問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
格納庫に新しい機体が並んでいた。ユニオンフラッグとAEUイナクトの系譜を継いだ、フラッグの究極系とも言える量産機。
機体の主な色は鮮やかなエメラルドグリーンである。しかし、その中に混じって、赤・黄・緑の挿し色が入った機体やナイトブルーの機体ものがあった。
前者は『搭乗者が“同胞”である』こと、後者は『搭乗者が部隊の指揮官である』ことを示している。
一般機だろうと指揮官機だろうと、この機体に乗れる人間は限られていた。主たる人間の一角として、グラハム・エーカー隊長率いる精鋭たち――“太陽の勇者”部隊が挙げられた。
「こうして見ると、感慨深いものがあるなぁ」
クーゴはしみじみと息を吐いた。
ブラストの猿真似、フラッグの猿真似。ビリーがヘリオンやイナクトを酷評していたことを考える。まさかフラッグの発展にイナクトの系譜が加わるなんて、誰が予想しただろう。この新型機――“勇者”は御旗と制定のいいとこどりをした欲張りセットであった。
この2機を掛け合わせた“勇者”が生まれたこと自体が、新しい世界の幕開けに相応しい。その一歩として、この機体は華々しく空を舞うのだろう。自分もまた、この機体と共に空を舞う。考えただけで、口元が緩んできた。
今ならグラハムの気持ちがよくわかる。空を愛し、空を翔ることを望んだ彼の、子どもっぽい表情。きらきらした想いに触れた気がして、あまりの眩しさに目を細めた。今でもグラハムはその気持ちと若々しさを失っていない。
そしてそれは、新たな世代にも受け継がれつつある。クーゴは、新しく配属された2人の新人のことを思い出した。
彼らは昔からの友人らしく、とても仲が良かった。2人はグラハム・エーカーに憧れる新米軍人である。若いって素晴らしい。
今年でクーゴも35歳。思考回路もおっさん臭くなったものだと苦笑する。
「存在自体が年齢詐欺と言われるキミが言う台詞か?」
「その言葉、そのままバットで打ち返すぞ」
今年で34歳になったグラハムに、クーゴは笑いながら言い返してやった。相変わらず、この男には「年齢+歳児」という言葉が似合う。現在34歳児の男は、今日も元気であった。
グラハムは先の大戦で顔半分に大きな傷を負っていたが、それでもまだ充分若く見えるレベルである。彼らしさを取り戻し、憑き物がとれたということもあるに違いない。
そこまで至るまでの道は、決して平坦なものではなかった。あまりにも長い道のりを思い出し、また気分が遠くなる。喉元過ぎればなんとやら、だ。
またこうして、くだらない会話で笑いあえる日が来るなんて。
戦いのさなか、ずっと願い続けた日常が目の前にある。それはとても幸せなことだ。
「一般機の中でも、キミのは更に特別性なんだろう? E■P-■s■onバ■■トとは、“星屑の流浪者たち”の技術部も奮発したものだ」
グラハムは笑いながら、クーゴが駆るであろう機体を仰ぐ。一般機とは違い、晴れた空を思わせるような
先の戦いで“目覚めた』クーゴの、ひいては今後、現れ/増えていくであろうクーゴの“同胞”たちのための、特別なシステムが搭載されている。
クーゴは己が搭乗する機体を仰ぎ見る。先の戦いで共に駆け抜けた“奇跡の帰還者”と、孤軍奮闘していた相棒と共に駆け抜けた“益荒男”の系譜を組み込んだ、新しい翼。
『今回は、徹頭徹尾、旧ユニオンが誇るカタギリ技術顧問が手掛けた機体じゃ。……ワシが教えることは、もうなくなってしまったな』
『ようやくエイフマン教授に合格点を貰ったんだ! それから、っ……『次世代は、キミが牽引していけ』って……!』
フラッグの生みの親と、フラッグの系譜を1つの到達点へ導いた新世代の技術顧問たちの姿を思い返す。前者はどこか寂しそうに、後者は喜びと寂しさを深く滲ませて、“勇者”の話をしていたっけ。
彼らの想いを継いだ“勇者”と共に、クーゴやグラハムは戦っていく。その光景を頭の中に思い浮かべる。青い空を自由自在に飛び回る
クーゴの思考回路を中断するかのように、端末が鳴り響く。差出人はエトワール――もとい、彼女だ。
「ほう、デートのお誘いか」
グラハムがこちらをからかうように目を細めた。
クーゴだって負けていない。茶化すように彼を小突く。
「お前こそ。“彼女”とはどうなってるんだ?」
「ふふ。あえて言わせてもらおう! 私と“彼女”は「やっぱりいい。今のでよくわかった」
全力で叫びそうになったグラハムを制する。彼を茶化すとロクなことにならない、典型的な例であった。
思い出したくない苦労が頭に浮かび、クーゴは天井を仰いだ。他人の恋路に巻き込まれた日々は、今でも時折フラッシュバックしてくる。
これ以上この話題にこだわると、クーゴの精神衛生上、辛いものがあった。どうにかして話題を変えよう、とクーゴは決意したときだった。
「グラハム少佐!!」
救いの天使が来た。クーゴは素直にそう思った。クーゴが先程思い浮かべた新米軍人2人組――アニエスとジンである。
グラハムは眩しいものを見るように目を細めた。彼がこの2人に目をかけていることなど、見てすぐにわかった。
