問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
13.この小説は2023年の9月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
「さあ、撃つがいい! 地球と宇宙の平和のために!!」
小惑星の上に陣取るのは、トレーズ・クシュリナーダ率いる部隊である。彼らが向かい合っている相手は、ゼクス・マーキス/ミリアルド・ピースクラフトの所有する戦艦――リーブラであった。
『敗者になりたい』と語った優雅な男は、己の死が近づいていることにすら動じない。『流石である』と感嘆すればいいのか、『そんなことしている暇があったら無様でもいいから逃げ延びろ』と喝を入れればいいのか、クーゴには分からなかった。
ジェネレーションシステムで再現された光景であるとはいえ、自分たちが彼らを何とかできないという事実がもどかしい。何故自分たちがここにいるのか分からなくなりそうだ。
部外者にして外部者であるクーゴたちに許されたことは、その顛末を見届けることだけである。クーゴが憤ったことに気づいたのか、仲間たちが心配そうな顔つきになったのが《視えた》。
イデアも、刹那も、グラハムも、何とかならないかと思っている。しかしながら、どうしようもないことを悟っていた。だからすべてを見届けるのだと、面々の眼差しは訴えていた。
クーゴが悩んでいる間に、リーブラは主砲のチャージを終えた。青白い光が爆ぜ、トレーズたち目がけて降り注ぐ! 光は小惑星ごとトレーズを飲み込――まなかった。
小惑星と放たれた主砲の間に、“何か”が割って入った。“何か”が青い光に飲まれる寸前、禍々しい金色が視界の端にちらついたような気がする。
主砲の光は“何か”が身に纏ったものによって飛び散った。おそらくはシールドの類だ。それはいとも容易く、リーブラの主砲を無力化したのである。
途端に、通信越しのイデアと刹那の表情が微妙なものになった。割り込んできた“何か”に対し、何とも言えぬレベルで身に覚えがあったためであろう。
「っ、ははははははははははははははは! リーブラの主砲と言えどもその程度か!」
長ったらしい笑い声がこの場に響き渡る。青い光が消え去ったと思えば、毒々しい機体が鎮座していた。
金色。見ていて気が遠くなるレベルでの金色。搭乗者の好みが反映されたMAだ。思わずクーゴが眉間に皺を寄せる。
趣味の悪い乱入者のご高説が始まる。誰も頼んでいない。むしろみんな、「なんでお前ここにいるの?」「壮大な部外者だな」と言いたげな眼差しを向けていた。その視線は、乱入者の後ろに控えるジンクス――正確には、機体に搭乗しているパイロットたち――からも注がれている。残念ながら、その叫びは黙殺されたらしかった。
「世界は、地球圏の統一という再生が始まった。そして私はその世界を、私色に染め上げる!」
場違いだった。壮大なくらい、その言葉が似合っていた。あの“黄金の乱入者”によって、トレーズとミリアルドの戦いが汚されてしまった。
2人が貫こうとした想いや、世界に示そうとしたものの高潔さや神聖さを汚されてしまった。ふつふつと湧き上がってくるのは、乱入者に対する憤りだ。
周囲に漂う微妙な空気などなんのその。驚きの声を上げるミリアルドやトレーズの様子に満足したらしく、乱入者は声高に己の名前を宣言した。
「そう……世界を変えるのはこの私、アレハンドロ・コーナーだッ!!」
◆◆◇
「――帰れ、場違いィィィィ!」
クーゴは反射的にそう叫んだ。隣にいたグラハムは、眉間に深く皺を刻みながら、唸るように呟く。
「日本語で“
2人は顔を見合わせ、こめかみを抑えた。何故、最終決戦前にこんな
しかも、
年甲斐もなければ立場もない。
おまけに、場違いすぎて小物として片付けられてもおかしくないレベルだ。
目に優しくない金色のMAがフラッシュバックする。いつか、見たようなデザインだった。
クーゴは顎に手を当てる。
(何故、しがない国連大使がこんなMAを所有しているんだ……? 金で物言わせて製作したにしても、操縦技術は到底、正規のMS乗りには敵わないはずだ)
国連大使に「しがない」と言ってはいけないのだろうが、MSおよびMAの操縦に関して、国連大使という肩書は分野違いのように思える。過去にパイロット経験があるなら別だろうが――そこまで考えて、クーゴは思い出した。
アレハンドロ・コーナーは、過去にユニオン軍に在籍していた記録があった。当時はフラッグの前身となった機体――ユニオンリアルドを駆っていたという。国連大使に就任する前後に軍を退役していたか。なら、MSやMAの操縦もこなせるだろう。
……もっとも、
そんな思考に浸っていたクーゴを呼び戻すかのように、戦艦内にアナウンスが響き渡る。出撃準備を促す内容のものだった。
手早く
この先に何が待っているのか、誰の悪意が渦巻いているのか、それはまだ何もわからない。それでも、クーゴたちは飛ぶのだ。たどり着きたい場所へ向かって。
すべては、“
◇◇◇
毒々しい金色のMAは、これまた同じような輝きを宿したビーム砲を撃ち放つ。スナイパーライフルで狙い撃たれたレベルからの砲撃など、
しかし、プトレマイオスには優秀な操舵士がいる。リヒテンダールの操縦技術なら、あの砲撃をスレスレで回避することは可能だった。プトレマイオスに衝撃が襲い掛かる。第1粒子出力部が被弾したと、クリスティナの声が響いた。
被弾はしたものの、プトレマイオスはまだまだ健在だ。ガンダムたちも問題なく出撃できる。間髪入れず第2波、第3波が放たれた。勿論――寸でのところでだが――プトレマイオスはMAの砲撃を回避した。流石はリヒテンダールである。
視界を遮るデブリが少ないということは、相手はこちらを狙い放題ということを意味する。しかし、それはプトレマイオス側にも言えることだ。もっとも、プトレマイオスには攻撃用の武装がないため、狙い撃つことは不可能だった。その代わり、相手の攻撃がはっきりと視認できた。
(しかし、本当に絶妙なタイミングね。リヒティの操舵スキルとプトレマイオスの性能を踏まえたうえで、ギリギリ回避できるよう、相手側の砲撃時間やその他諸々が調節されてる)
