問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

8 / 73
【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


1stシーズン前なのにこの有様で草ァ!!
5.このろくでもない、素晴らしき日々


 

「私はキミが好きだァァァ! キミが、欲しいィィィィィィ!!」

 

「貴様は歪んでいる……!!」

 

 

 グラハムはわき目もふらず、少女の元へと突っ込んでいく。

 少女はその手を振り払い、グラハムを睨みつけた。

 

 エトワールとコンタクトを取る度、この2人のやり取りは恒例行事になっていた。

 

 

「やめないか、グラハム。彼女が困っているだろう」

 

 

 クーゴは無理矢理グラハムをひっぺがした。これもまた、自分たちの恒例行事である。

 グラハムは全く気にする様子はない。「今日のキミも可愛らしい。まるで天使のようだな!」などと彼女を口説いている。

 

 少女はいつも、白を基調としたワンピースやスカートを着ていた。今回も同様で、レースがふんだんに使われた、ふんわりとした印象のワンピースである。最初の頃は動きづらそうにしていたけれど、最近は慣れてきたようだ。今は、動きにくさよりも恥じらいの方が勝っているように思える。

 グラハムは年季の入ったフライトジャケットを羽織り、少しくすんだインディゴブルーのジーンズを履いていた。奴の私服はフライトジャケットやテーラードジャケットを中心にして組み立てることが多く、それ以外は“動きやすく汚れにくい”、“複数のジャケットと組み合わせやすい”ものを選んでいるようだ。

 2人の組み合わせは目を惹きやすいようで、周囲から色めき立った声が聞こえてくる。中には、この光景を指さして、連れの人々に怒られている人もいた。自分たちを指さした赤い髪の少女が保護者と思しき青年たちに咎められており、ヘルメットに近い仮面をした青年に促され雑踏へと消えていく。

 

 クーゴは不安になった。この2人が結ばれようと結ばれまいと、なんだか嫌な予感がして仕方がない。

 自分が巻き込まれる末路だけは変わらない気がするからだ。

 

 

<――――>

 

 

 誰かの気配を感じた。覚えのある(覚えのない)――或いは、覚えのない(覚えのある)、気配。

 憂うような、憐れむような、曖昧な笑みを浮かべているような気がした、次の瞬間。

 

 ――りぃん、と、音が響いた。

 

 

『貴ッ様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

『ははははははは。羞恥に悶えるキミも魅力的だな!』

 

 

 大音量で響いた女性の絶叫。それに続いて《聴こえてきた》のは、楽しそうに笑っている男性の《聲》だ。一歩遅れて《視えた》のは、“須佐之男”と“2つの0”がぶつかり合う光景だった。女性は顔真っ赤、男性は懐かしさに目を細めている。

 他に4機の機体――“連邦の白い悪魔”、“ジオン驚異のメカニズム・脚は飾り”、“ゼロシステム搭載型の羽根付き”、“降霊術師”が宇宙で戦いを行おうとしていたが、彼らの視線は“須佐之男”と“2つの0”に釘付けであった。

 今この瞬間、2人は確かに“あの頃”と同じやり取りをしていた。もう戻れない過去の、かけがえのない大切な時間がそこにあった。――唯一問題があるとするなら、このやり取りが超弩級の場違いであることくらいか。

 

 確か、彼らの戦いの目的は“人々に戦いの愚かさを理解させる”ためのものだったはずだ。

 それがどうして痴話喧嘩になってしまうんだろう。これが分からない。

 

 

『な、なんて恥ずかしい奴!! “赤い彗星”、お前まさか知っていたのか!? 知っていて、“革新者”さんと“武士道”を!? だとしたら卑怯だぞ!!』

 

『知らん! 今初めて知ったぞ!! 知っていたら絶対に、こんな組み合わせなど考えなかった!! 我が同僚ながら、なんてうらやま――けしからん奴だ!!』

 

『本当にうらやま――けしからん奴だな、“武士道”!』

 

 

『と、とにかく! 今はそんなことをしている場合ではない! 我々は我々で決着をつけるぞ、ヒイロ!』

 

『……にんむ……りょうかい……』

 

 

 “連邦の白い悪魔”、“ジオン驚異のメカニズム・脚は飾り”、“ゼロシステム搭載型の羽根付き”、“降霊術師”たちは、あまりの状況に狼狽しているようだった。反応がおかしい気もするが、状況が状況だったから致し方ない。

 

 何もかもが大混乱だったが、オルトロス隊による■■■■との仮面舞踏会はどうにか終了。

 全てが片付いて安堵したとき、クワトロの言葉にゼクスが頷く。

 

 

『まあ、世界中へ向けた放送だからな。みんな、わかってくれるはずさ』

 

『そうだな。これは、地球にも宇宙にも放映されている』

 

 

 その発言で、“革新者”の女性は戦いの目的を思い出した。2人のやり取りは、地球と全宇宙中に放送されてしまっていたのだ。

 色々な意味で我に返った“革新者”は、湧き上がる感情に任せて“武士道”に突っかかる。対して、“武士道”は誇らしげに笑っていた。

 こうなればもう、“結び集う力(■■■■・■■■■)”全体が2人のやり取りに巻き込まれたのは必然であった。

 

 

『いきなり何をするのだ、少女! 私はただ、キミに、全力で愛を語ろうとしただけではないか!』

 

『人のプライドやその他諸々を叩き折っておいて何を言うんだお前はァァァァ!!』

 

 

 “結び集う力(■■■■・■■■■)”全体を巻き込んだ2人のやり取りはどんどん大きくなり、被害者も増えていく。状況はどんどん混迷してきて、どうすればいいのか分からなくなってきた。ここまで規模が大きくなるなんて、想像できるはずがない。

 どっと押し寄せた疲労感に動く気力が湧いてこなくて、傍観することしかできない自分が情けなくて、でもそれ以上に懐かしいやり取りをまた見ることが出来たという安堵が大きくて、苦労するのが自分だけではないんだなあと言う達観で満たされて、ついつい笑ってしまった。

 

 

<――いつか、この光景が、キミにとって大切なものになるから>

 

 

 誰かの《聲》が《聴こえた》。

 覚えのある(覚えのない)――或いは、覚えのない(覚えのある)、《聲》。

 その答えを探るより先に、意識が現実へと放り出される。

 

 体感時間が膨大であっても、実際の経過時間は瞬きの間でしかなかったらしい。グラハムは相変わらず少女を口説き倒しており、少女はそれを切って捨てていた。

 少女の態度にもめげないグラハムであったが、次の瞬間、顔面に肘鉄を喰らっていた。それでも最終的には「愛が痛い」の一言で済ましている。頑丈過ぎやしないか。

 

