誰が嘆こうと手から離れたリンゴは地に落ちるように、物理法則をねじ曲げることは何人にも叶わない。
物理法則は広大であったはずの祖国をケシ粒のように限りなくゼロへと近似させ、今この瞬間も依存しているこの地球ですらも気にかけるに値しない小単位へと変えてしまうのだ。
故に、今日も瀬戸内へと落ちていく太陽は美しい。幼少期からあの太陽を追いかけるのが好きだったのはよく覚えている。ずっとそうだった。今でもそうだ。今はただ、眺める高さが変わってしまっただけだ。
今眼下には、私を育んでくれたその海が広がっている。
瀬戸内海といえば帝国の内海で、決して侵されざる聖域だと言われていた。それがこんなことになるなど、誰が予想したことだろうか。
「ヴァルキュリー1より
《CPヴァルキュリー1、現地部隊がマーカーを投下している。マーカーの指示に従え》
単調な指示と復唱が続く。
そう、作業だ。
なにか戦略があるわけでもないのだろう。思い出したように進出してくる『やつら』に今日も恐らくは何百の人間が死ぬ。
それでも、まだこの戦場は仮初めの制空権が確保されているのだからマシだ。
プラスチック製の
耐Gスーツの力を借りなければ気を失うほどに戦場を縦横無尽に駆け、えいやとこの引き金で敵を討ち滅ぼすのだと。
蓋を開けてみれば、これだ。
「
手から離れたリンゴが落ちるように、無誘導の航空爆弾は重力に惹かれて落ちてゆく。やがて奇妙な緑色の
『CPヴァルキュリー1、現高度で旋回、待機せよ』
「了解、現高度で旋回する」
それにしても、だ。
陸軍省の定める防衛線より前進すること三〇キロ。どうしてこんな場所まで部隊が前進しているのだろうか。もちろん、『やつら』による奇襲攻撃を嫌う陸軍が積極的に『狩り』をしているのは知っている。それにしても、三〇キロも離れれば砲兵の支援が受けられるかも怪しいもの。だからこそ、軽装備で定期哨戒中のヴァルキュリー1が
その時、何の感傷もなく航空爆弾を投下した操縦士は気が付いた。
こんな所にまで前進できる部隊など……この場においてはひとつしかないではないか、と。
思わず視線が泳いだ。その部隊のことは知っている。多くの航空母艦を喪い、本来降り立つべき巣を喪った海鷲たちにとって、それは希望であった。海軍の存在を主張し続ける旗印であった。
いくら対地攻撃とはいえ、攻撃機が極端に低い高度を飛ぶことはない。だが確かに、操縦士は『彼女たち』と同じ戦場にあるのだ。それは希少な体験であり、ある意味では誇らしい体験であることだろう。
「――――お前、見惚れただろう」
大阪国際空港。
今では伊丹という呼称が定着した滑走路の上で、その言葉に私は二期上の先輩を二度見することになった。
「……なんの話です?」
「あいつらだよ、見てたんだろ? 今日の飛行で」
その言葉に否定を返すことは出来なかった。かといって肯定は出来ない。
見惚れた? まさか。確かに『彼女たち』は希望かもしれない。それでも、その背後に潜むのは畏怖だ。決して無責任な軍広報の言うような英雄ではない。
「まさか。あり得ませんよ」
敵に払わせた血の量だけ、彼女らにもまた、血がこびり付いている。
スイッチ一つでもう何万トンと知れない量の爆弾を祖国の大地に落とした私もまた然り。
英雄などという大仰な存在は、所詮ポスターに使われるインク。スイッチ一つでなれる英雄なんて称号は、血と肉を払い国土を護る『彼女たち』には相応しくない。
そう、まさしく軍神。『彼女たち』は
「お前に限ってはないとは思うがな、アレに肩入れしたら終わりだぞ。広報は呑気に宣伝ばかりしたがるが……」
普段からずけずけとモノを言う先輩ですらそこで言葉を噤む。私だって、その異常性は理解しているつもりだ。
「大丈夫ですよ。そんなことぐらい、弁えています」
