ブタ野郎に親友を作っただけのお話   作:ノラン

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もう更新しないと思いました? 僕は思いました。
リアルが忙しくてメインの方のモチベが上がらず、でも隙間時間を使って小説は書きたいと思った結果です。




バニーガール先輩編
久しぶりに聞いた言葉


 

 

 ——日本に朝を知らせた太陽に温かく見下ろされながら、晴れ渡った青空を下を歩く三人の青年がいた。

 

 

「ふぁ……。マジで(ねみ)ぃ」

 

「ふぁ……。僕もだ」

 

「二人とも、朝は弱いもんね。特に颯」

 

 

 あくびをした一人は、活気のある目を眠たげに擦った、生気に満ち溢れた青年。

 次の一人は、今しがた隣の青年がしたあくびが伝播した、目つきが気怠そうで無気力感のある青年。

 最後の一人は、眠そうな二人を鋭い目で横目にした、全く眠くなさそうなのほほんとした青年。

 

 マンションが並ぶ住宅街の中、横並びにして歩く三人は同じく白のワイシャツにベージュのブレザー、紺色のズボン——学生服一式に身を包んでいた。

 そこに入学初日のような、見ていて微笑ましくなる初々しさはない。三人とも制服を着こなしており、着慣れた感がある。

 

 青年たちの名前は声を発した順に、神崎 (はやと)、梓川 咲太、空野 天。中学三年生から関係が始まり、色々とあって高校が一緒になった仲良し三人組である。

 

 

「昨日……いや、今日か。今日は何時に寝たの? どーせ夜更かしでもしてたんでしょ」

 

「夜更かしってほどでもねぇよ。寝たのは2時だしな」

 

「いやいや、十分夜更かしだから。……咲太は?」

 

「僕は普通に寝たぞ。12時」

 

「普通とは……」

 

 

 咲太を真ん中にして、彼の左右に天と颯が陣取る形で歩く三人。

 その中で一人、ブレザーのポケットに手を突っ込む天が、自信ありげに言ってきた颯と咲太に半笑いする。

 その半笑いに噛み付く颯が「んだよその顔」と、ムッとしながら天を指差し、

 

 

「ゴールデンウィーク中の高校生はみんなそんなもんだろうが。そう言うお前はどうなんだよ」

 

「夜は起きていられないのが天だから、多分9時だな」

 

「そこまで子どもじゃないよ。昨日はバイトで疲れてたから、10時にはお布団の中に入った」

 

「早すぎる」

「真面目か」

 

 

 言葉自体は驚いていながら、態度や表情はそれほど驚いているように思えない二人が、頬をくしゃっと緩ませる。

 「やっぱりか」とでも言いたげな目をして天を見て、それから二人揃って笑いを声にして外に出した。

 対する天からの反応は薄い、薄いと言うよりも無い。反応するもの面倒だと目を逸らし、正面に視線を投げている。

 

 三人からすればこのやり取りは馴染みのあるもので、一種の軽口のようなものなのだ。何十回と交わしてきた、お決まりのやり取り。

 だから天はそれ以上広げないし、颯と咲太も大して驚きはしない。

 二人が夜更かしをする程度には不真面目野郎だと天は知っているし、天が日付が変わるまでには必ず寝る真面目野郎だと二人は知っている。

 

 

「授業中には寝ないよーにね。中間テストも近いんだから、普段以上に真面目に受けときなよ。後悔しても知らないよ」

 

「努力はするぜ」

 

「いざってときは頼むな」

 

「お願いだから自分でなんとかしようとして」

 

 

 「はぁ」とため息し、頭痛でも感じたように頭に手を当てる天。頼る気全開な二人はその様子を悪ノリ気分で面白がり、くつくつと笑った。

 

 歩き慣れた通学路を、三人はそんな感じでのんびり進み行く。図らずとも歩幅は同じで、合わせずとも足音は重なり合う。

 今日も今日とて、仲良し三人組は一緒に峰ヶ原高校へ登校中。入学から一年が過ぎ、二年生となった四月の今でも、この光景は健在だった。

 

 

「なぁ、二人とも」

 

