問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。




4.想像力が 足りないよ!

 

「貴方、『グラハムフィンガー』の人ですよね?」

 

 

 少女を口説きにかかったグラハムに向けて、女性は何やら恐ろしい爆弾を投下してきた。

 

 いつぞやの虚憶(きょおく)に感銘を受けたグラハムが技術班に『搭載してほしい』と強請(ねだ)っていた技だ。ユニオン軍内では有名な話である。

 しかし、流石に、一般人には広まっていない。広まっていたらいたで、軍の別方面が大惨事になる。機密関係や技術開発陣が過労死しかねない。

 少女を口説いていたグラハムが振り返って首を傾げる。グラハムから解放された少女は、猫のように全身を逆立てて彼を睨みつけていた。

 

 

「ああ。確かに、私が『グラハムフィンガー』の人だが」

 

「貴女は、どうしてその技名を知っているんですか?」

 

 

 生真面目な顔で回答をしたグラハムを遮るようにして、クーゴは女性に問いかけた。御空色(みそらいろ)の瞳が無機質にこちらを見返している。

 女性はぱちくり目を瞬かせ、蕾が花開くような笑みを浮かべた。神経を尖らせるクーゴとは完全に真逆の反応だったこともあって、なんだかこちらがバカらしくなってくる。

 

 グラハムを威嚇していた少女が女性の前に立った。相変わらず、けれど対象者をクーゴにかえて威嚇を続けている。

 

 彼女は女性の護衛役としてここにいるのだろう。見た目は確かに可憐な少女であるが、戦場を駆けてきた兵士を思わせるような殺気が漂ってきた。アンバランスな対比である。

 しかし次の瞬間、少女は再びグラハムから口説かれていた。切り替えの早さはグラハムのいいところだが、こんなときに発揮しなくていいはずだ。

 世間には『努力の方向音痴』という言葉があるが、奴の場合は『方向性が方向音痴』と言えるだろう。グラハム自身が真面目にやっているから、尚更タチが悪かった。

 

 

「乙女座の私には、キミとの出会いにセンチメンタリズムを感じずにはいられない!」

 

「はぁ!? 貴様は何を言っているんだ!?」

 

「ところで、キミは何座かな? 先程も言った通り、私は乙女座なんだ」

 

「俺は、牡羊座だ!」

 

 

 少女はほぼ反射的に返答した。意外と律儀なのかもしれない。可愛らしい外見とは裏腹に、彼女の1人称は「俺」である。より一層、彼女のアンバランスさが際立っているように思った。

 会話のキャッチボール、もといドッジボールが成立したことが嬉しかったのだろう。グラハムはぱっと破顔し、更に少女へ話しかける。ドッチボールは終わらない。剛速球が飛び交っている。

 グラハムが口を開けば、少女への熱烈な愛の言葉がぽんぽん飛び出してくる。こいつが女性を口説くときは、ひたすらひたむきにぶつかっていくタイプのようだ。

 

 

(どうしてこうなった)

 

 

 クーゴはがっくりと肩を落とした。先程までは心強い援軍だと思っていた。でも、今となってはトラブルをまき散らす張本人になり下がってしまっている。

 グラハム本人は無自覚だ。本当にどうしてくれよう。親戚関係以外で、これ程まで他人のフリをしたいを思ったことはない。こんなことになるなら、同行者を別な人間にすればよかった。

 

 

『想像しろ。それが出来なければ――』

 

 

 脳裏に浮かんだのは、口癖のように『想像しろ』や『想像力が足りない』と語っていた“とある私設機関”の長。

 

 彼は自分が率いる組織を用いて“人類の敵”として君臨し、人類に対して“死の恐怖”を教え続けようとしていた。人類の未来を憂うが故に、人類を愛したが故に、自分が一度滅びの過去(みらい)を目の当たりにしていたが故に、自らを犠牲にしようとしていたのだ。

 死に対する想像力を失ってしまった人類は、自滅スイッチの起動によって滅んでしまった。彼はその地獄を目の当たりにし、師から託されたことから、人類を救うために奮闘する。だが、彼の計画は恩師や嘗ての部下の思惑、そして、彼自身のジレンマによって迷走する。

 最終的には『俺も想像力が足りなかったか』と笑っていたけれど、その言葉を零したときの彼は、どこか晴れ晴れとしていて――ちょっとだけ、泣き出してしまいそうな顔をしていた。……さもありなん。“あれだけ”の奇跡でぶん殴られたのだから仕方なかろう。

 

 彼の口癖を思い出す。想像することが生に繋がるのだとしたら、想像することができなかった命の末路は何だったか。

 戦場を駆ける度に、クーゴは耳にしていたはずなのだ。――彼の言葉の先は、どのような文言で締めくくられていたんだっけ?

 

 

「陽気な人なんですね。『グラハムフィンガー』の人は」

 

「……あー、まあ、そうですね」

 

 

 声の方に振り向けば、女性は楽しそうにくすくす笑っている。彼女にとってグラハムは“『グラハムフィンガー』の人”という認識らしい。

 なんだか固有名詞みたいになってる、とクーゴが思ったときだ。女性はこてんと首を傾げて、言った。

 

 

「ところで、コラボ企画のお話をするんでしたよね? 夜鷹さん」

 

 

 クーゴは弾かれたように振り返った。女性は無邪気な微笑を浮かべている。

 

 再びクーゴは身構える。女性は相変わらず微笑んでいた。

 すべてを見透かされてしまっているような感覚に、得体のしれない薄ら寒さが走る。

 おまけに敵意は一切感じなかった。凪いだ湖面を連想させるような雰囲気が漂う。

 

 

「貴女が、エトワールさん、ですか?」

 

「はい。オフでは初めましてですね」

 

 

 女性――ハンドルネーム・エトワールは、ふわりと微笑んだ。薄緑の髪が風に吹かれ、さらりと揺れる。

 どこからともなく、爽やかな香りが鼻をかすめる。初夏に咲く花を思わせるようなそれは、クーゴにとって心地よいものだった。

 

 エトワールは屈託のない笑みを浮かべ、クーゴに向けて手を伸ばした。触れ合う手のひらが、妙に汗ばんでいるように思えたのは気のせいだろうか。

 ハンカチでしっかり拭いていればよかったと後悔したが、もう遅い。握手が終わり、互いの手が離れる。どこからどう見てもぎこちない動きだ。

 何か言わなければ。クーゴはそう思ったのだが、喉につかえてしまったかのように言葉が出てこない。どうやらエトワールも同じらしく、困ったように苦笑する。

 

