問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
13.この小説は2023年の9月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
国連軍が編成されつつあった頃の話になるが、休暇を取ったグラハムは刹那と共に過ごしていた。
GNフラッグの調整と国連軍の編成が終われば、ソレスタルビーイング――及び、彼女たちに与する異邦人集団“神聖なる実行者”の殲滅作戦が開始されることだろう。次に自分たちが会うのは戦場になる。戦いの行く末がどうなるかは分からないが、場合によってはこれが最後の逢瀬になりかねない。
グラハムは敢えて何も言わなかった。恐らくは刹那も、グラハムと同じ選択をしたのだと思う。これから行われるであろう最終決戦については何も言わなかった。『どう過ごすか考えていなかった』と零した少女から向けられた眼差しに込められた祈りは、自分と同じものだった。
『俺は嘗て、少年兵として戦っていたことがあるんだ』
逢瀬の最中、刹那はぽつりとそう零した。
グラハムが育った施設跡を、彼女に見せたときのことだった。
いつか聞いた少女の慟哭――その中核となる、過去の断片。
『俺の故郷やその周辺国には複数の宗派があり、時折、宗教由来の小競り合いが頻発していた。それでも、概ね平穏だったんだ』
『当時の俺にとっても、宗教由来の小競り合いは対岸の火事でしかなかった。慎ましやかな生活を営むことに関しては、何の問題もなかった』
『あるとき、俺の故郷にとある傭兵団がやって来た。……その頃からだ。宗教由来の小競り合いが、本格的な宗教紛争へと変わったのは』
少女の手が震えていたことを知っているのは、きっとグラハムだけだろう。
彼女も、自身の過去に対峙する際のトラウマに気づいている様子はなかったから。
『傭兵団の長は人々に『神のために戦え』と説いて回った。けれど、大人たちは傭兵の言葉に不信感を抱いて離れるか、或いは無視を決め込む者ばかり。俺の両親もその中の1人だった』
『奴が次に目を付けたのは、子どもたちだった。『神のために戦おうとしない大人たちは不信仰者である』と説き、『神を信仰する真の戦士であるならば、不信仰者を打ち倒せ』と訴えた』
『多くの子どもたちが、奴の言葉を信じ、賛同し、戦士になることを選んだ。……俺も、その1人だった』
自分の罪を吐き出すように、刹那は重々しく言葉を紡ぐ。
瞬間、グラハムは《視た》。中東の民族衣装を着た幼い少女を抱きしめ、慈しんでいた2人の男女――おそらくこの2人が刹那の両親なのだろう――を、機関銃を持った
いや、あれは
子どもたちの背後に佇む男の姿を《視て》、グラハムは思わず息を飲んだ。いつかの戦場で遠巻きに見かけた、焼野原を抱く無精ひげの傭兵――アリー・アル・サーシェス。或いは、国連軍の関連情報で見かけたAEUの軍人――ゲイリー・ビアッジ。恐らくは、どちらも本名ではないのだろう。
刹那を含んだ子どもたちの多くが、奴の言葉を鵜呑みにして――或いは奴の甘言に乗せられるような形で、少年兵に仕立て上げられた。彼を信じた多くの子どもたちが、奴の望む“戦争”を引き起こすための手駒として使い潰されていった。数多の屍が積み上げられているというのに、奴はその上で愉しそうに笑っている。
奴のやり口は、少年兵を効率的に生み出すためのやり方そのもの。子どもを巧みに洗脳し、扇動し、自らの手で帰る場所を――家族や故郷を破壊させることで退路を断つ。時には見せしめで仲間の少年兵を殺したり、少年兵同士で潰し合いをさせることで、心理的な孤立を誘発させるのだ。そうやって雁字搦めにする。
グラハムがサーシェス/ビアッジとやらのやり口に憤りを感じていたとき、刹那がグラハムに向き直った。彼女は真っすぐこちらを見つめる。
『俺には、叶えたい理想があるんだ』
『いつになるかは分からない。そんな日が来ると言う目途も立っていない』
『会ってほしい人も、見せたい景色も、もう何1つすら残っていない。けれど――』
刹那は震える声で言葉を紡ぐ。その度に、彼女の“在りし日の故郷”と“愛していた人々”の光景が《視える》。
慎ましくも平和な街と、そこで優しく微笑む彼女の両親。そうして――廃墟と死体で彩られた地獄絵図。
生まれ育った故郷にはもう、自分が還りたいと願う光景は何1つとして残っていない。
会いたいと思う人々も、“在りし日の故郷”を知る人々すらも、もうどこにもいないのだ。
それでも、思いを馳せずにはいられない。足を運んでしまうのは、きっと――
『“いつかすべてが終わって、その理想を成就することができたら”……一緒に来てほしい場所があるんだ』
過去を語りたがらない少女が、忌まわしい過去を抱える少女が、それを話してくれた。彼女なりに、グラハムに対して心を開いているという証なのだろう。グラハムが故郷の跡地に彼女を連れてきたのと同じ理由なのだ。だから、2つ返事でその言葉に頷いた。
