問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


2.トリオ、プラスワン アンドアルファ

 

 歌い手夜鷹が初めての動画を投稿してから早数か月。投稿頻度はやや遅めの方であるが、少しづつ動画の数を増やしていた。

 今日も今日とて、女性は新人歌い手の曲に耳を傾ける。彼の歌から《視れる》虚憶(きょおく)を纏めることは、自分の仕事のうちの1つであった。

 

 

「人の心の光、かぁ……」

 

 

 新しく投稿された曲の余韻に浸る。情報は既に纏め終わり、関係者に送信済みだ。今は個人的な趣味と娯楽の一環として、夜鷹の歌を聞いている。

 

 大特異点と化した巨大隕石は、地球に落下すれば大規模な寒冷化を引き起こす程の破壊力があった。そこに多元世界由来の科学技術――次元化学とその他諸々が組み合わさったことにより、“地表に落下したら最後、地球に流れている時間が永遠に止まってしまう”という超現象を引き起こす危険物と化している。ジオンの総帥はそれを阻止するため、実質孤軍奮闘の暗躍をしていたそうだ。

 あの虚憶(きょおく)にいた女性たちは“地球に流れる時間が永遠に止まってしまう”という現象を時の牢獄(エタニティ・フラット)と呼んでおり、それを打破するために大特異点を止めようとしていた。多元世界に集まった数多の技術を結集した、文字通りの総力戦。誰もが自分にできる戦いをして、全力を尽くし、地球の未来をZ-BLUEに託したのだ。

 ジオン総帥が成そうとしていたことを理解したジオン軍の兵士たちも、満身創痍の機体を引きずって隕石を押し返すために協力してくれた。Z-BLUEの姿――無限の未来を望み、永遠の停滞に対して諦めず挑み続けるという在り方――に心を動かされたためだろう。『地球が駄目になるかならないか』、『やってみる価値はある』と笑った兵士たちの顔が《視える》。

 

 あの瞬間、確かに世界は1つに纏まっていた。国家間や宇宙間のいがみ合いも、積み重ねられてきた血塗られた歴史も、数多の戦乱で傷つき疲弊したが故の蟠りも超えて。

 地上にいる人は宇宙にいる人へ、宇宙にいる人は地上にいる人へ、戦場を駆る人は平和な地に暮らす人へ、平和な地で暮らす人は戦場を駆る人へ向けて、ただ一心に祈りを捧げていた。

 

 

(フル・フロンタルは『この温かさを持った人間が感情を制御しきれず自滅の道を歩んでいる』故に、『より良き世界に導く指導者が必要になる』と語っていた。……けど、当人には“人々をより良き世界に導くつもりはなかった”んだよね)

 

 

 夜鷹が投稿した動画からでは、大特異点を落とそうと暗躍していた2代目赤い彗星――フル・フロンタルの行動原理を掴むことは叶わなかった。

 断片的に分かったのは、“フル・フロンタルは人類に絶望し、失望してしまった”ことくらいだ。彼が何を見てきたかまでは読み取れない。

 

 まあ、ぶっちゃけると、“夜鷹の曲で《視えた》虚憶(きょおく)は、フル・フロンタルの苦悩よりも人の心の光の美しさにウエイトを置いたものだった”のが理由であった。

 

 

(最終的に、フロンタルは“何かを考えることなく、己に与えられた役割に殉ずるだけの存在”であることを選んだ)

 

 

 『人の総意を集める器たれ』という役割を与えられて生み出された、空っぽな男。

 どのような経緯があったかは不明だが、彼は最終的に、自分の意志で空っぽな存在になることを選んだ。

 “正反対の決断を下した指導者”の背中に思いを馳せつつ、女性は端末に視線を向ける。

 

 

「……で、どう思う?」

 

「バリバリですねー」

 

 

 端末の向こう側にいる“同胞”に問いかければ、彼は真顔で答えた。

 

 

「潜在能力はおそらく青。その中でも、虚憶(きょおく)保持数や共有および感応能力は、青の中でも上位に入るかと思われます」

 

 

 青年が視聴していたのは、つい先程投稿された夜鷹の最新動画である。青年もまた、女性と同じ共有者(コーヴァレンター)であった。

 特に、“同胞“を見分けたり、“同胞”の能力を正確に把握することに長けている。他にも得意分野はあるが、ここではあまり関係ないので割愛させてもらおう。

 

 

「彼はエトワールの投稿動画を視聴しただけで、“貴女が自分と同じ力を持っている”と気づいたんですよね」

 

「ええ」

 

「歌を聞く限り、夜鷹氏は無自覚に“力”を発現しているみたいですね。完全覚醒までには時間が必要でしょうが、目覚めれば“同胞”内では最強格になるかと」

 

 

 青年はそう言って“力”を行使する。目を閉じて集中している彼の脳裏には、先程の虚憶(きょおく)――大特異点を総力戦で押し返すZ-BLUEの姿が映し出されているのだろう。ちょっとウズウズしているのは、彼の本業及び(サガ)故のものか。

 展開的にも本業的にも激熱な展開が続くのだ。思いを馳せている最中に「ん゛ん゛ん゛っ」と呻いては握りこぶしを振り上げかけ、無理矢理抑え込もうとする動作を繰り返してしまうのは致し方ない。女性の知っている“青年の同業者”は、時折自身の感情を押さえようと奮闘しているからだ。

 尚、女性や青年の関係者たちは“普段は内なる熱や感情を発露することが多い”タイプだ。それ故に、TPOを弁えなければならない場で熱や感情が高ぶってしまうと、それを誤魔化すためにかなりの労力が必要になったりする。閑話休題。

 

 

「計画には『“この地上で生まれ落ちた同胞”が中核になるだろう』だということは分かっていましたけど、そのうちの1人がユニオンの軍人かぁ……」

 

「“同胞”が辿って来た歴史上、秩序側に所属する軍人に対してはあまりいい思い出ないからね。ちょっと心配になる気持ちは分かるかも」

 

 

 青年の懸念を受け止めた上で、女性は微笑む。

 

 

「でもね、私と彼は《分かり合える》と思うんだ」

 

 

 脳裏に浮かんだのは、今は亡き母や尊敬する指導者から受け継いだ記憶。血塗られた歴史で隔てられた指導者たちが、己の命を賭して“偉大なる賭け”に挑んだ姿だ。積み上げてきた屍の山は最早どうにもできないけれど、『せめて未来では二度とそんなことが起きないように』と奮起した者たちの存在あった。それが、今ここで生きる自分たちに繋がっている。

