THE LAST COMPANY   作:帝都造営

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(わか)すぎる若桜(わかざくら)

 あの日。そう、空が落ちてきた日。

 

 あの頃の私にとって、その『敵対的危険生物』とか呼ばれていたお化けたちは、別にどうという存在ではなかった。

 強いて言うなら斜向かいの木村のお兄さんや、近所のガキ大将で昔よく私のことをいじめた奥村くん。そして私を守ってくれた神田くん――今ではほろ苦い思い出だけど、私の初恋のヒト――を皆々して軍隊に送ってしまった存在だろうか。

 

 ともかく、私にとって新聞やテレビのいう『戦争』という摩訶不思議な存在は、街からいろんなヒトとモノを奪っていく厄介な代物だった。

 祖国の存亡だとか、人類の生存権とかいうのは、日常から消えていく日常を誤魔化すための方便に聞こえていた。

 

 でも、そんなことを言ってられたのは『やつら』が私の街に来ることがなかったからだった。値段が高くなってもお野菜もお肉も手に入ったし、街の灯りは夜も消えることはなかった。

 

 

 ――――それが全て、私の身近から消えた人たちが命を掛けて守ったんだってこと。それを私は、分かっていなかった。

 

 

 違う、分かっていたはずなのに。私は勉強だっていっぱいしたし、家のためにも優等生じゃなきゃいけないのに。

 

 

 私は、分からないふりをしてたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 詳しいことは知らないけれど、この地域はつい最近取り返したばかりの場所らしい。

 街の至る所には『やつら』の死骸がぐちゃぐちゃになって散乱していて、この()学校も、半壊はしてるんじゃないかってくらい損傷が激しかった。

 

 そんな校庭に、私はいた。海軍から支給された国防(カーキ)色の第三種軍装に、先ほど受け取ったばかりの中隊旗を持って。

 

「中隊長訓示――――敬礼!」

 

 副長の叫び声。そして足を揃える音が校庭に響く。

 

 呉鎮守府第七〇一二陸戦中隊。

 これが私の送り込まれた、そして望姉さんが隊長を務める中隊の名前。

 

 数字の七〇一二というのは第七〇一陸戦大隊の第二中隊という意味……らしい。というのも、肝心の第七〇一大隊は既に壊滅していて、辛うじて阪神海軍基地に司令部を残すのみ。第二といっても、他の中隊は存在しないとのこと。

 

 つまり、関西への『やつら』――――敵対的危険生物の侵入を防ぐことを命じられた海軍の陸戦部隊は、もう私たちしか残っていないということ。

 

 休めの号令がかかり、姉さんが朝礼台に上る。

 私は軍旗を持つ旗手なので、姉さんの姿は横目に、校庭に集結した中隊の隊員をつぶさに観察することが出来た。

 

「今から一五分前に入った報告によれば、連中は加古川を遡上する構えを見せているそうだ」

 

 加古川を遡上する?

 

 その言葉は、私を動揺させるには十二分に過ぎた。

 広島・岡山両県からの全面転進(てつたい)、そして戦線の整理が行われてからまだたったの二ヶ月しか経ってないというのに。

 しかし、校庭に集合した隊員達に顔色一つ変える様子はない。

 

「知っての通り、河口部に位置する加古川市は放棄済み。よって我が中隊は戦場を同市に設定する。せめて上流の青野ヶ原に引きこもった陸軍くらいには出て来てほしいものだが……陸を護るのが我々海軍の勤めであり、また義務でもある」

 

 そこから先は実務的な話に変わる。想定される敵集団の規模。迎撃に当たる陣容の確認。

 今回の迎撃には中隊の司令部も兼任する本部小隊二五名が参加。第二小隊が一八名でバックアップ、合計四三名で当たるらしい。

 

 一年前くらいにはよく何処を一万人体制で防衛するとか、何十万人による本州死守だとか聞かされてきた私にとって、その数字はあまりに少なく聞こえた。

 

