問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season> 作:白鷺 葵
1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。
10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。
上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。
ネーナ・トリニティはガクガク震えていた。情けない顔をして、ただ、自分に襲い来る恐怖を見上げていた。
頼りになる兄たちは別の敵と戦っている。今すぐこの場から離脱したいが、ネーナには引けない理由があった。前門の虎後門の狼よろしくな状態だからだ。といっても、後ろにいるのは狼よりも非力な存在であるが。
自分の後ろには、自分よりも明らかに年下の少年少女たちが脅えるようにして身を固めあってる。彼らもネーナと同じように、自分たちの身に迫る恐怖のせいで足がすくんでしまったのだろう。
彼らを守れる距離にいるのはネーナだけだ。どうにかできるのもネーナだけだ。だから、何とかしなくちゃいけない。伊達にガンダムマイスターとしての戦闘訓練を受けてきたわけではないのだ。
震える体を叱咤し、ネーナは構えを取る。生身の格闘戦、経験は浅い。
それでも、それでも。
「う……」
震えながらも、ネーナはキッと眦を釣り上げた。瞳には涙がにじんでいる。
数分前までの自分なら「無様だ」と笑うのだろう。自分ならスマートにやり通せる、と。
だが、それがなんだ。
無様でもいい。
どれ程の無様をさらしたって、守りたいものがあるのだ。
「うああああああああああああああああああああああああああああーッ!!」
ネーナは咆哮し、駆け出す。敵もまた、ネーナに標的を定めて突っ込んでくる。
ネーナは強く握りしめた拳を振りかぶる。敵の腹めがけて、思いっきり叩き込んだ!
鈍い衝撃が拳を伝う。手がびりびりとしびれるような感覚に、ネーナは顔をしかめる。敵は、どうなったのだろう。
手ごたえは、おそらく、ある。しかし、敵は微動だにしなかった。この場にいる全員が、固唾を飲んで自分たちを見守っている。
ややあって。敵の巨体がぐらりと傾いた。そのまま崩れ落ちる。地を揺るがすような音を立てて、敵は倒れた。土ぼこりが舞う。
2メートルはあろうかと思われる程の、イノシシ。それが、敵の正体だ。
ぜー、ぜー、と、ネーナは荒い息を吐きだした。嫌な感触が手に残っている。まだ、体が震えていた。
「ネーナ!」
「ネーナ、無事か!?」
ヨハンとミハエルが駆け寄ってくる。兄たちを見ていたら、ひどく安心した。体から力が抜け、ネーナは地面に尻餅をつく。
後ろにいた子どもたちを見れば、全員が無事だ。もう一度兄たちへ視線を戻す。兄の後ろには、これまた2メートル近いイノシシが2匹、大地に倒れ伏していた。
兄妹3人が顔を見合わせ、後ろにいた子どもたちへ視線を戻した。彼らは宝石のように輝く笑みを浮かべ、自分たちへと駆け寄ってきた。
「ネーナおねーちゃん、すごーい!」
「ヨハンにーちゃん、かっこいいー!」
「さっすが、ミハエルにいちゃーん!」
「ありがとう! お兄ちゃん達、すごいよー!」
わいわいきゃあきゃあ。子どもたちの笑い声を聞くと、嬉しさと充実感に胸が満たされていく。こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
「よかった。キミたちに何かあったら、我々は“教官”に合わせる顔がないからな」
ヨハンは穏やかな微笑を浮かべ、子どもたちの頭を撫でる。
「よっしゃあ! 今日はボタン鍋だ!」
ミハエルは満面の笑みを浮かべて、イノシシを担ぎ上げる。やや重そうにしているが、子どもたちの前だからと頑張っているのだろう。
それを察したヨハンがミハエルに駆け寄った。どちらがどれを持つかの話し合いをしていたが、最終的にはミハイルが1匹、ヨハンが2匹を持つことになったようだ。
「ネーナ、よく頑張ったな」
「すごいぞネーナ! 流石だな!」
「えへへ……」
兄たちからも褒められた。ネーナは自然と頬が緩むのを感じる。
見上げれば、自分が仕留めたイノシシが白目を剥いていた。今日はご馳走である。
子どもたちと一緒に帰路につく。やや起伏のある山道を歩いて、孤児院へと向かう。その間、兄妹と子どもたちは上機嫌であった。
この村ではイノシシはご馳走である。他にも野生動物が獲れるし、野生種として生息している木の実も豊富だ。
子どもたちだけでなく、孤児院の職員たちも喜んでくれるだろう。うまくいけば、ネーナたちの“教官”を驚かせることもできるかもしれない。