「ん?」

 

「あ?」

 

 

 毎回、三人の中の一人が話題を投下し、投げかけられた二人がそれに対して適当な反応を示す。

 三人だけの時はそれが止まることなく無限に繰り返されるため、基本的に声が途切れることはない。

 会話が切れない関係性——それが、ブタ野郎一人とバカ野郎二人で構成された、青春ブタバカ野郎どもなのだ。

 

 今回も例外ではなく、話題を投げかけたのは咲太。

 肩掛けスクールバックを背負うという、アニメでしか見ない光景を作り出す彼が、相槌を打った二人を交互に見ながら、

 

 

「バニーガールは好きか?」

 

「エロいから好きだな」

 

「朝っぱらからすごい話題ぶっ込んでくるね。俺は好きでも嫌いでもないかな」

 

 

 反射的に返した颯が真面目な表情で言い、ストレートな回答に苦笑した天が濁した言い方で言った。

 二人らしい返し方に、しかし咲太は「マジでか?」と天に疑心の目を向けて、

 

 

「それでも男か? バニーガールだぞ、バニーガール。バニーガールが好きじゃない男とか、性欲どうなってんだよ。この牧之原翔子大好き人間」

 

「コイツの頭は中三の頃から牧之原翔子に染まってっからな。それ以外、目に入らねぇんだろ。バニーガールに興味を示せないとか、可哀想なヤツだな」

 

「好みは人それぞれ。それをバカにされる筋合いはないよ。そもそも触れる機会がないんだから、好きも嫌いもないでしょ」

 

 

 人をバカにして憐れむような目で見てくる颯と咲太を適当に流し、天は正面に目を向けたまま歩く。

 嘲笑する二人の声を右から左へ聞き流していると、名が上がった存在のことが思い浮かんだ。

 

 ——結局、最後に会った日から、牧之原翔子には一度も会えていない。

 

 一人暮らしを始めて峰ヶ原高校に入学したのにも関わらず、まさかの在籍していなかった牧之原翔子。

 その事実を知ったとき、それはそれは血眼になって探し回った天であったが、結果は収穫無しという無惨なものであった。

 それは今でも変わらず。なら、自分はなんのためにこの高校に入学したのかと、そう自問自答することが無いわけではない。

 

 それでもいつの日か会えるはずだと、天は希望を持ちながら高校生活を過ごしている。

 焦らず、急がず、のんびりと。そんな風に友人たちとの日常を送ってきた。

 

 

「それで? なんでまた、バニーガールのことなんて聞いてきたの? 夢にでも出てきた?」

 

 

 牧之原翔子のことを想うと、今でも彼女の笑顔を思い出して胸が高鳴ってくる天。

 彼女との距離感にドギマギした日々に綻びそうになる唇をキュッと引き締めると、彼はそう言って咲太に視線をやった。

 

 冗談じみた言い草。恐らく適当に出た言葉だろうなと咲太は思いながら「いや」と首を横に振り、

 

 

「夢には出てこなかったな。けど、バニーガール関連で夢みたいな経験はしてきたぞ」

 

「どーゆーこと?」

 

「なんかあったのか?」

 

「昨日、ちょっとな」

 

 

 ピンとこない天と颯に小首を傾げられながら、咲太はニヤニヤしながら空を仰いだ。その向こうになにがあるのかと二人も空を見るが、あるのは清々しく晴れた青色の天井のみ。

 咲太には見えているものがあるらしい。「へへへ」と気持ち悪い声を薄く漏らし、笑みを浮かべ、一人だけで楽しんでいる様子。

 

 

「んだよ、教えろよ」

 

「なに経験したのさ」

 

 

 焦ったく思った颯に脇をコツンと小突かれ、天に肩をユサユサと揺らされる。

 同時に衝撃を与えられて意識を夢の世界から現実世界に引き戻されると、目を興味に光らせながらこちらを見る二人と目が合った。

 この二人相手にもったえぶるのも申し訳ない。それにこの二人には、この二人だけには、是非とも話してやりたいと思っていたことだ。

 