 

「いつもすみません」

 

 

 クーゴがエトワールに謝罪すれば、彼女は楽しそうにクスクス笑った。腰まで伸びた薄緑の髪が風になびく。

 

 御空色の瞳は、確かにクーゴを見ていた。本当に目が見えないのかと思うくらい、澄んだ眼差し。

 親戚にジュエリーショップを経営している者がいるが、彼女が見せてくれる宝石なんかよりもはるか美しい。ジェレメジェバイトか、ユークレースか、或いはアウイナイトか。

 エトワールはレース重ねのシフォンブラウスに、足元まで隠れてしまいそうなフレアスカートを穿いていた。空と草原を思わせるような色合いで纏められている。

 

 

(……眩しい、な)

 

 

 クーゴは思った。対して自分はどうだろうか、と、改めて服装を確認してみる。今回も着物一式フルセット、色は天鵞絨(びろうど)を中心に纏めていた。

 毎度の逢瀬に着物を着るのは“着物なら一目で見つけて貰えるだろう”、“元から着慣れている”という理由だが、エトワール的にはどう思っているのだろうか。

 

 

「素敵ですよ。とっても」

 

 

 エトワールは静かに目を細めた。まるで、クーゴの思考回路、特に不安な気持ちを読み当てたような発言である。

 クーゴは息を飲む。じっとエトワールを見ていたが、彼女から敵意や悪意に満ちたものは感じない。警戒する必要はなさそうだった。

 彼女といると、なんだかペースを狂わせられっぱなしである。しかし、それは決して不快ではない。むしろ、穏やかで心地よい感じがした。

 

 相変わらず、グラハムは少女を口説いている。少女が拳を突き出したが、彼は軽くその一撃を受け止めた。

 

 

「少女よ。今日のキミは、窓辺に佇む令嬢のようだな」

 

「俺に触るなッ!!」

 

 

 次の瞬間、無防備となっていたグラハムの鳩尾に一撃が入る。音の重さからして、結構痛そうだった。

 くぐもったような奇声がしたが、流石はMSWADのエースパイロット、グラハム・エーカー中尉。

 意地とプライドは一級品で、尚も踏みとどまっていた。少女のカウンターにも屈しない。

 

 クーゴは苦笑し、再びグラハムをひっぺがした。少女には迷惑をかけっぱなしである。後で何かおごってやるべきか。いいや、かえって逆効果だろう。

 

 奴は負けず嫌いなので、「キミばかりアピールしてずるいぞ!」と、クーゴに当たってくる可能性がある。もしくは、対抗しようと意地になって、少女へのアピールが激化する可能性だってあった。

 グラハム・エーカーは、クーゴの想像力を斜め上に飛んでいくような男だ。何が起こっても「グラハムなら仕方ない」で片づけられるレベルで済む。――敢えて言おう。面倒くさいの権化だ。

 

 クーゴは頭を抱えてしまいそうになった。進むも地獄、戻るも地獄とはこういうことか。

 

 

「ほら、行くぞ」

 

「こんなところで立ち話してもしょうがないし、ね」

 

 

 クーゴとエトワールは2人を呼び、促す。

 グラハムと少女は、慌てたような調子で自分たちに続いた。

 

 エトワールとの初接触から早数か月。クーゴは歌い手仲間の夜鷹として、月に何度かエトワールとのコラボ企画のために顔を合わせている。

 

 護衛役とは名ばかりのグラハムと、エトワールの補助兼護衛役の少女が常に自分たちに同行していた。前者は完璧に下心満載であることは明らかだ。

 さもありなん。グラハムが愛を叫ぶ少女はエトワールと共に行動している。連絡先は無理矢理聞き出したようだが、誰でも使えるフリーメールのアドレスだ。

 グラハムの自己申告曰く、『名前やその他の情報は一切教えてもらえなかった』らしい。最低でも1日1通はメールを送っている様子からして、彼女の判断は正しかった。

 

 正直、ストーカーとして訴えられても庇えないとクーゴは思っていた。少女が通報したり訴訟したりしないから問題になっていないだけである。訴えられたら高確率で負けるだろうという自信があった。

 

 

『犯罪には走らないでくれよ、グラハム』

 

『クーゴも。グラハムのこと、ちゃんと見張っててくれよ』

 

 

 あっけらかんと笑ったビリーの顔が頭をよぎる。そんな軽い状態ではないのだ、グラハムは。

 

 おそらく本気だ。少女と会う直前のグラハムは、出撃前と同じ表情をしているから。本気になるとあんな顔するようになるんだなぁ、と、クーゴは遠い目をしていた。

 ……そういえば、仮面舞踏会を見ていた“武士道”の親友の技術者は大丈夫だったのだろうか。頭を抱えて崩れ落ちた姿が印象的で、妙な既視感を抱いたものだ。閑話休題。

 

 ショッピングモールは相変わらず、人々でごった返していた。どこもかしこも人の話し声が聞こえてくる。行楽シーズンだから当然か。手をつないだカップルとか、仲良さそうな家族連れとか、仲良しの学生や社会人グループとかが、楽しそうに笑いあっている。

 クーゴは眩しさに目を細めた。ユニオン軍に入り、グラハムやビリーたちと出会って、調査隊が結成された後はメンバーたちとも交流を重ねてきた。充実した日々を送っていると、胸を張って言える。自分は果報者だとクーゴは思っていた。

 ふと、クーゴは後ろを振り返った。グラハムも少女も、家族連れをぼんやりと見つめている。前者はどことなく羨望の色が混じり、後者はどこか悲しそうな色が見える。そんな2人に共通するのは、何とも言えない寂しさだった。

 

 

『私は孤児なんだ』

 

『物心ついた頃には、既に施設で暮らしていてね。家族や血縁者が面会に来たことは一度もない』

 

 

 いつだったか、グラハムが話してくれたことがある。あのときの彼も、仲睦まじく話している家族の様子を見つめていた。

 

 彼の気持ちをすべて理解することはできないし、彼自身も触れてほしいとは思わないだろう。

 クーゴはあえて、何も言わないことを選んだ。触れられたくない傷は誰にだってある。

 

 

『キミはどこにいっても、キミと血がつながる“誰か”がいるんだな』

 

 

 痛々しい笑顔を浮かべて、グラハムはクーゴに言ったことがある。本人にその気はないのだろうが、翠緑の瞳は、確かに羨望に満ち溢れていた。

 当時のクーゴは返答に窮した。彼の想像する家族とクーゴの知る家族の姿は、あまりにも違いすぎる。その落差を、グラハムに語る気になれなかった。

 

