問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
“あん畜生”の所業を羅列すると、地球に住まうヒトとして頭を抱えたくなることばかりだ。気に食わない人間を排除しようとしたり、旧アンノウン・エクストライカーズにテロリストの汚名を着せたり、地球を侵略しようとしていた連中を連邦軍に引き入れたり、自分と核兵器を載せたシャトルを守ろうとしていた衛を背後から狙い撃ちしたり、和解が成立しかけたフェストゥムに核兵器を打ち込んだり、その場に居合わせただけの軍人に汚名を着せたり、囚人を特攻兵器に改造したり――挙げ連ねればキリがない。
そして極めつけは、“ギャラクシー船団や人類軍の上層部と共に宇宙へ飛び立ち、バジュラの本星を支配しに行く”という暴挙である。フェストゥムや“金属生命体”との対話を成し、共存の道を切り開いたアルティメット・クロスにしてみれば怒髪天の案件であった。特に、奴が連邦で好き放題やっていた時期に煮え湯を飲まされた“ロシアの子熊”や旧姓コーラサワー、グラハムや彼と共に随伴してきた“太陽の勇者隊”は、各々露骨に不快感を露わにした。
『なんかもう、“行きつくところまで行った”って感じがするな。馬鹿な俺でさえ“アレはもう駄目だ”って分かるってのに、奴らと行くことを選んだ連中は何考えてんだよ』
『“あん畜生”……。軍人どころか、ヒトの風上にも……!』
『自分は無学な馬鹿なので、難しいことは“頭が切れて信頼できる上官――主にカティ・マネキン――”に考えてもらう』というスタンスを崩さない旧姓コーラサワーは、“あん畜生”に付き従う、或いは組むことを選んだ連中の頭を心配していた。“無学な自分でも正論を言えてしまう状況が異常事態である”ことを理解しているが故に。
両親の想いを継ぎ、市民を守る連邦軍の軍人になろうと邁進し始めたばかりの“ロシアの子熊”も、ハザードへの憤りをあらわにする。彼はもう、討つべき敵を見失って迷走することはない。“ロシアの子熊”にとって、“あん畜生”の所業は許せるものではなかった。仲間を何度も裏切った卑劣漢にして、地球に住む市民をも踏み躙る輩に憤るのは当然だ。
『ともかく、バジュラが“心を持つ生物”であると判明した以上、これは異星体への侵略行為に他ならない』
『まさしく“人類の恥晒し”じゃねーか……。やってることが『Toward the Terra』に出てくるグランドマザーと同等って時点でアレだし』
『フェストゥムと“金属生命体”が和解を撤回して殴りに来ても仕方がないレベルだな』
『おいやめろ、縁起でもないことを言うな! 現実になったらどうするんだ!?』
『どうなるにしても、まずは“あん畜生”の暴挙を止めることから始めるしかなさそうっすよね』
グラハムの言葉に対し、ジョシュア、ダリル、ハワード、アキラらが各々の意見を述べる。“太陽の勇者隊”の発言は小声だったため、グラハムの言葉を引き継いだジェフリーの言葉にかき消された。
尚、異星体への侵略行為という言葉を紡いでいたときのグラハムは、酷く憤っているように見えた。握りしめた手が小さく震えていたのも、きっと気のせいではないのだろう。
……さもありなん。人類軍やフロンティア政府の暴挙――バジュラのインプラント制御は、嘗ての“武士道”が味わった地獄と酷く似通っている。
“人格や記憶を弄繰り回され、心を蔑ろにされて踏み躙られる”という事象を味わった過去を持っているが故に、バジュラの置かれた状況や味わっているであろう痛みに想いを馳せずにはいられない。
ブリーフィングで『“あん畜生”を討つ』という方針を定めたアルティメット・クロスは現在、“あん畜生”を筆頭とした人類軍とギャラクシー船団及びフロンティア政府を追いかけてバジュラ本星へと向かっている最中だ。出撃前の僅かな休息時間であるが、みんな思い思いの時間を過ごしている。
クーゴも普段通り、同じ戦艦に乗っている仲間たちに料理を振舞っていた。談笑のお供用の軽食であるが、みんな「美味しい」と言って食べてくれるので作り甲斐がある。“
「…………?」
「どうした?」
「今、《聲》が《聴こえた》んだ」
刹那と談笑していたグラハムが、突然目を瞬かせてあらぬ方向に視線を向ける。
口には出さなかったが、刹那は彼が何かを《聴き取った》ことに気づいたらしい。
彼女の予想は正解らしく、グラハムは頷き返す。彼は思いを馳せるように目を伏せた。
「――以前の私を思い出させるような《聲》だったから、少し、気になってな」
<……最期に、もう一度……>
<もう一度だけ、キミに――>
グラハムの言葉に呼応するように、嘗ての“武士道”の悲鳴が《聴こえた》ような気がしたのは――きっと、気のせいではなかったのだろう。
***
因果応報、という言葉が脳裏をよぎる。
“あん畜生”の所業に、新たなものが追加された。1つは『インプラント制御したバジュラを生物兵器として使った』こと、もう1つは『忍者伝説の超パワーとザ・ブーム軍及び人類軍のすべてを手に入れるために、飛影と零影へインプラント弾を撃ち込んで手駒にしようとした』ことだ。
あわや同士討ちになりかけたアルティメット・クロスであったが、ロミナの想いを汲み取ったエルシャンク、及び飛影と零影の力が合わさったことによって危機を脱した。加速する意志の力を受けた飛影と零影を阻む
「最早、そんな攻撃など効かぬ!」
「お前の目にも見えるだろう! 俺たちの、この力が!」
“あん畜生”は本能的に、彼らが発現した力を脅威だと察したのだろう。副官に命令し、更なる攻撃を仕掛ける。
しかし、飛影と零影、エルシャンクはそれらの攻撃を受けても尚、未だに健在だった。
ジョウの飛影とイルボラの零影、そうしてロミナたちが乗るエルシャンクが光り輝く。それを見た“あん畜生”は驚愕の声を上げた。
司馬懿と道明寺が何かを察したように悟った顔をしていたようだが、今は“あん畜生”やジョウたちの戦いを見守る方が重要度が高かった。2人の分析は、全てが終わった後からでも聞けるだろう。
「人は誰でも、運命を変える程の可能性を秘めている!」
「そして、その可能性を重ねることで、その力は無限の輝きへと姿を変える!」
「分かるか、“あん畜生”! 人はそれを、命と呼ぶんだァァァッ!!」
ジョウとイルボラの意志を受け、飛影と零影が“あん畜生”への戦艦に迫る。
2人と2機による連携攻撃が容赦なく叩き込まれたことで、戦艦は爆発炎上した。
「うぎゃああああああああ!!」
“あん畜生”の断末魔が響き渡る。我先にと逃げようとして、結局逃げ切れず、爆炎に飲み込まれた姿が《視えた》。
“あん畜生”ごと戦艦が宇宙の藻屑になったのと連動するように、アネックスの機体やシャルムの機体にも、飛影と零影が放った攻撃の余波が降り注ぐ。凄まじいエネルギーを浴びた2機は、その一撃で大破まで持っていかれていた。
今際の機にアネックスは忍者伝説の真実に辿り着いたようだが、彼はそれを最後まで語る間もなく爆炎に巻き込まれた。断末魔の悲鳴を残し、シャルム共々、2人の思念はふつりと途切れる。それが何を意味しているのか、クーゴはよく知っていた。
鮮やかな光が視界を覆いつくす。それが晴れたとき、アネックスが率いていたザ・ブーム軍は影も形も残っていなかった。勿論、残党の影すら。“オペレーター次女”が零すように呟いたアナウンス――「敵性勢力の消滅を確認」宣言――がなければ、状況を理解できないままだったろう。
戦いの終わりを確信し、幾人かが安堵の息をつく。それと入れ替わるようにして、イルボラが力尽きるように倒れたのが《視えた》。
臣下に起きた異変に気付いたロミナの指示を受け、ジョウ/飛影がイルボラ/零影をエルシャンクに運び込むのを見届けて、クーゴは振り返った。
