問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

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【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」、『◆』が「特殊な意味合いが含まれている」場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

 13.この小説は2023年の9月時点で明らかになっている情報をベースにして執筆しているため、後の公式作品で発表・開示された情報とは矛盾が発生する可能性があります。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


48.空の護り手

 

 機体は大破、戦闘続行は不可能。予定にない“お荷物”として転がり込む羽目になってしまったが、致し方ないことだと言い訳してみる。

 元から無理を押して出撃したのだ。生きて帰ってこれたら儲けものだとも思っていた。そうして紆余曲折の末がこの有様であった。

 

 

「生存者の捜索と回収が主な任務(しごと)だから、私は別に構いませんけど……」

 

「何をどうしたら“こんな有様”になって、その上で“生きて帰って来れる”んだ……」

 

 

 戦術指揮官とエースパイロットの1人が凄い顔をして愛機を見上げる。青年は反論できないので、それに関しては沈黙を保つことにした。

 

 医療関係者に引っ立てられるような形で、青年は医務室――正確には、再生医療に使われるカプセルの元まで連れていかれる。その際、すれ違ったクルーたちが話している《聲》を《聴いた》。

 どうやら、“星屑の放浪者(スターダスト・トラベラー)”に対して回収要請を出した“同胞”がいるらしい。しかし、その機体は“満身創痍にも拘らず、何故か移動を続けている”ようだ。

 詳しい話をもう少し《聴いて》いたかったのだが、青年が余計なことに注視していることを察した医療関係者によって強制的に意識をシャットダウンされたため、それ以上の情報は得られなかった。

 

 

 

 

 

 

(――行かなくちゃ)

 

 

 宇宙(そら)の闇を切り裂くようにして、白い機体は翔け抜ける。

 

 満身創痍なのは機体もパイロットも一緒だ。だが、自身が感じ取った予感と交わした約束が、機体とパイロット(彼女たち)を戦場へと駆り立てる。

 限界などとうに超えた。それでも、今は、倒れるわけにはいかない。落ちてしまいそうな意識を奮い立たせ、女性は操縦桿を動かした。

 

 

 

 

 

 

『うわぁぁぁぁあああああッ!!』

 

 

 漆黒が堕ち、断末魔が響く――その様を、少年は鮮明に《視た》。

 

 守り抜いたのは神聖なる想い。代償として、黒い機体は悪意に晒された。悲鳴を残して、機体は宇宙(そら)の闇へと消える。

 それを見ていた女性は幸せそうに微笑んだ。『望んだものすべてが手に入る』と、悦に浸った微笑を湛えて。

 

 ぞっとした。堕ちていったのは、先程自分を救い上げてくれた人だったから。

 彼を死なせてはならない。少年は操縦桿を握り締める。しかし、当然のことながら、機体は動かない。

 先程の戦闘ですべての機能が死んでしまった専用機は、ただただ沈黙を貫いていた。

 

 

(だめだ)

 

 

 機体は沈黙したまま、動かない。

 それでも、少年は諦めきれなかった。

 

 

(あの人を死なせちゃいけない)

 

 

 戦わなくていい、間違っていない――初めて、その人は少年にそう言ってくれた。

 

 

「ユニコーン」

 

 

 少年は、己の機体の名を呼んだ。

 

 これ程までに力が欲しいと願ったことはない。自分の翔るガンダムに頼りたいと思ったこともなかった。忌まわしいものだとばかり思っていた。

 でも、今は。己の持つ力のすべてを、つぎ込みたいと思っている。少年は祈るようにして、自分の機体に呼びかけた。

 

 

「お願いだ、ぼくに力を貸して。――あの人を、助けたいんだ」

 

 

 その言葉に呼応するかのように、青い光が漂い始める。次の瞬間、沈黙していたシステムが動き出した。コックピット内に明かりが灯り、関節部が赤く発光する。

 少年の祈りは聞き届けられた。機体損傷の具合を確認する。どこからどう見ても最悪の極みであり、間接部分からはうっすらと白煙が上がっているほどだ。

 だからといって諦めたくない。少年が強く思ったとき、少年に応えるかのように機体が動き出した。平時のときと変わらぬそれに、少年はほんの一瞬だけ驚きの声を上げた。

 

 けれど、その驚きもすぐに消える。残ったのは、焼け付くような焦燥感。

 急がなければ、母の悪意がすべてを焼き尽くすという、問答無用の確信だった。

 

 

 

 

 

 

 自分の分が悪いことは百も承知。

 それでも、彼の背中を押すことを選んだのは――

 

 

<……あたしは、くーちゃんのお姉ちゃんなんだから>

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 ZEXISが解散するのを待っていたかのように、再び世界は混迷へと転がっていく。今回行われたソレスタルビーイング殲滅作戦もその1つだ。国連代表のエルガン・ローディック代表が行方不明になったのを皮切りに、統一されかけていた世界は瓦解していった。

 影のフィクサーであるエルガンが行方不明になったことにより、別の誰かが実権を握ったようだ。そこまでは、上司や周囲の会話を聞けば大体予測できる。だが、肝心要の黒幕は、影も形もつかめなかった。親戚のジャーナリストも項垂れてしまったレベルである。

 

 

(いや、そんなことを考えている暇なんてない)

 

 

 クーゴは首を振り、GNフラッグを加速させた。何の目印もない宇宙(そら)を、ただひたすらまっすぐに突き進む。

 懸念材料は自分の相棒――グラハム・エーカーと彼の恋人――刹那・F・セイエイ、および、自分とイデア・クピディターズの行く末である。

 特に、現時点では、友人であるグラハムのことが気がかりであった。そんなことを考えていたとき、モニターが機影を捉える。

 

 煙を上げるGNフラッグと、GNフラッグを見下ろすガンダムが見えた。

 

 GNフラッグの損傷具合からして、グラハムが刹那に敗北したことは伺えた。ガンダムとGNフラッグが向き合う様子からして、2人は己の望む決着をつけたのだということも。

 グラハムと刹那はもう戦うつもりはないのだろう。その事実には安堵すべきだったが、クーゴの心配は潰えていなかった。

 

 

「グラハム!」

 

 

 通信回路を開いて呼びかける。映し出された金髪碧眼の伊達男は、文字通りの満身創痍であった。端正な顔立ちだった彼の左半分が真っ赤に染まっている。

 

 

「そんなに怖い顔をして、どうしたんだ?」

 

 

 痛みに顔を顰めながらも、グラハムはきょとんとした表情でクーゴに問いかける。そして、こちらを安心させるように微笑んだ。

 

 

「私たちのことを心配しているなら、それは杞憂だ。決着はついたよ」

 

 

 その結果がこのざまだ、なんてグラハムはあっけらかんと笑う。清々しいほどの笑顔に、思わずクーゴは自分の懸念材料を忘れてしまいそうになった。

 自分たちを眺める刹那が、ふっと表情を緩めたのが《視える》。口元に微笑が浮かんでいるようなのは見間違いだったのだろうか。

 

 

「クーゴ・ハガネ。……決着はつけた。これ以上、フラッグと戦闘を続行するつもりはないから、安心するといい」

 

「あ、ああ」

 

 

 刹那もまた、クーゴがグラハムと刹那の行く末を案じていると思ったらしい。実際案じてはいたけれど、大丈夫だと思っているし、その点についてはもう心配していない。

 

 

「遠い、な」

 

 

 ぽつりと、グラハムが呟く声がした。彼の心情に呼応するかのように、グラハムのGNフラッグがゆっくりと腕を伸ばす。その先には、悠然と佇む刹那のガンダムがあった。

 「まだまだ修行が足りないか」とグラハムは笑っていた。敗北者だというのに、その横顔は晴れ晴れとしている。彼は、ガンダムに届く/触れる直前で、静かに手を下した。

 

 

「……いいのか?」

 

「ああ。これでいい。これが、私の――私たちの選んだ答えなんだ」

 

 

 クーゴの問いに、グラハムが曇りなき笑みを浮かべて頷いたのが《視えた》。視線をガンダムへ向ければ、刹那が静かな面持ちで頷くのが《視える》。

 

 虫の知らせのように感じた悪寒に従ってここまでたどり着いたけれど、クーゴが危惧するようなことは何もなかった。何もなさ過ぎた。

 相棒が決着をつけたのだから、普通に考えれば、次はクーゴの番である。しかしながら、クーゴは未だに、この戦場でイデアと相対峙していない。

 もしかしたら、なんて、嫌な予感が脳裏によぎる。どうしてだかはわからないが、鮮やかな青い光が浮かんでは消えていくのを繰り返していた。

 

