を出せない状況だったが、静観することもできない状況だ。

 クーゴも歯噛みしながらMSたちを睨みつける。どれが敵だろうか。見分けがつかないというのは本当に不便――……?

 

 

(え)

 

 

 焼野原が《視える》。だだっ広い焼野原。

 それを抱くMSがどれか、《理解(わか)る》。おそらく、そいつらが裏切り者だ。判別がついたなら話が早い。

 クーゴは即座に操縦桿を動かした。狙いを定めて、勢いよく急降下。裏切り者の眼前に迫る。

 即座に飛行モードからMSモードへと機体を可変させ、クーゴはガーベラストレートとタイガー・ピアスを振るった。

 

 1体、2体、3体。焼野原を抱くMSを、クーゴは次々と屠っていく。

 相変わらず、この武装の切れ味は凄まじい。装甲が紙のようにスパスパ切れる。

 

 

「隊長、副隊長が!」

 

「大丈夫なんですか!?」

 

 

 ハワードとダリルが困惑した声を上げる。

 それを聞いたグラハムは、迷うことなく頷いた。

 

 

「大丈夫だ! おそらくクーゴには、倒すべき相手が《理解(わかっ)ている》!」

 

「ええっ!? 分かるんですか!?」

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ! 《理解(わかっ)ている》とも!」

 

 

 困惑する部下2人を尻目に、グラハムは力強く言った。強い確証を宿した翠緑の瞳に、2人は気圧された様子だった。困惑したような感情に触れる。

 クーゴは苦笑した。ハワードたちの気持ちはよくわかる。普通の人間では得られない確証を得て行動するクーゴの様子は、どこからどう見ても異質の一言に尽きるだろう。

 そんなクーゴの行動に理解を示すグラハムの判断もだ。人間卒業間近だからこそできる芸当である。自分で肯定してしまうというのも、色々と複雑な気持ちになるのだが。

 

 不意に、泣き叫ぶ子どもの《聲》が《聴こえた》気がした。廃墟と化した場所で、家族と思しき少女を抱えて叫ぶ少年。

 次の瞬間、レーダーにノイズが走った。思わずクーゴが動きを止める。その隙を狙ったMSが攻撃を仕掛けようとし、寸前で、MSの脚が吹き飛んだ!

 

 

「狙撃か!?」

 

「この粒子ビームの光は……ガンダムか!」

 

 

 クーゴに続いてグラハムが声を上げる。MSたちは脚や腕の武装を吹き飛ばされ、次々と戦闘不能に追い込まれた。

 

 

「しかも、この距離からの攻撃となると、スナイパー型のガンダム! ということは……」

 

「ということは?」

 

 

 どこか戦慄くグラハムの様子に、疑問を持ったハワードが問いかける。

 グラハムは、屹然とした表情で答えた。

 

 

「――お父さんだ!」

 

「はぁ!?」

「え」

 

 

 奴の表情は、どこからどう見ても真面目一徹だった。そこに、冗談を言うような空気など一切感じない。

 あまりにもあんまりな発言に、クーゴは思わず素っ頓狂な声を、ハワードとダリルは間抜けな声を上げてしまった。

 何をどうすればその結論に行きつくのか。そういえば、以前にも似たような状況に陥ったことがあったような、なかったような。

 

 奴が言ったのではない。奴の発言にリミッターが振り切れてしまった、スナイパー型ガンダムのパイロットが叫んだのだ。自分のことを“お父さん”と言い、『そんなの許さない』と主張していた。

 ゲッター線の施設を攻撃しに来たときに聞いた。あと、その際見てしまった虚憶(きょおく)でも同じ光景があった。久しく忘れていたが、グラハムの発言のせいではっきりと思い出してしまったではないか。

 

 

『私は彼女が好きだ! 彼女が、欲しいィィィィィィィ!!』

 

『お父さんは! お父さんは赦しません! こんなの絶対に認めないぃぃぃぃぃぃ!!』

 

 