 その答えに辿り着くために、2つの指導者は長い長い回り道をしてきた。数多の絶望と喪失や別離を繰り返し、己の所業を顧みて、迷い迷って答えを出した。誰かに強制された答えではなく、自分自身で考えて、自分の意志で下した決断を貫き通したのだ。――その果てに、確かに彼らは《分かり合えた》。殺し合う敵対者としてではなく、共に戦った友人として最期を迎えた。

 

 沢山すれ違って、傷つけあった。けれど、最後は確かに《分かり合う》ことができたから。

 

 指導者2人は願ったのだ。『きっとまた、何度でも巡り合いたい』と。

 彼らの想いは、今この瞬間だって脈々と受け継がれている。

 『きっとまた何度でも巡り合いたい』と思えるような相手こそが、運命の相手なのだ。

 

 

「私にとっては彼が《運命の相手》だけど、彼にとっての私もそうだったらいいなぁって思ってるの」

 

「……羨ましいです。僕もいつか、貴女のように《運命の相手》だと確信できる相手と巡り合ってみたいものですね。若しくは、誰かにとっての《運命の相手》になってみたいかな」

 

「前者については何とも言えないけど、後者に関しては既に条件満たしてそうじゃない? ほら、キミが面倒を見ている生徒さんたち」

 

「だといいんですけど……」

 

 

 きょとんと首を傾げる青年は、女性の言葉の意味を飲み込みきれないようだ。ちょっとだけ苦々しく微笑むあたり、そう言う分野には疎そうである。

 

 青年を《運命の相手》と見出した人物は、きっと気苦労が絶えない日々を送るのだろう。

 勢い余って変な手段に傾倒しなければいいのだが、果たしてどうなることやら。

 

 

「そういえばキミ、機体に搭載する予定の虚憶(きょおく)技術の解析進めてるの?」

 

「勿論。コミュニケーションには難儀しますが、魅力的なデータの宝庫ですから」

 

 

 青年は得意満面に頷き、端末に情報を送って来た。展開する画像の数々に、女性は思わず「この話題を振ったのは失敗だった」と思った。

 女性の本業はパイロットである。一応、最低限の整備が出来る程度の知識はあるが、本業には届かないため、専門性が高い話題をぶつけられると反応に困ってしまう。

 辛うじて“画面に表示された機体の技術は、西暦2300年代では取り扱われていない”程度は把握できる程度しかない女性には、立て板に水の如く喋り倒す青年についていくことは叶わなかった。

 

 

「このファンネル、νガンダムのものを下地にしつつ、ファラクトやダリルバルデの武装の要素を取り入れてみたんです」

 

「へ、へぇ……」

 

「アド・ステラ世界の■■■■は“呪いのモビルスーツ”と呼ばれているようなんですが、それはGUNDフォーマットが抱える問題点が由来で――」

 

「そ、そうなんだぁ……」

 

「元々GUNDは『外宇宙で活動する際に問題となる人類の脆弱性を克服する』技術として生み出されたらしいんですけど――」

 

「う、うーん……?」

 

 

 女性がまともに反応できないでいる間に、青年の話題はコロコロと変わっていく。次の瞬間には既にGUNDフォーマットなる技術の説明は終わっており、ファラクトという機体に関する話題へと変わっていた。

 

 

「自立型兵器の武装はとても惹かれたんですけど、ファラクトの“クソっぷり”は頂けませんね」

 

「ど、どんなところがクソなの?」

 

「『パイロットを使い潰すことを前提とした運用が成されているところ』です。4号くんが何も言ってくれなかったんで、ちょっと《ズル》して得た情報なんですけどね。彼らは本物のエラン・ケレスの替え玉として整形と身体改造を施された上で、ファラクトのパイロットとして運用されているようです。“GUNDフォーマットの問題点を克服しようとした結果、生み出された地獄”ってヤツですね」

 

「や、闇が深ァい……」

 

「それから、グエルくんの駆るダリルバルデには意思拡張AIが搭載されており、イーシュヴァラやアンビカーの自動制御を行っているようです。彼が片思いしているスレッタさんの機体・エアリアル絡みのアレコレとは対極的な存在と言っても過言ではありません。あちらはエリクトさんとリプリチャイルドであるカヴンの子という12人体勢でエスカッシャンを制御していて――……」

 

 

 朗々と話していた青年の動きが止まる。目を見開いて完全フリーズしてしまった青年の名を複数回読んで、漸く彼は現実へと戻って来た。

 普段の彼ならば話題を二転三転させた挙句、数時間ぶっ続けで喋り倒していてもおかしくない。話の途中で話題が途切れるなんてことは皆無だった。

 そのまま沈黙を保ち続ける青年の姿に、思わず女性は声をかける。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「……カイメラ隊は病気」

 

「えっ?」

 

「音楽の神様が降って来たんで、そっちに集中します。すみません!」

 

 

 その言葉を最後に、青年は端末を切ってしまった。取り残されたのは女性のみ。

 

 心なしか、変な台詞を音楽にはめ込む青年の姿が《視えた》ような気がして、女性は脱力した。夢中になれる物事があるというのは良いことだし、複数あるというのも悪くはない。あの単語と共に降りてきた音楽の神様がどんなものかは分からないが、技術トークを中断してでもそちらを優先するあたり、青年の心を動かすものだったのだろう。

 現実逃避がてら物思いに耽っていたとき、端末のアラームが鳴りだした。確認すれば、あと30分後にシミュレーターで戦闘訓練を行うことが表示されている。女性は軽く身だしなみを整えた後、シミュレーター室へと直行した。

 

 

 

 知人の元に舞い降りた音楽の神様がどんな方向性を示していたか。

 その答えが示されるのは、それから数週間後のことだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ビリー・カタギリの研究室に足を運ぶとき、クーゴはいつも差し入れを持っていく。

 

 今日の差し入れは肉じゃがメインだ。付け合わせとして、秋刀魚の胡麻焼き、しらすと三つ葉の梅和え、シークァーサーを使ったトマトの砂糖漬けを用意した。肉じゃがの味付けが濃い目なので、さっぱりとしたものを中心に取り揃えた。

 秋刀魚の胡麻焼きは大根おろしと一緒に食べる。しらすと三つ葉の梅和えは、醤油ではなくポン酢醤油を少量かけた。トマトの砂糖漬けはレモンを使おうと思っていたのだが、部下のアキラ・タケイからシークァーサーのおすそ分けを頂いたため、レモンの代用品として使用したものだ。

 