 

(……なんだ? この、言いようもない感覚は)

 

 

 何かが警笛を鳴らしている。この周辺に漂っているのは、容赦のない悪意だ。寒気となって襲い掛かってくる、人間の負の感情だ。

 共有者(コーヴァレンター)として目覚め、虚憶(きょおく)に触れ、様々な出会いと別れを繰り返していくうちに、感じ取れるようになったもの。

 

 最初は感情しか《理解でき(わからな)かった》けれど、今では、その感情を抱いている人間が誰なのかまではっきり《理解し(わかっ)て》しまう。便利なのか不便なのか、どう扱えばいいのか、未だに把握できないでいる。

 感情の主も、《理解でき(わか)る》。ただ、その人物が宇宙空間にいるはずがないのだ。パイロットとして生きてきたクーゴとは違って、ロボットとは縁遠い人生を歩んでいるはずなのだから。でも、感情の主はその人物以外あり得なかった。

 しかし、クーゴの勘が警笛レベルで「その人物以外あり得ない」と告げている。この矛盾を説明する方法を、残念ながら、クーゴは何一つとも持ち合わせていなかった。確証のないことを安易に口出しするのは憚られた。

 

 

<――、―――!!>

 

 

 不意に、誰かが何かを叫ぶ《聲》が《聴こえた》ような気がした。

 

 何を言っているのか、うまく《聴き取れない》。ただ、そこに何が込められていたかは《理解した》。向けられた感情も、誰に対する感情かも。

 簡単なことだ。それは、幼い頃からずっとクーゴに向けられてきたものだ。蒼海がずっと、クーゴに向けてきたものだ。

 

 

<憎い>

 

 

 今度ははっきりと《聴き取れた》。そして、そのタイミングを待っていたかのように、レーダーがけたたましく鳴り響く!

 

 

<私の世界に、この決着(すじがき)はいらない>

 

 

 何事かと、刹那とグラハムが振り返る。

 

 

<――修正を>

 

 

 間髪入れず、向う側から大量の光が、ガンダムとGNフラッグに向かって降り注いだ!

 

 大破していたグラハム機は当然動かない。異変に気づいたとしても、何の抵抗もできぬまま光に飲まれて大破する――そんな末路があった。

 だが、その未来を覆せる機体が近くにいる。満身創痍でありながらも、何の問題もなく動ける機体/人物が。

 

 

「ッ、グラハム!!」

 

 

 刹那/ガンダムが、GNフラッグの元へと飛び出した。降り注いだ光が迫る中、ガンダムがグラハムのGNフラッグを庇うようにして突き飛ばす。

 そのタッチの差が、グラハム/GNフラッグの運命を分けた。しかし、それが――刹那/ガンダムがグラハム/GNフラッグに降りかかるはずだった悪意に晒される原因となる。

 ほんの一瞬、必死の形相をした刹那と、刹那に庇われたことに気づいて驚愕の表情を浮かべたグラハムの表情が《視えた》。

 

 

「刹那――!?」

 

 

 グラハムが叫んだとき、間髪入れず、悪意が天使へ襲い掛かる!!

 毒々しい紫の光が、グラハムの翔るGNフラッグごと、刹那のガンダムを焼き払った。

 

 

「うわあああああああああああああああああッ!!」

 

 

 刹那とグラハムの悲鳴が《聴こえた》。その声は、あっという間に爆風に飲まれて消えてしまう。クーゴは、その光景を眺めていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

(間に合え。間に合え。間に合ってくれ!!)

 

 

 フラッシュバックした虚憶(きょおく)に焦燥が募っていく。祈りにも似た感情を抱いて、クーゴは宇宙を駆けた。

 

 懸念材料は3つ。1つめは親友とその恋人の行く先、2つめは明日の約束を交わした好敵手と自分の行く先、3つめは――纏わりつくように感じた、姉の悪意。

 エルガン・ローディックが行方不明になったのを見計らったかのようなタイミングで、ソレスタルビーイングの殲滅作戦が再開された。今回の作戦には、彼女の悪意が滲み出ている。

 実際、再び追加投入されたジンクス以外にも、得体の知れない機体――識別コードはCenturio――が好き放題に暴れており、作戦行動のどさくさに紛れてクーゴへ襲い掛かって来た程だ。

 

 奴らは偽物のガンダムを操縦していたパイロットであり、更に言えば齢一桁の子どもである。しかも、蒼海の息子/クーゴの甥だ。頭が痛くなるのも致し方なかろう。

 妨害してきたCenturioを退けている間に、国連軍のMSはソレスタルビーイングと相打ちに持っていかれていた。撤退命令が下されており、動ける機体は母艦の方へ戻っていく。

 

 

(グラハムには散々迷惑かけられたけど、死なせるわけにはいかないんだよ……!)

 

 

 彼に救われた人間として、彼の副官を自負している身として、彼から親友と呼ばれて信頼されている人間として、あの虚憶(きょおく)は無視できない。杞憂だったらそれでいいのだ。問題は、杞憂じゃなかった場合のこと。

 

 レーダーには友の機体は映っていない。おそらく、我らが隊長――グラハム・エーカーが戦っている宇宙域は、レーダーの範囲外にあるのだろう。しかし、クーゴには、彼がどこで戦いを繰り広げているか《理解し(わかっ)て》いた。

 姉の悪意が向けられる先には、グラハムと彼が愛してやまない刹那。蒼海はこの2人――特に刹那の“何か”が決定的に気に入らないらしかった。この2人の特筆する部分は「敵同士ではあるが、恋人同士でもある」という点だけである。

 

 

(確かに、初めてグラハムを紹介する羽目になったとき、ねえさんはグラハムを執拗に口説こうとしてた。でも、刹那に宣戦布告されて以降は特段興味を示さなかったはず。実際、あのときの態度も“お気に入りの玩具”みたいなニュアンスを感じたから)

 

 

 自分で思考しておいてなんだが、我ながら酷い例えである。しかし、その表現の方がしっくりくるのだ。

 

 “玩具を誰かにとられたくない”ということだろうか。それとも、“思い通りに動かない玩具に苛立っている”のだろうか。どす黒い感情は複雑に絡み合っていて、姉が何を考えているのか《理解でき(わから)ない》。

 姉がクーゴの関係者――グラハムやその部下たちを、玩具を見るような目で眺めていたことは知っていた。クーゴの方も注意を払っていたし、グラハムや仲間たちにも注意を促しておいた。それも虚しいことになりつつある。

 

 

「俺の見立てが甘かった、ってか」

 

 

 自分の無能さに反吐が出そうになる。クーゴは愛機を更に更に加速させた。

 早く、早く、行かなければ。姉の悪意が、グラハムと刹那の想いを踏みにじる前に。

 この場で戦う人々は、誰1人として“姉の玩具”ではないのだから。

 

 クーゴの脳裏に、断片的な映像が浮かんでは消えていく。刹那とグラハムの戦いを踏みにじった悪意の存在を《識って》いながら、何もできなかったときの映像(モノ)

 今のクーゴも、虚憶(きょおく)の中の自分と同じ轍を踏みつつある。悪意の到来を予期しながら、結局見過ごすことしかできない。

 

 ――友の命が踏みにじられるのを、自分は眺めていることしかできないというのか。

 

 

(そんなのは御免だ)

 

 

 クーゴの焦燥に応えるが如く、GNフラッグは加速する。下手したら、限界を超えて爆発四散してもおかしくない程の速さまで。

 

 不意に、視界が開けた。その先に見えたのは、グラハムの駆るGNフラッグと刹那が駆るガンダム。損傷度合いといい、決着の様子といい、その軍配といい、先程クーゴが《視た》光景と似ている。

 2人の奥にある宇宙空域に視線を向ける。かなり遠くから、グラハム/GNフラッグと刹那/ガンダムに狙いを定める存在が《伺えた》。奴は、明らかにグラハムと刹那に照準を合わせていた。

 

 グラハムのGNフラッグと刹那のエクシアがこちらに振り返る。2人はまだ、狙いを定めている悪意の存在に気づいていない。彼らは戦いの余韻を残したまま、満足げな笑みを浮かべているのが《視えた》。

 この場に駆け付けてきたクーゴに対し、何かを言おうと口を動かす。その奥で、紫の光が爆ぜたのが《視えた》。クーゴ/GNフラッグは全力で飛び出す。絶対に、あの悪意に晒させて溜まるものか。

 

 

「――2人とも、逃げろ!!」

 

 

