問題だらけで草ァ!! -Toward the sky- <1st Season>   作:白鷺 葵

9 / 73
【諸注意】
 1.この作品は『大丈夫だ、問題しかないから』シリーズのリメイク版です。
 2.『ガンダム00』を原作に、アニメ版『地球へ...』、及び『スーパーロボット大戦』や『Gジェネレーション』シリーズ等の要素とクロスオーバーしています。
 3.主人公含め、オリキャラが多数登場します。
 4.キャラ改変や原作崩壊、原作死亡キャラの生存要素があります。
 5.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 6.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 7.刹那が先天性TSしており、グラハムとくっつきます(重要)
 8.基本はギャグとラブコメ色強めですが、時々シリアスになります。
 9.読了後に如何なる負の感情を抱かれても、書き手にはどうすることもできません。

 10.『◆◆◇』が「虚憶⇒現実」、『◇◇◆』が「現実⇒虚憶」、『◆◆◆』が「虚憶⇒虚憶」、『◇◇◇』が「現実⇒現実」への場面転換、及び視点切り替えになります。
 11.『*』は「短時間経過での場面転換・視点はそのまま」、『**』及び『***』が「長時間経過での場面転換・視点はそのまま」を意味しています。
 12.良くも悪くも飯テロ要素があります。注意してください。

上記が大丈夫の方は、本編をお楽しみください。


6.イカれたシミュレーターを紹介します

 

 軽快な着信メロディが鳴り響く。イデアぱっと表情を輝かせ、端末を開いた。

 夜鷹から、またコラボ企画およびオフ会の相談事だ。メッセージを読み込むうちに、ふと目を留める。

 

 

「『友達の誕生日が近いから、オフ会がてらサプライズでお祝いしたい』か……」

 

 

 夜鷹の友人とはユニオン領の軍人――グラハム・エーカーのことだ。MSWADの精鋭であり、フラッグファイターとしての実力も高い。

 乙女座のA型で、刹那に運命を感じており、彼女に熱烈なアタックを繰り返している。彼のおかげ(?)で、刹那にも情緒が芽生えてきたように思う。

 姉貴分としてそれは嬉しい限りだ。こういう件に鋭い方々は、なんやかんやと苦言を呈しながらも、「あの子に春が来た」と喜んでいる。

 

 刹那本人は『任務のために顔を合わせているだけ』と頑なに主張しているが、彼女を間近で見ているイデアは変化の兆しを感じていた。

 

 

『……アイツが何を考えているのかさっぱりわからない』

 

 

 ――それが、最近の刹那の言である。

 

 初めてグラハムに口説かれたときは『意味が分からない(ガチ困惑)』、『貴様は歪んでいる』などの一言で、彼の言葉を切って捨てていた。ある種、思考停止の部類に近い。

 “グラハムの言葉やそれに込められた意図を理解しよう”とか、“グラハムの調子に合わせて歩み寄ろうとする”とかの努力を示す姿勢もなかったように思う。

 グラハムから投げつけられる口説き文句と愛の言葉に押され気味ではあるけれど、刹那はそれを受け止めようとはしなかった。受け止める意味も理由もないと考えていたのだ。

 

 そんな刹那が、つい最近になって『グラハムのことが分からない』と言う。『わからなくても支障はない』で止まっていた刹那が、グラハムの言動を“理解可能なもの”と認識し、対応しようとする意志を見せたのだ。これを快挙と言わずして何と言うのか!!

 イデア・クピディターズは人の恋愛事情に首を突っ込むのが大好きだ。そういう話は根掘り葉掘りしてでも沢山聞きたいし、そういう話題を耳にすると世話を焼いてあげたいと思う。それと同じくらい、自分がらみの恋バナもしたいと思っているだけだ。

 

 

(本気で無自覚なのか、自分たちの立場を考えているからこそ見て見ぬふりをしているだけなのか、あるいは無意識で両方成立させちゃってるのかな……)

 

 

 ソレスタルビーイングの事情――機密事項のため詳細は知らないが、メンバーはみんな“大なり小なり何かしらの理不尽に直面し、それに憤った結果、世界のはぐれ者になってしまった”経緯の持ち主ばかり。『すべてに知らないふりをして、表面だけの平穏に迎合することがどうしてもできなかった』からこそ、ソレスタルビーイングに見出され、身を寄せるに至ったのだ。

 自分たちは世界に矢を引く者。イオリア・シュヘンベルグの掲げた戦争根絶という理想への殉教者たちだ。どう考えても、普通の幸福なんて望めそうにない。政府に拘束されれば戦争犯罪人として処刑されるだろうし、世間一般からはテロリストとして後ろ指をさされることになる。こんな状況で恋愛なんかやってられないのは事実だし、心配するクルーの気持ちもよく分かる。

 

 けど、自分たちだって人間だ。誰かを大切に思うことを、誰かに文句を言われる筋合いなんてない。たとえ明日に死が待っていても、人を想うことを止められるはずがないのだ。

 

 

「…………」

 

 

 か細い――けれどどこか唸るような息遣いを感じて意識を向けて《視れば》、刹那が端末とにらめっこを繰り広げていた。

 端末に表示されたメールの送り主はグラハム・エーカー。今日も今日とて、口説き文句は火の玉どストレートである。

 

 以前は確認するだけしてほぼ放置し、『任務を円滑に進めるためのご機嫌取り』という理由で稀に返信していた程度。内容も、一言二言で終わらせている。

 しかしここ最近、刹那がメールに返信する頻度が増えた。それと同じくらい、メールの文面を真剣に考えている姿も目撃されていた。

 今だって――一切口にも態度にも出していないが――、グラハムが綴った思いの丈に向き合おうと文章を読み返しては、返信するメールの推敲を行っている。

 

 

(前は多くて2行あれば御の字だったのに、今では5~6行くらいになってるんだなぁ。返信にかかる時間も増えてってるし)

 

 

 刹那の端末を盗み《視た》イデアは思わず口元を抑えた。マナー違反とデリカシーがないのダブルコンボをかました自覚はあるが、大事な相棒が年相応の恋愛をやってるのだ。気になるのも、ちょっかいかけたくなるのも致し方ない。

 

 少しづつではあるが、刹那はグラハムに絆されているのだろう。普段、彼に口説かれて殴り返すのは照れ隠しなのかもしれない。刹那は言葉足らずであり、同時に言葉そのものを惜しむタイプだ。言葉にすれば薄っぺらくなってしまうとでも感じているのも理由なのだと思う。

 表面に出にくいだけで、刹那は“誰かを思いやれる優しい心根の持ち主で、愛情深いタイプ”だ。ただ――これはイデア個人の主観なのだが――、時折、刹那は“そういう部分を意図的に封殺している”節があった。詳しい理由は分からないが、彼女の機密事項が関係していそうな気配がした。

 

 イデアが刹那の恋路に首と意識を突っ込んでいたとき、アレルヤとティエリアがそそくさとシミュレーター室に駆け込んで行く。

 イデアに一切視線を合わせようとしなかったあたり、こちらが恋バナにきゃっきゃうふふしていた気配を察知したのであろう。

 

 こっそり2人の後についていき、シミュレーター室をのぞき込む。丁度、対戦相手が発表されたらしい。

 

 

「下半身がサイコロ……」

『気を付けろアレルヤ! ふざけたナリだが、あいつぁヤベーぞ!!』

 

「こんな機体、ヴェーダのデータには存在していない……!」

 

 

 今日の対戦相手タイプアンノウン、G-Dice型。その言葉通り、頭部はガンダムタイプでありながら、下半身がサイコロのような機体である。

 到底、まともに動くとは思えないデザイン。どこからどう見ても、誰もが「なんだこれ、ふざけてんのか?」とツッコミを入れたくなる姿をしていた。

 アレルヤが困惑から顔をしかめ、ティエリアが一抹の不安を抱えたまま機体を駆る。彼らは未知の敵へと挑みかかった。

 