出撃のタイミングを待つイデアは、MAのパイロットに張り付いていた“同胞”へ思いを馳せた。ゆるくウェーブしたクロームオレンジの髪を束ねた青年技術者と、薄緑の髪に紫の瞳を持つイノベイドが、悪戯っぽく笑う姿が《視える》。
あの2人のことだ。金ぴかのMAには、彼らの悪意による手抜きが満載しているのであろう。敵の捕虜となり働かされた5人の技術者が、味方側が有利になるように采配した戦艦を造り上げた話が脳裏をよぎる。2人がやったことはそれと同じだった。
“
後に、その技術者は敵に捕らえられ、戦艦の開発を命じられる。彼らの技術力にかかれば、高い破壊力を有した要塞を造り上げることができたはずだった。だが、技術者たちは“第3者から見れば『時間がないから仕方ない』と流す”レベルで手抜きと欠陥を施したのである。
その代名詞が“主砲の連射が利かない”、“主砲のチャージ時間がやや長めである”という欠陥であった。彼らに戦艦を造らせた張本人は「時間がなかったから仕方がない。でも、上々の出来栄えだ」と判断を下した。最後の最後でネタ晴らしをされ、その人物が憤慨していた姿が《視えた》。
MAのパイロットはこのことに気づいているのだろうか。……いいや。きっと、“プトレマイオスが砲撃を回避したのは運が良かったから”だと本気で信じていそうだ。
(相手にそうと悟らせない程度の、だけれどこちらにとっては有利に働く手抜き加減……これが、あの2人が私たちにしてくれたアシストか)
<――ここまでやったんだから、必ず生き残ってくれよ?>
不意に、聞き覚えのある声が耳を掠めた。ヴェーダを掌握した薄緑の髪のイノベイドが、期待と優しさに満ちた眼差しでイデアを見返している。
<……まあ、まだやることは沢山あるからね>
薄緑の髪のイノベイドは、ニヤリと笑みを浮かべた。誰もが「こいつ、悪いこと考えてる」と言いそうな顔である。アレハンドロに対する強い感情が流れ込んできそうだった。
彼がヴェーダを介して行っていることは、金色のMA――アルヴァアロンの砲撃タイミングの調整である。他にも様々な部位の調節(と言う名の手抜き及び欠陥作成)に勤しんでいる。
「強襲コンテナ出撃! 目標、敵MA!」
「了解!」
「強襲コンテナ、出撃する!」
エクシアを載せた強襲コンテナが、プトレマイオスから飛び立った。エクシアがアルヴァアロン相手に投入されたのは、いつぞやの“バグったシミュレーター”事件でのアレコレを鑑みた結果である。
『突然シミュレーターがイカれちまった!!』
『今回の訓練で勝利しないと、イデアが集めた
『ワシも自分が何を言っているのか、そもそも何が起きてるのか、さっぱり分らんのだ!!』
イアンの悲鳴を皮切りにして始まった、IB-MA-HAS型と奴が生み出したIB-HAS-Pluma型の軍団と繰り広げた地獄絵図。あのときは“これがシミュレーターによる戦闘訓練である”ことを悪用した戦術と采配によって辛勝を勝ち取ったが、こちらは実戦。敗北すれば最後、鹵獲か死の二択が待っている。
関節部の狙撃に専念していたが、途中から関節部を狙う手段として、スナイパーライフルでIB-HAS-Pluma型を殴り飛ばしたロックオン。ナドレの姿を晒す羽目になり、パニックになりながらも己の責務を全うしたティエリア。互いに結託し、攻撃役と囮役の双方で大活躍したアレルヤとハレルヤ。そして――全員から託された想いを背負ってIB-MA-HAS型に競り勝った刹那。
特に、格闘戦におけるエクシア/刹那の獅子奮迅が無ければ、あの戦いで勝利を勝ち取ることは出来なかった。そして、ソレスタルビーイング製のガンダムの中で、最初から対ガンダム戦を想定されたコンセプトや武装等の設計開発を施されていたのはエクシアである。そして、刹那が得意としている戦術は近接格闘。
だからエクシア/刹那が選ばれた。最大の切り札2つを敵の指揮官にぶつけるのは当然だと言えよう。
イデアの機体・ハホヤーにも実体系の武装が搭載されている。ただ、元々ハホヤーとイデアが“近接格闘は不得手”という組み合わせのため、アルヴァアロンとぶつけるには不安があった。
そのため、プトレマイオスの周辺で国連軍を迎え撃つ役目として抜擢されている。最も、どこに配属されたとて、“ソレスタルビーイングの守護者としての役目を果たす”ことに変わりはない。
「リヒティ、トレミーを近くの隕石の陰へ!」
「了解ッス!」
「キュリオス、ナドレ、ハホヤーはコンテナから直接出撃! トレミーの防御を!」
「了解!」
スメラギの指示に従い、リヒティがトレミーは隕石の陰へと進路を向けた。間髪入れず出された出撃命令に、イデア、ティエリア、アレルヤが返事を返す。
コンテナから飛び出した3機は、ジンクスたちを迎え撃つために飛び立った。視界の端に、エクシアを搭載した強襲コンテナが敵の包囲網を突破したのがちらつく。
実際のところ、『アルヴァアロンに、強襲コンテナとエクシアのことを任せた』というのが本音であろう。彼らもまた、大将の性能を信じているらしい。
ジンクスたちは2手に分かれて、プトレマイオスに攻撃を仕掛けるつもりだ。ティエリア/ナドレとアレルヤ/キュリオスがその部隊へ突っ込み、攻防を始める。
その中でも、他の機体にナドレとキュリオスを任せて、プトレマイオスへ直接攻撃を仕掛けようとする機体がいた。イデアは操縦桿を動かし、ハホヤーと共にジンクスの前へと立ちふさがった。
フレキシブルアームズに取り付けていた刃を回転させながら、狙いを合わせる。ソレスタルビーイング製のガンダムはみなビームサーベルを有しているが、ハホヤーには搭載されていない。否――これが、ハホヤーが持つ剣だ。
両側に展開するスピナー同士を合体させる。その出で立ちはまるで花のようだ。
GN粒子の淡い燐光が舞い、刃が大きく展開した。フレキシブルアームズを動かし、思いっきり投げつける!
「貴方たちに花を――そして、天国への片道切符を贈ります!」
ハホヤーの周囲が青く光った。そうして、高速回転した花の武装が、襲い掛かるジンクスたちのコックピットを真っ二つに叩き切る!