我々は今、誇り高き海軍軍人として何年にも渡る駆除活動に従事している。
軍の出動理由として害獣を駆除するというのは、決して珍しい話ではない。国家とは領土、そして国民と主権により構成されるのであって、国民を害する存在がいればそれを駆除するのは当然の話だ。
しかし『やつら』は、つまり我々の駆除の対象は、そんな害獣などと言う生易しいモノではなかった。
――――――今から三年前、平成三四年。
突如として沖縄をはじめとする南西諸島を襲い、僅か二日間で数十万の犠牲者を出した謎の存在。それが『やつら』だ。
生物としては不可解な点が多いが、消去法で生命体と認定され『敵対的危険生物』という呼称を与えられた『やつら』に対し、政府は即座に対処行動、即ち駆除活動を開始した。
『やつら』は世界中に現れた。各国の対応は似たり寄ったりで、とりあえず押し寄せる『やつら』に銃先を向けた。難しい話ではない。当時はまだ『ヒト型』も登場していなかったし、爆撃で数千体を撃破なんて話も散々聞かれていた。誰もがすぐ終わると、そう信じていた。今思えばとんだ楽観主義だ。
なにせ、今日でもその駆除活動は続けられているのだから。
楽観主義者すらも顔を青くし始めたのは
それとも業を煮やしたとある国が初めて核兵器を使用した日だろうか。
それとも、南西諸島の二の舞は踏まぬと不撤退の誓いを立てた
だが、私は決して悲観に囚われたりはしない。今や瀬戸内すらも喪った海軍であるが、その反攻の精神ある限り、決して敗北はしないのである。
だからこそ、私は第七〇一二陸戦中隊、この戦線を支え続ける『彼女たち』を敬愛して止まないのだ。
「――――本中隊の意義は、貴官も重々承知しているものと思う」
海軍第七〇一二陸戦中隊。
私が配属された部隊は、海軍のどこかの鎮守府に所属する陸戦部隊ということだった。最近の海軍は陸で戦うらしい。
「我が国はわずか一年前まで、北は樺太、南は台湾までを支配する亜細亜の強国であった。それが何の因果か、人間ですらない敵対的危険生物によって領土の半分近くを奪われている」
物々しい装甲車から降ろされてたどり着いたのは、つい最近までは中学校か、もしくは高等学校として機能していたのであろう学校。通された校長室と思しき部屋には、海軍の士官が鎮座していた。
「報道では軍は立派に戦ったとされているが、立派に戦ったにせよ戦果が伴っていないというのが実情だ」
そうつらつらと、世話ばなしととればいいのか訓示ととればいいのか分からない言葉を連ねていくのは、中隊長。それも私がこれから投げ入れられる中隊の中隊長だということだ。
階級は海軍の大尉を示すらしい。らしいというのは、先ほど彼女の階級を教えて貰ったから。
まるで新品のような軍服、胸につけられた多いとはいえない略綬の列。そして丸みを帯びた軍帽……そう、丸みを帯びた軍帽。私と同じ女性士官向けの軍帽だ。この部屋には、どうやら女性しかいないらしい。
「だからこそ。貴官のような若く、それも女性、それどころか少女と呼ばれるべき者たちが前線に赴くこととなる。陛下はこれ以上の戦線後退を決してお望みにはならない」
これ以上戦線を下げられた日には、二億の臣民が
彼女の隣で佇んでいる補佐役らしい士官がおもむろに頷く。正直なところ、つらつらと言葉を並べる中隊長よりも、この士官の方が私には怖かった。
体つきを見るからに女性であることは間違いないのだけれど。左眼を覆う眼帯が威圧感を醸し出して止まないのである。あれが戦傷なのは明らか。私がそちらに気を取られていることに気がついたのか、中隊長の叱責が飛ぶ。
「軍曹、聞いているのか」
「は、はいっ。聞いています中隊長」
