ブタ野郎に親友を作っただけのお話   作:ノラン

2 / 35
ブタ野郎とバカ野郎ども①

 

 

 

 神崎颯と空野天。その二人の出会いは、誰がどうみても颯による一方的なものだった。

 

 

 始めに颯が、颯の視点から見てクラスで孤立している天に興味を示し。示したら行動一択の彼が部活中の天を見に行き。

 そこでクラスで眺めた天とは違いすぎる天を見て熱狂。気に入った奴がいれば速攻仲良くなりたい心に任せて声をかけ、二人の関係はゼロから築かれ始めた。

 

 そのまま、颯は天との会話に花を咲かせ、

 

 

「おい、颯。今は練習中だ。用があるなら明日にしろ」

 

「あ、サーセン」

 

「そうだぞ。テメェ、靴履いたまま入って来やがって。掃除すんの俺らなんだけど」

 

「悪かったよ。じゃ、また明日な! 天!」

 

「え?」

 

 

 咲かせ、られるわけでもなく。顧問と友人から退出命令を渡され、体育館から秒で追い出された。

 

 そこで粘る颯ではない。自分は言いたいことはズバッと言うし、遠慮とか基本的にしない男だと自覚しているが、場くらい弁えられる。

 練習の邪魔をしてしまったのなら、それまでだ。流石に練習を遮ってまで天と話そうとはせず、その日は明日に話すことを頭の中でまとめながら上機嫌で帰宅。

 

 そして、翌日。

 

 

「お前って、めっちゃバレー上手(うめ)ぇんだな! 外から見てたけど、素人にも上手ぇって分かったぞ!」

 

「えっと……」

 

「特にあれだな! ド真ん中からぶち抜かれたのを跳び込んでとったやつ! あれは痺れた! お前、結構根性あんだな!」

 

「ありがとう、ございます?」

 

 

 朝。

 

 ホームルームが始まるまでの暇な時間を使い、颯は天に話しかけていた。

 続々とクラスメイトが、ドアから流れ込む教室。朝ということもあって眠そうな生徒が多い教室は、昼休みのような喧騒が薄い空間で、二人がいる場所だけが騒がしい。

 

 しかし、騒がしいのを見るクラスメイトは特に気にしている様子はない。寧ろ、今の光景に見慣れているものがあるのか、「また始まった」と言った具合でスルーするか眺めるかの二択。

 

 普段から颯と仲良くしている友人たちも、「もう話しかけに行ってるよ」やら「あの雰囲気によく近づくよな」やら、口々に呆れたような言葉を呟いている。

 

 

「あの……なんで俺のところに?」

 

「話したいからに決まってんだろ?」

 

 

 察するに、これが颯という男なのだろうと、真顔の裏で面倒そうな表情を浮かべる天は思う。

 「それでさ!」と太陽の笑みを輝かせながら話を続けてくる彼に、心の中で疲労気味にため息をついた。

 

 決して、神崎颯の存在を知らなかったわけではない。

 このクラスから始まった日の一時間目——自己紹介で「俺は神崎颯! このクラスの全員とダチになりてぇから、仲良くしてくれよな!」と全員に言い放ったのを、よく覚えている。

 

 実際、その通りになった。彼は今、このクラスにいるほぼ全員と友達だ。

 

 彼がクラスに来れば男女問わずクラスメイトのほぼ全員が声をかけ、談笑の開始。

 一人と一人から始まったそれは次第に人数を重ねていき、多いときでは彼の周りに十人は集まっていたこともあったり。

 

 ノリのいい子も。引っ込み思案な子も。オタクっぽい子も。ちょっとワルっぽい子も。

 誰もが颯に心を開き、彼を友達として認めている。彼の周りにはいつも笑顔の人がいる——それがなによりの証拠だろう。

 

 まだ新学期が始まってから一ヶ月ちょっと。たったそれだけの期間で、彼は様々な性格を宿す一人一人の心を開いたのだ。

 

 つまり、目の前にいるこの男は、このクラスの中心的存在。陽キャ(陽の民)にも陰キャ(陰の民)にも分け隔てなく接する、真の陽の民。

 

 単純に、良いやつ。

 

 

「つかお前、なんでいつも一人でいんだ? 誰かと喋ってた方が楽しいのに」

 