 グラハム・エーカーが体験してきた地獄の全てを、クーゴ・ハガネが理解することは不可能だ。

 断片的に触れること、それに寄り添ってやることは出来るかもしれないが、それだけである。

 勿論、刃金空護が体験してきた地獄の全ても、グラハム・エーカーが理解することは不可能だろう。

 

 

「……どうかしたのか?」

 

 

 心配そうなグラハムの問いかけに、クーゴはハッとした。いつの間にか、クーゴは面々の最後尾にいたらしい。

 

 

「なんでもない。行こう」

 

 

 クーゴは面々へと駆け寄る。木漏れ日の光が綺麗で、その中で自分を待つ人々の笑顔が愛しくて、静かに目を細めた。

 これからもこんな日々が過ぎていくのだろう。クーゴはそれを疑いはしなかった。疑う要素なんて、どこにもなかったからである。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 連邦を蛇蝎の如く嫌っているジオンにも、『ジオンと連邦が戦争を続けたら禄でもない末路(こと)になる』と察している派閥は存在している。特に今は、外宇宙生命体の脅威が間近に迫っていた。

 

 クーゴ・ハガネが所属する和平工作部隊・オルトロス隊の直属上司であるキシリア・ザビもまた、『外宇宙からの脅威が迫ってんのに人類同士で潰し合いとかやってられない(意訳)』と思っている人物だ。彼女が率いる派閥はジオン国内だけでなく、『旧連邦の腐敗体勢を許せない』と思った連邦のエースらが合流している。

 このままジオンと連邦が泥沼の争いを続けていては、地球も人類もダメになってしまう――そんなこと、ジオンの軍人たちは内心理解していた。だが、表立って和平路線を打ち出すには、積み重ねられてきた怨嗟を無視できなかった。(ふる)い時代を生きてきた人間ほどに、怨嗟という名の重力に囚われてしまいがちであった。

 ジオンのお偉いさんは、和平路線を打ち出して活発に動き回るキシリア派の動きを黙認している。クーゴたちオルトロス隊の面々が自由に動き回れたのは、キシリアのネームバリューや求心力以外にも、ザビ家の偉い人たちが彼女を静観、或いはバックアップに回ってくれたからだと言えよう。

 

 

(――それでも、ジオンは一枚岩になりきれない)

 

 

 踊り狂う議会を見つめながら、クーゴはひっそりため息をついた。

 自分たちの眼前では、キシリア派の連中がやんややんやとヤジを飛ばしあっている。

 

 

「話が進まないな……。これでは無駄に時間を浪費するだけではないか」

 

 

 シャアが苛立たし気にぼやくが、幸か不幸か、踊り狂うのが忙しいお偉いさん方には聞き取れなかったようだ。故に、シャアを咎めようとする者は誰もいない。

 

 

「仕方ないだろう。ジオンにはジオンの事情があるし、あそこで語らっている上官たちは“旧連邦の体制で煮え湯を飲まされた者も多い”と聞く。私個人としては、彼らの気持ちは分からなくもない」

 

「我々と秘密裏に繋がっている連邦のコネクトに対しても、連邦との癒着疑惑を捨てきれないのだろう。……最も、一番の理由は別の所にあるようだが」

 

 

 赤い彗星のぼやきを引き継ぐようにして、“武士道”とゼクスが肩を竦める。クーゴも頷いた。

 

 

「今まで連邦にしてやられてきた分、今回の件ではジオンが主導権を握りたい。それが無理ならせめて、(ふる)い軍人を納得させられる正当な理由が欲しい。……難しい話だ」

 

 

 議会の中でも活発に発言している壮年の軍人たちは特に、旧連邦との戦争やイザコザで戦場を駆けた――若しくは煮え湯を飲まされ続けた生き残りたちである。今回の和平交渉は、今までの溜飲を少しでも下げるチャンスだと考えているのだろう。妥協はできない。

 その怨嗟が続く限り、キシリア派の和平路線は進まない。せっかく正統ジオンとして独立し、新たな風を吹かせようと奔走しているというのにだ。怨嗟と腐敗が斜め上の方向に絡みついたが故の停滞である。クーゴは外部からやって来た人間故に、旧い軍人たちのプライドは理解できそうになかった。

 

 正直に言う。話し合いを眺めているのはもう飽きた。かといって、自分の立場は迂闊な発言など許されないワケで。

 

 過去の因縁や蟠りが事態を停滞させている。過去はもう変えることは出来ないし、戦いで失われた命が戻ってくることは無い。変えられるのは未来だけ。

 あそこで議論する軍人たちは、良くも悪くも“過去の犠牲を悼むというところで歩みを止めてしまった”人々だ。

 過去負った傷の痛みを覚えているからこそ、踏み出すことに臆病になっている。そんな彼らを一方的に責めるというのは、何か違う気がした。

 

 

「みんなが納得する方法、かぁ……」

 

 

 クーゴが考え込んだ、丁度そのとき。

 

 

『行くぞ! ■■■■ファイトォォ……レディー……!』

 

『えっと……勝敗はMSの――って! ちょ、ちょっと!? 待ってくださいー!!』

 

『ってことは、僕が立会人!? 待って! 規格揃えないと勝敗決められないんですけど!?』

 

 

 ――今一瞬、何か《視えた》ような気がする。

 

 片方では世界規模での流行、もう片方が少女の通っている学校内でのトップを決める仕組みとして『決闘』が執り行われていた。

 双方共に厳格な規格を有しており、『自分の勝敗結果を厳粛に受け止める』という決まりがあったか。

 最も、■■■■ファイトで決着がつくのなら、眼前の議会は踊り狂って停滞するばかりではないのだろうが。

 

 

「■■■■ファイトで白黒つけられるんだったら、話は早いんだけどな」

 

「■■■■ファイト?」

 

 

 クーゴの呟きを拾った“武士道”やゼクス、シャアが首を傾げてクーゴの方を向く。

 クーゴもまた、彼らに向き直って説明を始めた。

 

 

「今では試合や娯楽として頻繁に開催されてるけど、元々は“国の威信を賭けた決闘”としての色合いが強かったって話を聞いたことあるんだ」

 

「“国の威信を賭けた決闘”か。興味深いな」

 

「しかも、一度試合が行われて決着がついたのであれば、“例え一国家であろうとも、異議申し立てを行うことなく粛々と結果を受け入れていた”らしい」

 

「なんと!? “国の威信を賭けた決闘”となれば、そう簡単に敗北を受け入れられるはずがないだろうに……」

 

「場外戦や妨害は頻繁に行われていたみたいだけどな。俺は詳しいことは知らないけど、コネクト・フォースには当代のキングオブハートが在籍してたはずだ」

 

