ブタ野郎に親友を作っただけのお話   作:ノラン

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運命の歯車

 

 

 

「——私も帰ろうかな」

 

 

 ()()()姿()()()()()天の温もりを胸に感じながら、翔子は呟く。

 別れの挨拶をして、微笑み返してくれた天が歩き出すのを見ながら一度、瞬きをした——次の瞬間には目の前から消えた彼を見送り、彼女もまた歩き出す。

 

 彼女が歩き出したのは、天が歩き出してから五秒も経っていない頃。にも関わらず、彼女の前に天の姿はない。本来なら在るはずの後ろ姿は、どこにもいない。

 この七里ヶ浜には、翔子一人。天の気配は残存すらしておらず、あたかも初めから彼女しかこの場にいなかったかのような雰囲気を匂わせていた。

 

 

「……温かいな」

 

 

 胸に手を当てる。とても温かい。

 

 例え七里ヶ浜に彼の気配が残っていなくても、翔子の体に刻まれているものがある。

 空野天の温もり。自分を包み込んでくれた人の優しさが、ずっと残っている。

 

 心が落ち着くそれを感じながら、翔子は軽やかに階段を上った。上り切るとすぐ目の前にある信号を渡って、七里ヶ浜駅へと真っ直ぐ向かう。

 寄り道はしない。時間的にも電車の時間に間に合わなかったらまずいから、最短で、それでいてゆっくり向かう。

 

 と、

 

 

「———あ」

 

 

 遠くに一つ、人影を見た。

 

 その人影は七里ヶ浜駅を出てすぐ左手側にある、小さな橋をちょうど渡っている。

 街灯が少ないこの道では遠目だと誰だか分かりづらく、信号を渡ったばかりではその人影の見当をつけるのは難しい。

 

 

「ーー!」

 

 

 けれど、翔子は駆け出した。

 

 その人影を見た途端、何かに突き動かされるような勢いで飛び出し、今の自分が出せる最高速度で人影の下に向かっている。

 分かったのだ、その人影が誰なのか。理由はない、根拠もない、心がそうだと叫んでいるだけだ。

 

 息を切らし、黒髪をばたつかせながら翔子は駆ける。

 自分の存在に気付いたのか、人影は車の通りを確認するように左右を見ると、信号もない場所から道路を横断。わざわざ自分と同じ歩道に足を踏み入れる。

 駆ける翔子の直線上に、人影が来た。翔子との間隔は三十メートルもない。だから彼女は、より一層のこと駆けた。

 

 そうしていると、徐々に人影の姿がはっきりと彼女の瞳に映し出される。

 顔立ちから体格、服装といったその人を誰か判断する材料が、視覚情報として一挙に頭の中に入ってきた。

 

 細くてシュッとした整った顔立ちの、奥二重で目つきの悪い青年だ。

 体格としては170センチを越えるあたり。ゆるっとした半袖半ズボンに包まれた輪郭は着痩せしているように細身で、露出した二の腕や脚には無駄な脂肪がない。

 

 マッチョではないがもやしでもない、やや筋肉質寄りのがたいが良い青年。

 七三に分けた髪の全てを後ろに流しているためオールバックにも見え、外から見たら元ヤンに見えなくもない青年。

 

 間近まで迫ったその青年の胸に、

 

 

「えいっ」

 

 

 と、翔子は飛び込んだ。

 

 駆ける勢いそのまま首に腕を回して抱きつくと、「うぉ」と低い声を溢す青年に抱き留められる。

 この展開は慣れっこなのか、青年が片足を後ろに下げて踏ん張りが利く姿勢を作ってくれていたお陰で、二人揃って慣性に流されることはなかった。

 

 難なく翔子は受け止められる。結構な勢いで抱きついた自覚はあるのだが、青年にとっては大した脅威でもなかったらしい。

 平然とした表情が一切崩れない上に、「転んだら危ないよ?」と自分を気遣う余裕まである。

 

 翔子と青年の身長差は約10センチ程度。青年の体に無理なく抱きつくことができる翔子は、その胸元に顔を埋めると、

 