 クーゴの叫び声は、2人に届いたのだろうか。

 それを確認する間もなく。

 クーゴ/GNフラッグは2人を守るために、悪意の前へと躍り出た。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「全ては無駄なのだよ、Z-BLUE。大人しく隕石を見送るがいい」

 

 

 フロンタルが得意げに笑う気配がした。しかし、奴の言葉に「はい分かりました」と答えるような人間などZ-BLUEにはいない。

 

 

「それでもっ! 俺は……俺たちはっ!!」

 

「ブライト!」

 

「……すまんが、みんなの生命をくれ……!」

 

 

 バナージとアムロが叫ぶ。仲間たちもみんな、モニター越しに顔を見合わせ頷き合うのが《視えた》。クーゴもまた、グラハムやゼクスらと顔を見合わせ頷き合う。

 それを目の当たりにしたブライトが、重苦しさを滲ませながら指示を出した。真っ先に返事をして飛び出したのはカミーユだ。Z-BLUEの面々も頷いて、即座に隕石の下部へと終結する。

 

 自分たちのすることなんて、とっくに決まっていた。

 

 

「ガドライト・メオンサム! 私もZ-BLUEも……そして、人類もお前の思い通りにはならない!」

 

「お、おい。まさか……」

 

「そのまさかだ!」

 

「――たかが石っころ1つ、ガンダムで押し出してやる!」

 

 

 珍しく狼狽するガドライトに対し、ヒビキとアムロが言い切る。彼らの返答とZ-BLUEの行動に対して混乱したのか、それとも呆れていたのか――ガドライトの真意には触れられない。けれど、ガドライトは何もしなかった。食い入るようにして、大特異点となった隕石の運命を見つめる。

 

 

「無駄だ、Z-BLUE。大特異点は落ちるよ」

 

「そんなの、やってみなけりゃわからないだろ!」

 

 

 「運命は変わらない」と嘲るフロンタルに対して反論したのは、運命の名を冠するガンダムを駆るシン・アスカ。彼の言葉を皮切りに、Z-BLUEは隕石を押し返す。文字通り、魂を燃やし尽くす勢いで。

 摩擦を受けた隕石と自分たちの機体が赤く発光する。Z-BLUEの仲間たちは誰1人として諦めてなどいない。伊達に、多元歴の地球に攻め込んできた侵略者を撃退してきたわけではないのだ。

 

 しかし、待てど暮らせど時空修復が始まる気配はない。しびれを切らしたアムロがシャアに訊ねるが、まだ準備が進まないようだ。

 

 準備ができない原因は、他でもないフル・フロンタルである。奴はこの状況に置かれても尚、「時空修復に手を貸すつもりは一切ない」という持論を曲げなかった。このまま放置すれば自分諸共命を落とすと理解していても、奴にとっては他人事でしかない。何故なら――フロンタルは“自分自身の生死に対し、一切感心がなかった”ためだ。

 多くの面々からその精神性を糾弾されたフル・フロンタルだが、その精神性故に、彼や彼女らの言葉に心を動かされることはない。奴は自身の意見や見解を曲げることなく、「隕石さえ落ちれば、世界は正しい方向に進む」とまで言い切った。「そうすることで、自分自身の役目も終わる」とさえ。

 

 

「フル・フロンタル!」

 

「!? これは――シャアの意識が流れてくる!?」

 

「互いにサイコ・フレームを搭載した機体に乗っていたのが幸いしたな!」

 

 

 涼しい顔をしていたフル・フロンタルであったが、勝利への確信とその余裕は崩された。シャア・アズナブルが双方の機体に搭載されていたサイコフレームを共振させ始めたためだ。

 

 

「私の意識を抑え込むつもりか! そうして、お前の望む世界に時空を修復するのか!?」

 

「私とお前は、人々の意志を集める器に過ぎない! 未来を決めるのは、この世界に生きる全ての人だ!」

 

 

 元祖“赤い彗星”の言葉は、2代目“赤い彗星”が生み出された理由そのもの。だけれども、元祖“赤い彗星”の出した答えは、2代目“赤い彗星”が出した答えとは真逆だった。

 『人の意志を集める器たれ』と望まれて生まれたフロンtナルは、人々の意志を集める器――人類の総代として、「自分が世界を管理し、人々を導かなくてはならない」と考えた。

 『人の意志を集める器たれ』と願われていたシャアは、人々の意志を集める器――人々が持つ平和への祈りを体現する存在の1人として、困難に立ち向かう戦士たちの仲間として戦うことを選んだ。

 

 

「聞こえるかい? ミスター赤い彗星」

 

「トライア博士……!」

 

「博士、準備は!?」

 

「OKだ。何とか間に合ったよ」

 

 

 そう言って微笑むトライア博士は、元祖“赤い彗星”から色々と協力を打診されていたらしい。Z-BLUE陣営に所属しつつも、Z-BLUEを裏切った(ように振る舞った)元祖“赤い彗星”の計画を成就させるため、裏で手を回していたと言うのだ。

 

 

「こちらアスラン・ザラだ。ソレスタルビーイングと悪の組織から提供された■■ドライヴ、及びE■P-P■yon搭載型の■■ドライヴにより、■■粒子の拡散と■イ■ン波の出力強化は完了した」

 

「これで各コロニーの間は■■粒子とサ■■ン波で繋がったも同然だよ!」

 

 

 ザフトレッドの軍人たちは、嘗てZ-BLUEの前々組織から所属していた者たちである。今回の戦いには同行していなかったけれど、別動隊として飛び回っていたようだ。

 運命の名を冠するガンダムに乗っていたシンがぱっと表情を輝かせる。彼の上官、或いは先輩に当たる軍人も、「後はお前たちに任せる」と言って激励してくれた。人類の未来を託してくれたのだ。

 他にも、地上では別の軍部が協力してくれたらしい。あちらも■■粒子の散布、及び■イオ■波の出力強化は完了していると言う。所属部隊も組織も何もかもを超越して揃えられた切り札が大盤振る舞いされていた。

 

 

「全ての人の意志を、■■粒子とサ■■ン波で繋ぐのか!?」

 

「無茶だ……! 幾ら■■粒子とて限界がある!」

 

 

 驚愕する2代目“狙い撃つ成層圏”。所属組織上■■粒子の詳細に詳しかった“革新者に寄り添う者”が、思わずといった調子で苦言を呈した。次の瞬間、トライア博士の通信に割り込みが入る。

 

 

「■イオ■波だって万能じゃないよ。でも、未来を望むヒトの意志は――ヒトの心を繋ぐ手段(もの)は、それだけじゃあないはずでしょ?」

 

「グラン・マ……!」

 

「1人や1つじゃ、限界なんてたかが知れている。だからみんなでやるんじゃないか」

「“革新者に寄り添う者”ー! 頑張ってー!」

「こっちも頑張るから、そっちも頑張ってよね! 僕らの妹分の結婚式がかかってるんだから!!」

「や、やめてください! 恥ずかしいから!!」

「いいじゃん。さっきから『ライルと結婚式挙げられますように』って思念波垂れ流しなんだし」

「そういう問題じゃないんですよ!!」

 

「隕石を押し返しに行くには間に合わなかった分、手助けさせてください!」

「チームトレミー、頑張って!」

「こんな形でしか力になれなくて済まない。だが、我々も出来る限りのことはさせて貰おう!」

「あっずるい! 俺も混ぜてくれよぉ!?」

 

 

 得意げに微笑んだのは、民間企業・悪の組織の女総帥(しゃちょう)。Z-BLUE及び私設部隊■■■■■■■■■■に所属しているクーゴの好敵手――及び、“同胞”にとっての指導者だ。

 彼女の後ろから激励を飛ばしてくるのは、悪の組織に所属する幹部たちだった。“革新者に寄り添う者”の同胞に当たる面々と、派遣社員であり■■■■■■■■■■公認の2ndチーム。

 

 

「隊長! 副隊長! 頑張ってください!」

「そちらで直接手助けができないことが無念ですが、我々も全力を尽くします!」

「副隊長ー! 戦いがひと段落したら鍋パーティーするって約束ー! 俺、楽しみに待ってますからー!」

「さっさと終わらせて帰ってきてくださいよ! あんたたちなら、それくらい楽勝でしょ!?」

 

「みんな……!」

 

 

 次に画面に映し出されたのは、自分たちと別行動をとっていた部下たちだ。Z-BLUEに合流することを選んだクーゴとグラハムの背を押してくれた戦友たち。彼らの中心で手を振るのは、クーゴとグラハムにとっての年上の親友――ビリー・カタギリだ。

 