信じてもらえたのかどうかは分からないけれど、中隊長は一度私から視線を外すと机の上に置かれた何枚かの書類を手に取った。きっとあそこには私のことが書いてあるのだろう。なにが書いてあるかは分からないけど、私がここへ来た理由が書かれているのは容易に予想がついた。
「……ともかく、このような戦況において前線に馳せ参じてくれた貴官の忠誠に期待する。本中隊で職務に当たるにおいて、このこと重々承知しておくよう」
一瞬の間。返事をしろと彼女が言っているのだと察するのにはもう一瞬が必要だった。慌てて教えられたばかりの敬礼を披露。
「
入室したときは肘の角度がおかしいと中隊長に叱責を受けた付け焼き刃の敬礼、今度は特になにも言われることはなかった。
「では実務的な話に移ろう。軍曹というのは陸軍の階級だ。我が海軍においては軍曹というのは兵曹長に相当するのだが、中隊の状況を鑑みて貴官は兵長待遇とする」
「はっ!」
形式上はあくまでも陸軍軍曹としての出向の形だから、くれぐれも内密にな。中隊長はそれから隣の士官に目をやって言う。
「中隊のことについては、こちらの
「はっ!」
「それと、軍曹にはもう二三伝えておかなければならないことがある。中尉、悪いが先に行っててくれ」
「承知しました」
そそくさと出て行く古田中尉。去り際に「じゃあ、また後で」とイタズラっぽく目を合わせる。両目があったならウインクのつもりだったのだろうか……お茶目なヒト、なのだろうか。
扉が閉まる。部屋に残されたのは私と中隊長だけ。
私が入室したとき珈琲を飲んでいたこの
部屋を見回して誰もいないことを確認した中隊長は、それから急に肩の息を抜くと、手をひらひらとさせながら言った。
「……とまあ、本来なら堅っ苦しい訓示をいろいろと考えてはいたんだけど、生憎ほかの子たちはみんな来たときから顔面蒼白でね。いつも話すのを控えてたんだよね」
どう? 怖かった? などと急に表情を崩した彼女の、まるで悪戯っ子のような笑み。
それが少しおかしくて、私はつい笑ってしまった。
「ええ……怖かったですよ。とても」
「うそだー。絶対怖がってないでしょそれ……」
「いえいえ。とっても怖かったです」
先ほどとは打って変わって砕けた空気。
そう、人類の最前線とかいう場所に
「ひとまず、中隊の
そう笑うようにしながら私の
「お茶か珈琲……まあ、どっちもインスタントで味はイマイチだけど、どっちがいい?」
「お茶がいいです」
「美佳は珈琲苦手だもんねぇ」
姉さんは覚えていてくれたらしい。大きな四角いブリキ缶に手を掛けると、蓋を開いた。
「そういや、昔あったよねぇ。あの時は麦茶と珈琲を間違えたんだっけ?」
ぎくり。覚えていたのか。このヒトは相変わらず記憶力がいい。
「……その節は、本当にご迷惑をおかけしました」
パッと画面に映したような鮮明さであの時の景色が蘇る。クリーニングに出してもダメそうなほど染みが出来たカーペット、大慌てになるお母さんに苦笑しながら「いいのいいの」と手を振る叔母さん。
そして……真っ赤になってる私をよそに大爆笑していた姉さん。
「いやいや、別に今更気にしてないわよ」
缶から取り出されたのは、ありふれたデザインのパック式茶葉。繊細な化学繊維の袋は、有名メーカーのロゴがプリントされた紙袋に保護されている。それを姉さんは掲げてみせた。
「こんなのしかないんだけどさ。勘弁してよね」
これでも貴重品なのよ? 姉さんの冗談は冗談になっていない。紅茶なんて、今じゃそうそう手に入らないのだから。
そして姉さんはパックを開封。マグカップへと無造作に放り込まれる。そして熱湯。湯気が一斉に立ち上がる。
「正直さ、金沢の報道を聞いたときは諦めてた」
「……」
突然そんなことを言い出した姉さんは、黙ったままの私をどう思ったのだろう。おかげさまで? 運が良かった? 私は、いったい何を返せばいいのだろう。