顔を仮面(ヘルメットに近い形状なので、正直ヘルメット表記の方がいいのかもしれない)で隠し、あまり表情に変化がない“教官”。彼の表情が変わるときを、是非とも見てみたいものだ。
(“教官”と会ってから、本当にいろんなことがあったなぁ)
兄や子どもたちと談笑しつつ、ネーナは過去へと思いを馳せる。思い出すのは専ら、“教官”と出会う直前と出会った直後の出来事だ。
自分たちはガンダムマイスターになるために生まれた。頭や体を弄られ、戦闘に関する知識や技術ばかり学ばされた。訓練の大半も、破壊活動に近いものだった。
出自が出自ということもあり、ネーナたち3兄妹の身体能力は並大抵の人間より上の方である。故に、自分たちが誰かの下につくことなんて考えたことすらなかった。
『今日からキミたちの教官になる者だ。宜しく頼むよ』
“教官”は、ある日突然現れた。ヘルメットに近い形状の仮面を被った不審者――それが、ネーナ・トリニティが“教官”に対して抱いた第一印象である。今考えれば黒歴史も甚だしいし、“教官”側から見たネーナの第一印象についての話を聞くのが怖くて仕方ない。自分にとっての彼が心象最悪だったのだ、向こうも似たようなものだったろう。
ヴェーダに登録されていないガンダムマイスターであるトリニティ兄妹が言えることではないが、“教官”の出現は自分たちにとってイレギュラーだった。真面目故に従う素振りを見せたのがヨハン、最初から反発心を剥き出しにしていたのがミハエルとネーナである。
当時のネーナとミハエルは“教官”のことを侮っていたし、兄妹がかりで叩きのめせば尻尾を撒いて逃げていくと思っていた。渋るヨハンに頼み込み、“教官”に宣戦布告したときのことはよく覚えている。“教官”は二つ返事で了承し、3対1の模擬戦で勝負することとなったのだ。
賭けた条件は非常にシンプル。トリニティ兄妹が“教官”に勝利したら、“教官”は教官の任を解かれる。
もしも“教官”がトリニティ兄妹に勝利したら、彼を教官として受け入れるというものだった。
『あ、ああ、あああ……っ』
『な、何も出来なかった……。俺たち、ガンダムマイスターなのに……!』
『こんな……こんな、ことが――!』
――ものの数分で、自分たちは敗北した。
『力押しだけしか能がない、武装の扱い方も洗練されていない、精神が未熟故に平静でいられない』
『何もかもが論外だ。これでガンダムマイスターを名乗られちゃ、面汚しか恥晒し程度にしかなれないだろう』
『――キミたちはみんな、最初からやり直しだ!!』
散々嬲られた果てに四肢を切断され、大地に転がされたのである。
緑色の粒子を撒き散らしながら降り立つ機体は、驕り高ぶる天使に対して罰を降そうとするかの風体だった。
今でも忘れられない。自律型兵器の矛先がコックピットに向けられているのに、こちら側は何もできない恐怖と無力感。
(“教官”の機体、多種多様な用途で展開できる自立型兵装をフルに使うタイプだったっけ。ミハ兄のファングでさえ6機と隠しの2機なのに、あの人12機を一度に操作するとか、とんでもなくない??)
黒歴史当時に行われた模擬戦の1つを思い出し、ネーナは頭が痛くなった。自立型兵器が張ったバリアによって拘束された挙句、四肢切断されたときの試合。『本来ならあの後コックピットを狙撃してた』と涼しい顔で言われたときのことは今でも思い出せる。
ネーナの機体――スローネドライは、GNコンデンサーによる粒子供給によって兄の機体を支援することに特化した機体である。そのため、精密狙撃と大火力砲撃の複合型であるアインや近接格闘から自立型兵器による中距離戦をこなせるツヴァイと比較し、武装が貧弱だった。
そのため、兄の機体が先に倒されたり、兄の機体と引き離された上で“教官”との一騎打ちに持ち込まれた場合、碌な抵抗手段がなかった。そのことを指摘されながらダルマにされ、地面に転がされた回数は数知れず。不平不満を訴えて模擬戦する度にこうなれば、分からせようと思う気持ちも萎えるというもの。
ヨハンが尊敬、ミハエルとネーナが畏怖と傍観の眼差しを“教官”へ向け始めた頃に、彼はトリニティ兄妹を地上へ連れ出した。連れてこられた場所は、ド田舎と言っても差支えない山の中。中規模の孤児院で寝泊まりすることになったのだ。近くには大規模な農場があり、季節によっては様々な野菜や花、酪農品などを生産していた。
連れてこられて早々、子どもたちの遊び相手や農場の手伝いを言い渡されたときは『どうしてやろうか』と本気で思った。慣れないうちは子どもの相手も農作業の手伝いも大変だったけれど、その度に、“教官”を始めとした誰かが声をかけてくれた。問題があれば指摘して叱ってくれたし、間違いは正してくれたし、上手くいくと感謝と称賛の言葉をくれた。