 

「私、目が見えないんですよ。だから、あの子に補助を頼んだんですけど……」

 

「え……」

 

 

 クーゴは驚いて息をのんだ。目が見えないと自称するのに、エトワールの眼差しはまっすぐにクーゴを見つめている。

 声で場所を特定しているのだろうか。首を傾げたクーゴを見て、エトワールはふわりと笑った。

 

 

「でも、わかるんです。貴方がどんな顔をしてるかも、どんな服を着ているのかも、全部わかります」

 

 

 黒髪黒目の東洋人。濃紺の中折れ帽を被り、帽子と同系色で纏めた着物一式を身に纏い、帽子や着物と同じ色合いの和傘を持っている――。

 

 エトワールはクーゴの姿や格好を的確に言い当てた。本当に目が見えないのかと疑いたくなるほど正確だ。

 エトワールはじっとクーゴを見上げていたが、悲しそうに目を伏せた。今にも泣き出してしまいそうだ。

 

 

「すみません、気持ち悪いですよね」

 

「いや、そんなことはない。……すごいな、と思って」

 

 

 素直に感想を述べれば、エトワールはきょとんとクーゴを見返した。クーゴの言葉の意味を考えているようだ。

 そのすべてを理解し、彼女は安堵したように微笑んだ。春の陽気を思わせるような笑みに、クーゴもつられて微笑を浮かべる。

 

 後ろから、少女とグラハムのやり取りが聞こえた。声は鮮明なのに、何を言っているのか全然理解できない。

 

 風が吹いている。とても心地よい。空は快晴で、人々の行きかう声が賑やかに響いてきた。今日もこの街は今日も平和だ。

 自分は一体何を考えているのだろう。そう考えて、これは逃避だったと悟る。明らかに、自分の思考内容が無駄だからだ。

 

 

「ええと……」

 

 

 しどろもどろ。クーゴは現在、この単語がよく似合うような醜態をさらしている。こんなことなら、女性の対応について勉強しておくのだった。

 

 頼みの綱になる(?)はずだったグラハムは、少女を口説くので忙しい。

 いや、頼んだとしても、女性のあしらい方に特化しているタイプだから、アテにならなかった可能性もある。

 

 エトワールは苦笑しながら肩をすくめた後、クーゴと同じようにしどろもどろになりながらも、言った。

 

 

「こんなところじゃなんですし、移動しませんか?」

 

「あ、ああ」

 

 

 差し伸べられた救いの手に、クーゴは頷いた。確かに、こんな場所で立ち話をし続けるわけにはいかない。

 エトワールと夜鷹は、歌い手同士でコラボをするためにここに来たのだ。野外で録音などできるはずはない。遮音性の高い場所に行く必要がある。

 それに、クーゴは“エトワールと接触し、情報を引き出す”という目的もあった。

 

 状況は劣勢だ。先程のグラハムがバカ正直に本名を名乗ったせいで、エトワールに奴の情報が漏れてしまっている。「情報を相手に渡さぬようにしつつ、相手からなるべく多く情報を引き出す」必要があったというのに。

 潔すぎるのも問題だと思う。そこがグラハムの魅力であり、部下たちが惹かれる理由でもあるのだが。こういう奴だからこそ、クーゴも彼を憎めない。――たとえ、今まで/これからも散々振り回され、苦労を掛けられようとも。

 

 

「せっかくだし、少し話をしないか?」

 

「断る!」

 

 

 連れであるグラハムの方へと向き直る。相変わらず、奴は少女を口説いていた。

 

 いいや、口説く段階を超えて、デートを始めようとしている。

 彼がここに来た理由は一体なんだったんだっけ。クーゴは遠い目をしつつ、2人の方へ歩み寄った。

 

 

「こーら。お前は何しに来たんだ、このおばか」

 

 

 大きな息子を持った気分だ。少女の手を引いてどこかへ行こうとするグラハムを彼女をひっぺがしながら、クーゴは苦笑した。

 少女の目が訴えている。明らかに管理不行き届きだ、なんとかしろ、お前はこの男の保護者なんだろ? と。対して、グラハムは不満そうに口を曲げていた。

 第三者から見たら、“180cmの金髪イケメンが駄々をこねる子どものような顔をして、生暖かい眼差しを向けてきた169cmの東洋人を見下ろす”光景など、さぞかしシュールだろう。

 

 昔から親戚の子どもたちの子守をさせられてきたのだ。駄々っ子の相手には慣れている。

 グラハムはぶすっとした顔でクーゴを見返す。

 

 

「クー……夜鷹。キミは、キミの故郷で有名な故事を知っているだろう?」

 

「馬に蹴られる趣味はないが、友人が犯罪者になるのを傍観する趣味もないぞ」

 

「失礼な。私は()()何もしていない」

 

「おばか!」

 

 

 問題発言である。しかも、奴の目は「そんな道理、私の無理で押し通す!」と盛大に宣言していた。

 

 2人のやり取りを見ていたエトワールは楽しそうにくすくす笑っていたけれど、彼女のバックには“情報を自由自在に操れる”相手がいることを忘れてはならない。エトワールと同行していた少女が『グラハムにしつこく言い寄られて迷惑している』と訴えた場合、それがそのまま彼のスキャンダルとしてすっぱ抜かれる危険性があるからだ。

 『空への憧れから空軍のパイロットになった』と語っていたグラハムから現在の職業――空を飛び回ることを取り上げてしまったら、恐らく何も残らないだろう。彼はフラッグのパイロットであることを天職だと思っているし、長らく彼と共に戦場を駆け抜けていたクーゴでさえそう思うのだ。全てを奪われてしまった男は、一体どうなってしまうのだろう――?