 

「可愛い彼女を迎えに来てくれたんですか?」

 

 

 額を擦り付けるように、胸元から青年のことを見上げる。そして、こちらに優しく微笑みかける青年の顔を見ながら言った。

 

 

「天君」

 

 

 つい先ほどまで会っていた少年の名を呼び、翔子は微笑み返す。

 記憶に新しい中学三年生の天の名残を僅かに残しながら、大人として成長した姿のその青年——翔子に天君と呼ばれた青年は「うん」と頷き、

 

 

「双葉と話してて聞いたんだよ。最近、翔子が七里ヶ浜に頻繁に行ってる、って。んで、大学から家に帰る途中で試しに来てみたら、翔子を見つけたってわけ」

 

「可愛い彼女を見つけたんですね」

 

「翔子を見つけたってわけ」

 

「可愛い彼女を見つけたんですね」

 

「譲らないな、この子」

 

 

 「当然です」と。幸せそうな笑みを咲かせる翔子は首に回した腕で天を抱き寄せ、僅かに頭を突き出す。

 彼女の要望に応える天が抱き寄せ返し、腰に回した手とは反対の手でその頭を撫でる。頭のてっぺんからうなじにかけて、後頭部を柔らかな手つきで撫で下ろされた。

 

 くすぐったそうにみじろぎし、天の胸の中で「ぅん」と喉を鳴らす翔子。中学生の彼に抱かれるのと比較してレベルの違う安心感に、彼女は頬がふにゃりと緩んだ。

 自分よりもずっと大きくて逞しい体に包まれていると、自然と体の力が抜けていく。

 

 

「最近、会えなくてごめんね」

 

「大学、忙しいですか?」

 

「まぁね」

 

 

 笑いながら天は言っているが、その頬には明らかな疲労の色があった。こんな夜遅くに大学から帰るのだから、作業も大変なのだろう。

 事実、忙しいからという理由でここ二週間は大学近くの友人の家に寝泊まりし、通学時間を減らしてまで作業に勤しんでいることを翔子は知っている。

 

 しかし、そんな彼は大学から離れたここにいる。それも、大学から家に帰る途中でここに寄ったと言った。

 これが何を意味するか。分からない翔子ではない。

 

 

「天君天君」

 

「ん?」

 

 

 頭に浮かんだ一つの予想に、翔子の声が気持ちよく弾む。

 抱きついた直後から徐々に頬が赤く染まりつつある彼女は、天だけを見つめる目を期待に光らせながら、

 

 

「今ここに天君がいる。つまりそれって、今日はお家に帰って来れる、ということですか?」

 

「うん。作業が一段落したから、今日からは普通に帰れる」

 

「やった」

 

 

 見上げた顔を胸にくっつけ、翔子は回した腕に力を込めて笑む。嬉しいという感情を抱きつく形で表現し、猫のように額を胸元にすりすり開始。

 天が狼狽える様子はない。至極落ち着いた様子で彼女の甘えを受け止め、なんの抵抗もなく受け入れていた。

 

 その彼の眼下にいるのは、甘々な翔子。感情が爆発した結果と表現してもいい態度は、色々な意味で目に毒だ。

 既に自分の世界に入っている彼女にとっては天国の時間かもしれないが、膨れ上がる感情を抑制する彼にとっては天国とは言い難い。

 

 そんな中で彼女を眺めていると、天は不意に気付く。

 それは、

 

 

「翔子……。お前、なんか泣いた?」

 

 

 直後。

 

 細まっていた翔子の目がぱっと開き、「え?」と口から音が漏れる。

 反射的に天を見上げた彼女の表情には驚きの感情があって、どうして分かったのかと言う心の声が聞こえた気がした。

 

 どうやら、間違えではなかったらしい。感覚的に彼女の違和感に気付いた天は、至近距離で翔子の目を注視して、

 

 

「少し目が腫れてるような……赤くなってるような……そんな気がする」

 

 