「みんなが、神崎さんみたいな人じゃない、ってことですよ。ほら、そろそろホームルームも始まるし、席に戻ったら? そこ、君の席じゃないんでしょ? 返してあげたほうがいいんじゃない?」

 

「あぁ……。おう」

 

 

 だから、敢えて関わらなかった。

 

 面倒だから。

 

 

「じゃ、また後でな」

 

「ん」

 

 

 自分が、あまり人と群れたがらない性格だとは理解している。否、それ以前に、普通に過ごしているだけなのに、なぜか人が遠ざかっていく。

 なにもしていないのに、みんなの世界と自分の世界に境界線が引かれて、知らない間に分離する。

 

 別に、近寄られたいわけじゃない。あの男のようにたくさんの人と仲良くなりたいわけじゃない。

 それは、彼のような万人受けする人格者が抱く希望だから。自分のような線の多さよりも太さを重視する人間が、抱いていいものじゃない。

 

 自分とは対極に位置する男。それが、直感で感じ取った神崎 颯という男の第一印象。

 なるべく関わりたくないというのが、心の中に生じた率直な感想だった。

 

 だが———。

 

 

『天! お前、今日は部活が早く終わるんだってな! 一緒に帰ろうぜ!』

 

『休みの日、カラオケとか行かね? バレー部のダチから聞いたんだが、お前、めっちゃ歌上手いらしいじゃん。俺も歌には自信あんだよ! その後に飯とか食いに行こうぜ』

 

『てぇんー、宿題が分かんねぇ、教えてくれぇ』

 

『なぁ、天! 来月のスキー遠足のやつなんだが、俺と同じ班にならねぇか? お前、確か親からスキー教わってんだよな? 俺にも教えてくれよ。できればリフトの乗り方から』

 

『土日のどっちか、俺ん()で遊ぼうぜ。新しく買ったホラゲーがあんだけどよ、お前のビビってる姿が見てぇ。部活がない日はどうせ暇なんだから来いよ』

 

『修学旅行の宿泊班、俺と一緒になろうぜ! まず一番にお前と一緒がいい、って思ったんだ! てか、全部の班同じにしようぜ! なぁ! いいよなぁ!?』

 

 

 とにかく、ぐいぐい来た。

 それはもう、他の生徒に憐れみの目を向けられるくらい。

 

 彼はきっと、コミュ力お化けなのだろう。初めて出会った日から毎日のように話しかけては、色々と話し始める。

 話す内容は——大体がくだらない。好きな女優さんのことだったり、ゲームとかアニメの話だったり、昨日あったことだったり。颯自身のことだったり。

 

 その中で、彼が空手を習っていることも知れた。容姿通り、ちゃんと空手をしていた。結構、強いらしい。

 喧嘩に困ったら助けてもらおうと天は思った。

 

 そうしているうちに一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月と時間が経って。しつこいくらい話しかけてくる彼に観念してからは、天自身も颯に心を開き始めて。お互いが「コイツとは気が合うな」と思って。

 

 そして———。

 

 

「——明日、三年生の卒業式だねぇ」

 

「そうだな。俺らも来年は卒業だな」

 

「そうね。進路とか、考えないと」

 

「俺はお前と同じ高校に行きてぇ」

 

「やめて」

 

「なんでだよ。恥ずかしがるなって」

 

「うざがってんだよ。てか、肩組んでこないで。普通に嫌です」

 

 

 二年生が終わる頃には、普通に打ち解けて仲良くなっていた。

 初めの頃に颯が感じていた壁は取り払われ、天だけの世界に颯という存在が完全に溶け込んでいる。

 

 自分らは対極に位置する存在だと双方が思っていたにも関わらず、今となっては大がつく親友関係。

 颯が「お前は上から数えた方が、早く名が上がる親友だぜ」と言ったことでその関係は確立。

 天も天で、この男と話すのは嫌いではないと思っていたこともあり、二人は友人の域を飛び越した。

 

 否、颯が天を友人の域から引っ張り出したのだ。

 

 

「三年になっても、同じクラスになれるといいな」

 

「そうね。まぁ、なれなかったらそれはそれだけど」

 

「んだよ、ノリ(わり)ぃなぁ。お前ほんっと、そういうとこだぞ。気ぃ合うくせに、噛み合わねぇときは全く噛み合わねぇし」

 