 

「2人とも、絶対無事に帰って来てよ!」

 

「っ……! ――ああ……、ああ! 当然だ、我が友!」

 

 

 一瞬感極まったように息を詰まらせたグラハムだが、すぐに不敵な笑みを浮かべて頷き返した。

 

 

「敢えて言わせてもらおう! 『必ず帰還する』と!!」

 

 

 そう宣言した彼は、隕石へと向き直った。

 クーゴもそれに倣い、隕石へ向き直る。

 

 

「弟夫婦の結婚式を賭けられちゃ、ますます引くわけにはいかないな……! ヤンチャな義妹の願いを叶えてやるのも義兄さんの務めだ!」

 

「それでやる気になるのはどうかと思うなァ!」

 

 

 初代“狙い撃つ成層圏”に対し、2代目“狙い撃つ成層圏”がツッコミを入れた。双子の兄弟漫才は通常運転のようだ。話していることは場違いだけれども、そんな馬鹿話が出来る世の中を平和と呼ぶ。――それこそが、Z-BLUEが守ろうとしているものだった。

 「ヒトの心を繋ぐ手段(もの)は1つではない」と語った悪の組織総帥の言葉を肯定したトライア博士が微笑む。彼女は■■粒子やサイ■■波だけでなく、他の手段も用いたようだ。数多の世界が多元的に結びついたからこそできる、異世界同士の技術交流。その真髄が示される。

 フォールドクォーツを用いて作られた■■粒子の中継ステーション、“胡散臭いロボット”がため込んでいたZチップ――超高純度のDECによって生み出された精神波の領域、先の大戦で火星に残されていたZONEを用いた増幅アンプとスピーカー……文字通り、この世界の人類が持ちうる限りの手札が切られていた。

 

 集めた意志は、大特異点である隕石へと送られる。

 ここからが正念場だ。隕石を押し戻しながら、クーゴは仲間たちを見回す。

 

 

「刹那!」

 

「わかっている! ■■■■■バーストを使う!」

 

 

 アムロに名前を呼ばれた刹那が、間髪入れず機体の力を解放した。緑の粒子が吹き上がり、人々の意識をつなぐ空間が広がる。

 

 

「アルト、フォールドウェーブシステムを作動させろ! バナージ、カミーユ、俺についてこい!」

 

 

 アムロの指示を受けたアルトがシステムを起動し、カミーユが先陣を切ってアムロの元へと向かおうとする。

 だが、名前を呼ばれた2人の機体は体勢の制御に不安があるらしく、バナージが躊躇いを見せた。

 

 そのとき、アクエリオンを駆っていたアマタとガンバスターを駆っていたノリコが声をあげる。

 

 

「バナージ、EVOLの腕に捕まれ! 無限拳でユニコーンを支える!」

 

「カミーユくんはガンバスターに捕まって!」

 

 

 それを皮切りに、他の仲間たちも次々と動き出した。文字通りの総力戦。

 

 

「EVAのA.T.フィールドで壁を作ります! その間なら移動できるはずです!」

「ラムダ・ドライバも作動させる!」

「ヒビキくん!」「分かっています! ジェニオンのD・フォルトも全開で行きます!」

「蜃気楼のドルイドシステムで状況を分析し、最適なルートを算出する!」

「ゼロ、データを俺にも回せ。お前の計算とゼロシステムの予測を組み合わせれば、更に精度が上がるはずだ」

 

「みんな!」

 

「見てください! ネオ・ジオンのモビルスーツも隕石を支えようとしています!」

 

 

 ぱっと表情を輝かせたカミーユの傍にいたバナージが驚きの声をあげた。先程まで敵対していた量産型モビルスーツが、隕石を押し返そうとするZ-BLUEを手助けしに来たのだ。未来を諦めなかったZ-BLUEに感化されたのだろう。

 

 

「しかし、彼らの機体では、これ以上は……」

 

「地球が駄目になるか、ならないかなんだ!」

 

「やってみる価値はありますぜ!」

 

「お前たち……」

 

 

 しかし、援軍に加わった面々の様子を見てアムロが表情を曇らせた。そんなアムロに対して、ネオ・ジオンのパイロットたちは力強く笑い返す。

 呆気にとられたような声を漏らしたシャア・アズナブルへも、同じように笑い返していた。

 

 

「『自分のやってきたことを棚に上げて』って言うのはナシですぜ、総帥」

 

「今なら俺たちも、総帥のやろうとしたことが分かります! だから……!」

 

「……すまん」

 

「――謝るくらいなら、最初から、こんなやり方をしなけりゃいいんですよ!」

 

 

 シャアの謝罪にクーゴが既視感を抱いたとき、割り込むように響いた声があった。上司へ喝を飛ばしたのは若々しい青年士官――ギュネイで、彼の言い分(ド正論)も既視感がある。

 

 脳裏に浮かんだのは、再世戦争の頃に迷走していた相棒の姿。事実上の孤立無援状態で戦い続けていた仮面の男が、必死になって抗っていたときのことだ。精神的に追い込まれていた彼にとって『それしか選択肢が無かった』のは事実だが、それはそれとして当時の頃を『若気の至り』や『黒歴史』として認識している。

 クーゴや刹那の奔走によって相棒は“還ってこれた”。その当初も、時間が経過した今も、彼は当時のことを申し訳なさそうに謝ることがある。その度に、彼の関係者がこぞって口にする言い分(ド正論)とほぼ同じだった。クーゴがそれに思い当たるのと、ギュネイと同年代の面々が表情を輝かせて彼の名前を呼んだのはほぼ同時。

 

 

「ギュネイ、お前も来てくれたのか!」

 

「当然だ! 総帥の無茶を止めるのは俺の役目だからな!」

 

「……そうだったな」

 

 

 ギュネイは誇りと自負を持って堂々と言い切った。

 力強く微笑み返す副官の姿に感極まったのか、シャアの声が震えている。

 深い感動と感謝の念を感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 

「…………ふ」

 

「こんな状況で何笑ってるんだ」

 

「大したことではないよ。――シャア・アズナブルも、私と同じ果報者だと思っただけさ」

 

 

 柔らかな微笑を浮かべたグラハムの言葉に、思わずクーゴは面食らった。何か言い返そうとして口を開くが、結局言葉は出てこない。グラハムは上機嫌に笑うと、再び隕石へ向き直る。

 

 敵も味方も関係ない。永遠の停滞よりも、無限の未来を選んだ人々による総力戦。見ていると胸が熱くなる。クーゴはコックピットを仰いだ。隕石の表面が視界を占めていたが、視界の切れ目からわずかに宇宙が見える。自分の背中には地球があるのだと考えると、負けていられない。

 人々の心が大特異点へと集まっていく。このチャンスを逃すまいとするかのように、アムロがカミーユとバナージに呼びかけた。2人は頷き、サイコ・ウェーブでシャアをフォローする。次の瞬間、大特異点である隕石の周囲に緑の光が漂い始めた。光に触れたとき、たくさんの声が耳を打つ。頑張れ、負けるな、未来を、明日を――聞いているだけで力がみなぎってきた。

 

 

「感じる……。これが、全ての人たちの意志か……」

 

「不思議だ……。こんな状況なのに恐怖は感じない。むしろ温かくて、安心を感じるとは……」

 

「だが、この温かさを持った人間が感情を制御しきれず、自滅の道を歩んでいる……! ならば、より良き世界に導く指導者が必要になる!」

 

 

 感嘆の息を漏らすアムロとシャアを横目に、フロンタルは尚も抵抗する。しかし。

 

 

「わかってるよ! だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!」

 

 

 アムロが語気を強めて叫ぶ。より一層、緑色の光が眩く輝いた気がした。

 

 

「感じろ。これが人の心の光……未来を望む力だ!」

 

「ぐっ!!」

 

「ララァ! 私を……世界を導いてくれっ!!」

 

 

 元祖“赤い彗星”の叫びに呼応するように、彼の機体が白い光に包まれる。

 まるで、機体の背中に白鳥の羽が生えたかのようだ。

 

 

『――世界を』

 

 

 誰かが微笑む気配がしたと思った瞬間、この場は緑色の光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 ソレスタルビーイングとそれに与する面々にとって、優先すべき行動(こと)は『輸送艦(トレミー)の救出』らしい。以前からソレスタルビーイングと同盟を組んで行動していた黒の騎士団の長・ゼロ曰く、『輸送艦を失うと、自分たちは地球へ帰る術を失ってしまう』とのこと。