「成程。ならば、立会人は確保できるな」

 

「だとしても、どうだろう。ジオンが■■■■ファイト終了後の通例通り、『決着がついたのであれば、例え一国家であろうとも、異議申し立てを行うことなく粛々と結果を受け入れる』ことができるか否かって点があるしなぁ……」

 

 

 オルトロス部隊の有力者4人が顔を見合わせ語らいを始めてから暫くして、ふと違和感を覚え前を向く。踊り狂っていた議会はいつの間にか静かになっており、先程まで議論を戦わせていた軍人たちがこちらを凝視していた。派閥のトップたるキシリア・ザビも、目を大きくかっ開いてクーゴを凝視している。

 誰もがみんな真剣な面持ちである。何度瞬きを繰り返してみたが、夢でも幻でもない、現実の光景だ。彼や彼女らの目も本気である。ついうっかり「嘘でしょ?」と素で零してしまったが、お偉いさんたちはまったく気にしていなかった。本気の目のまま、弾かれたように動き出す。

 

 

「今すぐ、■■■■ファイトに関する情報や見解をジオンの有識者に問い合わせろ!」

 

「内容次第では、徹底抗戦派の連中を納得させられるかもしれない!」

 

「その際のプレゼンは私に任せてくれないか?」

 

「ならば、ジオンの代表は我々オルトロス隊に任せて頂きたい! どうしても決着を付けたい相手がコネクトにいるのです!」

 

 

 踊り狂っていた議会が圧倒的な力でまとまっていく。誰も彼もがその案を称賛し、あれよあれよと話が進んでいった。そのどさくさに紛れるような形で“武士道”が『■■■■ファイトの代表になりたい』と主張する。他の仮面たちもそれに続き、上官が満面の笑みを浮かべて親指を立てた。

 その間にジオン側の有識者がやって来たようで、■■■■ファイトの成り立ちから現在に至るまでの歩み、過去に“国の威信を賭けた決闘”として行われた■■■■ファイトに関する背景及び参加国・優勝国の事情やその後などが語られる。絵面は完全にギャグなのに、誰も彼もが真面目な顔をしていた。

 

 程なくして、評決がとられることとなった。鳴りやむことのない、割れんばかりの勢いで響き渡る拍手。

 

 反対派は1票。問答無用で多数決の原理(数の暴力)が執行される。この部屋いっぱいに響く歓声に、自分だけが取り残されてしまったような気分になった。

 いや、実際、クーゴは完璧に置いてけぼり状態である。反対に1票投じたのは他でもないクーゴだからだ。本当にどうしてこうなってしまったのか。

 満面の笑みを浮かべる親友・“武士道”を皮切りに、オルトロス隊の僚友たちがクーゴの肩に手を置いた。「言いだしっぺの法則発動」と、奴らの眼差しが叫んでいる。

 

 

「誰か。嘘だと言ってくれ」

 

 

 クーゴは茫然自失のまま、そう呟くので精いっぱいだった。

 

 

 

**

 

 

 

『貴ッ様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

『ははははははは。羞恥に悶えるキミも魅力的だな!』

 

 

 雨降って地固まるという諺がある。

 今回の一件は、(固まり方には難があるが)文字通りの結末だと言えた。

 

 

(■■■■ファイトが議会を通ってしまったときは、どうなることかと思っていたが……)

 

 

 しかも、その戦犯にして言いだしっぺは、まさかのクーゴ自身である。踊り狂う会議に飽き飽きしてぽつりと零した言葉が、ここまで発展してしまうとは思わなかった。

 

 何の気なしに零した言葉は、クーゴを含んだオルトロス隊のメンバー――“武士道”、ゼクス、シャアの4人だけの雑談の範囲で終わるはずだった。真面目に踊り狂っていた議会の面々とは違い、やや不真面目、且つ、突拍子もない話題でしかなかったはずなのだ。

 そんな自分たちを、議会で議論を交わしていたお偉いさんたちは凝視していた。勿論、派閥の長であるキシリアも、目をかっ開いてクーゴを凝視していた。「嘘でしょ?」というクーゴの問いに対し、彼や彼女らは即行動で答え――「本気。採用!」――を示したのである。

 

 どこぞの誰かが『想像しろ』とやたら連呼していた気がするが、クーゴは叫びたい。「お前はこれを想像できたのか」と。

 程なくして誰かが『こんなもん想像できるか』と匙を投げ、『俺も想像力が足りなかったのか……』と項垂れた姿が見えた。満足した。

 言いだしっぺの法則が適用され、コネクト・フォースの元へ“見届け人”として向かう羽目になったときの気持ちなど、決して貴様にはわかるまい。

 

 つい耐えきれなくなって、コネクト・フォースの面々に土下座してしまった。「俺のせいなんだ」と洗いざらい報告した。ヒイロと“革新者”がポンと肩を叩き、“理想への憧れ”が飲み物を差し入れてくれた。涙が出た。

 

 仮面3人組による仮面舞踏会につき合わされたアムロ、ヒイロ、“革新者”も災難である。一番の災難は彼女であるが、アムロも大変だったとクーゴは思った。

 アムロは全然乗り気じゃなかったのに、『負けたら私の同志になってもらおう。キミの仮面も手配済みだ』なんてシャアから持ち掛けられていた。よかった、仮面なんかつかなくて済んで。

 

 

「まさか、一緒に戦える日が来るとは思いませんでした」

 

 

 クーゴを真正面から見上げ、“理想への憧れ”は微笑んだ。

 

 

「俺もだ。前の一件以来、この面々が顔を揃えることはないと思っていた」

 

 

 遠い日を思い出す。あの日、自分たちはお互いの譲れないものをかけて戦った。その結果、たくさんのものが失われてしまった。

 歌い手仲間の夜鷹とエトワール、その付き人であったグラハム・エーカーと少女。戦いが始まる前に紡がれていた平穏は、もう戻ってこない。

 

 けれど、すべてがなくなったわけではなかった。夜鷹はクーゴ・ハガネに、エトワールは“理想への憧れ”に、グラハム・エーカーは“武士道”に、少女は“革新者”になり、形は違えどコネクト・フォースに集っている。

 ここからもう一度、笑いあうことはできるだろうか。前と同じにはなれなくとも、前と同じように笑いあう日々を築きたい。クーゴは心からそう思う。“理想への憧れ”を見れば、彼女も頷き返してくれた。薄緑の髪がさらりと揺れる。御空色の瞳は、いつ見ても宝石のように美しい。

