THE LAST COMPANY   作:帝都造営

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極夜の檸檬作戦③

「――――建国より二六〇〇年。金剛不壊であった我が祖国に仮にも原子爆弾を投下する輩がいるとすれば、私はそれはソビエトかアメリカ。もしくは英連邦だと考えてきた。しかし、それは大きな間違いであったと、諸君に謝罪せねばならない」

 

 その日。私たちは突然講堂へと集められた。講堂は中隊が基地として利用しているこのボロボロの学校でも比較的傷が少ない方で、雨の日などは体育館代わりに使われている。それでも、こんな形で全員を集めることは初めてだった。

 

 中隊長を務める姉さんが始めた話は核爆弾のこと。一昔前なら不可侵(タブー)だったかもしれない話題だけれど、こんな時代じゃありふれた話。私は姉さんをまじまじと見つめる。

 

 姉さんも姉さんで私の方を観ると、小さく笑う。それだけで、私は全てを察した。察してしまった。

 

「そう、私はすっかり忘れていた。幾重に張り巡らした監視網と爆撃機、弾道弾(ICBM)両方に対応できる防空網。神州日本の防御をまさか英米、そして共産主義者共に突破できる訳がなかったのだ。だというのに、国民は核攻撃に怯えて来た。何故だ?」

 

 姉さんは、いやこの国はまさか。本当に――――。

 

「そうだ。それら全てを無力化し、国土全てを焼き払うだけの核戦力投射能力を持つ存在が居たのだ」

 

 それも不幸なことに、我々のすぐ側にな。そこで姉さんは押し黙る。途端に講堂に沈黙が舞い降り、それに合わせるようにして真っ白なスクリーンが下がってくると、プロジェクターが閃光を放ち、画像が映し出される。どこにでもある設備だけれど、私の隣にいた福ちゃんは映画館とかにも行ったことがないのだろう。驚いたようで、小さく息を漏らした。

 

 そしてスクリーンに映されたのは、綺麗な風景やバラエティ番組ではなく、海軍の紋章。姉さんは一切の口外を禁じるなどといった一応の前置きをしてから、小さく咳払い。それに合わせて、スクリーンにはどこかの航空写真が映し出された。

 

「現在の広島市の様子だ。正確には二日前だが、まあ状況は変わっていないと言っていい。なぜならば、この画像の中心にいる全長二〇〇米の物体は恐らく当面は動く必要がないからだ」

 

 その言葉が意味することはただ一つ。

 

「陸棲型……」

 

 基本的に海にいるはずの敵対的危険生物、その陸上版。

 地上では数時間、長くても一日か二日程度しか活動できない『やつら』しかいなかった頃は、まだ内陸部に逃げ込めばなんとかなるなんて言われていた。

 それは東南亜細亜条約機構なんて名前もニュースでよく聞いた頃。私なんて高校に入った頃だった。激しい戦闘の末に放棄されたというシンガポールに現れた陸棲型。私たちの国にも一年くらい前に九州に現れて、すごい数の軍隊に攻撃させてやっと倒したと聞いている。

 

「生物とは思えない高精度の光学兵器は我が軍の航空戦力や長距離砲撃を無力化し、歩兵で倒すには馬鹿デカイ。結局、九州の時は数に任せた力押しとなった訳だが……悲しいことに今の日本にそんな余裕はない。とはいえ、この脅威は排除せねばならない」

 

 そこでだ。姉さんが言葉を句切ると、スクリーンの画面が切り替わる。そこに写されたのは、ミサイルと、弾頭の写真。

 

「細かな説明は省くが、制空権の確保すら出来ない空軍の爆撃作戦案だ。たった一発の巡航誘導弾(ミサイル)もって陸棲型を制するという。正直、私も感服したよ。なるほど地形を利用し、なおかつ少数の誘導弾であれば陸棲型に感づかれることなく一撃を加えることは可能だろう。問題は、攻撃に選定される弾頭が限られることだ」

 

 九州の陸棲型を倒すのには、一地方都市が地上から消え去る程度の爆弾や砲弾が使われたと聞いている。そんな陸棲型を一発のミサイルで倒すのなら、手段は一つ……核兵器しかない。

 