『……昼間、俺が“嘗て少年兵として戦っていたことがある”という話をしたな』
逢瀬の最中、刹那がぽつりとそう零した。
彼女をベッドに組み敷いたときのことだった。
『俺の故郷では、今の俺と同年代の少女たちを“成人女性”とみなす風習があった。あの地域で信仰されていた宗教の教義が、その由来になっている』
『少年兵に志願した子どもの中には、今の俺と同年代の少女もいてな。彼女たちは時々、俺たちを洗脳した傭兵団の長やその取り巻きに呼び出されることがあった』
『当時の俺は、それが“神への信仰を示すための儀式”としか聞かされていなかったが……』
『――今なら、“あの場で何が行われていたのか”分かった気がする』
<堅物な“武士道”サマが、あんな痩せっぽっちのガリガリな女がお好みとはな! アンタも随分奇特な趣味を持ってンじゃねえか!!>
頭をぶん殴られたような衝撃に、手が止まった。途端に自分が悍ましいものに成り果ててしまったような気がして、反射的に離れようとした。
サーシェスが楽しそうに嗤う《聲》が《聴こえた》ような気がして、到底許せぬ悪鬼外道と同じ振る舞いをしようとした己を許すことができなくて。
それ以上に――“そんな化け物から、一刻も早く、刹那を逃がしてやるべきだ”と考えた。ろくに頭が回らない中で、咄嗟に出した答えだった。
なのに、刹那は。
グラハムに手を伸ばして、そして――拙く口づけてきたものだから。
『この世界には、神はいない』
『だが――この世界には、あんたがいた』
『だから、何も恐れていないし、悲しんでもいない。……大丈夫だ。俺は、あんたの心を信じている』
そんな風に言って、ふわりと微笑んだものだから。
<こんなにも幸せで、良いのだろうか>
<……せめて、同じくらいは、あんたを幸せにしてやりたい>
<――愛してる>
そんな風にグラハムを想って、拙くも健気に応えてくれたものだから。
全身全霊を懸けて愛し合って。
夜明けが来るその瞬間まで、傍に居たのだ。
それを許してくれた少女に報い、応えたいと願ったから。
***
機体の残骸や小惑星デブリを縫うようにして全速前進。
赤い粒子をまき散らしながら、2機のフラッグが
本来なら万全の状態で目的地に向かいたかったのだが、“ちょっとしたアクシデント”に巻き込まれてしまった。機体の現状は損傷軽微、戦闘を継続・続行するのには問題ないレベルである。
……いや、これくらいが丁度いいのかもしれない。何故なら、自分たちが決着を付けようと思っている相手の状況は不公平極まりない――“あまりよろしくない”だろうからだ。
何せ、相手は“神聖なる実行者”――その中でも、国連軍の本命はソレスタルビーイングだ。数多の並行宇宙から集った“神聖なる実行者”といえど、基本は少数精鋭。相手は疲弊していることだろう。
「逢瀬の約束をしておいて、まさか遅刻してしまうとはな……!」
「そういうときは素直に謝って、状況を説明するんだよ。許してもらえるか否かは別問題だけど」
苦々しい顔をして飛ぶグラハムに対し、クーゴは肩をすくめながら諫める。
「だから言ったんだ。『トラブルは俺1人で何とかしておくから、お前だけでも刹那の元へ行け』って」
「
「我慢弱いくせによく言うよ。本当は『今すぐにでも刹那の元に行って決着を付けたい』と思っているくせに。もっと言えば、『遅れてしまったことで大分テンパッてる』んだろ?」
「顔に書いてあるんだよ」と言ったクーゴは呆れたようにため息をついた。それは紛れもない事実なので、グラハムも押し黙らずを得ない。1歳差だろうと年の功か、或いは日本人の“空気読み”文化か。
そういうところが、グラハムが彼をヒトとして信頼する理由なのだ。グラハムの考えをきちんと理解してくれて、時には梅雨払いを買って出てくれて、こちらの無茶を通すために力を貸してくれる。
ついつい頼ってしまうし、相手もそれに応えようと最大限の努力――或いは無茶を張り通してしまうため、そこそこしっぺ返しは喰らっているが。閑話休題。
「……しかし、よもや、キミの甥が戦場に駆り出されているとはな。どこをどう見ても齢1桁の子どもだと言うのに、何故軍に出入りすることができたのか……」
「姉さんが手を回したとしても、誰かしら違和感に気づくだろう。それなのに、“誰1人として、年齢が1桁の子どもが国連軍として参加していることに異を唱えない”ということは――」
「――“戦場に子どもが駆り出されているという事実やそれに伴う違和感を、
刹那を探して宇宙を駆ける傍ら、グラハムとクーゴは先程出会った少年――
国連軍が主力として使うジンクスとは違う機体で、所属は不明。識別コードは
パイロットである宙継は戦うことへの拒絶の意を示していたのだが、何者かの介入によって機体が暴走し、グラハムとクーゴに襲い掛かって来たのである。それから紆余曲折あってCenturio-Auxiliaesの暴走を止めることに成功し、戦場からの離脱するように声掛けをしてきた。その際、宙継という少年から“彼を戦場に送り込んだ『母親』”――刃金蒼海の話を聞いたのだ。