彼等が並ぶ光景は、先の大戦以前の自分たちを思い出させてくれた。自分たちには長い戦いと離別があったけど、今、こうして共に歩んでいる。
この2人はどうだろう。自分たちのように、対立して離別するなんて経験はしてほしくない。クーゴとグラハムが肩を並べて戦えるようになったのは、仲間たちが手を貸してくれたおかげだ。
何かひとつでも狂ってしまっていたら、クーゴはグラハムを連れもどすことができなかったかもしれない。もっと言えば、最悪の末路に至っていた可能性もある。考えるだけで恐ろしかった。
グラハムは2人と雑談を始める。その後ろ姿を眺めながら、クーゴはふと考える。
アニエスとジンの2人は、自分たち以上の偉業を成し遂げるだろう。彼らは互いに互いを高め合い、優秀なパイロットとして大成する。
最高の相棒――この表現がとてもよく似合う。クーゴとグラハムの関係とよく似た、けれども、クーゴとグラハムとは違う形で、彼らは空を翔るのだろう。
「……さて、今のうちに返信返信、っと」
端末を開いてエトワールに返信する。文章を推敲し、少しの間躊躇った後で、クーゴは送信ボタンをクリックした。
◆◆◆
「これが、フラッグの後継機……」
感極まったように、ハワードが息を吐いた。彼の目は、ペールグリーンの機体に釘付けである。
フラッグを愛してやまなかった彼にしてみれば、これ程待ち焦がれた機体はない。
訳あって新型機――■■■スに搭乗していたフラッグファイターたちは、ようやく自分たちの魂が宿る機体の元へと帰ってきたのだ。嬉しさもひとしおだろう。
「我らがプロフェッサーとカタギリ曰く、『フラッグの究極系』とも言える機体だ」
「とか言いながらも、この系譜を継いだ新型の計画は続行中だ。俺たち次第で、フラッグの系譜がどう進化していくかがかかってる」
グラハムの言葉を継ぐように、クーゴもうんうん頷いた。そうして、自分の駆る機体を見上げる。
どこまでも透き通った真空色。カメラアイ付近が、格納庫の明りを反射して煌めく。
その様子が、「これから宜しく」と言われたような気になる。クーゴも微笑み、「宜しく」と小さく呟いた。
「我々に召集がかかったということは――」
「将来的に、大規模な人事が行われることが決まった。いつになるかは未定だが、いずれ、この機体で構成された精鋭部隊が出来上がる」
「本当ですか!?」
「嘘は言わんよ。何せ、部隊の結成に力添えしてくれたのはアスノ元総司令だからな」
仲間たちの問いかけに対し、グラハムは満足げに頷き返す。地球連邦軍の元総司令――フリット・アスノの名前が出た途端、この場のテンションが数段階上がったような心地になった。
第一段階として配備されるであろう新型は16機で1部隊という構成だ。グラハムが率いる部隊は、試作型のE■P-■s■onを搭載した指揮官機が1機、一般機が10機、専用のE■P-■s■on搭載機が4機、クーゴ専用のE■P-■s■onバ■■ト搭載機――事実上の副官機――が1機となっていた。グラハムの機体は、能力値のアレコレが安定次第、彼専用のE■P-■s■onバ■■トの搭載が成される予定らしい。
悪の組織関係者からは『
「この機体で、空を飛ぶのか……」
「今すぐ飛んでみたいっすね!」
ダリルとアキラが目を輝かせる。
まるで子どもみたいに、瞳の奥底には光が満ち溢れている。
「まあ、散々待たされたんだ。出来がよくなきゃ困るぜ」
ジョシュアは厳しいことを言いながらも、その横顔はとても優しい。青の瞳は、慈しむように細められていた。
フラッグファイターたちはこの
旧オーバーフラッグス部隊の生き残りと、新たな仲間たちを加えて、自分たちは空を舞うのだ。考えるだけでワクワクする。子どもの頃を思い出した気分だ。
「……“
少し前まで地球連邦軍に派遣されていた“
“
彼が地球連邦から違う場所――日本に派遣されることが決まったのは、つい先日のことである。他の技術者たち――名簿に記載された名前でクーゴが知っているのは“万年新婚夫婦”だけだ――も一緒なので大丈夫だとは思う。
それでも、■■としては一抹の不安や心配が拭えぬままだ。本人が『頑張る』と言っていたのだから信じてやりたいし、それがクーゴの役目であるとは自負しているけれど。
“
居心地の悪さを感じてひっそり咳払いをする。■■を始めてまだ2年弱ではあるが、少しは“らしくなれた”だろうか。閑話休題。
「またこっちに派遣されたときに見せてやればいいだろう。きっと、彼も喜ぶはずだ」
「そうだな。今生の別れってわけでもないし」
力強く笑ったグラハムに対し、クーゴも同じように笑い返す。
“
彼が頑張っているのなら、戦っているのなら、クーゴだって負けていられない。彼がそう在ろうと努力しているなら、それに応えるのがクーゴの役目だ。
「では行こうか、フラッグファイター」
「了解!」
その言葉を皮切りに、グラハムが先陣を切る。クーゴたちは彼の後に続いて、格納庫を後にした。
◆◆◇
ジョシュア・エドワーズによる“マフィンテロ事件”で、事実上オーバーフラッグス部隊が壊滅してから、丸々2日ほど経過した。
あのときの騒ぎが嘘のように、隊員たちは全員体調を回復させていた。まあ、マフィンのまずさで体調を崩しただけなので、回復が早いのも当然であるが。