 だからこその前置き。この国は、自分の土地に核爆弾を放とうとしている。普通の方法じゃ勝てない。だからこその選択肢だということは、もちろん理解できるつもりだ。

 

「しかし、果たして許容できるだろうか? この選択は今日の安全を取ったが故に国家を今後百年に渡って苦しめる選択だ。空軍も空軍で苦渋の決断だったのだろうが、私のような一国民としてはとても許容しがたい決断だ。我が国は何のために今日までの弾道弾防衛に巨費を投じてきたのか? 自国に対して原爆投下を行うためだというのか? 私は許容しない」

 

 それにだ。そこで声のトーンを落とす姉さん。講堂には一瞬の沈黙が舞い降りた。姉さんは何かを憂うように視線を迷わせると、含みげな表情になって顔を上げる。

 

「諸君らは悔しくないか? 今から二年前、南九州に上陸した陸棲型によって鹿児島が灰燼に帰した。それでも私たちの先達は決して屈したりはしなかった。奴らに否と銃を突きつけ、見事に放逐してみせた。それが今はどうだ、その身を挺してまで戦友達が守った国土を喪い。それを取り返すどころか、何人たりとも入れぬ不毛の地へと祖国を変えようとしている」

 

 私は驚くばかりだった。この場にいる誰もが、全身を耳にして姉さんの言葉を聞いている。一言一句もこぼさぬように聞いている。私は姉さんのいう喪った国土を知らない。地図で見たことはあっても、住んだことはおろか、行ったこともない。

 一体なにが、この子達を駆り立てるのだろう。私の疑問を余所に、姉さんの、中隊長の訓示(ことば)は続く。

 

「そしてなにより、諸君らは許容できるのか? 陸棲型のことは、骨の髄まで染みこんで忘れられないことだろう。私もそうだ。我々の故郷を、友人を、家族を焼いた宿敵その同類が、諸君らの銃先の目の前にのうのうと現れた。これは確かに危機かもしれないが、我々にとっては千載一遇の機会だ。だというのに、今祖国は犠牲(いけにえ)になろうとしている。我々の望とは逆だ。許容できるか?」

 

 その言葉に、講堂の空気がいよいよ揺らいだ。それは熱気だ。

 

 誰もが拳を握りしめて、身体の芯から飛びださんとする感情を抑え込もうとしている。

 

 

 

 これは、殺気だ。

 

 

 

 ――――戦災孤児だよ。九州の避難民はもちろん、航空種が現れて以来急増していることは軍曹だって知っているだろう?

 

 姉さんの言葉が蘇る。あの時は確かにこの子達のことを嘆き、憂いていたはずの姉さんが、同じ口で復讐を煽ろうとしている。

 姉さんの言葉は続く。拳を握りしめた姉さんはまさしく中隊長であり、理路整然としているようにも、論理破綻しているようにも見えた。他の下士官さんや、古田中尉にはどう見えるのだろう。

 

「私は許容しない。命令絶対服従が軍官僚の誉れであるが、であるならば私だけが大尉の階級章を賜る理由が見当たらない。私はその職責において、あくまで自身の判断を貫く。その上で断言しよう――――陸棲型の首を打つのは、我が中隊だ」

 

 姉さんは畳みかけるように言葉を撃つ。一言一句を弾丸とし、悪意ある無差別をもって陣地に穴を穿つように語りかける。

 

「空軍の『太陽の梺作戦』は明後日早朝、日の出と共に実施される。日の出と共に陸棲型に止めを刺すという寸法だ。皇土を我が物とのさばる陸戦型が見ているのであろう甘い甘い本土占領の夢からたたき起こすのは不愉快な話ではないが、海軍の地元で花火騒ぎをされるのは目覚めが悪い」

 

 そう言いながら姉さんは自信たっぷりに微笑んで見せた。

 

「そこでだ。私はこの山陽の地を守護する海軍兵の一人として、魅力的な提案をしたい」

 

 その言葉に合わせるようにして、またスクリーンに映される画面が切り替わる。

 

「最後には永遠の眠りにつく陸棲型に夜明けをくれてやることはないし、空軍の言う()()も要らない。太陽なんて大それたものは必要ないのだ……我が中隊は単独敵前線へと突出。闇夜に乗じて陸棲型との決戦を行う。我々が勝利すれば英雄。さもなければ『太陽の梺作戦』は(つつが)なく実行に移される。簡単だろう?」