 「なにか、あったの?」と。

 

 言葉を加えて口を閉じる天。頭を撫でていた手を頬に添え、指先で翔子の目元にそっと触れる彼は、黙ったままこちらを見つめてくる翔子を心配そうな目で見た。

 

 そして訪れる、無言の沈黙。言葉を投げた天が、翔子から言葉を投げ返されるのを待つための静寂が、二人の間に流れ始める。

 この場合は、基本的に天は言葉を口にしない。否定であれ肯定であれ、彼女が何かしらの反応を見せてくれるまで黙り続ける。

 

 それを分かっているからこそ、翔子は諦めたように息を吐く。上げた視線を下げ、再び天の胸に額をあてがうと、

 

 

「懐かしい人と話していたんです」

 

「懐かしい人?」

 

「はい。とても懐かしい人」

 

 

 天の首に回した両腕をゆっくり抜くと、今度は脇から背中にかけて回す翔子。

 彼の体を固く抱きしめて自分の体から離さない体勢を作り出し、定位置と言わんばかりに胸に顔を埋めながら愛おしそうに呟く。

 

 なにか良いことがあったのかもしれない。胸元で落ち着く恋人の微笑みを見ながら、天はそんなことを思う。

 少なくとも悪いことではないはずだ。もしそうなら、翔子を泣かせた輩をブッ飛ばしてやろう。

 

 

「……ま、そのことは明日にでも聞こうかな。もっと落ち着いた環境で、じっくり聞かせてもらうよ」

 

 

 「さ、帰ろ?」と、天は帰宅を促しながら抱きつく翔子を体から離そうとする。

 が、両肩を掴んで引き剥がそうとしても離れようとせず、「イヤです」と言われて更に強く抱きしめられた。

 

 

「藤沢駅のはともかく七里ヶ浜駅の終電、逃しちゃうよ? 補導されるよ? 翔子じゃなくて俺が捕まるよ?」

 

「車じゃないんですか?」

 

「運転めんどい。車は自宅の駐車場で眠ってる」

 

 

 「むぅ」と、拗ねる翔子の声が胸元から小さく溢れる。

 彼女はどうやら、天が車で迎えに来てくれていたと勝手に思っていたらしく、期待が外れてご立腹。

 不満感全開で(むく)れる様は、子どもっぽくて実に愛らしい。

 

 「むぅ」な翔子。彼女は数秒間だけその自分を貫こうとしていたが、

 

 

「……分かりました。ここは諦めます。でも、天君のお家に帰ったら今の続きですからね?」

 

「珍しく積極的。やっぱりなんかあった?」

 

「それも含めて、ですよ」

 

 

 と、自分と天の体を固く結びつけていた腕から力を抜く。

 剥れていても仕方ない。夜遅くまで女子高生を連れ回した大学生として恋人が警察に捕まるのは嫌だから、彼女は心の中で暴れ続ける衝動を宥めた。

 

 我儘少女が離れれば、二人は七里ヶ浜駅に向かって歩き始める。指と指を絡めて手を繋ぎ、横に並ぶ彼らは同じ歩幅で、来た道を戻っていく。

 

 静かで邪魔の入らない、誰もいない夜道。この時間帯は車の通りも少なく、街全体が眠りについたように静まり返っていた。

 もしこれが一人っきりの夜道だったら寂しいけれど、二人っきりなら寂しくない。この人と一緒にいると、とても安心してくるから。

 

 そう思いながら、翔子は不意に一つの名前が脳裏に過ぎった。

 過ったのは、過らせるような出来事が今さっきあったから。

 

 

「咲太さんのところには行ったんですか?」

 

「うん。大丈夫」

 

 

 言われて、微笑を浮かべる天。彼は、繋いだ手をぎゅっと握ってくる翔子から視線を逸らすと前を向く。

 それから、斜め上を見上げて夜空を見た。けれど、遠くなった瞳が見ているのは夜空ではない。夜空を飾る星々よりもずっと先にいる存在だ。

 