 前の方に視線を戻す。仮面2人組がライバルたちと打ち解けあっている姿があった。ちなみに、もう1人は「機体を返しに行ったっきり帰ってこない」と見せかけて、もう1つの姿を使ってクルー内に溶け込んでいる。アムロとセイシロウが何も言わなければ/気づかなければ、あとは問題なさそうだった。

 

 

「これで、人々も戦いの愚かさに気づいてくれればいいのだが」

 

 

 うむ、と、クワトロが頷いた。相変わらず大きなグラサンだ。

 事情を知る人間からしてみれば、「いけしゃあしゃあと」としか言いようがなかったりする。

 

 もっとも、クーゴも似たようなことをやった経験があるため、あまりクワトロのことを悪く言えないのだが。

 

 

「まあ、世界中へ向けた放送だからな。皆、わかってくれるはずさ」

 

「そうだな。これは、地球にも宇宙にも放映されている」

 

 

 クワトロの言葉にゼクスが頷いた。その言葉に、クーゴはハッとする。

 

 まずい。これは本当にまずい。

 

 慌てて“革新者”の方を見れば、顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。今にも湯気が出てしまいそうである。気のせいか、瞳が金色になっている気がした。

 対して、“武士道”は『この戦いが全国放送されていた』ことを今更思い出したようで、「ああそうだったな」と笑った。清々しい、爽やかな笑みを浮かべている。

 

 見ていて可哀想なくらい羞恥に震える“革新者”が、湧き上がる感情に任せて“武士道”へと突っかかった。対して、“武士道”は誇らしげに胸を張る。自分には何の後ろめたいこともないと言い放った。不敵で不遜な所はグラハム・エーカーの頃から何も変わらない。

 彼女はますます顔を赤らめてしまう。本当に湯気が漂ってきた気がした。そこは、“革新者”が“少女”であった頃と何も変わっていない。おそらく、この後に待ち受ける出来事も、あの頃と同じものなのだろう。クーゴには見当がついた。

 聡い者たちは頭を抱え、朴念仁どもが首を傾げ、おちゃらけ担当どもが茶々を入れる。次の瞬間、“武士道”の体が宙を舞い、床に思いっきり叩きつけられていた。柔道の投げ技である。しかし“武士道”、寸でのところで受け身を取ったらしくピンピンしていた。

 

 

「いきなり何をするのだ、少女! 私はただ、キミに、全力で愛を語ろうとしただけではないか!」

 

「人のプライドやその他諸々を叩き折っておいて何を言うんだお前はァァァァ!!」

 

 

 “武士道”が、今度ははるか彼方へと吹っ飛んだ。運悪く近場に居合わせたアムロとクワトロを巻き込み、彼ら共々壁に激突する。

 他の面々が慌てて止めに入るが、先程の「全国放送」で人一倍恥ずかしい思いをしたのは“革新者”なのだ。彼女を止めつつ、さりげなく“武士道”をとっちめる者が続出した。

 

 「そんな大人、修正してやる!」やら「アンタって人はァァァァ!」やら「任務了解。ターゲット、“武士道”」やら「誰か警察を……ああそうか、自分が警察だった」やら、様々な声が聞こえたような気がする。

 幼い子どもたちには、良識ある大人たちが対応してくれていた。彼らの目と耳をふさぎ、教育上に悪い情報すべてをシャットアウトする。さりげなく“理想への憧れ”もそれに協力してくれたようだった。年齢制限は大事である。

 ■■■■ファイトは終わったはずなのに、新しい争いの火種(……火種?)は身近に転がっていたらしい。また“武士道”が宙を舞い、近くにいたケロロ軍曹と甲児を巻き添えにした。そろそろ収拾がつかなくなりそうだ。

 

 

「ああもう滅茶苦茶だよ、このおばか」

 

 

 クーゴはため息をつき、“武士道”の首根っこをひっ掴む。

 

 

「俺の相棒がすみませんでした」

 

 

 参事になりかけているクルー全員に対して、クーゴは深々と頭を下げた。

 いつかと変わらない、いつもの出来事だった。

 

 “どっと押し寄せた疲労感に動く気力が湧いてこなくて、傍観することしかできない自分が情けなくて、でもそれ以上に懐かしいやり取りをまた見ることが出来たという安堵が大きくて、苦労するのが自分だけではないんだなあと言う達観で満たされて、ついついこっそり笑ってしまった”ことは、一生の秘密にしておこう。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「最近、中尉の虚憶(きょおく)が、前より鮮明に見えるようになった気がするな」

 

 

 虚憶(きょおく)のデータをまとめ終えたハワードが、考え込むように顎に手を当ててそう言った。以前よりも多くの情報が集まるようになったのと、調査部隊の面々が収集できる情報量が圧倒的に増えたのも、ここ数カ月のデータが証明している。

 エトワールと接触し、彼女と歌を歌う等の交流を重ねたことが原因だろうと皆が言っていた。実際、クーゴのコーヴァレンター能力におけるヴィジョン共有の精度は増してきている。ついでに、虚憶(きょおく)が残る時間も長くなってきた。

 ただ、虚憶(きょおく)主であるクーゴ――おそらくは、その虚憶(きょおく)を実際の記憶および経験として体験したであろうクーゴの感情をもろに受けるようになったとも言えた。余韻を振り払うようにして、クーゴは大きく息を吐く。

 

 今回の虚憶(きょおく)のタイトルは『殴り合い宇宙(そら)/OE』。

 

 “真面目に政治モノやってたと思ったら、ラスト3行でスポ根に変わった”と言わんばかりに、のっけからフルスロットルしている内容だった。

 スポ根みたいな空気も、決闘が始まった途端にラブコメへと変わってしまったっけ。こんな混沌なのに、みんな真面目にやってるのがシュールである。

 

 

「でも、今回の虚憶(きょおく)のタイトルは部隊名由来じゃないよね。どうしてだい?」

 

「…………“『拡大する戦場で生き残れ』という指令(Operation Extend)”だから」

 

「ふーん。いいんじゃないかな」

 

 

 ビリーの問いかけに対し、クーゴは曖昧に笑ってみせた。虚憶(きょおく)の中で出てきたシャア及びクワトロ以上にいけしゃあしゃあとした言い分であった。

 嘘である。本当の理由は、“この虚憶(きょおく)につく頭文字はOEである”という強い確証があり、頭文字をOEにするためにはどうしたらいいかを考えた結果の苦肉の策であった。

 

 ……まさか本当に、その理屈で通ってしまうとは思っていなかったけど。

 

 

虚憶(きょおく)の副官さん、苦労してますね……。ついでに、“武士道”さんがすっごくめんどくさいっす」

 

「むしろ、仮面3人組が面倒だった気がするぞ」

 

 