 

 その言葉に、少なからずの動揺が走るかに思えた。少なくとも私は動揺した。なにせ陸棲型と言えば、九州の戦力を全てぶつけて勝ったと言われるぐらい強い。強いのだ。怖じ気づかない訳がないし、それは姉さんだって同じ筈。

 

「しかし、案ずることはない。広島の陸棲型はまだ定着したばかり、人間で言えば赤子も同然だ。対する我々には戦訓がある。あれをどう処理すればいいのか知っている。我々は連中を駆除するスペシャリストだからな。そう言う意味では、諸君らは幸運だ」

 

 そして具体的な作戦案へと話は移る。決戦という表現を使うだけあって、使われる機材も規模も。これまでの戦いとは比べものにならない。それは事実。

 

 でも……決戦と称するには、少なすぎる。小さすぎる。

 

「今回の作戦は、これまでにない困難なものになるであろう。しかし私は、諸君らが作戦に必要とする全ての技能を持ち合わせていると確認する。残りに少し補足するとするならば、勝利に必要なのは諸君らの献身とほんの少しの勇気のみだ。諸君らの勇気は檸檬(レモン)のように小ぶりだが、闇夜を照らすには十二分な光となる」

 

 そして姉さんは、拳を持ち上げた。

 

「そうだ、檸檬だ。檸檬は太陽の贋作でしかない。だが本物の太陽は我々人類だけのモノだ。敵対的危険生物にくれてやるのは贋作で十分だろう?」

 

 姉さんは言葉を切る。沈黙が伝わって、誰もが姉さんのことばを十二分に飲み込まされる。そして姉さんは、口を開く。

 

「押しつけがましい地平線の夜明けを受け入れるな、昇る太陽に抗え。果敢なる抗戦精神をもってこの永遠の闇で一筋の光を放つ太陽になって見せよ。山陽に我が中隊の光を見せつけよ」

 

 姉さんの言葉が孕んだ熱が、講堂中に伝播していく。その熱が攪拌されるより前に、姉さんは、叫んだ。

 

「今ここに――――『極夜の檸檬作戦』を発動する! 陸棲型への反撃の(こう)()を諸君らに託そう。祖国を汚す侵略者に、とびっきりのモーニングコールをくれてやろうじゃないか!」

 

 

 

 


 

 

 

 兵庫県北部、朝来(あさご)市。和田山駅まで前進した私たちは、最後の休憩を取ることになっていた。

 

 もっとも、朝来市はまだ疎開指示も出ていないので住民の眼もある。平均年齢十三歳の中隊が街を出歩く訳にもいかず、結局買い出し組以外は駅構内で待機。それでも、数時間ぶりの屋外を窮屈と感じる子はいないだろう。ホームを走り回っている子も居る。

 

「ねーちゃん! 一番後ろまで行ってみよーぜ!」

 

 そして、大野ちゃんもその一人だ。伊藤ちゃんが深ーいため息を漏らす。でも実際、お揃いの制服は着て行動しているわけだから、どこかの学校の遠足に見られても仕方はないだろう。

 

「洋ちゃん、遠足じゃないんだから……」

「えーいいじゃん! こんな電車滅多に乗れないんだからよぉ」

「遊びじゃないんだから……」

 

 私たちをここまで運んでくれた列車に興味津々な大野ちゃん。他は別に興味なしといった風。流れからすると私が探検するかどうかを決めなくてはならないらしい。

 

「うん。まあ、良いんじゃないかな? 時間もあるし」

 

 飯田大尉の話によると私たちより先に突入する列車がまだ追いついていないらしく、ここで一時間ほど待機することになるらしい。別にちょっとした探検をする時間はあるだろうし、それまでずっと座って待っているのもつまらないだろう。

 

「ホント? やったぁ!」

 

 楽しげにホームを走り出す大野ちゃん。皆もその後に続く。

 和田山駅は山と山の間、沢に沿うようにして進む山陰本線の駅。市町村合併で出来た朝来市が田舎なのはなんとなく分かるし、駅もまあ、そのくらいには小さいのだろうなぁと思っていたけれど、意外とそんなことはない。コンクリート造りの駅舎は立派なものだし、沢山の引き込み線、ホームだって四番ホームまで備えている。遠くには赤煉瓦の倉庫も見え、昔から使われている場所なのだろう事が窺えた。