能力を駆使し、イデアは花の軌道を調節する。花は楕円形の軌道を描きながら飛び回り、プトレマイオスに近づくジンクスの群れを天国送りにしていった。その合間に、ビームライフルを使って牽制するのも忘れない。
複数の機体を相手取ることの難しさは、以前から熟知していた。絶対的に不利な状況だが、諦めるわけにはいかない。ついでに、ジンクス程度の連中に、自分の首を易々と渡してたまるものか。
「私を好きにしていいのは、あの人だけなんだから……!」
イデアはただ1人へと思いを馳せる。ユニオン軍の“空の護り手”、黒髪黒目の東洋人男性――クーゴ・ハガネ。イデアにとっての、運命の人だ。
彼がイデアと出会う以前から、イデアは彼のことを《識っていた》。そのことは、まだクーゴに伝えてはいない。
だから、こんなところで、こんな奴らに、撃墜されてやるつもりは毛頭ないのだ。彼が来るまで、意地でも持ちこたえてやる。無様な姿を晒すことになるかもしれないが、クーゴにだったら見られてもいいと本気で思っていた。
<アメリアス!>
<任せて!>
仲間が真っ二つになってうろたえるジンクスに向けて、自律型兵装を差し向ける。アメリアスが操作している分のビットがジンクスを翻弄し、イデアが操作している分はレーザーガンと合体し、攻撃が放たれた。それは真っすぐにジンクスを撃ち抜いていく。他の連中には、文字通り“興味が無い”ので。
戦況はいつだって最悪だ。それ故、『希望を守り抜いて』――母の遺言が耳を掠める。ここで出し惜しみすれば、イデアが“ここにいる”理由がなくなってしまうだろう。しかしながら、自分が『人間として異質であることを晒す』ことには抵抗があった。
人革連の包囲網に晒されたヴァーチェとキュリオスが目撃した“青い流星”の意味を、彼らは知ることになる。そうなったとき、彼らは――人類は、イデアやイデアの“同胞”のような異端者を、どんな目で見るのだろうか。
古の同胞たちが味わった悲しみが木霊する。否定され、迫害され、根絶やしにされそうになり、命からがら放浪し続けた旅路の記憶。
また、同じことの繰り返しになるのだろうか。否定され、迫害され、根絶やしにされそうになって――。
イデアは首を振る。たとえそうなったとしても、イデアにとって、刹那やスメラギたちは大切な希望だ。絶やしてはならない。
(一緒にいられなくなっても、絶対に守るよ。それが約束だし、何より――私が自分で選んだことだもの)
恋も、使命も、妥協するつもりなどない。こめかみから伝う汗をそのままに、イデアはふっと笑みを浮かべた。
レーダーがけたたましい音を上げる。
見れば、ジンクス以外にも反応が出た。
「MD!? しかも、機体数はおよそ30機!」
「っ、強襲コンテナへ行くわ! こっちも迎撃しないと! イアンに連絡を……」
機体データを照合したクリスティナが金切り声を上げた。スメラギが慌ただしく飛び出していこうとしている。
刹那、すさまじい悪寒が背中を駆ける。悪意の矛先は、プトレマイオスに向けられていた。
男が不気味な笑みを浮かべた姿が《視える》。反射的にイデアは叫んでいた。
「リヒティ、舵! ドクター、避難ッ!!」
「へ――!?」
「なぁッ――!?」
しかし。その叫びの意味を彼らが理解する前に、黄金の光がプトレマイオスに降り注いだ。クルーの悲鳴が木霊する。避難を促した相手の命が燃え尽きたことが《
希望を守り抜くと誓ったはずなのに、その決意は空しく、仲間が1人犠牲になった。長い間一緒に戦ってきた
悪いことは立て続けに起こるらしい。プトレマイオスが有する唯一無二の守りの要――GNフィールドが、先程のビーム攻撃によって使用不可能になったという。もし、また、先程と同じような攻撃に晒されてしまったら――待ち受ける結末は、全滅だ。
躊躇うな。たとえその先に拒絶と迫害があっても、希望を絶やすことだけは絶対にあってはならない。
なんのために、イデアは今まで“ここにいたのか”。それを忘れたことは、一度もなかったのだから。
「――っ、おおおおおおおおおおおおおおお!」
イデアは操縦桿を動かした。同時に、トランザムシステムを作動させる。
「私の希望に、手を出すなァァァァァァァッ!!」
<イデアの大事な人たちをいじめる奴らは、大嫌いっ!>
赤い光を纏ったハホヤーは、ジンクスやMDに攻撃を仕掛けた。体当たりを喰らわせたり、アームに接続し直したスピナーを回転させ振り回したり、自律型兵器を各方面に飛ばしてビット攻撃を仕掛けたりして、次々とジンクスやMDを屠っていく。
少し離れた場所で、足を失いながらもジンクスと戦うキュリオスが見えた。追いすがってはいるものの、3対1は不利である。ハホヤーも似たような状態といえば状態だが。そんなことを考えながら、ファルシアを屠ったときだった。
背後から紫の光が炸裂する。不利だったキュリオスに援護射撃を行ったのは、プトレマイオスに搭載された強襲コンテナである。アレルヤ/ハレルヤはそちらに任せ、イデア/ハホヤーは自分に与えられた使命に集中する。
MDはプトレマイオスに殺到していた。ゼダスの頭を撃ち抜き、ファルシアを弾き飛ばし、トーラスの首を吹き飛ばし、ビルゴを切り裂く。
プトレマイオスの死角に回り込もうとしたジンクスが、イデアの視界の端に移った。トランザムを駆使していても、ハホヤーで向かうには間に合う距離ではない。
――そう、
<アメリアス、お願い!>
<えっ――!?>
イデアは能力を駆使して《飛んだ》。ハホヤーのコックピットから、プトレマイオスとプトレマイオスに銃口を向けるジンクスの間へ、割り込むように転移する。
そのコンマ数秒で、ジンクスが引き金を引いた。赤い光が爆ぜる。イデアは躊躇うことなく、力を行使した。ありったけの力を注いで、シールドを展開する!!
GN粒子の弾丸は、イデアが展開したシールドによって弾かれた。流れ弾が周辺に飛び散り、その余波が周囲のデブリやプトレマイオスの下部に命中した。
クリスティナを庇ったリヒテンダールが床に背中を打ち付ちつける。小規模の爆発が、リヒテンダールの右半身を飲み込んだ。宇宙服に隠されていた部分が露わになる。
彼の姿を見たクリスティナが驚いた声を上げた。しかし、彼女はリヒテンダールを否定することなく、困ったように笑って彼を抱きしめた。リヒテンダールが目を丸くする。
長らく片思いだったリヒテンダールに、春が来た。こんなときでなければ諸手を上げて祝福したのだが、状況が状況なだけに、それはできそうになかった。
「に、人間!?」
ジンクスのパイロットが、素っ頓狂な声を上げた。彼の怯えた顔が《視える》。イデアは機体越しからパイロットを睨みつけた。
ひ、と、パイロットが引きつった声を漏らす。どこからどう見ても、人間業ではないものを目にしたのだ。当然と言えよう。
「ち、違う……こんなの、人間なんかじゃない!」
ジンクスは再びプトレマイオスに銃口を向けた。イデアもシールドを解き、それを攻撃用の思念波へと変換し、ジンクスのコクピット目がけて叩きこんだ!