 「あのな」と、咲太は躊躇することなく言った。

 

 

「昨日、図書館でバニーガール姿の桜島麻衣に会った」

 

「は?」

 

「ん?」

 

 

 これが、これから始まる思春期症候群との、長い長い戦いの幕開けであった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「周りからは見えてない桜島麻衣、ね」

 

「バニーガール姿の桜島麻衣、か」

 

「変な話だと思うが、これマジだぞ」

 

 

 聞き慣れた高い電子音を出す改札を抜けながらSuica片手に天が呟き、その背中に続く颯もまた同じように呟く。二人の後を追う咲太も同じく、縦に並んで三人は改札を通った。

 

 場所は静かな住宅街から移り、藤沢駅の江ノ島電鉄、そのプラットホーム。峰ヶ原高校に通う三人にとって毎日のように利用する、お馴染みとなった空間。

 朝方ということもあって江ノ電のプラットホームには人がそれなりに多く、混雑している。いるのは出勤する社会人と、三人と同じ制服姿に身を包んだ高校生。

 通勤、通学の時間帯だから住宅街とは違って賑やかな喧騒が充満していた。颯としては嫌いではないが、天は嫌い。咲太はそのどちらでもない。

 

 

「確かに変な話だね。普通じゃあり得ない」

 

「本当に僕は見たんだ。この僕が二人に嘘をつくと思うのか?」

 

「この、ってなんだよ。……別に疑っちゃいねぇよ、俺も天も。嘘つく理由も、つかれる理由もねぇしな」

 

 

 話しながらホームの奥へ奥へと進む三人。二列になって並ぶ人たちの背を、改札を抜けた順に一列になって通り抜け、彼らはひたすらに前へ。

 どこから乗るのか分かっているのか、特に言葉を交わさずともその足に迷いはない。当然だ、それが一年間も続いているのだから。

 

 

「改札から手前になればなるほど、乗車の列ができるでしょ。なら俺は改札から一番離れた場所、一番人が少ない一番端っこから乗る。嫌なら別のところから乗ってもいいから」

 

 

 とは、随分と前に天が放った言葉。

 人口密度が高い場所を極度に嫌う彼は、なるべく人が少ないところに身を置きたがる。故に、両数の少ない江ノ電に乗る際には必ずホームの端、最奥に並び、電車の頭から乗る。

 

 正直、颯や咲太としてはどこから乗っても構わないのだが、本人が嫌そうだからなにも言わない。言っても「なら、もっと前から乗ってもいいよ? 俺は乗らないけど」とでも言われておしまいだから。

 割とドライな対応をする友人を放って二人だけで別車両に乗れるほど、二人は薄情な人間ではないのだ。

 

 そういうわけもあって、いつも通り最奥に到着した三人。やはりというべきか、スペースが狭くなっているだけあって人は少なく、天としては安全地帯となっていた。

 珍しく一番乗り。誰もいない二列の先頭に天と咲太が並び、颯が咲太の後ろに並ぶ。

 

 

面白(おもしれ)ぇこともあるもんだな。桜島麻衣ってだけで面白ぇのにバニーガール、更に周りからは見えないときた。確かに夢みたいな体験だな」

 

「僕も驚いた。驚きすぎて三度見くらいしたしな。で、そのあとガン見した」

 

「うわぁ、俺も見たかった。あの桜島麻衣のバニーガール……やっべ、チョー興奮する」

 

「二人とも、白い目で見られるから声量くらい考えて」

 

 

 列に並んで足を止めた途端、解放されたような勢いで颯が体を抱き込んで身悶える。その正面では腕を組んだ咲太が共感の表情で「うんうん」と頷いており、二人を見る天の目は冷たい。

 その三人の中で先程から話題になってるのは勿論、ついさっき咲太が投下した爆弾発言である。

 

 

 ——バニーガール姿の桜島麻衣に会った。

 

 

 昨日、咲太の妹——梓川 かえでに頼まれて咲太は図書館に行ったらしく、そこで問題の人物『桜島麻衣』に出会ったそうな。

 ただ出会っただけでも驚愕ものだが、聞くところによると桜島麻衣はバニーガール姿で図書館を歩き回っていたらしい。

 