 

 

<――《視せて》あげる>

 

 

 不意に、《聲》が《聴こえた》。か細い少女のものだった。

 覚えがある(覚えのない)――覚えのない(覚えがある)、誰かの。

 

 

<どうするかはキミ次第。……だから――>

 

 

 ――りぃん、と、音が響いた。

 

 刹那、急に誰かの声が聞こえてくる。

 厳格な響きを宿した、壮年の男の声だった。

 

 

『作戦は、ごく単純だ』

 

 

 何度目の“輪廻”だったろう。何回目の“世界”だったろう。途切れた旅路として終わったのか、運命を乗り越えたことができたのか、その答えは分からない。けれども確かに、“来るべき対話”の日、この声の主が戦術指揮をしていたことがあった。

 

 人類に対して侵略行動を続ける、外宇宙からの来訪者との最終決戦。“アレ”の侵攻をギリギリ許容できるギリギリのラインを突破されてしまえば最後、人類は“アレ”によって滅ぼされてしまう。言葉を介さず、人間を侵食し、こちら側の兵器類を驚異的なスピードで学習してくる手ごわい存在。

 そんな外宇宙生命体との泥沼戦争に光明を示せる機体があった。だが、その機体は最終調整の関係で、今この場にはいない。此度の作戦内容は2つの段階に分かれている。1つは、『“対話のための機体”がこの戦場に駆けつけるまで、絶対防衛権を死守する』こと。2つめは、『絶対防衛権を死守しつつ、“対話のための機体”が目的地に辿り着けるよう露払いをする』ことだ。

 “戦術指揮官はその作戦を復唱し、戦場で戦う者達へ檄を飛ばす”のが、アルティメット・クロスの通例にして恒例となっている。普段の“私設機関の長”も同じような調子で戦術指揮を行うことが多かった。――しかし、“来るべき対話”の戦いで、彼は少しだけ調子を変えた。

 

 

『いいか、地球が滅ぶ様を想像しろ』

 

『――今想像した光景を許せんのであれば、“外宇宙生命体”の防衛ライン到達を全力で阻止せよ!』

 

 

 彼は常日頃から『想像しろ』と口にしていた。『想像することが出来なければ死ぬ』とも語っていた。

 想像するという行為は、未来――特に、“自身にとって都合が悪い事象”と真正面から向き合うことを意味している。

 『破滅の未来を拒絶するのなら、そのために何をすべきか、何ができるかを考え続ける』――それもまた、1つの答えだったか。

 

 ――そうして、()()()()()()

 

 

『会いたかった……! 会いたかったぞ、■■■■ゥゥゥ!!』

 

 

 ガラスが砕けるような音と入れ違いに、虚憶(きょおく)が流れ込んでくる。

 聞き覚えのある、男の声。見覚えのあるユニオンフラッグ。

 

 

『いたか、我が愛しの■■■■よ!』

 

 

 フラッグは、白と青を基調とした機体に向かって突進する。この場には、他にも■■■■と銘打たれた機体が存在しているのにだ。

 いいや。このフラッグのパイロットにとっては、本当の意味で『愛しの■■■■』と呼べるものは、この機体だけだった。

 

 

『どれだけの■■■■が現れようと、私の心を射止めたのはキミ……。美しき光と共に、我が眼前に降り立ったキミだ!!』

 

 

 あまりにも単純明快な理由。しかし、パイロットにとっては、それこそがすべてである。

 同名の機体にふらふらしたのは、愛しの■■■■と呼べるこの青い機体が、彼が駆ける戦場にいなかったからだ。

 『彼、メロメロなんですよ』とは誰が言ったのか。聞き覚えのある声だったのに、それが誰なのか見当がつかない。

 

 戦場は変わる。砂漠の中から、大気圏内へと。

 

 異種生命体が牙を剥く。エゴまみれの人間に愛想を尽かし、彼らは侵攻を開始していた。遊撃部隊がそれを倒し、少年と少女の道を切り開こうとしている。

 そこへ乱入したのはやはりフラッグだった。■■■■と対抗できるカスタマイズを受けた2機のフラッグが、遊撃部隊ZEXISに攻撃を仕掛ける。

 

 指揮官機の狙いはただ1機。パイロットである男が恋い焦がれた、『愛しの■■■■』だ。

 

 そして、パイロットは盛大に宣言する。

 彼が■■■■に焦がれた理由を。

 ついに理解した、執着の答えを。

 

 

『この気持ち、まさしく愛だ!』

 

『愛……!?』

 

『愛ィ!?』

「愛ィ!?」

 

 

 そんな言葉が飛び出してくるなんて、誰が予想できるか。超展開にも程がある。

 

 虚憶(きょおく)の中で絶句したパイロットたちと一緒に、思わずクーゴも叫んでしまった。

 味方からもこんな反応をされているというのに、フラッグのパイロットは本気らしい。言葉を続ける。

 

 

『だが愛を超越すれば、それは憎しみとなる! 行き過ぎた信仰が内紛を誘発するように!』

 

 

 おかしい。もうこの時点で何かがおかしい。何がおかしいのか説明できないが、はっきりとそう断言できた。

 “彼”と同じタイプのフラッグを駆るパイロットは、愕然と“彼”の姿を眺めている。ついに恐れていた事態が起きた。

 薄々感づいていたのに。『彼』の副官として傍にいたというのに。自分は、その姿を眺めていることしかできなかったのだ。

 

 ZEXISとは一時休戦したはずなのに、“彼”は戦いをやめようとは思わなかった。そんな“彼”を心配して、自分はここまで来た。

 ■■■■を駆る“彼女”たちが問う。もう終わったはずなのに、と。自分もそう考えていた。だが。

 

 

『まだ何も終わっていない! 私とキミとの関係は!』

 

 

 “奴”はそう叫ぶなり、攻撃態勢に入る。

 

 副官が“彼”の名前を呼んだが、“彼”はもう振り返らなかった。『愛しの■■■■』と『彼女』へ向かって突き進む。

 それを間近で目にしたエウレカが身を震わせている。文字通り「ドン引き」していた。レントンがエウレカを励ます。

 こちらも同じ気持ちなのだが、エウレカとは違って励ましてくれる相手などいない。“彼”を止められない、出来損ないの副官には相応しい末路だろう。

 

 しかし、もう1機の乱入者が現れる。それに伴い、“彼”の進軍は止まった。

 そちらはレントンとエウレカの関係者のようだ。どうやら、異種生命体と世界滅亡の鍵はエウレカにあるらしい。

 

 男の誘いを蹴り、男と戦う。愛する少女のために少年は決断した。

 

 少年は少女を守り、少女は少年を信じる。若い2人が育む愛に、副官は胸を痛めた。

 本当ならば。若者たちと形は違えども、“彼”もそんな風に“彼女”を想うはずだったのに。想っていたはずだったのに。

 何を間違ってしまったのか、どうすればいいのかさえ、もうわからない。ハンプティ・ダンプティ。マザーグースの歌が頭を駆ける。

 

 

『彼はわかってるよ。愛を超越した憎しみの意味を』

 

『貴様もエゴに囚われた人間か……!』

 

 

 噛みしめるように“彼”は言った。“彼女”は険しい表情で“彼”を見返す。

 