 アキラが苦笑し、ダリルが遠い目をした。その気持ちはクーゴもよくわかる。この虚憶(きょおく)は、見るだけで疲れ果ててしまうからだ。あの仮面舞踏会――と言う名の茶番劇――は、「人の心の光を人々に指し示す」という大義名分がある。しかしその実情は、仮面3人組の私念を払拭する禊と言った方が正しかった。

 彼らが所属しているジオンは旧連邦と激しいにらみ合いを続けていたし、オルトロス隊の面々も旧連邦に対してそれぞれ因縁がある。『元からジオン側の軍人として連邦と戦ってきた』シャア、『元は連邦軍側で戦っていた軍人でありながらも、キシリアの理想に共感したことでジオン側へ移籍した』ゼクスと“武士道”。

 特に“武士道”は、旧連邦の汚職や腐敗に巻き込まれたことで心身ともに追い詰められており、連邦軍側の軍人として在籍していたクワトロやゼクスに声をかけられていなければ廃人になっていた危険性があったらしい。最終的にはMIAになることで連邦から脱出し、紆余曲折の末にオルトロス隊に配属されたという。

 

 和平工作部隊として活動していたオルトロス隊は、連邦側の類似部隊コネクト・フォースと通じて、連邦とジオンの争いを終わらせようと奮闘していた。

 しかし、同じ目的を持って裏で手を組んでいるはずの2つの部隊であったが、和平までの道のりはなかなか進まない。どちらが有利な条件で和平交渉を終えられるかという問題があったから。

 

 

「まあ、ああいう条件じゃないと、合法的に決着付けれなかったっぽいからなぁ」

 

「それもそれで、無法の世紀末感がありますぜ……」

 

 

 クーゴの言葉を聞いたハワードは苦笑する。実際、あの虚憶(きょおく)で《視た》出来事は、良くも悪くもぶっ飛んでいたた。

 

 副官が零した“決闘”は、キシリア含んだ政治家&軍人のお偉いさんにとっては渡りに船だった。同時に、オルトロス隊のパイロットたちにとっても渡りに船だった。彼らにとっての因縁ある機体のパイロットたちが、雁首揃えてコネクト・フォースに在籍――或いは、行動を共にしていたためだ。

 シャアはアムロと、連邦時代のゼクスはヒイロと、連邦時代の“武士道”は“革新者”と戦いを繰り広げてきた。敵同士だったからこそ、互いの命を賭けたやり取りをしてきたのだ。だが、オルトロス隊に所属してコネクト・フォースと協力関係を結んだ結果、彼らの『ライバルと決着をつけたい』という思いは燻り続けることとなった。

 

 最も、今後の状況――主に対ミューカスを筆頭とした外宇宙からの侵略者――のことを考えると、人類同士の殺し合いは避ける必要があった。

 お互いの技量をよく知っているが故に、今後の方針が再戦を許してくれない。フラストレーションが溜まるのは当然のことと言えよう。

 

 ……個人的には同意はしかねるけれど。

 

 

「は、『犯罪には走るな』って、常々言い聞かせてたのに……。……あれ、誰に対してそう思ったんだっけ?」

 

 

 ビリーは深々とため息をついた。が、彼はすぐに首を傾げる。虚憶(きょおく)が以前より長く残るようになったとはいえ、それでも時間制限があることには変わりない。

 もちろん、ヴィジョン共有した虚憶(きょおく)自体が穴あきで不鮮明な部分があるから仕方がなかった。エトワールと交流を続ければ、虚憶(きょおく)も鮮明になるだろう。

 一通りの記録を終えた面々は、早速、今回の虚憶(きょおく)についての感想を述べていく。調査隊の面々との交流も兼ねており、この時間はクーゴにとって楽しい時間であった。

 

 

「でも、よかったよね。アムロくん。仮面舞踏会の仲間入りしなくて」

「だよなー」

 

「珍しく、ジオンがまともな判断下したな」

「あれはまともと言えるのか……?」

「俺はイカれてると思うけどなぁ」

「“ジオンの上層部が脳筋である”ことが発覚したって感じっすね」

「“決闘に喰いつきたくなる状況まで追い込まれてた”とも言えそうだ」

「やべえなジオン」

 

「クワトロ・バジーナ。奴は何アズナブルなんだ……」

「あいつのいけしゃあしゃあっぷりには、もう笑いしか出ないよ」

「シャアだけに?」

「やめろ、寒い!」

「しかもくだらない!」

 

「あの場に加藤久嵩がいなくてよかったですね」

「いたら頭抱えて発狂するだろ」

「石神邦生とジュダも困惑するんじゃ……」

 

 

 わいわいがやがや。カラオケボックス内が団欒の声で埋まる。

 

 

 ふと、クーゴは違和感を感じた。普段は団欒に加わっているはずの声がひとつ足りない。見れば、件の人物は隅に座って頭を抱えていた。

 グラハムの顔が青い。青いが、どうしてか、クーゴはその理由を察していた。察してしまえる時点で、虚憶(きょおく)の影響が出ている証拠かもしれない。

 

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、問題ない」

 

 

 グラハムは息を吐き、眼差しを遠い場所へ向けた。黒歴史を抱えながらも、その中にある美しいものを集めて慈しんでいるかのようだ。

 後悔なんてしない、と、翠緑の瞳が語っている。揺るぎない眼差しは、何を見ているのか。疑問には思ったが、今のクーゴにはそれを知る術はなかった。

 ブシドー、と、グラハムは噛みしめるように呟く。いつもはその言葉に苦い表情を浮かべるのだが、今はどこか清々しさを感じるような微笑を浮かべていた。

 

 ああ開き直れるのなら、迷走している真っ最中の“彼”でも許せるのかもしれない。それもまた、ひとつの答えの形なのだから。

 

 何かを吹っ切ることができたのだろう。グラハムは、団欒の中に飛び込んでいった。彼の横顔には、先程までの苦さはない。

 クーゴは微笑を浮かべ、持ち込んでいたエルダーフラワーのコーディアルを飲んだ。今日はこれで最後である。喉をしっかり休ませておきたい。

 

 

「ケロロ軍曹も白々しかったな。フォローのつもりだったのだろうが」

 

「それが、かえってクワトロのいけしゃあしゃあっぷりを助長してるんですぜ」

 

「言いだしっぺの法則で巻き添えを喰らった副官殿には、本当に同情するよ」

 

「誰があんなことになるなんて予想できるんですか。んなモン想像できませんよ」

 

 

 いつもの光景が帰ってきた。それを眺めて、クーゴは目を細める。彼らの会話から、思い出したことがあった。

 

 