 研究室に缶詰状態がデフォルトとなっているビリーのことを考えると、まともな食べ物を食べてなさそうである。

 親戚に研究者をやっている人がいるが、その人物も「三度の飯より研究が好き」なタイプで、食事を抜くなんて当たり前らしい。

 

 

「ところでビリー。今朝は何を食べたんだ?」

 

「ドーナッツだよ」

 

「昨日の晩御飯は?」

 

「ドーナッツだね」

 

「昨日の昼御飯は」

 

「ドーナッツだけど」

 

「お前本当にドーナッツ大好きだな。……そういえば、服のサイズ前より大きくなった?」

 

「キミは時々失礼なことを言うね」

 

 

 案の定。見事なテンプレート回答である。服のサイズを目視しようと試みたクーゴに対し、ビリーはむっとした顔でこちらを見上げた。血糖値やメタボリックで引っかかりそうな食事内容だ。よくよく観察してみると、前より腹部がたるんでいるような、いないような。

 クーゴの思考回路を目ざとく読み取ったようで、ビリーの眉間の皺が数割増しになった。しかし待って欲しい。クーゴは別に、悪意ありきで物を言っているわけではないのだ。なので、肩を竦めて弁明する。

 

 

「そんな目で睨まないでくれよビリー。俺はただ、友人の健康面を心配してるだけだよ。……は、初対面で見たお前のランチボックスがどうしても忘れられないだけで……」

 

「キミ、未だに僕のイメージそれで固定されてるの!? 幾らなんでも酷くないかな!?」

 

 

 クーゴの脳裏に浮かぶのは、これでもかと言わんばかりにすし詰めにされていた既製品のドーナッツ。仕切り代わりに使われていた包み紙がテカテカと光っており、見るからに油分と糖分に振り切った弁当だった。

 あまりの有様にフリーズしてしまったクーゴ・ハガネ(出身地:日本/人種:日本人)の気持ちは、きっと誰にも理解できないだろう。当時の衝撃を思い出したせいか、何となくビリーを直視できなくなって目を逸らす。

 だが、『上には上がいる』というのが世の常。クーゴがビリーと初めて顔を合わせたとき、彼の隣にはもう1人いたのだ。その人物もまた、自前で持ってきていたランチボックスを開けて昼食を食べようとしていた。

 

 

「それに、キミが『世界が滅ぶ瞬間に立ち会ったときの絶望感』って例えたランチボックスは教授の方だったろ!?」

 

「あのときのキミは『ポテトやナゲット、コーラの缶は仕切りにならない』などと言って、酷く怯えておったな」

 

「ウワーッ!? エイフマン教授!」

 

 

 “もっとヤバイ方のランチボックス”――ハンバーグ・ベーコン・チーズをたっぷり挟んだハンバーガー、無造作に詰め込まれたポテトフライとナゲット、油物のど真ん中にそのまま突っ込まれた缶コーラ――の話で話題を逸らそうとしたビリーだったが、丁度そのタイミングで研究室の扉が開く。現れたのは、“もっとヤバイ方のランチボックス”を持ってきていた張本人、レイフ・エイフマン教授その人であった。

 

 彼はユニオンフラッグの開発者であり、モビルスーツ開発や機械工学の権威である。教授としても名高く、優秀な教え子を多く輩出していた。ビリーも彼の教え子の1人であり、MS開発に取り組む仲間でもある。恩師の登場に飛びあがったビリーを横目に、エイフマンは悠々とした足取りでこちらへ歩み寄って来た。

 流石に恩師のランチボックスを使って話題を逸らそうとしていた手前、居心地が悪いのだろう。ビリーは落ち着き無さそうに視線を彷徨わせる。そんな教え子の挙動不審っぷりを見ても、エイフマンは楽しそうに笑いを堪えていた。厳格な人物であるのは事実だが、茶目っ気があって親しみやすい老紳士でもあるのだ。

 

 無言のまま、ビリーが視線を向けてくる。助けを求めるような眼差しだ。

 このままでは本題を忘れてしまいそうだったので、クーゴは助け舟がてら話題を切り出す。

 

 

「ささやかだけど、差し入れ持って来たんだ。口に合うかどうかは分からないが」

 

「わぁ、ありがとう!」

 

「いつも済まないな」

 

 

 ビリーが嬉しそうに目を輝かせ、エイフマンも朗らかに笑った。持って来た割り箸を2人に手渡し、来客用のテーブルの上へ差し入れを並べる。

 

 保温性に優れた容器のため、開けた途端に湯気が漂う。肉じゃがの甘じょっぱい香りに、ビリーが頬を緩ませた。弟子に続くようにして、エイフマンも目を細める。どうやら見た目は合格点のようだ。問題は味である。

 2人は手始めに肉じゃがへと箸を伸ばした。一口食べたビリーはパッと目を輝かせた後、凄まじい速さで、肉じゃが中心に食べ進めていく。エイフマンの方はゆったり食べ進めつつ、時折付け合わせの料理に箸を伸ばしては納得したように頷いていた。

 

 

「おいしかった。ごちそうさま」

 

「年寄りには少々味付けが濃すぎると思ったが、付け合わせがさっぱりとした味付けのものだからかな。思った以上に箸が進むよ」

 

「それはよかった。おかわりは充分あるので、どうぞ」

 

 

 クーゴはほっと息を吐き、肉じゃがの入ったお弁当箱を指し示した。

 2人の下を満足させることが出来て何よりである。

 

 

「キミのお弁当はいつも素敵だよね! 僕、毎回楽しみにしているんだよ! 見た目も色鮮やかで目を惹くし、味も最高なんだから!」

 

「差し入れの蓋を開ける度に、キミのお弁当を初めて見たときの気持ちになるんじゃ。あれは――そう。『フラッグの後継機が突如自分の眼前に現れた』ような、圧倒的な感動があったな」

 

「さ、流石にそれは過大評価なのでは……」

 

 

 あまりにもべた褒めされるので気恥ずかしくなってきた。

 刹那、ちょうどいいタイミングで、また研究室の扉が開く。

 

 

「カタギリー! グラハムフィンガーはどうなった? 打てそうか?」

 

 

 扉を吹き飛ばしかねない勢いでやってきたのは、我らがグラハム・エーカー中尉である。彼はビリーのほうへ突っ込んでいこうとし、エイフマンの姿を確認してぱっと表情を輝かせる。

 

 「プロフェッサー! 来ていたのですか」と笑うグラハムを見ていると、なんとも微笑ましい気分になった。この男は男の子という言葉を地で行くような所がある。子どもがそのまま大人になったような、不釣り合いな姿。彼の若さはここからきているのかもしれない。