 ならばどうする、と、“彼”は問うた。お前を討つ、と、“彼女”は答えた。

 それでこそだ、と、“彼”は笑った。それは間違ってる、と、副官は言えなかった。

 

 レントンとエウレカが男と激突する。それとほぼ同じタイミングで、“彼”と“彼女”も戦いを始めた。

 

 

『貴様は歪んでいる!』

 

『そうしたのはキミだ! ■■■■という存在だ!』

 

 

 その言葉に、“彼女”はひどく傷ついた顔をした。変わり果ててしまった“彼”の姿に、赤銅色の瞳が悲しげに揺れる。

 いつもは(本人曰く)愛の力で“彼女”の変化に目ざとく気付いていたのに、“彼”はもう、“彼女”の感情など見ようともしなかった。

 いいや、違う。変わってしまった“彼”にはもう気づけないのだ。“天使”を見ているが故に、“彼女”の心に気づけなくなっている。

 

 “彼”の頭の中にあるのは、“天使”を倒すという決意と意志。

 もう、それだけだ。それだけが、“彼”をこの凶行(きょうこう)に突き動かす。

 

 だから自分は戦うのだ、と、“彼”は叫んだ。お前も世界の一部だろうに、と、“彼女”は問う。

 ならばそれは世界の意志だ、と、“彼”は返した。違う、と、“彼女”は“男”の歪みを断じる。

 その歪みを“自分”が断ち切る、と、“彼女”は宣言した。よく言った、と、“彼”は笑った。

 

 こんなの間違ってる、と、副官は呟いた。その言葉は、2人のどちらにも届かなかった。

 

 

『……なんでだよ』

「……なんでだよ」

 

 

 やりきれなくて、副官が呟く。クーゴも彼と同じだった。

 

 クーゴの脳裏に、副官の想いがフラッシュバックした。“彼”と“彼女”の恋愛ごとに巻き込まれ、なし崩し的に仲人的な役回りをする羽目になり、走り回っていた日々。

 思えば、このときが一番楽しい時間だった。幸せな時間だった。平和の象徴、そのものの光景だった。なのに、どうして、こんな末路が待っているのか。

 

 

『俺は、認めないぞ』

 

 

 副官は操縦桿を握り締める。視線の先では、“彼”と“彼女”が戦っていた。

 

 

『こんなの、絶対に認めない……!』

 

 

 フラッグが赤い粒子をまき散らした。友人がチューンナップしてくれた、特別性のフラッグだ。これが搭載されているからこそ、自分や“彼”のフラッグは■■■■と対等に戦える。この推進性があれば、2人の間に割り込むことも可能だ。

 止めなければ。“友人”が間違った道を突き進もうとしているのを、黙って見ていることなんてできない。“奴”の暴挙を止めるのが、副官である自分の役目だ。だから――

 

 

「――やめろって言ってんだろうが、このおばかァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 クーゴは大声でそう叫ぶと、そのまま2人の方へと突っ込んだ。突然の乱入者に、グラハムと少女がぽかんとクーゴを見返す。

 

 会話のドッジボールは既に止まっていたらしい。だが、クーゴには息を荒くする理由もなければ、体にのしかかってくる疲労感の出所もわからなかった。

 もしかしたら、先程見た虚憶(きょおく)が原因だろうか。そう思ってグラハムを見る。ずきりと頭が痛んだ。また、虚憶(きょおく)がフラッシュバックする。

 歪んだ笑みを浮かべた男が見えた。彼の顔は、どんな顔だったか。特徴がはっきりしてきた。金色の髪に、翠緑の瞳。あの姿には見覚えがあった。

 

 目の前でこちらを見るグラハムの姿に、よく似ている。ぱちくりと目を瞬かせるグラハムと目があった。

 彼が、あんな歪んだ笑みを浮かべる? そんな姿、クーゴには全然想像できない。

 

 ――けど、それ以上に。

 

 そんな末路(みらい)を認めたくなかった。

 そんな未来(まつろ)しかないなんて、認めたくなかったのだ。

 

 

『いいか、地球が滅ぶ様を想像しろ』

 

『――今想像した光景を許せんのであれば、“外宇宙生命体”の防衛ライン到達を全力で阻止せよ!』

 

 

 そこでクーゴは思い至った。この虚憶(きょおく)が流れ込んでくる直前に聞こえた厳かな声と、声の主が語っていた言葉の内容を。

 

 彼は常日頃から『想像しろ』と口にしていた。『想像することが出来なければ死ぬ』とも語っていた。

 想像するという行為は、未来――特に、“自身にとって都合が悪い事象”と真正面から向き合うことを意味している。

 『破滅の未来を拒絶するのなら、そのために何をすべきか、何ができるかを考え続ける』――それもまた、答えの1つだったはずだ。

 

 

(それを許せないと思ったところで、一介の軍人でしかない、しかもグラハムに振り回されっぱなしの俺如きに、一体何が出来るんだろう……?)

 

「夜鷹さん」

 

 

 クーゴがそんなことを思案し始めた直後、エトワールにハンドルネームを呼ばれた。そこでようやく、自分たちが移動しようとしていたことを思い出す。

 怒涛の勢いで流れていった虚憶(きょおく)のせいで忘れていたが、今日は任務――エトワールとの接触と、コラボ企画についての話をするためのオフ会だった。

 

 エトワールが少女に目配せした。彼女は頷き、エトワールの傍に控える。その立ち振る舞いは、まるで姫を守る騎士のようだ。

 こちらもそれに倣い、グラハムの名を呼ぶ。彼はぼんやりと自分たちを見返していたが、ややあって、ぽんと手をたたいた。

 悩み事に対する答えを見つけた子どものような顔。あれ、と、クーゴは思った。なにやら嫌な予感がする。

 

 それは、見事に正解した。「そうか、そういうことか」と笑いながら、グラハムは再び少女を見た。少女は反射的に身構える。

 

 

「この気持ち……これが、愛……!!」

 

 

 あかん。

 

 クーゴは反射的にグラハムの首根っこをひっつかんだ。これ以上、こいつに発言させてはいけない。

 エトワールはくすくす笑い、少女が困り果てた顔でクーゴたちを見返す。本当に申し訳なかった。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 どうして、と、怒鳴り散らす《聲》が《聴こえる》。どうして、と、泣き叫ぶ《聲》が《聴こえる》。どうして、と、途方に暮れる《聲》が《聴こえる》。

 