「俺を、普段からお前とつるんでるパリピでウェェイな陽の民と一緒にしないで。この、コミュ力お化けな彼女持ち陽の民。幸せにイチャついてやがれ」

 

「うるせぇ。この、ぼっちで彼女無し陰の民」

 

「お前の場合、俺を貶してるだけじゃんか」

 

「うっせ。黙ってろ。顔はカッコいいんだからさっさと彼女作りやがれ、このやろう」

 

「なんで俺が怒られるの?」

 

 

 春の日差しを受け、桜の舞う校門をくぐる颯と天。

 約一年前までは赤の他人も同然だった二人は、今は誰がどう見ても仲良し二人組。

 一年という長い間で築かれた自分らの関係は、これから先も固くなっていくのだろう。

 

 

 そう思いながら、二人は二年生としての学校生活に、終わりを告げるのだった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 梓川咲太との出会いは——多分、かなり強引なものであったと、神崎颯と空野天は振り返る。

 

 

 でもそれが、自分たちの運命を変える存在との、出会いだったのだと。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「てぇぇん! 俺たち、同じクラスだぞぉぉ! やったなぁぁぁ!」

 

「うるさいうるさい! 走ってこないで! 周りからの目線が痛い!」

 

 

 四月。

 

 颯と天が出会った二年生を越え、高校受験が本格化し始める中学三年へと進級した二人。

 なんの運の巡り合わせか、彼らは偶然にも同じクラスに入れられていた。

 

 自分の望みが叶って大いに喜ぶ颯。うざそうに目を細める天。反応の差が少しばかり目立つが、双方ともに嬉しいのに違いはない。

 

 友人がバレー部にしかいない天にとっては嬉しいのか嬉しくないのか曖昧なところだが、いないよりはマシだろう。

 颯が嬉しいと思っているのは語るまでもない。他の友人とも一緒で喜んでいたが、彼と一緒だったことが一番嬉しいのだろうか。

 

 反応が、一番大袈裟な気がする天であった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 四月、下旬。

 

 楽しくも短かった春休みが終わり、クラス替えの余韻が抜け始めた頃。

 個々だった人たちにグループ化の予兆が見え、徐々にあぶれる者が浮き始めた頃。

 

 部活動に勤しむ者たちが、夏に控えた引退試合に心を燃やし。

 勉学に勤しむ者たちが、来年に控えた高校受験に心を燃やし。

 春休みに天がぼそっと呟いた「海に行きたいなぁ」発言に、「今年の夏は海にでも行くか!」と呑気に遊びの計画を立てる颯が心を燃やし。

 

 様々な人間が様々な意味合いで心を燃やす中、その日は突然に訪れた。

 

 

「「——いただきます」」

 

 

 昼休み。

 

 午前中の授業を終えた生徒たちが各々の場所でグループを作り、談笑しながら昼食をとっている時間。

 

 颯と天もまた、その中の一つ。クラスの一部——主席番号順の席であることが理由で窓際に座る颯の席に天が合流し、二人で一つの机を使いながら昼食タイム。

 

 二人だけで食べているのは、割と颯が理由だったりする。

 友人がとてつもなく多い彼は、例によって天以外の友人に「お昼、一緒に食べない?」と誘われないわけがなく。

 その際に天が「それなら、俺は別のところで食べるよ。颯はあっちの人たちと仲良くしておいで」と言ったことが気に障った。

 

 

『俺はコイツと食うぜ。悪いが、他を当たってくれ』

 

 

 この一言で、お誘いを蹴った。結構、可愛い女の子からのお誘いを。

 蹴られた子が残念そうに引き下がり、追い返した颯に天が「マジかよ」とでも言いたげに唖然としたのは言うまでもなく。

 その様に、「この人、そっち系の人間じゃないよね……?」と密かに天がドン引きしていたり。

 

 もしそうなら、多分、親友の縁を切る。

 

 

「アイツ……いつも一人じゃね?」

 

 

 そんなこんなで、二人で昼食を取ることになった颯と天。いつもなら、くだらない話を展開する場面は、しかし違った。

 

 「ん?」と水筒で水を飲む天の正面。机を挟んで前に座る颯が、天を通り越して後方を見つめている。

 気になって振り返ると、天が見たのは外の光景を眺めている一人の生徒だ。

 