『何人たりとも、私の愛を阻むことはできない! 阻むものがあるなら、そんなもの、私の無茶で押し通す!』

『年の差その他諸々考えろ、この変態が!!』

『キミにそれを言える資格はないな! キミは私と同類と見た!』

『天地がひっくり返ったとて、お前さんとだけは一緒にされたくないね! こっちは頑張ってお兄さんやってるんだからな!』

『そうやって、キミは愛するものが他人にかっさらわれていくのを、手をこまねいて静観すると? そんなこと、私はお断りだ!』

 

 

 あのときと同じように、色々と脱線してしまうのではないか――クーゴがそんなことを考えたときだった。

 

 

<――ところがぎっちょん!>

 

 

 ほんの一瞬。一際鮮明に、焼野原が《視えた》。どこまでも広い焼野原を背にし、高笑いを挙げる男の姿。

 新たなる戦乱を巻き起こすために、その男は笑いながらトリガーを引く。

 

 クーゴがその光景から現実に戻ってきた刹那、空にミサイルが放たれた!

 

 

「何っ!?」

 

 

 その数、4弾。いや、正確に言えば4弾ではない。クラスター爆弾と同じ原理だ。

 花を咲かせるように展開したミサイルの中から、大量の爆弾が、施設目がけて降り注ぐ!

 

 

「……っ!」

 

 

 クーゴは操縦桿を動かした。

 

 間に合わないと思い、衝撃に対して身構えていたが、予想していたことは起きなかった。

 クーゴの真上に降り注いだ爆弾を、スナイパー型のガンダムが撃ち落したのだ。

 

 間一髪、クーゴのフラッグは空へと舞い上がった。一歩遅れて爆弾が施設に着弾する!

 

 

(あ、危なかった……)

 

 

 スナイパー型ガンダムのパイロットは全弾撃ち落としたかったのだろうが、量が多すぎたらしい。ピンポイントの狙撃は得意でも、複数相手の乱れ撃ちは不得手のようだ。

 そういえば、別の虚憶(きょおく)で喧嘩をしていた双子の得意分野も正反対だった。兄は狙撃と精密射撃を得意としていて、弟は早打ちと乱れ撃ちを得意としていたか。

 いつぞや見た別の虚憶(きょおく)では、兄弟そろって恋人を怒らせて大変なことになっていた気がする。被害の度合いで言えば弟の方が大惨事だった。義実家からの攻撃のせいで。

 

 スナイパー型のガンダムが爆弾の一部を撃ち落としてくれなければ、クーゴは今頃爆発に巻き込まれていただろう。

 おそらく、それに関する感謝を告げる機会は、戦場では巡ってこない。戦場では、きっと。

 

 

「グラハム!」

 

「ああ、任せるぞ!」

 

 

 クーゴが何を言わんとしたか察したグラハムは、二つ返事で送り出してくれた。

 

 

「ハワード、ダリル! クーゴと共に、ミサイル攻撃をした敵を追え! ガンダム、もといお父さんは私がやる!」

 

「りょ、了解!」

 

「おと……!? が、ガンダムは任せますぜ!」

 

 

 続けざまに、グラハムはハワードとダリルに指示を出す。

 お父さんという単語に引っかかりかけたものの、彼らも即座にクーゴの元へと随伴してくれた。

 

 クーゴはフラッグを加速させる。体にかなりのGがかかってきたが、それを振り払うように操縦桿を動かした。襲撃者をこのまま野放しにしては置けない。

 奴はまだ近くにいるはずだ。脳裏に浮かぶ『だだっ広い焼野原』のイメージが、どんどん鮮明に見えてくる。それこそが、襲撃者に近づいているという証拠だ。

 荒野の真ん中に佇む男の元へ距離が迫る。奴がこちらに気づいて振り返った。ぼさぼさの茶髪に、伸び放題の無精髭。鋭く、けれど愉快そうに細められた瞳。

 

 その顔が鮮明に《視えた》と思った次の瞬間、

 

 

<何ィ!?>

 

 

 驚愕の声がした。そこで、クーゴは現実へと引き戻される。雲を突き破った眼下には、AEUイナクト。

 しかも、ただのAEUイナクトではない。モラリア戦役でグラハムの“意中のガンダム(天使)”を追いつめた、緑青のイナクトだ!