 《聲》がした方向に視線を向ければ、先程撤退していったはずの加藤機関がこの場に戻ってきたところだった。彼を逃がした軍人が驚きの声を上げたのと、加藤のマキナ・シャングリラの一部から大きな爆発音が響いたのはほぼ同時。

 爆炎に紛れて姿を現したのは、最後のマキナを奪いにシャングリラへ侵入していた沢渡であった。沢渡は石神の指示通り、最後のマキナ“失われた名前”を奪取し、ファクターとして認められたようだ。上機嫌で作戦の成功を告げた沢渡は“失われた名前”を駆って大地へ降り立つ。

 

 次の瞬間、轟音と共に大地が揺れた。

 何かを合図するが如く、光が点滅を繰り返し、境界が歪み始める。

 

 

「これは……!?」

 

「デフォールド反応!? いや、もっと大規模な時空歪曲が……!」

 

 

 異変を察知したジェフリーの問いに答えたのはモニカである。彼女の分析から推測できたのは、()()()()()()()()()であることくらいだ。

 

 

『“未来”から送りこまれたマキナたちには、ある仕掛けがあったんだ』

 

『“現存する全てのマキナ”にファクターが生まれたとき、“あるコト”が起こるようにね』

 

 

 この戦いが始まる直前、石神が語っていた内容が脳裏をよぎる。あのときは加藤機関の来襲、沢渡のシャングリラ侵入、地球連邦軍の特務中隊らの乱入などが重なったせいで話を聞き出せなかった。

 石神から情報を引き出せなかったことが災いし、アルティメット・クロスたちは静観することしかできない。――だって今、この場で何が起きているのか、全く分からなかったから。

 謎のエネルギー反応を眺めることしか出来ないアルティメット・クロスに対し、石神が言いかけていた言葉の答えを告げたのは加藤だ。普段の厳かな口調とは一転し、覇気のない調子で口を開く。

 

 

「現存する全てのマキナにファクターが生まれたとき、“真のオーバーライド”が起こる……」

 

「オーバーライド……!?」

 

「それって、ラインバレルの連続転送のことじゃ……」

 

「違う……。オーバーライドとは、空間転移のコト……」

 

 

 ベベと咲良が知っているのは、アルティメット・クロス側が知るオーバーライドの定義だ。

 それに否を唱えたのは、加藤機関の幹部として相対峙してきたマサキ。

 

 

「あの歪曲した空間の向こう側は、月――即ち、“ヒトマキナ”の世界!」

 

「な、なんですとぉぉ!?」

 

 

 マサキから告げられた事実に、ウェストがすっ転びそうな勢いで悲鳴を上げた。普段はコメディリリーフ一直線であるが、頭脳は折り紙付きの天才である。彼は正しく、マサキから告げられた内容を理解できたのだろう。

 

 石神社長がやろうとしたことは、“ヒトマキナの本陣である月の内部とこの地球を繋ぐためのオーバーライドを引き起こす”こと。“現存するすべてのマキナ”にファクターが現れ次第、ヒトマキナは月と地球を結ぶ転移フィールドを作り出し、地球に攻め込もうとしていたのだ。

 加藤たちは“オーバーライドによるヒトマキナの侵攻”を止めるために活動していた。加藤機関が悪として君臨することで人類に“死の恐怖”を示し続けながら、マキナの確保や破壊を行いつつも、“現存する全てのマキナ”にファクターが出揃わないようにと奔走していた。

 

 どうして、と、怒鳴り散らす《聲》が《聴こえる》。どうして、と、泣き叫ぶ《聲》が《聴こえる》。どうして、と、途方に暮れる《聲》が《聴こえる》。

 信じていたのに。だから託したのに。どうして離れていったの。どうして裏切ったの。どうして何も教えてくれないの。どうして自分の努力を壊すような真似をするの。

 人類を守るためにはそれしかなかったのに。それが最良だと思ったから頑張ったのに。人類を守りたくて、だから戦ってきたのに。どうして、どうして――。

 

 

「――終わるのか……何もかもが……」

 

 

 悲嘆に満ちた《聲》が止んだ。加藤の口から零れ落ちたのは、絶望に暮れた諦めの言葉。

 そんな上司の姿を見て何を思ったのか、疑惑の渦中にいる男が不敵に笑う。

 

 

「――いいや! 始めるんですよ、加藤()()

 

 

 懐かしさと親しみが込められた声に、クーゴは思わず目を見開く。次の瞬間に《視えた》石神邦夫の眼差しは――ただ真っ直ぐ、加藤久嵩を見つめていた。

 

 

「人類がもう一度、自らの力で歩いていくために!」

 

「なに……!?」

 

 

 石神の言葉に目を見開いた加藤が、嘗ての部下を問い詰めようと口を開いた。だが、彼の二の句は紡がれることは無い。オーバーライドの発生を待っていたと言わんばかりに、とある兵器が動き出したためだ。

 “究極の混成部隊(アルティメット・クロス)”がまだ“知らず交差する撃鉄(アンノウン・エクストライカーズ)”だった頃――或いは此度の戦いが始まる前に起こった戦乱で目の当たりにした超巨大戦略ビーム砲。

 その一撃は、一瞬で多くの人の命を奪い去った。文字通りの破滅の光が、ヒトマキナが潜んでいるであろう月の中枢へと発射される。監視者の名目を謳う支配者どもに、鎮魂歌が贈られたのだ。

 

 

「あれは……レクイエムか!?」

 

 

 それを目視で確認し、クーゴは思わず声を上げた。前大戦で、ギルバート・デュランダル議長が地球に向けて討とうとしていた衛星兵器である。

 現在、レクイエムはオーブの所有する兵器となっている。ラクスやカガリらの意向を考えると、二度と撃たれることはないと思っていた。他の仲間たちも驚きの声を上げる。

 

 

「月が攻撃されている……!?」

 

「まさか……!」

 

「――そう! 最初からこれを狙っていたんですよ」

 

 

 中隊を率いていた軍人と、先程まで悲嘆に暮れていた加藤が大きく目を見開く。特に後者は、石神が何を考えて動いていたかを悟ったようだ。加藤が搭乗していたツクヨミは機体越しから、石神は旧JUDAの建物越しから、お互いをはっきり見つめていたのが《視えた》。本人たちの自覚の有無は分からないが、2人の視線は確かに交わされている。

 

 本来ならば、“月の内部情報はヒトマキナによって秘匿されており、地球側からでは本陣を発見することができなかった”。だから加藤はヒトマキナとの直接対決を諦めている。

 しかし、現在は真のオーバーライドが発生し、ヒトマキナが潜む月の内部と地球は次元歪曲によって“繋がっていた”。ヒトマキナ側が地球へ侵攻する扉が今、自分たちの目の前にあったのだ。