 この中で状況判断に長けていたのは、アレルヤと会話していたハレルヤである。彼の直感は正解だ。G-Dice型は、外見こそふざけているものの、機体性能数値は異常なのだ。

 2人はもうすぐ、地獄に直面するだろう。正直、虚記(きょおく)でこの機体の情報を手にしたイデアでさえ、奴と戦ったら確実に撃墜され戦死する。賭けてもいい。

 

 戦闘が始まった。次の瞬間、四角い死神が牙を剥く。

 

 G-Dice型が出してきたサイコロの目は6。次の瞬間、穴から巨大ミサイルが発射された。

 キュリオスが機動力を活かして躱し、ヴァーチェとの連携で5発は叩き落とすことに成功した。残りの1発を、防御と超火力に特化したヴァーチェが受けに回る。

 轟音。爆音。けたたましい警戒音が鳴り響き、ティエリアのシミュレーターにDENGERマークが点滅した。あまりの状況に、彼の焦った声が響く。

 

 

「たった一撃でヴァーチェが大破しただと!? あのMS、大きさも威力も化け物か……!?」

 

 

 愕然としたティエリアを逃すほど、死神は優しくない。

 

 間髪入れずに爆発音が響き、ティエリアのシミュレーターが止まった。大きく出た『撃墜』の文字。出撃からわずか数分足らずのことだった。

 彼の『撃墜までの最短記録』更新である。ティエリアは、己のキャパシティを軽く超える現象に耐えきれず、ぼんやりと画面を眺めていた。

 

 

「くそっ! よくもこんなキ〇ガイMSを」

 

 

 ハレルヤの言葉は、最後まで続くことはなかった。

 

 G-Dice型が出してきたサイコロの目は1。次の瞬間、穴から拡散メガ粒子砲が放たれた。慌てて回避しようとしたキュリオスであったが、間もなく光に飲み込まれた。

 轟音。間髪入れずに爆発音が響き、アレルヤのシミュレーターが止まった。画面に大きく出た『撃墜』の文字。彼もまた、『撃墜までの最短記録』更新である。

 あっけにとられる男2人の背中はシュールであった。しばしの沈黙。彼らは茫然自失のまま、交代時間まで座っていた。イデアもまた、そそくさと2人に背を向ける。

 

 何も知らない刹那とロックオンがシミュレーター室に入ってきた。それを察知したアレルヤとティエリアが、燃え尽きたような表情を浮かべて立ち上がる。そのまま、2人はふらふらとシミュレーター室を出ていった。

 刹那とロックオンは首を傾げて2人を見送る。2人はこれから地獄へと踏み出すのだ。イデアは生暖かい眼差しで、刹那とロックオンの背中を見守っていた。2人がシミュレーターを起動させる。エクシアとデュナメスが出撃した。

 

 

「相手は……――!!?」

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

 

 2人の相手として出てきた機体は、HARO-86型。どこからどう見てもハロだ。艦内でよく見かける、ソレスタルビーイングの愛くるしいクルーにしてマスコットたち。ただし、自分たちの知っているサイズよりはるかに大きい。

 物々しい起動音とともに、普段はしまわれている足と手のアームが伸びる。「こいつ、動くぞ!?」と、ロックオンが戦慄する声が聞こえた。刹那なんて、驚きすぎてコメントできないでいるようだった。丸い悪魔が立ち上がる。HARO-86型の目が不気味に光った。

 マスコットが巨大化したという印象が強いHARO-86型だが、可愛らしい外見とは裏腹に、G-Dice型とタメ張れるほどの能力を持っている。機体能力値も搭載された武装もとんでもないものばかりだ。これを開発してしまったら、世界のパワーバランスは大崩壊するだろう。

 

 単純な戦闘力で言えば、ガンダムなんて殲滅できる。「当たらなければどうということもない」で回避し続けることも可能だろうが、それはもう人間の域を超えなければ不可能だろう。ニュータイプでも連れてこないと。いや、ニュータイプでも辛いかもしれない。

 

 次の瞬間、HARO-86型は耳(?)のカバーを開けた。そこから放たれるハロの雨あられは、ふざけてるとしか言いようがない。だが侮るなかれ。一撃でも喰らえば、先程のティエリアやアレルヤ/ハレルヤと同じ末路を辿るのだ。真面目にやる方が損する世の中だ。

 エクシアが必死に回避し、デュナメスが攻撃を射撃で相殺しつつ回避する。間髪入れず、ハロの雨あられが降り注いできた。HARO-86型の弱点は“武装がマルチロックに対応していない”ことだが、それがどうしたと言わんばかりにHARO-86型は攻撃を続ける。

 

 シュミレーター室は阿鼻叫喚。刹那の焦る声とロックオンの悲鳴が、見事な二重奏を奏でていた。

 

 

「何がハロ・ビットだ! まんまハロじゃねえか!」

 

「くっ! あまりにも量が多すぎる!」

 

 

 次の瞬間、ビットではなく大量の泡が飛んできた。エクシアの移動範囲がグッと狭まる。デュナメスが射撃で泡を壊すが、間に合わない。

 そのタイミングを待っていたかのように、HARO-86型はまた大量のハロを放つ。泡で逃走範囲を潰されていたエクシアは、あっという間に飲み込まれた。

 

 轟音。間髪入れずに爆発音が響き、刹那のシミュレーターが止まった。画面に大きく出た『撃墜』の文字。彼女もまた、『撃墜までの最短記録』更新である。

 

 

「刹――!?」

 

 

 ロックオンは、刹那の名を呼ぶことができなかった。HARO-86型が、デュナメスに向かって猛スピードで突っ込んできたためである。慌てて防御体制に移ったが、HARO-86型のタックルは難なくデュナメスの装甲をぶち抜いた。

 轟音。間髪入れずに爆発音が響き、ロックオンのシミュレーターが止まった。画面に大きく出た『撃墜』の文字。彼もまた、『撃墜までの最短記録』更新である。接近戦対応用としての剣を使う間もない終わりだった。

 2人もまた、アレルヤ/ハレルヤとティエリアと同じように、無言のままシミュレーター画面を見つめる。刹那とロックオンの口元が戦慄(わなな)いた。気持ちはよくわかる。理不尽にも程がある『蹂躙』だ。

 

 ややあって。

 ようやく2人が口を開く。

 

 

「俺は、ガンダムになれない……。ガンダムは、ハロだったのか……?」

 

 

 刹那は愕然とした表情でそう言った。アイデンティティが崩壊してしまいそうな顔だった。

 

 

「どうしてこんなMSを出した!? こんな悪魔を出したんだ! 言え、言うんだ!!」

 

 

 「この前も色々アレだったけど、今回は輪をかけて酷いな!」と叫んでシミュレーターを責めるロックオンは、先日のシミュレーターで出てきた敵を思い出しているようだった。

 ちなみに、先日に現れた機体はタイプアンノウン、G-Devil型シリーズ。本体と一緒に、本体が子飼いにしてると思しき機体が大量に現れた光景は(悪い意味で)壮観である。

 頭部はガンダム、下は触手のようなものが地面を割って屹立するその姿は、「こいつ本当にガンダムなの?」と首を傾げたくなるような出で立ちであった。勿論、それを見た刹那は「お前はガンダムではない」と否定していた。

 

 シミュレーション結果は、全員が連携してどうにか撃破できたシロモノだ。G-Devil本体型さえいれば、全自動でG-Devil型シリーズがセットになって登場する。今度はプトレマイオスも交えてシミュレーターをしてみたい。おそらく、スメラギやクルーたちは絶叫するだろう。

 ちなみに、以前スメラギと一緒に合同シミュレーターで訓練したときは“シミュレーターに重大なバグと欠陥が発生した”状態で戦う羽目になったこともあったか。IB-MA-HAS型と奴が生み出したIB-HAS-Pluma型の軍団と繰り広げた地獄絵図は、今でも語り草になっている。

 

 