 元三代国家陣営、及びブリタニア帝国の将校たちをキリキリ言わせた名指揮官は、重力に囚われてしまった輸送艦(トレミー)を救出するためのプランを打ち出す。それは、“黒の騎士団の機体が有するスラッシュハーケンを輸送艦に撃ち込み、輸送艦を固定。それを、ソレスタルビーイング製のガンダムが有する能力を使って引っ張る”というものだった。

 

 そのプランを実行するためには、黒の騎士団を構成するナイトメアフレームとソレスタルビーイング製のガンダムたちが戦線から離脱する必要がある。

 現在進行形で、彼や彼女たちはスプリッターと呼ばれる異形の機動兵器に襲われている真っ最中。しかも、奴らは国連軍を瞬く間に全滅まで追いやった強敵だ。

 正直言って、新たに表れたスプリッターと奴らを率いる親玉は“この場の全戦力を投入してすら勝てるかどうかも怪しい”相手。戦力を割くことは、ジリ貧が更に酷くなることを意味していた。

 

 クーゴやグラハムも輸送艦を引き上げる側に加わったが、ぶっちゃけた話、それでも焼け石に水程度の誤差しかない。不安そうな眼差しをしている面々を見ていられなくて、クーゴは敢えて声を上げる。

 

 

「大丈夫大丈夫、いけるいける! ()()()()()()()()()()()()、輸送艦の1つくらい!」

 

「クーゴ!? キミ、こんなときに一体何を言ってるんだ!? それはあくまでも虚憶(きょおく)の話だろう!」

 

<<なんか、いつもと逆だな……>>

 

 

 周りの人々が頭に大量の疑問符を浮かべる。尚、この中にいる多くの面々は、『人の心の光/Z』の虚憶(きょおく)で共に大特異点――アクシズを押し返した者も含まれていた。

 そんな中、グラハムが眉間に皴を刻みながらツッコミを入れてきた。それを見ていた初代“狙い撃つ成層圏”と“祝福の聖歌(思考)”が異口同音で同じ感想を零したのが《聴こえる》。

 

 いつもと違うポジショニングで漫才(やりとり)が始まったことに困惑しているのか、ゼロが咳払いをして注釈をしてきた。

 

 

「……貴方が何を言っているかはよく分からないが、今回の作戦は“押し返す”のではなく“引き上げる”方だ」

 

「そうだったとしても、アクシズより規模小さいから何とかなるだろ。あれ、直系数十キロから数百キロだぞ」

 

「大特異点は“真っ二つになってない状態の奴”だから、多分一番の最大値ですよね」

 

「破壊したらエタニティ・フラット発動、落下を見送れば地球に衝突して大惨事、押し留めようとすれば次元力ブーストを悪用して邪魔してくる連中もいる」

 

「まさしく地獄絵図でした。でも、あの世界に存在する技術すべてを懸けた総力戦は大迫力でしたよ! 本当に、『人の心の光』はああいう光景を言うんだって――」

 

「――イデア、貴女も奴の言葉に同調しないでくれ! 収拾がつかなくなる!!」

 

 

 クーゴの虚憶(きょおく)話に同調したイデアだが、眉間の皴を深めた“革新者と共に歩む者”の絶叫によって中断させられる。その後ろで、グラハムが「うちのがすみません」と謝り倒していた。

 <<やっぱり、いつもと逆なんだよなあ>>――初代“狙い撃つ成層圏”と“祝福の聖歌(思考)”が訝し気に零す《聲》は、こういう状況でもはっきりと《聴き取る》ことができた。

 だが、《聴こえた》《聲》は、ソレスタルビーイングやその協力者たちだけではない。スプリッターを率いていた得体の知れない輩も、クーゴに対して視線を向けてくる。

 

 ソレスタルビーイングの協力者がクーゴへ向ける眼差しは困惑一択。

 対して、スプリッターを率いる輩がクーゴに向ける眼差しは嫌悪一択だ。

 

 

「何故だ。何故貴様は、絶望と対極的な感情を抱き続けることが出来る? 何故、その輝きを信じ続けることが出来る? ここでは意味を成さぬと知っていて」

 

「――“その光に、何もかもを焼かれた”から」

 

 

 クーゴは、奴をまっすぐ見返して、胸を張って答えた。

 

 

「何もかもを諦めて生きてきた俺にとって、虚憶(きょおく)は希望そのものだった。『人の心の光』に照らされて、焼かれて、背中を押されたから、ここまで来ることが出来たんだ。舐めるなよ」

 

 

 虚憶(きょおく)の光景が“この世界には存在しえないモノ”であることは百も承知。それでも、“ここではない何処かでは、確かにクーゴの傍に()ったモノ”だ。世界を、地球を、愛する人々を守るために立ち上がった人々の意志だ。――何処かの世界で、数多の奇跡を起こしてきた希望の原材料。

 

 先程から「絶望しろ」と強要してくる仮面の男からして見れば、希望の原材料になった数多の虚憶(きょおく)を有するクーゴは天敵みたいな存在になるのかもしれない。

 奴は再び大量のスプリッターを差し向けてきた。無理を押して戦闘を続行するヴァンアインを始めとした迎撃部隊が、輸送艦とスプリッターの間に立ちはだかる。

 彼らの獅子奮迅の活躍により、こちらにスプリッターが飛来することはなかった。勿論、前線がじり貧であることは変わりない。

 

 疲弊を訴えるパイロットの《聲》がひっきりなしに《聴こえてくる》。その度に、別の誰かが弱音を吐いた面々を叱咤激励する《聲》が響いた。

 この場にいる誰もが諦めていない。勿論、黒の騎士団のナイトメアフレームやソレスタルビーイングのガンダムと協力して、輸送艦を引き上げようとするクーゴやグラハムもだ。

 

 

「アサヒ……」

 

「もう少しだ! トレミーさえ引き上げれば!」

 

 

 黒の騎士団のエースパイロットが憂うのは、つい先程大破した機体――ヴァンアインのパイロット・アサヒのことだった。この団体の中で一番の精神的主柱を担っているのは、彼とシャッテが駆るヴァンアインらしい。クーゴにとってのグラハムみたいな存在なのだろう。

 輸送艦を引き上げる側に回った面々の表情に焦りが滲む。本当は今すぐにでも前線部隊と合流し、スプリッターを迎撃したいのだろう。<輸送艦さえ引き上げられれば>と悔しそうに零す《聲》が響き渡る。時間が経過すればするほど、彼や彼女たちの表情はどんどん陰りが見えてきた。

 

 『人の心の光』そのものまでもが陰り、枯れてしまいそうな気がする。それを黙って見ていることが出来なくて、クーゴは思案を巡らせた。

 

 

(なんでもいい。なんでもいいんだ。この状況を打破する方法を。消えかけている『人の心の光』を、もう一度灯す方法を――)

 

 

 ――そんなことを思案していたとき、クーゴの視界に飛び込んできた武装(もの)があった。

 

 

『そういえば、悪の組織の技術者が言ってたな。『クーゴのフラッグに新しい武装を追加する』って』

 

『“棒状の武装”ってこと以外、僕らには開示されてないんだよね』

 

 

 いつの間にか、機体に装備されていた兵装の1つが、機体から離れていたらしい。それはくるくる回転しながらクーゴ/GNフラッグの眼前に落ちてくる。

 使用用途、効果共に不明。ビリーでさえ『よく分からない』と言い切ってしまった未知数の装備品。今の今まで、その存在を忘れていた。

 勿論、その武装が搭載されたGNフラッグを駆るクーゴにも、まともな説明がされていない。多分、その話をしたら満場一致で『(作って搭載した人間が)頭おかしい』判定が出ることだろう。

 

 刹那が面々を叱咤激励する声は聞こえてくるものの、どこか遠い。クーゴの視線と意識は、得体の知れない棒状の武装に注がれている。――ソレは何かを主張するように、()()()()を放った。

 

 クーゴは咄嗟に、搭載された新武装――棒状のよく分からないものに手を伸ばす。スラッシュハーケンを手放したクーゴを咎める誰かの声が聞こえたような気がしたが、気にならなかった。

 導かれるように武装を握りしめ、天高く掲げる。武装の使用用途は相変わらず分からないけれど、()()()()()()()と思ったのだ。そのまま息を大きく吸い込んで、口を開く。

 

 

「国連軍のパイロット、頭大丈夫なのか!?」

 

「なんか急に歌い始めたぞ!?」

 

 

 歌うのは、遠い昔に流行った楽曲――『Beyond The Time』。クーゴが有する虚憶(きょおく)――『人の心の光/Z』と紐づくものだ。

 