 特にこれと言った、突出して目立つところはない生徒だと、二人は思った。

 颯のように体つきががっちりしているわけでもなければ、天のように奥二重で目つきが悪いわけでもない。平々凡々で、一般的な中学三年男子の枠に収まる男の子。

 

 『俺に近づくんじゃねぇオーラ』を無意識に出している天と違って、雰囲気としては柔らかい。

 猫背に曲がった背筋が無気力感を漂わせているため、見た感じは眠そうな雰囲気。

 

 ただ、

 

 

「あの子、目ぇ死んでない?」

 

「ぼーっとしてるときのお前、いつもあんな感じだぞ」

 

「マジかよ」

 

「いや、もっとひどい」

 

「うそぉ……」

 

 

 癖っ毛なのだろうか。所々、ぴょんと髪が跳ねるその子の目は、ストレートに言って死んでいる。

 

 ぼーっとしているときの自分の鏡を見た天。あれよりもひどいとは、逆に気になってくる彼は「んで?」と視線を颯に戻すと、

 

 

「あの子がどーしたの?」

 

「ここんとこ、ずっと一人で昼飯食ってんなぁ、と。思ってな」

 

 

 弁当に入ったミートボールを口に入れる颯の言葉に、天は「そうだっけ?」と返してからポテトサラダを口に運ぶ。

 口の中からものがなくなるまでの時間で、少し前の記憶を漁り始めた。

 

 言われてみれば、そんな気がしなくもない。みんながグループを作っている中で、あの子はずっと一人だったような。

 しかし、そういう人も中にはいるだろう。自分だってそうだったのだから。否、今でも颯が別の友人の相手をしている時は、基本的にぼっちを好むことが多い。

 

 あまり他人に興味を示さない天。颯と違って「だからなに?」状態の彼は、咀嚼したポテトサラダを飲み込むと、

 

 

「寂しくないのかな、と」

「そうだ」

 

「友達いないのかな、と」

「そうだ」

 

 

 長いこと付き合って、なんとなく目の前にいる男が考えてそうなことが分かってきた天。

 彼が予想した颯の考えは中心を射抜いたようで、二連続の返答は肯定だった。

 

 誰にでも優しく、誰よりも情に厚く、困っている人がいたら絶対に素通りできない男、神崎颯。

 それがなんであれ、上手く解決できる力があるから、彼は余計なお世話を焼きたがる。

 

 要するに、

 

 

「今、ぼっちだった俺を気にかけてくれたときと全く同じ感情してる?」

 

「おう」

 

 

 それだけで全て分かった。

 

 どうやらこの男は、あの子とも仲良くなりたいらしい。力強い目つきで言われても困る話だが、その目が嘘偽りがないことを雄弁に語っていた。

 

 相変わらずな心がけに、天は一足先に食べ終えた弁当を片付け始めると、

 

 

「やめときなよ。ああいうのは一人の方がラクだと思うタイプだと思うし」

 

「お前と同じタイプだな」

 

「お前とは真逆のタイプだね」

 

 

 椅子から立ち上がる天が、片付けた弁当箱をさっとバックの中に入れる。

 再び同じ椅子に座ると「お前には理解できないと思うけどさ」と、水筒を片手に壁に寄りかかり、

 

 

「一人でいるの、って結構ラクなんだよ。周りに気ぃ遣う必要とかないし。会話のペースに合わせることとかないし。寂しいとか思わないなら尚更」

 

「だが、俺は放っておけねぇな。ちょっと行ってくる」

 

 

 椅子の足が床と擦れる音がして、声と一緒に颯が立ち上がる。

 考えるよりも先に行動——彼のモットーが先走ると自ずと心と体が後を追うように動き、「え? あ、ちょ……」と自分を呼び止める静止の声を無視してその子の下へ一直線。

 

 一切の迷いと躊躇がないそれに呆れる天。彼が、相変わらずすぎる親友の大胆な行動に「はぁ」と面倒そうに息を吐くときには、既に事は起きていた。

 

 

「なぁ、お前。ちょっといいか」

 

 

 とりあえず、成り行きを見守っていようの精神で様子を眺めてくる天を横目に、颯はその子の正面にしゃがみ込む。

 

 「なんですか?」と。声に反応したその子に顔を向けられると、その死んだ魚のような目を、ニコニコした顔で見ながら、

 

 

「俺は、神崎颯ってんだ。お前は?」

 