『突然シミュレーターがイカれちまった!!』

 

『今回の訓練で勝利しないと、イデアが集めた虚憶(きょおく)由来のデータが全て吹き飛んじまうらしい!』

 

『ワシも自分が何を言っているのか、そもそも何が起きてるのか、さっぱり分らんのだ!!』

 

 

 シミュレーターを起動した直後に駆け込んできたイアンの悲鳴から、すべては始まった。

 

 勝てば現状維持、負ければ虚憶(きょおく)由来のデータ完全消滅という究極の2択。開発中、或いは試験運用中の武装の中には虚憶(きょおく)由来の技術を組み込んだものが存在している。

 今回の模擬戦闘に敗北すれば、そのデータも吹っ飛んでしまうのだ。敗北した場合、ソレスタルビーイングの活動に支障が出るレベルの大損害が出てしまう。これは譲れないし負けられない。

 訓練といえど、文字通りの背水の陣。良くも悪くも、高いモチベーションと緊張感を抱いて挑んだシミュレーター訓練はアレが初めてだったかもしれない。

 

 

(あのときは“GN粒子が絡んだありとあらゆる攻撃の威力が()()無効化される”って状態になったんだっけ……。『関節部の装甲が薄くてはがれやすい』ってことに気づいたのと、エクシアの実体剣がなかったら詰んでたなぁ)

 

 

 戦闘結果はエクシアが中破・パイロットが重症、その他の機体は大破・パイロットは全員死亡で勝利した。勝てたこと自体が奇跡である。全員で互いをカバーし合い、仲間を信じて託し続けた執念が実を結んだ結果だ。

 刹那は小さく拳を握りしめ、ロックオンとアレルヤが号泣しながら抱き合い、ハレルヤが笑いながら泣き、ティエリアはそっぽを向いて目頭を押さえていた。スメラギは両手で顔を覆って微動だにしない。シミュレーターを見ていた他の面々も泣くわ喚くわで大いに盛り上がっていたか。

 

 『青春スポ根漫画みたいっすね』と発言したのはリヒテンダール(男泣きの姿)であるが、彼の言葉以上にあの状況を言い表せる言葉はなかっただろう。

 

 

『畜生……! 俺に“銃を鈍器として使わせ”やがって!!』

 

 

 関節部の狙撃に専念していたが、途中から関節部を狙う手段として、スナイパーライフルでIB-HAS-Pluma型を殴り飛ばしたロックオン。

 

 

『こんな、こんなハズじゃ……。――っ、だが、今は!!』

 

 

 ナドレの姿を晒す羽目になり、パニックになりながらも己の責務を全うしたティエリア。

 

 

『アレルヤ、力を貸して! 不本意だけど、どうしてもキミの力が必要なんだ!』

『ハハッ! 普段からそうやって暴れさせてくれりゃあ万々歳なんだがなァ!』

 

 

 互いに結託し、攻撃役と囮役の双方で大活躍したアレルヤとハレルヤ。

 

 

『――うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 

 全員から託された想いを背負ってIB-MA-HAS型に競り勝った刹那。

 

 あのシミュレーター訓練はベストバウトの連続だった。あの感動をどうしても忘れられないのか、たまにクルー全体で映像の上映会をしてしまう程度にはお気に入りだ。尚、あのバグが発生したのはあの1回だけである。イアンの尽力によって、シミュレーターは元通りになった。

 

 IB-MA-HAS型と合い対峙した虚憶(きょおく)では、IB系の機体に搭載されたナノラミネート装甲に悩まされた。なんたってあれは、ビーム兵器の威力を著しく下げてしまう。実体を有する武器でなければまともにダメージを与えられない。

 ナノラミネート装甲に準ずるものは西暦2300年代にもあるっちゃあるが、ナノラミネート装甲と比較すれば玩具にもならない。もしも技術開発が進んでナノラミネート装甲――或いはそれに準ずるビームコーディング技術が出来上がって世に発表されたら、世界のバランスは崩壊するだろう。

 いいや、何かの拍子でIB-MA-HAS型が製造されてしまう方がはるかに危険度が高い。パワーバランスの崩壊どころか、人類滅亡コースに直行しかねないためだ。開発者がどれ程“効率の良い戦争”――否、“お手軽な殲滅が大好きだったのか”を伺えるほどのスペックである。

 

 勿論、ソレスタルビーイングはIB-MA-HAS型、及びそれと同コンセプトで作られた兵器の存在を許しはしない。

 戦争根絶とは方向性が変わる――人類の存亡を賭けた戦いになるだろうが、武力介入の対象となるだろう。

 

 

(現状、西暦2300年代の人類は『ムカツク奴は全員ぶっ飛ばしたいけど、それをやると共倒れになるからやめておこう』と思える程度の思考回路と理性はあるんだよね。そこは評価に値するかな)

 

 

 そんなことを考えつつ、イデアは端末に視線を戻した。

 

 今の刹那では、オフ会の話し合いをするのは無理だろう。もうしばらく時間を置く必要がありそうだ。端末を操作して夜鷹へのメッセージを打つ。『あの子ともよく話し合ってみます』というメールを送り、イデアは端末を閉じた。

 シミュレーター訓練だとは重々理解している。だがそれ故に、これから単騎出撃する気にはならなかった。出たとしても、開始早々撃墜がオチだろう。メンバー中、イデアの『撃墜までの最短記録』がTOPになるだけだ。

 

 

「シミュレーター、大変なことになってたね」

 

「なんであんなもの受信しちゃったの」

 

 

 シミュレーター室の外に併設されていた休憩室で項垂れていた2人に近づき、イデアは声をかける。

 ぐったりとしたアレルヤが尋ねてきた。そんなこと言われても、《視えて》しまったし、現実で開発されたら脅威なのだから仕方がない。

 イデアは遠い目をした。自分の表情から、アレルヤとティエリアも何かを察したらしい。深刻そうな顔をして、ぽんと肩を叩いてくれた。

 

 

「ということは、あの2人も?」

 

「ええ。出てきたのはこれよ」

 

 

 ティエリアに端末を見せる。表示されたのは、先程のシミュレーターの戦闘結果である。

 

 HARO-86型、と2人が機体名を呼んだ刹那、展開する地獄絵図。圧倒的な戦闘力に、アレルヤとティエリアは顔を青くした。

 こんなのが三大国家やテロリストに流通していなくて本当に良かった。自軍が開発できれば儲けものだが、敵に開発されたらもう目も当てられない。

 シュミレーター室の扉が開く。刹那とロックオンがふらふらとした足取りで廊下を進んでいった。燃え尽きた顔をしている。つい先程のアレルヤとティエリアと同じだ。

 

 アレルヤとティエリアはしばし顔を見合わせた後、刹那とロックオンの肩にぽんと手を置いた。

 その気持ちはよくわかる、という言葉の代わりに頷いて見せる。それだけで、4人は通じ合ったようだった。

 

 

「災難だったな」

 

「僕たちのときも頭おかしいMS出てきたんだ。頭はガンダムと似通ってたんだけど、下半身がサイコロでさ」

 

「??????????」

 

「せ、刹那? 刹那、しっかり!」

 

「機体の形状、破壊力……本当に何もかもがおかしすぎんだろ!」

 

「“この機体を現実に再現するのがほぼ不可能”なのと、“こんなものを再現しようとする馬鹿が存在しない”のが数少ない救いか……」

 

 

 仲間たちが愚痴大会を開いたのと入れ替わるような形で、イデアは自身の端末に視線を落とす。

 今の刹那では、オフ会の話し合いをするのは無理だろう。もうしばらく時間を置く必要がありそうだ。

 端末を操作して夜鷹へのメッセージを打つ。『あの子ともよく話し合ってみます』というメールを送り、イデアは端末を閉じた。

 

