気ままに行くリク(偽)の旅路 作:仙儒
夕日を眺めながらシーソルトアイスを齧る。うーん風流ですな~。
黄昏の町トワイライトタウンの駅舎の時計塔で一日の終わりを見届ける。
ベタな話だが、ラーメン食いに行く途中にお行儀の悪い連中から助けた少女がモデルだったらしい。そんなことある? と思うんだけど現実に起きてしまっているので何とも言えない。
ゴールドシチーと名乗るその少女がモデルであることは撮影現場の近くで出くわしたことで判明したわけだが。世間は意外と狭いのであった。尚、そこにはマンハッタンカフェも一緒にいた。彼女も芸能界に居るのだとか。共演がどうのこうの言っていた。
サイン入った色紙貰ったんだけどぶっちゃけ興味ないから価値がわからん。かと言って売っ払うのも流石にどうかと思いグミシップの中に置いてある。
そして、何でトワイライトタウンに居るのかと言うと、お偉いさん方がどこからか俺のことを知ったらしくしつこく接触してくるようになったので逃げて来た。
そう言えば意外なことだが、何時もいの一番にすっ飛んでくるメジロ家の面々は意外と控えめな接触であったな。内容もラモーヌ、アルダン、ドーべルが久々に貴方に会いたがってますよ程度の物だったし。前のようにがっつき気味に接してくることはなくなった。それでも次につなげようとするところは強かと言うか世渡り上手と言うか。
俺にとって過去で過ごした年数は2、3年もなかったけど、こっちに戻ってきてからファインモーションのこともあり調べたら10年以上たっているんだよね。
と言うか幼年期にちょこっとだけ出会った人物をよく覚えてたなと思う。まぁ、メジロ家が話のとっかかりに使っているだけの可能性の方が十分にあるわけだが。キッチリと着物着こんで気合の入っているお見合い写真渡されたけどこれどうしたらいいんだ?
メジロ家が釣書渡すのを他の家も見てたもんだから他のお偉いさん方もうちもうちもと渡してくる始末。ここまで来れば流石の俺もキーブレードが目当てだということくらい理解できる。と言うかそれ以外の理由が見当たらない。
じゃないと家格を気にするような家の者が出生不明な奴に釣書送る理由が見当たらないもんな。
キーブレードは血筋により継承されるものではない。
一応、代を重ねるごとにキーブレード使いが強くなるという設定はあったようだが、あくまでも素質だけの話で継承の儀をしなければキーブレード使いは増えないし、継承の儀をしたところでキーブレードを発現させることができない奴の方が普通に多い。
天才的キーブレード使いであるゼアノートですらキーブレードの発現には10年近くの歳月がかかっている。
キングダムハーツのリクも10年前後だし、ソラもヴェントゥスが心に入り込んだ時期から逆算すると大体10年前後。カイリも無意識にアクアから継承して使うのに10年位の月日が経っていることを考えると継承の儀をしてから10年前後がキーブレード使いに成れるかなれないかの一つの目安なのかもしれない。
アクアとテラ? 知らないけど幼年期からエラクゥスの元に居たとか言う描写があったような気がするから多分10年前後じゃね?