本人無自覚の“追い打ち――コーラ&チョコレート粥――テロ未遂”も発生したが、手を付けずに処分したことも功を奏したのかもしれない。
正直な話、コーラとチョコレートで米を煮炊きするなんて初めて見た。メシマズで苦しんでいる親戚の気持ちは、丁度あんな感じだったのだろう。
ミルク粥は実際食べたことがあるし、粥に甘い味付けをするデザートの存在は把握していたけれど、アレは全然違う類だった。閑話休題。
(――今のところ、問題はないな。このまま行けば大丈夫だろう)
自分たちは太平洋を移動中である。程なく、本国へと帰還できるだろう。
現在、クーゴは昼食づくりの真っ最中である。援軍はグラハム、ハワード、ダリル、アキラ、ジョシュアの6人体勢だ。勝手知ったるで動いてくれる前者4名と、味付け以外なら手際がいい後者のおかげで、料理は順調に完成しつつあった。
「よし、こんなもんだな」
最後の一皿を盛りつけ終わり、クーゴはほっと息を吐いた。あとは、この料理を仲間たちの元へ持っていくのみである。
他の面々も察してくれたようで、率先して料理を運んでくれた。運ばれてきた料理を見た面々が、嬉しそうに目を輝かせて近づいてくる。
本日のメニューは、リンゴジャムとシナモンを使ったトースト、サーモンとアスパラをメインに青しそとベビーリーフを使ったサラダ、刻んだ青しそを乗っけたグリルチキン、枝豆を使ったポタージュ、白身魚のトマト煮である。
リンゴジャムは、すりおろしたリンゴだけでなく、角切りのリンゴが入ったものを使っていた。
サラダやグリルチキンに添えたドレッシングは、玉ねぎと蜂蜜を使ったハニーマスタードだ。
白身魚のトマト煮には、他にもジャガイモやナス、ズッキーニや玉ねぎ、にんにくなどを使っている。
「今日の料理もおいしそうですよね!」
「副隊長作だから、はずれはないよなー」
仲間たちはちらりとジョシュアに視線を向ける。不本意にも“飯テロの首謀者”となってしまったジョシュアは、むっとしたように眉間をひそめた。
「そんなにいじるなよ。改善の余地はあるんだから」
改善の余地がない姉の言動を思い出して、クーゴは朗らかに笑った。クーゴが誰とジョシュアを比較しているのか悟ったグラハムたちは、何とも言えなさそうに視線を逸らす。その相手を知っているもう1人は、今頃ドーナッツを食べている頃だろう。
異質な空気に晒されたジョシュアは目を点にしたが、居たたまれなさそうに肩をすくめる。「アンタ、いったいどんな人生を歩んできたんだ……」と呟いた彼は、クーゴの笑みから何を察したのだろうか?
料理を面々に手渡し、クーゴは椅子に腰かけた。いただきます、と手を合わせ、料理へ手を伸ばした。
どれもおいしいと思うが、他の面々の評価はどうだろう。気になったので、周囲の面々へ視線を向ける。
クーゴの隣で、グラハムがグリルチキンを口に運んでいるのが見えた。彼は頬を緩め、一心不乱にナイフとフォークを動かした。ハワードはトーストを齧り、満足げに目を細める。ダリルはハニーマスタードが気に入ったのか、レシピを復習していた。アキラは自前の箸で白身魚と野菜を口に運ぶ。あっという間になくなって、彼はお代わりを要求した。ジョシュアは興味深そうに枝豆のポタージュを味わっている。何かを閃いたように、彼は顎に手を当てて、不敵な笑みを浮かべていた。
他の面々も、楽しそうに雑談しながら料理をつついていた。中にはお代わりをよそいに行った者もいる。おおむね好評らしい。
クーゴは安心して表情を緩めた。グリルチキンを味わいながら、仲間たちの談笑に加わる。
「新たなガンダムが出現し、事態はどんどん混迷に陥っています――」
部屋に設置されていたテレビジョンがニュースを告げる。三国軍事演習で、新型ガンダムが現れたときの映像が流れていた。
MD暴走事件も合わせて報道されているが、それに関する情報は簡潔にまとめられていた。メインがソレスタルビーイングの新型ガンダム4機の存在なのだから、当たり前と言っちゃあ当たり前なのだが。
映像では、赤い粒子をまき散らす3機の兄妹機と、今までのガンダムと同じ緑の粒子を輝かせながらMDを殲滅する異端審問官がMSやMDをなぎ倒していた。最初のガンダム介入の際に見た、圧倒的な実力で。
その映像を何度も何度も放映されて、気が滅入ったのだろう。
ダリルが深々とため息をついた。
「……これで、三国の現存戦力ではガンダムに対抗する術が殆どないってことになるんですかね。せめて、ガンダムと同等の機体さえあれば……」
「ダリル、フラッグは我が軍最強のMSだ。フラッグファイターなら矜持を見せろ」
甘いトーストを齧っているというのに、ハワードが渋い表情を浮かべてため息をつく。フラッグを愛し、惚れ込んでいる彼にとって、これ程辛い現実はない。
それは、フラッグの育ての親であるグラハムにも言えることだった。テレビを見ていた眼差しが、ゆっくりグリルチキンの斜め下へと向けられる。
各国の技術班はどんな思いで、このニュースを見ているのだろう。エイフマン教授やビリーのことを考えると、クーゴは何とも言えない気分になった。
しかし、自分たちは知っている。技術班は、転んだってただで起きるような連中ではない。
今頃、ユニオンの誇る技術顧問とその弟子が反撃の狼煙を上げるために開発に勤しんでいるだろう。自分たちがチューンした新型では間に合わないのだ。