 表情を微笑一色で塗りつぶす天は一度だけ、「ふっ」と微笑みを声にすると、

 

 

「お花、添えてきた。……そんな資格、俺にあるのかなんて分かんないけどさ」

 

 

 その表情のまま、呟く。後半の想いを綴る声は弱々しく、独白するようなものだった。

 

 今、彼は何を考えているのだろう。夜空に微笑むその横顔は、誰を見ているのだろう。

 『微笑を浮かべる』ではなく『微笑を作る』と表現した方が言葉としては当てはまっている横顔を見る翔子は、天に見られない表情を少し歪めた。

 

 咲太のお話をするとき、天は必ず微笑む。なにを話していても微笑む。微笑むことしか、しない。

 まるで、感情がそれひとつしかないかのように。表情が「笑うしかない」と言っているかのように。

 

 あの日から、彼はずっとこんな調子だ。あの日から四年弱が経った今でも、彼の心の奥底にある傷は決して癒えていない。

 本人は大丈夫だと思っていても、言っていても、真の意味で大丈夫に繋がるとは限らない。

 

 彼はずっと、自分の犯した罪に苦しめられている。それは、自分が『天くん』に語ったトロッコ問題と深く関係することだと、翔子は確信している。

 実際に自分がその瞬間を見たわけではないけれど、それでも彼の揺れ動きは十分に理解できるから。

 

 痛いはずだ。苦しいはずだ。なのに、笑っている。自分に悟らせないように、無理して笑みを作っている。

 それが一番、翔子には苦しい。

 

 そんな顔をしてほしくなくて。見るのが苦しくて、辛くて、切なくて。

 恋人繋ぎで結ばれた手を離すと、翔子は天の左腕に両腕を絡めるように、ぎゅぅっと抱きついた。

 彼の意識を梓川咲太から牧之原翔子に切り替え、翔子一色で隅から隅まで染められるくらいに強く。

 

 私だけを見て、と。

 

 

「歩きにくいんだけど」

 

「頑張ってください」

 

「頑張ってください?」

 

 

 左腕を圧迫する柔らかな感触を感じた天が視線を夜空から感覚の源に移すと、その先にいるのは楽しげに笑う翔子。

 「ふふっ」と鼻を鳴らしながら無邪気に笑む様は幼く、腕から体全体に波紋する温もりは心地が良い。

 

 心の緊張が緩むような感覚を得た天。

 「手を繋ぐので許してくれない?」と言っても「やだ」の一言で片付けられた彼は、「ん?」と喉を低く鳴らして怪訝な目をしながら小首を傾げると、

 

 

「なぁ、今日はホントにどーしたの?」

 

「なにがですか?」

 

「普通、こんなに甘えてこないでしょ? いつもなら、気まぐれで抱きついてきて、すぐ離れる程度で終わらせるのに」

 

 

 少しずつ、けれど確実に発達しつつある恋人の乳房を意識の端っこに追いやりながら問う。

 いつもと様子が違う自分に疑問を抱かれた翔子は「だって」と言葉を繋げて、

 

 

「天君に会うのは二週間ぶりなんですよ? 溜め込んでいた分をぶつけているだけです。それに……」

 

 

 そこで言葉を止め、沈黙の間を置く。

 

 先が気になる天に傾けていた首を反対に傾けながら「それに?」と聞かれると、頬を紅潮させた彼女は満面の笑みを顔いっぱいに広げて言った。

 

 

「私、やっぱり天君のことが大好きなんだなぁ、って。改めて思っちゃいました」

 

「おまっ………」

 

 

 告げられた愛の告白に天が思わず赤面し、言いかけた言葉が喉に詰まる。

 不意打ちが炸裂した彼は「やめろよ」と言いながら否定的な言葉を口にしているが、満更でもなさそうだ。

 そんな彼を見ると翔子はニヤつく。悪戯心を宿した目で見つめて、したり顔をしながら笑い、「照れてるんだ」と年上を揶揄う。

 