 

 世界中を戦果に陥れることを生きがいとし、その中で戦うことを生業とし、それこそが己の娯楽でありすべてなのだ――と。

 

 焼野原を抱く男は笑う。

 狂ったように笑い続ける。

 これ以上、好き勝手にさせてはいけない。

 

 

「なにが――」

 

 

 フラッグを急降下させる。イナクトとの距離が一気に縮まった。

 

 

「ぎっちょんだ、この野郎!」

 

 

 鞘からガーベラストレートとタイガー・ピアスを引き抜き、イナクトへと振り下ろした!

 

 

「ちぃっ!」

 

 

 イナクトは寸でのところで機体を可変させ、プラズマソードで攻撃を受け止める! 刃がぶつかる音が激しく響いた。

 何度か切り結びを繰り返し、フラッグとイナクトは距離を取った。流石は傭兵、確実に相手を屠ることに特化した戦い方だ。こちらの型に嵌めづらい。

 相手も、日本武術(主に剣道と殺陣)をベースにしたクーゴの戦い方が珍しいのだろう。己の型に嵌めることが難しいようだ。しかし、それすらも奴は楽しんでいる。

 

 日本文化についても多少は齧っていたらしい。

 しばしガーベラストレートとタイガー・ピアスを見比べたのち、男が愉快そうに笑ったのが《視えた》。

 

 

<成程な。これがサムライってヤツか。面白れェ!>

 

 

 今度はイナクトが攻撃を仕掛ける番だった。リニアライフルの照準がフラッグに向けられる。クーゴは即座に操縦桿を動かした。

 

 リニアライフルの弾丸を避け、ときにはガーベラストレートとタイガー・ピアスで真っ二つに切り裂き、クーゴは再びイナクトとの距離を縮める。

 待ってましたと言わんばかりに、イナクトがプラズマソードを振りかざした! フラッグも迷うことなく、刀で剣を受け止める!

 

 

「おらよっ!」

 

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 ぶつかり合う中で、イナクトが突如回し蹴りを叩きこんできた!

 不意を突かれたフラッグが大勢を崩す。プラズマソードが再び振りかざされた。

 

 

「なんのッ!」

 

 

 イナクトの追撃を紙一重で受け止め、今度はクーゴがカウンターに入る。

 その一撃は、イナクトが咄嗟に突き出したリニアライフルによって阻まれた。

 

 ガーベラストレートはライフルを真っ二つに叩き切ったが、イナクトの決定打としての意味を成さなかった。イナクトのパイロットは、障害物(ライフル)に阻まれた僅かな時間とズレを利用し、クーゴの攻撃を流したのである。再び、フラッグとイナクトは距離を取った。

 

 

(やりづらい相手だな)

 

 

 クーゴが侍なら、相手は無法者だ。何物にも縛られないがゆえに、何をしてくるのかまったく見当がつかない。ルール無用、むしろ奴のルールは奴にしかわからないのが恐ろしい。

 状況は、遠距離用の武装を失ったイナクトの方が不利だ。しかしこのパイロットは、己の置かれた状況も楽しんでいる。ここからどうやって、自分の望む――自分が楽しめる戦争をするか、考えているのだ。

 

 

<お父さん、刹那を私にくださぁぁぁぁぁぁぁいッ!>

 

<誰がやるかコンチクショウ! お父さんは赦しませんよォォォォ!>

 

 

 どこかからか、グラハムとスナイパー型ガンダムのパイロットが叫んでいる声が聞こえた。

 やはり、似たような会話をどこかで聞いたことがある。今はどうでもいいことだが。

 フラッグとイナクトが睨み合う。再び、相手に攻撃を仕掛けようとしたときだった。

 

 寒気がした。纏わりつくような悪意と殺意。本能が大音量で悲鳴を上げる!