 地球と繋がったオーバーライドの反応を辿れば、秘匿されていたヒトマキナの拠点を発見することが出来る。一度拠点を見つけることが出来れば、あとは直接叩くのみ。

 

 

<ヒトマキナの本拠地を割り出して直接攻撃するために、“敢えて”真のオーバーライドを引き起こそうとしていたんだ……!>

 

<あー……。こんな腹芸をやり遂げるためには、ガードが固くなって当然ですよねぇ>

 

 

 石神の意図に気づいた百緑の“隼”と“異端審問官(3代目)”が納得したように頷く姿が《視える》。

 前者は石神の奇策を素直に感嘆し、後者は“同胞”の力を用いても踏み込ませなかった理由を察して舌を巻いていた。

 

 

「いやぁ~、上手くいって良かった良かった。これで連中は丸裸も同然!」

 

 

 丁度そのタイミングで、石神はネタ晴らしを終えたらしい。茶目っ気たっぷりに笑っている。その気配を察知し、クーゴは思わず苦笑した。

 石神がこういうノリを好んでいたことは何となく察していたけれど、今回のネタ晴らしはそんなノリでしていいものではない。

 怒涛の情報に頭を殴られ続けてきた加藤であるが、このネタ晴らしを経て石神の行動原理を理解したようだ。鋭く息を飲む音が響く。

 

 

「じゃあ、お前はマキナに降ったのではなく、最初から……!」

 

「だからあのとき、ちゃんと言ったじゃないですか。『安心して待っててください』ってね……」

 

 

 彼らの過去がフラッシュバックする。海軍士官として燻っていた石神に声をかけてきたのは加藤だった。彼から滅びの未来を告げられた石神は、彼と共に修羅の道を進むことを選択する。――その瞬間(とき)から、自分は加藤と同じ宿命を背負うことになるのだろうという予感を感じていた。

 想像力が足りない連中が起こした戦争を駆け抜けるにつれ、加藤は石神を心から信頼するようになった。背中を預けて戦いあえる相棒だと認めていたからこそ、彼に『ジュダのファクターになってほしい』と頼み、石神もそれを了承している。

 そのとき、確かに石神は言ったのだ。『安心して待っててください』と。彼の宣言は、あれからずっと長い時間が経過して、ようやくそうだと証明された。加藤がずっと知りたかった言葉の真意であり、石神が加藤に笑って伝えたかったであろう言葉。特に石神は、この日が来るのをずっと待っていたに違いない。

 

 日本には“敵を騙すにはまず味方から”という諺があるが、石神はそれを地でいく作戦を展開していた。

 最初から最後まで、石神はずっと加藤の腹心として《ここにいた》のだ。加藤から裏切り者と呼ばれても、ずっと。

 

 

「主君を裏切ってまでも、主君の大義を成就させようとするとは……。あれぞ、真の忠義! 真の武士道なのだな!」

 

「今は空気読んで黙ろうか」

 

「空気は吸うものだろう?」

 

「ああ言えばこう言う……」

 

 

 間違ってはいないけど、TPO的に脱線しかけたグラハムを制す。しかし、奴はきょとんとした様子で鉄板の切り返しをしてきた。

 はいはい外国人(おまえ)はそういうヤツでしたね、とため息をつきながらも、クーゴはふと浮かんだ疑問を口に出す。

 

 

「そういえばお前、大丈夫なのか?」

 

「何がだ?」

 

「武士道って単語」

 

 

 次の瞬間、グラハムの表情が凍り付いた。

 あ、と思ったときにはもう遅く、奴はちょっと困ったように笑っている。

 それが“務めて笑おうとしている”ことはすぐに分かった。

 

 

「……私に向けられたものでなければ」

 

「……ごめん」

 

「いいや、気にする必要は無いよ。キミには何の非もない」

 

 

 はっきりと言い切ったグラハムは、普段と変わらない笑みを浮かべた。

 本心からそう思っていると言わんばかりの、眩しい笑い方。

 

 

「寧ろ、私はキミに感謝すべきだろう。キミと“革新者”がいなければ、私は今、こうして空を飛ぶことは無かっただろうから」

 

 

 そう締めくくって、グラハムは石神と加藤に向き直る。何かを察した“革新者”の女性がグラハムに通信を入れたようだが、奴の意図なのか、クーゴがそれを《聴く》ことはできなかった。閑話休題。

 

 

「石神、お前は……!」

 

「さぁて、話の続きはまた今度にしましょう。――レクイエムの一撃だけで殲滅できる程、ヒトマキナは甘くない」

 

 

 石神は加藤の言葉を遮るようにして注意を促した。その言葉の正しさを示すかのように、再びオーバーライドが発生する。

 満を持してと言わんばかりに地球へ降り立ったヒトマキナ。月に潜んでいた監視者の姿が、人類の前に晒された。

 

 

「な、なんだよ、あれは……!?」

 

 

 2代目“狙い撃つ成層圏”が、奴を見て情けない声を上げた。

 

 

「め、めっちゃデカイ赤ちゃんやん!」

 

 

 シズナが口元をわななかせる。

 

 

「どっちかというと、『赤さん』表記の方が相応しそうなナリだな……」

 

「ああ、まさに外道な方の……」

 

 

 クーゴがぼやき、“理想への憧れ”も同意した。『赤さん』とは、満面の笑みを浮かべた赤ちゃんが「まさに外道」な発言をしている画像を指す。

 その答えに「正解!」と宣言するかのように、ヒトマキナが咆哮した。すさまじいエネルギーが吹き荒れる。

 

 次の瞬間、連邦軍の特務中隊が一瞬で吹き飛んだ。奴等の攻撃から生き残ったのは、中隊長とその副官が操る機体。断末魔の悲鳴を残して爆発していく部下たちの機体を目にし、中隊長が悲痛な声をあげた。

 

 なんて破壊力だ。おまけに見た目が赤ん坊のため、人間である自分たちにはとてもやりにくい。それが月に陣取るヒトマキナたちの狙いなのだろう。

 案の定、仲間たちは躊躇っているようだった。アルティメット・クロスの面々を鼓舞するように、JUDAに抑留されていたジャックとレズナーが激励を飛ばした。

 戦場に現れた彼らの姿に、マサキが驚きの声を上げる。石神の手引きでここに来たであろう2人は、石神から聞いた真実を告げる。「自分たちの敵は同じだ」と。

 

