THE LAST COMPANY   作:帝都造営

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最初の艦隊(THE LAST COMPANY)

 現状、歩兵連隊にも容易に運用が可能で、かつ最小の人的資源で『やつら』を効率的に屠る手段は機関銃ないしは機関砲だとされている。

 当初は戦車並みだとも言われていた『やつら』というのは、結局のところ装甲という意味ではアルミ板ほどであったわけで、練度の低い部隊であっても急所を捉えることができるのは速射性に優れ、かつ継続火力の大きい兵器であったわけだ。

 しかし如何に有用な兵器といえど、今日の『戦争』の目的が戦線を維持すること、即ち我が方の領域を死守することにある以上は、単位時間あたりの継続火力ではなく更に戦略的な継続火力を意識しなければならないのが用兵家の義務である。

 この際の戦略的な継続火力というのは即ち補給であり、具体的には機関銃に込める弾丸である。発射速度を調整しても一度戦闘が発生するたびに何百、何千の弾を消費する機関銃――――

 

 

 



 

 

 

「……ねえ、(のん)ちゃん」

 

 背後から掛けられたその声に余程驚いたのだろう。飯田望海軍大尉は肩を跳ね上げるようにして固まり、それから肩を竦め直しながら振り返った。

 

「驚くじゃないか。(かおり)……いや、古田中尉?」

 

 とにかく、入るならちゃんとドアを叩いてくれ。そう言いながら机に置かれたラップトップパソコンを閉じようとした飯田の手を、古田香海軍少尉は腕を掴むようにして止める。

 

「ちゃんと叩いたわよ。二回だけ、こんこんってね」

「私の部屋はトイレか何かか?」

 

 扉を二回叩くことはトイレに使用者がいるかを確認する行為だという。そんな何処から仕入れたとも知らない言葉遊びを冗談にして小さく笑い合うと、二人は笑みを仕舞った。

 

「大戦果おめでとう、(のん)ちゃん。これで少佐昇進かな?」

 

 飯田大尉は肩を竦めてみせる。

 

「まさか。無理だよ(かおり)。大尉任官だって無理矢理通してたんだ、私だって代わりがいないから仕方なくやってるだけだしね。それに、私たちは後ろ盾も喪った」

 

 その言葉に、古田中尉は眼を細める。

 

「全く、なにが『リスト入り』だ。あの人が? 加藤大佐が『リスト入り』? ふざけるんじゃないわよ」

 

 仕事も増えるし、いい迷惑だ。そうぶっきらぼうに言う飯田に、古田はパソコンを覗き込みつつ返す。

 

「ふぅんそれで? その多忙な中隊長サマは何をお書きになっていらっしゃるんですか? 日記にしては誇大妄想、日報なら支離滅裂。『帝國または友邦の敵』って誰のことです?」

 

 馬鹿にした調子で古田中尉が読み上げるのは、パソコンに踊る文字列。これまで書いてきた文章を全て声に出しかねない調子で文面を引用し始めた古田に、飯田は慌てたようにパソコンを閉じた。開閉を検知するセンサーによって画面は消灯、パソコンはスリープモードへと移行する。

 

「証拠を読み直してたんだよ」

 

「証拠?」

「そうさ、証拠さ。私がなんの因果か生き残って。そしてこの中隊を作った日から付けてる。私の文章さ」

「ふうん」

 

 興味なさげな古田中尉。何かを堪えるように押し黙る飯田大尉に、古田中尉は構うことなく聞く。

 

「ねえ、私たちどうなっちゃうのかな」

「どうなる? 軍人であり続けるさ」

「そうじゃなくてさ……七〇一大隊は解体なんでしょ?」

 

 

 結論から言えば『極夜の檸檬作戦』は成功した。

 

 陸棲型の撃破に成功した第七〇一二中隊はどうにか帰還。しかしこの作戦を終えた中隊に待っていたのは、決して賞賛の声だけではなかった。それはこの作戦で中隊が作戦能力をほぼ喪失するほどの被害を被ったからだけではない。作戦中に大隊長の加藤大佐が『リスト入り』。その結果として作戦は事前に露見し、結果としての大損害を被ったからであった。

 

「昨日までは戦果を挙げ続けたからよかった。最小限の損害で最大限の戦果を、なにより兵庫戦線を半年近く維持したという実績があったからこそ誰もなにも言わなかった。それがこのザマだ。今度こそ、私らは路頭に迷うかもしれんな」

 

 

 まさしく悪夢のような作戦。史上最悪の作戦だ。

 

 しかし、記録というのは破られるために存在するもの。既に飯田大尉の中では『極夜の檸檬作戦』を越える悪夢が誕生している。

 今から行うのは、その確認作業。

 

「なあ古田。私たちは『化け物中隊』だと思うか?」

()()()どっちで答えて欲しいの?」

「今日は率直な意見を頼むよ」

 

 そう言えば、古田中尉はぽつりと言う。

 

(のん)ちゃんが望むなら……ってとこかな」

 

 そう言えば、飯田大尉は腰掛けに座り直す。

 