 

 ほぼ勘に近いが、クーゴは迷わずそれに従って操縦桿を動かした。イナクトのパイロットも同じようで、クーゴのフラッグと鏡合わせのように回避に動く。

 刹那、数秒前までフラッグとイナクトがいた場所に向かって、金色に輝く弾幕が降り注いだ! あと一歩遅かったら、直撃していたに違いない。

 

 

「何だ!?」

 

 

 レーザーが降り注いだ方向に視線を向ける。黒い機影が、夜闇の中におぼろげな姿を見せていた。

 

 背中に巨大な何かを背負ったMSが、フラッグの方を向いた。機影に動きが見える。次の瞬間、何かがフラッグ目がけて飛んできた!

 操縦桿を動かして回避行動に移ろうとしたが、それよりも、何かがフラッグを捉えるほうが早かった。正体は、巨大なアームである。

 アームの後ろには長いワイヤー。機影はそれを、ヨーヨーの原理で振り回すつもりなのだ。逃れようともがくが、どうしようもない。

 

 

(まずい!)

 

 

 このままでは、思い切り振り下ろされる。高度数百メートルから、地面に叩き付けられるのだ。その末路は――言わずもがな、である。

 背中を襲った悪寒は、己の末路に対する恐怖だけじゃない。もっと別な場所にあるものだ。少し前、自分はそれと対峙していたような気がする。

 

 クーゴの思考回路は、体を襲い始めた遠心力とGによって、強制的に中断させられた。代わりに湧き上がるのは、己が死へと向かっている事実と、それに対する恐怖のみ。

 

 死にたくない。

 でも、死ぬ以外に道がない。

 それでも、死にたくない。死んではいられない――!

 

 

「クーゴさん!」

 

「――っぉう!?」

 

 

 次の瞬間、何かが切断されるような音と聞き覚えのある声が響いた。フラッグを振り回していた力から、投げ出されるような形で解放される。

 

 寸でのところで機体の態勢を整え持ちこたえると、緑の光が見えた。顔を上げる。

 眼前には、何度も見慣れた純白のガンダム。天女は心配そうにフラッグを見つめていた。

 

 どうやらクーゴは、イデアに助けられたらしい。彼女がここにいるということは、ソレスタルビーイングが動いているということだ。

 何者かの悪意により、戦禍に陥れられそうなアザディスタン。『ソレスタルビーイングが介入行動を起こす』と踏んだ上層部の予想は、見事に正解だったようだ。

 

 

<身持ちが堅いな、ガンダム! 流石はお父さんだ!>

<このしつこさ、尋常じゃねえぞ!? 刹那はこんなのに言い寄られてたってのか……!?>

<そうだな。私はしつこくてあきらめも悪い。俗に言う、人に嫌われるタイプだ!>

<言った! 自分で認めやがったぞコイツ!>

 

 

 どこかからか、グラハムとスナイパー型ガンダムのパイロットが叫んでいる声が聞こえた。

 やはり、似たような会話をどこかで聞いたことがある。今はどうでもいいことだが。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 

 安堵したように微笑んだイデアの顔が『視えた』クーゴは、困惑しながらも礼を述べた。

 まさかガンダムに――しかもイデアに助けられるとは思わなかった。ゲッター線のときとは真逆である。

 何も知らずに、クーゴは彼女と切り結んできた。互いの立場を知った上で、空で対峙したのは初めてだ。

 

 そこまで考えていて、はっとした。

 

 緑青のイナクトは、どこへ行ったのだろう。

 クーゴを襲った襲撃者の行方も気になる。

 

 

(そうだ、あいつ!)