技術者たちが更に上を目指すことは明らかであった。たとえ時間がかかろうと、彼らはガンダムを超える機体を生み出してくれることだろう。
「MSの性能差が、勝敗を分ける絶対条件ではないさ。この手が届かないと決まったわけではない」
酷く真剣な面持ちで、グラハムは言葉を紡ぐ。
「諦めるにはまだ早い。そうだろう? フラッグファイター」
挑戦的に笑ったグラハムに対し、面々も笑い返して頷いた。この場にいる誰1人として、諦めているものは存在しない。
己の機体と称号に、揺るぎない誇りを持つ者たちだ。誰が何を言おうと、自分たちの相棒はフラッグである。
クーゴもグラハムに同調した。咀嚼していたサラダを飲み込み、小さく頷く。
「もしも他の機体に乗り換える日が来るとしたら、それはフラッグの後継機だろうな」
クーゴの言葉を聞いた面々も、しっかりと頷き返した。
「そうですね。俺も、副隊長と同じ気持ちです」
「俺もです」
「俺も!」
「性能がいい方がいいけどな。……フラッグの後継機と他の機体だったら、フラッグの方がいいに決まってるけど」
ハワードが、ダリルが、アキラが、ジョシュアが、口々に是と返事する。
そうと決まれば、我らが技術顧問レイフ・エイフマンやビリー・カタギリにこの話を打診してみよう。
仲間たちが「直談判」という言葉を頭に思い浮かべたとき、突然アナウンサーが悲鳴を上げる。
ニュース速報だ。内容は、新型ガンダムがPMCトラストのMD運送用コンテナを襲撃したという事件。
武力介入先として白羽の矢が立った理由は、先日起こったMD暴走事件だろう。
「大変です! PMCトラストのMDが、次々と動きを停止していきます!」
ニュース画面に映し出されたのは、ガンダムを撃墜しようと飛び出したMDたちが突然動かなくなった映像だった。ただの人形と化したMDたちは、次々とガンダムの攻撃によって撃墜されていく。
ファルシアはハンドガンで蜂の巣にされ、ビルゴは誘導兵器で串刺しにされ、トーラスがキャノンで風穴を開けられ、ゼダスが誘導ビーム兵器の連続攻撃によって爆散した。新手が動き出す前に、MDのコンテナが吹き飛ばされた。
機体が誘爆する。無力化された/無力状態のMDたちがあっという間に倒されていった。最初に現れたガンダムたちに負けず劣らず、新型ガンダムの作戦行動も手際がいい。チームの中核を担うのは異端審問官だ。
作戦開始からわずか2時間弱で、PMCの所有するMDたちが全滅した。軍やPMC側のMSたちの乱入など意に介さず、彼らはMDに攻撃を集中していた。MDの殲滅を確認するや否や、4機のガンダムは振り返ることなく離脱していく。
次の目的地は、本社や支社の保管庫だ。
まだ、MDの群れは存在していたからである。
(……あれ? どうして俺はそう思ったんだろう)
強く断言した己自身の思考に、クーゴは思わず目を丸くした。ニュースは新型ガンダムたちの介入についての話題で持ち切りである。
彼らの活動は、部屋に集まった兵士たちの話題もかっさらってしまった。旧ガンダムたちが行っていた介入パターンと共通点が多いためである。
「新型のうち3機は旧型と粒子の色が違うが、それでも同じ“ソレスタルビーイング”だと断言してよさそうだな」
「そうみたいっす。この戦い方、間違いなく“ソレスタルビーイング”っすよ」
ダリルとアキラがうんうん頷いた。ハワードとジョシュアが怪訝な顔をする。『何を当たり前のことを言っているんだ』と言いたそうな面持ちだった。
「そうだな」と肯定したのはグラハムだ。クーゴも頷き、テレビ画面を見やる。うまく説明できないけれど、確かに彼らも『ソレスタルビーイング』だ。
武力介入に対し、彼らは常に真剣だった。どこぞの戦争屋のように、むやみやたらな殺戮に走ることはない。そこが、彼らを非難したくてもできない理由である。
世界に喧嘩を売りながら、彼らは世界に対して優しすぎるくらいの配慮をしていた。テロリストなのだから、もっと派手に蹴散らしてもよかったはずなのに。
だからこそ、いつぞや起こった無差別テロ事件のように、ソレスタルビーイングの評判を貶めて“この世すべての悪”へと仕立て上げようとする輩が現れるのだ。
『利益が出せないなら、存在する意味がない』――姉が常日頃から零していた言葉を思い出し、クーゴはなんとなく居心地が悪くなった。閑話休題。
「あの戦い方からは、確かな理念と覚悟を感じる。あるいは、揺らぐことのない誇りをな」
グラハムが静かに呟きながら、ニュース画面を見上げた。相変わらず、先程起こったPMCのコンテナへ武力介入を行った新型ガンダムの勇姿が映し出されている。
クーゴもニュース画面へ視線を向けた。ソレスタルビーイングが武力介入を行った理由として、タクマラカン砂漠で起こったMDの暴走事故が取り上げられている。
コメンテーターはセキ・レイ・シロエだ。彼は他の人々を相手に、辛口な意見をぶつけている。彼の執念もすさまじい。どこから情報を入手してきたのやら。
(今回の一件が悪化すれば、PMCトラストも終わるだろうな)
焼野原を抱く男――アリー・アル・サーシェスの不気味な笑みを思い返す。あそこで雇われている傭兵たちは、PMCが潰れてたって痛くも痒くもなさそうだ。