子どもたちは「おねーちゃん」とネーナを慕ってくれたし、「おにーちゃん」と、ヨハンとミハエルを慕ってくれた。酪農や農場の関係者たちも、『みんなが来てくれたおかげで作業が捗る。本当にありがとう』と笑い、規格外品の収穫物を譲ってくれたり、それを使った料理を振る舞ってくれた。職員の人たちも、3人に優しくしてくれたのだ。
(みんなと食べた規格外の野菜、凄く美味しかったなぁ。収穫物の大半がくずや規格外になっちゃうって知ったときは『好き嫌いなんてしてられない』って思ったし、『店頭に並ぶ野菜がどれ程のエリートか』ってのを思い知ったっけ)
“教官”に喧嘩を売っていた頃のトリニティ兄妹を野菜に例えたならば、ヨハンが規格内エリートで、ミハエルとネーナはくず野菜だろう。
いや、くず野菜と同格に考えることこそ、くず野菜に対して失礼だ。“くず野菜にすらなれないナニカ”と評する方が近いのかもしれない。
尚、ヨハンに『自分を野菜の規格に例えるなら』と質問した際、彼は迷うことなく『“くず野菜にすらなれないナニカ”』と返答していた。謙虚な兄である。
今のネーナたちはまだまだ未熟だけれど、せめて規格外くらいにはなれただろうか。
そんな経験を経た自分たちが、みんなへ心を許すまでに時間はかからなかった。
同時に、そんな機会をくれた“教官”に感謝した。当然のことである。
『ヨハン。指揮官としての作戦立案は見事だ。ただ、突発的な事態に対する動揺への対応力を身につけなければ、部隊の全滅にも繋がりかねない。とにかく経験を積まなければな』
『ミハエル。ファングの使い方、以前よりも洗練されてきたな。ただ、“近接戦闘をファングの目くらましに使う”以外の動きも織り交ぜないとすぐに見破られるぞ』
『ネーナ。兄2人が先に倒されても戦闘を放棄せず、最後まで勝機を探し続けた姿勢は素晴らしい。ただ、GN粒子貯蔵量の管理がまだ甘いのが課題だな』
“教官”は3人の動きをよく見ていたし、良い所も悪い所も見つけて教えてくれる。そのすべてが的を射たものだったし、そこを改善するだけでも、自分自身の成長を実感できた。
特にシミュレーターでの対戦成績は目に見えて良くなったし、“教官”との模擬戦――特に逃走不可能や殿戦という条件付きのもの――では、段階的に“教官”の本気を解放させつつある。
(いつか、本当の意味で『一緒に肩を並べて戦える』ような関係になれるかなぁ)
そう思っていたときだった。
数メートル先の藪がガザガザと音を立てた。全員が思わず身構える。先程の熊やイノシシが現れたときの予兆と同じだからだ。
子どもたちが兄妹の背中に隠れる。彼らを庇いながら、兄妹は藪を睨みつけた。また何か出てくるのだろうか。
「ああ、キミたちか」
藪の中から出てきたのは、ほぼヘルメットに近い形の仮面をつけた青年――“教官”だった。一つに束ねたクロームオレンジが夕日に照らされ煌めいている。白い肌に映えるような出で立ちであった。
面々は、彼の姿に息を飲んだ。彼の佇まいから漂う優雅さだけでなく、彼の状況とのアンバランスさに。
“教官”の肩には、ヨハンが背負っているものよりも大きな熊が担がれていた。背負った籠には、溢れんばかりの鮭がぴちぴちと蠢いている。
前の方にぶらさがった籠には、キイチゴやグミなどの木の実がたくさん入っていた。肉・魚・木の実全てをフルコンプ。より取り見取りとはこのことか。
「あー! ノブレスおにいちゃーん!」
「すっげー! ノブレスさん、大量だー!」
子どもたちがきゃあきゃあはしゃぐ。それにつられたのか、“教官”――ノブレス・アムの口元が緩む。注意しないとわからないほど、些細な変化だ。
ノブレスを驚かせてやろうと思っていた気持ちは、彼の持ってきた獲物のインパクトに消し飛ばされてしまった。イノシシ3匹なんて、全然大したことない。
ワクワクした気持ちがしぼんでいく。自分たちはまだ、ノブレスには敵いそうにない。
ネーナたちがしょんぼりと肩を落としたとき、子どもたちと戯れていたノブレスが顔を上げた。ヨハンとミハエルの肩に担がれたイノシシを見て、感心したように頷く。
子どもたちが獲物を指差し、「ヨハンにいちゃんが」「ミハエルにいちゃんが」「ネーナおねえちゃんが」と、事の顛末をノブレスに説明した。
それらをすべて聞いたノブレスは、口元を綻ばせる。仮面の向こうには優しい眼差しがあるのだろう。なんとなくネーナはそう感じた。おそらくは、ヨハンとミハエルも。
「イノシシ、仕留めたんだって?」
「え、あ、う……」
「あー、まあな」
なんだか居心地が悪くて、ネーナとミハエルは返事を濁した。
ヨハンはゆるゆる首を振る。