 クーゴの脳裏に浮かぶのは、大特異点と化したアクシズをZ-BULE全員で押し返したときの虚憶(きょおく)だった。“人の総意の器”を自称する空っぽな男・フロンタルと、“人の総意の器”として未来を求めて立ち上がったシャアの意志がぶつかり合う。

 負ければ時の牢獄に閉じ込められて永遠の停滞に囚われる。失敗すれば巨大隕石の激突によって地球は駄目になってしまう。地球を――愛する人を守るためには、勝利以外に道はない。状況はあちらの方が切迫していたけれど、“勝利以外に道は無い”のはこちらだって同じことだ。

 

 

「――旗?」

 

 

 クーゴが掲げる武装を見て、そんな感想を零したのは誰だったのか。あまりにも遠くから聞こえてきた声のため、判別が出来なかった。

 間髪入れずに響いたのは、()()()()()()()()()()()――けれど、()()()()()()()()()()()()()“誰か”の《聲》。

 そちらはハッキリと《聴こえた》から、該当者の名前はすぐに分かった。ふたご座に関するスフィアの所有者と、その相棒である女性教師。

 

 

<ヒビキくん!>

<分かっています! ジェニオンのD・フォルトも全開で行きます!>

 

「――え?」

 

 

 輸送艦に乗っていたオペレーターが、素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 グラハム・エーカーと刹那・F・セイエイの戦いは、後者の勝利によって決着が付いた。決まり手は刹那のガンダムが有していた実体剣である。……最も、クーゴから見れば、2人の一騎打ちによる真剣勝負は“世界の命運を左右する惚気話”でしかないのだが。

 戦いが始まる寸前から、2人の惚気は始まっていた。ディヴァイン・ドゥアーズは刹那とグラハムの関係性を深く把握していなかったのか、2人のやり取りを見ても頭に疑問符を浮かべる者たちが多かった。理解した者たちから順番に、チベットスナギツネみたいな顔をするようになったけど。

 

 ディヴァイン・ドゥアーズの大半が生暖かい目になったのと、刹那とグラハムが『生きて世界と互いを見つめ続ける』という最大の惚気を披露したのはほぼ同時。

 

 <あーはいはい、ごちそうさまでしたー>というやる気のない棒読みが四方八方から《聴こえてきた》。尚、原因になったバカップルたちは、周囲の空気をいまいち理解しきれていない。

 今度は刹那とグラハムが頭に疑問符を浮かべる側だった。別の意味で疲れ切ってしまったディヴァイン・ドゥアーズは、敢えてそれを掘り返すような真似はしなかったようだ。

 中には、クーゴに対して同情的な眼差しを向けてくる者もいる。クーゴもまた、曖昧な笑みを浮かべて沈黙することで誤魔化した。蒸し返すだけ野暮と言うものだから。

 

 

「遠い、な」

 

 

 ぽつりと、グラハムが呟く声がした。彼の心情に呼応するかのように、グラハムのGNフラッグがゆっくりと腕を伸ばす。その先には、悠然と佇む刹那のガンダムがあった。

 「まだまだ修行が足りないか」とグラハムは笑っていた。敗北者だというのに、その横顔は晴れ晴れとしている。彼は、ガンダムに届く/触れる直前で、静かに手を下した。

 

 

「……いいのか?」

 

「ああ。これでいい。これが、私の――私たちの選んだ答えなんだ」

 

 

 クーゴの問いに、グラハムが曇りなき笑みを浮かべて頷いたのが《視えた》。視線をガンダムへ向ければ、刹那が静かな面持ちで頷くのが《視える》。それを真正面から見据えて、ようやくクーゴは安堵の息を吐くことが出来た。

 

 

(いつぞや《視た》虚憶(きょおく)のようにならなくて、本当に良かった)

 

 

 脳裏に浮かぶのは、とある虚憶(きょおく)――ガンダムへの執着へと舵を切ったグラハムが迷走を繰り広げた挙句、暴走に転じ、刹那と殺し合いを演じるような道へと転がり落ちていくまでの過程。

 クーゴが《辿れた》のは“グラハムを止めようとした結果、刹那とグラハムからの攻撃を喰らって撃墜される”地点まで。その後2人がどうなったかまでは不明だ。正気に戻ってほしいが、果たしてどうなったのか。

 

 この世界のグラハムは、ただ真っすぐに刹那を見つめていた。“彼女の好敵手として相応しくありたい”という望みを胸に抱き、求道者の如くストイックに驀進し続けた。

 虚憶(きょおく)で見たような歪みなど、透き通った翠緑からは一切感じなかった。確かに闘志は燃えていたけれど、彼の心持は非常に凪いでいたように思う。

 遠い昔、クーゴに対して『待っている』と笑いかけてくれたグラハム・エーカーと変わらない。そのまばゆさに、思わず目を細める。

 

 

「さーて、そろそろ帰るか」

 

「ああ、世話になるな」

 

「いいってことよ」

 

 

 クーゴに声をかけられたグラハムが苦笑する。それを涼しく流して、満身創痍のGNフラッグの元へと近づいた。

 このままグラハムの機体を引っ張って撤退し、旗本艦へと帰投するためだ。

 

 

<――、―――!!>

 

 

 不意に、誰かが何かを叫ぶ《聲》が《聴こえた》ような気がした。

 

 何を言っているのか、うまく《聴き取れない》。ただ、そこに何が込められていたかは《理解した》。向けられた感情も、誰に対する感情かも。

 簡単なことだ。それは、幼い頃からずっとクーゴに向けられてきたものだ。蒼海がずっと、クーゴに向けてきたものだ。

 

 

<憎い>

 

 

 今度ははっきりと《聴き取れた》。そして、そのタイミングを待っていたかのように、レーダーがけたたましく鳴り響く!

 

 

<私の世界に、この決着(すじがき)はいらない>

 

 

 何事かと、刹那とグラハムが振り返る。

 

 

<――修正を>

 

 

 間髪入れず、向う側から大量の光が、ガンダムとGNフラッグに向かって降り注いだ!

 

 大破していたグラハム機は当然動かない。異変に気づいたとしても、何の抵抗もできぬまま光に飲まれて大破する――そんな末路があった。

 あまりにも咄嗟の出来事。離れた場所から刹那/ガンダムとグラハム/GNフラッグの戦いを見守っていたディヴァイン・ドゥアーズでは間に合わない!!

 

 

「させて、たまるかぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 クーゴが叫んだ刹那、視界いっぱいに()()()が爆ぜた。

 

 速度計のメーターが振り切れ、自分の眼前にいたガンダムとGNフラッグを追い抜き、クーゴのGNフラッグが2機/2人の前に躍り出る。蒼海の悪意を受け止めるには役として不足であるということは自覚しているけれど、その悪意に友人たちを巻き込みたいとは思わなかった。

 “今まで目を逸らしてきたツケなんだろう”と自嘲する自分がいる。だからこそ、今度は目を逸らすことなく、逃げることなく、向かい合わなくてはならないのだ。決意を抱き、クーゴは紫の光と向き合う。ガーベラストレートとタイガー・ピアスを鞘から引き抜き、構えた。

 

 無謀だと誰かは言うだろう。あるいは、嗤うのだろう。

 それでも、それでも。今、この瞬間は。

 決して逃げてはいけない、と、クーゴは強くそう感じたのだ。

 

 この場で戦っていた2人は、姉の玩具ではないのだから。

 

 

「クーゴ!?」

 

「クーゴ・ハガネ!?」

 

 

 背後から、グラハムと刹那の声が聞こえた気がした。驚きに満ちた表情を浮かべた2人の顔が、クーゴの視界の端にちらついて《視える》。それごと振り切るようにして、クーゴはガーベラストレートとタイガー・ピアスを振るった。コンマ数秒のタイミングでの居合斬りは、ビームを真っ二つに切り裂いた。

 以前、ビームガンの弾丸を切り捨てたのと同じ原理である。クーゴのGNフラッグは背後の2機/2人を庇いつつ、ガーベラストレートとタイガー・ピアスを振るい、攻撃を相殺していく。1回、2回、3回、4回――ビームを叩き斬り、火花が飛び散っていく。5回、6回、7回、8回――防戦一方というのも辛いものがあった。

 

 しかし、攻撃を切り捨て/グラハムのGNフラッグと刹那のガンダムを庇いつつ、GNフラッグは悪意の元――蒼海の元へと距離を縮めていく。

 

 思い出すのは、いつぞやの対面。母に言われるがまま、実家の剣道場で剣を振るいあった試合の光景だった。もっとも、遠距離から一方的にクーゴを攻撃できる蒼海の方が有利である。援護なしに彼女の元へ突っ込むクーゴが無謀だと言えよう。

 普通はどう考えたって、こんな戦法を取ろうとはしない。でも、それ以外、今の自分には何も思いつかなかった。姉と対峙するためには、真っ向勝負以外あり得ないと思ってしまったのだ。……本当に、馬鹿な話である。

 

 ビームを切る。何度も切る。相棒と相棒の愛する人を守るために。あるいは、姉の喉元に迫るために。

 1回、2回、3回、4回――いつしか、切り捨てた攻撃の数を、数えることすら忘れてしまった。

 宇宙の闇の中に、薄らぼんやりと機影が見えた。大きさからして、MSというよりMAと言った方が正しいだろう。

 

 

(こんな機体、いつの間に用意してたんだよ……!?)