 

「それにしても、大きい列車だね……」

 

 何十両あるのだろう。ホームからはみ出さんばかりの列車。私たちが乗ってきた車両は一応窓が付いていたけれど、後ろに繋がるこの車両には窓の一つもついていない。ということは貨物列車なのだろうけれど、私の知るコンテナの積み方とは違う。車両の形状が違うのだ。

 

マスターフレート(MasterFreight)、貨物の王サマよ」

「中隊長?」

 

 そこに現れる飯田大尉。現れたというか、私たちが飯田大尉と鉢合わせたというのが正しいか、古田中尉と一緒に階段から降りてきた大尉に、大野ちゃんが駆け寄る。

 

「これからなっ、護郷隊のねーちゃんと探検するんだ!」

「おーそれはいいことだ。これから命を預ける装備品だからな、知っておいて損はない……よーし折角だ、私がマスターフレートのイロハを教えてやろう」

 

 そう言いながら飯田大尉は私たちの列に加わる。加わるというか、列の先頭に立っただけなのだけれど……ここら辺は、相変わらずの姉さんって感じだ。飯田大尉は指を立てる。

 

「そもそも、鉄道は運送業の優等生だ。一編成でトラック何十台分の荷物を運ぶし、船の数倍の早さで荷物を運ぶ。量と速さを兼ね備えているわけだが……まあ便利さを求めるとトラックの方がよかったんだよね」

 

 だって家の前まで鉄道は来ないじゃない? 姉さんが振り返りながら聞くので、私たちは頷く。

 

「で、必然的に鉄道輸送は衰退すると予見された訳。しかしそれは国鉄の意地が許さない。一九六〇年代、国鉄は鉄道輸送の威厳を護るためにその輸送体系の抜本的改革に着手した」

「なる、ほど?」

 

 一九六〇年なんて、もう六〇年以上も昔。途方もない昔話を飯田大尉は続ける。

 

「ま、頓挫するんだけどね」

「失敗するのかよ……」

 

 大野ちゃんが突っ込む。確かに、姉さんの話しぶりからするといかにも大成功して、それが今ここに居る! みたいな話の流れになると思うだろう。私もそう思ったし。

 ところが姉さんは、笑いながら手を振る。

 

「しかし、捨てる神あれば拾う神あり、今回の神様は陸軍だ」

「陸軍が?」

「うん。第二方面軍……つまり北部方面軍がこの高速輸送技術を欲しがったんだよね。ほら、当時はまだソビエトの樺太上陸がかなり現実的、というか実際にあったじゃない? でも樺太を護ることになっている第二十三軍はたったの四万、これで南北約千キロの樺太を護るなんて、まあどだい無理な話だったのよ」

「それで、鉄道による高速輸送」

「そう、昭和四十四年改訂の北方戦策で初めて触れられた鉄道機動防御戦術……即ち、貨物列車に戦車やら歩兵やら即応体制の部隊を丸ごとのせて最前線にぶち込むわけ。これが士魂計画」

 

 そんな感じで姉さんは楽しげに話を進めていく。話を纏めると、樺太防衛のために技術開発が進められたマスターフレートは、その後は本来の輸送改革へと回帰、今では世界中どこでも走れるスゴイ貨物列車へと進化を遂げたらしい。

 

「ま、ここら辺の変遷は私よりもっと詳しい奴に聞いて貰うとして……ともかくこいつは士魂計画、鉄道高速展開の血を引いているわけだよ。本当ならコイツに何両もの戦車、二個歩兵中隊に砲兵中隊、あとは武器弾薬を積んで編成された混成大隊を東京から、朝鮮、その先には満州まで送り込むことが出来たわけだ」

 

 最も、下関がなきゃ絵に描いた餅なんだけどね。飯田大尉の呟きをかき消すように、汽笛を挙げながら私たちと同じ車両が滑り込んでくる。

 

「あれが先行車両ですか?」

「いや? あれも私たちと一緒に突っ込むやつ。こっちと違って兵員輸送車繋いでないから、中身は全部爆弾よ。こっちと合計で四百トンはあるんじゃないかな」

「よ、四百……」

 