「……とまあ、以上だ。やることはいつも通りだから、そこまで肩を張らないように」

 

 姉さんはいつも通りの戦いだというけれどそもそもこの部隊の戦術については全くの無知。護郷隊では塹壕の堀り方しか習っていない私にはこの中隊がどう戦うのかちんぷんかんぷんである。

 

 そんな私を知らずに、姉さんは空を仰ぐ。

 春の透き通った青い空が、そこにはあった。

 

「ああ最後に――――これは個人的な話で悪いが、十年前に見た日岡山公園の桜はとても綺麗だった。花見には丁度いい」

 

 昼食までには片付けよう。そう締めくくられた訓示に、短く別れの号令がかけられる。

 

 

 

 

 

 

 

「乗り心地はどうかな、軍曹?」

 

 訓示が終われば次は移動。迎撃の拠点に定められた加古川市日岡山公園に向かうことになる。山陽本線が全線で無期限の運休を宣言してからもう久しく、前線への移動手段は自動車だけだ。

 

「乗り心地と言われましても……普通の自動車ですので」

 

 きっと徴用したのだろう。移動手段はただの普通自動車。別に防弾板がついているとかそういうことはない。

 

「あはは、それもそうか」

 

 何も知らないヒトが見れば、まさか軍隊の行軍中とは思わないだろう。私たちを先導してくれる副長の車も普通の乗用車だし、後ろを走るバスも路線バスに使われるようなありふれたもの。

 そしてなにより、あのバスに乗っているのは――――

 

「ねえ軍曹」

 

 私の思考を姉さんが遮る。

 

「あっ……なんでしょう?」

「軍曹はもう十八になるだろう? 普通免許は?」

 

 それはたわいもない質問だった。姉さんは中隊長なので、私のことを美佳と呼ぶことはない。それでもこの車内には私と姉さんだけ、質問もかなり個人的な話だ。

 ほとんどの隊員には私の自己紹介もしてないので、この配慮はありがたかった。

 

「免許は……とってないです。そんな状況じゃないですし、それに高校生は免許なんて取りませんよ」

「私は高校生のうちに取ったよ。なんせ国防大志望だから共通テスト試験の前に決まってたしね」

 

 国防大、軍人を育てる国防大学校。姉さんは戦前から軍に入るんだと言っていた。姉さんのお父さん、つまり私の叔父さんは海軍で、姉さんはきっとお父さんの後を追ったのだと思う。

 

 姉さんが国防大に入った頃には、もう『やつら』との決戦は逃れられないものだったはずだ。それなのに進路を変えることのなかった姉さんを、私はスゴイと思う。

 

「軍曹も免許講習をしないとね。ぶっちゃけ非常時(おくにのため)だから無免許運転もいいんだけどさ」

「それは良くないですよ」

 

 流石に冗談だろうとは思ったけど姉さんに突っ込む。姉さんはけらけら笑った。

 

「いやー軍曹は軍人らしいねぇ。真面目真面目」

「軍人以前にひとりの人間として無免許はダメです!」

 

 反論しても、姉さんはどこ吹く風。広々とした幹線道路に躍り出たことで、車は心置きなく加速した。もちろん規制速度はちゃんと守られている。

 

「……本当に、誰もいないんですね」

 

 ここはまだ神戸市域の筈なのに、幹線道路には車の姿は全く見当たらない。沿道のお店も開いているようすはなく、文字通りの無人地帯。

 

「疎開が上手く進んでる証拠だね。ここら辺はまだ襲撃も受けてないし空爆もないから、下手な高速よりも進みやすい」

 

 日岡山公園への道のりは長い。その間に、姉さんはこの部隊に関する基礎的な知識を教えてくれた。

 例えば、第七〇一二中隊は書類上は未だに呉鎮守府所属とされているけれど、事実上呉鎮守府が壊滅していることから指揮系統は舞鶴に移されていることや、その肝心の舞鶴がこちらの指揮を阪神基地にある形だけの大隊司令部に投げているせいで中隊の指揮権は宙ぶらりんになっていること。