刃金蒼海はクーゴの双子の姉であり、彼のことを蛇蝎の如く嫌っている。予てより、グラハムはその事実を知っていた。蒼海がクーゴに憎悪を剥き出しにしている姿は、今まで何度も見てきたから。
ただ、最近はクーゴ以外にも、“神聖なる実行者”――その中でも特に刹那・F・セイエイに対して苛立ちを募らせている様子を目にしている。“邪魔者扱いしている”と言っても間違いではない。
勿論、予てから蒼海の言動は気にしてはいたものの、グラハムは腹芸が得意な人間ではなかった。故に、“嫌な予感を覚えているが、まともな対策が練られていない”という状況である。
(……不甲斐ない話だ。キミの
“ソレスタルビーイングを討て”――それが、国連軍のパイロットたちに与えられた命令だ。同時にそれは、世界の人々がソレスタルビーイングに対して抱いた望みであり、“世界の総意”そのものである。多くの人々はそれを疑っていないし、その主張を続けていた。
普通に考えれば、そうなのだろう。けれどグラハムは《識っている》。『みなが信じる“世界の総意”は、何者かによって作り上げられて統一させられた歪みでしかない』ことを。歪みのいびつさを《識っている》のに、正し方が分からぬままにここまで来てしまった。
(唯一出来ることは、“我々が望む明日のために、キミとの決着をつける”ことのみ)
<――まだ、あれだけの数が……! それに、あの機体に乗っているのは……>
操縦桿を握りしめる手に力がこもる。そのとき、不意に、刹那の《聲》が聞こえた。同時に、彼女が駆るガンダムが、ジンクスとは違う機体に取り囲まれている光景も《視えた》。
ガンダムを取り囲む機体の特徴は、白と紫のカラーリングとモノアイに4枚の翼。天使をモチーフにしたソレは、先程出会った宙継が搭乗させられていた機体――Centurio-Auxiliaesとよく似ている。唯一の違いは羽の枚数だ。
刹那はCenturio-Auxiliaesとよく似た機体に誰が乗っているか気づいたらしい。それに応えるように声を上げたのは、いつぞやの偽物に搭乗していた子どものパイロットたち。宙継の兄にあたる者たちであろう。
奴らは楽しそうに嗤いながら、世界の歪みを広げていく。
『母親の邪魔をするものはみんな潰す』と息巻いて。
『自分たちの任務は、刹那を
<まずは手始めに、エクシアを破壊するんだっけ?>
<『刹那・F・セイエイの生死は問わないけど、生け捕りにした方が
<『母さん』、“刹那・F・セイエイの
<あの女の故郷では、16歳くらいで“大人”扱いされるんだっけ>
<僕たちは肉体的にまだ子どもだから、『本格的に
無邪気な調子で語る子どもたちの会話は、声色に反して何処までも悍ましい。それは刹那にも聞こえていたようで、彼女は顔を真っ青にして鋭く息を飲んだ。間髪入れずに《視えた》のは、サーシェスとその取り巻きに呼び出された少女たちの姿だ。背格好的に今の刹那と同年代。少女たちは大人たちと共に部屋の奥へと消えていく。
幼い刹那が慕っていた姉貴分に当たる少女は、その翌日に自爆テロを起こして死んでいる。その数時間前、彼女は幼い刹那に対して『もう無理だ』と言って泣いていた。体に刻まれていた傷跡と鬱血痕、はだけて薄汚れた男物の民族衣装が、彼女が直面し耐えきれなかった地獄の断片を彷彿とさせていた。
彼女が慕っていた姉貴分と同年代の少女は、サーシェスやその一派から頻繁に呼び出しを受けていた。呼び出される度に彼女は情緒不安定になり、最期は戦場のど真ん中で気がふれてしまい、不用意に動いてハチの巣にされた。部屋から微かに漂う香の正体とその用途を、当時の刹那は最後まで気づかないままだった。
何かに縋るようにして、刹那が強く操縦桿を握りしめたのが《視えた》。彼女の意識には、この前の休暇の光景が断片的に瞬く。
けれどそれも一瞬のこと。刹那は眦を吊り上げ、勝機を探す。赤銅色の瞳に宿るのは、“望む未来を手に入れるために戦う”という強い意志。
天使の姿をしただけの化け物が、悍ましい悪意を振り上げて刹那とガンダムへ迫って来る。それを《視て》いて、黙っていることなど出来るはずがない。グラハムは思わず《叫んでいた》。
<――貴様らのような悍ましい下郎が、彼女に触れるなァッ!!>
<な、なんだァ!?>
<機体に異常!? なんでこんなときに!?>
<さっきまで何も問題なかったはずだろ!?>
<ガンダム……! みんな……!>
<各機、エクシアを守れ!>
Centurio-Auxiliaesとよく似た機体とMDの動きが鈍ったのと、“神聖なる実行者”の別動隊が刹那のガンダムの救援に駆け付けたのはほぼ同時。
彼らは刹那のガンダムを守りながら、Centurio-Auxiliaesとよく似た機体と、同型のMDの群れを適宜撃退していく。