 

 

 GNフラッグがMAへ迫る。MAも、GNフラッグ――クーゴを視認したようだ。カメラアイがほんの少し動き、クーゴ/GNフラッグを捉える。しかし、MAはおもむろに視線を逸らした。視線の先には、唖然とこちらを眺めるグラハムのGNフラッグと刹那のガンダムがいた。

 視界の向う側で、ばちり、と光が爆ぜた。MAが、主砲を発射するためのエネルギーを充填し終えたらしい。しかも、規模からして、クーゴに向かって攻撃してきたビーム砲よりも出力が高いものだ。照準の先には、グラハム/GNフラッグと刹那/ガンダム。

 チャージされていく紫の光は遠くからでも視認できるほど大きい。下手すれば、刹那やグラハムだけでなく、この場に居合わせているディヴァイン・ドゥアーズの機体も範囲内だろう。――それが何を意味しているか分からない程、クーゴは愚鈍ではない。しかし、それを黙って見過ごせる程、クーゴは非情になりきれなかった。

 

 即座に方向変換し、再び2機の前に立ちふさがる。そして、蒼海の悪意と対峙した。クーゴの刃と蒼海の砲撃が激しくぶつかり合う!

 

 

「ぐ……!」

 

 

 機体に衝撃がかかった。ガーベラストレートとタイガー・ピアスが悲鳴を上げる。みしり、と、何かが軋む音がした。

 直後、ガーベラストレートとタイガー・ピアスの刀身が真っ二つに割れた。射撃系レーザー兵器すら真っ二つにする刃は、度重なる攻撃をいなすうちにひび割れていたらしい。

 

 

「しまった!」

 

 

 慣れ親しんだ接近戦武装が失われる。MAはそんなクーゴを尻目に、次弾の準備(チャージ)を進めていた。

 コンマ数秒の間に脳裏をよぎったのは、フラッグの調整をしていたビリーの言葉。

 

 

『そういえば、悪の組織の技術者が言ってたな。『クーゴのフラッグに新しい武装を追加する』って』

 

『“棒状の武装”ってこと以外、僕らには開示されてないんだよね』

 

 

 クーゴは咄嗟に、搭載された新武装――棒状のよく分からないものを構えた。

 

 使用用途も効果も何もかもが不明。縋るにしては全くもって頼りない、謎のナニカ。

 だが、今この場で“役に立ちそう”な近接武装はこれしかない。

 うんともすんとも言わないただの棒を握りしめて、クーゴは叫ぶ。

 

 

「なんとか……っ、なんとかなれぇぇ――――ッ!!」

 

 

 次の瞬間、毒々しい紫の光が、クーゴの視界いっぱい/GNフラッグに炸裂した。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 数多の虚憶(きょおく)に背中を押され、宇宙を駆けてどれ程の時間が過ぎ去ったのか。

 

 

<――、―――!!>

 

 

 不意に、誰かが何かを叫ぶ声が《聴こえた》ような気がした。

 何を言っているのか、うまく《聴き取れない》。

 

 ノイズまみれの光景が、クーゴの頭の中に浮かぶ。

 

 宇宙空間、神聖な戦い、決着、2人の出した答え。

 その先を――クーゴは、《識っている》。

 

 

(ッ、間に合え! 間に合ってくれ!!)

 

 

 クーゴの気持ちに比例するかのように、GNフラッグは速度を上げた。気のせいか、クーゴのGNフラッグも何か焦っているように感じる。

 

 不意に、視界が開けた。その先に見えたのは、グラハムの翔るGNフラッグと刹那の翔るガンダムエクシア。損傷度合いといい、決着の様子といい、その軍配といい、先程クーゴ/GNフラッグが《視た》光景と似ている。

 2人の奥にある宇宙空域に視線を向ける。かなり遠くに、グラハム/GNフラッグと刹那/ガンダムエクシアに狙いを定める存在が《伺えた》。奴は、明らかに2人へと照準を合わせていた。そのタイミングを待っていたとでもいうかのように、レーダーがけたたましく鳴り響く!

 

 

<憎い>

 

 

 《聲》の主こそ、蒼海だ。

 やはり、クーゴの予感は的中していたらしい。

 

 

<私の世界に、この決着(すじがき)はいらない>

 

 

 間髪入れず、向う側から大量の光が、ガンダムとGNフラッグに向かって降り注いだ!

 

 

<――修正を>

 

 

 何事かと、刹那とグラハムが振り返る。回避しようにも、刹那/ガンダムならまだしも、満身創痍のグラハム/GNフラッグが回避することなど不可能であった。

 刹那/ガンダムがグラハム/GNフラッグを守ろうと動いた。先程《視た》虚憶(きょおく)の光景でも、刹那/ガンダムがグラハム/GNフラッグを庇っていたことを思い出す。

 虚憶(きょおく)の中で、刹那/ガンダムはグラハム/GNフラッグを庇ったものの、共々撃墜されてしまっていた。クーゴはそれと同じ轍を踏みたいとは思わない。

 

 どこかで姉が嗤ったのが《視えた》。

 

 彼女の願いは叶えられる。刹那とグラハムの死をもって。

 そんなこと、絶対に。

 

 

「させて、たまるかぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 クーゴが叫んだ刹那、視界いっぱいに()()()が爆ぜた。

 

 速度計のメーターが振り切れ、自分の眼前にいたガンダムとGNフラッグを追い抜き、クーゴのGNフラッグが2機/2人の前に躍り出る。蒼海の悪意を受け止めるには役として不足であるということは自覚しているけれど、その悪意に友人たちを巻き込みたいとは思わなかった。

 “今まで目を逸らしてきたツケなんだろう”と自嘲する自分がいる。だからこそ、今度は目を逸らすことなく、逃げることなく、向かい合わなくてはならないのだ。決意を抱き、クーゴは紫の光と向き合う。ガーベラストレートとタイガー・ピアスを鞘から引き抜き、構えた。

 

 無謀だと誰かは言うだろう。あるいは、嗤うのだろう。

 それでも、それでも。今、この瞬間は。

 決して逃げてはいけない、と、クーゴは強くそう感じたのだ。

 

 この場で戦っていた2人は、姉の玩具ではないのだから。

 

 

「クーゴ!?」

 

「クーゴ・ハガネ!?」

 

 

 背後から、グラハムと刹那の声が聞こえた気がした。驚きに満ちた表情を浮かべた2人の顔が、クーゴの視界の端にちらついて《視える》。それごと振り切るようにして、クーゴはガーベラストレートとタイガー・ピアスを振るった。コンマ数秒のタイミングでの居合斬りは、ビームを真っ二つに切り裂いた。

 以前、ビームガンの弾丸を切り捨てたのと同じ原理である。クーゴのGNフラッグは背後の2機/2人を庇いつつ、ガーベラストレートとタイガー・ピアスを振るい、攻撃を相殺していく。1回、2回、3回、4回――ビームを叩き斬り、火花が飛び散っていく。5回、6回、7回、8回――防戦一方というのも辛いものがあった。

 

 しかし、攻撃を切り捨て/グラハムのGNフラッグと刹那のガンダムを庇いつつ、GNフラッグは悪意の元――蒼海の元へと距離を縮めていく。

 

 思い出すのは、いつぞやの対面。母に言われるがまま、実家の剣道場で剣を振るいあった試合の光景だった。もっとも、遠距離から一方的にクーゴを攻撃できる蒼海の方が有利である。援護なしに彼女の元へ突っ込むクーゴが無謀だと言えよう。

 普通はどう考えたって、こんな戦法を取ろうとはしない。でも、それ以外、今の自分には何も思いつかなかった。姉と対峙するためには、真っ向勝負以外あり得ないと思ってしまったのだ。……本当に、馬鹿な話である。

 

 ビームを切る。何度も切る。相棒と相棒の愛する人を守るために。あるいは、姉の喉元に迫るために。

 1回、2回、3回、4回――いつしか、切り捨てた攻撃の数を、数えることすら忘れてしまった。

 宇宙の闇の中に、薄らぼんやりと機影が見えた。大きさからして、MSというよりMAと言った方が正しいだろう。

 

 毒々しい赤紫。鳥を思わせるようなそのMAは、見覚えがあった。

 

 

(あの機体、タクマラカン砂漠で見たあのMAじゃないか!)