また新しい巣に降り立ち、傭兵業を始めることだろう。アザディスタンの内乱を起こした黒幕のような存在は、奴らの行く先を察知し、依頼を出すに違いない。
黒幕を絶たねば、いくら兵器を潰しても効果が薄いのだ。根本的なところを何とかできなければ、本当の意味での『戦争根絶』は無理なのではないか。
まあ、表に出てこないから『黒幕』と呼ぶのだが。
クーゴは息を吐いて、止めていた手を動かした。
◇◇◇
チームトリニティの役割は、破壊の限りを尽くすことにある。ソレスタルビーイング、およびガンダムに“悪”としての側面を植え付けるための作戦であり、アオミの知る“知識”通りに世界を動かすためには必須であった。
しかし、それを狂わせるように現れたのがノブレス・アムというイレギュラーである。奴はアレハンドロの部下であり、リボンズの友人としてこの世界に立っていた。ノブレスが教官を務めたトリニティは、アオミの『知る』トリニティとは全然違う。
まともだった。まとも過ぎた。この世全ての悪という役割を担うには、あまりにも役として力不足だったのだ。これでは、ソレスタルビーイングを壊滅させるための道のりが遠のいていく。
件のプランをぶち上げたアレハンドロも同じことを考えているらしく、『ノブレスに教官を任せたのは間違いだったかもしれない』と零していた。
『邪魔者を処分したい』と思っていても、それを決行するための大義名分が作れなくて困っているらしい。――それは、アオミも同じであった。
「危惧していたことが起きた、か」
アオミは舌打ちし、端末に映し出されていた映像を消した。そうして、くるりと踵を返した。
「どうしますの?」
椅子に座ってフルーツを味わっていた少女が、じっとこちらを見上げてきた。
彼女の隣に控える男も、静かな眼差しを向けてくる。
アオミは少女に振り返り、微笑んで見せた。何も心配することはない、と頷く。
「世界を動かすのは『私たち』よ? これくらい想定内。――運命は、『私たち』の味方だもの」
アオミはそう言って、端末を操作した。その画面を、少女と男へ示す。
画面を覗き込んだ2人は、大きく目を見開く。対して、アオミはゆるりと目を細めた。
映し出された機体のフォルムを見た2人は、ゆっくりアオミへと視線を向けた。少女は満足げに微笑み、男性は静かに目を閉じる。
少女と男性の反応を確認し、アオミは今度こそ踵を返した。地下室への道を開いて、降りていく。『無垢なる子』と書かれた部屋へ向かい、試験管を管理するコンピュータに情報を打ち込んだ。
水が抜かれる音がする。ややあって、巨大な試験管のハッチが開いた。ぱしゃん、と、足が水と床を踏みしめた音が響いた。足音は4つ。ぺたん、ぺたんと響く音は、アオミの背後で止まった。
「
名前を呼ばれた4人の少年たちは、静かに顔を上げる。外見年齢はわずか7歳児にしか見えないが、戦闘用および自分の後継者として調整した子どもたちだ。
あとは、戦いを通して彼らの中から後継者を選ぶ。能力的に海月が一番であるものの、刃金の跡取りに相応しい存在でなければ認められない。
母は弟を跡取りにと思っているようだが、そちらを黙らせるための準備も進んでいる。問題はどちらかというと弟のことだが、しかるべき対処を取るつもりだ。
アオミはにやりと笑みを浮かべた。端末には、4人が乗るための専用機体が映し出されている。
悪意が牙をむく瞬間は、もうすぐそこに迫っていた。
◇◇◇
『亡くなったのは、■■■■・■■■・ライヒヴァインさん』
『彼の父親であるハインリッヒ氏は、重大な汚職事件の首謀者で――』
『良心の呵責に耐えられず、妻のミュリエルさん、娘のイングリットさんと無理心中を――』
テレビに映し出された映像に息を飲んだときの衝撃は、今でも忘れられない。
***
襲い掛かって来た麻薬中毒者は倒れこんだまま動かない。力を暴発させてしまった際に、打ち所が悪くて命を落としてしまったそうだ。
襲撃者の安否は正直どうでもよかった。自分にとって一番の問題は、自分が庇ったはずなのに気を失ってしまった友人の安否である。
狼狽する自分に声をかけてきたのは、異変を察知して転移してきたエルガンだった。彼は状況を確認し、正しく把握すると、諸々の手配をしながら自分を連れ出した。
『少年が気を失ってしまったのは、暴走した“力”を間近で浴びたショックが原因だろう』
『一命は取り留めたようだが、暴走した“力”の影響がどう出てくるか分からない』
『キミを付け狙う連中の動きも気になる。――ここは一端、“同胞”のコミュニティに避難した方がいいだろう』
“力”を間近で浴びた友人にどんな影響が出たのかを理解したのは、それから数日後。テレビ画面に表示された自分の写真と、名前の横に表示された“死亡”の二文字がその答えだった。友人は、暴走した“力”を浴びたことによって記憶の混濁が発生してしまったらしい。
結果、彼は『■■■■・■■■・■■■■■■■は、麻薬中毒者に襲われて亡くなった』と誤認し、思い込んでしまった。更に言えば、各方面に手続きをしていたエルガンも“友人の証言に乗っかった方が安全確保に丁度いい”と判断したのであろう。