(奴の野望は、これで終わったんだな)
数多の命を食い物にしてきた男が掲げた醜悪な野望。地球全土だけでなく宇宙をも巻き込んだ業は、ここで費えた。その事実を噛み締めて、クーゴは帰投する。
文字通りの因果応報。人の業を煮詰めた結果、辿り着いた結末としては相応しいものであろう。――悪いことをすれば、それが自分に返ってくるようにできているのだ。
◆◇◇
「なあグラハム! 俺たち、何時間こうしてるんだっけ!?」
「飛び立ったのが昨日の夜だからな、4、5時間程だろう。それでもまだ来るか……!!」
クーゴの問いかけに、グラハムは剣呑な面持ちで返答した。MDの群れは未だ健在。有人機であるはずなのに、ゼダスのパイロットたちは誰1人として通信に返答しようとする者はいない。そもそも、通信回路も開いていない様子だった。
この異常事態を収拾するためには、MDを操っているゼダスに停止させるのが一番だ。それが不可能となるなら、MDの破壊およびゼダスを
無人機で疲れ知らずのMDたちに対して、クーゴたちは人間だ。いくら精鋭といえど、疲労が蓄積されれば動きが鈍る。
その隙をMDたちが逃すはずもない。レーザー攻撃が、味方のフラッグを撃ち抜いた! 爆発音が響き、断線する通信。
「畜生、ランディがやられた!」
ハワードの悔しそうな声が響いた。その悲しみに暮れる暇はない。
彼は怒りをぶつけるように、MDに反撃を加えた。
フラッグが撃ち放ったライフルが、ランディのフラッグを撃墜したファルシアの頭部をぶち抜く。
視界の端で、スチュアートの乗るフラッグが撃墜されたのが見えた。
「いつになったら止むんだ、この攻撃は……! このままでは……」
「お前、それでもフラッグファイターか!? 精鋭部隊が聞いて呆れるぞ!」
弱音を零したダリルをジョシュアが叱咤する。ジョシュアだって、この地獄のような現状に弱音を吐きたかったはずだ。
だが、彼が踏みとどまろうとするのは、フラッグファイター、およびアラスカ基地のトップガンとしての矜持とプライドからだろう。
ジョシュアは即座にライフルを撃ち放った。弾丸は、ダリルに迫っていたトーラスの顔面に直撃する。
してやったり、と笑うジョシュアの背後に、ゼダスがゼダスソードを構えて突進してきた。ジョシュアのフラッグもソニックブレイドで応戦しようとするが、鍔迫り合いに押し負けて弾き飛ばされてしまう。
だが、ゼダスソードの追撃は、ジョシュアのフラッグに叩きこまれることはなかった。寸でのところで、死角に回り込んだダリルのフラッグがソニックブレイドでゼダスの右腕を切り落としたのだ。そのまま薙ぎ払い、横一線にゼダスを切り裂く。
今度はダリルが笑い返した。ジョシュアが苦い表情を浮かべつつ、MDたちの掃討に精を出す。
「いい加減にしろよ、この野郎!」
「ゼダスのパイロットは、何を考えていやがるんだか……!」
後ろの方では、アキラとハワードがビルゴ部隊をなぎ倒していたところだった。
ビーム攻撃を無効化する相手には、実弾や実体剣で対応するしかない。
「クーゴ!」
「了解!」
彼らが頑張っているのだ。自分たちだって、ここで倒れるわけにはいかないだろう。
クーゴとグラハムも、MDたちを迎撃していく。
<あーもう、答えろって言ってるだろ!? そっちがその気なら容赦しないぞ!>
離れた場所で、コーラサワーのイナクトと、MD部隊を率いるゼダスが鍔迫り合いを繰り広げていた。
<邪魔をするな、
<ゼダス、応答しろ! く、聞く耳持たずか……!>
別の場所で、セルゲイのティエレンやピーリスのティエレンタオツーと、MD部隊を率いるゼダスが鍔迫り合いを繰り広げていた。
どこに潜んでいたのかはわからない。しかし、この機を待っていたとでもいうかのように、新たなMD部隊が出現したのだ。援護に向かおうとした他国軍に立ちはだかる。
これでは援軍を望むことは不可能である。混迷する戦場に、どうにかケリを付ける方法はないか――そう思っていたときだった。
数百メートル先で、突如爆発音が響いた。空と大地の間に、沢山の火花と黒煙が花を咲かせている。誰かが一掃兵器を使ったのだろうか?
確認する間もなくレーダーが鳴り響く。反応は、ガンダム。上空をカメラで拡大すると、イデアが翔る純白のガンダムが映し出された。
彼女の翔るガンダムは、恐ろしい勢いでこちらに突っ込んできた。流星を思わせるような速さと、普段からは想像できないような荒々しい調子で、MDたちの元を通過していく。
次の瞬間、MDたちの大半が、何の攻撃も受けていないのに爆発四散した。あまりの出来事に息を飲む。降り注ぐ破片に我に返り、クーゴは慌てて操縦桿を動かした。
「――シグナル、
淡々とした声が響く。ゼダスソードの切っ先が、純白のガンダムへと向けられた。それを見越したかのように、イデアのガンダムはオーバーフラッグス隊から距離を取る。
ほんの一瞬、イデアがコックピット越しからクーゴを《視返した》ような気がした。思わずクーゴも、コックピット越しから彼女へ眼差しを送る。
それを確認したイデアが、安堵したようにふわりと微笑んだ姿が《視えた》。クーゴは息を飲む。彼女が何をしようとしていたのか、わかってしまった。
(彼女は、俺たちを助けたんだ。ここに来れば、自分がMDたちから集中砲火を喰らうとわかってて……!)
クーゴの予感を肯定するように、MDたちはイデアのガンダムへと殺到する。ビルゴも、トーラスも、ファルシアも、執拗なまでに純白のガンダムへと牙を向いた。
あっという間に、オーバーフラッグス部隊とスナイパー型ガンダムに群がっていたMDたちがいなくなった。ようやく解放された仲間たちは、唖然とMDの行動を見つめている。
スナイパー型ガンダムのパイロットがイデアの名前を呼び、彼女を援護しようとライフルの照準を向ける。疲労のせいか僅かにブレが出た。狙撃手にとっては致命的だ。
僅かなブレをはじき出したMDたちは、最低限の動きで砲撃を回避する。白と緑基調のガンダムなど目にくれず、MDたちは純白のガンダムへと集中砲火を浴びせた。
そうして、ついに天女が地に落ちる。
崩れ落ちた天女を見下ろしながら、ゼダスとMDたちが周囲を取り囲んだ。
「今だ! ガンダムを鹵獲する! クーゴ、キミはあの天女の元へと向かってくれ!」
「はぁ!?」
グラハムの指示に、クーゴは思わず反抗していた。
彼の指示は間違ってない。実際に、疲弊したガンダムをパイロットごと鹵獲するのがこの作戦の目的だった。
しかし、イデアはオーバーフラッグズ隊を助けてくれたのだ。自分が死ぬかもしれないとわかっていたのに。
クーゴが反論しようとする前に、グラハムが叫ぶようにして言葉を続ける。
「我々の任務はガンダムの鹵獲だ。だが、MD部隊は、あのガンダムのパイロット共々、機体を消し飛ばすつもりだぞ!」
だから行け、と、グラハムが通信越しから指示を出した。それは、事実上の『イデアを助けろ』という命令に他ならない。
グラハムが力強く笑った。それが、彼ができる精一杯の譲歩なのだろう。クーゴも笑みを返し、操縦桿を動かす。
死刑執行を宣言するかのように、ゼダスがゼダスソードを振りかざす。切っ先は、確実にコックピットへと向けられていた。
躊躇なく振り下ろされた剣。フラッグはそこへ割り込み、ガーベラストレートでゼダスソードを受け止める! バチバチと火花が飛び散り、激しい鍔迫り合いを繰り広げた。
イデアが驚いたように目を見開く姿が《視えた》。クーゴは彼女へ微笑み返し、即座にゼダスへ向き直る。フラッグとゼダスは獲物を構え、打ち合いを演じた。
パイロットはフラッグとの打ち合いについていくのが大変らしく、MDたちの動きが鈍った気がした。その隙を見逃さなかった友軍が、MDを撃墜していく。
(これで、戦いに集中できる!)