 彼はしきりに『グラハムフィンガー』を連呼する。この前見た虚憶(きょおく)に深い感銘を受けたらしく、技術者連中に『グラハムフィンガーが打ちたい。だから、それを打てるように機体を改良してほしい』と方々に掛け合っていた。

 

 この『グラハムフィンガー』、出典元があったはずなのに、いつの間にか周囲からは“グラハムが見つけた新技”という扱いを受けている。先日の虚憶(きょおく)はすっかり忘れてしまったため、技の正式名称が思い出せない。

 虚憶(きょおく)をなくす前に、その場に居合わせたビリーへ“本当の技名”を告げていたらしいのだが、それが正式名称かと問われると答えられなかった。どうしてあのとき記録しておかなかったのか。悔やんでも後の祭りであった。

 このままでは始末書どころの騒ぎではない。下手すれば裁判になる。いいや、持ち主のことだ。MSを用いた戦いで公正な決着をつけようとするだろう。グラハムも、勝負の申し出を大喜びで受けて立ちそうだ。考えるだけで胃が重くなってきた。

 

 

(そういえば、AEUのほうでMSファイトが行われたらしいな)

 

 

 クーゴはふと、数日前の出来事を思い出す。身内が酔っ払いながら連絡してきたことだ。

 数日前のニュースで見た『日本発祥のMSファイトが、現在AEU内で大人気のスポーツになっている』という話題と関連している。

 

 MSファイトとは、専用のスタジアムで行われるMS同士の戦いのことだ。“頭部を破壊されたら失格”、“相手のコックピットを攻撃してはならない”などの特別なルールに従い、トーナメント形式で試合が進められていく。決勝戦はバトルロワイヤル方式になるそうだ。試合前に『MSファイト、レディーゴー!』という掛け声をかけ合って試合を開始するのが一般的だ。

 

 大手民間企業のMS開発者と会社から選出されたテストパイロットが奮闘する一般部門、軍に所属するMSパイロットの試金石を兼ねたプロ部門に分かれており、優勝すると様々な恩恵が受けられる。一般部門で入賞した企業であれば取引が増えるだろうし、プロ部門で好成績を残したパイロットの場合は未来のエース候補として注目されるといった具合にだ。

 身内にAEUの大手商社に勤める人間がいるが、彼女の勤める会社がMSファイトの一般部門に出場したそうだ。結果は文句なしの優勝。『遠距離からのバラ撃ちと零距離射撃による肉薄で意表を突く戦い方が云々』と語っていたか。確か、テストパイロットを買って出たのは(身内曰く)イケメンの営業マンだったという。

 そういえば、いつぞや行われたプロ部門の大会では、パトリック・コーラサワーというパイロットが圧勝したらしい。インターネットでヒーローインタビューを見たのだが、終始『俺はAEUの、超ウルトラスーパーなエースパイロット、パトリック・コーラサワー様だ!』云々と叫び散らしていた。彼がエースで大丈夫なんだろうか、と、AEUを本気で心配したのはここだけの話である。閑話休題。

 

 

「……そうか。まだ、実装には至らないか……」

 

 

 グラハムが肩を落す。ビリーとレイフマンから懇切丁寧に「無理だ(意訳)」と説明を受けたためだろう。

 落ち込んでいたグラハムであるが、クーゴが持ってきていた差し入れを視界に入れた途端に顔色が変わった。

 

 

「おお! 今日は和食なのだな!! ええと……」

 

「いただきます、だ」

 

「それだ。イタダキマス」

 

 

 グラハムは満面の笑みを浮かべ、手を合わせた。割り箸と皿へ手を伸ばした。べきょ、という嫌な音がした。

 先に和食を堪能していた2人とは対照的に、グラハムの割り箸はいびつな割れ方をしている。彼はむっとした顔で割り箸を睨んだ。

 

 クーゴは苦笑しながら別の割り箸を差し出した。再びグラハムが割り箸を割る。べきょ。やっぱりいびつな形に割れていた。

 

 むすっとしたグラハムに、クーゴは持ってきていたすべての割り箸を差し出した。

 それを受け取ったグラハムは、再び割り箸を割り始める。

 

 べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ……。

 

 グラハムが割り箸と格闘する音をBGMにしつつ、クーゴは端末をいじった。

 インターネットのコミュニティサイトにアクセスし、メッセージに目を通す。

 

 

(あ、新着メッセージ)

 

 

 送り主は歌い手のエトワール。リアルタイムの媒体でないにもかかわらず、ヴィジョン共有現象を起こすことができるコーヴァレンター能力者。

 彼女と接触するため、クーゴは夜鷹というハンドルネームで動画を投稿している。エトワールとの交友は――インターネットと歌声越しであるが――進んでいた。

 メールの文面から察するに、彼女は積極的に夜鷹であるクーゴに話しかけようとしていた。まるで“エトワール側の方が、望んでクーゴと接触したがっている”かのように。

 

 最初は動画を一本投稿した後、彼女にメッセージを送ろうと思っていた。『貴女に憧れて歌い手になりました。よろしくお願いします』という内容で。しかし、それよりも、彼女がこちらにメッセージを送って来る方が早かった。

 

 

『貴方の歌声、とても素敵です。もう少し低音を丁寧に歌い上げると、もっと良くなりますよ。これからも頑張ってください。応援しています』

 

 

 思い描いていたシナリオとは違ったが、彼女と接点を持つという目標は達成できた。なんとも好調な滑り出しである。

 おまけに、エトワールは何を思ったのか、夜鷹に歌い方のレクチャーをしてくれたり、夜鷹の動画を宣伝し始めたりした。

 

 おかげで夜鷹の動画は注目を浴びるようになり、ネットユーザーから支持を得るようになった。結果、夜鷹はエトワールに次ぐ人気の歌い手へと成長してしまったのである。

 

 

(……コレジャナイ感が満載だが、仕方ないか)

 

 

 べきょ。

 

 最後の割り箸が割れる音がした。

 視界の端で、グラハムががっくりと肩を落とす。しかし、彼は諦めない。

 

 

「この程度の道理、私の無理でこじ開け「やめんか」

 

 

 何かしようとしたグラハムをたしなめる。彼が道理をこじ開けようとした場合、何が起こるかわからないからだ。それは、どんな些細なことでも当てはまる。今回は、運よく未遂で済んだらしい。

 萎れた花のように俯いた友人に、クーゴは菜箸を差し出した。エイフマンは既に肉じゃがと付け合わせを食べ終えているし、クーゴも昼ご飯を食べ終えている。だから、このお弁当に入っているのは、実質的にグラハムの分になるのだ。