「貴方が狩ってきた獲物と比較すれば、大したものではありません」
「そんなことはない。キミたちは、子どもたちを守り抜いてくれただろう?」
強い調子で、ノブレスは否定した。
「よく頑張った、偉いよ。……流石だな」
ノブレスは誇らしげに笑った。一般人の手前、詳しいことは言えない。でも、彼の佇まいが確かに語っている。『流石は自分の教え子。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターたちだ』と。
嬉しい。ネーナは素直にそう思った。誰かに認めてもらえることが、誰かに存在を肯定されることが、こんなにも胸に響くものだったなんて知らなかった。心がとても温かい。
思えば、ここに連れて来られるまで――あるいはノブレスと出会うまで、まともに扱われたことなんてなかった気がする。ヨハンが感極まったようにノブレスの名前を呼び、ミハエルが照れくさそうに笑った。
さあ帰ろう、と、ノブレスが促す。自分と子どもたちも、彼の背中に続いた。
子どもたちとノブレスは、大きな声で童謡を歌い始めた。「夕方だから、家族が待っている家へ帰ろう」という内容のものだ。
ネーナら兄妹は詳しい歌詞を知らない。だから、歌の変わりにメロディを口ずさんだ。
孤児院が見えてくる。そろそろ夕飯の準備が始まる時間帯だ。調理室の部屋には、淡く明かりが灯っている。
子どもたちが我先にと駆け出した。つられてネーナとミハエルも走り出す。ヨハンとノブレスは、そんな自分たちを優しく見守っていた。
***
「わんっ!」
「ダーリン! お前ロリコンじゃったのか!?」
「フフフ…ハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハ!! アヒャヒャ! ヒャーハッハッハッハ!」
「レーベン…ああ…レーベン!!」
「僕はね…ぶつのも、ぶたれるのも、大好きなんだよ!」
「カイメラ隊はー?」
「病気ー!!」
子どもたちが、楽しそうに歌を歌っていた。巷で流行っている『電波ソング』。
この孤児院出身である大人気アイドル歌手、テオ・マイヤーの歌だ。
テオと同じくらい、ノブレスも孤児院の人気者だった。
なんでも、ノブレスは多額の寄付金を贈ったり、子どもたちの遊び相手をしたり、テオとのコネクションを使って彼がここで様々な催し物ができるよう取り計らってくれるためらしい。
ネーナはCDジャケットを眺める。ゆるく跳ねたクロームオレンジの髪に、透き通るような白い肌。マルベリーのアーモンドアイが、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせていた。
視線を上げる。ノブレスは、じっと子どもたちを見つめていた。仮面のせいで表情はよくわからないが、なんとなく嬉しそうだとネーナは感じた。それを肯定するように、彼の口元が緩む。
気難しくてとっつきにくい相手だと思っていたが、意外と可愛いのかもしれない。
もう一度CDジャケットに視線を落として、ふと、ネーナは気づいた。
CDジャケットに写ったテオの笑い方と、現在進行形で微笑んでいるノブレスの笑い方。
「似てる……」
「何が?」
「うひゃあああ!?」
ネーナが呟いたとき、ノブレスがいつの間にかこちらに接近していた。振り返ったとき、視界の真ん中、至近距離に彼の顔があり、思わず悲鳴を上げてしまう。
ネーナの悲鳴に兄2人が目ざとく反応した。「何かあったのか!?」と、2人とも血相を変えて駆け寄ってくる。
ヨハンとミハエルは、『ネーナの顔を覗き込んでいるノブレス』という光景に、何か思うところがあったようだ。顔が一層険しくなる。
ノブレスは彼らを見て、無言のまま顔を伏せた。そんなつもりはない、とでも言うかのように首を振る。真摯さが伝わってきた。
兄2人はネーナとノブレスを見比べては、なにやら複雑そうに眉をひそめた。彼らは何を悩んでいるのだろう。
悩みたいのはネーナの方だ。ノブレスの「そんなつもりはない」のニュアンスが、どうも気に食わない。
気に入らないことがあったからといって癇癪を起こしても、現状を変えることなどできやしないのだ。勝利を勝ち取るためには、攻めるだけでなく耐えることも必要である。
ノブレスとシミュレーターを使った訓練をしていると、いつも痛感することだ。特にネーナは「トリニティの中で一番我慢弱い」と太鼓判を押されている。実に不名誉極まりなかった。
流石に「護衛対象が
「そういや、今日の訓練は?」
ミハエルが、ぎこちなさそうに訊ねてきた。
しょんぼりしている(ように見える)ノブレスの様子に耐えられなくなったからだろう。
「今日の訓練はナシだ。ゆっくり休みなさい」
実にさらっとした答えである。ノブレスは笑った。