程なくして、“神聖なる実行者”は奴らを壊滅まで追い込んだ。悍ましい会話を繰り広げていた子どもたちは、悪態と共に宇宙域を離脱していくのが《視える》。
そのタイミングで、国連軍側から撤退の指示が出た。開示された戦況の情報を見るに、国連軍のジンクスはほぼ大破か中破。戦線を保つことは不可能である。戦いの軍配は、ソレスタルビーイングと“神聖なる実行者”に挙がった。
勿論、ソレスタルビーイングも無事では済まない。刹那の機体以外のガンダムは、軒並み戦闘不能に追いやられているようだった。後から駆け付けた“神聖なる実行者”の援護がなければ全滅していたとしてもおかしくなかっただろう。
「どうする? ――上からは“自力で帰れるなら帰ってこい”と命令が出てるけど」
「愚問だな。本懐を果たしていないのに、帰れるはずがないだろう」
「……だろうと思った」
クーゴは苦笑したが、上からの指示に従って帰る様子はない。
こういうときでもフォローに回ってくれるようだ。
「その忠義に感謝する」
「失礼だな、友情だよ」
「……ありがとう、クーゴ」
「どういたしまして!」
2機のフラッグは宇宙を駆ける。まだ動けるジンクスたちとすれ違い、彼や彼女たちとは反対方向に進路を取って、大急ぎで飛んでいく。程なくして、目当ての機体と相手の姿が視認できた。
「聞こえるか、刹那。国連軍は撤退を始めた。ラー・カイラムはもうじき現宇宙に到達する。まだ持つな?」
「ああ……」
「なら、お前は――ッ!?」
グラハムたちの存在に気づいた刹那と“神聖なる実行者”一同からの視線が集中する。特に後者は、グラハムとクーゴの迎撃態勢を整えたようだ。
けれど、後者の対応はグラハムの眼中に無い。グラハムは通信を開いて、真っ先に口を開く。逢瀬の約束をしておいて、盛大に遅れたことに対する謝罪の言葉。
「すまない刹那! 遅くなった!!」
この場に沈黙が下りてきた。思った以上に反応が悪い。周囲から突き刺さって来る沈黙と眼差しに気圧されるような形で、グラハムは口を開く。飛び出したのは拙い弁明の言葉ばかりで、言い訳以外の何物でもない。
GNフラッグの調整がギリギリまで長引いたこと。刹那と対峙するタイミングを図っていたこと。刹那の元へ向かう途中で、Centurio-Auxiliaesという謎の機体に襲われたこと。その機体のパイロットがクーゴの姉・蒼海の子どもで、齢一桁の少年であったこと。彼は機体のコントロールを何者かに奪われ、グラハムやクーゴと強制的に戦わされていたこと。それを止めるのに手こずってしまったこと――。
全部馬鹿正直に話し終えたグラハムは、あまりの居た堪れなさに視線を逸らした。“とにかく何か言わなければならない”――そんな思いに突き動かされて、ろくに考えが纏まっていないのに、また口を開く。勿論、支離滅裂な言葉をだらだらと垂れ流すだけで、醜態を重ねるだけに終わった。こういうときにフォローをしてくれそうな副官は、何故か沈黙を貫いている。
「――ふはっ」
不意に、刹那からの声が聞こえた。通信越しのサウンドオンリー。だけど、グラハムには彼女の表情がはっきりと《視えた》。
小さく噴き出した刹那は、困ったように苦笑する。下がった眉尻とは対照的に、赤銅色の瞳は柔らかに細められていた。
愛おしいものを見るかのような蕩けた眼差しに、グラハムは思わず息を飲む。そうして、やっと安心することが出来た。
“神聖なる実行者”は頭に疑問符を浮かべているようだが、そちらにはクーゴが何かフォローをしている様子だった。相変わらず疑問符は消えなかったものの、彼や彼女たちは邪魔をしないでくれるらしい。
「用が済み次第、こいつを連れ帰る」と語った相棒。本来なら彼だって決着を付けたい相手がいただろうに、今回はずっとグラハムのフォローをさせてしまってばかりだ。
その借りを返せるのはこの場しかなかったのに、国連軍は撤退指示を出している。現在進行形でタイムオーバー気味なのだ。残念ながら、押し通せる無理はここまでだろう。
「いつか、この瞬間が来ると思っていた」
「私もだよ」
ひとしきり笑い合った後、刹那とグラハムは互いに向き合う。世界の行く末を決める分水嶺だと言うのに、グラハムの心は場違いなまでに凪いでいた。――恐らくは、刹那も。
彼女の元へ馳せ参じた理由は決着をつけるためだ。その果てに、もう一度、刹那と笑いあいたい。今までと変わらず、顔を合わせて笑いあう日々を――互いを想いあう日々を、望んでいる。そんな未来を勝ち取るために、グラハム・エーカーはここにいる。
自分たちの間に横たわる運命だとか、宿命だとかを超えて、決着を望んでいるのだ。今まで歩いてきた道程に、これから歩んでいきたい道に、自分たちの望む未来の形を手にするために――自分たちが慈しんできた、この想いに。
「私がここに来たのは、明日を手にするためだ」
「明日?」