女神として崇められた3羽烏が原因かね? あいつらもいつの間にかキーブレード使いに成っていたからそうとしか考えられん。
どうしようかな。ほとぼり冷めるまで帰らない方がいいかな? 何処から嗅ぎ付けたのか俺が泊まっていたビジネスホテル特定されてちゃんとした所を用意いたしますよと押しかけて来たりしたからな、あいつら。ビジネスホテルのどこが悪いねん。こちとら、少しの間とはいえ子供3人抱えて洞穴暮らしと掘っ立て小屋暮らし経験者やぞ! それに比べたらマジで天国だぞ。まぁ、最後の方は建築技術にたけた者たちの育成に成功してちょっとした神殿みたいなところで暮らしたけど。DIYから始まった掘っ立て小屋が石造りの街並みに変わるのを眺めて文明の進みを実感してたんだよね。
集落の安全や狩り採取に集落の規律を管理していたバイアリーターク。街づくりの景観やモノ作りを引き受けていたダーレーアラビアン。農業や二人の行動から基本的な行動指針を計画する頭脳担当のゴドルフィンバルブ。
生贄として俺に捧げられた3人がいつの間にか女神様として崇められてたからな。その未来であるこの世界では確かにキーブレード使いと言うだけで価値がすごくすごいことは幾らばバカな俺でもわかる。
でも、鍵が導く先はあの世界なのであんまり遠出はできない。ゲート通ると高確率であの世界に繋がっちゃうんだよね。
闇の回廊をちょくちょく使い世界の意思に反して行動してはいるものの、そもそも俺の知っている世界自体のレパートリーが少ないからなぁ。
素材集めして、アルテマウエポンでも作ろうかね? そろそろキーブレードの強化も出来るならしたいし。ウェイトゥザドーンも良いんだけど、もう一人のリク……がいるかはわからんけど、いた時の為にブレイブハートが欲しいし。闇の世界探したら見つかんねーかな。
「その選択肢を私は勧めませんよ」
始祖様の力を継ぐ者が2人も現れたとはしゃぎまわる親戚の叔父叔母たちに凛とした声が水を差す。
声のした方には黒いコートの人物が立っていた。
「何者ですか、貴方は」
困惑する一族を代表して御婆様が警戒心を滲ませながら問いかけると、コートの人物はやれやれと言ったジェスチャーをしながらコートのフードを上げる。
「我らを名乗り、我らを語り、我らで納めているのにこの顔を知らぬと言うのですか」
そこにはおっとりとした柔和な顔つきの3女神像の一柱にそっくりな人物が、女神像と同じキーブレードを此方に向けながら問い返してくる。
「ゴドルフィンバルブ……様」
思わずに口から洩れた言葉に女神様は「ええ」とだけ返事をする。
「待って、それじゃぁ、リクさんって!」
「ご想像の通り、とだけ言っておきましょう」
私の問いかけにそう答えるゴドルフィンバルブ様。
思わずにアルダンさんに視線を向けると、彼女は静かにうなずくのだった。
「あの、始祖様が我が一族にどのような御用が?」
余りの人物の登場に言葉を失っていた親戚の面々の中で一番初めに探り探り問いかける御婆様の姿は流石はメジロ家の家長と言うところか。
「勝手に屋内に入ったことについては謝罪します。ですが、礼を失しても優先するべきことができましたから」
「どこでリク様に会ったのか、何があり我らの妹弟子になったのか。聞きたいことは多々ありますが、私がしなくてはならないのはただ一つだけ。その鍵を、キーブレードを握る覚悟があるのですか?」
また、意味の分からない問いかけに、前にも似たようなのがあったぞと思い出し、そう言えばあの不思議な夢で問いかけて来た声ってゴドルフィンバルブ様の声とそっくりだったような……。
「何も知らなさそうですね」
と頭を抱えながらキーブレードの勇者のことを語り始める。それらがどういったものなのか。
話し終えて。
「メジロアルダンとメジロドーベル。二人に一週間時間を与えます。その間に答えを出しなさい。ちょうど親族がそろっているようですし」
そう言うと、少しわざとらしく。
「あ、そうそう。どうにもリク様に粘着している方々がいらっしゃるようでして……。まさかとは思いますがあなた方ではありませんよね? ええ、一応ですので、ご気になさらず。一応お友達方にもそうお伝えくださいね」
そう言葉を残して消えたゴドルフィンバルブ様。お父さんや叔父さんたちを見ながら言っていたけど、もしかしてリクさんについて何かあったんだろうか?
ああ、もう頭の中ぐちゃぐちゃだ。
柔和な表情とは裏腹に嵐のような人? いや神様だった。
御婆様が今日はお開きにしましょうと言い、私とアルダンさんだけが追い出されて気まずげに歩きつつアルダンさんの方を伺う。
アルダンさんは相変わらず凛とした態度を崩さない。
「あ、あの! ……アルダンさんはどうするの?」
しびれを切らした私はアルダンさんに問いかける。
そもそも、アニメやゲームなんかみたいに光だの闇だのとの戦いとやらを急に言われても、その、困る。
「私はキーブレード使いとしての使命を受け入れようと思います。……ドーベル。これは貴方だけで出すべき答えです。私が使命を受け入れたからと言って貴方まで受け入れる必要はありませんよ?」
「それは、そうなんですけど……」
言葉に詰まってしまう。
もしかしたら、漫画やゲームの主人公の気持ちはこんなものだったのかもしれない。特別な力に目覚め、それに付随する重すぎる責任。ただ、物語の主人公との違いは、私はくよくよして答えに迷っているのに対して物語の主人公はあっさりとその使命を受け入れてとっとと前に進めてしまうこと。
その差に早くもくじけそうになってしまう。
今一踏ん切りがつかないまま用意された部屋のベッドに仰向けに沈み込む。
おもむろに片手をあげると一瞬きらりと光が漏れてずっしりとした重みが伝わる。出現したキーブレードをまじまじと見つめる。
黒い洒落た感じのキーブレード。それを胸に抱えて目をつむる。
小さい頃、助けてくれた大事な記憶。空飛ぶ汽車に乗った記憶。黄昏の町で夕日にクリスタルをかざしながらアイスを食べた切ない記憶。
希望のある未来とか、特別な使命感に燃えるのではなくどれもこれも過ぎ去った思い出ばかりが思い浮かぶ。
前向きではなく、どこまでも後ろ向きな理由。アルダンさんならば違う理由を、覚悟を持っているのだろうか?