 バニーガール姿の桜島麻衣。字面だけで普通の男ならば大興奮ものだろう。一度はグラビアとして写真集を出し、魅惑の素肌を世に晒したのなら尚更。色々な意味で捗るものだ。

 しかし場所は図書館、公共の場。()()()()()()ならまだしも、老若男女が等しく利用する健全な場。流石の桜島麻衣でも、そのような場所でバニーガール姿をしていれば即通報されるが、

 

 

「でも、普通に考えておかしいよね。咲太以外の人には見えてない、って。普通じゃないよ」

 

「まぁ、おかしいな。僕に見えてる以上、透明人間ってわけでもなさそうだし」

 

「咲太がそういう力の持ち主だったりしてな。その力のおかげで桜島麻衣が見えたとか」

 

「それこそ普通じゃない」

 

 

 あり得ないことに、そのとき、その場にいた咲太以外の人に桜島麻衣は見えていなかったらしい。

 

 まるでその場に存在していない——世界から『桜島麻衣』という存在自体が抹消されたかのように。

 物理的に存在していないのか、単に姿が見えないだけで声や肉体はあるのか。その辺のことは曖昧だが、はっきりしているのは桜島麻衣が見えていなかったこと。

 

 にわかには信じがたい。あの桜島麻衣がバニーガール姿で図書館を徘徊していたなどと言われても、大半の人間は鼻で笑い飛ばすだろう。

 それでも咲太が二人に話したのは、二人なら自分のことを簡単に信じてくれるという、絶対なる自信と信頼があったから。

 

 実際、信じてくれた。素直に信じる颯も、疑いながらも信じる天も。

 結果、こうして電車を待ちながら軽く真面目に話しているのだが———。

 

 

「咲太にだけ見える……。んー、今ここで考えても分かりそうにないね。考えても無駄」

 

「だな。学校に行って実際に確かめてみる方が早いしよ」

 

 

 超常現象を前にした咲太の証言を飲み込み、それでも理解できない天がその事実を頭の片隅へ。颯も同じ意見らしく、腕を組んで頷いていた。

 違いない。百聞は一見に如かずと偉人も言ったくらいだし、「僕もそう思う」と同調する咲太も二人の意見には賛成。

 しかし彼は「けど」と否定の予感を声にして、

 

 

「そういう現象のことをなんて呼ぶか、見当がつかないわけじゃない」

 

 

 疑心の段階ではあると言いながら、その声色にはどこか力が入っていた。眠たそうな目はそのままで、表情は真剣に、確信めいた風に溢す。

 

 昨日から今日まで考える時間があった咲太とは違い、天と颯には皆目見当もつかないらしい。

 「なんかあんのか?」と颯に小首を傾げられ、無言の天に疑問の目を向けられると、咲太は胸に手を添え、

 

 

「二人もよく知ってるやつ。中三の時、それに振り回されたろ。主に僕とかえでが」

 

 

 添えた手で、胸をぎゅっと握りしめる。

 その動作と今の言葉で、天と颯には咲太がなにを言いたいのか完璧に理解できた。

 理解できたのは、それほどまでに常軌を逸した経験だったからで、記憶に強く焼き付いているから。

 

 「マジでか?」と深刻な顔になる颯。

 「なるほどねぇ」と憂鬱にため息する天。

 察しのいい親友二人の反応を受けながら、咲太は到着した江ノ電を横目に告げた。

 

 

「それ、思春期症候群だと睨んでる」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 咲太たちを乗せた江ノ電は20分程度かけてのどかな街中と清々しい海沿いを走り、峰ヶ原高校の最寄り駅である七里ヶ浜駅に到着。

 扉が開いた途端に流れ込む潮の香り出迎えられながら、峰ヶ原高校の生徒たちはぞろぞろと電車から降りていく。

 咲太たち三人もその流れに身を任せ、定期のICを読み取るカカシのような機械の横を通り過ぎ、改札口を出たら左手に体を向けて歩き出した。

 

 