グラハムの言葉に、刹那がこてんと首を傾げた。グラハムは厳かに頷く。
「いつかの約束と夢の先を、キミと共に。その続きを手にしたい」
「それが、お前の望む明日か?」
「ああ」
彼女にとっては、想像もしていなかったことらしい。グラハムが何を思い、この決戦場に赴いたのかを。
“決着をつける”というところは予想できたのかもしれないが。
「私にとってキミは、運命の相手だった。そして、これからも運命の相手であり続ける」
「グラハム……」
「……キミにとっての私も、そうであってくれたなら、嬉しい」
胸を張って、グラハムは微笑む。刹那がくしゃりと表情を歪ませた姿が《視えた》。幾何かの沈黙の後、絞り出すようにして、刹那が言葉を紡ぐ。
「あんたに倣って、敢えて言わせてもらおう。……この世界に、神などいない」
刹那がぽつりと呟いた。グラハムの脳裏によぎったのは、この前の逢瀬。
既視感のある言葉を聞いたためか、あのときの少女の表情を再生し始める。
「だが――この世界には、あんたがいた」
真正面から《視た》その微笑に、グラハムは息を飲んだ。あのときと同じ調子で、刹那は静かに言葉を続ける。
「だから、何も恐れていないし、悲しんでもいない。……大丈夫だ。俺は、あんたの心を信じている」
そんな風に言って、ふわりと微笑んだものだから。その表情が、あのときと同じものだったから。
次の瞬間に湧き上がったのは、やはり、“刹那が愛おしい”という感情だった。
口元が緩むのを抑えられない。気のせいでなければ、視界も滲んできたような気がする。
けれど、瞬き一つすれば、視界は瞬時にクリアになった。微笑んでいたはずの刹那は、どこまでも真剣な眼差しでグラハムを《視返して》いる。それに応えるようにして、グラハムも不敵な笑みを浮かべた。
ガンダムとGNフラッグが対峙する。向かい合う自分たちに、言葉なんかいらない。不安なんて何一つなかった。自分の胸を占めるのは、好敵手と対峙することに対する喜び。
願わくば、グラハムと向き合う刹那も、同じものを感じてくれていたら嬉しいと思う。そうして、同じ明日を思い描いてくれたら――それはなんて、幸せなことなのだろう。
「我々は何も知らずに出会い、わかり合い、すべてを知っても尚、“こう”あることを選んだ」
グラハムは静かに言葉を紡ぐ。そうして、声を高らかに宣言した。
「だからこそ、私は望んでいる。今この瞬間、キミとの真剣勝負を!」
そうして、積み重ねてきた絆に――抱き続けてきたこの想いに、思い描いた明日を手にするために、決着を。
「……俺もだ。決着をつけよう、グラハム・エーカー」
グラハムの意図は、刹那にきちんと伝わった様子だった。真摯な光を宿した赤銅色の瞳が細められ、真剣な面持ちで刹那が頷く。
同時に、ガンダムが実体剣を、GNフラッグがビームサーベルを構えて戦闘態勢を取る。
「散々刃を交えてきた我々には、最早必要ないものであることは事実。だが、改めて――敢えて自己紹介させて貰おう」
いつかの邂逅が脳裏をよぎる。
晴れ渡った真っ青な空と、軽やかになびく白いワンピース。
凛とした佇まいの少女に、全てが釘付けになったあの瞬間を。
「私の名前はグラハム・エーカー」
あの日の邂逅を、そこから始まった日々を、そうして辿り着いた今この瞬間を誇るように――グラハムは告げた。
「――キミの存在に、心奪われた男だ」
◆◆◇
「見つけた……!」
グラハムは目を輝かせ、操縦桿を動かした。モニターの向う側には、デブリの散乱する宇宙域に白と青基調のガンダムが佇んでいる。先程、彼女とガンダムを追いつめていた金色のMAおよびMSの姿はない。散乱するデブリからして、刹那は金色のMA/MSを退けたようだった。
焦げ付くようなじれったさは鳴りを潜め、次に湧き上がったのは高揚感だ。待ち焦がれていた瞬間が、刻一刻と近づいてきている。グラハムはGNフラッグの動きを止めた。それに気づいたかのように、ガンダムが振り返る。
グラハムの脳裏によぎったのは、刹那と相対峙したときの光景だった。夕焼けに染まった空と海で、グラハムと刹那は互いの素性を知らぬまま、戦いを繰り広げた。あのときはクーゴとイデアもいたが、今は2人とも不在である。
いつもは傍にいるはずのパートナーもいなければ、自分たちに横槍を入れるような無粋な奴らも存在しない。ここには、グラハムと刹那だけだ。
白と青基調のガンダムは、どこも損なわれていないようだった。先程《視えた》光景では、金色のMSによって倒される寸前の光景だったので不安だったが、グラハムの杞憂だったらしい。GNフラッグも、先程Unicornと一戦交えてきたけれど損傷個所はない。
万全の状態とは言い難いのかもしれないが、自分たちの決着をつけるには何も問題なさそうだ。刹那の駆るガンダムと、グラハムの駆るGNフラッグが対峙する。あの光景の続きを望んでいたグラハムにとっては、感慨深い
「こうして相対峙するのは、久しぶりだな。少女」
「……そうだな」