クーゴは笑みを浮かべ、即座にガーベラストレートを振るった。MD部隊が押され始めたことに気を取られたのか、ゼダスの反応が遅れる。
そこを逃すことなく、ガーベラストレートの刃がゼダスの利き手を切り落とした。ゼダスソードを握った腕ごと空を舞う。
しかし、ゼダスはビームサーベルを掌から展開し、ガーベラストレートの刃を受け止める。また、バチバチと火花が上がった。
「ぐ、――このおおおおおおおおおおおっ!」
思い切り、力任せに押しのける。ぐらりと体勢が傾いたゼダスに、クーゴは容赦なくガーベラストレートを突き立てた!
そのまま刃を振るい、ゼダスに袈裟切りを喰らわせる。蹴りを叩きこんで距離を取れば、ゼダスは一拍の間をおいて爆散した。
次の瞬間、斜め上空からビームバルカンが降り注いだ。攻撃を回避すれば、間髪入れずにビームの雨あられが降り注ぐ!
レーダーには真っ赤なマークが大量に点滅する。オーバーフラッグス部隊に対し、数の暴力と言わんばかりにひしめくMDたち。
取り囲まれたのはグラハムたちだけではない。クーゴの周囲にも、ビルゴ、トーラス、ファルシア、ゼダスらが陣取っている。
「こいつら、どこから湧いて出た!?」
「キリがないぞ! これでは……」
クーゴが眉間に皺を寄せれば、グラハムが苦い表情を浮かべる。
文字通りの万事休すだ。
ファルシアたちのビットが、トーラスやビルゴのキャノンが、ゼダスのビームキャノンが展開する。
因果応報、という言葉が脳裏をよぎる。物量戦で疲弊させ、心を折り、完全な敗北を味あわせる。
完全に、自分たちがソレスタルビーイングに対して行ったことだ。それがそのまま返ってきたのだ。
充填されたエネルギーが、容赦なく自分たちに牙を――向かなかった。
<行け、ファンネル!>
この場一体に何かが飛び回り、四方八方からビーム攻撃を撃ち放つ! それらは不規則な軌跡を描きながら、的確にMDたちを撃ち抜いていった。
何事かと振り返る。謎の兵器は縦横無尽にこの場を飛び回りながら、攻撃主の元へと戻っていった。逆光のせいで、機体がよく見えない。
しかし、その佇まいやフォルムには見覚えがあった。その機体から舞い降りる緑色の粒子にも、見覚えがあった。ガンダム、と、口が動く。
白基調でコックピット部が青いガンダム。シンプルな出で立ちではあるが、機体からは静かな貫禄がにじみ出ている。
“連邦の白い悪魔”という言葉が、意味もなくクーゴの頭をよぎった。伝説の男が『人の心の光』を示した機体とよく似ている。
けれど、細部に施された技巧が、件の機体とは違うことを伝えていた。実用性よりも何かの象徴みたいな、厳かな雰囲気が漂う。――例えるならそれは、“異端審問官”だろうか。
そんなことを考えていたとき、どこからか声が聞こえた。
<こちらスローネドライ。教官、MD部隊やっつけたよー! エクシアのパイロットちゃんも救出したから、任務完了!>
<スローネツヴァイだ。こっちもキュリオスの救出、完了したぜ! MD部隊も軽くひねってやったよ!>
<こちらスローネアイン。教官、MD部隊の殲滅と、ヴァーチェの救出に成功しました>
1人の少女と2人の青年の《聲》だ。
それを聞いたガンダムのパイロットが、ふっと微笑んだ気配を感じる。
<こちらベルナール。これから、デュナメスとハホヤーの救出と、MD殲滅に移る>
<教官、我々も援護に……>
<大丈夫だ、ヨハン。キミたちの教官として、恥じぬ戦いをさせてもらおう>
男の《聲》だ。ガンダムは再び武装を展開する。
<人から奪った上に、こんな使い方をされては……腹立たしいにも程がある!>
その言葉の意味を、誰も知らないまま。
ガンダム――ベルナールの攻撃が始まった。
◇◇◇
こんな形で、自分が設計に関わった機体と対峙することになるとは思わなかった。ノブレスは深々と息を吐き、ファルシアとゼダスを睨みつける。
ゼダスはゼダスソードを指揮棒のように振るった。それに従い、まず、ビルゴ部隊が飛び出してくる。ビーム系の攻撃を主体にしているファンネルには相性がよろしくない。
プラネエイトディフェンサー――ノブレスにとって、懐かしい武装の名前だ。自分がまだ『ノブレス』になる前に、その武装を見たことがある。
<サポートはお願いしますね、フェニックス>
<任せろ! システムの外だろうと、やって見せるさ!>
ノブレスの言葉に対し、ホログラムで映し出された人物――
フェニックスもアメリアス同様、
機械とヒトの新たな関係を模索する最中に生まれ落ちた彼は、本来であればノブレスの私怨に力を貸すための存在ではない。“来るべき対話”に備える者たちを手助けするのが彼の役目だった。だが、ノブレスの関係者と深く関わっていたことが、彼にこの道を選ばせてしまったのかもしれない。
ノブレスは操縦桿を動かした。ノブレスの力をダイレクトにフィードバックしたベルナールが、即座に行動を開始する。数多のファンネルを再展開し、ビルゴの群れを襲わせた。
プラネエイトディフェンサーがビーム攻撃の威力を削ぐことなど百も承知。勿論、その対策も既に施してある。所謂、「こんなこともあろうかと」ってヤツだ。
「ファンネルの5番から8番までをT-ファング、9番以降をソードビット
ノブレスの指示に呼応するかのように、ファンネルが形状を変化させる。刺突に特化したT-ファングと切断に特化したソードビット。ファンネルが繰り出すビーム攻撃対策にリソースを割かれた機械人形たちは、襲い掛かって来た牙に穿たれた上で貫かれ、剣によってバラバラに切り刻まれた。
ビルゴ部隊を黙らせたノブレスは、次にファルシアたちに狙いを定める。ファルシアどもは台座によって制御されており、空中からの攻撃を仕掛けてきた。降り注ぐビーム攻撃を最低限度の動きで回避し、改めてファンネルを展開しつつ、ビームライフルを構えた。
ファンネルでファルシアの動きを阻害し、ライフルによる狙撃で撃ち抜く。時には展開したファンネルでバリアフィールドを張って強制的に動きを封じたところを、的当ての要領で次々と打ち抜いていく。勿論、着弾するギリギリでファンネルのバリアフィールドを解除するのも忘れない。
<相変わらず、
<その分、他のことの大半はキミ任せにしてますけどね……。
<
<でも、先代や本来なるはずだった“異端審問官”はガチの近接格闘戦特化型でしょ? グーパン・キック・ドリルという暴力と浪漫の権化みたいなタイプの>
<ケースは少ないが、お前と同じような戦術タイプの奴はいたんだぞ? 最も、オレ以上にヤバいファンネル捌きをした奴はお前だけだがな。だからもっと自信を持っていいはずだ>
暢気な会話を繰り広げているように見えるが、ベルナールの自立兵器たちは手を変え品を変えるが如く形状変化を繰り返し、MDを殲滅していく。
フェニックスは適宜、回避や射撃等のサポートを行ってくれた。歴代の“
(他のMD部隊は撤退を開始している。しかも、三大国家陣営の作戦基地には戻っていない……。やはり、あいつらと関係しているということですかね?)