「ですが……」
ヨハンが慌てて彼を引き止める。自分たちのデビューはもう少しなのだ。少しでも訓練を積んで、ノブレスに近づきたいのだ。ミハエルとネーナも頷く。
しかし、ノブレスは首を振って語った。「キミたちは今日、充分頑張ったじゃないか」と。そう言って、奥の部屋に鎮座する毛皮を指出す。2メートル級のイノシシ3匹――トリニティ兄妹が獲った獲物だ。
次にノブレスが視線を向けたのは、電波ソングを熱唱する子どもたちだった。トリニティ3兄妹がイノシシを倒したことで守りぬけた人々。また、ノブレスの口元が緩む。彼は子どもたちのことを大切に思っているようだ。
「今日のヒーローに鞭を打つほど、僕は鬼になれないよ。……甘い、とは、自他共に認められているがね」
ノブレスは自嘲気味に笑った。
彼はトリニティ兄妹のあずかり知らぬところで、何かを抱えているらしい。しかも、それを自分たちに知られぬようにしている。
なんて歯がゆいのだろう。今の自分たちでは明らかに足手まといだ。ノブレスを超えることは最終目標であるけれど、せめて彼と並べる程強くなりたい。
しかし、今日はシミュレーターに触らせてもらえないだろう。ノブレスは、一度言ったことは滅多なことが起きない限り撤回しない。
彼は明らかに、ネーナたちの進路妨害をしている。意地でもシミュレーター訓練をさせないつもりらしい。しょうがない人だ。
今日は素直に引くしかないだろう。3人はアイコンタクトを取り、ノブレスに向き直った。お言葉に甘えて、とヨハンが言えば、ノブレスはふわりと微笑む。
「みんなー! そろそろ寝る時間だよー!!」
黒髪をお団子に結んだ女性が子どもたちに呼びかける。真夏の空を思わせるような瞳は、きらきらと輝いていた。
とても車いす利用者とは思えない。縦横無尽に車いすで駆け抜ける彼女の姿は、何度見てもハンディなんて感じさせないほどハツラツとしている。
子どもたちの何人かは不満げに口を尖らせたが、女性には敵わないようだった。渋々、自分たちの部屋へと戻っていく。
多くの子どもたちは彼女の言葉通り動いていた。
元気よく「おやすみなさーい!」と挨拶をして、自分たちの部屋へと駆けこんでいった。
『明日も楽しく過ごすためには、今日はきちんと寝なくちゃいけないんだから!』
女性が常々言っていた言葉を思い出し、ネーナは彼女の背中を見つめた。ノブレス曰く、彼女は「自分を助け、育ててくれた恩人」だという。
確かに、底抜けた明るさを見ていると救われたような心地がする。子どもたちが楽しそうに笑っているのも、彼女の明るさによるものなのかもしれない。
よく見るとスタイルも抜群だ。出るところは出て引き締めるべきところはしっかりと引き締まっている。男の理想体型を具現化したようなボディラインに、ネーナはギリギリ歯噛みする。なんだか負けた気がした。
というより、こんなことで敗北感に打ちひしがれる時点で、自分は女性やノブレスに敵わないのだ。尚更それを実感し、ネーナの肩身はますます狭くなる。パイロットとしても人間としても、まだまだ未熟だった。
子どもたち全員が部屋へと戻ったようだ。女性がうんうん頷き、自分たちの方へと向き直る。
「キミたちもありがとう。ゆっくり休んでね」と、彼女は笑った。太陽を連想させるような笑みだった。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ!」
「おやすみなさーい!」
ノブレスが淡く微笑む。自分たちも彼らと挨拶を交わし、与えられた部屋へと引き上げた。
ネーナは兄たちと別れて、割り振られた部屋へと戻る。「たとえ兄妹であっても、男女の部屋は別々にすべき」というのが女性の方針だった。
最初は何だと思ったが、プライベートというものを考えると、今ならわかる気がした。何かに浸っていたいときとか、誰にも邪魔されたくないときとか。
ネーナは棚からCDを引っ張り出す。テオ・マイヤーが発表した歌だ。
最新作である電波ソングだけでなく、全作品が揃っている。歌詞の内容や歌唱力もルックスも悪くない。むしろストライクゾーンに入っていた。兄たちには及ばないが。
ミーハーで面食いだという自覚はある。ネーナは小さく咳ばらいすると、数世代前のCDプレーヤーにCDをセットした。心地よい音楽と歌声が流れてくる。
窓から空を見上げれば、満天の星空が広がっていた。大都会や宇宙から見る光景とは違い、どことなく心が弾む。
聴き惚れている曲の影響もあるのかもしれない。ネーナはCDジャケットに写るテオ・マイヤーを見て、悪戯っぽく微笑んだ。
恋に恋する女の子――自分が憧れていた「普通」で「当たり前」の幸福を噛みしめながら、ネーナはくすくす声を漏らした。
『フタマタダ、フタマタダー!』