グラハムは微笑んだ。緊張した面持ちで頷く刹那の姿がはっきりと《視える》。刹那の声が、ほんの少し震えていたような気がしたのは気のせいだろうか。
その予感は間違っていなかったようで、刹那はどこか険しい眼差しでグラハムとGNフラッグを見据える。目を逸らさなかったのは、彼女の矜持だったのかもしれない。
「いつか、この瞬間が来ると思っていた」
「私もだよ」
対して、グラハムは笑みを崩さなかった。場違いかもしれないけれど、自分を見返す刹那に対して、愛おしさすら感じていた。
「刹那」
グラハムの呼びかけに、刹那は呆けた顔でこちらを《視返した》。そんな些細な様子にさえ、心が満たされる。
どうやら自分は、相当の末期状態らしい。そのことを、むしろ、グラハムは誇りに思っていた。口には出さないが。
「キミが後悔するようなことや苦しむようなこと、悲しむようなことは、何もないよ。あのときの言葉に、二言などないのだからな」
刹那が大きく目を見開いた。グラハムの言葉が何を指しているのか、即座に理解したらしい。ほんの少しだけ、表情が柔らかくなったような気がした。
それに、と、グラハムは言葉を続ける。脳裏に浮かんだのは、親友であり副官であるクーゴの発言だった。彼は、イデアと再び会うことを諦めていない。
クーゴはイデアと再会し、“彼女の話の続きを聞く”という明日を手に入れるために戦っている。それに、グラハムもまた影響を受けたのだ。
もう一度、刹那と笑いあいたい。今までと変わらず、顔を合わせて笑いあう日々を――互いを想いあう日々を、望んでいる。そんな未来を勝ち取るために、グラハム・エーカーはここにいる。
自分たちの間に横たわる運命だとか、宿命だとかを超えて、決着を望んでいるのだ。今まで歩いてきた道程に、これから歩んでいきたい道に、自分たちの望む未来の形を手にするために――自分たちが慈しんできた、この想いに。
「私がここに来たのは、明日を手にするためだ」
「明日?」
グラハムの言葉に、刹那がこてんと首を傾げた。グラハムは厳かに頷く。
「いつかの約束と夢の先を、キミと共に。その続きを手にしたい」
「それが、お前の望む明日か?」
「ああ」
彼女にとっては、想像もしていなかったことらしい。グラハムが何を思い、この決戦場に赴いたのかを。
“決着をつける”というところは予想できたのかもしれないが。
「私にとってキミは、運命の相手だった。そして、これからも運命の相手であり続ける」
「グラハム……」
「……キミにとっての私も、そうであってくれたなら、嬉しい」
胸を張って、グラハムは微笑む。刹那がくしゃりと表情を歪ませた姿が《視えた》。幾何かの沈黙の後、絞り出すようにして、刹那が言葉を紡ぐ。
「……俺にとっても、あんたは……運命だった」
過去形。何かを諦めたかのような響き。
グラハムは思わず、声を荒げそうになった。
「刹那」
「
悲痛な響きを宿しながらも、刹那の意志は揺らがない。彼女の声が、言葉が、グラハムの心を抉る。
「でも、不思議だ。……あんたが言うと、希望が見える」
「!」
「俺のような人間でも、あんたの言う“明日”を手にすることができるのではないか、と」
「根拠も何もないのに」と、囁くような調子で刹那は呟いた。何かを堪えるかのように、彼女は俯いてしまう。
まるでいつかの焼き直しだ。グラハムに刹那がソレスタルビーイングの人間であることを告げたときと、同じ。
グラハムは何か言葉を発しようとしたが、喉につかえてしまった。弱々しい吐息がか細く漏れただけで、音を紡げない。
(情けない)
グラハムは歯噛みする。なんてもどかしいのだろう。
グラハムの言う“明日”は手に入ると頷きたかったが、刹那は現実をしっかり理解している。その可能性が低いことを、彼女はグラハム以上に熟知しているのだ。
だから、薄っぺらい希望に縋るような真似はしない。淡々と、事実を受け止める。――たとえ、事実がどれ程残酷で、残忍で、惨たらしいものであろうとも。
良くも悪くも、刹那は夢と現実を見据えている。戦争根絶なんて夢物語を描きながらも、現実が非常で無情なものであることを誰よりも理解していたし、それを踏まえた言動を崩さない。ロマンチストな乙女座であるグラハムとは対極的だ。
素直に夢を見続けるには子どもではいられなかった。同時に、現実を知って荒みきってしまう程、絶望することもできなかった。誰よりも世界を信じていないがゆえに、世界を変えたかった優しい
こんなにも近くで対峙しているというのに、自分たちの間に横たわる隔たりを感じる。年上だというのに、いい大人だというのに、グラハムは何も言えなかった。『この世界に神などいない』と言った、彼女の気持ちがよくわかる。
「この世界に、神などいない」
刹那がぽつりと呟いた。丁度、グラハムが連想していた言葉だった。
けれど、刹那は花が咲くような――柔らかな微笑を浮かべて付け足した。
「だが――この世界には、あんたがいた」