 グラハムは眉間にしわを寄せて菜箸を凝視したが、諦めることにしたようだ。渋々といった調子で菜箸を受け取り、ややおぼつかない手つきで肉じゃがへと箸を伸ばす。じゃがいもが真っ二つに割れた。もう一度箸で掴もうとしたグラハムであるが、じゃがいもは4分の1サイズになっただけだった。

 

 じゃがいもはどんどん細かくなっていく。これ以上は埒が明かない。

 クーゴは苦笑した後、持ってきていた使い捨てスプーンを差し出す。

 

 

「撤退も兵法の一つだぞ、グラハム」

 

「私もまだまだ未熟。修行が足りないか……」

 

 

 グラハムは恨めしそうにため息をついた。そのままスプーンで肉じゃがを口に運ぶ。そのしかめっ面は、あっという間に笑顔に変わった。

 

 彼は恐ろしい勢いでおかずにスプーンを伸ばし、料理を口に運ぶ。料理があっという間に消えていくのは、見ていてとても気持ち良かった。

 クーゴはそれを横目に、再び端末を確認する。先程届いたばかりの、エトワールからのメッセージがディスプレイに表示されていた。

 

 

『貴方の動画、拝見しました。どんどん上手になっていきますね。貴方の歌を聴いていると元気が出ます。これからも頑張ってください、応援しています』

 

 

 そんな風に言ってもらえるだなんて。思わず表情が緩む。が、クーゴはゆるゆる首を振った。いつの間にか、本来の目的を忘れそうになっている。

 余程、自分はエトワールとの接触に心躍らせていたのだろう。気を引き締める。トラップに引っかからないよう、細心の注意を払わなければならない。

 クーゴは睨みつけるようにして端末を凝視する。気を緩めてはいけない。薄氷を履むが如く、慎重に進まなくては。クーゴは自分自身に言い聞かせた。

 

 

「ところで、エトワールとのコンタクトは進んでいるのかい?」

 

 

 ビリーの問いに、クーゴは曖昧に笑った。

 

 

「ぼちぼちな。この調子で交流を重ねていけば、コラボ企画などと称してオフで会うチャンスが得られるかもしれん」

 

 

 端末にメッセージを打ち込みながら答える。思えば、メッセージ1つ考えるのに長い時間をかけるようになった。

 

 サイバー捜査官や上司に内容についてのアドバイスを仰ぎ、何度も本文を推敲し、送信ボタンを押すまで若干躊躇いを覚える。後者2つを零したら、周囲の眼差しが生暖かくなってきた。理由はよくわからない。誰に訊ねても曖昧に笑うのみであった。

 このことについて一度、グラハムが何かを言いかけたことがある。しかし、彼はその場に居合わせたビリーとエイフマンに拉致されてしまった。しばらくして戻ってきたのだが、グラハムは『やはりそれは、キミがキミ自身で考え、答えを出すべきことだ』と心底意地の悪い笑顔を浮かべていた。やけに爽やかだったのが印象に残っている。

 

 クーゴはちらりとグラハムを見た。彼はスプーンを置き、両手を合わせて頭を下げる。テーブルの上には空っぽになった弁当箱が鎮座していた。

 

 

「ご、ご、ゴツ……違う。ええと、ご、ゴチ……ゴチソウ、サマ? クーゴ、これで合っているのか?」

 

「ああ。正解」

 

 

 拙い発音であったが、グラハムは確かにそう言いきった。真顔で頷けば、奴は嬉々と笑った。自慢げに、何度も復唱する。

 この男、以前から日本の風習に興味があったようだ。グラハムを日本かぶれにしてしまった戦犯を挙げるとしたら、間違いなくクーゴとビリーがダントツだろう。次点でホーマー・カタギリ氏か。

 

 ビリーやホーマー氏の日本文化像は、外国人から見た脚色が多分に含まれていた。日本人であるクーゴが眉間にしわを寄せて「それは違うぞ」と苦言を呈する程に。

 

 思い込んだら突っ切ってしまいがちなグラハムに、偏った知識ほど危険なものはない。ホーマー氏の影響を多分に受けたアレンジ武士道やなんちゃって日本文化に適宜テコ入れをするのもクーゴの役割であった。

 最も、クーゴが自国の歴史を見直すようになったきっかけは、グラハムのアレンジ武士道となんちゃって日本文化の内容に度肝を抜かれたからである。おかげで随分と日本神話や日本の歴史に関する本を読み漁った。

 グラハムに偏った知識を提供してしまわぬよう、様々な文献を読み込んだものだ。ときには、彼に書籍を紹介したこともある。自他ともに我慢弱いと認められたグラハムに根気よく説明するのは、本当に骨が折れた。

 

 現在進行形で、クーゴのテコ入れは続いている。

 しかし、彼の日本関係の知識は、以前よりも大分マシになったとクーゴは思う。

 

 

「一度、きちんと言ってみたかったんだ。『イタダキマス』や『ゴチソウサマ』は、食材に宿っていた生命(いのち)に対する、最大限の敬意を表す言葉だからな」

 

 

 綺麗に発音できるぞ! と、グラハムは自慢げに胸を張った。ビリーとレイフマンは、そんな彼を見て目を細める。

 こういうところがグラハム・エーカーの魅力なのだろう。クーゴは緩やかな笑みを浮かべ、頷いたのであった。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

「流石だな、アルティメット・クロス!」

 

 

 旗本艦の撤退と入れ替わるような形で姿を現したのは、ホウジョウ軍の総大将――シンジロウ・サコミズ。嘗て行われた第2次世界大戦で、日本軍の特攻隊として空を駆けた兵士()()()男だ。

 

 第2次世界大戦からゆうに3世紀以上の時が流れたとて、特攻隊員・迫水真次郎の戦争はまだ終わっていない。命を賭して戦った日本の英霊たちに報いるために、『今の堕落した日本ごと、嘗ての敵国だったアメリカを撃ち滅ぼす』ために進軍を続けている。

 ひょんなことから異世界バイストン・ウェルへと転移してしまったサコミズは、紆余曲折の末にホウジョウ国を興して王となり、2300年代の世界――特に、日本が歩んだ歴史に触れるに至った。連合国に敗北した日本が歩んできた日々は、大日本帝国の愛国者たる迫水真次郎にとって衝撃的なものだったのだろう。