 年齢の上下が逆転してもこの関係に変わりはないらしい。

 気まずそうに「あー」と声を鳴らすと、天は「そういえばさ」とあからさまに話題を逸らした。

 

 

「こんな遅くに一人で暗い海に行くなんてさ。なんかあったらどーするの?」

 

「話、逸らしましたね」

 

「なんか、あったら、どーするの?」

 

 

 一つの言葉を三等分し、分けた一つ一つを強調する天。無理やり逸らすにしては雑すぎる逸らされ方をされると、翔子の脳裏に『天くん』の姿が過ぎった。

 そのやりとりは今さっきしてきたばかりだ。故に、次に翔子が言う言葉も決まっている。

 

 

「もし、私の身になにかあったら天君は助けてくれますか? 例えば……怖い人に襲われたり」

 

「当たり前だろ。彼氏だぞ。彼女が襲われて動かない彼氏がどこにいんだよ。空手黒帯とかいう化け物から教わった武術でボッコボコにしてやる」

 

 

 わざとらしく言い放ち、天は翔子に抱かれていない右腕を突き出す。握りしめられた拳は力強くて、言霊に込められた意志が宿っていた。

 実際、彼にはそれを実行するだけの実力があるから冗談だと言い切れない部分がある。

 

 本当に頼もしくて、安心できる翔子。自分ことを迷いなく「守る」と言ってくれる恋人に、彼女は吐息するように笑みを溢す。

 

 

「まぁ、それ以前に」

 

 

 そんな彼女の手を優しく握り、天は続けて言った。

 

 

「翔子の前でカッコ悪い姿、見せるわけにはいかないでしょ」

 

『牧之原さんの前で、カッコ悪いとこは見せたくありませんから』

 

 

 その瞬間、翔子の頭の中で『天くん』の声が響く。目の前にいる『天君』と、記憶の中にいる『天くん』の影が重なった。

 心が見せたものなのか。分からない。けれど、途端から形容し難い情熱的な感情が心の奥底から噴火してくるのは分かった。

 

 

「本当に、『天くん』は『天君』なんですね」

 

「どーゆー意味?」

 

「分からなくていいんです。私が分かっているんですから」

 

 

 噴き出した感情に身を委ねるがまま、翔子は天のことを強く抱きしめる。歩きづらそうにしているけれど、そんなことは知らない。

 親にすら遠慮し、気遣い続け、自分を閉じ込めてきた人生。そんな道を明るく照らして、心を解き放ってくれた人に、彼女は我儘になるのだ。

 

 そうして二人は、駅を目指して歩み続ける。

 

 

「つーかさ、薄々思ってたけど、なんで翔子まで俺の家に帰ろうとするの? ご両親には許可とってるの?」

 

「大丈夫です。そのまま居候でもしてこい、って背中を押されました」

 

「うわぁ、すごい。娘さんに協力的なご両親」

 

 

 手を繋ぎ、お互いに寄りかかり合い、笑い合いながら、一緒に歩み続ける。

 

 

「学生結婚の件。既に話しましたので」

 

「やべぇ。外堀を埋めにかかってる」

 

「埋めに埋めて大きなお山を作るので、そのつもりでお願いしますね」

 

「ひぇー」

 

 

 歩んで、歩んで、歩み続ける。

 

 このとき、翔子は想っていた。

 

 

 ーー私が、必ず助けてあげるから

 

 

 大好きな人を想い。大好きだからこそ決意し、覚悟していた。

 

 

 ーー天君のことも、咲太さんのことも

 

 

 今、幸せそうな表情で恋人に身を寄せる彼女が何を考えているのか、誰にも分からない。

 天も、天以外の誰かも、運命を司る神すらも。森羅万象に記されない未来が、作られようとしている。

 それを分かるのはこの世界で一人、牧之原翔子だけだ。

 

 ただひとつ。言えることがあるとすれば、

 

 

 ーーなにがあっても、必ず助けるからね

 

 

 この瞬間、運命の歯車は回り始めた。

 

 

 







次回で中学生編を終わらせたい……。

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