次々と浮かんでくる言葉は、どれも姉さんが求めてるものではないし、ましてや私の本心でもなかった。
だから結局、中途半端な答えを返すしかない。
「私が無事だったのはたまたまです――――姉さんのほうこそ、よくご無事で」
無事とは、自分で言っておきながら随分勝手な言葉のように思えたけれど、私の口からはそれ以上の言葉は出せない。
気の利いた返事一つ出来ない従姉妹の内心に気付いてしまったのだろう。姉さんは、身振り手振りを交えながら笑った。
「あぁ。無事さ。こうして五体満足だ」
それから姉さんはマグカップに口を近づける。
「だからこうして、今日もお国のために――――熱ッ!」
ドンッ。カップが割れるんじゃないかって心配になるほどの勢いで机に叩きつける姉さん。
熱湯を注いでまだ一分も経っていない紅茶なのだから、熱いに決まっている。
「もう、相変わらずせっかちなんですから」
「時間の効率化と言いたまえよ月刀軍曹」
きっとひりひりしているのであろう舌をちょいと出しつつ、姉さんは笑った。私も笑った。
「なーに笑ってるのよ」
「そういう望姉さんだって」
「自分のことは笑っていいのさ」
私たちは笑う。別に可笑しかったわけじゃないけれど、猫舌な姉さんが変わらずそこに居たことに、心底安心したのだ。
二つのマグカップから湯気が室内へと立ち上っていく。それがまだ天井へと登り切らないうちに、姉さんは口を開いた。
「ねぇ美佳。覚えておいて欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
笑いを収めて、姉さんは口を開く。
「あんたをここに、この中隊に呼び寄せたのは……私だ」
「はい」
そんなこと、分かってるに決まってるじゃないか。
いくら縁故採用が存在するこの国でも、軍隊までがそうでないことくらいは知っている。普通に書類が回るのであれば、私はもっと別のところ、別の部隊にいるはずだった。
「すまない」
「大丈夫です。分かってますから」
謝る姉さん。でも、私はその程度のことで姉さんが謝るとは思えない。なにせ姉さんは公私混同が得意なヒトなのだから。
だから、私の言葉を聞いた姉さんはやっぱり笑ってみせた。
「美佳は優しいね。いいヒトだよ」
その後に続いた「模範的国民だね」という言葉が、私をちくりと刺す。姉さんは言葉を続ける。
「でもさ。あんたは私よりずっと要領がいいからさ、分かってるんでしょ?」
そうだ、私は分かってる。
私がもし、姉さんが言うとおりの『模範的国民』であるなら、私は
だから次に続く言葉も、私は分かる。
「なにがあった。なんであんたが、
「……」
私は、答えない。その質問には答えたくない。
目の前に座る
姉さんはだんまりを決め込む私をどう思ったのだろう。それとも姉さんはここにはいなくて、飯田望海軍大尉という軍服が鎮座しているだけなのだろうか。ここにいるのは私じゃなくて月刀美佳という一市民でしかないのだろうか。
目の前に出されたマグカップから湯気が立つ。それはゆらゆらと天井へと昇り、攪拌され、そして部屋中へと広がっていく。
さっきまでは気にもとめなかった時計の秒針が動く音。部屋の隅に積もった埃。そして、目の前の姉さん。
まるでこの世界の全部が、私の黙秘を弾劾するかのようだ。
「……そんな顔をしないでよ、
言い訳みたいに笑った彼女。芯の強い双眼を備える整った顔が、久しぶりに歪んでいるように見えた。
「ごめんなさい……私、なんて言えばいいのか分からなくて」
「大丈夫だっての。ここにいるのは飯田大尉でもなければ、月刀軍曹でもない。昔の、まだなんでもなかった頃の飯田望と月刀美佳だ。そうでしょ?」
姉さんが気に掛けてくれてるのは百も承知だ。私だってそんなこと分かっている。私は天井を仰いだ。
本当に、なんでこんなことになってしまったのだろう。