 誇り高き大日本帝国の愛国者にとって、今の日本国は堕落しているとしか思えなかった。故に、第2次世界大戦で散っていった英霊たちの犠牲と現在の日本国の繁栄を天秤にかけた彼は、『英霊たちの犠牲と今の日本の有様は、全く釣り合っていない』という結論を下したのだ。

 

 

「我が宿願……己が手で切り拓かなければなるまい!」

 

「核を爆発させたとしてもですか!? その結果として何が起こるか、貴方が一番よく知っているはずでしょう!?」

 

「だからこそなのだ!」

 

 

 エイサップの叫びを聞いても尚、ホウジョウの王たるシンジロウ・サコミズ――或いは、大日本帝国の若き愛国者たる迫水真次郎は止まらない。長い時間を経た結果、彼は歪んでしまったのだ。

 嘗ての愛国者が、嘗ての悲劇を識る者が、核兵器を爆発させてでも自身の執念を――大日本帝国と迫水真次郎の戦争を、自分たちの勝利で終わらせるためなら致し方ないと思う程に。

 

 

「冷たき石に包まれた関東平野、米国に毒された見る影もない東京……。これが、あの膨大な犠牲を出してまで得た産物だというのか? ――許されるはずがない……! 到底許せるものではないのだ!!」

 

「サコミズ王、まさか貴方は――」

 

「誰かがやらなければならぬのだ! 例えどれ程民に恨まれようとも、誰かが……!」

 

 

 特攻隊員・迫水真次郎の戦争はまだ終わっていない。彼の時間はきっと、小倉に堕とされるはずだった2つ目の原爆を阻止した瞬間に停まってしまった。

 その結果、大日本帝国の愛国者たちを置き去りにして変わっていった日本国には、嘗ての面影はどこにもない。大国の傘に下り、平和を貪る民たちしかいなかった。

 大日本帝国のために戦った日々も、英霊たちに関する歴史も、“過ち”という言葉で切って捨てられてしまったのだ。――だから、彼は今、こうして剣を振るっている。

 

 思いの根底にあったのは、祖国をひたむきに愛した愛国者の意志。同胞を想う漢の決意だ。

 彼はこの世界に問うている。現在(いま)を生きる全ての命に対して、憤怒と執念と歪みを抱え、丸ごとぶつかっている。

 

 愛国者の問いはただ1つ。『“今ここに存在する世界とそこで生きる全ての命”は、“第二次世界大戦(あの日)散っていった日本の英霊”という犠牲に見合う未来(モノ)だったのか』。

 

 それを悟ったのだろう。ショウを始めとした何名かが息を飲む。

 クーゴもまた、サコミズの問いに込められた意味を《識った》者であった。

 

 

『怒る理由がなくなったのなら、怒るのをやめればいいんじゃないかな?』

 

 

 どこかの誰かがそんなことを言っていた。それは、ある種の真理を突いた言葉であった。

 

 多分、この発言をした“彼女”も『怒る理由がなくなったから、怒るのをやめる』ことが出来る人だったのだろう。文字にすればこんなにも単純なことなのに、行動に起こすには非常に難しい。“怒ることをやめられない”人間の中には、『怒る理由がなくなってしまうのが嫌だから、怒ることをやめられない』という理由で起こっている場合があるためだ。

 サコミズ王の進軍と凶行が止まらないのも、『怒る理由がなくなってしまうのが嫌だから、怒ることをやめられない』のと類似であった。散っていった英霊を思うが故に、彼らを蔑ろにする祖国と嘗ての敵国を許せない故に、戦争の犠牲者のことを真摯に受け止めているが故に、怒ることをやめられない。――否、やめるわけにはいかないのだ。

 彼が進軍を止めてしまえば――現代の日本の在り方を認めてしまったら、同胞たちの犠牲が無駄になってしまう。戦友たちの無念や悲嘆の行き場がなくなってしまう。彼らのために抱いた義憤も、彼らの想いを受け継いで歩き続けた軌跡も、無意味なものとして――単なる“過ち”という一言で片づけられてしまう。

 

 

(嘗ての過ちの清算を望むこと、過ちを正してほしいと訴えることは間違いなんかじゃない。そう思う瞬間は誰にだってある。そのための行動を起こす権利は、誰にだってあるんだ)

 

 

 そこまでならば、クーゴは頷くことが出来た。――でも、今を生きる命として、彼の行動を許容ことは出来ない。

 

 

「サコミズ王……! それが貴方の辿り着いた答えですか!」

 

「だとしてもだ! 今ここにある世界は、誰にも壊す権利はないんだよ!!」

 

「黙れ、この売国奴が! 日本を裏切り、米国の先兵になった貴様に言われる筋合いはない!!」

 

 

 エイサップの言葉に続くように、クーゴは声を張り上げた。……最も、旧ユニオンの軍人になるために日本を飛び出したクーゴの言葉を、サコミズが聞いてくれるはずがなかったけれど。

 

 

「はああああああああーッ!」

 

 

 オウカオーが飛び出す。今、自分たちの前に立ちはだかっているのは亡霊だ。同じ日本人として、けれども生きた時代の違う者として、クーゴは強くそう思う。

 オーラ力を原動力にする機体の中で、オウカオーは一際異彩を放っている。ホウジョウ兵のシンデンより、サイズも機体性能も圧倒的に上だ。

 

 

「あのオーラ、憎しみに染まっている……」

 

「それでも、私は絶対に引かない! 私たちの帰る場所を守る!」

 

 

 聖戦士の力を有するオーラバトラーたちが戦慄した。バイストン・ウェル帰りの翔子も、ほんの一瞬だがたじろぐ。しかし彼女はすぐに真剣な面持ちになると、核を爆発させようとするサコミズ王を睨みつけた。屹然とした眼差しは、妄執に囚われ男を真っ直ぐ射抜く。文字通り、不退転の意志を固めたのだろう。

 故郷を守るために奮い立ったのは翔子だけではない。竜宮島の子どもたち全員が、自身の帰る場所を守るために戦っている。故郷を守るためには『憎い“あん畜生”も一緒に守らねばならない』というのが癪だが、それでも彼や彼女たちは引くつもりがないようだった。

 クーゴはちらりと戦艦を見る。竜宮島程度の島なら簡単に吹き飛ばせる核兵器が搭載された艦だ。島にいる者だけでなく、この場にいる者も無事では済まないだろう。核兵器を爆発させることなく“あん畜生”だけを粛清できたらいいのに。

 

 クーゴのぼやきが漏れてしまったのか、グラハムのため息が聞こえた。

 彼もまた、“あん畜生”のせいで空を飛べなかったことがある。しかし、グラハムはそんなこと関係なしに、戦艦を守るため尽力していた。

 