ノブレスは思案しつつ、ファンネルで次々と敵機を撃ち抜いていく。
「パイロットの感情が読めないな……」
少なくとも、パイロットが怖気づいているような様子はない。そもそも、感情らしき感情が伝わってこないのだ。本当に、パイロットは“人間”と呼べる者なのか。
一抹の不気味さを抱えながら、ノブレスはファンネルを操りつつビームライフルを撃ち放った。足を撃ち抜かれたファルシアが吹き飛ばされ、頭を撃たれたトーラスが爆散する。
次の瞬間、背後から別のファルシアたちとトーラスたちがビットやライフルでビーム攻撃を撃ち放ってきた。回避するには間に合わない。
ノブレスは即座に自立型兵器を展開する。飛び出した3機のファンネルが、ベルナールを守るシールドを展開した。派手な音を立ててビームが弾け飛ぶ。
普段はビーム兵器として使うファンネルたちだが、シールドとして展開することも可能である。そして、使用用途は他にもあった。
ファンネルによるバリアを纏ったまま、ノブレスはゼダス目掛けて突撃する。体当たりを喰らわせて弾き飛ばしたトーラス目掛けて、バリアに使用しなかったファンネルたちを差し向ける。時には形状変化させたものを差し向け、ゼダスを文字通りハチの巣にしてやった。
(あとは、指揮官機のゼダスたちですね)
兵を失った指揮官は、両手を突き出した。掌からレーザー弾が放たれる。
しかし、ノブレスが展開したシールドを揺るがすには至らなかった。
「ハホヤーのパイロットに比べれば、防御系統はあちらの方が上ですしね。僕も精進しないと……」
<得意不得意は誰にでもあるだろう。オレだって防御系統はあまり得意ではないし>
<後でアメリアスからデータ譲ってもらえないか交渉しましょう>
ノブレスはフェニックスと暢気な会話を交わしながら、操縦桿を動かした。ベルナールはバリアを纏ったまま突っ込む。周囲に飛ばしていたファンネルが周囲を舞った。
ファンネルたちは不規則に動き、四方八方からゼダスに向けて攻撃を打ち込んでいく。それに混ざるようにして、ベルナールもビームライフルを繰り出す。
ビームライフルの紫とファンネルの青が交錯し、ゼダスを翻弄した。その隙をついて、ベルナールはゼダスたちの真下へと回り込む。
そのまま、ノブレスは引き金を引いた。真下からコックピットをぶち抜かれたゼダスたちは、そのまま爆発四散する。これで、全ての敵が沈黙した。
あとは、『満身創痍状態のユニオン軍がどんな対応をするか』である。喧嘩を売ると言うなら買うし、引くと言うなら見送るつもりでいた。
戦闘不能の相手を叩きのめすことはソレスタルビーイングの理念に反するし、自分の役目はユニオン軍の殲滅ではない。
「ユニオンの
ファンネルを自機の周囲に展開させながら、ノブレスは厳かに言い放った。
「戦闘行為の終結が、我々の目的だ。だが、その名を借りた、むやみな殺生は望むところではない」
フラッグたちが立ちすくむ。まるで、パイロットたちの心がそのまま投影されたかのようだ。
困惑。新たに出現したガンダムに、どう対応すべきか迷っているようだ。
「そして何より、そこのガンダムのパイロットが守った命を手折るような真似をしたくないのでね」
その言葉に、ハホヤーを守るようにして刀を構えていたフラッグが反応した。カメラアイ越しに、パイロットが息を飲んでノブレスを見つめてくる。
デュナメスを鹵獲しようとしていたフラッグたちも止まる。
ノブレスは即座に操縦桿を動かし、フラッグたちの周囲にファンネルを展開した。
「MDの暴走は、コーヴァレンター能力や
「それでも向かうなら、仕方がない」とノブレスは言いきった。
あとは、相手の出方次第だ。こちらは黙り、相手の返答を待つ。
指揮官の男が悔しそうに表情を歪ませた姿が《視えた》。ここでもし、彼らが戦う姿勢を見せていたら、ノブレスは躊躇うことなくファンネルの雨あられをお見舞いしただろう。
<……撤退する>
<了解>
苦渋の決断を下した指揮官機に続いて、フラッグたちが空へと帰っていく。
その背中を見送った後、ノブレスはデュナメスとハホヤーへ通信を入れた。ロックオン・ストラトスもイデア・クピディターズも、酷く疲れた様子でいる。
しかし、充分元気そうな様子だった。どうやら、ノブレスは彼らの危機に間に合うことができたらしい。ミッション成功だ。ノブレスは安堵の息を吐き、頬を緩ませた。
◇◇◇
「PMCトラストに提供した新兵器たちは?」
アオミの問いに、アレハンドロは肩をすくめて首を振った。「残念な結果になったようだよ」と、彼は苦笑する。
そう、と、女は淡々と答えた。MDたちにも、ゼダスに乗せていた肉塊どもにも、愛着なんかない。だから、女は何とも思わなかった。
「まあいいわ。なくなったなら、作ればいいんだし。そのために必要なものはすべて持っているもの」
「キミは、日本人のステレオタイプからは想像できない程怖い女なんだな」
アレハンドロの言葉に、アオミはつぅっと目を細めた。
「帰る。用事ができたから」
淡々と告げて、アオミはアレハンドロの部屋を出た。彼は自分を止めなかった。
*
どことも知れぬ場所。
薄暗い部屋の中に、培養試験官がぎっしりと並んでいる。その中には、様々な髪や肌を持つ少年や少女が眠っていた。
ごぽり、と、気泡が浮かんでは消える。試験管のコンソール部にある液晶ディスプレイには、識別番号が赤い光を放っていた。
分類コードが緑の光を放つ。『消費品』と、はっきり映し出されていた。人間につける呼称にしては、あまりにも無慈悲である。
アオミは書類に目を通す。今回のテストで得た結果を分析したものだ。
今回の経験を記録し、眠り続ける部品たちに学習させる。
どこかで試験管の光が消えた。大方、脳に直接知識や経験を刻み込んだことでショック死したのだろう。所謂失敗作だ。
試験管の光が消えた個所を確認し、その中に浮かぶ肉塊を処分する。
その試験管に、新しい胎児を追加した。
「こっちは、これでよし」
アオミは満足げに微笑み、『消耗品』の部屋を後にした。『無垢なる子』と書かれた部屋へ足を踏み入れる。
その部屋もまた、培養試験官が並んでいた。『消耗品』の部屋とは違い、試験管の数は少ない。眠っているのは少年ばかり。
しかも、どの少年も特徴は一緒で、黒髪の東洋人。女性や、女性の弟と非常に似た少年たちだった。
アオミの遺伝子をベースにして生み出された子どもたち。自身の優位性を確立するために必要なものたちだ。
いずれ、この子たちは自分の忠実な手足となり、後継者となる。
自分が作り上げる理想郷を思い描き、アオミはにやりと笑みを浮かべた。
「この物語は、私の舞台。私のためだけに用意された場所」
アオミはうっとりとした口調で呟く。
いとし子たちを見つめた後、アオミは部屋を後にした。
エレベーターに乗り込み、地上へ戻る。
扉を開けて出た場所は、別荘の中にある大広間だった。刃金の本家が所有する場所の1つであり、幼い頃からアオミが出入していた場所である。
思い出深い場所であると同時に、ここはアオミにとって『運命を変えた場所』でもあった。ここで、アオミは知識を得た。そうして、生まれ変わったのだ。
その出来事を思い返そうとしたとき、丁度いいタイミングでチャイムが鳴った。時計を見れば、約束していた時間である。待ち人が来たらしい。
アオミは玄関へと向かい、扉を開いた。そこにいたのは少女と男性。
黒い髪をツインテールに結んだ少女と、彼女の隣に控える、黒髪を束ねた男だった。
◇◇◇
監視者はアレハンドロ・コーナーの独壇場になっている。ある意味、奴は“ソレスタルビーイングを操作できる”という立場に立っているのだ。