 

 

 PMCトラストのイナクトと戦っていたときに乱入し、クーゴのフラッグに襲い掛かってきた機体だ。やはり、あの砂漠――アザディスタンの王宮で攻撃を仕掛けたMAは、蒼海の機体だったようだ。

 GNフラッグがMAへ迫る。MAも、GNフラッグ――クーゴを視認したようだ。カメラアイがほんの少し動き、クーゴ/GNフラッグを捉える。しかし、MAはおもむろに視線を逸らした。視線の先には、唖然とこちらを眺めるグラハムのGNフラッグと刹那のガンダムがいた。

 視界の向う側で、ばちり、と光が爆ぜた。MAが、主砲を発射するためのエネルギーを充填し終えたらしい。しかも、規模からして、クーゴに向かって攻撃してきたビーム砲よりも出力が高いものだ。照準の先には、グラハム/GNフラッグと刹那/ガンダム。

 

 それが何を意味しているか分からない程、クーゴは愚鈍ではない。

 しかし、それを黙って見過ごせる程、クーゴは非情になりきれなかった。

 

 即座に方向変換し、再び2機の前に立ちふさがる。そして、蒼海の悪意と対峙した。クーゴの刃と蒼海の砲撃が激しくぶつかり合う!

 

 

「ぐ……!」

 

 

 機体に衝撃がかかった。ガーベラストレートとタイガー・ピアスが悲鳴を上げる。みしり、と、何かが軋む音がした。

 直後、ガーベラストレートとタイガー・ピアスの刀身が真っ二つに割れた。射撃系レーザー兵器すら真っ二つにする刃は、度重なる攻撃をいなすうちにひび割れていたらしい。

 

 

「しまった!」

 

 

 慣れ親しんだ接近戦武装が失われる。MAはそんなクーゴを尻目に、次弾の準備(チャージ)を進めていた。

 コンマ数秒の間に脳裏をよぎったのは、フラッグの調整をしていたビリーの言葉。

 

 

『そういえば、ノーヴル博士が言ってたな。『クーゴのフラッグに新しい武装を追加する』って』

 

『“棒状の武装”ってこと以外、僕らには開示されてないんだよね』

 

 

 クーゴは咄嗟に、搭載された新武装――棒状のよく分からないものを構えた。

 

 使用用途も効果も何もかもが不明。縋るにしては全くもって頼りない、謎のナニカ。

 だが、今この場で“役に立ちそう”な近接武装はこれしかない。

 うんともすんとも言わないただの棒を握りしめて、クーゴは叫ぶ。

 

 

「なんとか……っ、なんとかなれぇぇ――――ッ!!」

 

 

 次の瞬間、毒々しい紫の光が、クーゴの視界いっぱい/GNフラッグに炸裂した。

 

 

「うわぁぁぁぁあああああッ!!」

 

 

 身を焼くような、あるいは潰されるような、もしくは引きちぎられるような、言葉にするのが不可能なほどの衝戟。

 四方八方から爆発音が響いたのを最後に、クーゴの意識は一気に白い光に飲み込まれた。

 

 

<クーゴ!>

<クーゴ・ハガネ!>

 

 

 グラハムと刹那の金切り《聲》が耳を掠めたような気がする。瞬く間に、視界が黒に染まった。

 体の感覚まで焼き切れ、潰され、引きちぎられてしまったためなのか、何も感じなくなる。

 

 右も左も上も下も、何もない。自分がどんな体勢なのかも忘れてしまった。漂っているのか、沈んでいるのか、判別がつかない。

 ――不意に、手を掴まれたように、がくんと体が揺れた。利き手を覆うのは、優しい温もり。

 

 

<大丈夫。……私が、貴方を死なせません。クーゴさん>

 

<今度は僕が、貴方を助けます>

 

 

 どこか、暗闇の向う側から、誰かの声が《聴こえた》気がした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 自分たちに降り注ぐはずだった砲撃は、この場一帯に輝く青い光によって防がれた。

 正確に言えば、『グラハムと刹那の眼前ではためく“旗”』によって。

 

 彼の『なんとかなれ』の叫びに応えたのは、用途不明の棒――蒼く煌めく御旗だった。

 

 それと引き換えになったと言わんばかりに、クーゴのGNフラッグが大破する。砲撃の威力もあってか、機体はそのまま宇宙の彼方へと吹き飛ばされた。

 友人の悲鳴が木霊する中で、グラハムは何もできなかった。ただ、茫然と、その光景を眺めていた。手を伸ばすことも、彼の名を呼ぶことも叶わないまま。

 GNフラッグが纏っていた青い光が遠くで瞬いていたが、それすらも、闇にまぎれるようにして消えてしまう。呼応するかのように、蒼い御旗の光も消え去った。

 

 

(あの光は、クーゴの――彼の、命だ)

 

 

 グラハムは、本能的に感じ取る。光が消えたということは、即ち――。

 

 グラハムの予想を肯定するかのように、“誰か”が笑った気配がした。

 この世の幸せを手にしたかのような、恍惚とした笑み。

 

 

<ああ、やっと死んだのね>

 

 

 《聴こえてきた》《聲》に、ぞっとした。女性の言葉に、グラハムは背筋を震わせる。

 

 

<邪魔なゴミがいなくなった>

 

 

 女は笑う。積年の恨みを晴らし、望みを叶えたかのように。

 どこまでも歪んだ表情で、クーゴの死を喜んでいた。

 

 

<アレが、他人を優先するような性格で本当に良かった。グラハム・エーカーを狙えば、奴を庇おうとすることは分かっていたし>

 

 

 その言葉に、グラハムは目を剥く。

 

 満身創痍の自分たちに向けられた攻撃。クーゴはそれからグラハムたちを庇うような形で撃墜された。それが、クーゴの性格を理解したうえで仕組まれたものだったと知って、黙っていられるはずがない。

 

 

「――ッ!」

 

 

 グラハムの感情に呼応するように、機能の大半を停止していたはずのGNフラッグが動く。と言っても、方向変換し、友を屠った相手を睨みつけるのが精一杯であったが。

 鳥を思わせるような巨大MA。先程《視た》金色のもの――刹那/ガンダムが屠った相手とは、規模も、感情の大きさも違った。カメラアイが不気味な輝きを湛える。

 次の瞬間、宇宙の闇に紫の光が爆ぜた。先程クーゴを屠った紫のレーザー砲が、グラハムのGNフラッグ目がけて降り注ぐ!!

 

 満身創痍のフラッグでは、躱すことなど不可能だ。逃れる術など、今のグラハム/GNフラッグは持っていない。

 

 異変に気づいたとしても、何の抵抗もできぬまま光に飲まれて大破する――そんな末路があった。

 だが、その未来を覆せる機体が近くにいた。満身創痍でありながらも、何の問題もなく動ける機体/人物が。

 

 

「ッ、グラハム!!」

 

 

 刹那/ガンダムが、GNフラッグの元へと飛び出した。降り注いだ光が迫る中、ガンダムがグラハムのGNフラッグを庇うようにして突き飛ばす。そのタッチの差が、グラハム/GNフラッグの運命を分けた。

 しかし、それが――刹那/ガンダムがグラハム/GNフラッグに降りかかるはずだった一撃に晒される原因となる。ほんの一瞬、必死の形相をした刹那の表情が《視えた》。グラハムは、茫然と彼女の表情を《視て》いた。

 

 

「刹那――!?」

 

 

 グラハムが手を伸ばしながら叫んだとき、間髪入れず、悪意が天使へ襲い掛かる!!

 毒々しい紫の光が、グラハムの翔るGNフラッグごと、刹那のガンダムを焼き払った。

 爆ぜた光、機体を震撼させる衝戟、体に襲い掛かる痛み。

 

 

「「うわあああああああああああああああああッ!!」」

 

 

 自分の悲鳴と重なるように、刹那の悲鳴が木霊する。

 

 耳をつんざくような爆発音が響き渡り、グラハムの意識はそこで断線した。

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