 それをいいことにこの中隊はかなり自由な裁量権を与えられているらしいこと。

 

 他には、中隊を前に出すと陸軍は支援をしてくれるけれど、総軍司令部の命により野戦砲は一門あたり一日何発といった調子で射撃上限が定められており、支援要請を出しても百発飛んでくればいい方だとか。

 あと中隊の構成員に変に懐かれて辛いとか、姉さんの上官、つまり中隊を上の大隊長が生理のことでからかってくるとか後方の阪神基地にふんぞり返っているのが気にくわないとか……。

 

 途中からは「中隊長としてのレクチャー」ではなく『姉さんが従姉妹(わたし)に聞かせる愚痴』になっていたような気もするけれど、とにかく色んな話をした。

 

 そんな話に相槌を打ちながら、私はあることを聞くかどうか決めかねていた。それはきっとこの中隊にとって一番大切なことで、一番触れてはいけないこと。多分誰もが目をつぶっていることで、目をつぶらないといけないこと。

 

 でも、それを知らないフリが出来るほど、私は立派じゃない。

 そして会話が途切れたのを見計らって、私は口を開いた。

 

「あの、中隊長」

「ん? なにかな?」

 

 前を見たままギアチェンジの操作をする姉さん。

 そう……本来ならば、隊長が運転なんてあり得ない話の筈。

 

「ここの平均年齢って、いくつなんですか?」

 

 私の質問に、姉さんは表情を変えずに言う。

 

「んー。まあその疑問が出てくるよね、普通」

 

 校庭で見たときからおかしいと思っていた。この部隊は、あまりに幼い。

 比喩ではなく、本当に構成員が幼いのだ。

 

 そうでなければ、普通自動車の免許取得者が少なくて中隊長が運転する……なんてことは起こりえない。

 

「十三だ」

「え?」

「十三だよ、今聞いたじゃないか。部隊の平均年齢」

「平均が……十三歳ってことですか?」

 

 そうだよ、と頷く姉さん。呆気にとられた私を余所に、彼女は続ける。

 

「ちなみに、下士官の平均年齢は三十、軍曹以外は全員ベテランだから安心するといい。将校になると急に下がって二十二……まあ、もう私と古田を入れても四人しか残ってないしね」

 

 そう言ってのける姉さん。確かに、私と少ししか歳が離れていないはずの姉さんが海軍の大尉、それも中隊長なんて偉い役職につくなんて、本当ならあり得ないことなのだ。

 

「条約違反だって言いたい?」

 

 それなら、まだ政府の特例法案と解釈を盾に出来るんだけど。そう言った姉さんは一瞬だけ目を伏せる。

 

「中隊長は……いえ、姉さんは、それでいいんですか?」

「よかないよ。でも、それは()の意見だ。飯田望という()()としては政府の見解を信じるしかないし、()()としてはむしろ推進しなくちゃいけない」

「推進? 子供を戦地に送り出すことをですか?」

「祖国に殉ずる愛国者の路を護るのも、軍人の勤めだ。美佳だって少年兵に当たらないだけで、成人してないじゃないか」

 

 それは政府の詭弁。

 徴兵制度など存在しない現代において兵隊は全て志願者である。でも、志願にもいろいろある。

 

「私は、しょうがないんです。()()()に載ってしまったんです」

「じゃあ、あの子らもそうだって言ったら?」

「え……?」

 

 まさか。私の口から零れ出たその言葉は、姉さんに否定して欲しかったから出たのだろうか。

 

「軍曹の否定したい気持ちも分かる。だが、これが七〇一二(ここ)の現実だ。だからこそ軍曹を引き取ることが出来たんだ」

「そんな」

 

 姉さんは至極真面目に、一瞬だけルームミラーを見た。

 そこに映っているのは、きっと後続のバス、中隊の大半を構成する平均年齢十三歳の『小さな軍人さん』を乗せた()()()()()

 

「おかしいと思うかい?」

「おかしいですよ」

 