「ば、化け物――」
パイロットの断末魔と一緒に、吹き飛ばされたジンクスが爆散する。
他のジンクスやソレスタルビーイングの面々も、流石にこの異常事態に気づいたらしい。
誰もがイデアに視線を向けていた。得体の知れないものに対する怯えや恐怖、異端の者に対する嫌悪、その力が自分の方に振るわれるのではないかという恐れ――古の“同胞”に注がれた眼差し、そのものだ。歴史というのは、何度でも繰り返されるものらしい。
「イデア」
名前を呼ばれた。振り返った先にいたのは、顔をひきつらせたクリスティナとリヒテンダール。
「貴女は、“何”?」
いつかされるだろうと思った質問だ。
その答えは、いつだって1つである。
「――ヒトよ」
イデアは視線を逸らすことなく、クリスティナの質問に答えた。
「泣いて、笑って、怒って、恋をする。――貴女たちと同じ、どこにでもいる……ただのヒトだよ」
イデアはそう言うなり、頭に被っていたヘルメットを外した。宇宙空間でそんなことをしたら、人間は生きていけない。しかし、イデアにとって、そんなものは必要なかった。
自分の周囲に漂う青い光が、宇宙空間であるにも関わらず生身で活動できる理由である。これが、イデアの――
イデアは静かに手をかざす。リヒテンダールは反射的にクリスティナを庇い、クリスティナは身を縮こませた。2人の態度に、イデアは寂しくなって目を伏せた。
青い光が2人を包む。「あ」という間抜けな声を残し、2人はプトレマイオスのコックピットから消え去った。今頃、スメラギ、イアン、フェルトが搭乗する強襲コンテナの中で転がっていることだろう。
視界の端に、強襲コンテナへ襲い掛かろうとしたトーラスが見えた。
次の瞬間、ハホヤーがトーラスに体当たりを仕掛けて弾き飛ばす。アメリアスがやってくれたらしい。
<ありがとう、アメリアス!>
<……イデア……>
気遣うような眼差しを向けてきたアメリアスに対し、イデアは微笑む。……上手く笑えていたらいいのだが。
<……しょうがないよ。最初から分かってたことだもの。――だとしても、私のやることは変わらないわ>
イデアは流星のようにハホヤーへ近づくと、そのままコックピットへと転移した。操縦桿を握り締め、目を閉じる。青い光が舞い上がり、この場一体に不可思議なシグナルを響かせた。
思念波を察知したパイロットたちが困惑する声が《聞こえる》。しかし、思念波を受け取ったのは人間だけではない。強襲用コンテナに襲い掛かろうとしていたMDたちが一斉にハホヤーへと向き直った。
「さあ来なさい、機械人形! 貴方たちの思考回路に刻まれた本来の役割――“ミュウの抹殺”を果たすために!」
イデアの宣戦布告に惹かれたのか、大量のMDがハホヤー目がけて殺到する! それを確認したイデア/ハホヤーは、プトレマイオス――及び強襲コンテナとは正反対の方向へと飛び出した。まるで蟻のようにMDが群がっていく。
<待って、行かないで!>
クリスティナの金切り声が《聴こえた》ような気がしたが、イデアの願望だろう。それを振り払うようにして、イデアはハホヤーを加速させる。
トランザムは切れてしまったが、どうにかする手立ては存在している。隠し通す理由はなくなったのだから、もう、躊躇ったり手加減する必要はない。
充分MDを引き付けたことを確認する。プトレマイオスや強襲用コンテナよりも、遠い場所に来たものだ。周囲に漂うのはデブリばかりで、とてもクーゴが来そうな気配はなかった。
だからといって、クーゴと相見えることを諦めたつもりはない。イデアは不敵に微笑み、能力を発動させた。青い光が一際激しく輝く。己の命を燃やしつくすかのように。
そして――
「私は生きる! 生きて、
イデアの叫びを引き金にして、青が爆ぜた。周囲一帯が光に飲まれる。
そのコンマ数秒後――MDの群れは、ハホヤー共々、爆炎とともに消えていった。
◇◇◇
『命の色って、何色だと思う?』
『――青』
唐突に思い出したのは、先程自分たちを置いて行ってしまったイデアの言葉だった。
聞いた話では、休暇の直前、彼女はガンダムマイスターたちに『命の色』について訊ねていた。
イデア本人は命の色を青だと思っているという。地球と同じ色だから、と言うのが理由なのだそうだ。
命の色が青だとするなら、あそこで輝く青い光は、イデア・クピディターズの命そのものなのだろう。光は激しく輝いている。まるで、己の命を燃やしているかのようだ。
刹那、一際激しい光が炸裂した。遠くの方で沢山の爆炎が上がる。レーダーに映し出されていた敵影が、あっという間に消えてしまった。あまりの出来事に、強襲用コンテナにいた全員が息を飲む。
スターゲイザーに殺到したMDのすべてが沈黙した。おそらく、イデアとハホヤーがやり遂げたのだろう。最後の最後まで、プトレマイオスクルーを守ろうとして戦い抜いたのだ。
「っ、応答して! イデア!」
「お願い! 帰って来て!!」
スメラギとクリスティナが呼びかけたが、イデアからの返事がない。
遠くで輝いていた青い光が、どんどん弱々しくなっていく。あれが命そのものだと言うなら、彼女の命は風前の灯火になっているということなのか。だとしたら、消えないでほしい。自分たちはまだ、何も伝えていない。
助けられたことに対する感謝の言葉も、彼女が隠そうとしていた不安や恐れに気づいてやれなかった謝罪も、何があっても自分たちはソレスタルビーイングの仲間であるという当然の事実も、まだ何一つ伝えてはいないのだ。
“ダメだ、消えないでくれ”――5人の叫びは、届かなかった。
光はふつりと途切れ、残ったのは、永遠に広がり続ける宇宙の闇。
言葉が出なかった。結局、何も伝えられなかった。あ、と、誰かの喉から声が零れる。
そうしてまた1人、仲間が散っていった。
◇◇◆
機体の残骸や小惑星デブリを縫うようにして全速前進。
赤い粒子をまき散らしながら、2機のフラッグが
本来なら万全の状態で目的地に向かいたかったのだが、“ちょっとしたアクシデント”に巻き込まれてしまった。機体の現状は損傷軽微、戦闘を継続・続行するのには問題ないレベルである。
……いや、これくらいが丁度いいのかもしれない。何故なら、自分たちが決着を付けようと思っている相手の状況は不公平極まりない――“あまりよろしくない”だろうからだ。
何せ、相手はソレスタルビーイング、及び、ソレスタルビーイングと行動を共にしている各団体。国連軍全体を敵に回しているので、相手はきっとかなり疲弊していることだろう。
「逢瀬の約束をしておいて、まさか遅刻してしまうとはな……!」
「そういうときは素直に謝って、状況を説明するんだよ。許してもらえるか否かは別問題だけど」
苦々しい顔をして飛ぶグラハムに対し、クーゴは肩をすくめながら諫める。
「だから言ったんだ。『トラブルは俺1人で何とかしておくから、お前だけでも刹那の元へ行け』って――」
『仲良く遅刻しなくともよかったのに』というクーゴの気遣いがきちんと言葉になることはない。遠くの方で、何かが光り輝くのが視認できたためだ。