本来、監視者たちに与えられた権限は「ソレスタルビーイングの行動に対して、全権一致による否決権を持つ」だけに留まっているはずだった。
今でもその権限はそのままである。では、何故、奴が“ソレスタルビーイングを操作できる”のか。答えは、ノブレス・アムの教え子たち――チーム・トリニティの存在にある。
ガンダムスローネシリーズは、コーナー一族が極秘に開発を進めていた機体である。劣化版太陽炉、もとい疑似太陽炉を搭載していた。
作戦時間は本家本元の太陽炉には劣るが、性能は太陽炉とほぼ互角。太陽炉は製造に2年弱の時間が必要だが、疑似太陽炉は短期間での大量生産が可能だ。
しかし、太陽炉におけるシステム解析が不十分だったため、粒子の色が毒々しい赤色となっている。本家本元とは違い、強い毒性も持っていた。
(この機体だって、元々は――)
ノブレスは図面を眺めながら、心の中で歯噛みしていた。『ノブレス』の仮面の下で、全てを奪われた青年が怨嗟の声を上げている。
人を散々利用して、踏み台にして、奴らは己の野望を成就させようとしていた。昔も、今も、これからも、きっと変わらないのだろう。
コーナー一族は野望成就の総決算に入っている。そのために、スローネシリーズとチーム・トリニティを投入したのだ。
スローネシリーズのガンダムマイスターに選ばれた兄妹――ヨハン・トリニティ、ミハエル・トリニティ、ネーナ・トリニティたちの性格も、当初は極めて過激であった。
感情のままに破壊と殺戮をまき散らすだけの獣。これが一番的確な表現である。『熟練パイロットを殺せば介入行動がやりやすい』という発言には、頭が痛くなったほどだ。
アレハンドロからは戦闘技術の向上を命令されていたけれど、独断で方向転換した。むやみに戦闘技術を向上させれば、彼らはただの殺戮兵器になってしまう。
力を振るう者には、それ相応の責任が伴う。力を振るうためには、それ相応の心構えが必要だ。心構えなしに力を振るえば、それに飲まれて破滅するのは目に見えている。
(『ライオンや象のような獣でさえ、力に相応しい立ち振る舞いを心得ているというのに』と言って、ミハエルとネーナを怒らせたこともありましたね。あとは、『強くなければ人は生きていけない。優しくなければ生きる資格がない。キミたちはガンダムマイスターどころか、人間として生きる資格がない』と言いながら、年甲斐もなく3人を叩きのめしたこともありました)
あれは大盤振る舞いしすぎたな、と、ノブレスはひっそり反省する。トリニティたちのプライドを粉々に粉砕するところから、ノブレスの戦いは始まっていた。
身内意識が強いトリニティは、相手を格下だと思って食って掛かっていく傾向があった。実際、当初もシュミレーター訓練で喧嘩を売られた。もちろん完勝したが。閑話休題。
アレハンドロはもともと、ガンダムに“同情の余地のない悪役”としての側面を追加しようとしてトリニティを作り出した。それ故に、彼らは獣のような思考回路を抱くよう調整されていたのだろう。実験や環境的な意味で、だ。
イオリアの計画上、ソレスタルビーイングは世界の表舞台から消滅する必要がある。世界から悪と断罪された彼らは、世界の手によって討たれることが宿命づけられていた。本人たちも知っているかもしれないし、知らなくともその覚悟はしているだろう。
それがいつかはわからない。だが、少なくとも、“今”や“これからすぐ先”のことではないことだけは確かだ。だからこそ、アレハンドロはチーム・トリニティを作り出し、ガンダムスローネシリーズを開発した。ソレスタルビーイングが裁かれるタイミングを早めるために。
世界の代弁者として、奴は自らの手でソレスタルビーイングを討つつもりでいる。テロリストを討ち取った英雄となれば、その人物が世界を動かす中心に座ることは明らかだ。
そうやって、アレハンドロは世界の覇権を握ろうと画策していた。奴にとって、上司であり国連代表のエルガン・ローディックは目の上のたん瘤的な存在である。
何とかして奴はエルガン代表を失脚および暗殺しようと手を打っているようだが、アレハンドロ如きにどうにかできるような相手ではない。エルガン代表は、権謀術策を張り巡らせるのが得意な参謀役であり、古の“同胞”の中でも“牙”の一角を担った男でもある。
「教官、どうかしたのか?」
ミハエルが心配そうに話しかけてきた。ヨハンとネーナも、ノブレスの顔を覗き込むように眼差しを向けてきた。
話をそらすために、ノブレスはゆるりと口元をほころばせてみせた。
「キミたちと初めて会ったときのことを思い出していた。そのうちに感慨深くなってね」
「う」
途端に、兄妹たちは居心地悪そうに視線を逸らした。当時の過激っぷりは、彼らの黒歴史に相当しているのだろう。
現在でもその名残は多々見られるものの、当初に比べればかなり改善されてきた方だ。この調子で、人としてもマイスターとしても成長していってほしい。
AEU領の孤児院で過ごしていたときの表情を思い出す度に、思うのだ。悪意としての存在意義ではなく、もっと別な意義を見出してほしいと。
ヨハンもミハエルもネーナも、本当は優しい子たちである。彼らを道具にして使い潰そうとする人間なんかに、奪わせたりしない。
ノブレスは静かに決意を固めながら、宇宙を見上げた。
そろそろ、ランデブーポイントに近づいている。
「さて、あいつらは来るかな?」
「来るさ。ガンダムマイスターなら、必ず我々の存在と機体に興味を示すはずだからな」
ミハエルの問いに、ヨハンは薄く微笑みながら答える。
ランデブーポイントには、一足先に到着していたファーストチームの宇宙船――プトレマイオスの姿があった。ほら、と、ヨハンが弟妹たちにその光景を指し示す。
HAROが船をスキャンされていることを告げる。そのままにしておくようにと言えば、HAROはノブレスの方を向いて耳をパタパタさせた。
トリニティたちに準備をしておくようにと言えば、彼らは2つ返事で頷いた。その前に、ノブレスは彼らを呼び止める。
スローネシリーズ、及びその後継機に追加する武装を作る傍ら、こっそり作っていたものがあった。といっても、多少、デザインに関わった程度である。悪の組織の友人に頼んでいたものだ。取り出したのは、新しいデザインの制服である。
アレハンドロがトリニティ兄妹に提供したものより、ノブレスがデザインに関わった方が幾分かマシになったと自負している。アレハンドロの趣味の悪さは、アルヴァアロンおよびアルヴァトーレで実証済みだ。
男物は長袖で、上下とも体にフィットした作りになっている。女物はノースリーブの上着に肘より少し長い手袋と、膝丈よりやや短めなプリーツスカートに膝くらいのロングブーツだ。スカートにはワンポイントとして刺繍を施している。色は3人ともオレンジ系統を基調にしており、襟元には金の翼に抱かれた青い宝玉が輝いていた。
ネーナがぱあっと表情を輝かせる。
「わあ、可愛い!」
彼女は目をキラキラさせながら制服を手に取った。ヨハンとミハエルも感嘆の声を上げて、服を手に取る。3人とも嬉しそうだ。
その様子を見て、ノブレスは安堵の息を吐いた。ベースにしたのは悪の組織及びスターダスト・トラベラーの制服である。
「ありがとうございます、教官」
「これ、絶対大事にする!」
「じゃ、早速着替えてくるね!」
兄弟はぱたぱたと部屋に戻っていく。それを確認したノブレスは、プトレマイオスに視線を向けた。
あそこには、久しぶりに顔を合わせる“同胞”――イデア・クピディターズがいる。
(……恋愛話でおちょくられるのは嫌ですねぇ)
『人を恋愛話でおちょくろうとしていた人の言う台詞? ……おにーさん、因果応報って知ってる?』
「ぐぎ」
嘗ての“お隣さんの少年”の声がフラッシュバックする。ノブレスはそれを振り払った。