 しかし、イデアは《識っている》。数時間後、刹那にこの話題を振り『誕生日をお祝いしてあげようか』と提案すると、彼女は満更でもなさそうにすることを。

 何度かのやり取りの後で、次のオフ会が『3泊4日の日本・京都巡り』に決定し、コラボ企画と共にグラハム・エーカーの誕生祝いをすることが決まることを。

 

 

(楽しみだなぁ)

 

 

 数時間後を今か今かと待ちながら、イデアは端末を起動する。

 ここ最近の日課――夜鷹の動画視聴を再開し、時間を潰すことにした。

 

 

 

*

 

 

 ――それから数時間後。

 

 そろそろかと思って移動すれば、程なくして、端末とにらめっこしていた刹那の姿を発見した。よく《視れば》、彼女は耳を赤らめつつ、ほんのわずかに口元を緩ませている。

 シミュレーター訓練が始まる前に送ったメールへの返事が返ってきたらしく、彼女はそれを確認していたらしい。青春と恋バナの気配を感じて、イデアはニンマリと笑った。

 

 

「せーつなっ!」

 

「!?」

 

 

 イデアが声をかければ、刹那は大きく肩を弾ませた。反射的に格闘戦の構えを取っていたが、話しかけてきた人間がイデアだと気づいて戦闘態勢を解く。尚、緊張状態は続いていた。

 

 

「……何か用か?」

 

「夜鷹さんからオフ会の打診が来たの! 『いつも一緒に来るグラハムさんの誕生日が近いから、刹那が良ければ、一緒に祝ってあげてくれないか?』って!」

 

 

 イデアが端末を指し示せば、刹那は興味深そうに覗き込んでくる。夜鷹からのメッセージを一通り確認し終えた彼女は、考え込むように顎に手を当てた。夜鷹やグラハムと交流を始めた直後の刹那だったら、興味を示すことすらなかっただろう。それが今、こうして、グラハムのために思考を割いている。

 しかも、グラハムのことを考えている刹那の表情はとても柔らかい。いつの間にかいい顔をするようになったな――なんて、イデアはひっそり考える。内心テンション爆上がりしたのと、刹那が顔を上げて了承の返事を返したのはほぼ同時だった。

 

 

「ああ、構わない。……できるだけ予定は開けておく」

 

「分かった! 夜鷹さんにも伝えとくね!!」

 

 

 《識っていた》通りの光景とはいえ、やはり実際に体験してみると良いものだ。

 

 イオリア・シュヘンベルグが掲げた理想への殉教者であろうとも、ソレスタルビーイングのクルーは人間である。くだらない理由で走り出し、ときにはくだらない理由で立ち止まり、くだらない理由で疑心暗鬼や衝突を繰り返し、くだらないことで結びつく。――そんな“くだらないこと”をしていても問題ない世界を、イデアは平和だと思っていた。

 イオリアの掲げた理想がどれ程荒唐無稽なのかはよく分かっている。けれど、その計画に協力することを選んだときから、イデアの戦いは始まっているのだ。いつか、刹那を筆頭とした仲間たちと共に、“くだらないこと”で一喜一憂できる世界を作りたい。思いを馳せる夜鷹/クーゴ・ハガネと笑って話ができる日々を生きたい。……荒唐無稽で、くだらない話だ。

 だけど、イデア・クピディターズは《識っている》。“みんなと一緒に、青い星といきたい”と願い、突き進んだ若者がいたことを。たくさん悩んで、苦しんで、決断して、顔を上げて突き進んだ優しい人だった。人前でも感情をあらわにしていた少年は鋼の意思を持つ指導者となり、次世代の“同胞”や人類のために未来を切り開いてみせた。――その強さにあやかりたいものだ。

 

 イデアは夜鷹にメッセージを打ち込みつつ、過去(いままで)未来(これから)に思いを馳せる。

 恋愛事情とは違って、一寸先は闇状態。“その道を進むと決めたのは自分なのだ”という事実だけがあった。

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 第1次蒼穹作戦――人類軍側の作戦名は“天国への扉(ヘブンズ・ドア)”作戦だった――が終わり、この世界からホウジョウ軍が去ってから早3か月。世界は一応の平穏を得たが、アルティメット・クロスの戦いが終わったわけではない。

 

 脳量子波や■■■ン波に惹かれて近寄ってきた挙句人間と同化しようとする“金属生命体”、核兵器で焼き払われた憎悪と憤怒を募らせるフェストゥム、フォールド波に惹かれて集まってくるバジュラ、地球人のくせにろくでもないことばかりしでかす“あん畜生”など、不安要素が多すぎる。

 特に“あん畜生”は“天国への扉(ヘブンズ・ドア)”作戦中にフェストゥムへ核兵器をぶち込んだ張本人だ。奴の実情を知っている身としては、ソイツに英雄という肩書や人類軍の総司令という地位を与えるべきではない。絶対ろくでもないことになる。

 

 

「みなさんこんにちわ、イザベル・クロンカイトです。連日お伝えしている謎の異星体、通称“金属生命体”についてですが――」

 

 

 誰がニュースにチャンネルを合わせたのかは分からない。だが、映し出された映像を見て、クーゴは思わず紅茶を噴き出した。“そらを継ぐ人”が慌てて台布巾を取りに行こうとして凍り付く。

 丁度それと同じタイミングで、物資を運び込んでいた“高貴なる魂”が抱えていた物資を取り落とし、恋愛話で盛り上がっていた“理想への憧れ”からありとあらゆる表情が抜け落ちた。

 “天上人”の“戦術予報士”はあんぐりと口を開け、“革新者”と何かを話していたグラハムも表情を引きつらせている。同行していた“太陽の勇者”隊も声を上げた。

 

 

「カタギリ技術顧問が“あん畜生”と一緒にテレビ出てる!?」

 

「すげえ嫌そう!」

 

 

 金髪碧眼の男とアキラがテレビ画面を指さして叫んだ。人類軍の総司令官への態度ではないが、“あん畜生”の態度としては多分間違ってないだろう。

 イザベルから『英雄』と呼ばれた“あん畜生”は有頂天で笑っている。対して、対談相手として連れてこられたビリーの口元は引きつっていた。

 

 

「“あん畜生”の奴、自分から『なんでも聞いてください』とか言ってるけど、“金属生命体”の解説は全部ビリーに丸投げしてるな……」

 

「どうせ『邪魔者はみんな殲滅すればいい』と思ってるんでしょ。クソすぎません? 頭“国連大使(■■■■■■)”かな??」

 

「頭■■■■■■■『■■』なんでしょう、きっと」

 

「教官。その悪口、アタシたちの中でしか通用しませんよ」

 

「前大戦の知識がないと通じない悪口はやめるんだ。十中八九、“あん畜生”に意味が伝わらない」

 

 

 補給作業の手伝いをしていた“高貴なる魂”の教え子“3兄妹の末妹”と“悪の組織第1幹部”は苦言を呈したが、多分、内心は2人と同じことを考えているのかもしれない。目が笑っていなかった。

 テレビ画面ではビリーと“あん畜生”の対談が行われている。和やかなのは表面だけだし、ご満悦なのは“あん畜生”ただ1人だ。ビリーの気苦労を思うと複雑であった。

 “あん畜生”は「各所から提供された技術を用いて決戦兵器を作っている。準備は万全」と豪語している。イザベラはそこで話を一区切りさせ、視聴者に対して適切な行動をするよう呼び掛けていた。

 

 

「……あの人に地球任せたら、文字通り『お終い』になりそうですよね」

 

「何回も滅びかけてるし、今も滅びそうなんだよなあ。それを止めるために、アルティメット・クロスは頑張ってるワケだけど」

 

 

 “そらを継ぐ人”から手渡された台布巾を受け取り、噴き出した紅茶の処理を手早く済ませる。脳裏によぎったのは、数時間前のブリーフィングルームでの報告会だ。

 

 蒼穹作戦終了後、ファフナーのパイロットたちは竜宮島で療養するために戦線離脱していた。同化現象の回復に一定の光明が差したので、治療に専念するためだ。少しづつではあるが体調は改善し、安定してきているという。他にも、本日から一騎の後輩にあたる子どもたちの訓練を始めるそうだ。