 

 

 クーゴは慌てて周囲を見回したが、緑青のイナクトも、襲撃者と思しき機影も、もう見えなかった。

 

 

「逃したか……!」

 

 

 とんだ失策である。危うくモニターに八つ当たりしそうになった。

 どうにかして堪えて、クーゴは大きく息を吐いた。

 

 

<皮肉なものだ。嘗て空を飛ぶためにすべてを絶った私が、ただひとりを求めて空を飛ぶことになろうとは>

<あんた……>

<そういう訳でお父さん、彼女を私にくださぁぁぁぁぁぁぁいッ!>

<やっぱりあんたはダメだ! 絶対にダメだ!!>

 

<くっ! よくも私のフラッグを傷物にしてくれたな!>

<お前こそ、よくもウチの刹那をたぶらかしてくれたな!>

 

 

 どこかからか、グラハムとスナイパー型ガンダムのパイロットの会話が聞こえた。

 途中から叫び声になった気がする。……いいや、今はそんなことはいい。

 

 イデアには、こちらを攻撃する意思はない。クーゴにも、彼女を攻撃する意思はない。必然的に、フラッグとガンダムは空で向かい合っていた。

 

 いつぞやのオフ会で、喫茶店の対面席に座っていたときのことを連想したのは何故だろう。上には満天の星空が、下には雲の海が広がっている。

 場違いなほどに穏やかな時間が流れた。こんな逢瀬も悪くはない。クーゴの思考回路を読み取ったのか、イデアも嬉しそうに笑った。

 しかし、彼女の微笑はすぐに寂しそうなものに変わった。どうしたのか、と問う間もなく、クーゴのフラッグに緊急の無線が入る。

 

 

「MSが、王宮に向かって侵攻……クーデターか!?」

 

 

 至急防衛に向かってください、という無線内容が繰り返される。

 

 

<クーデターだとよ。早く行け、フラッグのパイロットさんよ>

<彼女に会えなかった上に、お父さんとの決着も付けられず仕舞いとは……!>

<いいから! さっさと行ってくれよ頼むから! 軍人の本分を思い出して、それを果たしてくれ! もうこれ以上、俺の精神を侵さないでくれ!!>

<……言い返したい言葉は山ほどあるが、私とて人の子だ! 今は何を成すべきかくらい心得ている!>

 

 

「クーゴ、ハワード、ダリル! 首都防衛に向かうぞ!」

 

「了解!」

 

 

 どこか遠くから響いていたような声が、突然鮮明に響いた。いつの間にか、通信が開いている。

 映し出されているのは、他の誰でもないグラハム・エーカーであった。

 

 クーゴはハワードとダリルに続き、彼の言葉に返事をする。

 

 ちらりとイデアの方を向く。純白の天女は静かにフラッグを見つめていた。頑張って、行ってらっしゃい、と、彼女の声が聞こえた気がした。

 名残惜しい気もするけれど、自分が今何を成すべきか、クーゴはきちんと心得ている。ガンダムに背を向けて、クーゴは首都へと進路を取った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ところでロックオン・ストラトス。貴方は誰と会話していたの?」

 

「またかよ!? もう嫌だこのパターン! 俺は一体どうなったっていうんだァァァァァァァァ!!?」

 

 

 留美(リューミン)の言葉に頭を抱えて慟哭する、ロックオン・ストラトス25歳。

 彼は順調に、人間としての坂道を転がり落ちていた。ゴールはまだまだ先である。

 

 ちなみに、今回の出来事はこれで2回目だ。まだ2回目であるのだが、彼にとっては相当ホラーな出来事だったらしい。

 

 

(彼がストレスで潰れるのが先か、無事に“目覚めの日”を迎えるのが先か)

 

 

 イデアはハホヤーを翔ながら、そんなことを考えていた。

 刹那との合流地点到着まで、まだもう少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 首都は現在、厳戒態勢が敷かれていた。大半の要人や富裕層、および観光客の避難は軒並み完了している。

 数メートル先に建っていたビルが崩れていくのを見ても尚、アレハンドロは避難しようとすらしなかった。

 

 

「避難しないのですか?」

 

 

 リボンズの言葉に振り返ったアレハンドロは、優雅な笑みを浮かべる。

 

 

「リボンズ、ノブレス。キミたちも見ておくといい。ガンダムという存在を」

 

<もう既に見てますけどね>

 

<搭乗したことすらあるけどね>

 

 

 偉そうに言い放ったアレハンドロに対して、リボンズとノブレスは反論した。勿論、心の中である。

 戦場の範囲は、どんどんこちらに近づきつつあった。それと同じように、ガンダムも近づいてきている。

 ここに介入する予定なのは、エクシアを操る刹那・F・セイエイ。リボンズが見出し推薦した、ガンダムマイスターであった。

 