「そうだな。いつぞや体験した、『マグロ解体用の包丁で強盗団を制圧する』羽目になったときより酷かったかもしれん」

 

「え」

 

 

 クーゴは目を閉じて頷いた。全員が弾かれたようにこちらを見る。

 そして、何か合点が言ったように「あ」と声を揃えた。

 

 数年程前、日本で起こった事件。デパートに強盗団が押し入ってきたが、その場に居合わせていたマグロ解体士(?)がたった1人で強盗団を一網打尽にしたというものだ。彼は何も言わずに去ってしまい、以後も名乗り出なかったという。

 丁度そのとき、クーゴは休暇を取って日本へ戻っていた。休暇を楽しんでいたとき、親戚から「マグロ解体のプロが突然来れなくなった。資格持ってるお前にピンチヒッターを頼みたい」と応援要請が入ったのである。

 断る理由がなくて受けたが、まさかその先で強盗団とエンカウントする羽目になるとは誰が予想できたか。そして、それをマグロ解体用の包丁で撃退する羽目になるとも。クーゴはため息をつき、肩をすくめる。

 

 ユニオン内で一時期話題になった事件である。そして、同時期からユニオンの基地で『マグロ解体ショー』と寿司パーティが行われるようになった。

 

 その解体ショーの最中、クーゴは観客席にいない。会場には確かにいるが、解体ショーを間近で見ることはなかった。寿司パーティでマグロを食べている現場なら、グラハムたちは目撃している。……つまり、何が言いたいかと問われれば。

 マグロ解体ショーの間、壇上でマグロを解体している職人は、紛れもないクーゴ・ハガネその人なのである。空色のツナギに黒いエプロンとバンダナをして、マグロ解体用の包丁を片手にマグロをばっさばっさ解体していく男。

 

 

『マグロ解体用の包丁は、まるで刀のようだな!』

 

 

 解体ショーを見終えたグラハムは、寿司をほおばりながらそう言っていた。

 ショーの最中、奴の歓声が一際うるさかったことは今でも記憶に残っている。

 

 

「そっか! だからハガネ中尉、解体ショーにいなかったんだ!!」

 

 

 アキラがぽんと手を叩いた。

 

 

「イベントでの危機を救った代わりに、払ってもらった対価だよ。俺が解体するって約束でな」

 

「いつの間にそんな資格持ってたのか……」

 

「相変わらず、油断ならないお人ですぜ……」

 

 

 ダリルとハワードが笑うが、口の端が引きつっていた。

 自覚はある、と、クーゴも苦笑する。

 

 親戚が資格を取る際に巻き込まれ、なぜか一緒に試験を受け、親戚よりも先に試験をパスし、親戚よりも早く資格を取ってしまったことは今でも覚えていた。

 それと似たようなパターンで、クーゴは様々な資格を取得している。大半が宝の持ち腐れに等しかったが、こういうことに使えるならそれでいいと思う。

 ちなみに、現在でも役に立っている資格があるとするなら、二刀流の剣道や居合、十手や鎖鎌くらいだろうか。主に、機体開発やコンバットパターンに活かすための資料としてだ。

 

 特に十手は「日本武術の絶滅危惧種」と名高いレアモノである。使えるかどうかはわからないが、史料価値は高かった。

 

 

「キモノの着付けもできて、居合や剣道もできて、メシも美味くて、マグロも解体できるとか無敵じゃありません?」

 

「中尉が関わった日本文化関連のイベント、滅茶苦茶楽しいですもん」

 

「俺の甥っ子は着物職人になることを夢見て日本へ修行に行きましたよ! 中尉に感謝してました!」

 

「妻がちりめん細工にド嵌りしましてね。今度フリーマーケットで作品を売るんです」

 

「買いかぶり過ぎだよ。俺なんて、本職を極めた人とは遠く及ばないって」

 

 

 アキラたちから向けられた賛辞の言葉に肩を竦める。過大評価が過ぎるのではないかと思うのだが、敢えて飲み込むことにした。

 内心落ち着かなくてソワソワしていたとき――丁度いいタイミングで、ビリーがぽんと手を叩く。

 

 

「クーゴのおかげで例の試作品が完成しそうなんだよ。エネルギーコストの低い新武器」

 

 

 そう言って、ビリーが端末を操作した。

 映し出されるのは、日本刀を思わせるようなブレード。

 

 

「菊一文字則宗、か」

 

「上はガーベラストレートって呼んでるけどね」

 

 

 無理矢理な訳し方だ。ビリーは苦笑する。確かに、ユニオンアメリカが中心になっている国家勢力故、日本語のキクイチモンジノリムネより英語のガーベラストレートが言い易いだろう。

 

 

「ガーベラと菊じゃ、全然違うんだけどな」

 

 

 クーゴは端末を動かした。ガーベラの写真と菊の写真を並べてみる。

 一応、菊でありガーベラとも呼ばれる花があることは事実だ。しかし、やっぱり、似つかない。

 ユニオン本部とクーゴの故郷・日本に咲く菊/クリサンセマムの形状は大きく変わるというのもあるのだろう。

 

 

「あ、俺、飛行機の関係があるんで戻ります」

 

「我々も、そろそろ戻らなくては」

 

 

 アキラたちが時計を見て立ち上がった。

 

 時間も押しているし、任務に支障をきたすわけにはいかない。実験チームと銘打たれてはいるが、皆、所属はバラバラだ。時間を見つけては、集まれる面々で集まって情報収集をしているにすぎない。そのまま解散し、面々は帰路についた。クーゴはグラハムやビリーと共に道を行く。

 せっかく虚憶(きょおく)の調査も進んできたというのに、「メンバー全員に、自由に招集がかけられない」というのは地味にネックである。正式な調査隊として認められればいいのだが、不確かなものが多くてうまくいかないのだ。

 今回のガーベラストレートは、実験チームが集めた情報で生まれた新武装だ。これが認められれば、調査隊の成果になるだろう。ガーベラストレートは“調査隊が正式に結成できるかの試金石”でもある。

 

 クーゴはガーベラストレートの図面を確認する。宇宙を漂う隕石に含まれる特殊金属を使った、日本刀を模したブレード。

 原料である特殊金属は“とある会社”が提供してくれるそうだ。ただ、少々気になることがあるとするなら。

 

 

「経営者は余程の酔狂なんだろうな」

 

「会社名が“悪の組織”とは、随分と個性的じゃないか」

 

「クーゴの虚憶(きょおく)の中にも何度か出てきてたよね。その度に、各部隊の手助けをしていたっけ」

 

 

 クーゴの言葉をグラハムとビリーが引き継いだ。特にビリーは、虚憶(きょおく)で出てきた様々な技術に造詣が深そうな企業との縁を結べたことに興奮しているらしい。

 