 そういえば、姉さんは満足げに頷く。

 

「そうだ、おかしい。本当に軍曹は正常だよ、なんでリストになんて載ったんだい? あれは反社会的行動を取りうる人間を治安維持のために隔離する措置と()()()()()のに」

「……」

 

 そんな風に言われてしまえば、私は押し黙ることしかできない。

 そして車列は、日岡山公園へ。

 

 

 

 

 

 

 日岡山は、標高五十(メートル)のなだらかな山である。

 その裾野に広がる日岡山公園は県内でも有数の面積を誇る公園であり、多数の古墳群や公園内の桜は人々の眼と心を楽しませ、この場所を加古川流域住民にとって欠かせない場所にしていた。

 

 もちろん、それは過去の話。陸軍が明石大橋以西の瀬戸内海沿岸地域の水際防衛を断念したため、加古川市全域も放棄。日岡山公園は棄てられた場所となっていた。

 

「うんうん。丁度良い塩梅だ」

 

 双眼鏡を覗きながら姉さんは言う。日岡山の山頂付近に建てられた日岡山展望台からは瀬戸内海へと流れていく加古川の穏やかな流れを見ることが出来る。これから瀬戸内海を遡上してくる『やつら』と戦うことを考えれば、なるほど展望台は指揮所を設けるのには適切といえた。姉さんは鼻を鳴らしながら、双眼鏡と手元の地図を交互に見やっている。

 

「……」

 

 姉さんには、いったいどんな風に見えているのだろう。私の目に映るのはどこまでも単調な住宅街。似た形で同じくらいの大きさの屋根が、色を変えながら続いていく。姫路にも神戸にも近い加古川市(このまち)は、きっとベッドタウンだったのだろう。

 

 そしてその連なりは――――ある箇所を境にぷつりと途絶える。

 

「工業地帯を見ているのか、軍曹?」

 

 話しかけられたのは、まさに私が工業地帯、正確には()工業地帯を見ていたときだった。

 どうして姉さんは私の視線が向かう先が分かるのだろう。相変わらずの観察眼を無自覚に披露しつつ、姉さんはその焼け野原になった海岸線を見る。

 

「空軍は山陽本線(てつどう)まで巻き込んで爆撃したらしい。加古川(ここ)の戦いで、軍は久々に避難民を敵に回すことになった」

 

 言うまでもないことだけれど、避難民は敵ではない。それどころか守らなくちゃいけない。だからこそ、重荷(てき)になる。

 

「避難が、間に合わなかった……」

「しまなみ海道は要塞化されていた……誰もがそう信じて止まなかった。軍部すらそうなのだから、救いようもない」

 

 それだけ言って黙り込む姉さん。『やつら』は基本的に(おか)を嫌う。だから南北を分厚い本州と四国に護られた岡山、兵庫は聖域だと言われていた。そう信じられていただけに、両県民の避難は遅れに遅れた。そう聞いている。

 

 真っ先に上陸された加古川市で多くの犠牲者が出たとき、私はまだ何でもない高校生だった。でも、姉さんはその時にはもう国防大に入学していたはずだ。

 私と違って、当事者だったのかも知れない。

 

「ま、幸いなことに今回は避難民を相手にしなくてもいいから。なんとかなるでしょ――――さ、ご登場だ」

 

 姉さんのその言葉と共に、焼け野原の向こうの瀬戸内海がざわめいた。まるで墨汁を落としたように染まっていく。

 

「あれは……」

 

「前回もそうだったけれど、連中は加古川(このかわ)が本州奥深くまで続く一級河川であることを知っているらしい。故にこちらも引き込んで殲滅、これに尽きる。そう問屋が卸せばだけどね」

 

 それから姉さんは踵を返し、展望台の真ん中に出来ていた人の輪へと向かう。そこには副隊長を初めとした中隊の幹部たちが集まっており、真ん中には折り畳み式の机が置かれていた。

 