私は、一ヶ月と少し前までは月刀美佳という単なる一個人に過ぎなかった。シェフ志望で修行ばかりしていた父と嫁入り先に馴染むことの叶わなかった母を持つ、なんでもない高校生であった――――そう、空が落ちてきたあの日まで。
姉さんには感謝している。一度リストに入れられてしまえば、どんなに偉くても『処分』は逃れられないのだ。だから私も護られることはなかった。リストに入った者は
思い出したくもない話。考えたくもない話。
私の一族ですら私が護郷隊という名の処分場へ駆り出されることを止めることは出来なかった。数年前なら国会の一つや二つは吹き飛びそうな人権侵害が、今のこの国では平然と認められているのだ。
私だって、この部隊へ引き抜かれなければ……。
そう、姉さんだってきっと無理をしてくれたのだ。リストに入った人間を処分せずに前線に持ってくるなんて、正気の沙汰ではないはずなのだから。
なら私も、姉さんに応えないといけない。
「分かりました。お話しします。私は――――」
だというのに、それ以上の言葉を紡ぐことは叶わなかった。
「大事なところで……」
控えめに、だけれど確かに叩かれる扉。姉さんは顔をしかめると――――
「入れ」
「失礼します」
扉が開き、床を踏みならすように入ってきたのは先ほど私をここまで連れてきてくれた古田中尉だった。眼帯の掛けられたその顔は、浮かぶ表情こそ落ち着き払っている。けれど、私を出迎えてくれた時のような目尻の緩みはない。
「阪神基地から至急電です」
「私に旧交を温めることも許さないとは、連中は無粋だな……」
差し出されるメモ。目を通した姉さん――――中隊長は顔の半分を笑みで埋めた。
「結構、では
その端的な命令を受け取って副長の古田中尉は退出していく。それを見届けてから、姉さんは私のことを見た。
「
姉さんは私のことを美佳と呼んだりはしない。
どんな命令よりも分かりやすい切り替えで、姉さんは私すらも軍人にしてしまう。
「六四式を……基本動作だけですけれど」
「触ったことがあるのか。昨年度から軍事教練がカリキュラム入りしたとはいえ、銃火器は男子だけだったはずだが」
「教官が足りなくて、合同だったんです」
「なるほど……射撃の経験は?」
「いえ、ありません」
「分かった。とすると、後で銃火器の扱いはやらないとね」
そんなことを呟きながら、姉さんは考えるように歩みを進める。
まさかとは思うけれど、私も連れて行かれるのだろうか。なんの訓練もしていないというのに?
そんな私を知って知らずか、姉さんは大きく頷いた。
「うん。やはり百聞は一見にしかずだ。軍曹には中隊旗を持って貰おう」
「中隊旗、ですか……?」
「ああそうだ、特等席で戦争を見せてやる。何十時間の座学よりずっと学べるさ」
それに、ウチは少しばかり特殊だからね。最後に付け足された呟きの意味を考える間もなく、姉さんは手を叩く。
「古田から服は貰ってるわね?」
「はい」
ここに着くと同時に貰った服は、海軍の制服だと聞いている。私が今着ているのは高校の制服。私の原隊ということにされている護郷隊では、制服すら支給されなかった。
まあ、『処分』するつもりの人間に制服を用意するのもおかしな話なので、こればかりは仕方がない。
「海軍から最初で最後のプレゼントだ。大事にするように」
私は頷いた。姉さんも頷く。
「よろしい、では速やかに校庭に集合すること。私は待ってもいいが、生憎連中は待ってくれないのでな」
その言葉を合図に私は立ち上がる。
「ああ、そうだ。言い忘れてた」
私が部屋を退出しようとした直前、姉さんはそう呼び止める。
振り返った私が見たのは、昔と変わらない。姉さんの笑顔。
このヒトは昔から、本当に面白い顔をするのだ。
「ようこそ我が中隊へ――――たった今、貴官の輝かしい
死ぬなよ、美佳。