彼の判断は間違っていない。先代の“異端審問官”やその“候補生”が遺した調査資料からして、黒幕一派が“異端審問官”一族に強い恨みを抱いていたのは事実。同時に、奴らの最終目標――イオリア計画の私物化を目指す際、一番邪魔になると判断して動いていたことも理由だ。
歴代の“異端審問官”をサポートしてきたフェニックスと出会い、最後の1人として“異端審問官”の役目を引き継いだのはその後のこと。
以降は自分の能力に見合った機体を設計・開発し、使いこなすための訓練に明け暮れた。自身の私怨――家族を死に追いやった、獅子身中の虫どもを討つために。
『良いんですか? 僕のしようとしていることは、“来るべき対話”とは無関係な私怨です。キミの役目とは正反対だ』
『確かに、お前さんが成そうとしていることは私怨に過ぎない。けれど、獅子身中の虫どもを放置するわけにはいかないだろう?』
『奴らの計画は、人類同士の内輪もめを助長するだけだ。看破できるわけがないさ』――フェニックスはそう言って笑ってくれたけれど、多分、それは自分が最後の1人だからというのもあるのだろう。
現時点の自分は“来るべき対話”や人類の未来を考えられるような精神状態ではない。私怨に一区切りつけたところで、未来のことを考えるリソースが残っているかも不明だ。どうなるかは分からない。
ただ――過去に拘ることしかできない自分だけれど、未来のために戦う誰かの手助けくらいは出来たらいいと思うのだ。……“そう思えるくらいの精神状態には回復できた”ということだろうか。
『キミたち一族は、昔から変わらないね』
『少なくとも、僕のように私怨で動いたヒトはいないと思いますよ』
『理不尽と名のつく
初代“異端審問官”の時代から一族のことを把握している年上の友人は、懐かしそうに笑っていた。
“初代を懐かしみたいなら、同じ遺伝子配列で産み落とされた“革新の模倣者”を見ればいいのに”と思ったことは何度もある。
彼が懐かしんでいたモノが“歴代の異端審問官”、及びその“候補生”だったことを気づいたのは、機体の設計開発に明け暮れていた頃だった。
『ハインリッヒとイングリットはとりわけスプラッタ系のホラーが苦手だったけど、キミはジャパニーズホラーが苦手だよね』
『だってアレ、見境ないじゃないですか。呪う相手は“自分を辱めた輩”をピンポイントで狙えばいいんですよ。他の一族郎党は、罪状によって適宜度合いを調整すりゃあいいんです』
『絵面のヤバさもそうだけれど、何より、“近くを通りかかったり迷い込んだりした無辜の一般人までも呪いの対象にする”という形で理不尽をばら撒くのが嫌なのだ』――そう訴えたら、年上の友人は『そういうところだよ』と笑っていた。
『そういう意味では、コーナー家を筆頭としたアレは“更生の余地なし”だと思いますよ。相変わらず悲願を諦めていないし、そのためなら文字通り理不尽をばら撒いていますから』
『僕たちはずっと奴らを見張ってきたから、余計にそう思うんだろう。……300年近く続く妄執だって、断ち切らなきゃいけない怨念の1つだ』
――友人とそんな会話を交わしたのは、いつのことだったか。
今までの出来事を思い返しながら、武力介入を行う。ファンネルを自在に操ってMDを沈黙させた。
そのタイミングで通信が入る。映し出されたのはトリニティ兄妹たちだ。
「こちらスローネアイン、ファーストフェイズ完了。このまま、セカンドフェイズへ移行します」
「スローネツヴァイ、ファーストフェイズ完了だ! セカンドフェイズに移る!」
「スローネドライ、ファーストフェイズ完了したよ! このまま、セカンドフェイズに移行しまーす!」
「ツギイクゼ、ツギイクゼ!」
トリニティ兄妹の通信を聞いたノブレスは、ふっと笑みを浮かべた。今のところ、介入行動に問題は無い。ミッションは滞りなく行われていた。
「こちらベルナール。ファーストフェイズ完了、セカンドフェイズに移行する。……ここからは、全員別行動だ。気を引き締めろよ!」
「了解!」
「任せろ!」
「任せといてっ!」
「オマエモナ、オマエモナ!」
スローネたちは頷き、散開するように空を飛んだ。アインがモラリアへ、ツヴァイがロシアへ、ドライが南アフリカへと飛んでいく。PMCトラストの支社がある場所だ。
その背中を見送ったのち、ベルナールはユニオンへと飛んでいった。迷彩被膜を纏いながら、澄み切った青と蒼の間を翔けて行く。どこまでもまっすぐに。
今日のミッションは超強行軍だ。特に、ベルナールとノブレスは人一倍のハードスケジュールである。少しでもミッションが滞ってしまえば、文字通りの地獄が待っていた。
(まずは、ユニオンで技術者のスカウトですね。……と言っても、拉致に近い保護になりそうですけど)
頭の中でシュミレートしたプランを回想し、ノブレスは苦笑いを浮かべた。件の技術者が大人しく従う人間だとは思えないからだ。
対象者のことを、ノブレスはよく知っていた。彼とは交流があったし、彼の成長を見守るのが楽しくて仕方がなかったためである。
訳あって彼との親交は途切れてしまったものの、最近また交流が復活した。以前とは違う形ではあるが、それでも嬉しかった。
<フェニックス。操縦お願いできますか?>
<了解>
二つ返事で代わってくれたフェニックスを横目に、ノブレスは端末へと手を伸ばした。