 とある会社――悪の組織は、何でも屋の色合いが強い技術者集団であり、有名なボランティア集団でもある。会社名および団体名とは裏腹に、彼らの存在は人々の生活を支えていた。彼らが扱う技術や商品などの中には、クーゴが虚憶(きょおく)で《視た》ものも幾つか存在していた。

 会社員は皆「世界征服をもくろんで行動しているが、それはいつも、ただの善意にしかならない」という設定を忠実に再現しつつ、会社経営およびボランティア活動を行っている。彼らのノリにさえついていければ、最高のパートナーになると言われていた。

 具体的には、『街に凶悪なモンスターを放ってやった』と言って、有名なマスコットキャラクターを模したラジコンを街に放ち、老若男女問わず笑顔にするような連中である。彼らにとって最高の褒め言葉とは、『くそう、悪の組織め! 人を笑顔にするとは、なんてことをしてくれたんだ!!』だそうだ。

 

 どうやら、技術班はその“設定”について行けたらしい。

 「面白い集団だったよ」とは、ビリーの談である。

 

 

「クーゴは確か、二刀流だよね。もう1本のブレードも制作中だよ。大小サイズあるから、実質的には2本だけど」

 

 

 ビリーはそう言って、図面を提示する。長曽禰虎徹――上層部はタイガー・ピアスと呼んでいるブレードだ。脇差タイプのものと、『ガーベラストレート』同様の打刀タイプのものがあるらしい。

 打刀と脇差、打刀2本。剣道ではどちらの型も使いこなせるクーゴであるが、実際の戦闘ではどちらが使い勝手のいいかはまだわからない。パイロットの技量も関係してくるだろう。

 

 どちらをメインにするか、悩ましいところだ。

 

 

「頑張ってくれよ。ガーベラストレートとタイガー・ピアスのテスト役はキミなんだから」

 

「はは、重いなそれは」

 

 

 ビリーに期待され、クーゴは苦笑する。対して、グラハムは目を輝かせながら図面を見ていた。

 

 日本かぶれである彼からしてみれば、刀なんて飛びつきたい代物だろう。本当は、彼自身が使ってみたかったに違いない。しかし、彼は日本武術のコンバットパターンにはあまり精通していなかった。

 精通者と非精通者。テスト役にしたいのは、精通している方だ。師範代の免許を有するクーゴが選ばれたのは当然の結果と言える。でも、グラハムならば、意地と根性でコンバットパターンをマスターしそうな気がした。

 

 次の瞬間、脳裏に見たことのない光景が走る。それが虚憶(きょおく)だと気づいたのは、すべての光景が駆け抜けた後だった。

 黒い機体。近接戦闘に特化した、フラッグの究極系。益荒雄。佐之男。妄執。愛。憎しみ。仮面の男。……ミスター、ブシドー。

 クーゴは思わずグラハムを見た。図面に気を取られたグラハムも、クーゴの眼差しに気づいて顔を上げる。彼はきょとんと首を傾げた。

 

 まさか、そんなまさか。

 

 「どうした?」と声をかけられ、クーゴは「なんでもない」と答えた。

 そうやって、自分たち3人は並んで帰路につく。今日もまた、平穏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハ! 悪の組織・第1幹部、リボンズ・アルマークとは、僕のことさ!」

 

「わー、おにいちゃんすごーい!」

「何もないところからお花が出てきたー!」

「コップもないのに水が出てきたぞ!」

「紙袋からうさぎがー! かわいい!」

 

 

「……どうしてか、僕たちは子どもに親しまれてしまうんだ。なぜだろうね?」

 

「なんでだろーねー」

 

「ボクたちは、世界征服を目指してるのにねー」

 

「今回のマジックはうまくいったな」

 

「次は大掛かりなものに挑戦しよう。資料の収集に」

 

「ブリング、デヴァイン! そういう『設定をぶち壊しにする』会話禁止!!」

 

 

「どうかしましたか? アレハンドロ様」

 

「……い、いや。相変わらず、面白いなと思って」

<こいつら、頭がどうかしているんじゃないか……!?>

 

 

 悪の組織の徹底っぷりを。

 

 

 

 

 

「それ、“彼”の……」

 

 

「“彼”の想いを継いで、私は空を飛ぼう」

 

「そのためにも、私は――!!」

 

 

「……あいつら! 俺のコンバットパターン、覚えた上に組み込んだのか……!!」

 

 

 クーゴの予想が、悲しい形で的中してしまうことを。

 

 

 

 

 

「大丈夫大丈夫、いけるいける! ()()()()()()()()()()()()、輸送艦の1つくらい!」

 

「クーゴ!? キミ、こんなときに一体何を言ってるんだ!? それはあくまでも虚憶(きょおく)の話だろう!」

 

 

「国連軍のパイロット、頭大丈夫なのか!?」

 

「なんか急に歌い始めたぞ!?」

 

 

「――旗?」

 

 

 

<ヒビキくん!>

<分かっています! ジェニオンのD・フォルトも全開で行きます!>

 

「――え?」

 

 

 

 

 青く輝く御旗が、いつかどこかに存在していた“想い”の標になることを。

 

 

 

 

 

 

「……あれ? このメンバーって、大半が“多元世界技術解析および実験チーム”のメンバーだよな」

 

「あ」

 

 

「こんな偶然、あるんですねー!」

 

「まさか、こんな形で隊が組まれるなんて思いませんでしたよー!」

 

「なんて僥倖! これで、おおっぴらに虚憶(きょおく)調査ができるな!!」

 

「新技術の解析もやり放題だね」

 

 

「あ、俺、『人の心の光/Z』が見たいです」

 

「『HEAVEN AND EARTH/UX』もお願いしますぜ!」

 

「『殴り合い、宇宙(そら)/OE』! 『殴り合い、宇宙(そら)/OE』がいい!」

 

「私は『桜花嵐/UX』を所望するぞ、クーゴ!」

 

「あーはいはい。暇な時間があったら歌うから、な?」

 

 

「なんだ? このアウェー感……」

 

 

 “多元世界技術解析および実験チーム”の面々が、オーバーフラッグス隊に選出されることを。

 

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。

 

 

 




【参考及び参照】

『パワーストーン辞典 | Hariqua 天然石パワーストーンジュエリー ハリックァ』より、『ジェレメジェバイト』、『ユークレース』、『アウイナイト』

『日本人の美の心!日本の色【伝統色のいろは】』より、『天鵞絨(びろうど)

ニコニコ動画『悪の組織 ekot企画』より、『やったー!はぐれメタルいたよー!\(^o^)/【ekot企画】』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。