 つい数十分前にしたばかりの顔合わせで分かってはいたけれど、この中隊は下士官幹部全てが女性により構成されている。それどころか、兵卒に至るまで女性なのだ。それでも私の目の前にいる人達は私の知っている()()()には見えなかった。これが軍人というものなのだろうか。私には分からない。

 

「最終確認だ。通信、陸さんの力はいくら借りられるんだい?」

「青野ヶ原の連隊が全面的な支援を約束してくれています」

 

 尤も、砲撃支援のみですけれども。通信機材担当の下士官がそう言う。姉さんは笑った。

 

「全面的? そりゃ良心的だ。全面と言ったからには、心ゆくまで撃って貰おう。で、問題は陸軍に指示する標的だが……」

 

 それから全員で地図を見下ろす。先ほどから何回も話題に上っている加古川は山陽本線の手前でくの字に曲がっていて、姉さんはそこに線を引いた。二本の線で、バツ印になる。

 

「陸軍にはここを投射点として指定しようと思う」

「随分と、前ですね」

 

 そう口を挟んだのは副隊長の古田中尉。確かに姉さんが指定した場所はかなり海に近い。姉さんは肩を竦めた。

 

「無人でも街は街。守った方がいいじゃない……と言うのはチビ共の説明に使って貰うとして、どのみちこの地域の建物は背が低くて隠れる程度にしか役に立たない。よほど引き込まなきゃ海岸から離す意味はない。ここら辺の山陽新幹線は完全に死んでるからいいとして、山陽本線のほうはまだ復旧の見込みがあるからね、被害は最小限にしたい。ここまでは大隊長殿の意見だ」

 

 意見を言うなら、現場に来てから言って欲しいものだな。そう漏らしてから、姉さんは古田中尉を見る。

 

「それに、ここの直後に河が曲がるから、古田の隊も狙撃がしやすいだろう?」

 

 その言葉に、古田中尉は不満そうに口を尖らせた。

 

「中隊長は小官を遮蔽物のない堤防に立たせて、陸軍砲兵の雨あられの中で狙撃させると?」

「少しは陸さんを信用することだな中尉。彼らだって無駄弾は撃ちたくないだろうし、撃てば当たるだろうさ」

「中隊長がそう仰るなら、そういうことにしておきましょうか」

 

 古田中尉は特に反論することなく引いた。

 

「それでは我々の目標を改めて整理しておこう。我々の目的は連中の加古川遡上を防ぐことであるから、具体的には陸軍砲兵(めがみさま)と古田の二小隊の狙撃をもって敵集団の崩壊を図り、加古川から敵集団を引き剥がすことを目指すことになる。敵集団が加古川西岸の高砂市方面へ流れ込めば……」

 

 姉さんが地図をなぞる。丁度「く」の字に曲がる加古川からコースアウトするように進んで、高砂市へ。

 

「向こうは加古川に戻るだけでも一苦労だろうから多くの時間が稼げる。よってこの場合は改めて部隊を再配置して加古川への侵入を阻止すればいい。問題は……」

 

 その言葉と共に姉さんの指は「く」の字の内側を示す。

 

「加古川東岸、加古川市へと敵集団が流入した場合だ。もちろん加古川への復帰が容易なのもそうだが、なにより加古川駅周辺には高層建築物が少なからず存在するため、砲兵の支援に支障が出る恐れがある。なによりも、想定される進行ルートが多すぎて待ち伏せは事実上不可能。となると、執りうる手段は――――」

 

 姉さんはペンを取り出すと、先ほどのバツ印、つまり迎撃地点からかなり陸に入った場所に、一本の線を引いた。

 古田中尉が唸る。そこには若干の懐疑が含まれていた。

 

「そこまで下がりますか」

 

 そこは日岡山公園の手前……つまり、私たちがいる場所の目と鼻の先。姉さんは頷いた。

 

「大隊長の意向もあるし、私だって駅周辺で抗戦したい……が、残念ながら戦力(ひとで)が足りない。ない袖は振れないね」

 

 

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