「………え?」

 

 

 唐突な自己紹介の代償は、向けられる困惑。

 

 老若男女に好かれる真の陽の民スマイルを向けられたその子だが、予感のないそれに頭が追いついていない。「え?」の口のまま表情が固まっている。

 

 当たり前の反応だ。誰にでも気さくに話しかける颯という男を知らないものならば、いきなり知らない人に自己紹介をされればそうなるのは必然的。

 否、誰がやっても困るだろう。クラスメイトとはいえど、なんの関係もない人間に話しかけられたら、対応に困ってしまう。

 

 とは、「おい、颯」と言いながらその子に助け舟を出すことにした天の感想。

 コミュ力お化けすぎる彼に呆れる通り越して感心してくる天は、彼の横に並んで肩を強めに叩くと、

 

 

「お前、いつもそうやってとりあえず話しかけてさ。相手が困ってるよ。どーしていつもそーなの」

 

「話すならまずは、お互いの名前を知らねぇとだろ? お前、とか。君、とか。そういう言い方で人のことを呼びたくねぇんだよ、俺は」

 

「そーゆーことを言ってんじゃないの。もう少し相手のことを考えて話しかけて、って言ってんの」

 

 

 我が強い颯の言い分に、天の表情が引き攣る。

 それを見る颯は自分の行動に違和感を感じておらず、「なんか悪いか?」と、不思議そうに小首を傾げていた。

 

 その悪びれもない態度に釘を刺そうと、天は「あのねぇ……」と言葉を続けようとして、

 

 

「あの……。急になんですか?」

 

 

 と、自分たちの間を通り抜けた声に遮られた。

 

 自分たちのやりとりを聞いて冷静になったか、あるいは別の理由か。奇怪なものを見る目でこちらを見るその子は、明らかに嫌そうな顔をしている。

 その態度——自分と出会った頃の天とよく似ているなと思う颯。そして、出会った頃の颯に向けていた自分の態度とよく似ているなと思う天。

 

 二人して同じことを思う中、先に動いたのは突っ走る颯を止めた天。

 「ごめんね」と軽く頭を下げて謝る彼は、颯の背中をバシバシ叩きながら、

 

 

「コイツ、人のこととか全く考えないで突き進むタイプだから。嫌だったよね」

 

「いえ、別に嫌とかじゃなくて。ただ単に、変な人たちだと思っただけです」

 

「直球で言ったな」

「でも、間違ってないから否定はできない」

 

 

 「な?」と、声を合わせて笑う颯と天。謎のシンクロ率を発揮すると、唇から吹き出すような笑声を小さく漏らす。

 変な人と言われたら普通、嫌な顔をするものだと思っていたその子からすれば、その反応は予想外だ。

 

 嫌な顔、一つしていない。むしろ、はっきり言った自分に対して笑みを浮かべている。尚のこと、変な人たちだと思った。

 

 一人でいる自分に、話しかけてくるのも含めて。

 

 

「それで、僕になんの用ですか?」

 

 

 少し、無愛想に話しかけたその子。

 

 その態度が、本当に、颯と出会ったばかりの天とそっくりで、不意にも懐かしい気分になったのは二人共通のこと。

 ならば、天のようにこの子とも仲良くなろう。そんな風に颯は「おう」と柔らかく笑いかけ、

 

 

「少し前から気になってたんだが。見た感じずっと一人でいるからよ、ちょっと話しかけてみたくなった」

 

「同情ですか?」

 

「違う。俺の横にいる(コイツ)が、二年のときに今のお前と全く同じだったから、興味が湧いた」

 

「僕と同じ状況?」

 

 

 奇怪なものを見る目が興味そうなものを見る目に変わり、その子が視線を天に移す。

 話のダシにされた天は「あーー」と、気まずそうにその子からの視線を窓の外に受け流すと、

 

 

「俺、友達が部活にしかいなくてさ。二年に上がってクラスに友達が一人もいなくて、五月に入るまでぼっちだったんです。それで、それに興味を持った(コイツ)が話しかけてくれた、って感じで」

 

 

 「多分、そんときの俺と、今のあなたが重なったんだと思います」と。言いながら天は窓の外にやった視線をその子に戻し、その子の反応を窺う。

 