 彼らが戦線に出される前にすべてを片付けられたらよかったのだが、いかんせん、“あん畜生”やその他外宇宙生命体の問題が思った以上に根深い。後者は対話や融和、共存の可能性が見えているだけまだマシである。問題は、同じ人類なのに共存も共栄も和解もできなさそうな“あん畜生”の方だった。

 

 

(どこもかしこも決着待ちが多すぎる。……事態が動くとしたら、きっとこれからだろう)

 

 

 クーゴは新しい紅茶を淹れる傍ら、端末のメッセージを確認する。送り主は“とある理由”で親しくなった道夫からのもの。メッセージには、彼の妻・弓子と娘・美羽との家族写真が添付されていた。

 

 フェストゥム因子が関わった両親から生まれたためか、美羽の成長は常人よりも著しく速い。写真に写る少女は2歳ぐらいの外見だが、実際はまだ生後2か月しか経過していないのだ。

 彼のメッセージは『他の子どもと少し違うところがあっても、美羽は俺の大切な娘なんだ。何があろうと、この手で守ってみせる』という心意気と、激励の言葉で締めくくられていた。

 UXに参加してからは、いろんな方面で仲間が増えたような気がする。つい先日も、歌い手夜鷹としてエトワールと共に歌手組とコラボする羽目になったか。世の中何が起きるか分かったのもではない。

 

 ……それはきっと、クーゴのすぐ近くで談笑しているグラハムと“革新者”にも当てはまる。この2人も、何か一歩を間違えていたらこの世にいなかったかもしれないのだ。いかなる状況でも手放さなかった願いが、数多の軌跡を引き起こした。そうして今、この瞬間に繋がっている。願いは誰にも撃ち落とすことはできないのだ。

 柔らかな表情をするようになった“革新者”と、本来の気質に戻ったものの時折儚い微笑を浮かべることが増えたグラハム。やり取りはあの頃と変化した部分もあるけれど、互いをまっすぐ見つめ合う部分は今でも変わっていない。そんな2人――特にグラハムのやらかしをついつい許容してしまうクーゴも、変わっていないのかもしれなかった。

 

 

「――竜宮島から救援要請! 実践訓練中に突如フェストゥムが出現したそうです!!」

 

 

 ――短い平穏が終わり、最後の戦いの幕開けが告げられたのは、それからすぐのことである。

 

 

 

*

 

 

 

<ねえ、俺も質問していい?>

 

 

 《聲》が《聴こえる》。意識を集中させれば、淡い栗色の髪の少年――来主操が無邪気に笑っていたのが《視えた》。

 

 

<あのね、空が綺麗だって思ったことある?>

 

<空? あ、ああ。あるが……>

 

<あはははは、やっぱり! 俺はキミたちを理解できる!>

 

 

 操からの質問に若干の困惑を滲ませつつ、真壁は答えた。質問の意図がよく分からなかったためだろう。だが、真壁の答えは操にとっての正解だったらしい。操は嬉しそうに表情をほころばせる。

 どこからどう見ても、来主操の外見は人間にしか見えない。何も知らない一般人が彼を見て、その正体――彼の種族がフェストゥムである――を看破できるものは皆無であろう。

 空について語る少年の姿は、いつぞやの友人のことを思い出させてくれる。クーゴはちらりとグラハムを見た。奴はアルトと一緒に何やら討論している様子だ。

 

 奴は空を愛し、空を自由に翔けたくて空軍に入った男である。空を愛したきっかけは、空の美しさへの憧れだった。

 クーゴも同じような――けれど少しずれた理由で、空軍に入った。その根底には、『「空が綺麗だ」と思ったから』もある。

 

 

(『空が綺麗』か……)

 

 

 こんなにも単純な共通認識。共有できる感情。“目覚めた”クーゴだからこそ、胸に響くものがあった。

 

 

<キミたちを消したくないんだ。そのためにも、一緒に戦ってほしい>

 

<戦う? 誰と……?>

 

<――人類や、俺たちの他の群れと>

 

 

「えっ」

 

 

 ――だからこそ、だろう。

 

 操の言葉を《聴いてしまった》クーゴが、料理の途中に手を止めてしまう程の強い衝撃を受けたのは。

 危うく包丁を取り落としそうになったのはここだけの話である。

 

 

 

***

 

 

 

 操のミールは“人類はクソだけど、一騎を始めとしたファフナーのパイロットが所属するアルティメット・クロスなら信じられる(意訳)”という派閥らしい。更に、フェストゥムの勢力図的な面でも、割とマイナーな派閥に属しているようだった。操曰く、人類に対して攻撃的な派閥が優勢とのこと。

 『お互いが疲弊するまで力を削げば、二度と争いは怒らないだろう』という考えのもと、操のミールはアルティメット・クロスに共闘を申し込んできた。『アルティメット・クロス以外の人類と、操のミール以外の勢力をすべて叩き潰さない限り、共存の道は開けない』とまで言い切って。

 アルティメット・クロスを信じて共存の道を模索してくれたことは嬉しいが、共存のために他の勢力をすべて殲滅するというのは大問題だ。そもそも、アルティメット・クロスは人類の守護者として戦い続けてきた集団だ。幾ら異種族との共生のためとはいえ、守るべき相手を傷つけることなど出来るはずがない。

 

 操がアルティメット・クロスに求めているのは、嘗ての“天上人”による武力介入の再現である。前の大戦で“革新者”や“理想への憧れ”が行っていた“人類の意思を統一する”に近い。ただし、“天上人”が『自身にヘイトを集めたあと、公的機関の手によって滅亡する』という方法とは違い、『異なる意見を掲げる連中を殲滅しつくす』ことで意志の統一を図る方法だった。

 操のミールは共闘の条件として、竜宮島のミールと同化することを要求している。彼らに痛みを教えた竜宮島のミールと同化すれば、自分たちの中に芽生えた痛みを消せると思い込んでいるようだ。尚、彼らを島のミールと同化させるということは、この島にいるすべての命が操のミールに握られることになる。――要は、共闘とは名ばかりの、永続的な隷属を強要しているのだ。

 

 

『そして奴らは、『ミールを同化させるまで、継続的にこの島を攻める』と言っている』

 

『つまり、『無条件降伏しろ』ってことじゃないか! 何が共存の道だよ!』

 

『やっぱり頭■■■■■■■『■■』なんじゃないの! “あん畜生”といい勝負よ!』

 

『涼しい顔してとんでもねえ野郎だな!』

 

 

 司馬懿の話を聞いた浩一・“理想への憧れ”・張飛らがキレ散らかす一幕もあったが、割愛する。

 

 彼が伝えた内容とミールの判断によっては、来主操はアルティメット・クロスと敵対する可能性もあり得た。

 その証拠が、竜宮島の空を覆う赤いオーロラ――この島のコアを殺すためのもの。

 

 

『人の心を理解するのは難しいよ。でも、『空は綺麗だ』って思ってくれて嬉しい!』

 

 

 出撃前、操が言っていたことを思い出した。あのときは何も言えなかったけれど、「俺もだ」と頷きたくて堪らなかった。

 仲間たちは今、状況の報告を待ちつつ、竜宮島での自由時間を過ごしている。わずかな休息期間だ、今のうちにゆっくり休んで欲しい。

 クーゴはそんなことを考えつつ背伸びした。少し離れた場所では、道明寺が司馬懿に教えを乞うている。

 

 互いの情報交換は捗っているらしく、熱を帯びた会話が続いていた。

 

 

「――ひどいぞ“革新者”! キミは私の想いをいなす気かっ!?」

 

「ええいやめろうっとおしい! 今この場ですることじゃないだろうそれは!」

 

「はっはっは、相変わらず愛が痛いな! 勿論、肘鉄ごときで諦める私ではないさ!」

 

 