あの光は国連軍由来の兵器ではない。では、あれは一体――それに首を傾げたのと、グラハムが息を飲んだのはほぼ同時。次の瞬間、奴は鬼気迫る形相になってフラッグの速度を上げた。
「いきなりどうした!?」
「あそこだ!」
「何が!?」
「刹那がいる場所だ! あの光は、そこに向かっていった!」
「何だって!?」
この宙域にいるのは国連軍だけのはずだ。だが――何度でも言うが――、あの光は国連軍由来の兵器ではない。グラハムの言葉が本当なら、“国連軍以外の何かがこの宙域にいて、ソレスタルビーイング、及び彼女たちと行動を共にしている団体を襲っている”ということになる。
グラハムが鬼気迫った表情をしていたのは、最愛の少女とガンダムが得体の知れぬ“何か”によって害されようとしている気配を察知したためだったらしい。
相棒の思考回路を察知し、クーゴは苦笑しつつも同意する。自分たちは彼女たちとの決着をつけるためにここまで来たのだ。それを邪魔されて黙っていられるような質ではない。
イデアとの最初の出会いは、『ヴィジョンを共有させることができる歌い手の存在を知った上層部からの命を受けて、彼女に接触を試みた』ことからだった。エトワールと名乗って活動していたイデア、及び彼女の護衛役として同行していた刹那と顔を合わせたのも、最初は情報収集のためだ。その際にグラハムが刹那に一目惚れして大騒ぎになったことは今でも覚えていた。
交流を重ねていくうちに、情報収集よりも一緒に過ごす時間が楽しいと思うようになった。決定的なことは何も言わなかったけれど、確かに自分たちは《分かり合えていた》と思う。そのうち戦場で相対峙するようになり、刃を合わせたことで伝え合えたこともあった。――その積み重ねが、自分たちに『この道』を選ばせたのだ。
(この
クーゴは操縦桿を握りしめた。視界の端で青い光が爆ぜたような気がする。
僅かな時間すらも惜しいと思ったそのとき、不意に《聲》が《聴こえた》。
<アイツら、いつものより強いぞ……>
<クソッ! あんな奴らの相手をしている場合じゃないってのに!>
最初の《聲》は覚えがないが、次に《聴こえた》《聲》には覚えがある。ソレスタルビーイングが黒の騎士団と合流する前後で何度も対峙したガンダムパイロットの1人だ。彼や彼女たちは酷く焦っている。何かあったのかと疑問に思ったとき、クーゴは《視た》。
彼らが宇宙まで上がって来た際に搭乗していた輸送艦が、先程の戦いで地球の重力に囚われてしまった。それを救おうとしていた面々であったが、そこへ謎の兵器・スプリッターが現れ、襲い掛かって来たらしい。輸送艦を失えば、彼女たちは地球へ戻れない。それ以上に、輸送艦のクルーの命が危ないのだ。
スプリッターは人間たち――特に、現在この宙域で戦っていたソレスタルビーイング、及び、彼女たちと行動を共にしていた団体の機体へ襲い掛かる習性があるらしい。クーゴやグラハムがあの場に到着すれば、当然、自分たちも奴らに狙われることになる。文字通りの大混戦だ。
今、天使や天女に攻撃を仕掛ければ、クーゴやグラハムが有利になるだろう。
……そんなことは分かっている。分かっているんだ。それが正しいって、それが効率的だって、理解している。
軍人としてのクーゴ・ハガネは、何も間違っちゃいない。――だけど、今、必要なのは違うのだ。
<この光……! 今度は何が出てくるってのよ……!>
向こう側でまた光が瞬く。そのタイミングで聞こえてきたのは、見知らぬ少女の悪態だった。ぞわぞわと背中を走る悪寒と焦燥を、何と例えればいいのか分からない。
<足りない。貴様たちには絶望が>
<ゼロ、あれ……! あのマシンは何者なんだよ……!? やばそうな感じがプンプンするぜ……>
平坦な声が聞こえる。聞き覚えのない男の声だ。それと入れ替わりに、黒の騎士団関係者の男が、震える声で言葉を紡いだ。
次の瞬間、謎の機体に随伴していたスプリッターが、ソレスタルビーイングと黒の騎士団の機体に向かって襲い掛かった。
慌てて迎撃を試みるも、誰も彼もがスプリッターに翻弄されている。不意を突くような形で飛び出した機体が、死角から天女と天使を強襲する!
慌てて対処しようとする刹那/天使とイデア/天女であるが、どう考えても間に合わない。
他の機体も援護に向かおうとするが、他のスプリッターどもに阻まれる。
「――飛べ、フラッグ!」
気づいたら、叫んでいた。意味などなくとも、そう叫ばずにはいられなかった。早く、彼女たちの元へと向かいたかった。エゴなのは分かっているけれど、それでも――彼女たちと決着をつけたい。そうして、自分たちが望んだ明日に向かって踏み出すのだ。そのためにも、彼女たちとはきちんとした形で決着を付けたかった。
それに呼応するかのように、
クーゴのフラッグは即座に愛刀――ガーベラストレートとタイガーピアスを引き抜き、イデア/天女とスプリッターの間に割って入る。異物の武器と愛刀が鍔迫り合いを繰り広げ、火花を散らした。
「切り捨て――御免ッ!」
鍔迫り合いに勝利したガーベラストレートとタイガー・ピアスを力任せに振り下ろせば、スプリッターの中心部に大きな×印の軌跡が叩き込まれた。
思いっきり奴を蹴飛ばせば、程なくして機体が爆散する。そのまま天女を庇うような体制を取れば、視界の端にグラハムのフラッグが映り込んだ。
奴も同じようにして、白と青基調のガンダムを庇ったらしい。ビームサーベルの一閃を喰らったスプリッターが爆散する。
それを見ていた面々が驚きの声を上げた。
さもありなん。クーゴとグラハムの所属は国連軍で、彼女たちにとっては敵同士だ。
本来ならこの場で彼女たちを攻撃し、大混戦に陥っていたとしても何もおかしくはない。
「あんた、どうして……」
「こんな状況でキミを倒したところで、私もキミも満足は得られまい。……それは、我々が望んだ“明日”とは程遠いだろう」
グラハムはそう言いながら、質問してきた相手――刹那の方へと向き直る。奴の言葉に合点がいったらしく、彼女は大きく目を見開いた。
何か言おうと口を開いて閉じてを繰り返した後、納得したように頷き返す。心なしか、刹那の口元が微かに綻んだように《視えた》のは気のせいだろうか。
クーゴではそれに込められた意味を掴むことはできないし、そうすることは無粋なのだろう。だから、この件に関しては何も言わないことを選んだ。
「まずは、奴らを――」
謎の機体へ向き直ったグラハムが言葉を続けようとしたとき、謎の機体が武装を展開した。鮮やかな紫音の光が爆ぜた後に広がっていた光景に、クーゴとグラハムは思わず息を飲む。
この宙域に展開していた国連軍の機体
嫌な汗がどっと流れていくのを感じつつ、クーゴは恐る恐る謎の機体を見上げる。自分が何を相手にしているか、何を相手にしようとしているのか――その強大さを叩きつけられた気分だ。ごくり、と、生唾を飲み干す。
(それでも、何も変わらないんだけどな)
「化け物だろうと何だろうと、“革新者”たちの邪魔をさせてたまるかよ!」