「どうだかな。化け物中隊は統制されているからこそ中隊たり得るんだ。強靱な指揮系統の元に軍令を果たしてこそ、化け物中隊なんだよ。戦場を切り開く矛になる、死をも恐れぬ最強の中隊」

「うん。そうだね。(のん)ちゃん」

「それが、それがさぁ……あっけなさ過ぎる」

 

 飯田大尉はそう言って額に手を当てる。

 

「あんなにも、あんなにあっさり倒したんだぞ。たったひとつの手榴弾で? 何百トンの爆弾にも耐える陸棲型を?」

 

 飯田大尉はそう言いながら書類を振ってみせる。それは今回の戦闘結果を記した戦闘詳報。

 

「そうだね。おかしいね」

 

 そう軽々しく言う古田中尉。飯田は息を吸ってから、吐く。

 

「なあ。古田」

「なあに?」

「敵対的危険生物は『リスト入り』した連中に言わせる深海棲艦という輩は、水を操って身を守る。それに対抗するためには、水の効果がなくなるほどに肉薄するか、もしくは同じ力で対抗するかだ。もしも五島福……いや、あれはもう福江と呼ぶべきか。とにかくアレがその力を使ったのであれば、説明はつく」

「また神さまの話? 神州を護るべく神が遣わした聖なる乙女だって言うつもり?」

 

 そう古田中尉は茶化すように言う。飯田大尉は呆れたようにため息を吐くと、それから詰め寄る。

 

「違う、もう一人居るだろうと言っているんだ。いくら対物ライフルを振り回しているとは言え、重巡クラスの頭を一撃で打ち抜く海軍兵士が……私の、目の前に」

 

 飯田大尉の言葉を受けて、古田中尉は笑みを被る。

 

「ふぅん。そっか……今更それ聞いて、どうするんです?」

「分かった。ではもう一つ聞こう」

 

 その言葉を聞いた飯田大尉は椅子から立ち上がった。

 

「加藤大佐は、あれでも用心深い人間だ。『リスト入り』には敏感であったし、対策も怠っては居なかった。だから露見するのが遅れた。でも私はこの疑念を否定できない……露見していないだけで、昔からそうだったのではないか、とね」

 

 つらつらと続ける飯田に、古田中尉がゆっくりと仮面を外す。

 

「私も……この飯田望も困ったことに『リスト入り』だ。しかし中隊の中では軽い方だし、私は制御しきれている。だから大佐も私としか顔を合わせないようにしてきた。大佐は陣頭指揮を行わない代わりに、中隊の地位を保証する。それが私たちの暗黙の約束だった。それを誰かが、破った」

 

 誰か、とは聞かない。飯田の問いかけにすっかり仮面を外した古田中尉はおもむろに口を開く。

 

「では逆に質問させて下さい……大尉は、この国が何番目の被爆国がご存じですか?」

「なにを言っている。『極夜の檸檬作戦』の意義を忘れたか? 皇土への核兵器投射を防ぐ。それがこの作戦だったろうに」

 

 それが見事に成功したのだから、この国は未だに被爆国になったことはないということになる。

 

 だというのに、古田中尉は言った。

 

 

()()()()()()

 

 

「……なにが言いたい?」

 

 そう聞いた飯田に、古田は目を閉じる。それから胸に手を当てた。そしてゆっくりと、語り始める。

 

「広島に落とすわけにはいかなかったんです。例え、これまで積み上げてきた全てを崩してでも、です」

 

 まあ、()が未完成、それどころか深海の側に傾いていたとは思いませんでしたけれどもね。その言葉を聞いた飯田大尉は、古田中尉を睨む。

 

「それが、私の美佳に『修復材』を渡した理由か」

 

 そう言われた古田中尉は、表情を動かさずに言う。

 

「まあ、バレるでしょうね」

「美佳はなにも知らないからな。小瓶で渡した分だけ、まだ良心が残っているとでも喜べばいいのか?」

「知らなきゃいけないんですよ。私たちは、広島も、長崎も、そしてあの子が拘る……青函連絡船のことも」

「それは紛い物の歴史だ。『やつら』は記憶を侵食する。記憶は強くて脆い。だから我々はあくまで抵抗しなければならない」

 

 そして飯田大尉は続ける。嘆くように。

 

「なあ、古田。古田中尉は、今日まで帝国海軍軍人だっただろう。私の命令に、国家の命に従ってきたじゃないか」

 

 それじゃ、ダメだったのか。

 

「ダメでした。広島だけは、決して」

 

 その言葉を聞いた飯田大尉は、言葉を放つ。

 

「触れないことが我々の掟だった。暗黙の約束だったな。だが、ここまでされてはどうしようもない。()()

 

 

 お前の目的は、なんだ?

 

 

 問われた古鷹は、答える。

 

「ええ、長くなりますが……お話ししましょうか。()()

 

 

 

 

 















お疲れ様でした。来週からは本土決戦シリーズ第2巻「THE COUNTER BATTALION」をお送りします。お楽しみに。
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