起動させてメッセージを確認する。
ミッションを開始する数日前に届いた、別行動を取る友人からのものだ。ノブレスが危惧していた通り、アレハンドロは件の技術者を抹殺しようとしている。
理由は簡単だ。その技術者が、自力で『全ての謎を解いてしまったから』に他ならない。と言っても、アレハンドロ自身もまだ『全てを知らない』のだが。
(ソレスタルビーイングが最終地点として目指す場所は、ソレスタルビーイングのクルーですら知らないことです。ついでに、アレハンドロも知らないことです。それに自力でたどり着くとは、流石ですね)
ノブレスは、隣の家に住んでいた少年の姿を思い浮かべた。透き通った金髪に海のような青い瞳が印象的だった。今となっては、少年の髪は白髪で銀色になってしまったし、皺が増えて、歩くときには杖が必要な体になってしまっていたが。
今の自分の姿を見たら、彼は何と言うのだろう。驚くだろうか、喜ぶだろうか、あるいは――忌むだろうか。
不安を振り払うようにして、ノブレスはモニターへと視線を向ける。現在地点はユニオンの市街地から離れた平地だ。
ノブレスは端末を起動した。カーソルを、件の技術者のものへと合わせる。端末にメッセージを打ち込み、彼の元へと送信した。
『今すぐ、ソレスタルビーイングに関することから手を引け。でないと、キミが殺される』。技術者の思念を辿る。突然のメールに、彼はひどく驚いた様子だった。いつもと全く違う文面と内容に、物々しさを感じ取ったのであろう。
ややあって、彼から返事がきた。『いきなりどうしたんだ? どうして、キミがこんなメールを?』――ノブレスは、即座に返事を討つ。『キミは、真実の扉に手をかけた。それを快く思わない人間が、キミを狙っている』。メッセージを打つ手が震えた。
(逃げてください)
『逃げてください』
ノブレスの心を表すように、文面が追加された。
(僕は、キミに死んでほしくありません)
『僕は、キミに死んでほしくありません』
更に文面が追加された。
(これ以上、僕の目の前で、僕の大切な人が死んでいくなんて耐えられない)
『これ以上、僕の目の前で、僕の大切な人が死んでいくなんて耐えられない』
そして、文面が追加される。
『僕の家の隣に住んでいたキミだって、僕にとっては大切な人なんですよ』
『他人の恋愛話が大好きなくせに、自分の恋愛を根掘り葉掘りされると傷ついていた、因果応報な隣の『おにーさん』より』
最後にノブレスのヒントを添えて、メッセージが送信された。間髪入れず、技術者がメール内容を確認する。彼は大きく目を見開いた。
嘗ての少年――今では技術者となった老紳士の口が動く。紡いだのは、ノブレスの真名だった。彼の声は、懐かしさと驚愕と驚愕が滲んでいる。
<死者からのメール……? いや、まさか、本当に……本当に、生きていたというのか……?>
(生きていたんですよ。ずっとずっと、生きていたんです。……僕は、ずっと)
震える《聲》が《聴こえてきた》。ノブレスは微笑み、端末にメッセージを打ち込み送信する。次のメッセージを見た老紳士は、困ったように苦笑しながら表情を歪ませた。
そうか、と彼が笑った姿が《視えた》。<今までどこで何をしていた>、<どうして生きていたなら連絡してくれなかった>、<自分は今MS開発の第1人者と呼ばれてるようになった>、<伝えたいことが沢山ある>――彼の感情が伝わってきた。
知っています、とノブレスは答えた。そうして、ゆっくり仮面を外す。老紳士に伝わったとは思っていないけれど、気づいたらそう呟いていた。視界がほんの少し滲んだように思える。ノブレスだって、彼に伝えたい言葉が沢山あった。話したいことだってあった。
次の瞬間、技術者のパソコン画面に文字が表示された。文面はただ短く、『あなたは知りすぎた』。
あまりにもいきなりなメッセージであったが、ノブレスはすぐにその意味を察する。
少年の頃から聡明であった老紳士も、この文章が何を意味しているのか気づいた。
<まさか、狙いは……この私か!!>
刹那、彼がいる施設に向かって迫る4機の機影が《視えた》。
4機は、彼を抹殺するために送り込まれた刺客。
ノブレスの危惧していたことが、現実になったのだ!
間髪入れず、4機が砲撃を放つ! 老紳士では、逃げることもかなわない。
ノブレスの脳裏に、失ったものがフラッシュバックする。
『■■お兄様』
『おにーさん!』
奪われてたまるか。
壊されてたまるか。
――今度こそ、今度こそ!
「――レイフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
老紳士――レイフ・エイフマンが驚いた表情で振り返り、ノブレスを見返した。晒された素顔を見て、彼はさらに大きく目を見開く。
手を伸ばす。レイフは、ノブレスの伸ばした手に対して、手を伸ばし返した。
部屋が光に満たされる。赤く眩く、激しい輝き。命を奪うための閃光。
そうして――世界は染め上げられた。
◇◇◇
爆発した建物。引き金を引いたのは、自分たちだ。
少年は燃え上がる跡地を見つめていた。たくさんの悲鳴と呻き声が、頭の中に反響する。
痛い、苦しい、悲しい。助けて、死にたくない、死んでしまった。許さない、許さない、許さない――!!