クーゴの意見を代弁するように、長い髪を生やした機体に乗っていた青年が吠える。
それを聞いた仮面の男は、呆れたようにため息をついた。
「愚かだ。自分と私の力量が分からないとは」
「アンタとの差が分かろうが分かるまいが、やることは一緒なんスよ!」
◆◆◇
流れ込んだ
「――っ!?」
今、クーゴの視界の端で、青い光が煌めいたような気がする。誰かが命を燃やして、大切なものを守ろうとしていた。
思わず周囲を確認してみるが、青い光らしきものはもうなかった。この場一帯には機体の残骸が散乱している。
国連軍とソレスタルビーイングの戦いは、かなり激しく厳しいものになっているらしい。
最初は第一波攻撃の後に作戦を中断して撤退するはずだったのだが、国連軍に補充が回されたため、指揮官役のカティ・マネキン大佐がGoサインを出したという。そのおかげで、補充要因でクーゴとグラハムのGNフラッグがこの戦場に降り立ったという訳だ。
しかし、作戦の終了間近であるにも関わらず、国連軍がここまで疲弊していると考えると、ソレスタルビーイングも侮れない。壊滅寸前を感じさせない、獅子奮迅の戦いぶりが伺えた。どちらかというと、窮鼠猫を噛むに近い状態なのだろうが。
グラハムの駆るGNフラッグが先導するように飛んでいた。クーゴのGNフラッグは、彼に随伴している。
「……しかし、どこに行けばいいんだろうな。当てはあるのか?」
闇雲に進んでもどうしようもない。もしかしたら、その間に、誰かが刹那/ガンダムとの決着をつけているかもしれないのだ。
他者がガンダムを口説こうとしていることに嫉妬を燃やす我慢弱い男が、黙っていられるはずがないだろう。
「ある。乙女座の勘と私の魂が、『このまま突き進めば運命に――刹那とガンダムに会える』と叫んでいる!」
その意味を込めて問えば、グラハムは不敵に笑い返した。成程、グラハムには刹那/ガンダムの居場所が《
彼とは対照的に、クーゴにはイデアがどこにいるか《
しょうがない。クーゴは苦笑しつつ、グラハムのGNフラッグに続いた。彼は迷うことなく、まっすぐに突き進んでいく。迷いのない横顔が目に浮かんできそうだった。
どれ程の間、自分たちは宇宙を突き進んでいたのだろう。ジンクスらしき残骸や、ガンダムの装甲らしき残骸が漂っては消えていく。兵どもが夢の跡という諺が脳裏を掠めた。
武力による介入で戦争根絶を夢見た施設武装組織、ソレスタルビーイング。己の内包する矛盾に歯噛みしながらも、彼らは的確な介入行動を行ってきた。彼らのおかげで解決した紛争があったことは事実である。それは認めるべきことだった。
同時に、彼らが存在しているが故に起こる争いが発生したことも事実だ。しかし、彼らの名前を使って破壊行動を起こした連中がいたために、ソレスタルビーイングは『悪』とされ、滅び去ろうとしている。滅びの渦中にある彼らは、どんな思いで戦っているのだろうか。
(しかしどうして、国連軍のお偉いさんは殲滅という早期決着を望んでいるんだろう? 威信をかけているとはいえ、ここまで泥仕合を繰り広げてまで殲滅に拘る必要があるんだろうか)
27機あったジンクスのうち、第1波攻撃を無事に生き延びたのはたったの13機である。損害に対し、国連軍が戦闘不能にしたと思しきガンダムは1機だけだ。
第2派攻撃を行うにあたり、大量の犠牲者が出るだろう。下手したら、ジンクスが全滅することだってあり得る。ソレスタルビーイングが壊滅すれば揉み消せるとでも思っているんだろうか。世の中はそんなに甘くはない。
歴史は勝者が作り上げるものだ。きっと、倒れた者たちは英霊として祭り上げられるのだろう。そんなもののために戦っている訳じゃないと声高に叫びたいけれど、クーゴレベルの軍人が言ったところで難しそうであった。
残骸と隕石の海を越えて、まだ、対峙すべき相手の姿は見えない。本当に、グラハムに先導させて大丈夫なのだろうか――と、不安に駆られたときだった。
レーダーの端に、反応が出た。識別は味方であり、ジンクスとは違う源流を組む疑似太陽炉搭載型の機体である。機体の周辺には何もなく、その反応だけがぽつんとあった。
「識別コード、Unicorn……?」
「パイロットは……機密事項のため確認不可能だと?」
クーゴとグラハムは怪訝そうに首を傾げた。反応が徐々に近づいてくる。しかし、どこか控えめというか、躊躇いのようなものを感じた。
味方に対して怯える理由なんてないはずなのに、どうしたのだろう。クーゴとグラハムは立ち止まり、機体が近づいてくる方向へカメラアイを向ける。
白い機体がこちらに近づいてくる。額には一角獣を思わせるような角があった。ガンダムに似ているかと問われれば、ちょっと悩むような外観であった。
白い機体は何もしてこない。友軍相手に何かするというのもおかしい話だが、何もしないで眺めているだけというのも違和感がある。恐る恐る、クーゴは声をかけてみた。
「こちらGNフラッグ。Unicorn、応答せよ」
「…………!」
まさか話しかけられるとは思っていなかったらしく、パイロットが息を飲む音が聞こえた。そこから漏れた声の高さからして、パイロットはまだ10にも満たない子どものようだ。
どうして子どもがこんな戦場にいるのだろう。軍は実力主義ではあるが、子どもを兵士に使う程劣悪な環境ではなかったと思う。まさか、いつぞやの超兵機関と似たような組織が新しく作り出されたのだろうか。
もう一度声をかけてみた。Unicornのパイロットは答えようとしない。ただ沈黙を貫くだけだ。
今度はグラハムが、同じようにUnicornへ声をかける。しかし、相変わらず沈黙が帰ってきた。
Unicornは一体何がしたいのだろう。クーゴとグラハムが顔を見合わせたときだった。
突如、機体の装甲が変形する。関節部から赤い光が溢れだし、頭部のデザインが変わった。仮面のような装甲が外れ、一角獣の角がV字に開く。――その顔立ちには、見覚えがあった。
「ガンダムだと!?」
「しかもこいつ、ソレスタルビーイングじゃないぞ!?」
グラハムが驚きの声を上げる。思わず、クーゴも叫んでいた。
しかし、叫んだのは三十路一歩手前の男性だけではない。どこからか、少年の声が《聴こえた》。
『なんで!? どうして勝手にデストロイモードが起動したの!? ……まさか、お母さん? お母さんなの……!?』
泣き出してしまいそうな子どもの姿が《視える》。黒髪黒目の男の子は、まだ10にも満たぬ少年であった。顔立ちはどこからどう見ても、クーゴと瓜二つである。
しかし、クーゴには子どもはいない。血縁関係が外見に影響すると考えると候補は1人に絞られる。彼女はまだ未婚であるが、精子バンクに手を出す財力は有していた。
クーゴの予想を肯定するかのように、少年の心が《伝わって来た》。彼が思い浮かべている『母親』は、クーゴにとって馴染み深い相手だった。
黒髪黒目の東洋人女性。艶やかな花が描かれた薄桃色の着物を着ている彼女は、どこまでも冷ややかな眼差しを向けている。クーゴの双子の姉――蒼海。
(姉さんの、子ども……!?)