「思春期症候群……。まさか、高校(ここ)でもその名を聞くことになるとはな。中学以来だから驚いたぞ」

 

「予想の段階だけど、間違ってもないと思う。じゃなかったら他になにがあるんだって話」

 

「それから離れたくてここに来たってのに、皮肉な話だな」

 

「それを言うと頭痛がするからやめてくれ」

 

 

 峰ヶ原高校に向かう生徒の群れに混じりながら、咲太と颯はその話題で話し合う。話題は変わらずの桜島麻衣、そこから発展した思春期症候群。

 中学三年の頃、咲太の胸に恐竜に引っ掻かれたような傷跡を刻み、彼の妹の体に切り傷を与えた極悪で摩訶不思議な現象の総称。

 

 それのせいで人生がめちゃくちゃになりかけた咲太と、彼と深く関わる上で話に深く入り込んだ颯としては、頭が痛くなる単語だった。

 既にその時の感情は乗り越え、時間と共に癒えてきているとはいえど、口にするのに抵抗があることに変わりはない。

 今もその被害はじわじわと広がり、咲太とその周囲の人間を蝕み続けているのだから。

 

 

「ま、なんかあっても心配すんな。咲太には俺と天がいるからな。なんかあったら俺らを頼れよ」

 

「ああ。その辺については遠慮なく頼らせてもらうから、そのつもりでよろしく」

 

「おうよ」

 

 

 がじっと手の平に拳を合わせ、颯は歯を見せて咲太に気持ちよく笑いかける。その屈託のない笑顔に心が軽くなったような気がして、咲太も「ふっ」と笑った。

 本当に頼りになる親友だと思う。様になっているそのポーズも含めて、色々な意味合いで頼らせてもらおう。

 

 そんなことを考える咲太。ふと天のことが気になって正面、前を歩く二人を見る彼は、別の人と話している天に意識を向けた。

 

 

「なぁ、天、お前バスケ部入れよ」

 

「嫌です」

 

 

 熱心な勧誘を一言でぶった斬り、あからさまに面倒そうな様子を纏う天。

 その真横に歩いているのは咲太の数少ない友人こと、爽やかイケメン野郎こと、国見 佑真。

 一年の頃に咲太と颯が同じクラスになって、知り合う機会があってから二年になっても関係が続いている男。

 

 江ノ電の中で合流して、一緒に登校している形だ。電車に乗る時間がほぼ同じなので、基本的に七里ヶ浜駅を出る時は、三人組に彼を加えて四人組で歩くことが多い。

 

 佑真は二年ながらにバスケ部のレギュラー争いを勝ち取り、その上にエース的存在。同い年の彼女もいて、悪い噂が立つ咲太のことを友人と言ってくれる優男。

 つまるところ、咲太の隣を歩く颯と同類。誰に対しても分け隔てなく接する真の陽キャ。めっちゃ良いやつ。

 

 ——そんな男は今、天をバスケ部に引き込もうとひどく熱心な様子である。

 

 

「祐真もしつこいね。会う度に勧誘するの、どうかと思うよ」

 

「いやいや、あんな動きされたら誰だって勧誘するだろ。俺、これでもバスケ部のエースって言われてるんだぞ? その俺と体育で1on1やってほとんど抜かせなかったお前なら、絶対に活躍できる」

 

「活躍したいわけじゃないので結構です。それにバスケはドリブルもシュートも下手くそなので遠慮します。あと、1on1(タイマン)のやつはまぐれ」

 

「1on1のことタイマンって言うか、普通。いや、練習すればいいって。咲太と颯から聞いたけどお前、中学の頃はバレー部でベスト8のチームでリベロだったらしいじゃん。それに今もバレー続けてるって話だし、ならいけるって」

 

「あー、うぜー」

 

 

 嫌がる態度を全面的に主張する天だが、佑真は一歩たりとも引かない。これが約半年間も続いているのだから、佑真のバスケに対する情熱には感心する咲太と颯である。

 その熱心さを受け流し続ける天の胆力も、流石といえば流石ではある。バスケ部エースからのお誘いを、かれこれ百回以上は断っているのだから。

 