ドーベルにあくまで引き返す道があるのだとわざと逃げ道を示唆するのを忘れない。そんな自分に軽い自己嫌悪をしつつ、女の戦いだと冷静に蓋をする。
確かに女としての戦いの舞台から降りてくれるのならば喜ばしいが、決して平穏な日々でないことが約束されたことに足を突っ込もうとする血族に対する親心も含まれる複雑な本音を含んだ逃げ道の用意。
ライバルは少なければ少ないほどいい。
ただ、ドーベルは、あの子ならばきっとキーブレード使いの使命を受け入れるだろう。
くよくよもするし、うじうじもするがあの子もメジロの子なのだ。
そして、それは私自身にも当てはまる。
メジロの一族の子として。一人の女として。
ドーベルが行ったかは不明だが、ステンドグラスの間でキーブレードを手にする際に、私は力の代価に自信を守る盾……自身の弱さを差し出したのだ。
それを心に刻んだ。逃げないと。
その思いに応えるかのようにキーブレードが出現する。
とっても綺麗な芸術品を思わせるキーブレード。柄の部分には私がリク様から貰ったサラサ貝のお守りと同じものが付いている。
このキーブレードが彼に続く強い繋がりだ。いいえ、彼だけではない。お父様もお母様も、お姉様も。一族の物もこれから出会う遠い未来の輝きへと続く道標。その結晶こそがこのキーブレードであると私は思っている。
…………なーんて格好をつけてみたが、この答えは受け売りだ。
夢で出てくるリク様と一緒に冒険をしていたソラと呼ばれた少年が口にした答え。王様と呼ばれたネズミさんもよく繋がりを辿ってきたと頻繁に口にしていたから、とても大切なことなのだろうと思う。
それは私も同意見。血による繋がりはその最も強い繋がりの一つだ。人が絆と呼ぶもの全てがプラスにしろマイナスにしろ繋がりがあるから生じる心の揺れ幅なのだ。
キーブレードを握る手に自然と力がこもる。
絶対の正解が現実世界には残念ながら存在しない以上、私はこの答えを張り続ける!
一週間はあっという間に過ぎ去った。
私とドーベルはゴドルフィンバルブ様に連れられて違う世界の荒野に連れてこられた。夥しい数のキーブレードが墓標のように存在する世界。
「本来、あなた方にこれは伝えるのは早いとバイアリータークは言うでしょうが、私はこれが一番早く手っ取り早いと判断しました。ここはかつて世界が一つだった時の中心地に当たります。見なさい! この夥しいキーブレードの数を! ここがかつて世界をバラバラにした最古の戦争の跡地です。人を惑わす13の闇の本流……始祖の闇と呼ばれる、たった13のそれを討伐するために1つだった世界が砕け散り今の形に落ち着きました。それでも討伐、或いは封印できた始祖の闇は6体だと私は聞き及んでおります」
思わずに息を飲む。
聞いた話の大きさにもそうだが、おそらく、この夥しいキーブレードには間違いなくその数だけ担い手が居た筈で。それが数えるのもばかばかしくなる数……少なくとも私の見える範囲は地平線までそれらしい影が所狭しと犇めいている。
これがたった13の闇を討伐するために儚くなったのか。しかもこれだけの数のキーブレード使いがぶつかってなお、半数しか討伐できていない。その事実に恐怖した。
「改めて問いましょう。これを見てなお、キーブレード使いの使命を受け入れますか?」
覚悟はできていた筈なのに。いざこれ程の光景を前にしてしまうと答えをすぐに口にできないでいる。
でも、それをするに相応しいとリク様に選ばれたのならば。
私はこの道を歩みたい。その上で、私はあの方の隣に立つものでありたい。
私の覚悟に応えるようにキーブレードが出現する。
「答えは変わりませんわ。メジロの者として、一人のヒトとして。そしてこれからを繋ぐ者として」
そう言いながらキーブレードを握った腕を前に突き出す。