何故だ。何故、姉の子どもがこの戦場にいるのだ。そもそも、姉が「子どもがいる」なんて話をしたことはない。……いいや、壊滅的に冷え切っている相手には、報告する必要はないだろう。クーゴが思考回路を働かせようとしたとき、突如としてUnicornが動き出す。
Unicornが突っ込んでくる。バズーカを構えたUnicornが、こちらに容赦なく攻撃を仕掛けてきた。放たれた弾丸が派手に飛び散る。さながら豪雨のようだ。クーゴとグラハムのGNフラッグは寸でのところで回避した。周辺を漂っていたデブリに散弾が直撃し、爆発四散する。一体何がどうなったというのだろうか。
<嫌だ……! 戦いたくない、戦いたくないんだぁぁぁぁ!!>
泣き叫ぶ子どもの悲鳴と反比例するように、Unicornは急加速する。
何故だ。何故、姉は自分の子どもにこんなことができるのだ。これが母親のすることなのか。言いたいことは沢山あるが、生き残らなければどうしようもなさそうだった。
イデアと
「グラハム!」
「わかっている! Unicornを止めて、この場を突破するぞ!」
クーゴとグラハムは顔を見合わせ、頷き合う。2機のGNフラッグは、角を持つガンダムへ照準を合わせた。
◇◇◇
結局、優秀な『無垢なる子』たちも出戻ることになった。無事に動けるのは、出来損ないの臆病者――宙継だけである。彼は一足先に出撃していた。
あそこまで使えないものを残しておくつもりはなかったので、そろそろ潮時だろう。次の行動次第では、然るべき手を下さねばならない。
息を吐き、格納庫に納められた機体を見上げる。
「……さて、行かなくちゃね」
パイロットスーツに着替え、乗り込む。向かう場所は、『
操縦桿を動かし、アオミは宇宙へと飛び出す。宇宙域をしばらく飛んでいたら、暗号通信が入った。エクシアおよび強襲コンテナとアルヴァアロンが戦闘を開始したらしい。
宙継が乗る機体は、すぐに見つかった。その目と鼻の先に、アオミにとって邪魔で仕方がない存在――『イレギュラー』、クーゴ・ハガネがいる。彼の隣には、グラハム・エーカーの搭乗する機体があった。
宙継の乗る機体がGNフラッグへ接近する。しかし、そいつはただ、じっと2人を見つめるだけだ。やはり宙継は出来損ないだった――アオミはつまらなそうに映像を一瞥すると、コンソールに手をかけた。
途端に機体の様子が変わる。隠されていた装甲が開き、本当の姿と本当の力が露わになった。宙継が驚き、悲鳴を上げている姿が容易に想像できる。これで、この場所に用はない。アオミは振り返ることなく先を急いだ。
そうして、目的地が見えてくる。エクシアとアルヴァアロンが戦っている場所だ。アオミがその光景をモニターで視認できる距離にたどり着いたとき、エクシアの実体剣がアルヴァアロンを引き裂いた!
爆発。行動不能になったアルヴァアロンを視認した刹那は、被弾したGNアームズに搭乗しているラッセを気遣っている。しかし、アルヴァアロンが行動不能になっただけで、アレハンドロ・コーナーの機体を倒せたわけではないのだ。
「第2幕、開始か。……道化の最終公演、じっくり観賞させてもらうわ。アレハンドロ」
――そうして、アレハンドロにとっての晴れ舞台が/アオミにとっての『予定調和』が始まった。
◇◇◇
一点のシミもない真っ白な部屋が、地獄絵図になっていた。
ここはユニオン領の、どこにでもあるような病院の、どこにでもあるような一室だ。何か特筆すべきことがあるとすれば、持ち込みテロの発生率が異常に高いということである。
テロが頻発している場合、普通は厳重な警戒態勢が敷かれるものだ。だが、この病室には物々しい警備など敷かれていないし、看護師や医者にそのことを言えば、「優しい同僚さんじゃないですか」で流される。
のほほんと笑って流す彼/彼女たちは、タッパーの内容物が何かを確認していない。タッパーが入っている入れ物の大きさを見て、「差し入れに気合が入っている」と思うだけであった。
ザル警備の極みである。いいや、そもそも医者や看護師たちには警備するつもりなどないから、患者の異常事態も軽く流しているのだろう。意識の違いは大きい。
度重なるテロのせいで、ただの怪我人だった入院患者3人――いずれも軍人であり、20代半ばの屈強な男性である――の入院期間日数がじりじりと増え/長くなっていた。
<また、ジョシュアさんがみなさんに差し入れ持ってきたんですって>
<口と態度は悪いけど、仲間想いのいい人じゃないか>
医者と看護師がのほほんと話す声が《聴こえた》。病室の扉一枚隔てた廊下は、扉の向こう側は和気あいあいとした空気に包まれているものだと思っている様子だった。彼らの頭はお花畑ではなかろうか――ハワード・メイスン、ダリル・ダッジ、アキラ・タケイは、そう思えて仕方がない。
目の前に広がる光景は、普通の人間が考えるお花畑とはベクトルが違った。お花畑という字面は正解であるが、“向う側に三途の川が見える、眺めのいいお花畑”である。ヘタをしたら“花畑で戯れていたら、夢中になりすぎて川遊びになり、向う岸に渡ってしまって戻ってこれなくなりそう”だった。
男3人の前に広がるお花畑――もとい、半透明なタッパーにぎっしり詰め込まれていたのは、彩のある見た目のものばかりだ。
1つ目のタッパーには、薄紅色のご飯がみっちりと詰め込まれていた。日本料理で、主におめでたい日に食べる『赤飯』という料理がある。米を炊く際に食紅を入れ、赤く色を付けるのだ。あとは好みに合わせ、栗や小豆を入れて、ごま塩等で味付けをする。食紅は色を付けるだけであって、食紅自体は無味無臭だ。しかし奇妙なことに、この赤飯からは甘ったるいシロップの香りが漂っている。いや、ご飯から香る『におい』と考えると、『匂い』という字面よりも『臭い』の方がよく似合っていた。