 

「余計なことを考えるとは、キミらしくないぞ!」

 

「お前にだけは言われたくなかったな。さっきからチラチラとアルヴィスの方ばかり見てるようだが!?」

 

「そういうキミも、時折アルヴィスに視線を向けてないか? あそこには、キミの――」

 

「おばか! それ以上言ったら、明日から弁当抜きにするぞ!」

 

「横暴が過ぎないかそれは!?」

 

 

 ちなみにこれは、ホウジョウ兵をサーベル/ブレードで切り捨てながらの会話である。

 

 どこもかしこも戦場だ。その中でも一騎当千の活躍を見せるのは、ファフナーを駆る竜宮島の子どもたち。彼らの間を縫うようにして、エイサップの駆るナナジンとリュクスの駆るギム・ゲネンが、サコミズ王の元へと飛び出していく。

 しかし、オウカオーは彼らに一切の興味を示さず、核兵器と“あん畜生”が乗る戦艦へと突っ込んでいった。周囲の敵の撃退に追われていたアルティメット・クロスの面々は反応が遅れてしまう。サコミズ王を止めようとした者たちも、他の兵士たちに阻まれた。

 クーゴとグラハムの前にも兵士たちが突っ込んでくる。通信機越しに顔を見合わせた2人は、即座に操縦桿を動かした。コックピットにGがかかるが、初期のカスタムフラッグと比較すればまだマシな方だ。ホウジョウ軍の追撃を難なく躱し、機体を変形させる。そのまま、戦艦の前へと躍り出た。

 

 自分たちの機体は、高機動戦闘を得意とする設計となっていた。似たような機体では、アルトのデュランダルなどが挙げられるだろう。

 このまま突破口を切り開く。王の足止めも兼ねてだ。クーゴとグラハムの機体は、互いに背を向け合った状態でビームライフルを撃ち放った。

 

 複数の敵が巻き込まれ、なぎ倒されていく。しかし、サコミズ王は真正面から砲撃を受けたにもかかわらず平然としていた。

 

 

「何っ!?」

 

 

 嘘だろおい。

 

 クーゴがその言葉を紡ぐよりも早く、オウカオーが肉薄する。

 

 

「どけ、この売国奴がァァ!」

 

「あああああああああ!」

 

「クーゴ!」

「クーゴさんっ!」

 

 

 太刀が振り下ろされた。防御の構えを取る間もなく、肩に一撃喰らってしまう。風圧で地面へと叩きつけられそうになったが、寸でのところで立て直した。

 DENGERの赤い文字が点滅し、けたたましい警告音が鳴り響く。どこかで火花が散る音がした。グラハムや“天女”たちが名前を呼ぶ声に、どうにか返事を返す。

 視界の端に見えたのは、戦艦へと肉薄するオウカオーの姿。エイサップの駆るナナジンが王の機体を追うが、もう間に合わない。

 

 戦艦に、容赦なく刀が振り下ろされる。

 だが、その一撃は、飛び出してきた盾によって阻まれた。

 

 

「う、うわあああああああああああああーっ!!」

 

「何っ……!?」

 

 

 悪魔のような形相で振り下ろされた刀を受け止めた盾――その正体は、衛が駆るファフナーだ。

 

 彼の機体は大型のシールドを展開し、仲間たちを守ることが多い。だが、衛は守りを固める他に、盾を殴打や突撃に用いるやり方で攻撃に転用することもある。機体サイズは衛のファフナーの方が圧倒的に大きいが、怒髪天を突く程のオーラ力を振りまくオウカオーとはほぼ互角の状態であった。

 突然の乱入者に、サコミズ王は大きく目を見開く。自分の攻撃を防がれたことと、それをやってのけたのがまだ10代後半の子どもだという事実が原因だった。特攻隊に志願した兵士たちの年齢は、10代後半から20代ごろが多かったと言われている。もしかしたらサコミズ王は、少年兵が飛び立つ現場に居合わせたことがあったのかもしれない。

 

 

「ダ、ダメなんだ……! あの中の核兵器が爆発したら、島までなくなっちゃう!」

 

 

 ゴウバインの仮面を外した少年の声は、みっともないほど震えている。

 しかし、彼は決して逃げなかった。王の大義と妄執に、全身全霊を持ってして立ち向かう。

 

 

「あそこには、僕の……!」

 

 

 刀と盾が激しくぶつかり合い、火花が散る。

 

 

「僕の大切な友達がいるんだッ!!」

 

「こ、子どもが……戦場に!?」

 

 

 衛の悲痛な叫びに、サコミズ王は躊躇うように呻いた。

 衛の年齢は特攻隊に志願した少年たちと同年代。やりにくかったのだろう。

 このまま衛の機体が突っ込めば、オウカオーを弾き飛ばせる可能性が出てきた。

 

 ――だが、そこに水を差す馬鹿が1人。

 

 

「ええい、何をやっておる! 自爆でも何でもして、そのバケモノを止めんかあっ!!」

 

 

 外国人に『空気を読め』と言っても、『空気は吸うものだろ?』と言い返され、馬鹿にされるのがオチである。それよりも酷いオチを披露したのが“あん畜生”であった。

 奴の発言はサコミズ王の逆鱗に触れたらしい。怒りで沸き上がったオーラ力が更に吹き上がり、衛が乗っていたファフナーを弾き飛ばした。

 

 

「あ、あ、あわわわ……」

 

「子どもを盾にするとは……! 貴様ら、それでも軍人かッ! ド外道がああぁぁーッ!!」

 

 

 王の激昂は“あん畜生”へと向けられる。衛を盾にして逃げようと画策したことは、確かに許しがたいことだ。

 だが、核兵器を爆発させる理由にはならない。“あん畜生”の悲鳴が聞こえた。オウカオーが戦艦に肉薄する。

 怒りによってオーラを纏った太刀が、容赦なく振り下ろされる。阻むものは、今度こそ何もない。

 

 “あん畜生”が悲鳴を上げた。最悪の末路が脳裏をよぎる。

 しかし、王は寸でのところで太刀を止めた。

 

 ――りいん、と、音がする。目覚めを告げる《聲》が《聴こえる》。時空を跳び越え、この場にいるすべての命に問いかける《聲》が。クーゴは大きく目を見開いた。

 

 

「誰だ……私に呼びかける者は!?」

 

 

 《聲》を聞き取れたのはクーゴだけではない。その中の代表者とでも言うかのように、動きを止めて問いかけたのはサコミズ王だった。

 その問いに答えるのは――もう二度と聞けないのではないかと思われていた者たちの声。

 