 

<敵は、同じだと……?>

 

<――マサキ>

 

 

 この場で一番動揺し、困惑していたのはマサキだった。そこへ、石神からの通信が入る。2人の会話が《聴こえてきた》。

 

 

<理由はどうあれ、お前を1人にしてしまったコト、本当に申し訳なく思っている>

 

<! 石神、さん……>

 

<でさ、謝ったついでで悪いんだケド、『お前に預けていたモノ』も返してもらうよ>

 

<僕に……預けていたモノ……?>

 

 

 マサキが首を傾げた姿が《視えた》次の瞬間、戦場に新たな戦士が降り立つ。

 

 

「俺は加藤機関、私設部隊一番隊隊長・石神邦夫! ――参る……!」

 

 

 “裏切り者”の名を冠した機体は、ヒトマキナの群れへと突っ込んでいく。文字通りの獅子奮迅っぷりを披露しながら、次々とヒトマキナどもを屠っていった。

 だが、アルティメット・クロスの面々は動けない。何故なら、戦場で名乗りを上げた石神が自分のことを『加藤機関、私設部隊一番隊隊長』と名乗ったためである。

 加藤機関はアルティメット・クロスの敵である。シズナや山下、美海らは特に、「石神は自分たちの敵になったのか」と困惑しているようだ。

 

 そんなことはない、と。

 クーゴが叫ぶよりも先に、仲間たちを一喝した者がいた。

 

 

「なに言ってるんだよ! 俺たちの本当の敵は、目の前にいるじゃないか!」

 

 

 浩一の言葉に、仲間たちはハッとした様子で彼を見た。そして、強い決意を宿した眼差しでヒトマキナを睨みつける。

 仲間たちが真の敵を見出したのを確認した彼は、呆然としている加藤へ呼びかけた。

 

 

「加藤、お前はどうするんだ!? こんな状況でも、まだ俺たちと戦うって言うのかよ!?」

 

 

 加藤は動かない。自分がしてきたことの間違いや、彼の恩師の言葉の意味を突きつけられて悩んでいるのだろうか。その憂いは、次の瞬間には拡散していた。

 本当に倒すべき敵を見出した加藤は、アルティメット・クロスの面々を見て頷く。強い意志を秘めた視線は、寸分の狂いもなくヒトマキナを射抜いていた。

 

 

「加藤機関、全隊員に次ぐ! これより我々は、全力でアルティメット・クロスを援護する!」

 

 

 王道展開とはこのことを言うのだろう。仲間たちが驚きと喜びに沸く中、クーゴは場違いなことを考えている自覚はあった。

 「ナイスな展開じゃないか!」と浩一が笑った。正義の味方に憧れる彼らしい台詞である。その若々しさと熱い思いが、運命を切り開くのだろう。

 加藤機関の面々が戦術フォーメーションを組む。動いたのは、彼らだけではなかった。その場に居合わせていた中隊の生き残りもまた、ヒトマキナ掃討のために手を貸してくれるらしい。

 

 この場にいる誰もが、戦うべき敵を見つけ出した。

 しかも、その敵は同じ相手。協力しない手はない。

 

 

「みんな、行くぞぉぉぉぉっ!」

 

 

 “究極の混成部隊の指揮官”の号令に従い、アルティメット・クロスの面々が飛び出していく。

 

 “革新者”の女性に続いてグラハムが空を翔る。ならば自分は、と、クーゴは振り返った。純白の機体越しに、“理想への憧れ”と顔を合わせて頷く。

 飛び出したクーゴのMSに続き、白い機体も空を駆る。システムを起動した彼女の機体の周囲に、美しい光輪が出現した。

 大丈夫。もう、自分たちは視線を外すことはない。加藤も石神も、“究極の混成部隊の指揮官”と“特務中隊の隊長”も、確かに同じ場所を見ていた。

 

 操縦桿を握る手に力を込める。グラハムと“革新者”の連携の間を縫うようにして、クーゴも“理想への憧れ”と共に戦場を駆けた。

 狙うは人類を監視するヒトマキナたち。これ以上、奴らの好き勝手にさせてたまるものか。

 

 

「さぁて、奏でてやろうヒトマキナ! お前たちへの鎮魂歌(レクイエム)を!!」

 

「そして、私たちの勝利をもって、明日への凱歌を歌いましょう!」

 

「いいなそれ! 約束だ」

 

「はい! 夜鷹とエトワールのコラボです。張り切っちゃいます」

 

 

 クーゴと“理想への憧れ”は笑い合い、ヒトマキナへ攻撃を仕掛けていった。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

「……その結果が、これなのかい?」

 

 

 コラボ企画の曲を聞き終えたビリーは、何とも言い難そうな顔で問いかけてきた。クーゴはこめかみを押さえてため息をつく。

 

 

「そんな目で俺を見ないでくれ、ビリー」

 

「キミとの逢引が無理なら、恋文を贈らせてもらおう! この想い、メールに乗ってキミに届け!」

 

 

 グラハムはそう言って、端末のボタンを押した。ピロリン、と、送信を告げる音が響き渡る。

 相変わらず大仰なリアクションだ。恋は盲目と言うが、奴の場合は所構わず迷惑をかける方向に走るようだ。

 毎日連絡を欠かさないらしく、最低でも1日1回はメールを送っているとのこと。稀に返信が来るようで、その度に大喜びではしゃぐ。

 

 クーゴはため息をついた。この1週間で、何度ため息をついたのか思い出せない。

 

 グラハムの声をなるべく遮断しビリーの声を聞きとるため、クーゴは片耳にのみイヤホンをしている。BGMはエトワールと夜鷹がコラボした歌だ。

 虚憶(きょおく)の情報はきちんとまとめてある。彼女と共に歌った動画からは、普段よりもより鮮明に虚憶(きょおく)の情報を拾い集めることができた。

 

 

「『俺も想像力が足りなかった』か」

 

 

 この歌から拾える虚憶(きょおく)で、一番印象に残っている言葉だ。

 

 認めよう。この事態を想像できなかったクーゴには、想像力が足りなかった。グラハム・エーカーは、常に予想の斜め上をかっ飛んでいく男だと知っていたはずなのに。

 しつこくてあきらめの悪い男だと、長年の付き合いで熟知していたはずだった。自分はまだ、彼のことを知っているようで知らなかったらしい。

 

 