その少年は、現在MS開発の権威となっている。他の分野にも詳しいようで、教え子たちはMS開発だけでなく、軍関連の要職に就く者や官僚になった者など様々だ。
ユニオン軍の技術顧問に就任したという話を聞いた。彼が生み出し育ててきた機体の集大成(暫定)――オーバーフラッグの造形美と機能性は、感嘆に価する。
あれがもし、GNドライブを搭載する想定で作り直されたとしたら、彼はもっと素晴らしいMSを作り出すことだろう。ノブレスは口元を緩ませた。
しかし、そうは言っていられない事態もある。ノブレスは笑みを消し、深々とため息をついた。
少年は大人になった後も、頭の良さと探究心で、真実へと至ろうとしている。いや、彼なら至ってもおかしくない。
もしも彼が、アレハンドロにマークされてしまったら。
「また、僕から奪うのか」
ノブレスは、ぽつりと呟いた。
仮面の下にある眦を吊り上げ、拳を握りしめる。
「今に見ていろ。月夜ばかりと思うなよ」
研ぎ澄ました爪と牙を、振り下ろす瞬間を待ち焦がれる。そのために、ノブレスはここにいるのだ。
「教官、着替え終わりました」
ヨハンの声に、ノブレスは現実へと引き戻された。振り返れば、新しい制服に身を包んだ教え子たちの姿があった。
皆、似合っている。素直に褒めれば、トリニティ兄妹は嬉しそうに頬を緩めた。互いに制服を見せ合い、楽しそうに談笑する。
しかし、彼らはすぐに真剣な面持ちに変わった。もうすぐ、ファーストチームたちとの顔合わせが始まるのだ。気を引き締めなくては。
<着替えて早々、パイロットスーツに着替えるのかー。勿体ないなぁ>
ネーナのちょっとだけ残念そうな声が《聴こえた》。
平和な空気に、ノブレスは表情を緩めて背を向ける。
格納庫へ向かい、自分の機体に乗り込むためだ。
<でも、これって脈アリなのかも。服を贈るっていうのは、つまり――>
そこから先は、ノブレスは《聴き取る》ことはできなかった。ネーナが心を閉ざし/隠してしまったためである。
いくら能力を駆使しても、読まれる側が《聴き取られたくない》と心を閉じ/隠してしまえば《聴こえない》。
能力が優れていれば、無理矢理心をこじ開けて《聴き取る》ことはできる。しかし、教え子相手にそこまでしたいとは思わなかった。
ノブレスはベルナールを起動させる。手を掬い上げるような形にし、トリニティ兄妹が乗れるように体制を整えた。
パイロットスーツに身を包んだ3人は手の上に飛び乗る。ネーナがHAROを抱えていた。これで全員である。
ハッチが開き、ベルナールが宇宙へと飛び出した。ノブレスは教え子たちに注意を促す。
「ヨハン、ミハエル、ネーナ。3人とも、しっかり掴っていなさい」
「了解!」
「トバスナヨ、トバスナヨ」
HAROの発言に、ノブレスは苦笑した。
「わかっている。安全運転で行くぞ」
「シュショーダナ、シュショーダナ」
◇◇◇
ヴェーダのデータにないガンダム。ヴェーダに登録されていないガンダムマイスター。
仲間たちは、新たな存在たちについての報告を行っていた。
(ティエリア、余程認めたくないんだなぁ。ご丁寧に『ガンダムらしきMS』って言ってるし)
イデア・クピディターズは遠い目をした。初めて彼――ティエリア・アーデと顔を合わせたとき、イデアのハホヤーを『ガンダムらしきMS』呼ばわりしたことを思い出したためである。尤も、後にヴェーダからデータが提示され、機体名で呼んでくれるようになったのだが。
赤い粒子を放出するガンダムの中に混じり、自分たちの太陽炉と同じ色の粒子を放つ機体がいた。その機体を、イデアはよく知っている。ソレスタルビーイングに向かう直前に見た、“同胞”の駆るガンダム――ガンダムベルナール。元になった機体は、伝説の男が搭乗し、『人の心の光』を示したものだ。
伝説の男に代わってその機体を駆るのは、ノブレス・アム。自分と同じ
周囲を見回す。この場にいるのは、スメラギ・李・ノリエガ、ラッセ・アイオン、リヒテンダール・ツエーリ、クリスティナ・シエラ、フェルト・グレイス、ハロ、ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズム、ティエリアの8人と1機だ。イデアを含めば9人と1機になる。
刹那・F・セイエイがいない。イデアは能力を使い、彼女の行方を探してみた。
エクシアのコックピット席から、刹那の気配を感じ取る。どうやら、思案にふけっているらしい。
「去り際に、ここのポイントを指定してきた」
「彼らの目的は何だろう?」
「挨拶じゃないかな? だってほら、こっち先輩だし」
「でも、罠ってことは?」
「大丈夫じゃないのか? だって、刹那たちを助けたんだろう?」
(……それにしても、みんな、必要以上に警戒してるなぁ)
仲間たちの話を聞きながら、イデアは再び遠い目をした。
ソレスタルビーイングは『外から来るもの』に対し、かなり厳しい。その分、仲間だと認めた相手のことはどこまでも信用する。
機密保持や規約云々の縛りが強すぎるという部分も影響しているのだろう。状況は違うが、“同胞”たちのコミュニティとよく似ている。
尤も、“同胞”たちの場合は、「“同胞”以外に仲間や味方、支援者もいない、物資もジリ貧な、完全なる孤立無援」という超極限状態からの結束だったのだが。
「会ってみればわかるわ。出迎えましょう、新しいガンダムマイスターたちを」
スメラギが意を決したように言った。そこへ、プトレマイオスに近づく物体を発見したという報告が届く。
新たなガンダムマイスターたちがやって来たのだ。自分たちと会談するために。
(さて、ノブレスくんの『可愛い教え子』の顔を拝みに行きますか)
ついでに、彼の恋愛についても根掘り葉掘りしてやろう。イデアは悪い笑みを浮かべながら、彼らを迎える準備を始めるのであった。
*
「着艦許可を出して頂き、感謝します」
ノブレスはそう言って、静かにヘルメットを外した。といっても、仮面の形もヘルメットに近い形状のため、「ヘルメットを取ったらヘルメットを被ってた」というマトリョーシカ状態である。
<マトリョーシカ状態>
<イデアさん、草。草まみれです。草刈機貸しましょうか?>
<むしろ除草剤を頂戴、ノブレスくん>
<ありがとうございます!>
イデアとノブレスは会話を弾ませながら談笑した。これも一種の形式美。平時の姿を互いに知っているため、畏まっている態度が新鮮で面白くて仕方がないのである。
しかし、能力を使っての会話のため、自分たちがくだらない話題で盛り上がっていることを知る者はいない。ついでに、笑っていることもわからないだろう。
<……幻聴か? もう勘弁してくれよ。タクマラカン砂漠の一件でも似たようなことがあったばかりだってのに……!>
<……笑い声? しかし、笑っている人間はこの場にいないようだが……>
前言撤回。ロックオンと、ノブレスの教え子の青年がきょろきょろと周囲を見回している。
特にロックオンは、色男の称号が霞むくらい剣呑な顔つきであった。眉間にはくっきり皺が刻まれている。
彼らの思念を察知し、2人は慌てて能力を調整した。これで、2人には聞き取れない。一安心である。
「ガンダムベルナールのマイスター、ノブレス・アムといいます」
自己紹介をし、ノブレスは一礼した。厳かな空気を纏いながらも、その動作1つ1つが洗練されている。
ノブレス曰く「両親からスパルタ教育を受けた賜物であり、自分が持つ数少ない『受け継いだもの』」だという。
彼の自己紹介に続いて、他の3人――ノブレスの教え子たちがヘルメットを外し、自己紹介を行う。
「ガンダムスローネアインのマイスター、ヨハン・トリニティです」