 顔は無表情そのものだが、リボンズは結構浮かれていた。

 娘の初舞台を見守るような父親並みに、じっと窓辺を見つめている。

 

 

<楽しみですか?>

 

<とても>

 

 

 アレハンドロがいなければ、彼は満面の笑みを浮かべていたであろう。ノブレスは、心の中でゆるりと微笑んだ。

 

 

<なんてったって、刹那・F・セイエイは僕が見出したんだ。僕に可能性を見せてくれた彼女の姿を、モニターではなく、間近で見れるんだよ? これ程嬉しいことはない……!>

 

<ここにアレハンドロがいなければ最高だったでしょうね>

 

<本当にね。あとはワインとチーズがあれば……>

 

<あるけど飲めませんもんね。全部奴のですし>

 

<後でワインセラーから年代物の奴かっぱらってきて飲もう>

 

<冷蔵庫を漁るのは任せてください。チーズ、市販のものと入れ替えておきます>

 

<高級品から一般流通してるやつに入れ替えても、全然気づかないよね。アレハンドロ・コーナー>

 

<本当にセレブなんですかねー>

 

 

 ノブレスとリボンズが脳内で会話を繰り広げていたとき、白と青基調のガンダムが降り立った。お、と、リボンズが小さく歓声を上げる。ノブレスも、彼女の戦いを見守った。

 エクシアはあっという間にMSを撃墜していく。その出で立ちは戦乙女と呼ぶに相応しい。戦い方はやや荒削りさが残るものの、以前モニターで見たときと比較すれば、かなり良くなった。今では美しさも加わっている。

 

 花のつぼみは着実に、開花へと向かっているのだ。彼女を見出した人間として、リボンズも嬉しいだろう。

 窓から刹那の活躍を見守りつつ、リボンズは驚いたふりをしながら「これがガンダム」と零した。完全な棒読みだった。

 

 

<ちょ、棒読み>

 

<ノブレス、草まみれになってるよ。草刈機を持ってこないと>

 

 

 日本のネットスラングで言えば、ノブレスの台詞の横には「w」が延々と続いていただろう。

 それを指摘しながら、リボンズはアレハンドロに視線を向けた。えへん、と胸を張っている。

 彼に台詞を当てるとするなら、<どうだ、凄いだろう? 何せ刹那・F・セイエイは(以下略)>が相応しい。

 

 ガンダムの勇士を見ていたアレハンドロが鼻で笑う。やれやれ、とでも言いたげな様子だった。

 

 

「力任せだ。ガンダムの性能に頼りすぎている」

 

 

 アレハンドロの発言は、見事にリボンズの地雷を踏みぬいた。彼の表情から、完全に感情が消え失せる。能面のような顔に対し、紫の瞳には炎が揺らめいていた。

 怒っている。リボンズが本気で怒っている。脳量子波や能力を使わずとも、ノブレスにはそれが手に取るようにわかった。

 

 

「パイロットは刹那・F・セイエイだったか」

 

 

 たかだか16歳の子ども。ちっぽけな少女。

 そんな奴に、ガンダムマイスターが務まるはずがない――。

 アレハンドロの目は、口以上に雄弁に語っている。

 

 奴は、己こそがガンダムマイスターに相応しいと思っている。しかしヴェーダはアレハンドロを認めなかった。

 

 だから、奴は自分の手でガンダムを作ろうとしている。

 アルヴァトーレおよびアルヴァアロンは、アレハンドロの夢の結晶であった。

 

 

<…………のくせに>

 

 

 リボンズが、ぽつりと呟いた。ノブレスは思わず首を傾げる。リボンズは絞り出すように紡いだ。

 

 

<……エレガン党四天王の中で、一番小物且つ最弱のくせに……!!>

 

<あー……>

 

 

 彼の言葉に、ノブレスは納得したように頷いた。もちろん、心の中である。

 リボンズの怒りは収まるところを知らない。最近見た虚憶(きょおく)を諳んじるように、彼は朗々と言葉を紡いだ。

 