 話は変わるが、本日のグラハムは“やたらとテンションがぶち上ってる日”だったらしい。先の大戦が始まる以前の調子で“革新者”へちょっかいを出しては宙を舞っていた。受け身の態勢が様になっており、何度倒されてもすぐに立ち上がる。

 彼女の顔は真っ赤だ。照れ隠しでやっていると知っているからこそ、グラハムは積極的にスキンシップを取りたがる。“彼女”のリアクションに一喜一憂したいようだった。惚気話すらできなかった時期があると考えると、今こうしていられるグラハムの心境を考えてしまい、止めるのを躊躇ってしまうのだ。

 

 周囲に集う人々に至っては『恒例行事だ』と言って静観している。茶化す者もいるが、馬に蹴られたくないので、深く追及することはしなかった。

 

 そんな痴話喧嘩と惚気の合体技を見て首を傾げる操の元へ、クーゴは歩み寄った。こちらに気づいた操がきょとんと見返してきた。

 敵意がないことを示すように、クーゴはふっと頬を緩める。どうやらそれが伝わったらしく、操の方も無邪気に笑い返した。彼はそのまま、クーゴの隣に腰掛ける。

 

 

「キミは確か、クーゴ・ハガネだね。名前に『空』が入ってる」

 

「ああ。『空』を『護る』と書いて、クーゴなんだ」

 

 

 読心術が発動していたようで、操はクーゴの名前を言い当てた。補足してやれば、彼はより一層表情を輝かせる。

 

 

「いい名前だね」

 

「友達にも言われたよ」

 

「あそこで“革新者”に蹴り飛ばされた人?」

 

「…………ああ」

 

 

 操が指をさす。その先で、グラハムが吹っ飛んだ。巻き添えで浩一が下敷きになり、それを助けようとした美海と絵美が睨み合う。

 軍配は真っ先に浩一に駆け寄った矢島に挙がった。漁夫の利。少女2人が彼の背中を射抜かんばかりの勢いで睨みつけている。文字通り目が光っていた。

 グラハムはまた立ち上がった。満面の笑みを浮かべて“革新者”にまたちょっかいをかける。流石、しつこくて人に嫌われるタイプと自他ともに認められた男だ。

 

 正直、これを「友人だ」と言いたくない。実際に友人なんだけど、他人のフリをしたくてたまらなかった。

 

 

「貴方も、空が綺麗だって思ったことがある?」

 

「あるよ。そんな空が大好きだ。……だから、今の竜宮島の空を見ると、とても悲しい」

 

 

 クーゴはそう言って、竜宮島の空に思いを馳せる。

 コアの代替えとして乙姫のサポートへ向かった芹が、「青い空が見たい」と叫んでいた姿を思い出した。

 

 操も悲しそうに目を伏せる。「俺だって、こんなことしたくない」と、憔悴しきった声で呟いた。

 だが、自分たちは彼のミールの提案に従うつもりにはなれなかった。その先にあるのは、竜宮島の終わりである。

 竜宮島の子どもたち、およびアルティメット・クロスは、第3の道を模索していた。未だ、答えを探している最中だ。

 

 

「じゃあ、島の機能は?」

 

「完全にとは言えないケド、各機能の安全稼働が確認できたわ」

 

 

 山下の問いに、レイチェルが報告する。代替えの効果が出ているという証拠だ。それを聞いた“元・超兵出身者”が安どの表情を浮かべる。

 

 

「これで、真壁司令のように倒れる方もいなくなるんですね」

 

「まだ楽観視はできません。コアの代替者が負担を軽減できるのは、数週間が限界……。それを過ぎれば、芹さんの命は……」

 

 

 しかし、彼の言葉を聞いて表情を曇らせたのは遠見だった。代替という手段が『問題の先送りにしかならない』という事実を嫌でも突き付けてくる。

 仲間たちの表情も晴れない。タイムリミットは刻々と近づいてきている。仲間と共に話を聞いていた操も心配そうに眉を下げた。

 

 

「だからさぁ、早く降伏すればいいんだよ。そうすれば、キミたちはみんな助かる」

 

「アンタ、まだそんなこと言うとるんか! 一騎の話を忘れたんか?」

 

「『俺たちのミールに伝えろ』って話? 俺の情報はミールにすべて伝えてある。これ以上、何を伝えろって言うの?」

 

 

 クーゴの隣に座っていた操が立ち上がり、不満そうに仲間たちに言った。だが、いくらミール側からの善意とはいえ、その案に従うことだけはどうしてもできない。

 彼らの望みは竜宮島とそれに与する人類の隷属であり、その第1段階として無条件降伏しろと迫っている。紆余曲折あっても、現時点では、彼らの主義主張を変えるには至らないようだ。

 ミールの代弁者として振る舞い続ける操の姿勢にいきり立ったのはシズナだった。しかし、彼女が続けようとした言葉を遮るようにして操が首を傾げる。

 

 彼の眼は本気であり、彼の問いかけは純粋な疑問だ。何が問題なのか分からないと言いたげである。それをきちんと言葉にして指摘したのは一騎だった。

 

 

「『戦いたくない』ってお前の気持ちは伝えたのか?」

 

「『アルティメット・クロスを消したくない』というのは来主さんの意志ですよね。それを言わないと、ミールには伝わりませんよ?」

 

 

 一騎と“そらを継ぐ人”の問いに、操はますます眉をひそめた。

 

 操はミールの代弁者としてアルヴィス及びアルティメット・クロスと接触してきた。ミールの意志――共闘とは名ばかりの隷属を強要してきたとき、彼は確かに言っていたのだ。『アルティメット・クロスを消したくない』と。

 でも彼は、それをミールに訴えようとするそぶりはなかった。アルティメット・クロスに対して『消したくない』、『戦いたくない』とは言うものの、『ミールが戦う意思を示したら、自分はそれに従わなくてはならない』と言い切っている。

 頑ななまでに自分の役目――ミールの代弁者にして、ミールに情報を伝える指――を果たすことに固執する理由とは何か。反対する立場を表明できないのは何故か。――その答えを告げたのは、他でもない来主操本人。彼は悲しそうな顔をする。

 

 

「無理だよ。ミールは俺にとって、キミたちで言う神様なんだ。神様には逆らえないでしょ?」

 

「それは、お前が思い込んでいるだけだ」

 

 

 操の言葉をやんわりと制したのは、グラハムを押しのけた“革新者”だった。彼女は嘗て“神のための聖戦だと信じ、少年兵として戦っていた”ことがあったらしい。

 悲痛な表情で『神などいない』と断じた少女は、今では静かな目をした女性へと成長した。その背中を見つめ、グラハムは愛おしげに目を細める。

 “革新者”の言葉の意味を理解できずに首を傾げた操であるが、それに乗っかるようにして張飛が声を上げる。

 

 

「アニキが証明して見せただろうが! 俺たち人間の意志が、天や神様だって動かすんだよ!」

 

「そう言われても……」

 

「ねえ。ダメ元であんたのミールに伝えてみたらどう?」

 

「話さなけれな何もわからないよ。相手の気持ちも、自分の気持ちも」

 

 

 孫尚香と真矢の言葉に、操は首を振った。

 「ミールは俺の話を聞かない」とはっきり言い切る。

 自分は指だから、神様を変えることなど不可能だと。

 

 

「キミたちだって、相手が自分の話を聞いてくれなきゃ、いつか諦めちゃうでしょ?」

 

「いや、俺は諦めない」

 

 

 操の後ろ向きな言葉を遮るように、浩一が立ち上がった。

 

 

「たとえ話が通じない相手だろうと、何度だって諦めずわかりあおうとしてみせる。“革新者”さんがそうだったようにさ」

 

「確かに“革新者”は“金属生命体”相手でも後先考えず突っ込むようなヤツだったからな」

 

「あの頃はこうなるだなんて思わなかったぜ。……本当、変わったよな」

 

 