「スローネツヴァイのマイスター、ミハエル・トリニティだ」
「スローネドライのマイスター、ネーナ・トリニティよ!」
茶髪に浅黒い肌で、右目付近に3つのほくろがある青年――ヨハン・トリニティ(彼がきょろきょろしていた青年である)、青い髪に白い肌で、右目付近に1つだけほくろのある青年――ミハエル・トリニティ、赤い髪に白い肌で、そばかすが目につく少女――ネーナ・トリニティ。
最年長のヨハンが20代、ミハエルが10代後半、ネーナが10代前半だろう。誰も彼も若い。兄妹の姿を見たスメラギも、彼らの若さに目を付けた様子だった。同時に、名前から彼らが兄妹であることを察したらしい。しかし、3人とも外見が違う。
「私たちは血は繋がっていませんが、実の兄妹です」
それを指摘されたヨハンは、穏やかに笑いながら答えた。その眼差しは、弟と妹を大切に想うお兄さんそのものだ。
彼の言葉を聞いたミハエルとネーナが、その言葉を誇るように笑った。この兄弟は、血縁以上の絆で結ばれている。
トリニティ兄妹の様子にほのぼのしていたときだった。ノブレスの少し後ろにいたネーナが、ぴょこんと顔を出す。
「ねっ、エクシアのパイロットちゃんは誰?」
「俺だ」
ネーナの問いに答えたのは、刹那である。慣性を利用し、彼女はすべるようにして仲間たちの元へとたどり着く。
刹那は淡々と自己紹介をした。それに対し、ネーナはパアアと表情を輝かせる。何の前触れもなく、彼女は床を蹴って飛び出した。
大きく両手を広げて、じゃれつくようにハグしようとする。が、刹那は慣性を使い、ひょいっとそれを躱した。
が、ネーナが慣性の影響で廊下の突き当りに激突しないように、配慮はしたらしい。手を掴んで引き戻し、刹那自身も慣性を利用して体勢を立て直す。
ネーナはぽかんとした表情で刹那を見上げていた。大丈夫か、と刹那が問う。ネーナはすぐに笑顔を浮かべて、刹那に積極的にスキンシップをした。
昔の刹那だったら振り払ったのだろうが、似たような感じでちょっかいを出してくる相手を思い出したのだろう。妙な親近感を抱いたようで――でも、ネーナが女の子なので、対応を思案しながら――相槌を打っていた。
刹那の想い人である金髪碧眼の男性――グラハム・エーカーは、今日も元気に相棒兼親友の副官――クーゴ・ハガネや部下たちと一緒に話をしているのだろうか。
イデアはクーゴを助けようとして、逆に彼に助けられた。そのお礼も、まだ彼に伝えていない。会合が終わり次第、連絡を取ってみることにしよう。イデアはひっそりそう決めた。
「成程。キミが、刹那・F・セイエイか。是非一度、キミと会って話がしたかったんだ」
ネーナとのやり取りを見ていたノブレスが、旧友に会ったかのように表情を綻ばせた。
対して、いきなり名指しされた刹那が眉をひそめる。当然だ、刹那はノブレスと初対面である。
にも関わらず、ノブレスは刹那のことを知っているような口ぶりであった。
その理由を、イデアは知っている。自分と彼に共通する相手が、刹那のことに詳しい人間だったからだ。
「友人が言っていたんだ。『刹那・F・セイエイを見出したのは僕なんだ』、『あの子が、僕が蒔いた種をどう育てて、どんな花を咲かせてくれるのか楽しみにしてる』って」
その言葉に、刹那は大きく目を見開いた。彼女の脳裏に浮かんだのは、緑の髪と紫の瞳を持つ青年――リボンズ・アルマーク。
刹那が見たガンダムに搭乗していたパイロットであり、彼女の恩人であり、彼女をガンダムマイスターに推挙した張本人でもある。
尤も、刹那はその人物の名前を知らない。
正式な血縁関係ではないものの、イデアはリボンズと遺伝子的な関係があった。自分と彼が並べば、よく似た姉弟、もしくは双子に見えるだろう。リボンズと同じ塩基配列を持つイノベイド――ヒリング・ケアと並んでも、似たようなことが言える。
最近、彼女は仲間たちと一緒に妹分――アニュー・リターナーの恋路を応援するのに忙しい。アニューの恋愛が成就したら、次は仲間たちと一緒に婿をいじり/いびり倒すのだろう。イデアにはそんな予感がした。AEU大手商社の営業マンが大きなくしゃみをした姿が《視えた》のは、気のせいではない。
ノブレスは刹那と話しながら、能力を使ってイデアと会話を続ける。
<リボンズが言ってたんですよ。『自分が見出した逸材だ』って、自慢げに語って聞かせてくれました>
<あー。あの人、刹那に相当惚れ込んでたなー。元気?>
<ストレスフルの職場で頑張ってます>
動向を監視している相手のことを思い出したのか、ノブレスの感情が煤けてしまった。イデアにはどうすることもできない。
やっとの思いで紡いだ言葉は<ご愁傷様>というものである。励ましどころか悲しみを助長するだけであった。
<でも、最近は複数のサブボディを遠隔操作できるようになったみたいで、色々やってましたよ。サブに仕事と運転手役を押し付けて、僕のコンサートを見に来たりとかしてましたし>
<あの人ならやるんじゃないかと思ってた>
<ちょ、草まみれ>
<除草剤>
<ありがとうございます!>
ノブレスと刹那が普通に他愛のない会話を続け、ノブレスとイデアが能力を使って楽しく雑談をしていたときだった。
どこからか視線を感じる。刺々しい感情がちくちくと刺さってきた。その方向を見れば、ふくれっ面のネーナがイデアと刹那を睨みつけている。
敵意というには無邪気な感情だ。ネーナの心に名前を付けるとしたら、嫉妬という言葉が相応しい。刹那よりも幼い少女であるが、彼女もまた乙女であった。
彼女が狙う相手は、自分の教官――ノブレスなのだ。
ノブレスは気づいていないようだが、彼にも春が近いらしい。
恋愛の話になっても、彼がストレスフルで精神崩壊一歩手前にならず、むしろ常世の春を語るようになる日は近い。そのためにも、ネーナには頑張ってもらわなければ。
イデアは敢えてネーナの方を向いた。どうしたの、と声をかけても、ネーナはふくれっ面を崩さない。
刹那とノブレスが彼女を見て、きょとんと首を傾げた。ネーナはノブレスに目もくれず、イデアと刹那の腕を掴む。
そのまま、ノブレスに背を向けるような体勢を取らされる。訝しげな刹那と察したイデアに対し、ネーナは蚊の鳴くような声で告げた。
「あげない」
その言葉に秘められた意味を理解できないような人間ではない。刹那も――昔の彼女だったら首を傾げていただろうが――ようやく察したようで、途端に真顔になった。
「要らない。…………間に合っている」
前半をはっきりと言い返した刹那も、後半は蚊の鳴くような声で呟いた。耳元がわずかに赤い。目を丸くしたネーナを手招きし、端末の待ち受け画面を開いて見せる。
刹那の端末待ち受け画像が『幸せそうに頬を緩ませながら、刹那が作ったウムアリを味わうグラハム』の写真であることに、ネーナは感嘆の声を上げた。
問題の1つ目が解決し、ネーナは安堵の表情を浮かべた。しかし、ネーナは即座にイデアを睨む。
能力を使った会話を《聴かれた》訳ではないが、イデアとノブレスが親しげだということは《察した》のだろう。
もしかしたら恋敵なのではないか、と、ネーナはぴりぴりしているわけだ。誤解はきちんと解いておきたい。
イデアは端末を取り出し、満面の笑みを浮かべて答えた。
「私も要らない。意中の人がいるから」
端末の待ち受け画面を見た刹那とネーナが沈黙した。表情が戦慄く。
「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」
「うわあああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫。
「何だ!? どうしたネーナ……うわああああああああああああああああああああああ!」