 

「――聞こえるか! 時空を跳び越え、お前に語り掛ける命たちの声が!」

 

「声、だと……!?」

 

「聞こえるはずだ! 真の理想を……志を持ち、分かり合おうとする者なら!」

 

「思い出してください! 貴方に想いを託した人たちの、本当の願いを……!」

 

 

 2人の声が響いた瞬間、ナイトヘーレが開門した。飛び出してきたのは――白と青のカラーリングが施された“天使”と、御旗の系譜を有する白緑(びゃくろく)の“隼”。

 

 グラハムが笑う。こうなることを予め予測していたかのように。ああ、だから奴はしきりにアルヴィスを見ていたのか。理由さえわかれば、あまりにもわかりやすい行動だった。

 多分それは、クーゴにも当てはまる理由だった。白緑の“隼”に情けない姿を晒してしまったことに頭を抱えたくなったけれど、それ以上に、“あの子”が再び空を舞えるようになったことが嬉しい。

 “隼”はクーゴの元に降り立つ。いつものようにこちらを気遣う“隼”に対し、クーゴは無理を承知で笑い返した。――ウジウジするのはこれで終いだ。

 

 愛おしげに目を細めた視線の先に、青い機体が降り立つ。

 我慢弱い男は耐えきれなくなったのだろう。

 

 

「随分と遅いお目覚めだな、少女!」

 

 

 待ちくたびれたという気持ちを前面に押し出して、奴はいつものテンションで叫んだのだった。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 鼻歌を歌っていたら、虚憶(きょおく)を見た。

 しかも、今見た虚憶(きょおく)は、今まで見てきたもの――多元世界に関するものとは全然違う。

 思わず自分の隣にいたグラハムに視線を向ければ、余韻から覚めた彼は目を大きくかっ開いてこちらに向き直った。

 

 

「今見た虚憶(きょおく)、いつも見てたやつと全然違ったよな」

 

「ああ。数多のロボットが集って戦うことは同じだが、あそこにいたロボットの種類だけでなく、部隊の名前も違う」

 

 

 一通りの情報を纏め終えた後、改めて内容を確認してみる。

 

 普段クーゴが見ている虚憶(きょおく)の特徴的な要素は、“数多の並行世界が重なってしまったが故に生まれた多元世界”で、“その世界で活躍する部隊の名前にはZが入っている”ことが挙げられた。部隊名は2種類あり、時系列順に並べると、ZEXISからZ-BLUEに変わっている。

 しかし、今回見た虚憶(きょおく)は多元世界とは全く違う構造によって出来上がった世界だった。先程の歌からでは世界観を把握することは難しいため何とも言えないけれど、これはこれで後々大きな問題――言うなれば世界滅亡に関わるレベルを抱えていた。

 

 

「あちらの部隊は、アルティメット・クロスって呼ばれてた」

 

「“究極の混成部隊”か……。随分とまた、仰々しい名を冠しているな」

 

「あの虚憶(きょおく)の時点では何とも言えないけど、名前負けするか否かは『今後の展開に期待』ってところか」

 

 

 クーゴは画面に表示された情報――特に、今回初めて見た虚憶(きょおく)の部隊名に視線を向けた。グラハムの言う通り、アルティメット・クロスという名は仰々しい響きを宿している。

 多元世界とは違う世界構造で、多元世界で共に戦った仲間たちとは違う背景を背負って、それでも多元世界と同じように『世界の危機に立ち向かった』という虚憶(きょおく)

 進んだ道が違っても、共に駆けた仲間たちが違っても、『大切な人と、その人と還る場所を守りたい』と願って戦い抜いたソレは、クーゴにとってかけがえのないものだった。

 

 

「今まで見ていた虚憶(きょおく)とは、世界観も機体も、その多くが別物だからな。何かしら区別を付けておかなきゃ」

 

「ならばどうする?」

 

「部隊名で分けようかな。多元世界は共通の頭文字からZ、今見た虚憶(きょおく)に関するものは“究極の混成部隊”の頭文字を取ってUXだ」

 

 

 そんな会話を繰り広げつつ、これからのことに思いを馳せる。新たな虚憶(きょおく)を上層部がどう扱うかは分からないし、クーゴの扱いがどうなるかも予想がつかない。

 だけど、今日みたいに、心許せる相棒と一緒に馬鹿話に興じることが出来るなら――クーゴはそれを“平穏”と呼ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ボロクソに言いすぎだぞ。あのときはデザイン以外何も言わなかったじゃないか」

 

「当然だ。AEU、ひいてはOZに所属するゼクス・マーキス特尉がいる前で、流石にうかつなことなど言えんだろう」

 

「えっ? ……グラハム、OZって何だい? ゼクス特尉って……そんな人AEUにいなかったはずじゃ」

 

「ああ、彼は私の友だ。プリベンター・ウィンドを名乗っていてな」

 

 

「…………む? 私は何を言っているんだ?」

 

 

 友人に、何やら変化が起こっていることを。

 

 

 

 

 

「“不死身”……」

 

「へ?」

 

「いや、君の二つ名ではなかったかな、と……」

 

「“不死身のコーラサワー”……なんか、かっこいいな! エースパイロットの俺様にこそ相応しいっ!!」

 

「だな。自爆してもちゃんと帰ってきたんだし、傍にいた人間すら不死身にしたんだし」

 

「えっ」

「えっ」

 

 

 噂のAEUエースパイロットと、長い付き合いになることを。

 

 

 

 

 

「クーゴさんが……」

 

「?」

 

「……貴方が僕の“お父さん”だったら良かったのに……」

 

 

 少し先の未来で、白緑の“隼”の願いを叶えることを。

 

 

 

 

 

 

「アタシは好きに生きるの。楽しいことをするのに、大義名分なんて必要ないでしょ?」

 

 

「アタシはね、楽しければいいの。アタシが一番になれるなら、なんだっていいの。だって、世界はアタシのために存在するんだから」

 

 

 

「こんの、ド外道がァァァァァァァッ!!」

 

 

 世の中には、どこにでも“あん畜生”と同じ人種が存在していることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーゴ・ハガネの災難が始まるまで、もう少し時間がかかるようだ。

 

 

 




【参考および参照】
2chより
『【画像】アメリカ人の弁当をご覧くださいwww』

COOKPADより
『秋刀魚のごま焼き』(ゆうゆう0221さん)、『ヒヤッと冷たいトマトのシークァーサー漬け』(あまさもんさん)、『しらすと三つ葉の梅和え』(mikekkeさん)
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