2つ目のタッパーには、チョコレートでコーティングした何かと、歪な形のオムレツが詰め込まれていた。奴らはアルミホイルの敷居で、互いの居場所を住み分けしている。前者はよくよく見ると、見覚えのある形をした葉っぱだった。辛うじて、上半分が緑の面積が多く、下へ行くと白い芯になる野菜――白菜の面影が見えた。後者は生焼けの魚とマーマレードジャムが混ざったような、奇妙な悪臭が漂ってきている。いや、実際に混ざっていた。
3つめのタッパーには、パスタが入っていた。どぎついオリーブオイルの臭い。使用された油の量を物語るかのように、パスタの麺がテカテカと光を反射していた。ミートソースやトマトソースは使われていない、盛り付けた具材と和えただけのシンプルなものだ。具材として入っていたのは、赤い果肉に黒い種が点々と混在しているもの、薄緑の皮がついたまま輪切りにされたもの、鮮やかなオレンジ色のもの――順番に、でんすけすいか、グリーンレモン、夕張メロンが惜しみなく盛り付けられていた。
蛇足であるが。
でんすけすいかは北海道で生産・出荷される、スイカの『世界最高級ブランド』の品種である。夜闇を思わせるような暗緑色の皮には縞模様がない。品種的に空洞化や肥大化が発生しやすいため、生産には高い技術力が必要となるそうだ。初競りで65万以上の金額を叩きだしたものもあったという。
夕張メロンもまた、北海道で生産・出荷される、メロンの品種である。メロンの出来栄えが4段階で評価され、最高級評価のものは「糖度13%以上、重量1.5~1.8kg、網目が90%以上完全なものである」等の厳格な基準を乗り越えたものだけが与えられるのだ。厳しさに見合う程のおいしさが保証されている。
いずれも、沖縄基地に駐屯していた日系人――アキラ・タケイの親戚が、面々の快気願いに持ってきた高級品たちであった。こんなパスタの食材として使う/使われてしまうなんて、お見舞いに持って来てくれた親戚たちに対する、最大の裏切りであろう。閑話休題。
タッパーたちの中身は、苺シロップの甘ったるい臭いが漂う赤飯、チョコレートでコーティングされた白菜、魚特有のにおいと果実と砂糖のほの甘い臭いが鼻を衝く歪なオムレツ、オイルでギトギトになった高級フルーツ和えのパスタの4品だ。
テロ内容は『飯テロ』。
テロリストの名前はジョシュア・エドワーズ。
元・オーバーフラッグス隊最凶の“メシマズ”であった。
「お前、俺たちに何か恨みでもあんのか!?」
ハワードが息を絶え絶えにして叫び、
「おかあさぁぁぁん! おかあさぁぁぁぁぁあん!! 助けて、ごはんがまずいよォォォォォォ!!」
アキラが幼児退行して泣きわめき、
「ま、待ってろ……今、ナースコールを……!!」
ダリルがのたうち回りながらも必死になってナースコールへ手を伸ばす。
「な、なんだよ! せっかく作ってきたのに……ッ!」
そんな阿鼻叫喚図を目の当たりにした戦犯――ジョシュア・エドワーズは、ムッとしたように眉間に皺を寄せた。心なしか、海を思わせるような青い瞳が涙で滲んでいるように見える。
しかし、3人にとっては自分の生死が賭かった重要な案件であり、切羽詰っている状態であった。生き残るためならなんだってやってみせるという心持だった。生存本能に従っただけであった。
だから、彼らが“生き残ろうとして差し入れの入った入れ物をひっくり返す”のは仕方がなかったことである。「ご飯は無駄にしてはいけない」と仰る彼らの副隊長の座右の銘を破ったのは、やむを得ぬ理由があったためだ。
4人は常に戦っている。
片や、『仲間たちを気遣うが故に、様々な料理を試す側』。
片や、『自分たちが生き残るために、テコでも相手の料理を口に入れまいとする側』に分かれて、だ。
「畜生! どうしてお前のような奴が、俺たちの中で一番最初に日常生活へ復帰するんだ!?」
「神様は俺たちのことが嫌いなんだろう!? そうなんだろう!? でなきゃこんなメシマズを、一番最初に野に放とうなんて思わないだろうが!」
この世の理不尽を噛みしめるようにして、ダリルとハワードが咽び泣く。彼らの言葉にジョシュアが愕然とした表情を浮かべていることなど誰も知らないし、知るつもりもなさそうであった。
注記するが、ジョシュア・エドワーズは“この面々の中で一番回復が早い”だけであって、現在も通院中。軍人として復帰するためのリハビリや特訓に勤しんでいる真っ最中であった。
その傍ら飯テロを行っているのだ。有難迷惑にも程があろう。
「うわぁぁぁぁん! メロン雑炊も、パインご飯もいやだよォォォォ! こんなの虐待だよぉぉぉぉぉ!」
親戚からの差し入れを魔改造された恨み節と、その際に味わった地獄がフラッシュバックしたのだろう。アキラが頭を抱えて叫んでいた。
文字通り、「なんてことをしてくれたのでしょう」である。普通に味わった方がおいしいとはこれいかに。
「ふくたいちょぉぉぉぉう! ふくたいちょぉぉぉぉぉぉう!! はやく、はやくかえってきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
アキラがわんわん泣き喚く。
“
それは、この場にいる全員の叫びであった。
クーゴ・ハガネの災難は続く。
【参考及び参照】
『逆に真似したい発想力!「メシマズ嫁のショッキングな料理」6つ 』より、『かき氷のいちごシロップで炊いた赤飯』、『白菜のチョコレートがけ』
『2ch』の『俺の愛妻弁当に同僚「ひっでえ卵焼きだな~、こういうのメシマズって言うんだろ?料理下手な嫁をもらった男はかわいそうだよな~」』より、『ジャムと刺身の入ったオムレツ』
『世界的に知られている10種類の「高価な食べ物」 - GIGAZINE』より、『でんすけすいか』、『夕張メロン』
『【メロン雑炊】嫁のメシがまずい111皿目【パインご飯】』のスレタイより、『メロン雑炊』、『パインご飯』