「“エトワールと一緒に歌を歌った場合、映像媒体からでも虚憶(きょおく)を見ることができ、かつ、他者にもヴィジョン共有させることができる”となると、上は死に物狂いで彼女を探すんだろうね」

 

 

 ビリーは苦笑した。クーゴも肩をすくめる。

 

 

「その度に、ユニオン軍は何かしらのスキャンダルをすっぱ抜かれるんだろうな」

 

「上層部が過労死するのは時間の問題かも。この前も『教えてくれごひ。我々はあと何回、謝罪会見を開けばいい?』って、虚空を見ながら問いかけていたから」

 

 

 エトワール、あるいは彼女についている後ろ盾がやりそうな気がする。満身創痍の上層部も、新たなスキャンダルの出現を心配しているようだった。

 最近、やっとこさ軍のイメージを回復してきたところなのだ。同じことをして、またダメージを喰らうなんて御免こうむる。

 クーゴが上層部の人間だったとしても、同じ決断を下すだろう。悩みに悩みぬいてのことだろうが。

 

 彼女のおかげで、虚憶(きょおく)から情報を集めやすくなった。研究員たちが嬉しそうにデータをまとめる姿を思い浮かべ、クーゴは微笑む。

 端末へと目を落とす。エトワールが送ってきたメッセージが表示されていた。『先日は楽しかったです。またコラボしましょう』というものだ。

 

 次はどんな曲を一緒に歌おうか。自然と浮足立ってくる。

 

 ふと顔を上げれば、グラハムとビリーが生暖かい眼差しを向けていた。まるで、保護者が息子の様子を見守っているかのようだ。

 ビリーがクーゴにそんな眼差しを向けるなら理解できる。だが、自分より年下で「年齢+歳児」という言葉が似合うグラハムに、そんな眼差しを向けられるのは納得できない。

 しかも奴は、つい数分前まで絶叫しながらメールを送っていた男なのだ。なんだか自分が負けたような気がする。クーゴがむっとしたとき、端末が鳴り響いた。

 

 差出人はエトワール。途端に、ビリーとグラハムが端末を覗き込んできた。

 今度のオフ会に関する相談内容である。どうやら、次のオフ会にも、グラハムが想いを寄せる少女が同行する予定だそうだ。

 

 

「おお……!」

 

 

 グラハムが目を輝かせた。

 

 

「運命の女神は、私に味方してくれるようだ! クーゴ、次のコラボは!? オフ会はいつだ!?」

 

「お前……」

 

 

 クーゴはげんなりと顔をしかませた。またため息が出る。

 やれやれ、と、ビリーも肩をすくめた。本当にしょうがない。

 

 

「グラハムは、運命の女神さまに愛されているんだねぇ」

 

「俺は貧乏神に好かれてるみたいだけどな。とんだとばっちりだよ」

 

 

 端末に向き直ってメールを打つグラハムの背中を見つめて、クーゴとビリーは苦笑した。

 

 おそらく、また件の少女にメッセージを送るんだろう。彼女も大変だ。こんな変人に好かれてしまうだなんて。

 その一端を担ってしまったことに罪悪感を抱えつつも、クーゴにはどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、AEUは豪気だよ。人革の10周年記念式典に、新型の発表をぶつけてくるんだから」

 

 

「……なんだ? あの機体」

 

(あれは、見覚えがある。……どこで?)

 

 

「そうか、虚憶(きょおく)……!」

 

 

「失礼!」

 

「な、何を……」

 

「失礼だと言った!」

 

「言えばいいという問題じゃないだろう。ああ、連れが申し訳ありません」

 

 

「――ガン、ダム? あのMSの名前か?」

 

 

 『はじまり』の日が、刻々と近づいてきていることを。

 

 

 

 

 

 

 

「キミの親戚が取り扱うキモノはすごいな! どうだ、似合うか?」

 

「ああ。意外と派手な色が似合うんだな、お前って」

 

「意外とは何だ、失礼な」

 

 

「この陣羽織なんかいいんじゃないか?」

 

「うむ、気に入った! 購入だ!」

 

 

(…………でも、この陣羽織、どっかで見たことあるなぁ)

 

 

 

 

「キミの親戚の店で売っていた、この仮面に惹かれてな。つい衝動買いしてしまったよ!」

 

「へぇ。顎まで隠すタイプと目元だけのタイプ、2種類か」

 

「どちらも精巧な出来だ。惚れ惚れするな……」

 

 

(…………あの仮面、どこかで見たことあるんだよなぁ)

 

 

 何かのフラグが着々と立っていることを。

 

 

 

 

 

 

 

「この力は、大切な人たちと《分かり合う》ためのものなんだ」

 

「だからキミたちは、こんな方向に進化したんだな」

 

「“来るべき対話”のために、人を革新させようとする貴方と似たようなものでしょ?」

 

「ははははは。そんなぶっ飛んだ考えを持つキミが好きだよ」

 

「奇遇ね。私もそんな貴方が大好きよ、イオリア」

 

 

「よし。じゃあ、今日も愛を育むことにしようか」

 

「オーライ! 出撃準備に取り掛かる!」

 

 

 

「…………お願いだから、騒音対策をきちんとしてほしいんだけど」

 

「諦めろリボンズ。あの2人、既に自分たちの世界に入ってるぞ」

 

「キミもそのつもりでいるんだろう? レイ。キミの妻が部屋でスタンバイしてるのを見かけたよ」

 

「何を当たり前のことを言っているんだ。当然だろう。じゃあ、妻が待ってるから、これで。――E.A.レイ、いきまーす!」

 

 

 

「…………これが、『リア充爆ぜろ』という感情か」

 

「腹が立ったから、とりあえず明日は嫌がらせに赤飯を炊こう。そして、『目指せ、実子で野球チーム結成』『あと■人』って垂れ幕垂らしてやるんだ」

 

「あのバカップル夫婦2組は、どんな顔をするのかな? 想像するだけで楽しみだよ。……ふふ、フハハハハハ!」

 

 

 遠い日に、こんなやり取りがあったことを。

 

 

 

 

 

 

「『またどこかで出会ったとき、彼女に胸を張れるような人間になる』のが、目標かな」

 

 

「『またどこかで出会ったとき、彼に胸を張れるような人間になる』よう、努力を続けるつもりでいます」

 

 

 

 “夜鷹(クーゴ)”と“エトワール(イデア)”は、互いにとって《運命》であったことを。

 

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は、ここから始まる。




【参考および参照】
『日本の伝統色』より、『御空色(みそらいろ)
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