 途方もない数字に、今更ながら私は愕然とする。いや、そりゃ分かってはいたのだ。なんせ私たちがこれから挑むのは陸棲型。『やつら』の中でも最も巨大で、一番厄介な敵。それにたったの一個中隊で挑もうとしてるんだから、持って行けるものはなんでも持っていかなきゃいけない。四百トンの爆弾だって足りるかどうか怪しいくらいだ。

 

 改めて『陸軍省』の文字列が刻まれた貨車を見る。この中に、作戦に使われる爆薬が詰まっている。

 ブレーキ音を立てて隣のホームへと滑り込んだらしい列車。姉さんは手をパチンと叩くと振り返った。

 

「よし、じゃあ私は運転手に挨拶してくるわ。もう鉄道連隊も解散させられたってのに、今回の作戦のために馳せ参じてくれたんだからね。古田、チビ共任せるわよ」

「了解です大尉」

 

 古田中尉が軽く敬礼。飯田大尉もさっと答礼すると、さっきの階段へと駆け足で向かっていく。

 

「それにしても爆薬を満載した貨物列車で突撃なんて、どっかの映画みたいな作戦だと思わない?」

 

 残された私に、古田中尉はそう言って笑う。なるほど、確かに奇想天外な作戦ではあるだろう。映画みたいと言われても仕方がないかも知れない。

 

「そうですね……やっぱり発案は中隊長が?」

「ううん。作戦の立案は大隊長で、大尉はずっと文句垂れてたよ。映画のパクりなんかで上手くいくなら、とうの昔に『やつら』は殲滅できてるってさ」

「それは確かにそうかも知れませんけど……」

 

 飯田大尉の口が悪いのか、それとも愚痴を漏らしただけであろう同期の言葉を漏らしてしまう古田中尉が悪いのか。私が困っていると、古田中尉は他の子に聞こえないような音量で言った。

 

「望が、中隊旗を返納した」

「え……?」

 

 意味が飲み込めずに私が古田中尉を見返すと、古田中尉は諦めたように首を振る。

 

「まあ、あの旗はそもそも正式な支給品ではないし、返納という言葉が正確かどうかは分からないけれどね。とにかく、今回の作戦に旗を持ち込むことを望は拒んだ」

 

 そして……大隊長は受け取った。

 この作戦を立案した人間は、中隊旗を受け取った。

 

「まさか、姉さんは……」

「ありえないね。ありえない。望は一般的な軍人だし、そうでなくとも一般的であろうとする。中隊丸ごと戦術核の中に放り込むような外道は、()()()()()()()()()()

 

 その言葉に、私は目を伏せる。

 

「……ご存じ、なんですね」

「あれ、美佳ちゃん知ってたんだ。ちょっと意外。望は美佳ちゃんにだけは言わないと思ってたんだけれど」

「私が悪いんです」

 

 私は視線を逸らす。貨車のあちこちを見たりする大野ちゃんたちに混じった福ちゃんと眼が合った気がした。

 

「それは知らないけどさ」

 

 そう言って古田中尉はどこか遠くに視線を飛ばす。この人はどこまで知っているのだろう。私は知らないことも知っているのだろうか。あの日、大須中尉が狂ってしまう前に聞いた、姉さんとの会話。姉さんはあの時説明すると言ってくれたけど、今日まで説明してくれたことはない。当たり前の話だ。私は姉さんを救えないことが分かってしまった。だから私は、せめてこれ以上姉さんを苦しめる存在にならないように、振る舞うしかない。

 

「そうそう。これ」

 

 古田中尉が、私に何かを手渡す。

 

「え……?」

 

 それは布に包まれた小瓶。管理番号らしきラベルが貼り付けてあるけれど、その中身が何なのかまでは書いていない。私がまじまじと眺めていると、古田中尉は更にもう一枚の紙を差し出した。

 

「このリストに目を通しといて……って言っても、軍曹の一班は全員が該当者だけれどね」

「なんなんですか、これは」

 

 リストの言わんとすることが分からない。書いてあるのは中隊の半分といったところだろうか。古田中尉のいうとおり、私たちの班は全員が――つまり、私も福ちゃんも――リストに名を連ねていた。意味が分からない。古田中尉は躊躇ってから、答える。

 

 

 

「その小瓶が有効な子のリスト、かな」

 

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