 浩一は力強く笑った後、“革新者”の方に視線を向けた。2代目“狙い撃つ成層圏”と初代“狙い撃つ成層圏”が苦笑しながら顔を見合わせる。

 2代目はどこか呆れた調子の笑い方で、初代は酷く懐かしむような調子の笑い方。外見がほぼ同じの双子であるが、“革新者”に対して抱く感情は全然違った。

 

 

「そこが彼女のいいところだよ」

 

「可能性が1%でもあるなら、諦める理由なんてないわ」

 

「だな。可能性が0じゃないなら、それだけで充分試す価値がある」

 

「対話の可能性が残っているのなら、捨てるべきではないと判断したまでだ」

 

 

 グラハムと“理想への憧れ”も、“革新者”に優しい眼差しを向けながら頷いた。その通りだとクーゴも思う。

 “革新者”は表情を緩めた。可能性が残っているのなら、チャンスを捨てるべきではない。

 それを聞いた操は押し黙る。一騎が彼を諭したが、最後は固く目を閉じて首を振った。

 

 世界を敵に回し、すべてを滅ぼす戦いに身を投じてしまえば、アルティメット・クロスの面々は『自分自身ではなくなってしまう』だろう。

 だけど、件の少年も同じだった。アルティメット・クロスの助言に従い、ミールを裏切るような真似をすれば、彼も『自分自身ではなくなってしまう』。

 

 『空が綺麗』だと笑った少年。『自分と同じように、『空が綺麗』だと思ってくれて嬉しい』と笑った少年。

 

 同じだと笑いあえたはずなのに、どうしてこうもうまくいかないんだろう。

 世の中は本当に世知辛い。世界は、思った以上に難しいようだ。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

「う、うわあああああ! フラッグが、フラッグがぁぁぁぁぁ!」

「コイツ、フラッグに擬態した!? しかもメタリックカラーになった!」

「気を付けろ! コイツに直接触れると同化されるぞ!」

 

 

 本日、ユニオンのシミュレーターは満員御礼。おまけに阿鼻叫喚であった。

 

 向うにいる者たちが相手取っているのは、未知なる金属生命体だ。件の金属生命体は、直接機体に取りつくことで同化し、同化した機体と同じ姿・同スペックの能力を持つ存在へと変貌してしまう。

 取りつかれて同化された場合、待ち受けるのは死一直線。「当たらなければどうということはない」を地でいく戦術を求められる。いかに敵の攻撃を躱し、相手を撃墜できるかにかかっていた。

 

 この金属生命体のデータは、クーゴの虚憶(きょおく)を再現したものだ。同時に、“多元世界技術解析および実験チーム”が正式な調査隊になれるかどうかの試金石でもある。

 クーゴの虚憶(きょおく)から再現されたデータは、この金属生命体だけではない。他にも多くの異種生命体のデータが集まっている。『こんなに集めてどうするんだ』という勢いで。

 データの持ち腐れになるのは実にもったいなかったため、上層部に掛け合ってシミュレーターに導入してもらった。期間限定配信ではあるが、対人戦とはまた違った技術が求められる。

 

 対異種生命体の訓練と銘打たれてはいるが、その戦い方は対人戦にも充分応用できるだろう。

 「対人戦とは一味違ったスリルがある」という反響をいただいた。好評なら、また配信できるよう上層部に掛け合ってみるつもりでいる。

 

 

「あ、でもかっこいいかも。カラーバリエーションで、この色を提案してみようかな」

 

 

 金属生命体がフラッグに擬態した画像を見ながら、ビリーはのんびりと言った。

 

 

「やめておけ。見分けがつかなくなったら困る」

 

 

 クーゴは強い調子でビリーを止めた。思った以上に棘がある口調に、クーゴは自分自身で驚いてしまった。ビリーも目を見張る。

 しばし目を瞬かせた後、ビリーは肩をすくめた。冗談だと彼が口にして、クーゴはやっと安心できた。現実になったら大変なことになる。

 見分けがつかないというのは戦場で一番危惧すべきことだ。下手をすれば同士討ちという痛ましい事故が起きる可能性だってあるのだ。

 

 そういえば、いつぞやAEUの軍事演習で同士討ちが起きたそうだ。情報共有不足が原因の、痛ましい事故だったという。

 確か、そのときの指揮官の1人がリーサ・クジョウ。その人物こそ、ビリーが想いを寄せる高嶺の花であった。

 

 彼女はその事件がもとで軍を辞めたと聞いた。事件で恋人を失ったショックから抜け出せず、アルコールに逃げているという。

 

 ビリーがいつも心配しているから、気づいたらクーゴも見ず知らずの女性のことを暗唱できるようになってしまった。

 あまり嬉しくない副産物である。クーゴは肩をすくめて、別な方向を向いた。あちらでは別の敵と戦うシミュレーター利用者たちがいた。

 

 

「何だコイツ!? きっしょ! きっも! 超ひっでぇ!!」

「仲間を取り込んで強くなりやがった! なんて奴だ、インベーダーめ!」

「サイズ差なんて関係ない! 俺たちにだって、戦いようがある!」

 

 

 彼らが対峙しているのは、インベーダーという宇宙生命体だ。“ゲッター線”と呼ばれる特殊な光を浴びた生き物たちが進化を進めた結果、たどり着くと思われる種である。

 ゲッター線はコーヴァレンター能力や虚憶(きょおく)の研究が進んでいくうちに見つかった情報でもある。特に、人革のゲッター線研究は三国の中で一番進んでいた。

 といっても、ゲッター線関係の研究は黒い噂が漂っている。『危険性を知りながら、禁断の領域に足を突っ込んでいる』なんて話も上がるくらいだ。火のないところに煙は立たぬ。

 

 研究者たちは「正しい進化をすれば、あんなものにはならない」と主張している。しかし、クーゴには嫌な予感しかしなかった。

 アレはだめだと本能が叫ぶ。アレに手を出せばロクなことにならないと、確証を持って言える。根拠が説明できないのが痛い。

 

 

「こんな進化はしたくないなぁ。ゲッター線も使いよう、ってことか」

 

「人のように喋るタイプもいるのだろう? しかも、データを分析すると、元は人間だった可能性が高いと聞いたが……」

 

 

 ビリーとグラハムが複雑そうに画像を見た。確かに、インベーダーを取り込んでいる特異体は、人を思わせるような部分がいくつかある。

 インベーダーは言葉を話す種類はその特異体だけである。人間にゲッター線を浴びせたら、あれと同じものになってしまうのだろうか。

 

 

(そういえば、人革の民間企業に努めてる身内から『ゲッター線についての研究始めた』って聞いたけど……うん、まさかな)

 

 

 クーゴはまた別な方向を向いた。

 

 

「虫だー!」

「人間が、虫の女王と合体したぞー!」

 

 

 あちらのシミュレーターでは、虫のような外見の異種生命体・バジュラがいた。彼らは女王の作り出すネットワークにより、思考を共有し統一されている。

 しかし、クーゴの虚憶(きょおく)から組み上げられたバジュラは状況が違った。女王が人間の介入を受けたため、こちらに攻撃を仕掛けてくるというものになっている。

 

 思考回路を1つにすることができれば、確かに便利かもしれない。しかし、女王を乗っ取り攻撃を仕掛ける人間は、バジュラを兵隊のようにしか思っていなかった。

 対異種生命体戦でありながら、野望に燃える人間の悪意をくじく戦いでもある。そんなシチュエーションが受けたのか、これは意外と人気だったりする。

 虫の特徴は、ネットワークを構成する脳のような器官が頭ではなく腹にあるという点だ。特殊な音波でコミュニケーションを取るという。

 

 中には、人間の歌に反応を示す場合もあるそうだ。

 バジュラの研究を進めていくうちに、人類がバジュラの歌を解読したものもある。

 

 ――それが後に、この事態の突破口を開くカギになるのだ。

 

 

「この突破口を開くのは、“アイモ”だな」

 

 