自分の幸せな時間に冷や水を浴びせてきたのは、紫色の丸いロボ――HAROだった。こいつは元から口が悪い。
聞き捨てならないことを言われ、思わずネーナが食って掛かる。
奴は反省するそぶりなどなさそうだった。
「HAROうっさい! ってか、二股ってどういうことよ!?」
『シャアノニノマイ、シャアノニノマイ』
「この前シミュレーターで撃ち殺しちゃったヤツと同じにしないでよ!」
「あたし、あそこまで酷くない!」と叫んで、HAROに向かってクッションを投げた。クッションの下から『ヒデー、ヒデー』と、くぐもった声が響く。
せっかくの気分が台無しだ。ネーナはため息をつき、CDプレーヤーを止める。道具とCD一式を片付けて、ベッドに横になった。
途端に、心地よい疲労感と睡魔に飲み込まれる。ネーナの意識が落ちたのは、そのすぐ後のことだった。
◇◇◇
家族が亡くなった日のことは、今でも覚えている。
その報を知ったのは、年の離れた友人と語り合っていたときのことだった。
『今日夕方、○○の○○で火事が発生しました』
『亡くなったのは、○○在住のハインリッヒさん、ミュリエルさん、イングリットさん――』
『ハインリッヒ氏は重大な汚職事件に関わっていた疑いがあり、警察が内々に捜査を――』
『警察は自殺、無理心中と見て――』
ラジオやテレビから流れてくる情報は、右から左へ流れていく。
警察は火事の理由を無理心中と決めてかかり、早々に捜査を終わらせてしまった。いつの間にか父に着せられていた汚職事件に関しても、ほぼ有罪認定扱いの被疑者死亡として片づけられている。
唯一生き残った自分の主張を聞いてくれる人間はいなかった。家族と関わっていた人々の多くが青年のことを『犯罪者の身内』として扱い、気づいたときには孤立状態になっていた。
夢を追いかける気力もなくし、僅かに残った遺産を手に、鬱々とした日々を過ごしていた。そんな自分に対し、以前と変わらず接してくれた友人が1人だけいた。自分よりも7つも年下の少年。
根気強く家に遊びに来ては、自前のランチボックスを自分に分け与えながら、MSに関する技術関係の話を振ってきた。気分も精神も最悪なのに、MS好きの性故か、MSの話をされると反応してしまう。
当人の望みに関係なく時間は流れていった。永遠に尽きぬと思われていた哀しみも、時間経過によって凪いでいく。青年の心を奮い立たせたのは、嘗て夢見た未来の欠片だ。
『おにーさんがどの分野に進んだとしても、ぼく、おにーさんのこと、ずっと応援してるから!』
『もしもおにーさんがぼくと同じ道に進むのなら、そのときは――いつか、ぼくたち2人でMSの開発しようね!』
満面の笑みを浮かべる少年と、油まみれのランチボックス。
真っ青な空を見上げて思いを馳せたのは、夢と浪漫の卓上論。
持ち寄って来たスケッチブックに描いたのは、2人が考えた未来そのものだ。
けど、それは現実にならなかった。
不穏なワードは幾らでもあった。周囲から孤立気味であれど、耳を傾ければある程度の情報を掴むことが出来る。よく聞いた言葉は“大麻”、“取引”、“売人”などなど。
平和だったはずの街は、いつの間にか、大麻絡みのアレコレによって治安が悪くなりつつある。友人とも神妙な顔で『用心しないと』と語り合ったばかりだった。
『――お前を殺せば、暫くヤクを買うのに困らない程度の金をくれるって聞いたんだ!』
不気味に笑う男がナイフを振り上げる。奴は自分を狙っていると宣言したはずなのに、ナイフの矛先は何故か友人に向けられた。思わず友人に覆いかぶさり、友人の悲鳴と麻薬中毒者の奇声が響いて――
(――そうして、僕は生れた)
***
『イノベイドたちには、これから現れるであろう“革新者”のための踏み台になって貰おう』
壮年の男――トレヴィンは醜悪な笑みを浮かべていた。奴の言葉に同意するように、複数の声が響き渡る。
『この地球は我々人類の物だ。イノベイドはあくまでも、いずれ現れる“純粋種”の模造品にすぎん』
『計画の成就後のことも考えなければ。いずれ、イノベイドは下位互換でしかなくなる』
『いざというときのために、肉体や人格を容易に破棄できるようにした方がいいのでは?』
トレヴィン、グラントらを始めとした面々が語らうのは、ソレスタルビーイングの創始者が掲げる理想を乗っ取ろうとする悍ましい企みだった。彼らが挙げた話題もまた、世界諸共ソレスタルビーイングを私物化しようという計略の1つである。
この一派の目的は『自分たちが、自分たちにとって都合のいいように世界を動かすフィクサーとして君臨する』こと。ソレスタルビーイングそのものや、創始者の掲げた理念なんてどうなろうと知ったことではないのだ。奴らは結託し、暗躍を繰り返し続けていた。