「ミハエル、何が…………あああああああああああああああああああああああ!?」
妹の悲鳴に気づいたミハエルとヨハンが端末を見た。一拍おいて絶叫する。
<ほぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!>
ノブレスに至っては、能力をフルスロットルにした状態で大絶叫し、思念だけで逃走してしまった。体はその場に置き去りにしてである。
“同胞”の持つ能力は、“体をその場に置き去りにし、
傍目から見れば、ノブレスは冷静沈着なまま。イデアの端末待ち受け画像を見ても、ノーリアクション状態である。
<リアルログアウト状態>
<茶化さないでください! 何なんですか、あの恐怖画像!!>
大笑いしたイデアに対し、思念体になったノブレスが涙目で訴えてきた。
絶叫したのはトリニティたちやノブレスだけではない。
その場に居合わせた全員が悲鳴を上げた。文字通りの阿鼻叫喚図である。
「おい! 今、誰か凄い絶叫して逃げて行かなかったか!? 『ほぎゃあ』みたいな感じの……」
「ああ。確実に聞こえたぞ! ……だが、今聞こえた声、聞き覚えがあるような……」
「聞こえなかったよ! そんな凄い声は!」
それでもノブレスの悲鳴が印象に残っていた面々がいたらしい。ロックオンとヨハンである。
しかし、彼らの問いかけはネーナの答えによって切って捨てられた。
ロックオンとヨハンは「そんなはずはない」と言いたげに、互いの顔を見合わせている。
そんな2人を尻目に、ティエリアが鬼のような形相でイデアに突っかかってきた。
「イデア! お前は何故、この画像を待ち受けにした!? 言え、言うんだ!!」
彼が指示したのは、4徹明けのクーゴ・ハガネの画像である。トレミークルーの面々を恐怖のどん底に陥れた画像として名高いものだ。
ゾンビとジャパニーズホラーを足して掛けて乗算したような恐怖画像と言われるが、イデアからすれば、どこが恐怖画像なのかさっぱりわからない。
「スゲェ、教官! あの恐怖画像を見てもクールなままだ……!」
「か、カッコいい……」
<心が痛いです>
「ああ、まただ! 声が、声が!!」
「誰かが泣いているのか……!?」
抜け殻状態のノブレス(体のみ)を見て、ミハエルとネーナが賞賛の眼差しを送る。後者に至ってはますます惚れ直したらしい。
居たたまれなくなったノブレス(思念体)が目元を抑えて鼻を鳴らせば、ロックオンとヨハンが周囲を見渡す。思念体となったノブレスの声を《聴き取った》のだ。
完全ではないものの、この2名も順調に『目覚めの日』を迎えようとしているらしい。彼らが恐怖体験の意味を知るのも、人間卒業も目前だ。
「2人とも、『つかれて』るんだよ」
「アレルヤ、どっちのつかれてるだ!? 疲れか!? 憑かれか!?」
アレルヤの言葉に、『つかれ』気味のロックオンが声を荒げた。
あっちもこっちも大騒ぎ。
こんな調子で、チーム・プトレマイオスとトーム・トリニティの会談が始まろうとしていた。
*
「ニイサン、ニイサン!」
イデアたちがブリーフィングルームに到着して早々、オレンジ色のハロが飛び出してきた。ハロが向かった先にいたのは、ネーナが連れてきた紫色のHARO。
「兄さんだぁ?」
相棒の様子に、ロックオンが首を傾げる。
ハロからそんな話を聞いたことがないためだろう。
会いたかったと語るハロに対し、HAROは怪訝そうにハロを眺める。
「ダレダテメー、ダレダテメー」
「ハロ! ハロ!」
ハロの声は合成音声のはずなのに、感情に満ち溢れているように感じるのは何故だろう。とても人間味がある。
そこが、ハロたちが“トレミー、およびソレスタルビーイングのマスコット”と言われる所以なのだ。見ているだけでほのぼのする。
人間味あふれるロボットたちと言えば、クラール・グライフ博士が作ったAL-3――愛称アリスとHL-0――愛称ハルノは元気だろうか?
最後に会ったのは、合同演習が始まる前である。
日本は平和な国だから、いつも通りの日常を過ごしているに違いない。
「シンネーヨ、シンネーヨ!」
イデアが思考を飛ばしていたとき、HAROがハロに体当たりを喰らわせた。ハロは弾き飛ばされ、部屋中の壁という壁に当たって、イデアの腕に収まった。
「ニイサン……」と、ハロが寂しそうな声を出す。ぺたんと垂れ下がった耳と尻尾という幻覚が視えたような気がしたのは、きっと気のせいではない。
ロックオンがHAROに何か言うより先に、ノブレスが動いた。浮かんでいるHAROを鷲掴みにし、ノブレスは厳しい声で言った。
「HARO、謝りなさい」
「ナンデダヨ、ナンデダヨ」
「いいから、謝りなさい」
「シンネーヨ、シンネーヨ!」
次の瞬間、ノブレスはHAROを手に持ったまま、ダンクシュート宜しくHAROを壁に叩き付けた!
口元は真一文字に結ばれている。傍からでは、ノブレスは無表情に見えていることだろう。仮面の奥底でぎらつくマルベリーを《視て》いるのはイデアだけだ。
勢いが良すぎたせいか、HAROは壁にめり込んでいる。ぱらぱらと破片が落ちてきた。この破損はクルー全体も察知したようで、艦内放送が鳴り響く。
「艦内で破損! 被害状況は軽微……何が起こったんですかスメラギさん!?」
「ちょっと内輪揉めが……」
「謝 れ 。 工 具 持 っ て き て 、 壁 に 埋 め る ぞ ?」
地の底から轟くような声で、ノブレスはHAROに言い放った。彼の言葉に、ノブレスは技術職をやっていたな、と、イデアはのんびり思い返す。
周囲の空気が冷え切ったような感覚。艦内放送を担当していたクリスティナと状況を説明しようとしたスメラギが凍り付き、この場にいる全員が沈黙する。
ノブレスの中に渦巻くのは後悔だ。彼はある日突然家族全員――両親と妹を失っている。しかも“彼にとっては理不尽すぎる理由”でだ。
家族に対して思うところがある故に、ノブレスはハロとHAROを放っておけなかったのだろう。例え彼らが、人間とほぼ近い情緒を持つだけの端末だったとしても。
ノブレスとHAROが沈黙している。派手に睨みあっていると言っても過言ではない。ややあって、HAROがくるりと顔の向きを変えた。カメラアイの先には、イデアの腕に収まるハロ。
「……シャーネーナ、シャーネーナ」
その言葉を待っていたノブレスは、鷲掴みにしていた手を離した。自由を得たHAROは、迷うことなくハロの元へと飛んでいく。
「オイオマエ、オイオマエ」
「ニイサン?」
「テメーナンテ、シンネーヨ。シンネーヨ」
HAROは耳をぱたつかせる。無重力空間でくるりと一回転した。
「オマエ、オマエ。イマカラ、シャテイ、シャテイ」
「ニイサン!」
イデアの腕の中から、ハロが飛び出す。カメラアイが点滅を繰り返した。合成音声も嬉々迫る響きを宿している。
ハロとHAROがパタパタと耳を動かした。どうにか仲直り(?)はしてくれたらしい。この場にいる全員が、ほっと息を吐いた。
ノブレスも表情を緩ませた後、スメラギに謝罪して壁の修理を始めた。流石は本業、技術職。手早く修理を終わらせる。
壁は何事もなかったかのようにピカピカになっていた。この場にイアンがいたら、ノブレスを見てどんな反応を示すだろうか。
一仕事終えたノブレスは満足げに微笑んだ後、取り繕うようにスメラギに声をかけた。
「では、始めましょうか」
「ええ、そうね」
そうして、チーム・プトレマイオスとチーム・トリニティの会談が始まった。
クーゴ・ハガネの災難は続く。
【参考及び参照】
『配色の見本帳』より『
『ニコニコ動画』より『アメリカ人が零を実況プレイするとどうなるか』、『這う女、襲来。 【4PlayerPodcast】』