 そう言って、クーゴは首を傾げた。“アイモ”が何か、説明できなかったからだ。

 虚憶(きょおく)に引っ張られているのだろう。

 

 助け舟を出してくれたのはビリーだった。彼は端末をいじりながら、たどたどしく補足する。

 

 

「“アイモ”って、確か、恋の歌だっけ? バジュラの群れが、別の群れに向けて贈るやつ。数百年に1回歌うか歌わないかの……」

 

 

 そこへ、間髪入れずグラハムが食いつく。

 

 

「クーゴ、是非とも歌詞を教えてくれ!! ちょっと少女宛に歌ってくる!」

 

「やめんか」

 

 

 グラハムに“アイモ”を教えることは、ゲッター線の研究と同じくらいロクなことにならない。クーゴはそう直感した。

 むくれるグラハムを尻目に、クーゴは別のシミュレーターで戦っている人々を見た。

 

 

「機械に支配されてたまるか!」

「人間様を舐めるなよぉぉ!」

「機械仕掛けの神が、なんだってんだー!」

 

 

 彼らが戦っているのは、マキナと呼ばれる機械兵である。本来は人類をサポートするために生み出された機械だったのだが、人類滅亡後に紆余曲折あって、再び生まれた人類を監視するようになった。

 マキナたちは自らの力で進化し、人間の赤ん坊と似たような姿になったものもあった。「想像しろ」と常日頃語る男が恐れた敵。奴らは今も、世界を監視しているのだろうか。

 最終決戦で崩壊する世界に取り残された機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は、あの後どうなったのだろう。少しは「人間も捨てたものではない」とわかってくれたらいいのだが。

 

 マキナたちの一部は、地球と月を繋ぐワープホールを開くカギとして、自分の同胞を送り込む。

 

 裏切り者は最良の共犯者を得て、人類の運命に挑んだ。運命を変える力を持つものを救うため、未来を予知し、それを掴みとって見せた。

 彼らの希望の名前は、何だったか。点と点をつないで、飛ぶ。その機体名を、何と言ったか。人類すら超えてやると叫んだ少年は、その言葉通りの奇跡を起こし、正義の味方となったのだ。

 

 

「管理社会、か……」

 

 

 ビリーが悩むように呟いた。人類は監視された方が平和に発展できるのではないか、なんて、思考を巡らせているのだろうか?

 

 

「未来は自分たちで決めるものだと思うけどな」

 

 

 クーゴは思う。箱庭は、作る側にとってのみ都合がいいのだ。

 押し込められる側にとってはたまったものではない。

 

 

「『あなたはそこにいますか?』って訊かれたんだけど、どう答えればいいんだ?」

「俺はここだ! ここにいるぞー!!」

「消されてたまるか! 俺がお前を消してやるー!」

 

 

 なにやら懐かしい単語が聞こえてきて、クーゴは振り返った。

 

 彼らが戦っているのは、フェストゥムと呼ばれる生命体だ。彼らは命そのもの――人間でいうところの神の命令に従い動くため、個という概念がほとんどない。

 生態は金属生命体に似通ってはいるものの、体の構成物質はシリコンに近かった。金ぴかのくせに、と誰かが不満そうにしていたことを思い出す。彼は万年金欠だった。

 フェストゥムは常に問いかける。『あなたはそこにいますか』と。これに気を取られると、存在ごと消しにかかってくるため注意が必要である。

 

 存在そのものを消し去る攻撃。それを喰らえば、何も残らない。

 やはり、金属生命体同様、「当たらなければ(以下略)」の戦術が求められる。

 

 

「深い質問だよな。『あなたはそこにいますか』って」

 

 

 クーゴはうんうん頷いた。隣にいたグラハムが、ふと思い出したように顔を上げた。

 翠緑の瞳は、窓辺の向うにある空を見ている。彼はふっと笑みを浮かべ、噛みしめるように呟く。

 

 

「……矛盾の肯定。愛や憎しみ、そして痛みを知ったからこそ、勇気を得たか」

 

「どうしたんだグラハム。何か悟ったような顔をしているけど」

 

「何って……何だったんだ? 思い出せん」

 

「キミの虚憶(きょおく)も穴だらけだね。エトワールと接触してもわかりそうにないの?」

 

 

 ビリーとグラハムが軽口の叩き合いを始めたとき、丁度いいタイミングで端末が鳴った。連絡の主はエトワール。

 

 見れば、今度のオフ会についてのものだ。「グラハムの誕生日を祝いたいので協力してほしい」というクーゴの話に、彼女は乗ってくれた。

 どうやら、グラハムが熱を上げる少女も協力してくれるらしい。そのため、今回は3泊4日の小旅行という予定になっている。

 行先は京都。グラハムが日本に行きたいと言っていたので、古都の面影を残す京都を案内しようと思ったのだ。首都の東京はビルしかない。

 

 奴はどんな反応を示すだろうか。満面の笑みを浮かべてくれればいいな、と、クーゴは笑みを深くする。

 ビリーと漫才に近いやり取りを続けるグラハムを呼べば、奴は端末をいじるクーゴの姿を見て察したらしい。「次はいつ、どこでだ?」と、目を輝かせて近寄ってくる。

 

 悪戯を計画する子どものようにワクワクする心を隠しながら、クーゴはグラハムに詳細を告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッター線の研究してた軍事施設や企業が、根こそぎソレスタルビーイングの攻撃対象になったらしいね」

 

 

「他のところも、施設が壊滅した直後、施設周辺に異形の生き物が現れたって話だよ」

 

「…………あれ、こいつらどこかで見たことあるな」

 

「奇遇だな。私もこれと同じものを見たことがある」

 

 

『ユニオンのXXXに怪物が出現! 至急迎撃に当たれ!!』

 

 

「ガンダムのパイロットよ、聞こえるか?」

 

「ここは共闘した方が得策だと思うが、どうする?」

 

 

「――了解した。目標を駆逐する!」

 

「――ええ、お願い! 援護は任せるわ」

 

 

 

 フラッグファイターとガンダムマイスターが、一時的に共闘関係を結ぶことを。

 

 

 

 

 

 

「ハロ、サイコハロ、サイコロガンダム、マスターガンダム、デビルガンダム、金属生命体付リーブラ……」

 

「マークニヒトが2体、ヴァーダント、プリテンダー、飛影、零影、オウカオー、ナナジン……」

 

 

「……どうやら、俺たちはシュミレーターに嫌われているようだな」

 

「ふざけんのもいい加減にしろよ!? こんなモン、狙い撃つなんて無茶だっつの!」

 

「あらら。今日は奮発しましたねー」

 

「うおおおおおおおお!? 忍者早ぇ! こっちくんなぁぁぁぁ!!」

 

「怖くなんか……怖くなんか、ないんだから! こ、怖くなんかぁぁぁうわああああん!!」

 

「ネーナ、ミハエル! 最後まで泣くんじゃない!!」

 

 

 シミュレーターの難易度が、ムリゲーレベルまで跳ね上がることを。

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日おめでとう、グラハム」

 

「おめでとうございます、グラハムさん」

 

「……誕生日、おめでとう」

 

 

「――ありがとう。今日は最高の誕生日だ!」

 

 

 そう言って、乙女座の男が幸せそうに笑うことを。

 

 

 

 

 

「アタシは、絶対にアンタを許さない」

 

「アンタが大人しく死んでいれば、アタシはこんな人生を歩まなくて済んだのに!」

 

 

「そうだ。この力が、あれば――!」

 

 

 

「アタシは虚憶(きょおく)保持者のアンタなんかと違うのよ」

 

「最強の『■■■』であるアタシに、敵うと思ってんの?」

 

 

 

 悪意の種が、残酷なまでに美しく咲き誇ることを。

 

 

 

 

 

 

 クーゴ・ハガネの災難は続く。




【お知らせ】
活動公開に関連イラストをUP。
尚、話数が進めば、人物情報からも見れるようになる模様。
興味がありましたらどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。