だが、奴らの計略は、ひょんなことから露呈する。
『ふざけるな! 何様のつもりだ!?』
『僕がいるから、計画が進行してるんじゃないか! GNドライヴも、ガンダムも、僕が一番うまく使えるんだ! そのために僕は創られたんだ! そうだろう!?』
『なのに僕は、『純粋種を生み出すための踏み台でしかない』っていうのか!?』
きっかけは、父と息子の親子喧嘩だった。親子喧嘩というより、息子が父親に対して明確な不平不満を初めてぶちまけただけで、彼らが本当の意味で家族になったきっかけの出来事である。
尚、創始者の計画を私物化しようと走り回っていた一派は、とある家族がそんなやり取りをしていたことなど露知らず、その日も普段通りに暗躍を続けていた。故に、奴らは尻尾を掴まれた原因を知らないままだった。閑話休題。
両親にキレ散らかした息子には親友がいた。彼の母親と縁があったことから付き合いが始まり、紆余曲折あって仲良くなった経緯がある。彼は一家からトレヴィン一派の計略を聞いたとき、真っ先に潜入捜査員として名乗り出た。親友を使い潰す計画を許すことができなかったためだ。
潜入捜査は滞りなく行われ、暗躍の証拠はすべて手に入れた。本来なら奴らは即刻ソレスタルビーイングから除外されるはずだったのだが、厄介なことに、奴らは政財分野では大きな力や権限を有していた。奴らの持つ財力やコネが無ければ、計画に大きな支障が出る程度には。
奴らを放置すれば、ソレスタルビーイングが目指す戦争根絶は叶わない。地球の支配者としてトレヴィン一派とその子孫が君臨するだけになる。だが、奴等が持つ政財分野関係のツテを手放してしまうのは惜しい――文字通りの堂々巡り。
『非情な手段ではあるが、“同胞”としての“力”を振るおう』
――裏切りに対する取り立ては、滞りなく行われた。
創始者の理念を踏み躙り、世界諸共計画を私物化しようとした愚か者たちに罰が下される。彼らは例外なく計画の表層部へと追いやられ、深層部に関する情報を全て抜き取られた。奴らを廃人にしなかったのは、青年にとっての慈悲である。嘗てのトレヴィンたちは創始者と同じ理想を追いかけていたことを知っていたからだ。
勿論、措置が甘いということも自覚していただろう。だから彼は――彼の一族は保険をかけた。外様に追いやられ、以後、表面上は大人しくしているトレヴィン一派の動きに目を光らせていた。それがいつしか、嘗て乗っ取りを企てたトレヴィン一派だけでなく、“ソレスタルビーイングにとって獅子身中の虫と成り得そうな存在”を監視し、排除する役目を担うようになる。
時は流れ、トレヴィンやグラントを始めとした裏切り者たちは寿命でこの世を去った。
奴らの子孫たちが立場と計画を引き継いでいくのと同じように、彼の一族も代替わりしていく。
そして――
「あの子たちのこと、大切にしてるのね」
「……ああ」
女性の言葉に、ノブレスは頷いた。
「あの子たちは、“あん畜生”に使い潰されるために生み出されたと言っても過言じゃない。……僕は、それを認められなかった」
「そっか」
仮面に隠れているため、普通の人間はノブレスがどんな顔をしているかなんてわからないだろう。
しかしこの仮面は、“同胞”以外のすべてを騙すためのもの。“同胞”である彼女に通じるはずがなかった。
「自分と同じような目にあってほしくないのね」
言い当てられて、ノブレスは言葉を詰まらせた。ぐ、と唇を噛む。
脳裏に浮かんだのは、一番幸せだった頃の時間だ。次の瞬間、それが崩壊した光景が脳裏にフラッシュバックする。
平穏を壊した相手の顔が鮮明に浮かんでくる。握り締めた手が震えた。感情が爆発してしまいそうになる。
今はまだ、そのときではない。ノブレスは自分に言い聞かせた。
トリニティ兄妹に言い聞かせている言葉を思い出す。勝利を手にするためには、攻めるだけでなく耐えることも必要だ。耐え忍び、策を練る。
そのために、ヤツに近づいた。ヤツの懐に潜り込み、ずっと監視を続けてきたのだ。
「……まあ、スポンサーとしての財力は優秀ですからねー」
つい、素が出た。
もっとも、大丈夫だと確信があるからこその素なのだが。
女性はふっと目を細める。
「ノブレスの言う通り。おかげで、“ウチ”もウチの孤児院も潤ってるし」
事実を知ったらどんな反応するんだろ、と、女性はあっけらかんと笑った。ノブレスも一緒にくすくす笑う。
自分の私利私欲のために奮発していた財が、自分の首をじりじりと絞める結果になる。そう知ったときのアイツは、どんな顔を見せてくれるのか。
話を聞いていた“同胞”たちが集まってくる。彼らもまた、悪戯っぽく笑っていた。
「そうだ。頼まれてた件、終わったよ」
女性の言葉に、ノブレスは頷く。そして、ちらりと階段に視線を向けた。