 言われたその子が、否定の言葉を返してくる気配はない。

 「そうなんですね」と興味そうな目が同族を見る目に変わり、眠そうにあくびをしながら頬杖をついた。

 その目の奥に、若干の憐れみの情が宿っているような気がしなくもない天である。

 

 

「っつーわけで、俺たちと友達になってくれよ!」

 

 

 友達が少ないか否は別として。昔の天と似たような状況であることに変わりはない。そんな人を、颯が放っておくわけがない。

 その子からすればイマイチ筋の通っていない理由だが、颯的には至って大真面目。

 

 人と話すの大好き。大勢で盛り上がるの大好物。一人よりも百人を掲げる彼は、そう言って右手を伸ばし、

 

 

「無理にとは言わないよ。嫌だったら断って。俺も最初はコイツの誘いは受けようとは思わなかったし、一人でいる方がラクだと思うし」

 

 

 その手の上に、横からそっと差し出された天の手が弱く重なる。

 手の行き先に割り込むような入り方は、自分に気を遣ってくれているように、その子には思えた。

 

 勢いに任せた颯と、それを止める天。その子に颯の制御係として認識されそうな天は、「でも」と、どこか遠い目をしながら、

 

 

「コイツ、振り払ってもずっと付き纏うから、断ったとしても覚悟はした方がいいと思う」

 

「それ、僕に拒否権がない、って言ってるようなものだが?」

 

「うん。そー言ってる。だから一番初めに、ごめんね、って言ったの」

 

 

 妙に言葉に重みを感じる天の発言に、その子は微苦笑。申し訳なさそうな、諦めたような、そんな彼の表情を見ると、彼が可哀想に見えてきた。

 

 もちろん、その発言に颯が噛みつかないわけがなく、

 

 

「おいこら、天。せっかく俺がいい感じに仲良くなろうとしてんのに、後ろ向きなこと言ってんじゃねぇよ」

 

「それが嫌だって人も、中にはいるかもしれないでしょ? 俺とか」

 

「え? 嫌だったのか?」

 

「は? 知らなかったの? あれだけ態度に出してたのに? おま……マジで言ってる?」

 

 

 一年越しに語られたそのときの心情に驚き、天を凝視する颯。

 大親友関係となった今。話が全く噛み合わない天の発言には驚かされることが多い彼も、これには目を見開いてびっくりだ。

 

 淡々と語られるのも驚く要素としてあるのだろう。「まぁ、今は気にしてないけど」と補足されて気持ちは静まったが、心に対する衝撃はそれなりにあった。

 

 あったが、

 

 

「——ふっ」

 

 

 不意に、二人の耳に空気の漏れる音が届く。

 

 音の方向に視線を向けると、見えたのは手で口を押さえたその子が、思わずと言った具合で吹き出している姿。

 面白いから笑った。そう思わせてくれる笑みに、口角が釣り上がっていた。

 

 

「お前たち二人って、仲が良いのか悪いのか分からないな。僕の前でイチャつくのは勘弁してくれ」

 

「埋めるぞ」

 

「まさか、(そっち)から物騒な言葉が聞けるとは思わなかった」

 

 

 敬語が崩れたその子に、天の鋭い目つきが更に鋭くなる。

 本来の口調が出たと思っていいのだろうか。そうなると、今のは照れ隠しということになる——と、その子は思うが、言うと殴られそうだから黙っておく。

 隣の颯も「俺も天もホモじゃねぇし。俺には付き合いの長い彼女がいるからな」と、ちゃんと自分のヘイトを高めてきた。

 

 少しだけ、今ので打ち解けた感じがした颯。天の手を退ける彼は、仕切り直しの意味を込めて伸ばした手をその子に近づけ、

 

 

「俺は神崎颯。こっちは空野天。——お前は?」

 

 

 言われてその子は颯の手、神崎颯、空野天の順に視線を動かす。

 

 颯の手を見ると、握ってほしくてうずうずしている雰囲気が心に伝わってきて。

 神崎颯を見ると、眩しいとさえ思える太陽のような笑顔で笑いかけてきて。

 空野天を見ると、自分の答えを問うように小首を傾げてきて。

 

 そんな彼らを見ていると、不思議と、この二人が悪い人だとは微塵も思えてこないその子——。

 

 

「僕は——梓川咲太」

 

 

 

 梓川(あずさがわ) 咲太(さくた)は神崎颯の手をとったのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。