 これもまた、お馴染みとなった登校時の一場面。天としては不本意すぎるそれに、後ろの二人はくつくつと笑い、

 

 

「祐真も諦めねぇな」

 

「当たり前だろ。入る、って言うまで粘るつもりだからな」

 

「世の中、諦めが肝心なこともあるぞ」

 

「男には引けないときがあるんだよ、咲太」

 

「その引けないときが今なのは絶対におかしいと思います」

 

 

 颯と咲太の言葉に丁寧に反応し、佑真は首だけ振り返って二人を見た。被害者の声は都合よく届いていないらしく、反応する気配は微塵もない。

 

 ため息。

 本当に嫌そうな天は「やれやれ」と力無く首を横に振り、踏切を渡った先にある峰ヶ原高校の門を見て、

 

 

「……咲太、颯」

 

 

 一段、声を低くした天が、呼ばれた二人の視線を背に感じながら正面を顎でしゃくる。

 考えるよりも前に二人がその先を見ると、十メートルに問題の人物、桜島麻衣の姿があった。

 

 華奢とも言える細長い手足に、誰もが振り返る美形な小顔。

 全体的に線の細さが目立つ、すらっとしたモデルのような体型の上から、日本一の絶世の美女は峰ヶ原高校の制服を着ている。

 

 不思議な光景だと、咲太は思う。

 

 あの桜島麻衣が自分らと同じ制服姿で、同じ時間に、同じ高校に登校していても、誰一人として注目せず、騒がないのだから。

 それ以前に、誰も桜島麻衣のことを見ていないように感じる。まるで空気、存在していないような扱いをしている雰囲気。それは昨日、図書館で咲太が経験したことと酷似する光景———。

 

 不思議なのは光景だけではない、桜島麻衣自身もだ。

 

 妙に制服姿が似合っていないというか、借り物を着ている感が否めない。今年で高校三年生にも関わらずだ。こうして話す自分たちや、騒ぐ女子生徒たちの方が、まだ馴染んでいるように思える。

 それどころか、部活の先輩に「おはようございます!」と挨拶する一年生の方ですら馴染んでいる、そう思えるのだから違和感は明白。

 

 咲太たちの話し声も含めて、七里ヶ浜駅から峰ヶ原高校までの短い道のりには、そうした学生の和気藹々とした声が満ち溢れている。

 そんな中で桜島麻衣はただ一人、馴染んでいない。端的に言って浮いているような印象を受ける。もっと端的に言うと、孤独。

 

 これが、峰ヶ原高校の『普通』。

 あの桜島麻衣を空気人間のように扱い、その事実になんの疑問も抱かずに受け入れる。

 

 その後ろ姿が、咲太には気になる。

 昨日の出来事があったから尚更。言葉にしようのない不安感が胸の中を渦巻き、ささくれ立つ。

 

 

「なぁ、三人とも」

 

「ん?」

「なんだ?」

「どーしたの?」

 

 

 そわそわする感情を発散したくて、咲太は口を開く。各々の反応が一度に返されると、彼は桜島麻衣を見据えながら、

 

 

「桜島先輩のこと、見えてるよな?」

 

「ばっちり見えてる。視力2.0を舐めるなよ」

「見えてるな。逆に見えてない方がおかしいぜ」

「見えてるねぇ。ちゃんと見えてる」

 

「だよなぁ」

 

 

 当たり前の反応をする佑真が視力の自慢をする中、颯と天が桜島麻衣を静かに凝視。

 その三人の反応を再び胸に受けながら、咲太は難しそうな表情で首を捻るのだった。

 

 






久しぶりに覗いてみたらお気に入りの数が30を超え、評価者が4人もいたことに驚愕しましたよ。読んでくださる方は読んでくださるんですねぇ、と感謝です。

牧之原翔子がヒロインの物語を書きたくて始めたこの物語、なのに肝心の本人は遠い先の章で待っているという事実。ですが、その過程をすっ飛ばせるほど僕は秀才ではないので、バニーガールもちゃんとやります。

そのうち更新しなくなるので、しなくなったらモチベが下がったんだなと思ってください。

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