先程、部屋へと戻っていったトリニティ兄妹の後ろ姿が脳裏にちらつく。
「できれば、あの子たちの分もどうにかしたいんですが」
「今現在は難しそうだけど、ゆくゆくは改良する予定だよ。アイツにバレないよう、抜け目なくね」
ヤエさん仕込みの大改造ー♪ と、女性は楽しそうに歌い始める。詳しいことは知らないが、彼女にとってヤエさんなる人物は師匠らしい。
“同胞”の中で彼女と同年代の人たちが、懐かしそうに窓の外を眺める。彼らは星空の向うに
長き旅を経てこの惑星にたどり着いた“同胞”たち。ノブレスはこの惑星で生まれ育ち、誕生直後に“目覚めさせた”タイプだ。“同胞”の中では結構若い方に入る。
ノブレスは彼らの背中を見つめた。先輩の“同胞”たちは、どんな気持ちで
女性はノブレスの方へと向き直る。
すべてを奪われ、茫然としていたノブレスを救い上げてくれたときに見た笑顔を浮かべていた。
「悪いね。“同胞”に“目覚め”を促すためとはいえ、アイツの元で、“ああいうこと”やらせちゃって」
「いいえ、構いません。歌うことは好きですし」
「でも、“こういうこと”もやらせられてるわけだし」
「大丈夫ですよ。懐に飛び込むと決めた以上、覚悟してたことですから。……亡くなった父も、あのまま生きていたら妹だって、そうやって奔走していたんでしょうから」
心配そうにこちらを見上げる女性に、ノブレスは笑って答えた。幸せだった頃の光景が脳裏をよぎる。
あの頃のノブレスは、進路に悩んでいた若者だった。MSの設計開発に関わる技術職か歌謡に関する職業かの2択で物事を考えており、家業関係は興味が無かったのだ。早いうちからそう主張していたのが幸いしたのか――あるいは不幸だったのか――家族は早々にノブレスへ家業を継がせることを辞め、ノブレスが希望を叶えられるよう支援してくれたっけ。
夢を追いかけることを選んだノブレスの代わりに家業を継ぐことになったのは妹だった。彼女は正義感が強く真面目な子だったから、家業に対して意識が高かったっけ。ノブレスが家業に興味を抱かなかった姿には苦言を呈していたけれど、将来の件で悩んでいたときは『兄さんが選んだ道ならそれを応援する』と言ってくれたのだ。
そうやって、ノブレスの将来を見守ってくれた人たちはもういない。あの日描いていた将来の夢も、きっと訪れるはずだった未来も、
だから少しだけ。本当に少しだけ。
女性のことが羨ましいのだ。
「貴女は“彼”と違う道を進んでいますけど、たどり着くべき場所は同じなんでしょう? なら、それでいいじゃないですか」
ノブレスは、近郊にある格納庫のことを思い浮かべる。あそこには、トリニティ3兄妹のガンダムスローネアイン・ツヴァイ・ドライと共に、ノブレスの愛機もあった。
ガンダムESP-Psyonタイプモデル02、ガンダムベルナール。機体名の由来は異端尋問官として名前が残っているベルナール・ギーだ。“同胞”の持つ
つまらない話だが、“名前の候補として、異端審問官のセバスチャン・ミカエリスからミカエリスと名付けようとしていたのだが、
νガンダム以外の機体に関する要素としては、
(……そういえば、友人は大丈夫かな)
ふと、ノブレスは友人のことが気になった。ベルナールを開発するために、素体となる機体――νガンダムに搭乗していたときのことが脳裏をよぎる。年上の友人との交代制でパイロットをしていた頃のこと。
友人は伝説のニュータイプとして名高いアムロ・レイに対し、一方的な執着を抱いている様子だった。紆余曲折の末、最終的に、彼は『伝説のニュータイプ……。僕の“超えるべき相手”として、相応しい存在だ。僕は必ず、奴を超えてみせる』と語って、パイロットを降りてしまったが。
アムロ・レイは「こいつ……動くぞ!」でガンダムを動かし、初陣でザクを倒してしまった男である。ニュータイプ最強の称号は伊達じゃない。
ノブレスが持つ
詳しい
女性は安心したように笑い、ノブレスの方を見た。“同胞”たちも、ノブレスをまっすぐ見返している。
ノブレスは頷いた。わかっている、大丈夫、やり遂げてみせる――言葉にせずとも伝わったようで、“同胞”たちも頷いた。
「それじゃあ、僕はやすみます」
「うん。おやすみなさい」
明日も早いのだ。彼らの教官として、無様な姿は見せられない。
自分の部屋へと戻り、ベッドに横になる。仮面をつけたまま眠るのは、慣れたくないけれど慣れてしまった。いや、慣れざるを得なかったというべきか。
ノブレスは静かに目を閉じた。明日のシミュレーション、どのデータを使おうか。彼らの実力も伸びてきたのだから、もう少し難しめのものにトライしてみようか――なんて考えた。
【参考および参照】
『百姓貴族』(荒川弘)