「わ、私も! 私はアルダンさんみたいに覚悟を持ってるわけじゃないけど。だけど、次の子たちに繋ぐ存在位には成れる! 答えなんてすぐに出せないけど! それが行動しない理由にはならない! ……と、思います、ハイ」
ドーベルからも今までのくよくよした彼女からは絶対にでない力強さと気迫が感じられる返事がきた。
ゴドルフィンバルブ様の普段は糸目で見えない海のような美しい青色の瞳がこちらを見つめてくる。その全てを見透かされているかのような視線に身じろぎしてしまいそうになる自分を奮い立たせる。
「………わかりました。メジロアルダンの覚悟も、メジロドーベルの答えも。時には答えを出さないことが道を開くということもあるものね」
張りつめた空気が離散し、どことなく優し気な雰囲気が流れ出した。これが本来のこのお方のなのだろう。
「まぁ、覚悟を問うておいてなんなんだけど、今すぐ戦いに出ろとかそんなのじゃないから余り気負わなくてもいいのだけどね」
……なんと言うか、ゴドルフィンバルブ様はその……大変お茶目なお方のようだ。
「話は終わったかな? ゴドルフィンバルブ。どうせだから親睦を深めるのも含めてお茶しない? 子羊ちゃん達」
「反対はせんがもう少しマシな誘い方はないのか貴様は」
後ろから声をかけられて振り向くとダーレーアラビアン様にバイアリーターク様が現れた。
どうやら愉快な未来が待ち受けているらしい。
「で、どんな塩梅だ?」
「うーん、大丈夫だと思うわ」
「まぁ、戦時ではないんだからそう難しく考えないで時間をかけて育てればいいんじゃないかな? 人を指導するのは得意だろう、バイアリーターク」
「それに関しては私よりもお前の方が向いている。しかし、少々早くはないか?」
「貴方は厳しく見えて意外と過保護なのね」
「貴様が厳しいのだ、ゴドルフィンバルブ」
「これはどっちもどっちかな」
親睦を深めるお茶会をフルール・ド・ラパンでして二人を返した後に紅茶を飲みなおしながら言い合う3女神。優しいことばかりが優しさではないと説く慈悲を司る女神ゴドルフィンバルブに、わかってはいるが早すぎると意外と過保護な規律を司る女神バイアリーターク。それを足して2で割れば丁度良さそうだなと冷静に一歩引いた位置から聞いている勇敢を司る女神ダーレーアラビアン。
まぁ、ゴドルフィンバルブの行動もわからなくもない。戦場が残酷だと幾ら説いたところで平和を享受している人物にはいまいち想像しにくい。ならば戦場跡地に直接連れて行けばその残酷さを現実のものとして想像しやすいと言う理屈だ。覚悟を問う場面ではこれ程に有効なことは無いだろう。
一方、バイアリータークの言い分も理解できる。
平和に暮らしてた子羊ちゃん達に戦場跡地に連れてってこれが戦争の残酷さだというのは酷と言うものだ。
そもそも、キーブレード戦争においてはマスター候補生にのみ語り継ぐようなある意味でシークレット中のシークレット。心構えと伝承継承的な意味合いでの二重の意味での早いという判断。
マスターが選び、キーブレードを発現させることができた者ならば心構えという意味では一定の信用は置ける。
けど、キーブレード使いと言うのは良くも悪くも純粋な人物が多い。下手に伝承を教えたが故に禁忌に触れようとした人物は残念ながら一定数存在する。
そのことも踏まえるとどちらが正しいという話ではないのだ。
一応、ゴドルフィンバルブも必要以上のことは口にしていないのはバイアリータークの言う意味をゴドルフィンバルブ自身もよく理解しているから。
ならば、自身が横から何かを言う必要はない。
余計なことを言って無駄な消耗をしたくないというのもある。わざわざ蛇が見えてる藪をつつく必要はない。後は、せっかく紅茶があるのにそれを飲まないのはどうかと思う。
オレはティータイムが好きなのだ。
不毛な言い争いよりも紅茶に甘い茶菓子。うーん、次は何を食べて飲もうかなとメニューに目を通すのだった。