 

<リモネシアが吹き飛んだときは『仕方のないこと』なんて失言をかまし、外宇宙からの侵略者に対して楽観的な判断を下し、他の面々から呆れられ、3人より先に行動した挙句一番最初にやられたくせに。実力順に並べると、トレーズ=ミリアルド>シュナイゼル>超えられない壁>アレハンドロになるってのに、何なんだアレ。本当に人間ってわからないよ>

 

<トレーズ、ミリアルド、シュナイゼルが再世戦争で敗北したのに対して、アレハンドロはそれ以前の事件――破界事変でやられちゃったんでしたっけ?>

 

<腹立たしい。釈然としない憤り……ああ、怒っているさ。僕は怒っている。相当にね>

 

 

 リボンズの眼差しはアレハンドロに向けられている。自分の従者にそんな眼差しを向けられているとすら思っていないアレハンドロは、優雅な出で立ちを崩さなかった。

 

 

<ノブレス>

 

<何ですか>

 

<アルヴァアロンのモニターに施した嫌がらせ、爆発の威力上げよう>

 

<合点承知!>

 

 

 リボンズの言葉に、ノブレスは2つ返事で頷いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 アザディスタンの夜空には、星が瞬いていた。

 

 クーゴたちは首都へ向けて進路を取っている。

 グラハムとはそこで落ち合う予定だ。

 

 

「ミサイルを発射した者は?」

 

「MSらしき機体を見つけましたが、特殊粒子のせいで……」

 

 

 グラハムの問いかけに、ハワードが苦い表情を浮かべて答えた。

 しかし、次に聞こえた彼の言葉に、クーゴは目を見開くことになる。

 

 

「しかもそのとき、副隊長の機体が突然消えたんです! つい先程合流しましたけど、今まで、一体どこに行ってたんですか?」

 

「――え?」

 

 

 そんなことを言われても。クーゴは心の中でぽつりと呟いた。

 

 そういえば。イナクト交戦している最中も以後も、随伴してくれたはずのハワードとダリルの姿がなかった。ハワードとダリルがイナクトを見失ってしまったというなら、クーゴもイナクトを見失っているはずだ。

 自分たちは一緒に行動していたし、別行動を取った覚えもない。クーゴがイナクトに追いすがっていたとき、一体何が起きたのだろう。空間転移でもしてしまったのだろうか。次元科学でもあるまいし。ぐるぐる悩んでも仕方がない、ありのままを報告しよう。

 

 

「ミサイルを撃ったと思しき機体を追いかけて、交戦していたんだ。犯人はAEUイナクトだが、軍の所持するものではなさそうだった。機体のカラーリングは緑青で、カメラアイ付近に傷のような模様が入ってたよ」

 

「緑青のイナクトだと? それはまさか――」

 

「ああ。モラリアで、白と青基調のガンダムを追いつめた奴だ。間違いない」

 

 

 クーゴの言葉に、グラハムが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そういえば、モラリアのときも、グラハムはイナクトを目の敵にしていたような気がする。

 彼はイナクト――正確に言えば、イナクトのパイロットに、強い対抗心を燃やしていた。その原動力は嫉妬だろう。本人は未だに、頑なに否定しているが。

 流石は“嫉妬の目を持つ怪物(Green eyed monster)”。瞳が緑なのは伊達じゃないということか。正直、状況が状況じゃなければ盛大に茶化してやるところだ。それをぐっと堪えて、クーゴは言葉を続ける。

 

 

「けど、見失ったよ。途中で邪魔が入ってな」

 

 

 クーゴの発言に、グラハムが首を傾げた。

 

 

「邪魔?」

 

「ああ。MSらしき機影は見たが、確認できなかった。危うく殺されかけたよ。間一髪で、天女が助けてくれたけど」

 

「成程。運命の女神は、キミに微笑んだという訳か」

 

 

 天女、という単語が何を意味しているのか、グラハムはすぐに察した様子だった。

 そのまま、彼は考え込むように俯く。思考回路は、クーゴを襲ったMSへとシフトチェンジしていた。

 