真正面から《視た》その微笑に、グラハムは息を飲んだ。刹那は静かに言葉を続ける。
「だから、何も恐れていないし、悲しんでもいない。……大丈夫だ。俺は、あんたの心を信じている」
赤銅の瞳には、蕩けてしまいそうなほどの優しい光が揺れていた。未だかつてない表情に、グラハムは茫然と刹那を《視返す》。次の瞬間に湧き上がったのは、やはり、“刹那が愛おしい”という感情だった。
無表情で不愛想。何を考えているか読み取りにくいと人は言うけれど、刹那は顔より目で語るタイプである。照れたときは顔や耳に赤みがさすことを知っているのは、彼女と親交のある人間だけであろう。
でも――と、グラハムは思う。“こんな風に微笑む彼女を見たのは、自分が初めてなのではなかろうか”――などと。
刹那が微笑むなんて想像していなかった。しかも、戦いの直前にだ。場違いであるということは重々承知している。
にも関わらず、口元が緩むのを抑えられない。気のせいでなければ、視界も滲んできたような気がする。
けれど、瞬き一つすれば、視界は瞬時にクリアになった。微笑んでいたはずの刹那は、どこまでも真剣な眼差しでグラハムを《視返して》いる。それに応えるようにして、グラハムも不敵な笑みを浮かべた。
ガンダムとGNフラッグが対峙する。向かい合う自分たちに、言葉なんかいらない。不安なんて何一つなかった。自分の胸を占めるのは、好敵手と対峙することに対する喜び。
願わくば、グラハムと向き合う刹那も、同じものを感じてくれていたら嬉しいと思う。そうして、同じ明日を思い描いてくれたら――それはなんて、幸せなことなのだろう。
「我々は何も知らずに出会い、わかり合い、すべてを知っても尚、“こう”あることを選んだ」
グラハムは静かに言葉を紡ぐ。そうして、声を高らかに宣言した。
「だからこそ、私は望んでいる。今この瞬間、キミとの真剣勝負を!」
そうして、積み重ねてきた絆に――抱き続けてきたこの想いに、思い描いた明日を手にするために、決着を。
「……俺もだ。決着をつけよう、グラハム・エーカー」
グラハムの意図は、刹那にきちんと伝わった様子だった。真摯な光を宿した赤銅色の瞳が細められ、真剣な面持ちで刹那が頷く。
同時に、ガンダムが実体剣を、GNフラッグがビームサーベルを構えて戦闘態勢を取る。
「散々刃を交えてきた我々には、最早必要ないものであることは事実。だが、改めて――敢えて自己紹介させて貰おう」
いつかの邂逅が脳裏をよぎる。
晴れ渡った真っ青な空と、軽やかになびく白いワンピース。
凛とした佇まいの少女に、全てが釘付けになったあの瞬間を。
「私の名前はグラハム・エーカー」
あの日の邂逅を、そこから始まった日々を、そうして辿り着いた今この瞬間を誇るように――グラハムは告げた。
「――キミの存在に、心奪われた男だ」
***
ビームサーベル同士がぶつかり合い、派手に火花を散らした。斬っては結び、結んでは斬りを繰り返す。剣戟ひとつひとつを重ねていくたびに、心が弾む。
自分たちの戦いを邪魔するものは何1つもない。それ故にできる真剣勝負――その事実を体感するだけで、グラハムは年甲斐もなく心を躍らせていた。
刹那のガンダムはグラハムのGNフラッグが繰り出す攻撃を回避し、攻撃を仕掛けてくる。以前対峙したときより、攻撃の精度は随分と成長していた。流石は“自分の運命の相手”。グラハムは笑みを浮かべる。
初めて戦ったときや共闘したときとは比べ物にならない程、刹那の太刀筋は研ぎ澄まされていた。確実に、グラハムとGNフラッグを屠らんとしている。どこまでも強い意志と真摯な想いが、ぶつかり合う刃から伝わってきた。
手は抜かない。そんなことをしたら、己の想いも彼女の想いも踏み躙ることになってしまう。グラハムもまた、刹那に対しては誠実で/真摯でありたかった。だから、敬意を持って真正面から受け止める。
(流石は私のプリマドンナ。エスコートされているだけでは終わらないということか)
リードしていると思えば、逆に自分が振り回される。一瞬たりとも気の抜けない攻防戦。グラハムは、自分の口元が段々と綻んでいくのを感じていた。
“このまま永遠に、この舞台で踊っていられたらいいのに”――場違いなことだとしても、願わずにはいられない自分がいた。
それを、グラハムは首を振って否定する。決着の終わりこそが、自分たちの望んだ“明日”の始まりを意味しているのだ。
微睡むことはお互いが赦さないし、お互いに赦されることではない。痛みにまみれたとしても、望むものがあるのだから。
焦がれていた天使に、ようやくこの手が届く。
そう思った途端、グラハムは即座に反撃へ打って出た。牽制としてライフルを撃ち放ち、即座に距離を詰める。
GNフラッグは疑似太陽炉搭載時の機体改造によって長所が殺されていたが、グラハムはさして気に留めなかった。
グラハムの想いに呼応するかのように、GNフラッグが刹那/ガンダムに迫る!