思わず、少年は襟元を強く握りしめる。
向けられる感情に、少年はどうしても耐えられなかった。
(どうしても、こうしなきゃいけないのかな)
創造主である『母』の命令に逆らうことは赦されない。けれど、少年の頭には、その疑問がこびりついて離れなかった。
奪いたくないと思うことは罪なのか。傷つけたくないと思うことは罪なのか。この疑問を抱くことは罪なのか。
少年は、モニターから映し出される惨状を見つめた。これは、自分の罪。命を踏みにじった自分に与えられる罰なのだから。
他の3人は、『母』の命令に対しての疑問など抱いていない。
これをゲームだと思っている者、『母』の命令を成し得たことに満足する者、もっと殺したいと叫ぶ者。
戦いたくない、殺したくないと考えているのは、自分だけのようだ。
「……ぼくは」
少年は、言葉を飲み込む。機体に搭載されたレーダーが、新手の到着を告げたからだ。
相手はユニオンフラッグ。特に、オーバーフラッグス隊と呼ばれる、特別なチューンナップが施された機体を操る精鋭部隊だ。
『母』が言っていた。一番憎たらしい機体だと。『母』が心底憎んで仕方がない相手が乗っているから、大嫌いなのだと。
「丁度いい。遊んでから帰ろうぜ!」
橙色のガンダム――ガンダムスローネ・ドロフォヌスに搭乗する兄が、無邪気に笑いながら提案した。ギリシャ語で『暗殺者』を意味する単語がつけられた機体は、ガンダムスローネツヴァイとほぼ同じ武装と外見をしていた。唯一の違いは機体の色が黒ずんでいるところだろう。
正直、少年はそんな遊びなどしたくない。兄の言う遊びはゲームと同じであり、命をおもちゃみたいに扱うものだからだ。自分と同年代の子供は、笑いながら蝶の羽をむしるような残酷さを持っている。兄が他人に対して向ける残酷さも、それと同じだった。
「それはいい! 『母さん』が嫌いだという『あいつ』をやっつければ、褒めてもらえるかもしれないし!」
灰色の機体のガンダム――νガンダム・ギーに搭乗する別の兄が、名案とばかりに表情を輝かせる。彼の機体名は、ガンダムベルナールの元になったと思しき異端審問官のファミリーネームだ。
νガンダムの外見は、ノブレス・アムというマイスターが搭乗していたベルナールとほぼ同じだ。機体の装飾が控えめなのと、色がグレーがかっているのが特徴である。しかし、ブラックボックスの解析が不充分だったため、一部の武装を再現することができなかった。
そのため、ヴェーダのログに残されていた
「まったく。……少しだけだぞ」
黒基調のガンダム――ガンダムスローネ・ディミオスに搭乗する兄は、めんどくさそうに肩をすくめた。呆れてはいるが、彼も楽しそうである。大方、ギーに搭乗する兄の「『母』に褒めてもらえる」という言葉に惹かれたのだろう。
ガンダムスローネ・ディミオスの外見も、ガンダムスローネアインを元にしたデザインと機体性能になっている。武装も同じものが使われていた。唯一の違いは、機体の白い部分がやや黒ずんでいるところくらいか。
ギリシャ語で『処刑人』を意味するこの機体の武器は、スローネアインと同じGNメガランチャーだ。少年の乗る機体やドロフォヌスからのGN粒子を供給されたときの威力は、その名を表すに相応しい破壊力を示す。
「おら、ぼーっとするなよ! おまえもやるんだ、イリスィオス!」
ドロフォヌスに搭乗していた兄が、少年に声をかけてきた。少年はたじろぐ。
少年が搭乗している機体は、ガンダムスローネ・イリスィオス。ガンダムスローネドライとほぼ同じ外観と機体性能を有していた。ギリシャ語で『愚者』の名を冠する機体である。
スローネドライとの明確な違いは、機体の色が黒ずんだワインレッドであることくらいか。性能も、他機の援護をメインにしているため、出力共に控えめとなっていた。
機体性能順に並べれば、νガンダム・ギー、スローネ・ディミオス、スローネ・ドロフォヌス、スローネ・イリスィオスとなっている。実力の順番もそれと同じであった。
「ま、まだ殺すの……?」
惨状を見つめながら、少年が問いかける。
兄たちはきょとんとしたあと、不思議そうに首を傾げた。
「あたりまえだろー? いっぱい殺せば、『母さん』に褒めてもらえるんだ! いっぱい落とせば、『母さん』がたくさんご褒美をくれるんだ!」
「オーバーフラッグス隊には『あいつ』もいるらしいし。どれに乗ってるかはわからないけど、全部落とせば問題ないよな! フラッグごときが、おれたちに敵う訳ないじゃん」
「多少寄り道をするだけだ。……何なら、おまえだけ帰るか? 『母さん』、おまえに失望するだろうな」
「そんなことを考えるから、お前の機体名が『愚者』なんだよ」――兄たちはそう言って、おかしそうに笑うのだ。
兄たちは楽しそうに談笑する。オーバーフラッグス部隊を全滅させる算段を立てているのだ。彼らに任せれば、あの部隊も全滅させられるかもしれない。
死ぬのも、殺すのも嫌だ。でも、自分が逃げかえれば、兄たちが全部殺しつくすだろう。あるいは、自分が殺されるかだ。少年は歯を食いしばりながら、操縦桿を握り締めた。
「やる気になったんだな。それでこそ、弟だ」
「そうこなくちゃ!」
「いっぱい落とすぞー!」
(……
兄たちが意気揚々と飛び出していく。
少年は泣きたいのを堪えながら、兄たちの後に続いた。
(こんな風に思うぼくは、失敗作なのかな)
その問いに答える声は、今はまだ、ない。
クーゴ・ハガネの災難は続く。
【参考及び参照】
『COOKPAD』より『簡単!時短‼︎アップルシナモントースト(なおコッコさま)』『簡単サーモン&アスパラの青じそマスタード(ハッピーボーイママさま)』、『*黄金比率*新玉ねぎ香るハニーマスタード(ハッピーボーイママさま)』、『青じそとハニーマスタードのグリルチキン!(ハッピーボーイママさま)』、『手間かけて美味しい♡枝豆のポタージュ(あっちゃんmamさま)』、『いろいろ野菜と白身魚のトマト煮(ROYPOPOさま)』