 

「となると、あのイナクトには協力者がいたということか?」

 

「それはないと思う。俺を襲った奴は、イナクト共々撃墜しようとしてきたからな」

 

 

 思い出すだけで寒気がする。

 纏わりつくような悪意と殺意。

 確実に、襲撃者はクーゴを殺すつもりだった。

 

 機影からして、アザディスタン軍やアザディスタンの傭兵が有するようなMSではなかった。おぼろげな姿しか見えなかったけれど、それだけはハッキリ言える。

 襲撃者は何のために、クーゴのフラッグを()とそうとしたのか。ユニオン軍への反発にしては、狙いがピンポイントすぎるような気がしなくもない。

 

 

「確かに。フラッグ1機を撃墜するより、ユニオン軍が駐留する基地に、攻撃を仕掛けた方がいい見せしめになるはずだ……」

 

「相手は何を考えているんだ……?」

 

 

 ハワードとダリルが眉をひそめる。

 しかし、いくら悩んでも答えが出るわけではない。

 

 今はともかく、首都防衛へと向かわなければ。

 

 面々の思考回路は一致したらしい。通信越しからそれを確認したクーゴは、操縦桿を動かした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「増援部隊は、首都圏全体の制空権を確保しました!」

 

 

 朝日が眩しく降り注ぐ中で響いた通信を聞いて、グラハムは小さく頷いた。

 フラッグから見えた首都の惨状に、酷く胸が痛む。

 

 

『この世界に、神はいない』

 

 

 今にも泣き出してしまいそうな声音で、刹那が言ったことを思い出す。

 

 グラハムは、彼女のことを何も知らない。刹那にそう言わしめた出来事が何なのか、知る由もない。

 けれども、この光景の中に、その答えがあるような気がした。MSの残骸と、死体の山の奥底に。

 彼らは神を信じ、神のために暴挙に走った。神のために戦い、神のために死んでいった。

 

 彼らは真剣だった。他者から見れば「暴徒」という単語で片付けられるような行動であるが、彼らからしてみれば、己の命を賭けるべきものだったのだろう。

 死への恐怖を信仰という鎧で覆い、楽園に召されることを信じて散っていく。死の先には何も残らない。残るとしたら、憎しみだけだ。そうしてそれは、連鎖となって続いていく。

 

 

「信心深さが暴走すると、このような悲劇を招くというのか……」

 

 

 グラハムはぽつりと呟いた。痛ましい光景は、現在進行形で目の前にある。

 何人の人間が犠牲となったのだろう。何人の人間が殺し、殺されたのだろう。

 彼らは皆同じ国に住み、同じ神を信じている、同じ人間だというのに。悲劇を避けることはできなかったのだろうか。

 

 この世界に神がいるならば、どうしてこの悲劇を回避させなかったのか――。誰もが考えることだろう。

 これは試練だと言う者もいる。これは罰だと言う者もいる。これは予定調和だと言う者もいる。正しいのは、どれだ。

 

 

『この世界に、神はいない』

 

 

 今にも泣き出してしまいそうな声音で、刹那が言ったことを思い出した。

 

 神がいるというならば、今すぐにでも、少女の涙を止めてほしい。その悲しみを終わらせてほしい。

 グラハムがそんなことを考えたときだった。

 

 

<……俺は、ガンダムになれない……!>

 

 

 どこからか、少女の悲痛な叫び声が聞こえる。

 己の無力さに打ちひしがれたような、弱々しく、けれど絞り出したような声。

 

 俯いた少女の姿が《視えた》ような気がしたグラハムは、思わず息を飲む。

 自分ではどうにもならぬ『それ』を目の当たりにして、彼女の名前を呼ぶので精一杯だった。

 『それ』を終わらせる術を、グラハムは、何一つして持っていなかったから。

 

 

「刹那。キミは、今……」

 

 

 泣いているのか。

 

 グラハムの喉につかえた言葉が、音として成されることは、終ぞなかった。

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。

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