「おおおおおおおおおおおおッ!」
文字通りの真っ向勝負。防御を完全に捨て置いた、捨て身の攻撃だった。ビームサーベルを構え、天使を射抜かんばかりの勢いで突っ込む。
普通に考えれば回避が正解なのだろうが、刹那はグラハムに応えるかのように実体剣を展開させた。同じように、ガンダムもGNフラッグに突っ込む。
雌雄を決するのは、コンマ一瞬だろう。
おそらくは、この一撃で。
グラハムには、確かな予感があった。
そして――決着は、訪れる。
「――!!!」
それは、ほんの少しのタッチの差だ。
GNフラッグのビームサーベルは、ガンダムのカメラアイ前方を掠めるだけに留まった。対して、ガンダムの実体剣は、GNフラッグの肩に深々と突き刺さっている。紫電が爆ぜたのはGNフラッグ――グラハムの方だった。
機体に凄まじい振動がかかる。コックピットの機材が爆発を引き起こした。その衝撃に耐えきれず、グラハムは呻く。体中に痛みが走るだけでなく、左側の視界が赤黒く潰されてしまった。痛みのせいで瞼を開けることも叶わない。
ならばせめて、と、グラハムは右側の視界を失わぬよう、どうにかして瞳をこじ開ける。最初のうちはぼんやりしていたけれど、徐々に鮮明になっていく。破損し、火花が飛び散るコックピット内部が見えた。
本来ならモニターも死んでいるはずだというのに。
顔を上げれば、眼前に降り立つガンダムが《視える》。
(嗚呼)
グラハムは苦笑した。
(私は、キミに及ばなかったのか)
伸ばした手/刃は、
ガンダムはじっとGNフラッグを見下ろしている。気のせいか、凪いだ水面のように静かな刹那の表情が《視えた》ような気がする。
「……さあ、刹那。キミの望む、決着を」
グラハムは刹那に呼びかけた。決着をつける権利は、彼女にある。負けた自分に赦されることは、ただ、すべてを受け入れることだけだ。グラハムの言葉に呼応するかのように、ガンダムが実体剣の切っ先をGNフラッグに向けた。
自分たちを切り裂き、その手に勝利を掴むのか。そんな決着でも、悪くはない。我儘を言うならば、星が煌めく宇宙の闇よりも、真っ青な空の元で死にたかった。……いや、そんなことなど霞むくらい、今は満足している。
死に場所など、もはやどうでもよかった。今、こうして、刹那/ガンダムと向き合っていられるのならば。彼女たちがいる場所は、グラハムにとっては天国――あるいは楽園と同義だ。これ以上に幸せなことはない。
瞳を閉じて、決着のときを待つ。
いくら待っても、予測していた衝撃が襲い掛かってくることは終ぞなかった。ゆっくり瞳を開け、ガンダムに向き直る。
展開していたはずの実体剣は収納され、天使はただ厳かに佇むのみ。グラハムが瞬きを繰り返すと、刹那は静かに言葉を紡ぐ。
「あんたは、明日のために戦うと言ったな」
「ああ」
「……ならば、あんたが生きることをやめてどうする」
どこか、呆れが混ざった口調。
「生きることをやめてしまったら、明日を掴むことなんてできないだろう」
至極当たり前のことを、至極当然のように、刹那は言った。
「……だから、俺は生きる。お前も、生きろ。――生きてくれ、グラハム・エーカー」
そうして、刹那は微笑んだ。戦いを始める直前に見せた、柔らかな微笑を浮かべて。
あまりにも綺麗な微笑みに、グラハムは呆気にとられた。自然と口元が緩む。
――これが、刹那・F・セイエイが選んだ答え。
「……それが、キミの答えなのだな」
「ああ」
「そうか。なら、私も生きる。……そうやって、キミの行く末と、キミと私が出した答えを見つめ続けよう」
痛みに呻きそうになるのを抑え込みながら、グラハムは刹那に答えた。今はひどく、満たされたような気分だった。
刹那がどんな顔をしているのか、グラハムにははっきりと《視えた》。年相応の笑顔に、胸が温かくなるのを感じる。
去来したのは充実感だ。自分たちが選んだ決着に、何の後悔もない。“これでよかった”――心からそう言えた。
不意に、壊滅状態だったレーダーが反応を捉える。カメラアイに映し出されたのは、クーゴの駆るGNフラッグだった。被弾した形跡があるが、特に目立った損傷はなさそうである。
友人であり戦友である彼にも、多大な心配をかけてしまった。ここまで突き合わせてしまったクーゴを安心させようと、GNフラッグの通信回線へ手を伸ばす。
<――2人とも、逃げろ!!>
不意に聞こえた《聲》に手を止める。刹那、背後から毒々しい紫の光が降り注いだ!
グラハムと刹那は振り返り、息を飲む。攻撃を避けようにも、グラハムのGNフラッグは満身創痍だ。
万全の状態ならともかく、現状では回避すらまともに行えない。赦されたことは、被弾するまでの光景を見つめ続けることだけ。
グラハムの視界の端で、刹那/ガンダムが自分/GNフラッグを庇おうとしていたのが《視えた》が、到底間に合うとは思わなかった。
「させて、たまるかぁぁぁぁぁぁッ!!」
次の瞬間、クーゴのGNフラッグは青い光を纏って、ガンダムとGNフラッグへ向かって突撃してきた!!
【推奨BGM】
<ラ.ス.ト.ダ.ン.ス>(『B.a.s.e B.a.l.l B.e.a.r』)